恋空~春、夜空の下で~   作:雪音

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とうとうクライマックスとなります!!プロット上ではこの話が最終話の予定だったんですが、ちょっとここで終わると暗いまま終わっちゃうので…まぁなんといいますか、銀魂らしく、そして銀時らしく終わらせる為に第終訓というエピローグのような話を設けました。ただ、本編はこれで終わりです。

銀時達の花見の約束、そして紫苑と銀時の関係…どうぞ見届けてあげて下さい^^

※注意※
なお、この話には【死ネタ・銀時と紫苑の入籍(非R指定)】という描写が入ります。誰かが銀時の嫁になるとか嫌だ!!とか、死ネタ嫌い!!という方は十分にご注意ください。閲覧の際は自己責任でお願いします。なお、入籍と言いましても紫苑の苗字が高杉から坂田になるだけで、それ以上の事は何もしません。裏など一切入りません。


【第十八訓】恋空 ~春、夜空の下で~

紫苑が万事屋に身を置くようになって、状況は目まぐるしく変わった。

 

まず、紫苑に残された時間を考えると早い方がいいだろうという近藤とお登勢の提案で、銀時と紫苑は入籍をし、式を挙げたのだ。最も紫苑は…

 

「私はもう遠くない未来にこの世を去ってしまうから、入籍は…」

 

と、銀時のことを思って言ったのだが、

 

「いーや、そんなの関係ねぇな。言ったろ?俺の隣は…紫苑のものだけだ。例えお前が居なくなっちまっても…ずっと、な?」

 

銀時にこう言われて…紫苑は嬉しさのあまり抱き付き号泣した。

 

ただ式に関しては、大人数を呼んで行うのではなく、身内だけで簡潔に済ませたいと両名がそう希望した為、真選組屯所で行われた。必然的に真選組の隊士は全員出席となり、そこに万事屋の子供達と妙、スナック・お登勢の面々が顔をそろえた。しかしどこから聞きつけたのか、外に漏らさないように準備したはずなのに、恐ろしい数の祝電が届き、近藤を始めとした真選組の面々は、その対応に追われることとなる。

 

「万事屋、ちょっといいか?」

「あー、何だよ?」

 

手招きをする土方に、やれやれと溜息を吐きながら立ち会ってそちらに行くと、土方から3通の電報が手渡された。1通は坂本 辰馬と陸奥の名義で来ているが、他2通は無名だった。

 

「まぁ、誰かなんて…俺には想像できるけどな。そんな憶測で動くのも馬鹿らしいから、そいつはテメェに預けるぜ」

 

それだけを言い残して土方は再び奥へと引っ込んでいく。一体なんだと首を傾げながら紫苑の元に戻れば、「どうしたの?」と紫苑も首をかしげた。

 

「いや、電報が来てたらしんだけど2通…無名の電報があったらしくてさ」

「無名の電報?」

 

だがそこまで考えて、「待てよ」と銀時は手を止める。態々、坂本の電報と無名の電報2通を一緒に渡す理由。

 

無名という事は、すなわち真選組に名前を知られたくない誰か。

 

「まさか…」

 

銀時が2つの電報を開けば…

 

『銀時、紫苑。お前達の幸せを俺は願う。とりあえず、チューは花見の時まで取っておけよ?俺達が先に見る権利があるのだからな!!幕府の犬共に先に見られてたまるものか!!』

『紫苑を泣かせたら、今度こそ本気で(たもと)(わか)つから覚悟しとけや。』

 

誰といわずとも分る内容の言葉が。

 

「ククッ…シスコンめ…!!」

「ううっ…兄さんったらもう、恥ずかしい…!!」

 

紫苑は顔を隠して恥ずかしがっていたが、心中にはまた別の思いがあった。

 

(兄さん…ありがとう…)

 

どこかで不安があった。花見の時に仲直りをすると言ったものの、すべての不安がなくなったわけではない。無理だったらどうしようとか…そんなことを考えていたのだが、そんな不安を吹き飛ばすような…攘夷戦争時の兄を思わせる文面に、紫苑は嬉しくもあったのだ。

 

そんな彼等を見ていた神楽と新八は、首を傾げる。楽しそうに笑いながら銀時が無名の電報2通を子供達に渡せば、それぞれ呆れたり笑ったりしていた。

 

「こっちの電波の内容は何ネ?チューはここじゃしないアルか?」

「か、神楽ちゃん!!そんなに残念がることじゃないから、ねっ?」

「銀さん達が紫苑さんのお兄さんの事を“シスコン”って言う理由が良く分かりました」

「だろ?ったく…態々電報で言うことでもねーだろ?だからアイツはシスコンなんだよ…」

 

そんな吃驚な電報もあったり、例の如く沖田と土方が取っ組み合いの喧嘩を始めたり、妙が近藤を殴り飛ばしたり、神楽が沖田と取っ組み合いの喧嘩を始めたり……。

 

密かにやるはずだった式が、とんでもなく騒がしいものになったが、それも何とか無事に終え…

 

「おー、辰馬か。電報あんがとなァ。……おう、おう…、俺ァ大丈夫だぜ?紫苑?まぁ、事情を言えば何とかなんだろ。晋助とヅラはどうなんだ?……あー、なるほどな。そんじゃ晋助の方は任せたぜ?ヅラはこっちで見つけてとっ捕まえるわ。……あ?陸奥ゥ?…俺ァ別にいいけど…。あー、じゃあうちのガキ共も連れて行っていいか?……おー、そんじゃーな。」

 

あとは花見の日程を合わせるだけとなった。式を終えた翌日、坂本から銀時に連絡が入ったのだ。坂本もようやく仕事が一段落つき、地球に戻ってこれそうだとのこと。あとは晋助と桂、そして紫苑の都合を合わせるだけだが…恐らく都合の心配などは要らないだろう。真選組の面々は紫苑の為だったら出来る限りの事はしたいと言っていたし、桂と晋助は時間を気にする必要のない攘夷志士だ。銀時の万事屋も依頼など殆ど入らない。

