恋空~春、夜空の下で~   作:雪音

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はい、やっとこの時がきました!!晋助と銀時の電話シーンフラグの回収です!!ホントにここまで長かった…!!(笑)

コメントで若干触れられたので補足しますが、紫苑が倒れてから現在まで…同日です(笑)まだ1夜明けてません(笑)どんだけ長い1日だよって話ですよね^^;まぁ、攘夷戦争の回想シーンとか入ったから余計に長く感じちゃってますが……感覚的には紫苑が倒れたのがお昼頃で、紫苑と銀時の過去を話し始めたのが15時頃、そして辰馬と電話を始めたのが夕方頃…という感じですかね…?それぞれの攘夷戦争回想シーンは、銀時の場合は紫苑が倒れた直後に自分を追い詰めてる時に思い出した感じで、紫苑の場合は昏睡状態の時に見た夢なので…状況的には平行時間で同じ回想をしている感覚です^^

そして、晋助との電話は…前回の晋助の電話シーンを思い出していただければ分ると思いますが…夜です!!


【第十五訓】仲直りのしかた ~銀時と晋助~

坂本との電話を終え、先ほどまでの賑やかさが嘘のように静けさを取り戻す。他の誰もが、何とも言えない表情をしていた。それは…

 

「………」

 

銀時が難しい表情で、自分の携帯電話を睨んでいるからだ。一体、今銀時は何を考えているのだろうか…?そこにいる誰もが、それを把握できず…戸惑いだったり、心配だったりの感情で銀時を見守っていた。

 

やがて…

 

「なぁ…」

 

銀時が静かに口を開いた。銀時は近藤・土方・沖田…真選組の面々を視界に入れる。その事からすぐに、3人は自分達に何か言おうとしているとすぐに分かった。

 

「何だ?」

 

代表するように近藤が聞き返すと、少しバツが悪そうな…しかしそれでもどこか覚悟を決めた表情で先を続けた。

 

「さっきの俺と辰馬のやり取りを聞いてて…何となく、今から俺がしようとしてる事が分かるかもしれねぇがよォ……。俺ァ今から、晋助に…電話してみようと思う。」

 

銀時の言葉に、真選組の3人の間にはいいようの無い緊張感が走った。

 

高杉 晋助。

紫苑の兄にして、攘夷戦争の英雄。

そして現在は、超過激派の攘夷志士・鬼兵隊の総督。

“血も涙もない鬼の高杉”と天人達からは恐れられ、まさに修羅の道を突き進む男。

 

否が応でも、その単語が脳内をかけ巡る。それは真選組の面々だけではなく、万事屋の子供達も同じだったらしい。不安そうに銀時を見つめていた。無理も無い。この子達は、紅桜の件で(じか)に晋助を見ている。神楽に至っては、直接対峙した相手だ。

 

「銀ちゃん、大丈夫アルか…?」

 

他の誰よりも、あの男の危険を本能で感じ取った神楽は心配そうな、それでいて不安そうな表情で銀時を見つめていた。そんな神楽の頭をそっと撫でながら、銀時はヘラリといつもの顔で笑う。

 

「なぁに、今から(じか)に会おうってわけじゃねぇ…。電話で話すだけだ。大丈夫さ…」

 

確かに、銀時の言う通りなのだが…それでも、やはり不安は拭えないのだろう。笑っている銀時とは対象的に、神楽の表情は暗かった。

 

と同時に、真選組の面々も何とも形容しがたい表情をしている。まず真っ先に口を開いたのは…

 

「そもそもテメェ、高杉の連絡先なんざ知ってんのか?」

 

土方だった。土方の言葉を受け、その質問も最もだと納得したのは新八である。銀時と桂は、紅桜の件で晋助と(たもと)(わか)っている。そんな相手の連絡先など…知っているのだろうか?

 

「さっき、坂本さんから聞いたんですか?」

 

土方に便乗するように新八が聞けば、「あー」と頭を掻きながら、今度はめんどくさそうな…いつものやる気のない表情を見せた。

 

「この携帯な…実は辰馬から貰ったもんなんだよ」

「へぇ、さっきの人からですかィ?」

「そ。んで…この携帯には…辰馬、辰馬の部下の陸奥、ヅラ、そして…晋助の番号が入ってた…」

「……なんだい、だったらアンタはいつでも連絡を取ろうと思えば連絡する事が出来たって事かい?」

「まぁ、そういうことだ」

 

ガシガシと頭を掻きながら、「何度も晋助の番号は消そうと思ったんだけどなァ…」と呟く。それでも、消せなかったのは…

 

(…やっぱり、俺ァアイツの事を心底憎んじゃいなかったってことだな…)

 

どこかで、晋助を信じたいと…そう思っていたからだ。

 

どこまでも未練がましいな、と自嘲しながら改めて銀時は真選組の面々を見る。それぞれ何とも形容しがたい表情をしていた。無理も無い。今から銀時が連絡をしようとしている相手は、彼らにとっては敵であり、逮捕しなければならない最重要人物。しかし、それと同時に紫苑のたった1人の家族でもある。もちろん、高杉兄妹(きょうだい)の関係があまりよろしくない事も把握済みだ。しかし、2人の幼馴染である銀時と坂本ははっきりと言いきったのだ。

 

今でも、晋助は紫苑の事を想い続けていると。

 

それに、紫苑の命のリミットはもう残り僅か。できることなら、会わしてやりたいというのが…それぞれの本音。だが、真選組である以上…やはり、見過ごしていいものかと…そう思ってしまう。

 

どんなに考えても、同道巡りをしてしまう土方は溜息を吐きながら近藤に視線をやった。近藤も慎重に考えているのだろう。いつものおチャラけた表情とは違う、真選組局長としての…とても真剣な表情だ。それとは対象的なのが沖田である。いつものポーカーフェイスで、何を考えているのか分らない。

 

(こりゃ参ったな…)

 

どうするべきなのか…?

