☆2012/07/21 感想ありがとうございます!!☆
粉犬様
暫く…何ともいえない沈黙が部屋を支配した。誰か、何か言おうと口を開くが…それが形になることはなく、結局口を
(…やはりまだ、万事屋に知らせるのは早すぎたか…?)
紫苑という最愛の人との再会を果たし、しかしその最愛の人が目の前で倒れて錯乱、その直後に知らされた余命宣告。
喜びよりも、悲しみのほうが大きすぎるこの再会。例え銀時が望んだ事とは言えど、やはり…知らせるにはまだ少し早かったかと近藤は険しい表情をする。
その時…
「なぁ…」
ポツリと…銀時が口を開いた。
「何だ?」
それに答えたのは土方である。俯いていた銀時は顔を上げて、真っ直ぐと土方を見た。いつもの死んだ魚のような目ではない…とても真剣な瞳に、思わず土方が息を呑んだ。この男の、こんな顔など…今までに見たことが無かったからだ。
「聞きたいことがある」
「俺達に答えられることであれば…なんでも…」
その気迫に呑まれ、いつものような皮肉のひとつも返せない。そこで改めて土方は思う。やはりこの男は紛れも無く“白夜叉”と呼ばれた男なのだと。
「多分…お前ら真選組の連中にしか分からねぇことだ」
「……それで、聞きたいこととは?」
近藤が先を促せば、少し苦い表情をしながら…銀時は口を開いた。
「攘夷戦争の最中で、俺達本隊と紫苑が離れ離れになったことは紫苑から聞いてるだろ?」
「あぁ、聞いているが…それがどうかしたのか?」
「……攘夷戦争後すぐに…紫苑を見つけてくれたのは、お前達真選組…なのか…?」
戸惑いながらも、しかし確実に銀時は自分の知りえない紫苑のことを尋ねる。しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
「いや…紫苑を助けたのは数年前だ…」
「……てぇことは、あの噂は…本当だったんだな…」
「あの噂ってのは…何ですかィ?」
納得したように頷く銀時と、首を傾げる沖田。しかし、万事屋メンバーとスナック・お登勢メンバーにはすぐに分かった。銀時の言う“噂”が何なのか。
「攘夷戦争集結から真選組が紫苑を助けるまで。その空白の時間…紫苑はどこに身を潜めていたのか…。それこそ俺は、死に物狂いで色んな情報を当たった。そん時に…聞いたんだよ…。“鬼兵隊に女の副官がいる”ってな…」
そう、それは桂が言っていた噂と寸分違わないものだった。桂は銀時に隠していたようだが、どうやら噂は銀時の耳にも入っていたらしく…その事実に僅かながらにお登勢は驚く。
「じゃあ、アンタはその噂を信じていたのかい?」
「まぁな。高杉は紫苑を大事にしてた。だから、もしかしたら…高杉のところに戻ったのかもしれねぇと…そう、思ったんだ…」
しかし…と、そこで銀時の表情が曇る。何故、鬼兵隊副官の紫苑が、現在は真選組にいるのだろうか?しかも捕らわれの攘夷志士としてではなく、真選組の隊士として。
「紅桜の事件の時…俺は紫苑が鬼兵隊にいると…そう思っていた。だが、紫苑は姿を見せなかった。そん時、紫苑は鬼兵隊から抜けているという核心はあったが……なんでまた真選組に…?」
もっともな問いだろう。紫苑は真選組…いや、幕府から見れば最重要人物だ。鬼兵隊副官で、実力は鬼兵隊総督であり彼女の兄である晋助に引けをとらないといわれる
「これは…俺が聞いても許される範囲の内容か?」
銀時が聞けば、近藤・土方は互いに顔を見合わせるが…やがて問題ないと判断したのだろう。2人とも首を縦に振る。「ただし」と近藤が前置きを付けた。
「正直…万事屋が今、高杉をどう思っているかは分からんが、内容はかなり…残酷だぞ?」
「…別に…どうも思っちゃいねぇよ。俺と高杉は、紅桜の件で完全に