 

「やっと…約束が果たせるな…」

 

刻一刻と…約束を果たす時が近づいていた。

 

そして…

 

「たま、帯を取っておくれな」

「はい、かしこまりました」

「すみません、お登勢さん。夜の準備があって忙しいのに…。たまちゃんもごめんね?」

「なぁに、気にする事はないさね。馬鹿息子(銀時)の嫁に来てくれたんだ、これくらいの事はさせておくれよ」

「私は紫苑様と銀時様のお手伝いがしたいのです。気になさらないで下さい。」

 

花見の日がきた。

 

花見をするから休みが欲しいと紫苑の代わりに銀時が頼み込み、紫苑は問題なく休みを貰うことが出来た。晋助と桂も問題ないと連絡が来たため、花見の日はあっという間に決まったのだ。

 

そして、ついに紫苑は念願だった着物に袖を通すことが出来た。

 

「この着物は戦争の途中で買ったものだと、銀時様からお聞きしました。お兄様とお揃いとか…」

「えぇ、そうなの。本当は兄さんが着ている着物も私が着る予定だったんだけどね。あ、お登勢さん…着物の手入れ有難うございました」

「なぁに、お安いご用さ。銀時じゃ、こんな上等な着物の手入れなんて出来やしないからねぇ」

 

蝶のあしらわれた、淡い桜色の着物。

 

そっと…その着物を撫でて微笑む。

 

「これで完了だよ。鏡で見てごらん」

「わぁ、凄い…!!私1人じゃこんなに綺麗に着付けできませんでしたよ!!本当に有難うございます!!」

 

嬉しそうに笑う紫苑を見て、お登勢とたまもまた自分の事のように嬉しそうに笑った。

 

「あとは…」

 

ごそごそと真選組隊服のポケットからかんざしを取り出し、鏡を見ながら差す。それは、言葉(プロポーズ)と一緒に銀時から贈ってもらったかんざしだった。

 

「銀時にしちゃ、いい物を選んだね」

「紫苑様の髪の色、そして今着ている着物の色にとてもよくお似合いです」

 

お登勢とたまの言葉に、紫苑は嬉しそうに笑う。

 

一方、リビングの方では紫苑以外の万事屋の面々と、プラス土方がそこに居た。近藤が「萩まで万事屋達を送ってやれ」と言ったのだ。とは言っても、真選組がゾロゾロ揃って行くと何かと目立つ。よって、たまたま休日だった土方が送迎の担当となったのだ。

 

「ったく…こっちは休日だってのに…」

「へーへー、ありがとーごぜーますよーだ」

「テンメェ…!!」

「銀さん、折角の好意ですよ!!全く…。土方さん、本当に有難うございます。助かりました…!!」

「ゴリラの割りに気が利くネ。とりあえず感謝するヨ」

 

口々に好き放題言ってる連中に、深々と溜息を吐く土方。新八と神楽は早く紫苑の着付けが終わらないかと楽しみに待っている。もちろん、銀時もそうなのだが…何となく、その表情は優れない。その理由を、土方は知っている。

 

「万事屋、ちょっといいか」

 

どうせこの男のことだ。子供達や紫苑の前では平然を装って、弱味を見せていないに違いない。

 

そう思った土方は、銀時だけを外に呼ぶ。何となく、呼ばれた理由が分った銀時は口では「めんどくせぇ」と言っていたが、素直に土方の後に続いて外に出た。2人で手すりに体重を預けてかぶき町の町を見下ろしながら、暫くはボーッと人々と天人達の往来を見つめていたが、やがて土方が口を開く。

 

「紫苑の…病のことだが…」

 

本当はこんな日に話す事ではないのかもしれない。しかし、紫苑の体は日に日に弱っているのだ。特にここ最近の顔色の悪さは、あまりにも酷すぎる。無理に花見に引っ張り出してはそれこそ身体に障るのかもしれないが…だからこそ、銀時達は花見の日程を早々と決めたのだ。

 

「…んー…、分ってる…」

 

土方の言葉に、銀時は少しトーンの落ちた声で答える。

 

「恐らくもう…限界だ…」

「…あぁ…分ってる…」

「…万事屋、その…だな…」

 

ずっと言いそびれていたことがあった。紫苑とすぐに会わせてあげられなかったことに対する謝罪。意図的にそうしていたわけではないといえ、やはり…謝らずにはいられない。だがいつもタイミングを逃してしまい、ずっと謝れずにいたのだ。中々、思う言葉を言い出せない土方を見て、銀時は苦笑を漏らす。

 

「別にいーよ、謝んなくて。オメェらだって、知らねぇでそうしてたんだ。前にも言ったがよ、今回の事に関しちゃ…誰も悪くねーんだ。」

 

驚いたように土方が銀時を見れば、銀時は空を見上げながら更に続ける。

 

「確かにもう…紫苑は長くねぇかもしれねぇ。けど…生きてまた紫苑に会うことが出来たし、妻として迎えることが出来た。俺ァ…それだけで十分幸せだよ…」

 

本当は…もっと長い時間を共有したかったけれど…

 

「…幸せ、だよ…」

「そうか…」

「…ッ、…あぁッ…」

 

それは…叶いそうにない。

 

俯き肩を震わせる銀時。

 

土方はそんな銀時の肩に手を乗せ…

 

「花見、楽しんで来いよ」

 

一言、そう声を掛けた。

 

暫く外で過ごし、再び室内に戻ると…

 

「わぁ…!!凄く綺麗ですね…!!」

「すげーアル!!しーちゃん、いつも以上に美人ネ!!」

 