 

紫苑を晋助と合わせるべきか否か。

銀時と晋助の電話を許すべきか否か。

 

私情を捨てれば…どちらも許すべきではないことだ。そんなことは、土方も…もちろん、近藤・沖田も分かっている。

 

しかし…

 

「…頼む、これが多分…仲違《なかたが》いしちまった俺達がまた(えにし)を戻す最後の機会でもあるし、紫苑と晋助を会わせてやれる最後のチャンスだ…」

 

いつも自分達を助けてくれるこの男に、こんなにも必死に頼み込まれたら…当然のことも、覆したくなるほど…激しく揺らぐ。

 

真選組局長と言えど

鬼の副長と言えど

ドS隊長と言えど

 

みんな同じ人の子。

 

それと同時に、血も涙も無い鬼だテロリストだと恐れられている晋助もまた人の子であり、紫苑はそんな彼の妹なのだ。

 

土方は自身を落ち着かせるように、静かに目を閉じる。

 

思い出したのは自分の過去。

 

土方とミツバの過去だ。

 

沖田の姉で、病弱だったミツバ。そのミツバを突き放して故郷に残し、そして…最後の幸せをも奪ってしまった。彼女の婚約相手が犯罪者で、ミツバを利用していた相手だったから…尚更、その男のことが許せなかった。

 

と同時に、そんな事でしかミツバを護る事ができなかった…幸せを奪うことでしかミツバを護れなかった自分が酷く許せなかった。

 

沖田の言っていた通り、あの時見て見ぬフリをすれば…あるいは、表面上だけでも彼女は幸せな最期を向かえる事ができたのかもしれない。

 

けれど…土方はそれを良しとしなかった。

 

そんな表面上の幸せなど…無意味で悲しいだけだと。

 

彼女から最初の幸せを奪った自分は、最後の最後まで幸せを奪うことしかできなかった。

 

そうすることでしか、護れなかった。

 

しかし…紫苑と晋助は違う。

 

確かに真選組隊士と攘夷志士という…決して相容れない対立関係にある2人だ。

 

だが…それ以前に、この2人は血の繋がった正真正銘の家族なのだ。

 

紫苑の余命宣告がされた時…ミツバと紫苑が重なった。ミツバを幸せにできなかった分、せめて紫苑は幸せにしてやりたいと思った。彼女が入院を拒み、屯所で過ごすと言った時も…近藤・沖田両名は考え直せと紫苑に言ったが、土方だけはそれを快諾した。彼女が屯所で過ごす事を望んでいるならば…それが幸せならば…叶えてやりたい。そう思ったからだ。

 

それが…土方なりのケジメだと思っていた。

 

今ここで、銀時と晋助の電話を止める事は、その幸せを奪う事になる。

紫苑から最後の幸せを奪う……ミツバの時となんら変わらない結末だ。

 

公私混同であることは百も承知。

 

しかし…

 

やはり…

 

『……兄さん……』

 

遠くを見ながら、晋助(あに)を想う紫苑の姿を幾度と無く見てきた土方にとって…彼女から、最後の幸せを奪う事こそ、己の士道(ルール)に反すると…その結論に至った。

 

静かに目を開け、改めて近藤・沖田両名を見る。近藤は全て分っていると言わんばかりにニカッと笑い、そして沖田も…いつものポーカーフェイスを崩し苦笑気味に笑っていた。

 

「いいんじゃないですかィ?俺ァ…俺達ァ旦那に数えきれねぇほど救われたんですぜィ?その恩を、今返すべきだと…俺ァ思いまさァ」

「ふむ、俺も総悟の意見に同意だ。それに紫苑の事を思うと…やはり無理に引き離したりする事はできんよ。何だかんだ言っても、2人は兄妹(きょうだい)だ。これが俺の出した結論だ。あとは…トシ、お前の判断に任せる…」

 

2人の意思は決まっていた。

 

そんな2人の言葉を受けて、土方もフッと笑う。

 

「あぁ、そうだな…」

 

両名の言葉を聞き、土方は改めて銀時と向き合う。紅い瞳は真っ直ぐと土方を捉えていた。それを土方もまたしっかりと受け止める。

 

そして…

 

「万事屋と高杉の電話を許可する」

 

真選組の決定が、下された。その言葉に、銀時は一瞬呆けたが…すぐにクシャリと笑った。

 

「サンキュ」

 

考え抜いた末の結論。これが真選組幹部達にとってどれほど重い決断だったことだろう。下手をすれば、賊に加担したと言われ首が飛びかねない判断だ。(いな)、立派に切腹ものだろう。

 

それでも彼らは、国の法律(ルール)ではなく己の士道(ルール)に従ったのだ。

 

その覚悟に感謝し、銀時は深々と頭を下げた。

 

「銀時、これは凄いことだよ」

「お登勢様、何が凄いのですか?」

 

一連の流れを見ていたお登勢はフッと笑う。言葉の意味が分らないたまは、ただ首を傾げるだけだ。

 

「そりゃ凄いことさね。真選組が攘夷志士との電話を見て見ぬふりする…。これは、下手すりゃこの3人の首が飛びかねない…本当に重い決断さ」

「……近藤さん、本当によかったんですか…?」

「お前らのことなんか別に心配してないけど…もし何かあった時に後味が悪いアル」

 

不安そうな新八と、口ではいつもの毒舌を吐いているがやはり表情の優れない神楽。そんな2人を見て沖田がニヤリと笑った。

 

「何かあった時?んなこたァ起きねェよ。オメェらさえ口を割らなければねィ」

 

そう…この事実を知る者は、ここにいる人間だけ。あと、この後電話するであろう晋助にも知れる事となるだろうが…攘夷志士がそれを暴露する事もあるまい。

 

つまり、ここにいる全員が黙っていれば…この話は外には漏れない。

 

不安そうだった新八と神楽の表情がパッと明るくなる。成り行きを見守っていたお登勢とキャサリンも同様だ。たまも…機械(からくり)なりに理解したのだろう。小さく頷く。

 

そして…

 

「これで貸し借りは無しだな」

 

ニッと笑う銀時。

 

本当ならば、こんな事で返せるほど…銀時から受けた恩は軽いものではない。しかし、銀時にとってこの電話を見逃してもらう事は…真選組の面々が思う以上にありがたかった。

 

これで自分達と晋助の(えにし)が…以前のそれに戻るきっかけとなるならば。

これで紫苑と晋助が再び仲の良い兄妹(きょうだい)に戻れるなら。

 

真選組が恩に感じていることと同じくらい、銀時も恩を感じる。

 

下手をすれば、逆に貸しができてしまったのではないかと思うほどに。

 

だからまた、何か起きた時…その時は、彼女が愛した…第二の家族を、自分の手で護ろう。

 

銀時は密かにそう決意する。

 

 

 