強い言葉を隣で聞いていた子供達はそれぞれ思う。
それ程までに、銀時にとって紫苑という存在は大切なものなのだと。
いつもはヘラヘラしていて、マダオの代名詞みたいな生活を送っている銀時。しかし、今自分達の横に居る男は…とても同一人物とは思えない。真剣な瞳も、その口ぶりも、感じる雰囲気も。
(…なんだか…銀さんの存在が遠く感じるな…)
(銀ちゃんが遠くに行っちゃうような気がするヨ…)
だからだろうか?このまま…銀時がどこか、自分達の知らないところに行ってしまいそうで…怖かった。新八も神楽も、無意識に銀時の手を握る。それに気付いた銀時は驚いたように、2人を交互に見つめた。
「新八?神楽?」
「銀さん、その…僕達が居ますからね?」
「…勝手に居なくなっちゃヤーヨ…」
不安そうな2人の子供達に苦笑しながら、返事の代わりに銀時はその手を強く握り締めた。不思議と痛みは感じない…優しいその手に、新八と神楽は少しだけ安堵する。
そして改めて…銀時は真選組の面々と向き合った。
「頼む、知っている限りの事を全て話してくれ…」
「分かった」
そして…銀時が知らなかった、紫苑の空白の時が…近藤・土方・沖田の口から語られる。
一体…どれくらいの時間が過ぎただろうか…?まだ、銀時達が治療室の前に戻ってくる気配は無い。医者からは「いつもの発作なので、今日1日入院したら明日退院してもいいですよ。あと、無理さえしなければ病院内を歩き回っても構いません」と、そう言われた。と同時に、「今度、大きな発作を起こした時には命の保証はありませんので覚悟しておいて下さい」とも言われた。それでも、紫苑は決して入院するという選択をせず…真選組の屯所に戻る事を選んだのだ。そして、医者から面会許可が下りたため…現在、紫苑の隣には
「そっか、じゃあたまちゃんは芙蓉プロジェクトで指名手配になった
「私のデータには殆ど残っていないのですが、銀時様からそのように聞いております」
「フフッ、銀時様だなんて…似合わないなぁ…」
どこかで見た顔だと思ったが、まさかお尋ね者の
「え~、銀時ったらたまちゃんにネジをプレゼントしたの!?趣味悪いなぁ…!!女心が分かってない!!」
「いえ、私が欲しいと言ったのです。そしたら、銀時様が買って下さいました」
「そっか、たまちゃんは
「よく…分かりませんが、とても惹かれるものがありました」
「なるほどなぁ…!!あ、もしかしてそのかんざしにしているネジが…」
「はい、初めて貰った“プレゼント”です」
「ふふっ…」
形は違えど、かんざしがプレゼント。
「私とおそろいね」
「……?紫苑様もネジを貰ったのですか?」
「ううん、私はネジじゃないけどね…銀時にかんざしを貰ったのよ」
そう言うと、紫苑はゴソゴソと自分の持ち物を漁る。いつも肌身離さず持っていたそれ。真選組の隊服のポケットに入れている…綺麗な石の付いたかんざし。
「ほら、これよ…」
「これを、銀時様が紫苑様に贈ったのですか?」
「うん…。当時はこんな綺麗な装飾品って中々手に入らなくて…。貰った時はとても嬉しかったわ…」
このかんざしと共に、紫苑は銀時から“
「綺麗なかんざしですね。紫苑様の紫の髪によくお似合いかと…」
「もう、たまちゃんったらおだてるのが上手なんだから…!!そういえば、スナックのお手伝いをしてるんだったわね。フフッ、それだったらおだてるのも上手になるわね!!」
「いえ、決してそのようなことでは。銀時様が紫苑様のためにと心を込めて贈ったものであれば、きっと紫苑様が身に付けることで、とても美しく輝くと…そう思いました」
「たまちゃん…」
「そのかんざしも、きっと紫苑様から大切にしてもらって喜んでいると思います」
「……、そうだといいなぁ……」