という、子供達の声が聞こえてきた。どうやら着物の着付けが終わったらしい。リビングに戻ると、抱き付いてきた神楽の頭を撫でている紫苑の姿があった。

 

淡い桜色に蝶があしらわれた着物。そして、頭には銀時が以前に贈ったかんざし。

 

その姿はまさに、大和撫子という言葉がぴったりだった。

 

「すげぇ…」

 

いつも見慣れた真選組隊服の紫苑とはまた違う彼女の姿に、土方がポツリと漏らす。

 

「ふふっ、どーお?似合う?」

 

紫苑が問えば、土方は「ああ」と笑いながら頷く。少し遅れて戻ってきた銀時もまた、紫苑の姿を見て心を奪われた。

 

「銀時、似合う?」

 

フワリと笑いながら問うてくる紫苑に、相変わらず呆けていたがハッと我に返りブンブンと首を縦に振った。

 

「やっべー……、美人過ぎて直視できねェ……」

 

口元を押さえてあらぬ方向に視線をやる銀時。その顔は紅い。

 

「全く、呆れた男だね。自分の妻だろう?」

 

お登勢の呆れた言葉に、万事屋に居た全員が声を上げて笑った。

 

 

 

それからパトカーに全員乗り込み、目的の場所へと向かう。紫苑に体調はどうかと聞いたら、今日は思いの外身体が軽いと笑いながら言っていた。人の病というものは分らないもので、時には末期ガンの患者がひょんな事をきっかけに健康体になる場合もある。そうであればいいと…銀時も土方も、そして子供達も思ったが…出発する前にお登勢に言われたことが嫌でも脳裏を過ぎった。

 

『あの子の着付けを手伝ってる時に思ったんだけどね、正直…今日の花見はやめさせた方がいいんじゃないかってアタシは思ったよ。本人は元気そうに振舞っているけどね、顔色がそりゃもう…悪いなんてものじゃないさ。今は化粧で誤魔化してるから分からないけど…。』

 

心配そうなお登勢の声と表情。くれぐれも無理だけはさせないようにとお登勢に釘を刺された。もちろん銀時とて、無理をさせる気など更々無い。だからこそ、真選組のパトカーで目的地まで送って貰ったのだ。またお登勢自身も分っていたのだろう。紫苑を止めても花見に行きたがることを。そして…来年の花見という願いは決して叶わぬ願いだと。だからこそ、何も言わずに紫苑を送り出したに違いない

 

「おら、ついたぞ。ここでいいのか?」

 

ボーッとそんなことを考えながら窓の外を眺めていると、土方の声が聞こえてきた。気付けばパトカーは止まっており、窓の外には…

 

「……萩……」

 

懐かしい、故郷の風景が。全員パトカーから降り、銀時は紫苑の身体に負担が掛からないよう、そっとその身体を支える。そして改めて…ぐるりと辺りを見回した。

 

「…俺達…帰ってきたんだな…」

「ええ、そうね…。私達の故郷…、私達の…大切な場所…」

 

銀時も、そして紫苑も…その瞳に故郷を映しながらいろいろな事を思っていた。

 

松陽との出会い

私塾で過ごした楽しいひと時

すべてが音を立てて崩れたあの日

攘夷戦争に出ると決意したときのこと

 

「……なんも、変わらねぇな……。(ここ)は…静かなままだ……」

 

攘夷戦争後、各地で天人の技術が使われるようになったが、田舎町はその影響も少ないらしい。それは、この質素ながらに趣のある萩の情景が物語っていた。

 

「そんじゃ、俺ァここから少し離れたところで待つ。どこで花見をするかは知らねぇが…とっとと行って来い。」

 

土方は煙草に火をつけるとそれだけを言い残してパトカーの中へと戻った。そしてパトカーを走らせてどこかに行ってしまった。恐らくは紫苑達を気遣っての事だろう。攘夷志士の前に真選組が居たとあっては、楽しめるものも楽しめないと…そう思ったに違いない。

 

「ここが…銀さんと紫苑さんの故郷…」

「何かスゲェ田舎アル。こんな綺麗な景色初めて見るヨ」

 

かぶき町と比べれば本当に質素で静かな場所だ。

 

「俺達の故郷へよーこそ」

「ふふっ、歓迎するわ。新八君、神楽ちゃん!!」

 

しかし紛れも無く紫苑の故郷であり、銀時が育った場所。新八と神楽は互いに顔を見合わせると、嬉しそうに笑いながら銀時と紫苑の元に駆け寄った。

 

村に足を踏み入れると、松陽亡き後の年月を思わせるかのように、その風景は少しだけ変わっていた。行き交う人も、昔に比べると随分減ったような気がする。そんな中…

 

「ん?もしかして、お前さん…高杉さんちの紫苑ちゃんじゃないか?それにそっちは…銀坊か!?」

「どうも、お久しぶりです」

「てか、銀坊って言うな!!いつまでも餓鬼じゃねーんだよ!!」

 

銀時達のことを知る村人が、懐かしむように集まってきた。あっという間に銀時達の周りには人だかりが出来る。

 

「風の噂で銀ちゃんと紫苑ちゃんが入籍したって聞いたんだけど、本当かい?」

「えぇ、まだ日は浅いんですけどね」

「そーそー、だから何かまだ実感が無くてなァ…」

「あれまぁ、じゃあ銀時と紫苑は今となっちゃ夫婦か!!よく晋助が許したなぁ~!!」

 

どこからともなく笑いが起こる。そんな集団の背後から…

 

「あァ、腐れ天パに妹を預けるのは不安だったけどなァ」

 

数日前に電話越しに聞いた、幼馴染の声が聞こえる。全員がそちらに視線を向けると、そこには晋助と、その後ろに河上、武市、来島の姿があった。

 

