恋空~春、夜空の下で~   作:雪音

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さて、恋空もいよいよ終盤に差し掛かってきました!!視点を銀時達・真選組・桂・鬼兵隊・坂本・万事屋・お登勢達にあてて、それぞれどんな思いで翌朝を迎えたのかを書こうと思います!!あ、前もって注意しておきますが…ちょっと高杉が壊れます(笑)まぁ、ギャグっぽいシーンがあるということです^^高杉は紫苑バカの銀時バカというのが私の理想b←

というか…今回は、全体的にちょっとギャグが入る感じです(笑)特に志村家(笑)


【第十六訓】それぞれの朝

いろいろな出来事があった1日が終わり…その翌朝。

 

「ん……」

 

紫苑が目を覚ますとそこは、見慣れた屯所の天井……ではなく、真っ白な天井だった。一瞬、自分はどこにいるのだろうかと呆けてしまったが、昨日のことを思い出す。

 

ここは大江戸病院だ。

 

けれど、いつもの発作だから今日の午前中には退院できる。医者はそういっていた。そして、次に発作が起きたらその時は覚悟をしておくようにとも言われた。命の覚悟など、とっくの昔から出来ていた。

 

攘夷戦争に出たあの日から。

攘夷戦争で仲間と逸れたあの日から。

鬼兵隊から抜け出したあの日から。

病に侵されたあの日から。

 

けれど、今頃になってもう少しだけ長生きしたいと思ってしまった。それは…恐らく。ずっと会えなかった恋人に…生死の分らなかった恋人に、ようやく再会出来たからだ。

 

けれど、医者の宣告したタイムリミットは今年の春。つまり…今だ。

 

(高望みはしない。せめて今年いっぱいくらいは生きたい。けど…)

 

己の身体が悲鳴を上げている事はよく分かっている。少し前までは、少々走ったぐらいで発作を起こす事などなかった。だが、それすらも出来なくなっている。

 

確実に…紫苑の命の灯火は消えようとしている。

 

それが怖いと思った事は今まで一度もなかった。心残りはいろいろあったが、それでも恐怖を抱く事はなかった。

 

しかし…愛する者と再会して。

 

初めて心の底から“死にたくない”と思い、そして“怖い”と…そう思ったのだ。

 

「…銀時…」

 

彼と再会して…紫苑の心が揺らぎ始めた。

 

いつ死んでもいいと思っていたのに、死にたくないと…そう望んでしまう。

 

「どーした、紫苑?」

「えっ!?」

 

と、自分の思いに耽っていた紫苑は…突然の返事に驚き体を起こす。声のした方に視線をやれば、ベッドの傍らにおいてあった椅子に座っている銀時の姿。

 

「ぎ、銀時!?え、何で!?」

「んー?昨日は俺、ここに泊まったんだよ。医者にちゃーんと許可も貰ったぜ?」

 

ニッと笑う銀時に呆ける紫苑。しかし気付けば…手に感じる温もり。どうやら、紫苑が眠っている間、ずっと握っていてくれたらしい。

 

「ありがとう、銀時」

「ん、どーいたしまして」

 

ヘラリと笑う銀時に、つられて笑う紫苑。

 

それはまるで…

 

『おはよー、銀時!!』

『おう、おはよう紫苑!!』

 

まだ平和だったあの頃を思い出させるような…穏やかな一時(ひととき)だった。

 

 

 

――真選組屯所…

 

「………」

 

昨日の出来事の後、病院から帰ろうとした一同だったが、銀時のみがその場に残った。否、別に銀時が残りたいと言った訳ではない。銀時は何も言わなかったが、その表情が…“少しでも紫苑と共にいたい”と物語っていたのだ。それに最初に気付いたのは土方と新八だった。新八は土方にそっと耳打ちをして、何とか銀時だけでも紫苑のそばに残す事は出来ないだろうかと相談したのだ。土方もどうやら思っていた事は同じだったらしく、銀時以外のメンバーを帰らせ、医者に頼んで銀時のみ病院に残ったのだ。医者も、紫苑の寿命を考えたのだろう。彼女の望むことであればと、快諾してくれたのだ。

 

それから土方も屯所に帰り、一眠りしてから早朝に大江戸病院に行こうと思ったのだが…いろいろ考えていたら、結局眠れなかった。

 

紫苑の事、銀時の事、電話越しに話した紫苑と銀時の戦友である坂本の事、そして紫苑の兄…晋助のこと。彼らの過去のこと…とにかく昨日だけで、いろいろな事を知った。

 

特に晋助のことについては何度も何度も、銀時とのやり取りが脳内で再生される。あの過激派で血も涙もないと恐れられた晋助の本心。それを知って…いつもは冷静な土方の心が珍しく波立っているのだ。

 

あの電話で晋助は、「やるべきことをやったら攘夷活動から足を洗う」と言った。そのやるべき事が何なのか…それは分からない。だが、今まで自分達が追っていた過激派攘夷志士は…修羅の道を歩みながらも、妹の事を想っていた優しい兄だった。やるべき事がなんなのか…。あくまで土方の予想でしかないが、それは彼ら共通の師だった吉田 松陽の敵討ちではないかと…そう睨んでいる。

 

「天導衆・黒夜叉がアイツら共通の仇…」

 

たまたま紫苑が見てしまった資料に書かれていた名前。

 

天導衆・黒夜叉。

 

土方がこの資料を持っていたのもまた、偶然などではなかった。煉獄関(れんごくかん)で騒動を起こしてから、土方なりに天導衆についていろいろ調べていたのだ。その時にいきついた名前が、1人の天人の名前。それが黒夜叉だった。

 

「奴の殺した思想家は山ほどいる。その1人1人の名前を洗って…その中の1人が…」

 