晋助との電話に許可は出たものの、やはりいくつかの条件はあった。それは、先ほどの坂本の時同様、スピーカーで話す事。そして…今、彼が紫苑をどのように思っているか聞く事。何故、彼女を逃がさずに殺そうとしたのかを聞く事。これが絶対の条件となった。もっとも、真選組の面々が聞きたいと思った2つの内容は銀時も聞きたいことだったし、聞かれて困るような話をするわけでもない為、スピーカーでの通話も聞きたい事についても銀時は異を唱えなかった。

 

時計は既に午後19時を指している。空にはポッカリと…大きな満月が昇っていた。

 

「問題は、俺が電話をかけて…晋助が出るかどうかだな…」

 

そこが唯一の不安だった。(たもと)(わか)っているから、銀時からの電話だと分れば…もしかすると晋助は出ないかもしれない。それ以前に、坂本の手渡した携帯に登録されているであろう銀時の携帯番号を、彼が消去していたら…不審電話としてやはり出ない可能性もある。

 

「……頼むぜ……」

 

これはもう、一種の賭けだ。正直、銀時自身も何度か晋助の番号をアドレス帳から消そうとした事があった。しかしその度に…

 

『銀時、お前は優しくそして強い子です。私との約束を覚えていますか?その剣は、護るために使うと…そう約束をしましたよね?…お前の剣は、お前の大切な人を護るために振るいなさいな。そして…もしもお前の大切な仲間が道を誤りそうになった時は…その剣で、お前が止めてあげなさい。きっと…銀時の剣ならば届きますよ。強いだけではない、優しい剣ならばきっと…その想いが…』

 

松陽の言葉が脳裏を過ぎった。

 

そしてそれは、今なのだと…そう思った。

 

完全に攘夷活動から足を洗ったわけではないが、桂は過激派から穏健派になった。

 

あとは…晋助を止めるだけ。

 

「……先生…、俺達…またあの時のように笑えるかな…?馬鹿みたいに笑って、たまに喧嘩して、互いに泣いて。そんな日々に……また…戻れるかな…?」

 

晋助の番号が表示されたディスプレイを眺めながら、銀時がポツリと呟く。その言葉は、その場にいた全員の耳に届いた。

 

銀時の本心。

 

全力で叩ッ斬ると言ったが…やはりそれは本心ではなかったのだと…今更ながらに銀時は気付く。

 

本心は…

 

「オメェがどう思っているかは分らねェし、今の俺を見てオメェが俺を許せねェのも分る。けどな……それでも俺ァ…やっぱ、昔みてぇに笑いてぇんだよ…」

 

“屍を喰らう鬼”と恐れられた自分を友だと言ってくれた幼馴染…。そんな幼馴染(とも)と笑いながら酒を酌み交わしたい…。

 

「戻りてェ…あの頃の俺らに…」

 

ただ、それだけだった。

 

銀時の思いを聞いた各々(おのおの)の心中もまた、その気持ちが痛いほど分かった。

 

絶対に叶えたい願いがある。

 

もっと強くなり、大切に思う姉を護りたい。

夜兎の血に打ち勝ち、兄である神威を自分の手で止めたい。

自分の住んでいる町と、その町を護ってくれるこの男を見守りたい。

盗人だった自分を雇ってくれている人に恩を返したい。

自分のデータに存在する人物達の笑顔を護りたい。

真選組を、この国を護りたい。

近藤という男の元に付き、彼の理想とする侍になりたい。

近藤が護りたいと願うものを、自分の手で護りたい。

 

そして…

 

坂田 銀時という、1人の男の心を護り、そしてその幸せを取り戻したい。

高杉 紫苑という、1人の女の最期の幸せを…心からの笑みを取り戻したい。

 

全員の思いは…今、1つとなった。

 

「先生…、もしどっかで見てるなら…頼む、俺に力を貸してくれ……」

 

今は亡き師に願いながら…銀時は通話ボタンをプッシュする。

 

そして、先程と同じようにテーブルの中心に置いた。

 

暫くの沈黙の後、コール音がなり始める。

 

1回、2回、3回…

 

コール音が鳴り止む気配はない。

 

(高杉さん…お願いです、出てください…!!)

(しーちゃんと銀ちゃんと仲直りするヨロシ…!!)

 

4回、5回、6回…

 

まだ、鳴り止む気配は無い。

 

(もし今出なかったら、アンタは一生後悔することになるよ…)

(何ヤッテンダヨ、サッサト出ロヨ…)

(出なければ、紫苑様も銀時様も桂様も、そして貴方も…きっと悲しむ事になりますよ…?)

 

7回、8回…

 

コール音は無情にも、無機質に鳴り続ける。

 

(やっぱり…駄目なのか?幼馴染でも、もうお前の中に万事屋と紫苑の存在は気にかけるに値しないものなのか、高杉よ…)

(テメェの妹と、テメェの戦友(ダチ)なんだろうが…!!出ろ、出やがれ…!!)

(知ってるかィ、高杉よォ。家族が死ぬってぇのは、辛ェし痛ェ…。どんな形でも、オメェら兄妹(きょうだい)だろィ…!!)

 

9回目…

 

「やっぱり……駄目、か……」

 

銀時が自嘲の笑みを浮かべながら、電話を手に取り切ろうとした…その時だった。

 

響いていたコール音が鳴り止んだのだ。

 

全員が息を呑む。

 

そして…

 

『よぉ、銀時ィ…。』

 

電話口から、出て欲しいと…そう願った相手の声が…聞こえた。

 

子供達は互いに顔を見合わせてニコリと笑う。スナック・お登勢の面々はどこかホッとした表情をみせた。真選組の面々は…やはり職業柄だろう。その声が聞こえた瞬間に、安堵しつつも緊張の表情を見せる。そんな彼らを見渡しながら、銀時は思わず苦笑を漏らした。

 

(なんでお前らがそんなに必死なんだよ。でも…ありがとな…)

 

内心で礼を言いつつ、銀時は晋助の言葉に耳を傾ける。

 

(たもと)(わか)ったはずのテメェが、俺に何の用だ…?』

 

その声は、最後に相対した…紅桜の件の時となんら変わらない、冷めた声色。しかし銀時は、それを気に留める事無く口を開く。

 