「何だよ晋助ェ。随分大所帯じゃねーの。」

「ふん、そっちだって似たようなもんだろうが」

 

一瞬、神楽と新八は身構えたがそんな子供達を見て晋助は小さく笑う。

 

「安心しな、電話で話した通り…俺達ァもう争ったりしねぇよ」

 

その笑みは、新八や神楽の知らない…優しい笑みだった。あまりのことに呆けてしまう子供達である。

 

「紫苑」

 

そして晋助は、視線を子供達から紫苑に向ける。名前を呼ばれた紫苑は一瞬、ビクッと肩を震わせた。銀時の手を握っていたが…無意識に力が入ってしまう。しかしその手をしっかりと握り返し、銀時は大丈夫だと微笑んだ。

 

「俺ァ…」

 

晋助が口を開こうとした…その時だった。

 

「アッハッハッ!!げにまっこと迷ったぜよ!!萩までの道のりがよう分らんかったきに!!」

(かしら)が地図を見らんのがいかんぜよ。こっちまでいいとばっちりじゃ。」

 

空気の読めない男が馬鹿笑いをしながら近づいてきた。ピキッと晋助の額に青筋が浮かぶ。その顔を見て、銀時は思わず「うわぁ…」と口元に手を当てて漏らしてしまった。

 

「ゴホンッ!!」

 

ワザとらしく晋助が咳払いをすると、坂本は「何じゃ?」と首をかしげながらも黙る。改めて…晋助が口を開こうとした。

 

「銀時、銀時ィィィ!!何故俺を置いていった!?同じ江戸から発つのだから、一緒に行こうと約束したではないか!!」

 

またもや空気の読めない男が、今度はしてもない約束にギャンギャンと文句を言いながら近づいてきた。さすがの晋助も、これにはキレる。

 

「辰馬ァ、ヅラァ…テメェらぜってーワザとだろ、そうだろ?そうだと言え。よし、斬ろう。」

「晋助、何事じゃ!?おまん、なんでいつもよりそがぁに短気ぜよ!?」

「短気は損気だぞ?先生からそう教わっただろう?それからヅラじゃない、桂だ!!」

「誰のせいだ、誰の!!それからテメェはもう永遠にヅラだ、このクソ電波!!」

 

その様子を、慣れてない鬼兵隊幹部達、そして万事屋の子供達は…ただ呆けて見てる事しかできない。一方の陸奥は、深々と溜息を吐いていた。どうやら、止める気は更々無いらしい。そして、銀時と紫苑は…

 

「なんか…緊張していた私が馬鹿みたい。何も変わらないのね、あの頃と一緒…」

「あー…ホントにな。うるせぇし馬鹿ばっかだし…何も変わらねーや」

 

ギャーギャーと村の真ん中で騒ぐ大の大人達を傍観しながら、呆れ半分楽しみ半分で眺めていた。彼等のことをよく知る村人は「本当に変わってないな」とか「相変わらず仲がいいな」と言って笑っている。

 

「……紫苑……」

 

そんな喧騒の中、紫苑を呼ぶ声が聞こえた。声のする方に視線を向けると、そこには来島が。顔は俯いており、表情が分らない。しかし、スカートをきつく握り締めているその手を見て、紫苑は悟った。

 

来島は来島なりに、紫苑の身を案じ、ずっと不安で心配してくれていたのだと。

 

「また子……ごめんね、ありがとう……」

 

そんなまた子を、紫苑は力いっぱい抱きしめる。驚いたように顔を上げる来島。しかし紫苑は更に抱きしめて、その顔を来島の肩に埋めた。

 

「ありがとう」

 

そして再び、そう口にする。優しい声音と、なんら変わらないその雰囲気に来島の目から涙が零れ落ちた。

 

「しっ…紫苑ッ…紫苑…!!」

「うん、また子…私はここに居るわ。」

 

泣き出してしまった来島を抱きしめ、小さな子供をあやすようにその背中を優しく撫でる。

 

「拙者、紫苑に会わす顔がないでござる…」

「貴方と晋助様が一番紫苑さんを傷付けましたからね。私は何もしていませんから、何の気兼ねも無く抱擁できます。ああ、喜ばしいことです。」

「武市ィ、テメェも死ぬか?」

「じょじょじょ冗談に決まっているではありませんか!!!!」

「最低ッス。死ね、武市変態」

「流石の拙者も見損なったでござる」

 

一瞬和やかな空気が漂ったのに、それも一時と続かないとは…本当に騒がしい連中だと村の者達は笑った。

 

「おーい、賑わってるところ悪ィけどよー。そろそろ移動しねーか?ここじゃ村の連中にも迷惑掛けんだろ?」

 

チラリと銀時が村の方を見れば、晋助を鬼兵隊の総督としてしか知らない連中は完全に恐れている。物陰からビクビクとこちらの様子を伺っている者もたくさん居た。

 

(かしら)達は騒ぎ出したら騒ぎ出したで収拾がつかんきに。げにまっこと、面倒じゃ」

「その点は拙者も全く以って同意見でござる。お主も相変わらず苦労しているようでござるな、陸奥殿。」

「もうワシァ諦めとる」

「そうでござるか…。して、坂田…場所はどこでござるか?」

 

河上に名前を呼ばれた銀時は、「俺?」と驚いたように自分を指差した。今までこの男は、自分の事を“白夜叉”と呼んでいなかっただろうか?その銀時の疑問を的確に受け取った河上は小さく嘆息する。

 

「白夜叉と言ったら、晋助に殺されそうになったでござる。主と晋助が仲直りした後の話でござるが…」

「あー…そーゆことか…」

 

