「あー、その、な?」
ユウカに泣きながら"幸せになれ"と背中を叩かれ。ノアに怖い笑顔で"幸せにならないと許さない"と言われ。その他ゲヘナの風紀委員長、トリニティのゴリラ等にさまざまな言葉、ないし脅しを涙と共に投げかけられ。
なんのこっちゃといつも通りシャーレの当番として仕事をこなし、さっさと帰って寝ようとしていたところ。
先生から呼び止められ、真剣な眼差しを向けられている今現在。
「オレはまだ学生だし、そういうのはなんつーか、よくないんじゃねえの?」
"でも、ナルミはもう成人してるよね?"
「やー、それはそうなんだが……」
トリニティに入ってから政治抗争に嫌気がさして放浪すること数年、何故か学籍こそ残っていたものの当然出席日数不足で多留は確定。学籍的にはトリニティ総合学園三年という肩書きだが、その実態は酒もタバコもしっかりと嗜むカスそのもの。
タバコだけはカズサに匂いを指摘されてからなるべく控えるようにはしているが、それでも完全に辞めたわけではない。ニコチンパワーはそうやわではないのだ。
''ナルミ。私は、本気だよ"
「ちょ、ちょっと落ち着けよ、先生。近えって」
''私は十分冷静だよ''
「冷静な奴は自分で自分のことをそう言わねえんだよ──っと」
迫り来る先生の肩を掴んで押し留め。一旦落ち着くべく、シャーレ内にあるソファに誘導する。
少し時間を空けて多少思考が冷えたのか、ごめん、と軽く謝り先生はそのままソファに腰掛ける。
その際に隣を勧められたが、流石にこの空気で隣に陣取る勇気は私にもなく、対面に置かれたソレに腰をかける。
「まず聞こうか。なんでオレなんだよ」
"何で、って?"
「他に居んだろ、って話だ。オレみてえな筋肉ダルマじゃなくて、ちゃんと可愛らしい連中がいくらでも、よ」
"──いくら私のナルミでも、今の言葉は聞き捨てならないね"
「……な、なんか怖えぞ先生」
ゴゴゴゴゴ、と。トリニティゴリラと戦闘した時のような、謎のオーラを先生の背後に幻視する。
誰がお前のナルミだ、とツッコミを入れることすら忘れるほどそのプレッシャーに飲み込まれた私は、無意識にソファを少し後ろに引き摺って下げていた。真面目に割と怖い。
"まず、顔が良いよね。イケメンだし、しかも可愛いし。思いっきり私好みの顔だよ"
「顔ならサオリも似たようなモンだろ」
''全然違うよ。良いかい? ナルミの場合は──''
「あーいや、いらねえ、その説明。誰が好き好んで自分の顔について語られてるのを聞くんだよ」
ナルシストならなんとか──いや、連中でも自分の顔について延々評価されるのを聞くのは辛いか、流石に。
ともかく、オレはどちらかと言うとそういった高評価をむず痒く感じてしまうタイプの人種。目の前で評価を受けるなどごめん被る。
"性格もいいよね。色々あったけど、エデン条約の時にサオリに撃たれそうになった私を助けた時。あれ、あまりにカッコ良すぎるよ。卑怯だよ"
「何が……」
"『オレらの大切な人に手ェ出してんじゃねぇ』って。カッコよかったなぁ……"
「ごく一般的な台詞だと思うんだが」
"シチュエーションと声がずるい"
何を言っても止まらない。語る口調は先より熱を持ち始め、なんなら若干前のめりになってきている。
襲われたとしても流石に身体能力差でどうにでもなるが、オレとて先生に怪我をさせる危険性がある以上、押さえ込むのは本意ではない。
穏便に、どうにか言葉で解決できないか、と。糸口を探る。
「あー、まず、先生」
''なに?"
「オレは女だ。そんでもって、先生。アンタの性別は?」
''女だけど"
「じゃあダメ──いや、ダメってことはないんだが。少なくとも、オレは普通に男が好きだ。悪いな」
"嘘だよね、それ''
一般論で切り抜けることを狙ってみれば、淀むことすらなく即座に一刀で切り捨てられる。
無論、オレの恋愛対象は女だ。いくらTSしようが、転生しようが、それが揺らぐことはない。
かといって。"ブルーアーカイブ''は、生徒と先生が共に過ごす青春の物語。異物がそこに紛れ込むわけにもいかず、そのうち正実のモブちゃんを一人ぐらい持ち帰ることができれば──程度に考えていたのだが。
"カズサから聞いたよ。ナルミ、着替えの時、トリニティの子達の胸をチラチラ見て顔を赤らめてたらしいね"
「──ウッソだろオイ」
"女の子の胸、好きなんでしょ?"
ノノミ始め、デッッッッッ組と変わらない程度には実ったそれを手で変形させつつ、先生は問い詰めるような口調で質問をする。
──逃げ道がない。正直な話、今すぐにでも目の前の果実に齧り付きたいが、別段恋愛感情を抱いているわけでもないオレが肉欲のみでそんなことをするなど、許されるわけがない。
かくなる上は。
「──南無三!!!」
"ちょ、ナルミ!? 何してるの!?"
己の首筋に思い切り手刀を叩き込み、無理やり意識を断つ。この人は良くも悪くも先生、たとえ目の前で意中の生徒が気絶していようと、それに手を出すことはない。
鍛えられた首筋と鍛えられた手刀、僅差で勝ったのは手刀の方。一撃で意識を断つことに成功したオレは、ぐちゃぐちゃな感情と共に眠りについた。
評判良ければ続き書くかもしれません