引き出しに入れていた資料を引っ張り出し、付箋を貼っていたページを捲る。

 

「吉田 松陽…アイツら共通の恩師…」

 

最重要人物と書かれた資料の中に唯一名の上がっていた思想家。それが、紫苑達の恩師だと知ったのは…昨日だった。何故、黒夜叉が最重要人物としたのかは分らない。だが、彼の教え子達…少なくとも、真選組が追っている桂と晋助、そして腐れ縁というなんともいえない(えにし)で繋がっている銀時、真選組隊士である紫苑。松陽の元で育ったこの者達の剣の腕はなるほど、確かに松陽が教えたというのであれば危険人物として名が上がってもおかしくはないだろう。だが、紫苑が教えてくれた松陽なる人物は…

 

『とても優しくて、とても優れた方だった。生徒達1人1人を息子のように可愛がっていたし、決して無意味な殺生はしなかった。いつだって先生が剣を手にした時は、私達松陽塾の生徒を護るためだった』

 

教え子想いのよき先生だった。

 

「だからこそだったのか…」

 

松陽が処刑された時期は、丁度天人が幕府に侵食し始めていた時期でもある。あるいは、松陽の殺害は見せしめだったのかもしれない。「どんなに腕の立つ侍でも我々には敵わない」と…その現実を叩きつけるためだったのかもしれない。

 

そんな下らない理由で、人を殺す。

 

天導衆ならばやりかねない事だ。

 

それは、煉獄関の時に見せ付けられた。天導衆(やつら)は人間を平気で殺す。そこに迷いは一切ない。

 

「桂や高杉が天導衆(かたき)を殺す。…なるほど十分考えられるな…」

 

彼らの目的は恐らくそこなのだろう。それを止めるのが真選組の仕事…なのだが。

 

(存外、それも悪くねぇと思っちまうあたり……俺も相当狂ってるな…)

 

土方は真選組副長という肩書きを持った幕臣だ。しかしそれと同時に、1人の人間でもある。天人側に付くか、人間側に付くかと問われたら…迷うことなく人の方に付くだろうとそう考えている。今、何も言わずに幕臣として身を置いているのは、そこに近藤が居るからだ。それがなければ、こんな場所は願い下げだと…そう思っている。

 

そこまで考えると小さく溜息を吐き、資料を再び引き出しへとしまう。隊服を調え、刀を腰に差して自室を後にする。向かう先は、近藤の部屋だ。

 

一方、近藤の部屋はというと…

 

「近藤さん、俺ァどうしても頼みてぇ事があるんでさァ」

「だろうな…。総悟がこんなに朝早くに俺の部屋に来るなんてありえんからなァ!!」

 

既に先客が訪れていた。昨日、すべての真実を聞いた者の1人である沖田だ。

 

「単刀直入に言いやすぜィ?」

「して、頼みとは?」

「紫苑を真選組から除隊させてやってはもらえないですかねィ」

 

沖田の申し出。それは…高杉 紫苑の真選組除隊の申し出だった。深々と頭を下げる沖田に近藤は苦笑を漏らす。

 

(やっぱりそうだったか…)

 

昨日、すべての真実を知って屯所へと帰る道中。パトカー内には近藤・土方・沖田がいたが…誰も何も言葉を発しなかった。その時にチラリと近藤が沖田の表情を見たとき…彼は何かを考えている様子だった。

 

何を考えているのか。

 

そんなこと…考えずともすぐに分かる。それは、近藤や土方も考えていた事だったからだ。

 

高杉 紫苑を真選組から除隊させる。

 

それが…3人の願いだった。

 

「総悟、その件についてはトシとも話したんだが…」

 

土方の名前が出た途端、沖田の表情は険しくなる。だが、それに気付かぬフリをして近藤は続けた。

 

「俺もトシも、紫苑が望むようにと…そう思っている」

「…そりゃ、どういうことでさァ?」

「つまり…」

「紫苑が万事屋のところに戻る事を望むなら除隊を許可し、紫苑が真選組隊士であることを望むなら現状維持、ってこった」

 

近藤の言葉の続きを、土方が言う。突然の事に、近藤も沖田も驚いたが、それ以上に沖田は土方の言葉に目を丸くした。

 

「……紫苑の除隊を許可するんで?」

自分(テメェ)で聞いといて信じられねぇのか?許可するつってんだろーが」

「でも…」

「総悟、確かにトシの立ち上げた局中法度には“真選組を抜けし者は切腹”とあるが…それはあくまで、無断で真選組を抜けた場合だ」

 

てっきり、紫苑の除隊は反対されると思っていた沖田。だが、近藤も土方も…第一に考えていたのは紫苑の気持ちだった。

 

「総悟、これだけは忘れるな。どんなに俺達が紫苑を万事屋のところに戻してやりてぇと望んでも、紫苑が真選組の隊士であることを望んでいるなら俺は紫苑の気持ちを優先させる。紫苑が望む事を、俺は受け入れる。例えそれが除隊であってもだ。」

 

土方の言葉に、沖田はクシャリと笑った。

 

「何でェ、土方さん…いつにもなく、らしくねェことしてるじゃねーですかィ。明日は暴風雨だぜィ、こりゃ」

「うるせぇ」

「まっ、すべては紫苑次第ということさ」

 

だが…と近藤は続ける。

 

「出来れば、紫苑には幸せになってもらいたい。だから万事屋の元に戻ってもらいたいとは思っている。が……やっぱり、一緒にいたいと思うのも事実だ」

 

近藤だけではない。土方も、沖田も思う事は同じだ。紫苑の幸せを願うなら、銀時の隣という本来あるべき場所へ戻すべきだという事は重々承知。だが…それでも。

 