桂も晋助も坂本も紫苑も、銀時のことを白夜叉と呼ばれるのをそれは毛嫌いしていた。戦の時は仕方が無いと諦めていたらしいが、後で桂に聞いた話によると、特に高杉兄妹(きょうだい)のキレッぷりはそれはもう凄かったらしい。

 

「ったく、晋助の奴…そーゆーとこも変わってねーのな…」

「それってつまり、銀さんが好かれてるってことですよね?」

「スゲーアルな。片目はシスコンだけじゃなくて、銀ちゃん馬鹿でもあったアルか?」

「……強ちそれも否定はできませんねェ……」

(かしら)は正真正銘の銀時馬鹿ぜよ」

「陸奥さんお墨付きだ!!良かったねー、銀時。あーあ、ジェラシー、ジェラシー!!」

「男にモテても嬉しくねーッッ!!てか紫苑!?ジェラシー感じるところが絶対に違うだろ!!」

 

そんな彼等の姿を見ながら、村人達は楽しそうに笑っていた。何より嬉しかったのだ。松陽の教え子達が帰省してくれたこと、そして…唯一生死の分らなかった銀時が無事だということを知ることができた事。村人達はそれが何よりも嬉しかった。

 

「松陽さんもあの世で喜んでるだろうさ…!!」

 

1人の村人の言葉に、他の村人も笑いながら頷いた。

 

騒がしい一団は、騒がしいまま移動し、そして…目的地だった松陽塾跡地に辿り着く。

 

「…村の人から聞いた話なんだけど、銀時や兄さん、コタローが帰ってきた時、先生と会えるようにって…焼け落ちた私塾は暫くそのままだったの。私が攘夷戦争から命からがら逃げ出して、ここに辿り着いた時は…まだそのまま残っていたから…」

 

しかし、時が経ち…晋助と桂は攘夷志士になったという噂が、萩まで流れてきた。銀時に至っては生死すら分らないと村人は肩を落とした。

 

「この場所は、村の人達にとっても松陽先生と会える場所…そう思っていたみたい。だけど、ずっとあのままじゃ…時が止まったままじゃ…松陽先生が可哀想だからって…」

 

松陽塾の跡地は数年前に綺麗に片付けられた。ただそこに、新たに建物を建てる事は無く、代わりに村人達は石碑を建てた。

 

「“吉田 松陽、此処に眠る”か…。墓もあるのに、これじゃあ松陽先生…どっちに帰ったらいいかわからねーで迷子になっちまうだろうぜ…」

 

思わず苦笑を漏らす銀時。そっと…その石碑の前に膝を付く。

 

「……せ、んせ……」

 

ポツリと…呟いた銀時の言葉は、思った以上に震えていた。その背中は、いつもよりとても小さく見える。子供達は心配そうに見つめていたが、紫苑が新八と神楽の肩にポンと手を置いて微笑んだ。きっと大丈夫だと、そういう意味を込めて。

 

「…ッ…、松陽、先生……ッ…」

 

大丈夫だと思っていた。ちゃんと受け入れる覚悟は出来ているつもりだった。しかし改めて感じたのは、自分に剣のすべてを教えてくれた師、そして鬼だと蔑まれていた自分のことを息子だと言って愛してくれた父だった人の死。本当にあの人は…吉田 松陽はこの世に居ないのだと、現実を突き付けられた気分になった。

 

「…銀時…」

 

そんな銀時の頭をガシガシと撫で回すのは晋助だ。

 

「オメェがそんなツラしてたら、先生が悲しむだろうが」

「晋助の言う通りだ。それに…俺達は先生に言わねばならぬことがあるのではないか?」

「そうよ、銀時。先生のために泣くのではなく…先生のために笑いましょう?」

 

幼馴染達の言葉を受けて銀時は小さく頷くと立ち上がる。銀時の左隣に紫苑が立ち、右隣には桂が立つ。紫苑の左隣には晋助が立ち横一列に並んだ。そして視線を交わし合い…スッと息を吸い込む。銀時はゴシゴシと目元を着流しの袂で拭ってバッと顔を上げた。

 

全員、満面の笑みを浮かべ…

 

『先生、ただいまッッ!!!!』

 

全員で、恩師に帰還の挨拶をする。まるでそれに答えるかのようにフワリと優しい風が吹く。

 

 

――全く…待ちくたびれましたよ?けれど…よく来てくれましたね。おかえりなさい…

 

 

それはまるで、帰ってきた教え子達を松陽が出迎えているかのような…とても優しい風だった。

 

 

 

そして一同は、松陽塾敷地内の唯一焼けずに残った桜の木の前に立つ。桜はまるで彼等を待っていたと言わんばかりに、丁度見頃の満開だった。

 

「村人から少し話を聞いたんですけど、萩全体ではもう桜は殆ど散ってるらしいんです。けど、松陽塾の桜だけ咲くのが遅かったとかで…」

「きっと、銀ちゃん達が来るのを待ってたアルな!!」

 

無邪気に笑う子供達に、釣られて紫苑も微笑む。

 

「よかったわ、本当に…」

 

もう、みんなでこの桜を見る事は叶わない夢だと思っていた。

 

しかし…夢は実現したのだ。

 

紫苑の隣には夫の銀時が居て、周りには仲間がいる。あの時の約束は、坂本・桂・晋助・銀時・紫苑の5人で花見をする約束だったが…

 

「時間も丁度いい頃合じゃねェか。しかも今日は三日月だとよ」

「満月だったらもっと良かったのだが…」

「まっ、月見酒だけでもワシャ十分ぜよ、アッハッハッ!!」

「何か不思議な気分でござるな。ついこの前まで敵対していた者と酒を飲むというのは…」

「いやぁ、私としてはあの時の可愛らしい娘さんが居てくれるだけで…」

「ロリコンは気持ち悪いッス、私に近づかないで下さい武市変態」

「おまんら、ちと黙るという事はできんがか?げにまっこと喧しいぜよ」

「いや、陸奥さん…それをこの人達に求めても無理でしょう…」

「黙らせる方法があるとすれば、永眠させることしか思いつかないアル。ムッチー、それでもいいアルか?」

「神楽、オメェの意見は却下な、却下!!流血沙汰は勘弁だぞ、マジで!!」

 