「よぉ、久しいな高杉。紅桜ん時以来だな…」

『ククッ、あぁ…そうだなァ。だがさっきも言った通り…その時に俺達は(たもと)(わか)った筈だ。銀時ィ…オメェ、今更何を考えてやがる…?』

 

さっきの坂本とは、ま逆の…何とも殺伐とした会話。これを聞いた土方は、苦い表情を浮かべる。

 

(……今、万事屋(ヤロウ)はどんな気分で高杉と話してんだろうなァ……)

 

チラリとその表情を伺うが…今の銀時からは何も読みとる事ができない。どうやら、最初からこうなる事は予想していたらしい。それは、万事屋の子供達も分かっていたらしく…最初こそ喜んではいたが、今は真剣な表情で銀時と晋助の会話に集中していた。

 

「……なぁ、オメェ……約束を覚えてるか…?」

 

晋助の問いには答えず…ただ、銀時はそれだけを口にする。一瞬、電話口の向こうにいる高杉が黙った。

 

『……あァ、覚えてるぜェ…?俺達の学び舎に咲いてる桜の木の下で月見酒……。オメェ、まさか約束を果たそうなんざ、馬鹿な事を言い出すんじゃあるめぇな?』

 

銀時以外の全員が驚いたような表情を見せる。特に「もう兄さんは大切な約束をも忘れているに違いない」と…そう紫苑から聞かされていた真選組の面々は驚きも一入(ひとしお)だった。

 

晋助が銀時に向けて言っている言葉は否定的な言葉であったが…問題はそこではない。

 

晋助は、彼らが交わした約束を覚えている。

 

そこが重要なのだ。

 

(本当に…高杉は今でも紫苑の事を…!?)

 

銀時や坂本から聞いても、どこか信じる事ができなかった。紫苑の口から着物の事を聞いても、やはり…釈然としない部分が土方にはあった。

 

しかし、高杉は…土方の予想を見事に裏切り、銀時達の言葉を決定付ける言葉を発したのだ。

 

本当に紫苑や銀時達の事をどうでもいいと思っている人間の言う事ではない。

 

(やっぱり高杉さんも…本当はどこかで、銀さん達の事…)

 

あのニヒルな笑みの印象が強く、新八にとって晋助は恐怖の対象でしかなかった。

 

だが…自分の大切な家族同然の人が信じた幼馴染は…

 

 

その空虚な笑みの裏に、本心を隠していた。

 

 

もちろん、まだ少し会話を交わしただけだから…何が本心で偽りなのか…そんなのは分らない。しかし、銀時の表情を見て…そこにいる全員は思った。

 

今にも泣き出しそうで…それでいて、どこか安心したような…そんな顔をしている銀時。

 

その表情が…晋助のすべてを物語っているのではないか、と…。

 

「もし…そうだと言ったら、オメェは笑うか…?」

 

そんな事を周りの者達が思っているとは当然気付かず、銀時は晋助の問いに返した。今度は明確な答えをだ。その言葉を受け、僅かに晋助の口調に嫌悪が混ざり始めた。

 

『テメェがふざけた事を抜かすのはいつものことだが……、今回はいつも以上にふざけた事を抜かしやがるなァ。次に会う時は全力で叩っ斬る…。テメェとヅラの言葉だ。……銀時ィ、どういうつもりだ…あァ?』

 

電話越しでもはっきりと分りそうなほどの殺気。急に部屋の空気が一変したかのような錯覚にさえ陥ってしまう。それぞれの表情が、緊張のそれへと変わる中…銀時だけはいつもの表情のまま、晋助と対峙した。

 

「どうもこうもねぇ。言葉のままの意味だ。月見酒がしてぇって言い出したのは高杉だろうよ。それを無下にするなんて無粋な事をする気か?」

『テメェの耳は節穴か。俺ァ今更テメェと酒を酌み交わす気もねェし、ヅラと会う気もねェ。分ったら、とっとと失せなァ…。耳障りだ…』

「晋助ッ!!!俺の話を聞けッ!!!」

『……ッ…!!』

 

それは突然の事で…周りにいた者達だけではなく、電話の向こうにいる晋助もまた息を呑んだ。

 

(……銀時の野郎、何を考えてやがる……、待て…今、俺の事……?)

 

銀時の怒声で先ほどの怒りが一気に冷めた晋助は、そこで初めてあることに気付く。攘夷戦争で離れた後、銀時は晋助の事を名前で呼ばなくなった。しかし今…銀時は自分の事を名前で呼ばなかっただろうか?

 

それに…何故、今更あの時の約束を果たそうなどと言い出した?何も、今でなくとも…その機会はいつでもあったはず。

 

なのに、何故このタイミングで…?

 

(……まさか……?)

 

そんなの自分の都合のいい妄想でしかないと…晋助は頭を振る。あの夜を最後に、自分の妹は忽然と姿を消し、その消息も分らなくなってしまった。紅桜の事件の時…銀時と桂、そして晋助。それぞれ相対したが…銀時の瞳も、桂の瞳も…紫苑はどこだとそう問うているかのような瞳だった。

 

だから…紫苑はもう、この世にはいないのだと思っていた。

 

そう思う事で、ずっと引き摺っていた想いにケジメをつけようとしていた。

 

『……聞かせろ、銀時。オメェの…言いてェことを。何で今更、花見をしようなんざ言い出したのかを…』

 

しかし、晋助は知っている。

 

銀時が必死になる時、泣きそうな声で叫ぶ時はいつだって…紫苑を想っていた時だった事を。

 

戦争中に危うかった時も

紫苑とはぐれた日の夜も

紫苑を置いて進軍すると決めたあの時も

 

銀時は…今と同じように、泣きそうな声で怒鳴った。

 

だからこそ…銀時が今から話そうとしている事が、紫苑絡みの話しだということはすぐに分かった。

 

問題は…その内容が、生か死か。

 

態々、(たもと)(わか)った相手にこうして電話を掛けて来るぐらいなのだから…そのどちらかだろうと晋助は考える。

 

できれば良い知らせであって欲しいと…そう願いながら、静かに銀時の言葉を待つ。

 

「……紫苑な…生きてたんだ…」

 

銀時の言葉に…思わず、晋助が息を呑む。それが、電話越しにも分った。

 

『ぎ、んとき…それは…、それは……本当、なのか…?』

 

一体…誰が想像しただろうか?