唯一、銀時から貰ったもの。本隊から離れてしまい、孤独な戦いを強いられ何度も心が壊れそうになった時も。
鬼兵隊に再び戻り、変わり果てた兄の元で形だけの副官を務め、自分の存在理由を見失いそうになった時も。
このかんざしが、いつだって自分の傍にあった。まるでそこに銀時が居るかのように…そのかんざしを手に取るだけで、髪に差すだけで心が落ち着くのだ。
「たまちゃんは…今、幸せ?」
「……?どうしてそのような事を聞くのですか?」
「ん~?だって、折角今を生きているんですもの。しかも、銀時のすぐ傍で同じ時間を過ごしている。だからかな?少し気になったの。たまちゃんは今…幸せ?」
問われ、たまは少し悩むような仕草を見せる。暫くそうしていたが、すっと顔を上げて紫苑の瞳を見つめる。
「
幸せが何なのか分からないたまは紫苑に聞く。すると紫苑は笑いながら、そっとたまの頭を撫でた。
「うんうん、それが幸せっていうのよ。何気ない事で笑い合って、何気ない事で喧嘩して、けどまた笑い合って…。些細な事だけどね、それが幸せなの。フフッ…たまちゃんは十分幸せなのね…」
そう…。いつだって銀時の回りは幸せで溢れていた。仲の良かった5人。些細な事で言い合いになることなど多々あったが、それでも笑い合って、辛い時には共に泣き、苦しい局面では互いに背中を預け合って戦った。その中心に居たのは、いつだって銀時だった。
「今でも…中心は銀時のまま。それは変わらないのね…」
それが嬉しくもあり、どこか羨ましくもあった。
自分の居ない間に、銀時は新たな居場所を見つけている。
そして紫苑もまた、自分の居るべき場所に身を置いている。
坂本も桂も晋助も、それぞれがそれぞれの場所で自分の成すべき事をしようとしている。
「もう…元には戻れないのかな…。昔の私達には…戻れないのかな…?」
悲しげな問いに、たまは首を捻ったが紫苑はただ微笑むだけだった。
それは…少し、悲しみを帯びた笑み。
分かりきっている事だ。
自分が真選組に身を置いている今、それが容易ではないことぐらい。
桂と晋助は攘夷志士で、自分はそれを捕まえる真選組。
そして何より、晋助とは
どんなに足掻いたところで、もうあの頃には戻れない。
「結局…私は何も護れず、護られてばかりで…。そして、私は何も変えられず…ただ、死を待つのみ、か……」
晴れた外を眺めながら、紫苑はポツリと呟く。病院の外に咲き乱れた桜が、風に舞っているそれをみて…悲しそうに微笑んだ。
「約束…守れなかったね…」
一方、とある一室では…。
「これが…俺達が紫苑から聞いた全てだ…」
真選組の面々が、銀時に紫苑から聞いた全てを丁度話し終えたところだった。予想していた以上に残酷な現実。
実の兄との、刀を交えての
それが決定的に2人の縁を切ってしまったと本人が悲しげに話していたことを、真選組の3人は鮮明に覚えている。
「……なんでヨ…。
神楽は恐らく、自分の兄である神威の事を思い出したのだろう。悲しげに表情を歪めながら俯いてしまった。
「……銀さん?」
すべての話を聞き終えてから、銀時は俯いたまま…何も言わない。しかし、銀時から感じる雰囲気は…例えようも無いものだった。
殺気とも違う…、かといっていつものだらしない雰囲気でもない。
一体…銀時は今、何を考えているのだろうか?
その場にいる誰もが、分からず…互いに顔を見合わせては首を横に振ったりと、そんな事を繰り返していた。
そんな彼らの戸惑いをよそに…ポツリと銀時が呟く。
「バカヤロー…、やっぱ…お前ら
ククッ…と肩を震わしながら。しかし、その声はどこか震えている。
「
その言葉に、ピクリと反応したのは土方だ。
「お前…今までの話を聞いてなかったのか?