倍の人数に膨れ上がって、いつも以上に騒がしくなってしまった。そんな彼等を、銀時の隣で紫苑は静かに見つめながら微笑(わら)う。トンッと紫苑は銀時に体重を預けた。

 

「どうした紫苑?身体、辛いか?」

 

銀時の気遣いに、紫苑はただ微笑むだけだ。そして、シーッと口元に手を当てる。紫苑は何も言わなかったが、恐らく場の雰囲気を壊したくは無かったのだろう。その意思を的確に感じ取った銀時は、そっと紫苑の肩に手を回して身体を支える。そして耳元で…

 

「無理はするなよ?」

 

とだけ言った。恐らく、言っても聞かないだろう。それは銀時も分っている。でもそう言わずにはいられなかった。銀時の言葉に、紫苑は曖昧に…少し困ったような笑みを浮かべる。そんな紫苑を見て、銀時はペシンと軽く紫苑の額を叩いてニコリと笑った。

 

やがて全員が思い思いの場所に座り、酒やジュースを酌み交わす。そして…

 

「えー…とりあえず、紫苑と銀時は入籍おめでとうということで!!」

「何だよ、そのとりあえずってぇのは!!ちゃんと祝えよ、ヅラ!!」

「喧しいぞ、銀時!!それから、こうして敵味方関係なく再び松陽塾の敷地内で互いに酒を酌み交わせること、(たもと)(わか)っていた俺達の(えにし)が再び戻ったこと、高杉一派と桂一派の亀裂の解消は…したのか?まぁそれは追々ということで…。それから辰馬との再会…ええい、上げるとキリがないな…」

「ヅラ、いいからさっさと乾杯の音頭をとれや。披露宴で長々とうんちくを語るウゼェ上司じゃあるめぇし」

「そこっ、煩いぞ晋助!!ゴホン、まぁとりあえず…なんやかんやで…」

 

『乾杯ッッッ!!!!』

 

カツンとグラスや(さかずき)のぶつかる音が聞こえてくる。花より団子の神楽は、坂本が準備した豪華な料理に早速食らい付いている。他の者達も桜を見上げながら酒を飲んだり、思い思いに話したり…いろいろだ。

 

そんな中、銀時と紫苑、そして晋助は桜の木の下に座っていた。

 

「はー…ホント、こーゆーのはオツだねェ…。夜桜もいいが、月見酒ってぇのは更にいい」

「あァ、それは銀時と同感だなァ」

 

互いの盃に酒を注ぎあい、そして紫苑のグラスにはジュースを注いでカツンとぶつけ合う。それをチビチビと飲みながら、晋助は口を開く。

 

「さっき…言いそびれたんだがよ…」

 

スッと紫苑に視線をやれば、綺麗な紫の瞳が真っ直ぐと晋助を見つめていた。その瞳は…不安からか少し、揺れている。そんな彼女に思わず苦笑が零れた。だが、そうさせてしまった理由は己にあると自覚している晋助は、紫苑に深々と頭を下げた。

 

「紫苑…すまなかった…」

「兄さん…ッ…」

「謝って許してもらえるなんざ思っちゃいねぇ。それだけのことを俺は紫苑にしちまったんだ。けど…もし、可能ならば…」

 

また、昔のように他愛の無いことで笑い、喧嘩し、泣き、喜び合う…そんな兄妹(きょうだい)に戻りたい。

 

そんな晋助の想いを感じ取った紫苑は、銀時に預けていた体重を今度は晋助に預ける。

 

「怒ってない…今は、怒ってないよ。兄さん…私の方こそごめんなさい。兄と認めないなんて…私、酷いこと言ったわ。本当に…ごめんなさい…」

 

紫苑の謝罪に晋助は驚いたように目を見開く。その様子を見ていた銀時はただただ苦笑を漏らすだけだ。

 

「ホント、オメェらは不器用な兄妹(きょうだい)だな」

「うるせェよ。言ったろうが…自覚してるって…」

 

晋助はフイッと顔を背けて盃に入っていた酒をグイッと飲み干す。

 

「兄さんは…私が今、真選組の隊士だってこと…知ってる?」

「あァ、銀時から聞いてる。副長補佐らしいじゃねーか。ククッ…やっぱりオメェは何処にいてもその頭脳をかわれるんだなァ」

「フフッ、それはどうかしらね?」

「真選組の奴等は……いい奴等か……?」

「……、えぇ…。とんでもなく人の道を踏み外してる人が多いけど、でも…みんないい人達よ?それはきっと、銀時だって知ってるはず…」

 

チラリと銀時に視線をやれば、あーだのうーだのいいながら頭を掻いている。それに喉を鳴らして晋助は笑った。

 

「ククッ…だからこそ、あの動乱の時…銀時は真選組側に居たんだろうよ…」

「あの動乱…?」

「あー…伊東君の時の…?」

「あァ…万斉が言ってたぜェ?紅桜の時と同じだったってよ…。奴等を護るためにと木刀を振り回してた時のオメェの目は、ギラギラ輝いてたって…」

 

そういえばそんなこともあったな、何て思いながら酒を飲み干す。紫苑は話だけ聞いていたため、「ああ、伊東先生の…」と複雑そうな顔で視線を落とす。

 