「同じ真選組の隊士として、そして…」

 

紫苑が笑いながら、真選組を第二の家族と言ってくれたことを思い出す。

 

「第二の家族として…」

 

その笑顔に偽りはなかった。心から真選組を慕ってくれていた。だからこそ、彼女とずっと一緒にいたいと願うのも当然なのだが…それでも。

 

彼女の本当の幸せを願うのもまた、家族の務め。

 

「すべては紫苑次第、ですかィ」

「あぁ」

 

紫苑が幸せになれるならば、彼女がどんな選択をしようとも…しっかりと受け止めよう。

 

それが、真選組3人の下した決断だった。

 

 

 

――万事屋・銀ちゃん…

 

本来ならそこにいるはずの住人である銀時、そして居候の神楽の姿はない。いるのは、桂だけだ。昨日、ずっと万事屋で銀時の帰りを待っていた桂は、戻ってきた新八と神楽から1本のビデオテープを渡された。聞けば、たまが取り込んだ映像を、機械(からくり)技師の平賀 源外に頼んでテープにダビングしてもらったらしい。新八と神楽はこれを桂に手渡すと、揃って万事屋をあとにした。どうやら神楽は、新八の家に泊まったようだ。それは、ビデオテープを1人で見たいだろうと…桂を気遣っての事だった。

 

「リーダーと新八君には要らぬ気を遣わせてしまったな」

 

苦笑しながら、唯一万事屋に残っている定春を撫でる。何となく…すぐには見ることが出来ず、夜が明けたら見ようと…そう思っていたのだ。

 

(すぐに見れなかったのは、紫苑を置いていったことを彼女の口から指摘される事が怖かったから、か…。ふん、俺もまだまだだな…)

 

あの時の判断は間違っていなかったと今でも思っている。だが、彼女の友としては最低の判断だったと思うのもまた事実。それ故に、紫苑本人からそう指摘されるのをどこかで恐れていた。

 

(だが…折角たま殿がこうして映像に残してくれたのだ。見ぬ訳にはいくまい…)

 

それに、紫苑のことが気掛かりだったのも事実。意を決し、万事屋のテレビに設置されてるビデオデッキにテープを入れた。するとパッと画面が変わり、白が特徴的な部屋が映し出される。その、白い部屋に…

 

『たまちゃん、もう喋ってもいいのかな?』

『はい、構いません』

 

一際目立つ綺麗な紫の髪をした女が映っていた。

 

思わず…息を呑む。

 

最後に見たときより大人っぽくなり、より一層美人になった…紫苑の姿。しかし、紛れもなく…銀時が愛し、晋助が大事にしていて、桂と坂本が友と慕った…高杉 紫苑。真っ直ぐとこちらを見つめる紫の瞳は、昔と変わらず透き通っていて…そしてとても強く輝いている。

 

『コタロー、久しぶりね』

 

画面の中の紫苑が自分の名前を呼んだ。幼馴染達の呼ぶ失礼極まりないあだ名ではない、彼女がいつも呼んでいた…ちょっと癖のある名前の呼び方だ。

 

ああ、お前はまだ…俺のことをそうやって呼んでくれるのか。

 

それが嬉しくて、口元が緩んでしまう。すると、画面の中の彼女もまた…昔と変わらない笑顔を見せた。

 

『訳あって、私は今…真選組の隊士になってる。そうする事でしか、生きる(すべ)がなかったから。兄さんとは派手に喧嘩しちゃったし、銀時が生きているのかどうかも分らなかったから…。けど真選組の隊士になったから、コタローと会うことも難しくなっちゃったなーって…ずっと思ってた。でもね…どうしても伝えたい事があった。ずっとずっと、コタロー達に言いたいことがあった。だから、たまちゃんを通して……この言葉を送ります』

 

ゆっくりと紫苑は目を閉じる。

 

彼女の伝えたい言葉、それは…

 

『ありがとう、そして…ごめんなさい…』

 

感謝と、謝罪の言葉だった。

 

『銀時から聞いたわ。コタロー…戦が終わった後も、ずっと私のことを探してくれてたって。真選組の隊士になった事は少なからず攘夷志士達の間でも噂になっていたはずなのに…。それでも、コタローは私を恨まないでいてくれた。本当にありがとう』

 

紫苑の言葉に、桂は目を見開く。

 

確かに、紫苑が真選組の隊士であるという情報は“確かではないが”という程度に入っていた。それが確信に変わったのは、昨日の出来事を知ってだった。確かに、何故仇であるはずの幕府に…真選組の隊士になっているのかと疑問を抱いた。しかし、恨むよりも…やはり、生きていた事が嬉しかった。

 

「憎めるはずがないだろう。俺達は友だぞ…?」

 

もし、敵として相対する事があっても…恐らく、自分は紫苑を憎む事は出来なかっただろう。それは、銀時と真選組の関係が腐れ縁という形で繋がっていると知った時もそうだった。どこか釈然としない気持ちもあったが、それでも昔のような蔑みの中ではない…笑顔で溢れた場所で生きている彼の姿を見て、銀時のあるべき場所はかぶき町であり、万事屋なのだと…そう思った。だからこそ、紫苑が真選組の隊士と知っても…それが彼女の選んだ道だと割り切れたのかもしれない。

 

『けど…私がはぐれたことで、コタローと辰馬には辛い選択をさせてしまったことも、銀時から聞いたわ。本当にごめんなさい。コタローと辰馬はとても優しいから…きっと、凄く悔やんだんじゃないかって…。いいえ、今でも悔やんでるんじゃないかって…そう思ったわ。2人の判断は正しかった…。私はそう思ってる。だから、絶対に自分を責めないで?』

 