 

あの過激派のテロリストと名高い高杉 晋助が。

鬼だと恐れれている攘夷志士が。

 

『紫苑は…ッ、紫苑は…生きているのか…!?』

 

こんなにも声を振るわせ…取り乱すなど。

 

真選組の面々も驚いてはいたが、直接晋助と相対したことのある神楽、そしてチラリとではあったが晋助の事を見た事があった新八にとっては驚きも一入(ひとしお)だ。

 

あのニヒルな笑みを浮かべていた晋助が…こんなにも取り乱している。

 

(高杉さん、貴方もやっぱり紫苑さんの事を忘れられずにいたんですね…)

 

そこで改めて、新八は銀時の言葉を思い出す。

 

 

兄妹(きょうだい)の縁が切れた?んなことあるわけねぇだろ。アイツは…晋助は今でもお前(紫苑)のことを想ってらぁ…』

 

 

自分がいつも追い続けていたその男は、自分をいつも護ってくれる強くて優しいこの男は。

 

何一つ、偽りなど言ってはいなかった。

 

銀時の言った通り…

 

高杉 晋助は、今でも高杉 紫苑の事を想い続けていたのだ。

 

「あぁ…生きてる、生きてるんだよ…」

『そう、か…』

 

言い聞かせるようにゆっくりと銀時がそう言えば、刃のように尖っていた晋助の声は…誰もが知らない、聞いた事の無いような…とても優しいそれに変わる。

 

しかし…銀時の表情は、優れない。

 

そう…この話にはまだ続きがあるからだ。

 

紫苑の生存を知って安堵している晋助に彼女の今の状態を伝える事は何とも酷な事だと…銀時は小さく溜息を吐く。そこまで考えて、ああそうかと銀時は1人納得した。

 

(真選組(こいつら)も…こんな気分だったのかねェ…)

 

真選組の面々は、自分に紫苑の病を打ち明ける時…とても辛そうな顔をしていた。もしかしたら、自分も今…同じ顔をしているのかもしれない。

 

だが…これは伝えなければならないことだ。

 

だからこそ、こうして態々電話をした。

 

紫苑が生きていた事と、紫苑の命にリミットがある事を伝える為に。

 

小さく深呼吸をし、意を決して…銀時は更に続けようとする。

 

が、それよりも…

 

『紫苑は…オメェのそばにいたのか?ずっと…オメェのそばに…』

 

先に口を開いたのは晋助の方だった。言いかけた言葉を呑み込み、銀時はガシガシと頭を掻きながら真選組の面々を見渡す。銀時自身、本当の事を言うべきか否か…判断に困っているのだ。晋助は、幼馴染の中で誰よりも幕府を嫌っている。それは攘夷戦争の時から変わっていない。ここでもし、紫苑が真選組の隊士だと話したら……それこそ、兄妹(きょうだい)の縁が切れかねない。だが、真選組の面々はそれぞれ首を縦に振る。

 

真実を…

 

それぞれの瞳が、そう物語っていた。それを受けて銀時は小さく頷く。

 

「いや、俺と紫苑が再会したのは今日の昼頃だ。それまで俺も、紫苑が生きていた事は知らなかった」

『…じゃあ紫苑は…今までどこに…』

 

戸惑う晋助の声に銀時が苦笑を漏らす。

 

ああ、シスコンは今でも顕在か。

 

昔と今では見違えるほど変わってしまったと思っていたが、根本的な部分…本来の優しさや仲間想いなところ、松陽を大切に想う気持ち、そして傍から見ても分るほど紫苑を溺愛していたその想いは…何1つ変わっていない。

 

それが嬉しくて銀時の口元は緩い弧を描く。

 

「まぁ…俺も初めて知った時はちぃと驚いたが……いいか、晋助。落ち着いて聞けよ?」

『分ったからさっさと言え』

「あー、はいはい。……紫苑は真選組にいた」

『真選組……だ、と…!?まさか、捕まって……!!』

 

まぁ、実際に紫苑の姿を目で見て再会した銀時と、銀時の言葉で聞いた晋助では発想が180度違ってくる事は分っていたため、この反応もしょうがないかと銀時は苦笑を漏らす。

 

『銀時、オメェとは一時休戦だ!!今からヅラと…それから辰馬も呼んで、真選組の屯所に…!!』

「おいこら、俺の話を最後まで聞けよ晋助。誰が真選組に捕まってるって言った?」

『オメェが自分で言っただろうが!!』

「俺ァただ、真選組にいた(・・)って言っただけだぜ?捕まったなんざ一言も言ってねェし。」

『……おい、どういうことだコラ。俺にも分かるようにきっちり説明しやがれ』

 

2人のやり取りを見ていたお登勢は、その会話を聞き思った。

 

(銀時…アンタ、アタシに「高杉とはもう昔のように、一緒には笑えない」って…そういったねェ。けど今のアンタ達は…)

 

楽しそうに笑っている銀時と、電話口から聞こえてくる晋助の声。

 

これは、誰の目から見ても、そして誰の耳で聞いても…

 

(親友同士の会話さね。アンタと高杉って男の(えにし)もまた、アンタが思うほど脆くは無かったってことさ)

 

親友同士の会話にしか聞こえない。

 

今まで色んな銀時の表情を見てきたが、今日ほど楽しそうに笑っている銀時を見た事は無い。紫苑や坂本と話していた時もそうだが、晋助と話している今も…その表情は酷く穏やかで、そしてとても楽しそうに見える。

 

口では何と言っても、やはり親友同士なのだと…改めてお登勢は思った。

 

そんな事をお登勢が思っていることなど当然知るはずも無い銀時は、電話相手の狼狽している姿でも思い浮かべているのだろうか…?笑いを噛み殺しながら、晋助に促された先を続ける。

 

「紫苑は今、真選組の隊士だ。しかも…真選組副長補佐っつーポジションにいるぜ?」

『……マジでか……』

「おう、マジでだ」

 

思わず零れたのであろう晋助の言葉は…心底驚いているような、そんな言葉。

 

(さて…晋助、オメェは…やっぱり紫苑を憎むか?仇のいる幕府に就いている紫苑を…オメェは憎んじまうか…?)

 

その答えは、晋助しか持っていない。しかし、晋助の幕府嫌いは今に始まった事ではなく…思えば、松陽が生きていて幕府から目を付けられていたその時から…晋助の目に幕府は敵としてしか映っていなかった。

 

(俺の気掛かりはそこなんだよなァ…)

 

晋助が銀時を許せないのは、真選組との関係が故だろう。だからこそ、銀時はそこを一番不安に感じていた。

 

紫苑が真選組の隊士だと知ったら…やはり、妹ですらも憎しみの対象になってしまうのだろうか…?