「やっぱりオメェは、護るもんがあってこそ…輝けるんだなァ…。ククッ、とことん攘夷には向かねぇな。」

「うるせー、攘夷とか興味ねーし。けど……実際、どーなんだろうな…。よく分からねぇ…」

「けど、神楽ちゃんや新八君、お登勢さん、たまちゃん、キャサリンさん…みんな銀時を中心に笑ってる。ううん、近藤さんやトシ、総ちゃんだって同じ。口ではどんなに憎まれ口を叩いていても…みんな、銀時のことが大事なのよ…」

 

自分がそうであったように、きっとかぶき町に住んでいて銀時のことを知っている者は、みんな彼の周りで笑っているに違いない。

 

それは、ここ数日万事屋に暮らすようになって分かったことだ。騒がしい連中がいつも銀時を中心に笑ったり喧嘩したりして、いつだって笑顔が絶えない。

 

その場所がとても居心地よくて、紫苑も前以上に良く笑うようになった。

 

「ずっと…一緒に…」

 

できれば、その喧騒の中に自分もずっと一緒にいたかった。

 

けれど…それはもう、叶わない。

 

「……紫苑、オメェ…随分と軽くなったな……」

 

ポツリと呟いた晋助の言葉に、銀時も視線を伏せる。ここ最近は、食事も喉を通らないことが多く、体重は日に日に落ちていた。そんな日々が続いて、どんどん紫苑が痩せていくのを目の当たりにして…銀時はいつも恐れていた。

 

愛した人が、自分の妻が…

 

また手の届かないところに逝ってしまうことを。

今度こそ手の届かないところに逝ってしまうと。

 

「今日はね…、やっと…この着物を着ることが出来たの。戦争中に買った2枚の着物の片割れ…桜色の方。お登勢さんと、たまちゃんに着付けを手伝ってもらって、トシに見てもらって、新八君と神楽ちゃんに綺麗って褒めてもらって、銀時が凄く照れて…そして…」

 

紫苑は静かに目を閉じて微笑む。

 

「兄さんと…お揃いの着物。こうして一緒に横に並ぶ日がまた来るなんて思いもしなかったから…凄く、うれしい…」

「そう、か…。本当は俺が着てる着物もオメェのもんだが…」

「それ、は…これからも兄さんが、着て…くれると嬉しいな」

 

紫苑の声が…何となく途切れがちになり、少しずつ…小さくなっていくのが分った。銀時と晋助は、紫苑が何処にも行ってしまわないようにしっかりと手を握り締める。

 

「オメェが…それを望むならッ…」

 

声が…震えてしまう。みっともないほどに声が震えてしまい、その後の言葉が出てこない。紫苑は再び銀時に体重を預け、紅い瞳を見上げた。

 

「そして、ね…今、私が…着ている着物は、銀時に…受け取ってもらいたい、の…」

「……ッ、何…言って……!!」

 

そんな…これが最期みたいなことを言わないでくれと銀時は頭を振った。しかし紫苑は小さく微笑みながら、更に続ける。

 

「兄さん、と…銀時の元に、ね……。私の、心はずっと…一緒だよ、って証を…残したい、の。」

「ッ、紫苑…」

「わ、すれない…で。私の、ことを。私が、生きていたこと、を…。私という、存在を…。お、願い…ッ…。もう…独りは…いやだ、よ…」

 

紫の瞳から零れ落ちる涙を、そっと銀時は指で掬い取る。晋助は優しく紫苑の頭を撫でていた。

 

「忘れるわけねぇだろうよ。可愛い妹のことを」

「忘れられるわけがねぇ。愛した女のことを」

「オメェが忘れてくれと願っても」

「俺達は絶対に紫苑のことを…」

 

「「忘れたりはしない」」

 

晋助と銀時の言葉に、紫苑は涙を流しながら微笑む。

 

「あ、りが、と…」

 

それだけで、私は幸せだ。

 

紫苑は視線を騒ぎの中心へと向けた。

 

紅桜の時はあんなに敵対していた来島と神楽が仲良く話しながら、ロリコン全開の武市に一斉攻撃を仕掛けている。

 

桂は坂本と何かを楽しそうに話していた。もしかしたらエリザベスのことを話しているのかもしれない。桂がジェスチャーでそれっぽい形を描いたような気がする。

 

新八はどうやら寺門 通のプロデューサである“つんぽ”が河上だと知ったらしく、それは熱く語っていた。若干、河上が引いているような気がするのは、きっと気のせいではないだろう。

 

陸奥は我関せずと貫きながらゆっくり酒を飲んでいたが、いつの間にか坂本に引っ張られて、桂との話に無理矢理混ぜられたようだ。無表情のまま銃を構えている。坂本が必死に笑って誤魔化しているようだが…ああ、あれでは逆効果だろう。

 

嗚呼、私がいつか叶えたいと願った…みんなで酒を酌み交わすという光景だ…。

 

そして自分の隣には恋人の…否、夫の銀時が居て、そして兄の晋助がいる。

 

どんなに幸せだろう。

 

この萩の夜空の下、桜の下で月見酒が出来た事は…最高の思い出だ。

 

「な、んだか…眠い、なァ…」

 

本当はまだ起きていたいのに、次第に瞼が重くなる。自分の意思とは関係なしに、どんどん瞼は重くなってくる。

 

「きっと疲れてんだろうよ…」

 

そっと晋助が紫苑の頬を撫でた。その手が暖かくて、不安が次第に薄れていく。

 

「よく…頑張ったな。よく…頑張ってくれたな…。ありがとう、紫苑…」

 

銀時に褒められたことが嬉しかったのか、紫苑の口は嬉しそうに弧を描く。

 

できれば、もっと一緒に居たかったけれど…どうやらそれは許されないらしい。

 

ワイワイと騒がしい中、紫苑はゆっくりと目を閉じた。

 

「ちゃ、んと…起こして、ね?あ、した……は、銀、時と私が……、一緒に…敵陣に、先陣きる、日……、なんだ、から…」

 