紫苑の言葉に、込み上げてくる何か。

 

思わず桂は、自分の目元を押さえる。

 

「……ッ、優しいのは…どっちだ…ッ…」

 

恨まれても当然の選択だったと思っていた。紫苑から罵られる事は覚悟の上だった。

 

しかし、幼馴染にして戦友の彼女は…

 

昔となんら変わらない…優しい彼女のままだった。

 

『誰も悪くないの。コタローも辰馬も、もちろん…銀時も兄さんも。だから…絶対に謝らないで?ちゃんと会えたとき、開口一番の言葉が謝罪だったら殴り飛ばすからね?』

 

大人になっても、お転婆(てんば)は健在か。紫苑の言葉に、笑みが零れる。

 

『ね、コタローは覚えてる?私達が戦争中に約束した…花見…。兄さんは、月見酒がいいって言ってたけど…萩の桜の下で月見酒…。頃合よ…?』

 

約束、と言われて桂はフッと笑う。

 

ああ、紫苑も覚えていたのか…。

 

もしかしたら、自分だけがあの約束を覚えていて、他のみんなは忘れているのではないかと思った。しかし、紫苑はちゃんと覚えていたのかと…笑みが零れる。否、紫苑だけではない。新八と神楽に頼んでいた伝言を銀時に伝えたら、それは嬉しそうに笑っていたらしい。そして…

 

『桂さん、銀さんもですけどね…』

『黒モジャと片目も忘れてなかったネ!!ちゃんと約束覚えてたヨ!!』

 

銀時だけではなく、坂本と晋助もまたあの約束を覚えていたのだという。どういう経緯で晋助の真意を知ったのかは定かではないが…どうやら、誰一人としてあの時の約束は忘れていなかったらしい。

 

『私はもう、来年まで生きられない。だから……』

 

ああ、出来ればその事実だけは嘘だと言って欲しかった…。しかし、悲しげに微笑む紫苑は続ける。

 

『私がこの世を去る前に…約束…果たそうね…』

 

その言葉も…どこか悲しい響きだった。

 

そこで映像は切れる。

 

「……そう、だな……」

 

約束を果たさなければ。

 

紫苑が真選組の隊士だろうと、晋助と喧嘩中だろうと構わない。

 

紫苑の命の灯火が消えかかっているというのであれば…せめて、最期に楽しい思い出を作りたい。

 

「約束…だからな…」

 

夜明けの日差しが万事屋の室内を明るく照らす。桂の頬を伝う涙が…日の光を受けて光る。

 

「くぅ~ん?」

 

定春が心配そうに桂の手元に鼻をこすりつける。それを優しく撫でながら…

 

「大丈夫だ、定春殿。俺は…」

 

朝日を見つめて、微笑む。

 

「俺は…幸せだよ…」

 

 

 

――鬼兵隊本部…

 

「……ハァ…」

 

これで何度目の溜息か分らない。晋助は頭をガシガシと掻きながら、さてどうしたものかと考えていた。銀時の電話を受けて、紫苑が存命であることも、しかしその命が病によって消えかけている事も知った。いい知らせと悪い知らせ…どっちも一緒に入ったものだから、気持ちの整理がつかずにいたのだ。

 

(それに、今更どんな顔して紫苑に会えってんだ…)

 

晋助の不安はそこにもあった。確かに、紫苑には会いたい。だが…またあの空虚な瞳で見つめられたら…?

 

そう思うと、怖いのだ。

 

「ハァ…」

 

これで何度目の溜息だろか。どれだけの幸せが逃げていったのだろうか…などと、柄にもない事を考えていたら。

 

「どうしたでござるか、朝からそんなに溜息を吐いて」

「貴方らしくもありませんねェ」

「けど、そんな晋助様も素敵ッス!!」

 

いつの間にか自分の部屋に来ていた幹部達。その気配に気付かないほど、晋助は悩みまくっていたのだ。

 

「オ、オメェらいつからそこにいた!?」

 

素っ頓狂な声を上げる晋助に、珍しいものでも見るかのような表情を見せた武市。来島もまた「気付かなかったんスか?」と首を傾げている。

 

「お主が拙者達の気配に気付かぬとは珍しい。それほど思い悩んでいたと?」

 

河上の言葉にピクリと肩が跳ねた。それを見た3人は「ああ、図星だったのか」と思いながら、晋助の言葉を待つ。

 

「……昨日の晩…銀時から、電話があった…」

「ほう、白夜叉から電話でござるか」

 

予想外の名前に、思わず河上も聞き返す。銀時のことを“白夜叉”と呼ばれて、いつも以上にイラッときたのは…恐らく、銀時と和解したからだろう。絶対そうだ。

 

「万斉ィ…。次、銀時のことをそんな風に呼んだら叩ッ斬るぜェ?」

「……!?な、何故でござるか!?今までは何と呼ぼうと、何も言わなかったではござらんか…!!」

「今まではそれなりに我慢できてたんだよ。もう我慢の限界だ。よし、斬ろう。万斉、そこに座れ」

「え、何その京に行こう的なノリは!?お、落ち着いてください!!ちょっと、何事ですか!?100%シリアス要因の貴方がこんなに取り乱すなんて…!!」

「テメェも死にてぇか、武市ィ…!!」

「ヒィ!!」

 

何だこれは。いつもの冷静でニヒルな笑みを浮かべている晋助はどこにいったんだ?