 

暫くの沈黙。その沈黙は、銀時のみならず…紫苑の同僚でもある真選組の面々にとっても、何とも形容し難い…重苦しい沈黙だった。

 

『…そうか…、アイツはあの晩…俺に言った通りの事をしたんだなァ…』

 

それは、侮蔑でも怒りの言葉でもない…

 

悲しみと憂いに満ちた声だった。

 

「……晋助、俺ァ大体のことは真選組の連中から聞いた。紫苑が真選組隊士になった理由もだ。だが……オメェが紫苑を斬った…その理由だけがどうしても分らねェ。晋助…なんで紫苑を斬った。返答次第じゃ、俺ァ許さねぇぞ…」

 

紫苑を責めるわけでもない、むしろそうである事が至極当たり前だとでも言いたげな晋助に、ついに銀時は確信に迫る質問をぶつけた。

 

晋助が紫苑を斬った理由。

 

紫苑から聞いた限りでは、鬼兵隊脱退の処刑…それこそが理由だった。

 

もしそれが晋助の真意ならば…坂本には悪いが、仲直りはできないし、紫苑と晋助を会わせるつもりもない。例えそれで紫苑に本物の笑顔が戻らなくても…愛する人を護りたい。

 

それが銀時の強い想いだった。

 

『……鬼兵隊の脱退…それは直結して死刑。三下であろうと、幹部であろうと、副官であろうと、だ……』

「けど…紫苑はオメェの妹だろうが!!何で妹に手を掛けた!?何で紫苑を斬った!!テメェが鬼兵隊の(かしら)だろうが!!(かしら)だったら、自分(テメェ)の妹を護るくらい出来ただろうが!!なのになんで斬った!?答えろ、晋助!!」

 

銀時は声こそ荒げていたが…その表情は、今にも泣きだしそうな…それでいて、何かの間違いであって欲しいと、そう願っているかのような…とても辛そうな顔をしていた。

 

(銀ちゃん…辛いアルか…?友達に怒鳴るのが…辛いアルか…?)

 

いつも自分を護ってくれるその人が、今日ばかりはどこか小さく見える。

 

紫苑の死に怯え

かつての仲間を罵る事に苦しんでいる

 

まるで何かに耐えるかのように、唇はきつく噛み締められている。

 

「どうなんだ…、どう…なんだよ…ッ…!!」

 

どうか何かの間違いであって欲しい…。そんな切実な銀時の願いが滲み出すような言葉。

 

(かしら)だからこそ……妥協ができなかった』

 

そんな銀時の言葉を真っ向から受けた相手の返答は…

 

(かしら)が揺らぐ軍隊は、すぐに崩れちまう。だからこそ…情けを掛けられなかった。だったらいっそ、この手で殺すことが…紫苑の為だとも思った』

 

嘘偽りの無い、真っ直ぐな言葉。

 

『けど……俺にはやっぱり、できなかった。鬼だ修羅だと言われる俺でも……』

 

そっと、晋助は目を閉じる。

 

蘇るは、紫苑にとどめを刺そうとした時の光景。

 

あの時紫苑は、微笑(わら)いながら…晋助の刃に掛かって死ぬなら本望だと言った。

やっぱり、兄を殺すことなど自分には出来ないと言った。

 

その時…初めて、晋助は鬼兵隊の常識を覆したいと思うほど…心が酷く揺らいだのだ。

 

それが…気まぐれの処刑(ゲーム)に変更した最大の理由。

 

信じていた。紫苑なら…あの傷でもきっと逃げのびることができると。

 

『紫苑を殺す事は…できなかった…ッ…』

 

事実…河上すらをも制し、紫苑は見事鬼兵隊から逃げのびた。

 

一切、表情・態度には出さなかったが…晋助はどこかでそれで良かったのだと安堵した。

 

紫苑の消息が分からなくなってから、地球に降り立ち江戸の街を歩くたび…どこかに紫苑が居ないだろうかと、そう思いながら視線でその姿を探す事も多々あった。

 

喧嘩している事を承知で、万事屋に足を運ぼうと思った事も1度や2度のことではない。

 

しかし…

 

『俺ァ…怖かった。俺のそばにいると、紫苑はどんどん昔みてェに笑わなくなる。俺を見るその眼が…次第に悲しみと怒りで染まっていく。そんな姿を見てるのか怖かった。そしていつか、鬼兵隊脱退なんて真似をするんじゃねぇかと……そう、思った…』

「そして、紫苑は本当にそうしちまった…」

『あァ…そうだ…。俺が…アイツの人生、全部狂わせちまったんだ…』

 

自分と再会した時、紫苑がまた空虚な眼を向けてくるかもしれないと思うと…自ら動くことができなかった。

 

だから、晋助は自分に言い聞かせたのだ。

 

『だから、俺は…“高杉 紫苑は死んだ…俺が殺した…”そう、思うようにしていた。いやァ…実際、俺が殺したようなもんだ…。俺が、アイツの心を殺しちまったんだ…』

 

それが、晋助が紫苑を斬った理由で、消息不明となった後も紫苑を探さなかった理由。

 

誰も…紫苑でさえも知り得なかった、晋助の本心。

 

(……何と悲しい……)

(…紫苑、お前が想っていた兄貴は…決して、お前を憎んじゃいなかった。それどころか、お前を苦しめたと…ずっと、その十字架を背負ってやがった…)

 

過激派攘夷志士としてしか晋助を見る事が出来なかった真選組の面々。

 

しかし、銀時と晋助の会話を聞き、真実を知り…“血も涙も無い鬼の高杉”というイメージは崩れ落ちる。

 

(何でィ…。ホント、不器用なだけで…妹想いの兄貴じゃねェですかィ。高杉が鬼、か…。鬼どころか、ただ器用に立ち回れねェ普通の人間でさァ)

 

紫苑が兄と慕い、銀時が戦友(とも)と慕った男は…

 

過激派攘夷志士・鬼兵隊総督という鬼の面を被った…

 

ただの、妹想いの人の子だった。

 