「あぁ…想ってる。アイツは今でも紫苑の事を大事に想ってる…」
「じゃあ聞くがよ、万事屋。テメェは何を根拠に、んなことが言えんだ?」
剣呑を帯びた土方の問い。口調は荒かったが、確かに土方の言う事はもっともで…そこにいる全員が、土方と同じ疑問を抱いていた。
話を聞く限りでは、晋助と紫苑の間には完全な亀裂が生じている。
しかし、銀時はそれを否定している。否定するからには、それなりの確信があってのことなのだろう。全員の視線が銀時に集中した。
「高杉……、いや…晋助はよぉ。昔っから背が小せぇから、男もんの着流しが合わなくてなぁ…。いっつも女もんの地味な着物を着てたんだよ…」
どこか懐かしそうに遠くを見ながら、銀時は話す。
「ちょっと前に将軍が来た祭りで、
「…あー、あの祭りですかィ。覚えてやすが…それがどうしたんでィ?」
「そん時に、俺は…久々に晋助と再会した。吃驚したぜ…雰囲気も、何もかも…昔のアイツと変わっちまってたからなぁ。けど…ひとつだけ、変わらないものを見つけたんだ…」
どんなに変わっても、紫苑を想う気持ちだけは変わらないと言わんばかりに…
「紫苑が攘夷戦争の物資調達の時に、気に入って買った…同じ柄で色違いの着物…。蝶があしらわれた着物でな、ひとつは桜色を基調とした色で、そしてもうひとつは…紫を基調とした色だった…」
「……!!それって、高杉さんが着ている…!?」
その、着物を纏っていた。
「あぁ、新八の言う通りだ。アイツの着物…ありゃ、紫苑の着物なんだよ。紫苑とはぐれて、攘夷戦争が終わって…着物だけが俺達の手元に残った。どうするか考えた結果、片方は晋助が持つ事になった。それが…今、アイツが着てるやつなんだよ…」
「だが万事屋よ、それだけでは紫苑と高杉の縁が切れていないとは言い切れんだろう。単に奴が、その着物を好んで着ているだけかもしれん」
近藤のもっともな言葉にその通りだと言わんばかりに土方と沖田も頷く。しかし、銀時だけは違った。
「アイツな、派手な事が好きな割りに…派手な装飾品は滅茶苦茶嫌いでなぁ…。着物は特にこだわってやがったんだわ。出来る限りシンプルで、色も派手な色じゃない…黒とか紺とか…そんなんばっか。柄入ってない無地の着物なんて、女もんの着物じゃなかなか見つからねぇから、そりゃもう苦労したわけよ…」
「………、片目の着物…派手すぎるネ」
「だろ?誰の目から見ても派手な着物。だから、知らねぇ奴からすりゃあ…ただの派手好きにしか見えねぇだろうよ。けど…アイツが今着ている着物は…アイツ好みの着物じゃねぇんだよ…」
「つまり……紫苑という存在を忘れないように着ていると…。アンタはそう言いたいのかい?」
「言いたいもなにも、事実だ。ただそこに着物があるから着る、なんて…そんな単純な奴じゃねぇからなぁ…晋助は…」
それだけで…2人の縁が切れてないと、本当に言い切れるのだろうか?しかし、銀時の口調はとてもしっかりしており、確信があるといわんばかりの表情をしている。
「それに……今の鬼兵隊、副官がいるって情報は
問われ、土方は鬼兵隊の構成を思い出す。
「鬼兵隊は総督の高杉、幹部の武市、来島、河上で構成されている。そこに…鬼兵隊副官というポジションは存在しない。それがどうした?」
不審げに問えば、「それそれ」と銀時は笑いながら言う。
「元々、鬼兵隊には副官がいた。攘夷戦争の時も、そして…まぁ一時的とはいえ、復活した直後の鬼兵隊にもだ。けど、紫苑が抜けても副官のポジションは埋まらない…。妙だとは思わねぇ?」
「確かに、旦那の言う通り…普通だったらすぐに副官をそこに当てまさァ。土方コンチクショーがいなくなったら、確実に俺が副長の座を頂くように…」