 

ぽかんとその様子を見ていた来島は、ワイワイと騒ぐ3人に口を挟む勇気もなく…ただ見つめるだけ。しかし…

 

(…なんだか、晋助様…)

 

「切腹しろや。介錯ぐれぇはしてやるぜェ?江戸城まで首をカッ飛ばしてやらァ」

「お、落ち着くでござる晋助!!拙者が悪かった!!」

「私を巻き込まないで下さい、私を!!」

 

いつもの取り繕った姿ではない、ありのままの晋助の姿を見ているような気がしたのだ。ある意味、鬼兵隊に入ってから…怒の感情以外で初めて人間らしい感情を表に出しているような気がする。

 

(嬉しそう。何かいいことがあった…?)

 

そう、それは喜びの感情だ。晋助は隠そうとしているが、彼がまとう空気はいつもとは違い…何だか温かみを感じるものだった。その理由を聞きたいのだが…

 

「では、拙者はあの男の事を何と呼んだらいいでござるか?」

「普通に銀時って呼べばいいだろうが」

「今更それを私達に求めますか!?」

 

いかんせん、彼らのやり取りに口を挟めない。どうしたものかと成り行きを見守っていたら…

 

「して…電話の内容は何だったでござるか?」

 

やれやれと溜息を吐きながら、河上が聞いてくれた。そう、明らかに彼の機嫌がいいのはその電話の内容が原因だろう。しかし、銀時と晋助は(たもと)(わか)ったのではなかったのか…?また、来島の頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「……紫苑が…生きていた…、という知らせだ…」

 

紫苑、という名前に…その場にいた誰もが目を丸くした。

 

紫苑とは…彼の妹であり、一時期は自分達の上官だった…あの紫苑なのだろうか?

 

「…なんだその顔は。正真正銘、鬼兵隊副官の高杉 紫苑だ…」

 

それとももう忘れたか?と…どこか悲しげな()で聞いてくる晋助に、その場にいた全員が首を横に振った。

 

「忘れるわけがないじゃないですか!!あんなお美しい女性を…!!いやぁ、幼かったら本当に……」

「あ?紫苑が幼かったら…なんだって?」

「い、いえなんでも…」

「…生きていた…?晋助と拙者にあれほどの傷を負わされてなお…生きていた…?」

「…あぁ、今はどうやら真選組の隊士としているらしい」

 

そして…と、晋助は少し伏目がちに続ける。

 

「紫苑は病に侵されている。医者が下した余命は……1年。丁度、去年の今頃に余命宣告をされたそうだ…」

「し、晋助様…、それってつまり、紫苑は…!!」

 

もう、限界だそうだ…

 

晋助の口から語られた真実は、生きていたという知らせと、病に侵されていてもう長くは生きられないという…嬉しくもあり、悲しくもある内容だった。

 

「俺達は…銀時とヅラと辰馬と紫苑は…戦争中にある約束をした…」

 

窓の外を眺めながら…

 

「萩の桜の木の下で月見酒…」

 

ポツリと呟く。その姿は、いつもの近寄りがたい“鬼の高杉”と呼ばれる彼からは想像も出来ないほど…弱く見える。

 

そこで初めて、ああ…と3人とも思う。

 

彼は、紫苑を傷つけた事を後悔していると。

そして、会いたいけれどどんな顔をして会ったらいいのか分らずに悩んでいるのだと。

けれど…その約束を果たしたいと、そう願っているのだと。

 

「何事かと思えば、お主らしくもない…」

「そうですよ、会いたいなら会いに行けば宜しいではありませんか」

 

河上と武市は口々にそう言う。その言葉を受けて、「だがなァ」と頭を掻く姿は…本当にいつもの彼からは想像もつかないほど、人らしい仕草だと思えてしまう。

 

「晋助様、会いに行って下さい。きっと紫苑も会いたがってるッス」

「来島…」

「それに、紫苑の命がもう…長くないなら、尚更ッス…!!絶対に会って下さい!!お願いッス!!」

 

じゃないと、後悔するのは貴方だ…。

 

来島の言葉に、河上と武市も頷く。

 

「…そう、だな…。折角、銀時との仲も戻ったんだ……。紫苑にも謝らねぇとなァ…」

 

流石に、銀時との仲直り発言には驚いた。

 

だが、彼がまとう空気が優しく、そして暖かく感じたのは…それが理由だったのだろう。

 

「だったら晋助様!!膳は急げッス!!」

「ふむ、紫苑の身体のことを考えるとのんびりしてはいれないでござるな」

「ご安心下さい。鬼兵隊の方は私達でしっかり管理しますので」

 

だから、戦友達と水入らずで楽しんできて下さい。

 

彼らの好意に、自然と晋助の表情も柔らかいものになる。が、それと同時にふとあることが脳裏を過ぎった。

 

(コイツら…紫苑のことを忘れずにいてくれたんだなァ…)

 

誰も何も言わなかったから、もう紫苑という存在は誰の心にも残っていないものだと思っていた。

 

しかし…そうではなかったのだ。彼らもどこかで思うところはあったのだろう。来島は特にそうだったに違いない。存命の知らせ、そして余命の知らせを話したとき、一番反応を示したのは彼女だった。

 

だったら…

 

「……よォ、オメェらさえよければ――…」

 

晋助の言葉に3人が驚く。

 

しかし晋助はニッと笑いながら…

 

「安心しろ。話は俺がつけてやる」

 

いつものように、しかしいつもより人らしい表情で煙管(キセル)を吹かせた。

 

 

 

――快援隊・船内…

 

「……ほうかァ、ほりゃよかったぜよ…!!……、わかったきに、こっちはこっちで何とかするぜよ」

 

朝一で携帯がなり、誰かと思えば昨日話したばかりの戦友・銀時からだった。その内容は、晋助と銀時が仲直りをしたという喜ばしいものだった。もっとも、桂と晋助についてはまだらしいが…銀時と晋助の関係が修復されたのであれば、この2人の関係もすぐに修復されるだろうと坂本は思っている。

 