「……馬鹿野郎…、オメェら…なんでそんな不器用なんだよッ…」

『うるせェ…』

「紫苑も、オメェも…ホント不器用で、手の付けられねェ困った馬鹿だ…」

『うるせェよ…、そんなこと…オメェに言われなくても、分かってらァ』

 

ああ、今の彼にならば…聞く事が出来る。聞くことが怖かった。その返答が怖かった。けれど…今の彼だったら、きっと大丈夫。

 

銀時は外を眺めながら…ポッカリと浮かんだ満月を眺めながら晋助に問う。

 

「オメェ…今でも紫苑のこと…好きか…?兄貴として、紫苑のこと…好きか…?」

 

答えなど分りきっている。

 

銀時に対する、晋助の答え。

 

それは…

 

『ククッ、そりゃオメェ…当たり前だろうがァ』

「だよなぁ、このシスコンが」

『うるせぇ、腐れ天パ』

「天パ言うなチビ助!!」

 

そこにいる全員誰もが予想した通りの答えだった。

 

『銀時ィ』

「あー、何だよ?」

 

つい昔を思い出してしまい、何気なく会話してしまったが…ふと思い出したのは今の関係。自分達は(たもと)(わか)ってしまっている。

 

だが…晋助はこの電話で、改めて認識した。

 

『紅桜ん時は…悪かった…』

「…晋助、オメェ…」

 

やはり、憎む事などできないと。

 

否、始めから…銀時の事も桂の事も…憎んでなどいなかった。

 

ただ、世界を一番憎んでいるはずの銀時がノラリクラリと生きている様が許せず、憎いはずの幕府の関係者である真選組とつるんでいることが許せなかった。

 

と、そこまで考えて…晋助は違うのだと思った。

 

『俺ァ…オメェが羨ましかった。人間達から屍を喰らう鬼だと蔑まれて、そんなオメェを拾ってくれた先生を目の前で殺されて、国のために先生のために戦ったのにその国に裏切られて…。世界を一番憎んでるはずのオメェが…馬鹿みてぇなツラして笑ってるその姿が……羨ましかった…』

 

そう…憎んでいたわけではない。

 

ただ、許せなかった。

 

ヘラヘラと笑いながら生きている銀時が許せなかった。

 

けど、それと同時に…羨ましかったのだ。

 

世界を一番憎んでいたはずの銀時が、笑いながら過ごしていることが。

 

自分とは違う…護るための剣を…松陽の教えを貫き通しているその強さが。

 

『俺ァ…ただ…羨ましかったんだ…』

 

ただ、羨ましかった。

 

「…んな羨ましがられるような人生を歩んじゃいねーよ」

 

晋助の言葉にテレを隠して素っ気無く返すが…

 

『ククッ、無自覚かい?オメェんとこのガキ共見てりゃわからァ』

「チッ、ホントそういうとこばっか…変に敏感だよなァ…」

『これでも一応、オメェの兄として一緒に過ごした仲だからなァ』

「ああ、違ぇねェ…」

 

それも幼馴染には通用するはずもなく。晋助の言葉にただ笑うだけだった。

 

「…んじゃ、俺もあの言葉は撤回だ。次会った時は、全力で叩ッ斬るつったアレ。無しな…?」

『おう』

「問題はヅラだよなァ」

『アイツのことは知らねェし、めんどくせェ…。それはオメェに任せるぜェ?』

「うわっ、サラッと人に押し付けやがったよコイツ!!」

 

ああ、何だ…。仲直りの仕方など考えていた自分が馬鹿みたいではないか。

 

そんな方法などいらなかった。

 

昔となんら変わらない。

 

自然と流れで仲直りしてしまった。

 

銀時が周りを見渡せば、それぞれが穏やかな表情をしている。

 

改めて、銀時は思った。

 

(本当に…よかった…)

 

これで1つ、紫苑の憂いは晴れただろう。

 

あとは、この不器用な兄妹(きょうだい)を仲直りさせるだけだ。だが…この様子だと、それも苦労はしないだろうと銀時は満足げに笑った。

 

『銀時ィ』

「あ?」

 

完全に自分だけの世界に入っていた銀時は、晋助の言葉で我に返る。反射的に短く返事をすれば、少し…間を開けて晋助が話し始める。

 

『春雨にオメェを狙ってる奴が居る。第七師団団長の夜兎族の餓鬼だ。名は…』

「神威、だろ?」

 

その名に、真選組の面々は驚いた表情を見せ、そして誰よりも神楽が何か言いたそうな顔をしていた。だが、晋助との電話をする際に約束した事がある。

 

例えどんな内容の会話になっても、誰も口を挟まない事。

 

特に真選組は厄介だからと…銀時からそう言われているのだ。故に、口を出したくても出せずにいる。銀時も神楽を心配したのだろう。視線を向けるが、それにも気付いていないらしく…神楽はただ俯いていた。

 

『何だ、知ってんのか?』

「あぁ、神楽の兄貴だからな」

『…オメェが預かってる夜兎の…?』

「まぁ、な…」

 

その言葉で、更に真選組は驚き…今度は神楽に視線が集中する。神楽の心がグラグラと揺れていることがすぐに分かった新八は、その手をしっかりと握った。ハッと顔を上げた神楽に、新八はニコリと笑う。

 

大丈夫、独りじゃないよ

 

その笑顔に、神楽も笑顔で返した。

 

『そういや、神威の野郎が言ってたなァ。ったく…テメェ、今度は何をやらかした…?』

「んー、吉原桃源郷で…鳳仙ブッ倒した…かな…?」

『鳳仙つったら、夜兎の中でも相当強ェ男だと聞いたぞ…!?()ったのか!?』

「ま、色々あってな」

 

電話の向こうにいる晋助が素っ頓狂な声を上げる。それ程までに、信じられない事実なのだ。と同時に、真選組の面々もまた驚愕の視線で銀時を見ていた。

 

『オメェ……俺ら5人の中で一番攘夷志士らしい事やってるじゃねーか。ったく……』

「うるせー、こっちだって好きでやってんじゃねーよ。あんなのと戦ってたら命がいくつあっても足りやしねェ」

 

しかしその春雨も、今は鬼兵隊と手を組んでいる。白夜叉と狂乱の貴公子の首を差し出すという条件付で。

 

『…ま、オメェの無茶は今に始まったことじゃねぇが…こっちでも出来る限りの事はしてやらァ』

「マジでか?」

『おう、神威には貸しがある。それを無下にするほど、奴も腐っちゃいめェ』

 