「オイッ!!総悟、テメッ…!!……チッ、それがどうしたんだよ万事屋…」
今は沖田と言い合っている場合じゃないと、自分の感情を抑えて再び土方は銀時に視線を戻す。
「理由は…俺と同じだ…」
「万事屋と同じ?そりゃ一体…?」
「俺は…俺の隣は紫苑だけのものだと思っている。だから…今、俺の隣に女はいない」
「……まさか…!?鬼兵隊副官のポジションは紫苑でしかないと…高杉はそう思っているのか…!?」
「アイツが副官を従えてねぇ理由なんざ、考えなくても分からァ。アイツにとって、鬼兵隊副官のポジションは自分の妹だけ…紫苑だけにしか許せないポジションなんだよ。アイツは、仲間が認めるほどのシスコンだったからなァ…」
当時を思い出したのだろう。ククッと至極楽しそうに笑いながら銀時は話す。それを言えば、いつだって晋助は声を荒げて「違う、ただ大切なだけだ!!」と言っていた。それをシスコンと言うのだと…そう言ってよく笑ったものだ。
「じゃあ…なんで高杉って男は、紫苑を斬ったんだい?そんなに大切にしてるなら…何もそんな事をしなくたっていいじゃないのさ。とても大切にしているようには思えないねぇ…」
そう…。そこにいる銀時以外の者が“今でも晋助が紫苑を想っている”ということを信じられない理由はそこにある。
本当に大切ならば、何故…紫苑を斬ったのか?
鬼兵隊脱退を望んだ紫苑に、何故刃を向けたのか?
紫苑自身は、鬼兵隊から抜けるという事は直結して死を意味すると言っていた。それは幹部達も例外ではない、とも。しかし、実の妹を思うなら…隠れて逃がす事など、造作も無かっただろう。それなのに何故、晋助は紫苑に刃を向けたのか…?
「……俺も…それだけが分からない。ババァの言う通り…なんでアイツは…紫苑を斬っちまったんだろうな…」
それは銀時にも分からない事。それでも、銀時には“晋助は今でも紫苑のことを大切に想っている”という確信があった。大切に想っているのに何故…刃を交え、斬ってしまったのか。
もしその答えが分かる人物がいるとすれば、それは紫苑本人か…あるいは斬った張本人である晋助だけだろう。
「…アイツら…ホント、不器用な
その言葉を最後に、再び室内は静寂に包まれる。
銀時はどこか悲しそうに窓の外を眺めていた。
「そっか…、もう春なんだな…」
桜の花びらが舞っている。
その光景を見たとき、銀時は思った。
(もう…あの約束は果たせねぇなァ…)
晋助とは
“お前の隣に紫苑はいないのか?”
そう…問うていたかのような…あの瞳が。
春、という言葉が銀時の口から漏れた時…。子供達は揃って「あっ!!」と声を上げた。何事かと全員が2人に注目する。
「そうヨ、私達伝言を預かってたネ!!」
「危ない危ない、忘れるところでしたよ銀さん…!!」
「ん?俺に伝言?誰からだよ?」
「銀ちゃんとしーちゃんに伝言アル!!」
「えっと…とある方、からです…」
流石に真選組の連中の前で桂の名前を堂々と出せるはずもなく、そこは新八が濁した。
「…ふぅん、そっか…。んで?その伝言って何だ?」
それでどうやら察したらしい銀時は先を促す。新八が口を開きかけた…その時だった。
――コンコン…
ドアのノック音が聞こえた。
「はい?」
近藤が返事をする。医者だろうか?そう思ったが、そっと開かれた扉の先に居たのは…
「紫苑!?」
「へへっ、来ちゃった」
集中治療室に居るはずの紫苑だった。真選組の3人と銀時は立ち上がって驚くが、その様子を見て紫苑は至極楽しそうに笑う。
「ちょっと、みんな驚きすぎよ」
「無理すんな!!さっきぶっ倒れたばっかだろうが!!」
土方がそう言えば、「それだけど」と紫苑は微笑みながら言う。