これで、あとは晋助と紫苑を仲直りさせるだけだ。

 

しかし、銀時から聞いた限りでは、晋助も紫苑の事は気に掛けているし、今でも紫苑のことを大切に思っているようだ。この2人の仲直りに関しても、恐らくは問題ないだろう。満足そうに笑いながら携帯をズボンのポケットにねじ込む。

 

(かしら)ァ、例の件について調べが…」

「おー、陸奥ゥ!!仕事が早くて助かるぜよ!!して…どうじゃった?」

 

彼の優秀な部下であり、坂本のよき理解者(というより保護者?)である陸奥が、数枚の紙を手に坂本の元にやってきた。

 

坂本が陸奥に頼んだ事。それは…

 

(かしら)の戦友の病気じゃが……もう手遅れじゃ。余命宣告されてすぐじゃったら、どぎゃんかなったかもしれんが…」

「遅すぎたが?」

「……力になれんですまんのォ。許しとおせ…」

「陸奥のせいじゃないきに、謝ることはないぜよ」

 

紫苑の病を治すための薬を探す事だった。しかし、余命宣告をされてすぐだったらいざ知らず、余命宣告をされて…その宣告の1年を迎えている。宇宙にはいろいろな薬があるが、特効薬といわれる薬でも…病魔の進行した紫苑の体を救う薬にはならない。逆に、今の紫苑の体力では薬が強すぎて、残された僅かな寿命を縮めてしまうかもしれない。

 

天人技術に特化したこの時代でも…病にだけは勝てないと痛感した瞬間だった。

 

「けんど…(かしら)に聞いてげにまっこと驚いたぜよ。銀時(あの男)に婚約者がおったとはのぅ」

 

しかも相手は、あの過激派攘夷志士・高杉 晋助の妹だというではないか。晋助に妹がいたという情報ですら驚いたというのに、その妹が銀時の婚約者だった事に更に驚いた陸奥である。

 

(かしら)は肝心な事を話してくれやぁせん。もっとも…今回の件については話とうなかった、ちゅーのが(かしら)の本心なんじゃろうが…」

「陸奥ゥ、許しとおせ。ワシは怖かったんじゃ。紫苑のことを話すと…紫苑を置いて進軍したあの日のことを嫌でも思い出す。じゃから…おまんにも話せんかった…」

「どうせそんなことじゃろうと思っとった」

「アッハッハッ、さすが陸奥ぜよ!!いやぁ、敵わんきに!!」

 

いつも通りに振舞っている坂本だが…陸奥にはわかっていた。彼が無理をして笑っていることも、いつも通りに振舞おうとしている事も。

 

紫苑の病気を治せないことを、泣きたいほど悲しんでいるという事も。

 

だが、坂本はいつものようにただ笑うだけで、決して弱みを見せようとしない。

 

(この男はそれが(かしら)の務めとでも思っとるが?阿呆、ワシとおまんの仲じゃ。少しは晒しとおせ)

 

しかし、この男は決して自分の弱みを見せない。どんなに追求しても、馬鹿笑いをして誤魔化される。長い付き合いで、陸奥はそれを理解していた。

 

だから…

 

(かしら)ァ、今回の件…この短時間で星という星の薬を調べたんじゃ。ほりゃ、げにまっこと大変な作業じゃったぜよ。やき――…」

 

せめて、これぐらいのわがままは言わせて貰おう。

 

陸奥の言葉に坂本は目を見開いて驚く。だが…

 

「おぉ、ほりゃええ!!紫苑にもおまんの事を紹介したいと思っとったぜよ!!」

 

陸奥の出した条件…「おまんの戦友に合わせろ。ワシも月見酒の一員に入れるぜよ。」という要求をあっさりとのんだ。あまりにもあっさり過ぎて、逆に陸奥が驚いたぐらいだ。

 

「おまん……戦友水入らずの月見酒やなか?ワシが言うのもおかしな話かもしれんが……ワシが加わってもえいが?」

 

もっとこう、仲間に連絡を取って了解を得るとか…いろいろやる事はあるだろうに。この男はあっさりとOKしたのだ。

 

「大丈夫ぜよ、晋助もヅラも銀時も紫苑も、そがぁな事で怒るほど心の狭いやつじゃないきに!!」

 

この男のこの自信は一体どこからくるのやら…。

 

陸奥は溜息を漏らしながら、しかしその表情は…

 

「げにまっこと、おまんはよう分からん男じゃ…」

 

いつものポーカーフェイスとは違う、穏やかな笑みだった。

 

 

 

――志村家…

 

「おはよう、神楽ちゃん」

「おはようネ、新八」

 

いつもは寝汚い神楽も、今日に限っては早起きだった。それは、いつもと寝る場所が違うからとか…そんな単純な話でもない。

 

「銀ちゃんとしーちゃん…大丈夫アルか?」

 

銀時、そして紫苑のことを心配していたからだ。神楽の問いに、新八はニコリと笑う。

 

「大丈夫だよ。銀さんの強さは僕達が一番知っている。そうでしょ?」

「……おうネ!!」

「紫苑さんも、銀さんがついてるから大丈夫だよ」

 

昨日の銀時は…どこか弱々しく、崩れ落ちてしまうのではないかと思ってしまった。自分達の事を家族のように大事にしてくれて、いつも護ってくれた強い人。しかし…昨日の銀時を見て、新八は思ったのだ。

 

もしかしたら、自分達に弱みを見せないよう…ただ強がっていただけなのではないかと。

 

現に、紫苑が銀時の目の前で倒れた事を坂本と晋助に伝えたら、紫苑の身体のこともだったが、銀時の精神面も酷く心配していた。

 

きっと…銀時は精神的に酷く脆い一面がある。

 