しかしそれも、神威の命を救ったという貸しをうまく利用すれば何とかなるかもしれない。否、誰に何と言われなくとも…晋助はそのつもりでいたのだ。

 

自分達以外の家族が出来たというのであれば…世界を壊しながら、銀時の家族を護ろうと。だからこそ、かぶき町だけには手を出さなかった。

 

そこで銀時が…昔のように笑っているのなら。

 

それを奪う事だけはもう二度とするまいと…そう決めていた。

 

『だから、オメェはオメェらしく生きろ。紫苑と一緒にな』

「晋助…」

『その様子じゃ、まだ籍も入れちゃいねぇんだろ?俺ァお前にだったら紫苑を預けられる。だから、俺のことは構うな。アイツにも幸せになって貰いてェ。だから…』

 

オメェがアイツを幸せにしてやってくれ。

 

晋助の言葉に…そこにいる全員の胸が痛んだ。

 

嗚呼、何でこんなに運命は残酷なのかと。

 

ようやく分かりあえるかもしれない…ようやく(えにし)が戻るかもしれないというのに。

 

紫苑の命はもう…尽きかけている。

 

「晋助…、花見しねェとな…」

『ん、あァ…そうだなァ。けど、どうせやるなら満開の時がいいだろ?それまでに、やる事終わらせて俺も攘夷活動から足を洗う。それからでも会うのは遅くあるめェ』

 

攘夷活動から足を洗うという言葉には流石の銀時も驚いたが、しかし…それでは駄目なのだと、晋助にそう伝える。

 

ああ、まただ…。

 

こうして紫苑のことを伝えるたびに…銀時は自身に言い聞かせてるような感覚に陥る。

 

「晋助、落ち着いて聞いてくれ。紫苑は…病に侵されている。余命宣告は昨年の春の時点で1年だったそうだ……」

『何…だと…』

「今日、俺は紫苑と再会した。俺の目の前で…血を吐いて倒れた。正直な話………怖かった…」

 

何度も何度も同じことを繰り返して。

 

それが現実だと…そう自分に言い聞かせているかのような錯覚に。

 

『もう…どうにもならねェのか…?』

「辰馬が宇宙中から薬を探してみるとは言ってたが……医者が余命を下したんだ。多分、もう…」

 

折角会えたのに、折角また会えるのに。

 

折角…(えにし)が戻りそうなのに。

 

運命とは時に残酷だ。

 

『銀時ィ、すまねぇ…』

「晋助…」

『オメェのことだ。紫苑がぶっ倒れた時…辛かっただろうよ…。すまねェ、お前1人に背負わせちまって…本当にすまねェ…』

 

謝る晋助に、銀時は俯く。近藤らもまた、何とも形容し難い表情をしていた。

 

(高杉よ、謝るな…。本当に謝らなければならないのは、俺達だ…)

(万事屋と紫苑。こんなに近くに居たのに…俺達はこの2人を会わせてやることができなかった)

(すいやせんねィ…。俺達が、旦那と紫苑、そして高杉と紫苑の幸せを奪っちまったようなもんでさァ)

 

しかし…そんな彼らのことなど全て分かっているとでも言わんばかりに、銀時は微笑みながら…

 

「謝るな…誰も悪くねェ。誰も悪くねェんだ…。俺こそ…紫苑を見つけてやれなくて、幸せにしてやれなくて…本当にすまねェ…」

 

逆に、晋助に謝った。

 

今までのやり取りをずっと静かに聞いていた子供達やキャサリンは、とうとう耐え切れなくなりお互いに肩を抱き寄せ合いながら涙を流す。お登勢もまた、着物の袖で目元を拭っていた。たまは悲しげに銀時を見つめている。

 

「…晋助ッ…」

『…銀時ィ…』

「『……すまねェ……』」

 

それは、あの時…戦争中に紫苑と離れた時を思い出させるような…

 

 

とても悲しい響きだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから花見の日程については、出来る限り早い時期に行うということで双方話が付いた。

 

「じゃあ、考えといてくれ」

『あぁ』

 

それを最後に、電話は切れる。

 

長かったようで、短かった電話が終わった。

 

結果的に銀時達の仲は修復され、予想に反して良い結果に終わった電話。

 

しかし…

 

「……やっぱ駄目だ…」

 

気分はただ、沈むばかり。

 

「何で…ッ、やっと…やっと俺達全員元に戻ったのにッ……!!」

 

晋助と銀時達の仲が戻っても。

花見の約束が果たせても。

 

紫苑という存在が消えるまでのカウントを止める事はできない。

 

「銀ちゃん」

「銀さん」

 

子供達が銀時の手を取る。それを銀時もしっかりと握った。

 

「大丈夫…俺ァ、大丈夫だ…」

 

そう言ってヘラリと笑うと手を離して立ち上がる。

 

「ちょっくら便所に行ってくる」

 

そう言って部屋を出た。

 

だが…

 

「……ッ…、ごめ…ッ、ごめん…ッ!!紫苑ッ、晋助ッ…俺…、一番大事なもん……護れなかった…ッ…!!」

 

扉を閉じたと同時に聞こえてきたのは、謝罪と嗚咽。

 

「ごめんなさいッ……松陽先生ッ…」

 

今は亡き、恩師への謝罪。

 

「俺ァ……ッ、無力だ……!!」

 

自分の無力を嘆く声。

 

部屋に残された者達全員が…ただそれを聞いていることしか出来ず…

 

「謝るな…万事屋、謝るな…馬鹿野郎ッ…!!」

 

ただ、涙を流す事しか出来なかった。




やっと書けた、晋助との電話シーン!!最初からこうしよう!!というのはあったんですが、ここに持ってくるまでにかなり時間が掛かりました^^;

とりあえず、電話で話しをするからには袂を別ってる件については無しにさせる方向で話を進めないといけないよなーと思い…2人にはここで仲直りをしてもらいました!!電話をスピーカーにして全員に聞かせるというのは、真選組の面々にも晋助が何を思って紫苑を斬ったのか…それを知ってもらいたかったという私の個人的な意見ですb(おいw)いや、やっぱり無条件で攘夷志士との電話は了解しないだろうって思ったんですよ…特に土方が(笑)なのでこのような形をとらせていただきました!!

(2011年5月8日 にじファン初投稿)
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