「いつもの発作だから、明日退院してもいいって。それから、無理しない程度だったら病院内を歩いてもいいってさ」
「だから、抜け出してきたわけじゃないのよ?」と悪戯っぽく笑いながら彼女は言った。そんな紫苑を見て、呆ける真選組の面々。しかし、銀時だけは違った。
「ククッ…本当にお前、変わらねぇのな。そーゆーとこ、昔のまんま」
「あら?銀時だって同じよ?死んだ魚のような目をして…ぜーんぜん変わってない。相変わらず甘いもの好きも治ってないの?」
「おいおい、人を病人みたいに言うなって」
「いやいや、あれはもう病人の域ですよ、銀時君?てか、既に糖尿病とかなってたりする?」
「バッキャロー、まだ糖尿病予備軍だコノヤロー!!」
「それってもう、限りなく糖尿病一歩手前じゃん…」
うるせぇ、と笑いながら銀時は紫苑に歩み寄り…そっと、その身体を抱きしめた。それを受け入れ、紫苑もまた銀時の背中に腕を回す。
「……心配した……」
「うん…」
「生きてるのか、死んでるのか…それすら分からねぇで…。ずっと…生きた心地がしなかった…」
「私も同じ。銀時が生きているのか、死んでしまったのか……。兄さんは銀時のこと教えてくれなかったし、その後も銀時の情報は何も入らなかったから…ずっと、ずっと心配してた」
「やっとだな…」
「うん、そうね…」
2人とも、幸せそうに微笑みながら互いの温もりを確かめ合うように抱擁する。その光景は見ていて、とても微笑ましくもあり…しかし、これからのことを考えると…なんとも切なくなる光景でもあった。
その時ふと、銀時はあることに気付く。
「お前、このかんざし…」
そう、それは紫苑が髪に差しているかんざし。他の誰でもない、銀時が攘夷戦争の始まる前に贈ったかんざしだ。
「覚えていたの?」
「当たり前だろ、俺が贈ったんだから…」
まだ持っていたのか、などと思いながらそっとそのかんざしに触れる。思えば、自分はこのかんざしと共に、言葉を贈った。それは、ずっと自分の隣に居て欲しいと…そう願う言葉だった。
紫苑もまた同じことを思う。自分はこのかんざしと共に、銀時にプロポーズという言葉も貰ったと。それは、銀時の隣にずっと自分がいるというこの上ない幸せの言葉だった。
果たして…その言葉は、まだ有効期限を過ぎていないだろうか…?
「銀時」
「紫苑」
互いに、互いを呼ぶ声が重なった。2人は驚いたように視線を交わしたが…プッと銀時が噴出し、紫苑の頭をポンポンと撫でる。
「そっちから先にどーぞ」
「…ん、じゃあ…お言葉に甘えて…」
どこかで不安もあった。銀時は優しい人だから、その隣には自分以外の誰かがいるのではないかと。もし誰も居なくても…もう、銀時の中に自分という存在は居ないのではないかと。
しかし…言わなければ…聞かなければ、きっと後悔する。
意を決して、紫苑は口を開いた。
「“この戦争が終わったらよ…、一緒に暮らそう。だからな、その……俺の嫁さんになって下さいッ!!!マジでお願いします!!紫苑以外の奴とか、俺には考えられねェ!!マジでお願い!!断られたら、俺泣いちゃう!!”…だったっけ?」
「……お前…!!」
「フフッ、どんなに時間が経ってもね…この言葉だけは忘れられない。ううん、忘れたくなかった…。私も、銀時以外の人は考えられなかったから。それは…今でも変わらない…。ねぇ、銀時?このかんざしと一緒に贈ってくれた…あの時の
消えない不安。
晋助は自分のためにと鬼兵隊副官のポジションを用意していた。
しかし結局それも、変わり果てた鬼兵隊と晋助から逃げるように…自らそのポジションを捨てた。
銀時だけは変わってないと信じたい。
けれど、もし…銀時の隣というポジションにもう自分の居場所が無かったら…?