それを昨日、初めて知った。

 

「…大丈夫、僕達はいつも銀さんに護ってもらっていたけど…これからは、僕達が銀さんを護ればいいんだ」

 

彼の身体ではない、心を…。

 

「ったく、銀ちゃんも素直じゃないネ。辛いなら辛いって言ったらヨロシ。私達は家族アル」

「ホントにね。銀さん、そういう弱みを絶対に見せないから…ホントに苦労するよ…」

 

2人の子供は互いに顔を見合わせて笑う。

 

「新ちゃん、神楽ちゃん。ご飯が出来たわよー」

 

と、妙の呼ぶ声が聞こえた。ご飯という言葉に、神楽の表情がパッと明るくなったが…あの可哀想な卵焼き(ダークマター)を思い出してサッと血の気が引く。

 

「しししし、新八!!姉御がご飯作ったアルか!?」

「大丈夫、ご飯は僕が作って…姉上はただそれを準備しただけだから」

 

苦笑しながら神楽を促し、妙の元へと行く。

 

が…食卓に並ぶは、新八が炊いたご飯と、新八が作った味噌汁。それに…

 

「…………」

「ご飯と味噌汁だけじゃ足りないと思って、卵焼きを作ったわ。神楽ちゃん、遠慮なく食べてね!!」

 

可哀想な卵焼き(ダークマター)が添えられてあった。

 

銀さんを護る前に、まず自分の身体が死んでしまうかもしれない…。

 

遠くを見ながら新八がそう思ったのは、また別の話である。

 

 

 

何とかダークマター…(もとい)、卵焼きをやり過ごし、新八と神楽はある人物達を待っていた。

 

「お妙さーんッッッ!!!」

「何しに来たんじゃ、このストーカーゴリラァァァァァ!!!!」

「あ、来たネ」

「分りやすいインターホンだな…」

 

そう、待っていたのは真選組の連中である。昨日別れる間際に、どうせ明日も大江戸病院に行くなら途中で拾って乗っけてやると土方が言ってくれたのだ。神楽は「上から目線で言うなヨ」などと言って思いっきりしかめっ面をしていたが、志村家から大江戸病院に行くんだったら、タクシーを使うより真選組に拾ってもらった方がいい。その方がタクシー代も浮く。そう思った新八は、土方の好意に甘えることにしたのだ。

 

「おはようございます……って何やってるんですか…」

「ストーカーってホントに怖いアルな」

「あら、もしかして新ちゃん達に用事があったんですか?」

「もしかしなくてもそうなんだが……ったく、近藤さん…アンタ、何やってんだよ…」

 

本来の目的は新八と神楽の迎えのはずだったのに。それなのに、近藤の開口一番は自分が一途に想っている人の名前だった。それを容赦なくグーで殴り飛ばす妙も妙なのだが、毎度お馴染みのことだし、どう見ても正当防衛なので何もいえない。否、妙が怖くて何も言い返せない…というべきか?

 

「昨日新ちゃんと神楽ちゃんが話してくれた、銀さんの……?」

「そうなんです。紫苑さんの様子も気になるし、銀さんのことも心配だから、万事屋に行く前に銀さんを迎えに行こうかと思って…!!」

 

妙には昨日、新八と神楽がいろいろ話した。銀時には将来を約束していた恋人がいたことや、その恋人が病に侵されている事。過激派攘夷志士である高杉 晋助の妹である事などなど…。とりあえず、かいつまんで重要な部分だけを話したのだ。ただ、妙も紫苑の事は真選組の隊士として知っていたらしく、「あの綺麗な人が銀さんの婚約者だなんて」とそれはもう驚いていた。

 

「じゃあ姉上、行ってきます」

「行ってきますヨー!!」

「行ってらっしゃい」

 

土方によって回収された近藤と、それについて行くようにして志村家を出た新八と神楽。さっきまで賑やかだった志村家が、一気に静かになった。

 

「銀さん…」

 

紫苑のことを聞いていたときに、少しだけ聞いた銀時の過去。

 

「貴方だって、幸せになる権利は十分あるんですよ…?」

 

彼を慕う女性は意外と多い。さっちゃん、月詠、吉原の遊女達、すまいるのホステス達、それに…

 

「そりゃ、私だって銀さんのこと…。けど、貴方の強さと優しさの理由を知ってしまったら…私なんかが敵うわけないじゃないですか…」

 

彼女もまた、銀時を1人の男として意識していた。

 

だが銀時の強さの理由を知った。そして、紫苑が時々話してくれていた“強くて優しい大切な人”の事も知っている。

 

この2人がどれほど互いに互いを大事にしているか…それを知っているから。

 

「私は2人の幸せを願うわ。例え…」

 

ひらりと舞い散る桜を見ながら、妙は少し寂しそうに微笑む。

 

「それが…一時(いっとき)の幸せでも。紫苑さんと銀さんが…心の底から笑っていられるならば…」

 

私は私が大切に想う人達の幸せを願おう。

 

 

 

――スナック・お登勢…

 

「おはようございます」

 

お登勢が店の清掃をしようと起きてきた頃には、既にたまはモップを片手に店内清掃を始めていた。どうやらキャサリンは買出しに出かけたらしい。毎度の事ながら、本当によく働く1人と1体だと思うお登勢である。

 

キャサリンも口ではいろいろ言っていたが、銀時のことが気になっているはずなのに。

 

それはたまも同じで、いつも通り店内清掃をしているように見えるが…どことなく、無表情に拍車が掛かっているように思えた。

 

「たま、アンタ…銀時のことが気になってるんじゃないのかい?」

 

お登勢に聞かれ、思わず手が止まってしまう。

 

「図星かい。まぁ、アタシも…気になってるんだけどねぇ…」

 