どこかで覚悟はしていたが、それを考えると…とても辛い。
僅かに漂う沈黙の時間。しかしそれは…
「…バカヤロー…全然有効に決まってんだろうが…。俺の隣は、いつだって…紫苑の為にだけ存在するんだよ。だから…お前さえ嫌でなければ…、あの時の気持ちがまだ変わっていないなら…」
俺の隣に、居てくれ…
強く抱きしめて銀時がそう言えば、紫苑は幸せそうに笑う。
「あーあ、あんなに幸せそうに笑って…。やっぱ、紫苑は旦那じゃないと駄目なんですねィ」
「そうだな…。紫苑があんなに幸せそうに笑っている姿を、俺は初めて見るよ…」
「まさか、野郎が紫苑の婚約者だったとは驚きだし、幸先も不安だが…まぁ、あの様子じゃ…何を言っても、もう二度と離れることはねぇだろ」
そんな2人を見つめながら、真選組の3人は思い思いの言葉を口にしていた。一方、万事屋の子供達はというと…パタパタと、2人の元まで駆け寄る。
「銀さん、いい加減紹介してくださいよ!!」
「そーネ!!私達にも教えるヨロシ!!」
2人の子供達の言葉に、「あー、そうだな…」と恥ずかしそうに笑いながら、今度はポンポンと子供達の頭を撫でる。
「まさか…銀時の隠し子!?」
「何でそーなる!?んなわけねぇだろ!!」
「あっ!!私、まだ銀時が言おうとしたこと聞いてない!!銀時は何を言おうとしたの?」
「ん~…?まぁ、言う必要はねぇかなぁと…。だから忘れろや」
「え、嘘でしょ!?気になる!!教えてよ、銀時!!」
「はいはーい、じゃあお前らに紫苑のことを紹介するからな~」
「銀時ー!!無視するなーっ!!この天パッ!!」
「…お前、ホント相変わらずなのな…。今の言葉、グサッときたわ…グサッと…」
「しょうがないネ、本当のことアル」
「今更じゃないですか」
「そうよねー?」
「おいおい……俺の味方は居ねぇのかよ…!!」
紫苑と銀時、そして子供達の会話にその場の空気が和む。ただ紫苑が加わっただけで、さっきまではただ重いだけだった空気が軽くなり、そしてとても明るくなる。
「ホント…俺ァ旦那にも紫苑にもかないませんねィ…」
そんな様子を見ていた沖田はそう呟き、微笑んだ。
暫く他愛ない話をしていたが、やがて…神楽は銀時の手を、新八は紫苑の手を握った。
「お、何だ神楽?」
「どうしたの?」
銀時と紫苑の疑問に、子供達は笑いながら言う。
「ある電波野郎からの伝言ネ!!」
「僕達にはさっぱり意味が分からなかったんですが、2人なら…この言葉だけで分かると言っていたんですよ…」
電波、と言われて2人の脳裏を過ぎったのは勿論、桂の姿である。紫苑はクスクスと笑いながら、銀時はめんどくさそうに頭を掻きながら子供達を見つめる。
「そーいやお前ら、俺と紫苑に何か伝える事があるっつってたな…。その電波野郎からの伝言か?電波みたいな伝言だったら、アッパーカット食らわせるって伝えておけや」
「それで…どんな伝言だったの?」
紫苑の問いに、2人は口を揃えて言う。
「「そろそろ桜が見頃だぞ」」
「って……言ってましたよ?」
「それだけで分かるって電波は言ってたネ。しーちゃんも銀ちゃんも分かるアルか?」
桜…
その言葉を聞き、銀時と紫苑は目を見開く。
そう、それは攘夷戦争の最中で交わしたあの約束…。
――戦争が終って、全員が無事に生きて戻れたらその時はその桜の木の下で、宴会しようよ!!
「分からないアルか?やっぱり電波野郎の飛ばした、ただの電波ネ?アッパーカット確定アルか?」
「そもそも、肝心な部分が抜けてますよね…。これじゃあ、何が言いたいのか…。やっぱりアッパーカットですね…」
神楽は内心で桂に「使えない野郎アル」などと悪態を吐いており、新八は苦笑していた。
だが…銀時と紫苑は互いに視線を交わす。
そして…クシャリと笑った。
「そうね、桜が…見頃だわ…」
「あぁ、そうだな…。ったく、電波の癖に覚えてやがったのかよ…」
驚いたのは子供達である。あれだけの言葉で、この2人は桂の言葉を理解したのだ。
「死んだら仲間はずれ、だったっけ?」
「そうよ?みんな生きてる、けど……」
あの時の約束は、果たせそうに無い…。
桂自身は、紫苑が真選組に身を置いていようが居まいが、恐らくは関係なく花見をしようと言いだすに違いない。
宴好きの辰馬も、連絡をすればどんな事をしてでも時間を作って地球にやって来るだろう。
しかし…晋助はどうだろうか?銀時と桂は
しかし本当は…銀時も紫苑も、そんな事など望んではいなかったのだ。
だが、自分達が師と慕った人が願っていたこととは、全く逆の事をしようとしている晋助がどうしても許せなかった。その目を覚まさせなければならないと…そう思った。
次に会った時には全力で叩ッ斬ると…桂と共に銀時がそう宣言したのは、まだ記憶に新しい。
「桜の木の下で月見酒…。言い出しっぺが不在、か…」
「やっぱり、全員では無理よね…」
それでも。
交わした約束はやはり、守りたい…。
「萩の私塾の桜…もう満開かしら…?」
「早く行かねぇとなぁ…」
2人は窓の外を眺めながら、ハラリと舞う桜の花びらを見つめる。
交わした約束…
それを果たす時は、もはや今しかない。
紫苑の命は既に、灯火が消えようとしているのだ。
「…なんだ?お前達、何か約束でもしてたのか?」
近藤が聞けば、紫苑は微笑みながら頷く。
「えぇ、とても大切な約束を…。何があっても、
遠くを見つめる紫苑の瞳には果たして、何が映っているのだろうか?
そんな紫苑を見つめながら…銀時は思う。
(晋助…お前、本当にこのままでいいのかよ…ッ…。紫苑…もう居なくなっちまうんだぞ…!?お前ら…
あの時交わした約束を、寸分
そこには銀時が居て、紫苑が居て、桂が居て、坂本が居て、そして…晋助が居る。
桜の木の下で月見酒をしながら、バカ騒ぎをして…
(…確かに夢のような話かもしれねぇ。今の状況を考えると、そりゃ無理だろうよ。けどな…)
攘夷だとか国を壊すだとか…そのような事全てを忘れて、酒を酌み交わすことは…もう出来ないのだろうか?
紫苑と同じように、銀時も窓の外を見つめる。しかし、紫苑とは違い…その瞳はとても強く、真っ直ぐと先を見据えていた。
(簡単に諦めるほど、物分りのいい人間じゃねぇぞ俺ァ…。無理矢理にでも晋助を引き摺って行って…紫苑に会わせてやらァ…!!)
その瞳は、決意の眼差しだと…横でこっそり盗み見た紫苑だけが気付いた。
何を決意したのかまでは分からなかったが…
(…そういう、強い瞳で真っ直ぐと先だけを見据える貴方が…私は好きなの…)
ただ、その優しく紅い瞳が強く輝く姿を、紫苑は静かに見つめていた。
後半!!紫苑が登場してから後半!!紫苑と銀時以外が空気な件について!!本当にごめんよぉぉぉ!!そして、一応補足ですが…紫苑が銀時達の話していた部屋に来た時に、たまも一緒についてきてます!!分かりづらい…ってか、どこにも書いてないから分からないよなぁ…;本当にサーセンorz(苦笑)次の話で、銀時の攘夷戦争以前の過去にちょっと触れて…いよいよ!!銀時と晋助の電話のシーン…になると思います!!(曖昧キター!!)
(2011年8月5日 にじファン初投稿)