煙草に火をつけながらポツリと…お登勢が呟けば、たまは顔を上げてお登勢を見つめる。

 

「……私は、皆様の笑顔をお護りしたいと思っています。私は銀時様に護られました。だから…今度は私が銀時様の笑顔をお護りしたいと…そう、思っていました…」

 

確かに昨日の銀時は、今までに見たことのないような…幸せそうな顔で笑っていた。

と同時に、今まで見たことがないほどに…弱々しく、そして…泣いていた。

 

「けれど…私にはどうやったら銀時様の笑顔をお護り出来るのかがわかりません。紫苑様がいなくなってしまったら…銀時様に笑顔が戻らなくなるのではないかと…。そう思うと…機械(からくり)なのに…(ここ)がとても痛むのです。」

 

たまは自分の胸の辺りを押さえながら静かに目を閉じる。たまはいつも彼の姿を見続けてきた。記憶(データ)にははっきりと残っていないが、以前彼に救われたことももボンヤリと覚えている。彼には沢山、大事な事を教わった。

 

だからこそ、たまは彼の笑顔を護りたいと…そう思った。

 

しかし、その強さと優しさが紫苑を護る為だったと知り、その紫苑がもうすぐいなくなってしまうと知り…。もうあの笑顔が見られなくなるのではないかと…そう、思ってしまった。

 

「私は機械(からくり)です。だから、人の心の事はよく分かりません。けれど、紫苑様が銀時様にとって大事な人だということはとてもよく分かりました。だから……」

 

だからこそ、彼女がいなくなったら…銀時が壊れてしまうのではないだろうか…?

 

不安そうなたまを見て、お登勢は苦笑を漏らす。

 

(まったく、銀時を好いてる女が結構いる事は薄々気付いていたけど…まさか、この子(たま)もだったとはねぇ…)

 

もっとも、たまには恋愛感情など難しい事は理解できないのだろうが…(はた)から見れば、彼女も銀時のことを慕う女の1人にしか見えない。

 

「たま…アンタは銀時のことを弱いと…そう思うかい?」

 

突然の問いだったが、しかしその言葉にたまも即答で返事をする。

 

「いいえ、銀時様はとてもお強い方です」

「そうさ、銀時は強い。けど、弱い部分もある…。たまにはちょいと難しいかもしれないが、これが人間というものさね」

 

確かに銀時の場合は、精神的に脆い面がある。それは、お登勢も薄々感じてはいた。けれど、人間は誰しも強さと弱さをもって生きている。

 

「キャサリンが盗人になったのは彼女の弱ささ。けど、盗人から足を洗って出頭したのはキャサリンの強さだよ。人間は不完全な機械(からくり)さね。だからこそ、過ちを犯すこともある。けどね…アタシは信じたいんだよ」

 

フーッと紫煙を吐きながら、お登勢は笑った。

 

「銀時の強さをねぇ。確かに、紫苑の死という現実は避けて通れないことさね。けれど…アタシは銀時がそこで壊れてしまうほど、弱い男だとは思っちゃいないよ」

 

確かに、紫苑を探している時の銀時には危うさを感じた事があった。けれど、それを支えてくれる家族や仲間が出来て…少しずつだが、銀時は変わってきたのだ。

 

「アタシが拾った時よりも…銀時は強くなった…」

 

昨日、確かに銀時は天人を酷く憎んでいると言った。けれど、神楽を救い、そしてキャサリンを救った。それは彼が変わった証拠であり、強くなった証だ。

 

「銀時が壊れてしまいそうなほど落ち込んじまったら、その時は…」

「ソノ時ニ、私達ガ支エテヤレバイイ…デスヨネ?」

 

お登勢の言葉を続けたのは、買出しから戻ったキャサリン。キャサリンの言葉に、お登勢は頷く。

 

「そう、キャサリンの言う通りさね。たま…、アンタが銀時を護りたいと思うなら…とことん護ってやりな。もしアイツが、紫苑の死をきっかけに壊れそうになったら、その時はしっかりと助けてやりな。そうすればきっと、銀時は立ち上がるよ」

「マァ、私ニハアノ人ガソンナニモロイ人ニハ見エマセンケドネ」

「……私、馬鹿な(からくり)ですね…。銀時様の強さは、良く分かっていたはずなのに…」

 

不安がなくなったと言ったら嘘になるだろう。けれど、お登勢の言葉で…たまの気持ちは軽くなった。

 

彼が笑わなくなることを恐れるのではなく、彼が辛い時にはそっと手を差し伸べればいい。

 

答えは単純で、そして簡単なもの。

 

否、だからこそ…難しいのかもしれない。

 

「単純なようで複雑…。それが人の心さ…」

 

煙草を揉み消しながら、ふと…初めて銀時とであったあの日のことを思い出す。

 

(もっとも、アタシもアンタの強さに救われた1人なんだけどねぇ…)

 

旦那の変わりに護ると彼が誓った、雪の降る寒い日。

 

その言葉がどれほど心強かったか。

 

「さっ、暗い話は仕舞いだよ!!ほら、すぐに準備を始めな!!夜はあっという間に来るんだからね!!」

「清掃モードに再度切り替えます。お登勢様、何なりとお申し付け下さい。」

「キャサリンは食器を洗っておくれ。たまは床掃除とテーブル拭きを頼むよ」

「ハイ」

「了解しました」

 

だから、彼の護ってくれるこのかぶき町で…

 

私達は私達らしく生きよう。

 

2階の騒々しくて迷惑極まりない住人達が戻ってきた時に、いつものように笑えるように。

 

 

 

それぞれが動き出した。

 

それぞれの想いを抱いて。




(2011年6月23日 にじファン初投稿)
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