遠い昔を思い出しているのだろうか?彼女がまだ、鬼兵隊副官と呼ばれていた…あの頃のことを。

 

「わーってる…、起こすさ…。ちゃんと…起こすさ…ッ…」

「う、ん…」

「だから紫苑、ゆっくり安め。これは総督命令だ」

「う…ん…」

 

銀時と晋助の手を握っていた力が、次第に抜けていく。

 

いよいよ…別れの時が訪れようとしていた。

 

銀時の頬を涙が伝う。

 

しかし、愛した妻の最期をその目でしっかり看取ろうと…決して紫苑(現実)から目を逸らしはしなかった。

 

「……、おもしろき…こともなき世を…おもしろく…」

 

紫苑の綺麗な声は、辞世の句を紡ぐ。しかし…下の句が続かない。

 

「すみなすものは…」

「心なりけり…」

 

それに続くように、銀時と晋助が下の句を続けた。

 

最期に紫苑は小さく笑う。

 

「おもしろい…なァ……」

 

それが、坂田 紫苑の最期の言葉だった。

 

一際強く風が吹き、桜の花弁が舞い上がる。騒がしかった連中がそのあまりの風の強さに、思わず桜の木を見た。

 

そこには晋助が居て、銀時がいて、そして…

 

「…紫苑…?」

 

微笑みながら目を閉じている紫苑がいる。桂が紫苑の名を呼ぶが…返事はない。

 

「…ッ、紫苑は…逝ってしもうたが…?」

 

坂本の言葉に新八と神楽は「えっ!?」と声を上げた。坂本の問いに答えたのは…

 

「最後の最期まで…紫苑は鬼兵隊副官のまま、逝っちまった…。総督の俺を…置いて、先にッ…」

 

顔を伏せて肩を震わせている晋助だった。

 

「紫苑」

 

留まることなく流れ落ちる涙を拭うこともせず、銀時は静かに眠る紫苑の唇に己のそれを落とす。

 

まだ温もりは僅かに残っていたが…その唇からは、死の味がした。

 

「愛してる」

 

例えその身体が滅びても…

 

「愛、してる…紫苑…マジで、好きだぜ…」

 

俺は…

 

「お前と共に背中を預けあい戦えたこと…俺は誇りに思うぞ」

「げにまっこと…おまんとの日々は楽しいことばかりじゃった…!!」

「紫苑さん、貴方が私達のことをどう思っていたかは知りませんが…私達鬼兵隊にとって、貴方はよき副官でした。感謝します。」

「結局最期まで、あの日のことを謝ることが出来なかったでござるな。それが心残りでござるよ。」

「紫苑…ッ、本当に紫苑は私の…姉上みたいな人だったッス…ッ…!!」

(かしら)がげにまっこと世話になったぜよ。おんしと、すっと(もっと)早くに知り()うちょったら、宇宙(そら)にも連れて行けたんじゃがのォ」

 

俺達は…

 

「紫苑さん…僕、紫苑さんに出会えてよかったって思ってます。一緒に過ごした時間は短かったけど…本当に良かった…」

「しーちゃん…ずっと辛かったアルな。けどきっと、銀ちゃん達とまた会えて凄く楽しかったアルな…。しーちゃん…私もしーちゃんのこと、大好きヨ…!!」

 

決して、君を忘れたりはしない。

 

「…ほらっ、愛されてんのはどっちだよ…!!」

 

全員を見渡しながら、銀時は小さく微笑む。

 

そっとその身体を抱きしめながら…

 

「大丈夫だ…忘れねぇ…絶対に…忘れねぇ…。ずっと、一緒だぜ…?」

 

銀時は今まで誰も見たことがないような顔で、優しく微笑んでいた。

 

 

 

静かに眠る紫苑を挟んで、銀時と晋助は桜を背に座る。

 

月見酒はまだまだ始まったばかり。

 

紫苑の分はジュースからいつの間にか酒に変わり、盃に注がれて置かれていた。

 

銀時と晋助は改めて盃をぶつけ合い、グイッとそれを飲み干す。

 

まるで紫苑の死を弔うかのように、しかし騒がしい連中は騒がしいまま…

 

花見の夜を過ごしていった。

 

 

 

少しの間だけ、かつて攘夷戦争を共に駆け抜けた者達だけで居たいと…銀時達がそう頼んだ為、鬼兵隊のメンバーは自分達の船へ、新八達はどこかで待っているだろう土方の元へと戻る。そして陸奥と、銀時達は坂本の船へと乗った。

 

そこで、紫苑の身体は綺麗に清められる。

 

紫苑の着ていた着物は紫苑の遺言通り、銀時の手に渡った。

 

そして清められた紫苑の身体が見に纏うは、黒に金色のラインが入った真選組隊士の隊服。

 

「ワシァ操縦室に戻るぜよ」

 

陸奥はそれだけ言うと、部屋を後にする。残されたのは、攘夷戦争を共に切り抜けた仲間達だけだ。

 

「出来れば鬼兵隊副官として葬ってやりたかったけどなァ…」

「紫苑は最期まで真選組の隊士でありたいと願ってた」

「まったく…俺達とそんなに敵対したいのか?紫苑は…」

「おまんはいつも真っ直ぐと先を見据えちょる、強い女やったぜよ」

 

口々にいろいろ言いながら…

暫くぶりの再会を改めて噛み締めながら…

紫苑の死を悼みながら…

 

その日、全員同じ部屋で一夜を明かした。

 

 

 

その翌日、万事屋に銀時が戻ってきた。心配していた新八は家に帰ることなく、ずっと万事屋で銀時を待っていた。神楽にしては珍しく早起きしていたし、さらに万事屋にはスナック・お登勢の面々と、真選組の面々も揃っていた。

 

「大げさなんだよ」

 

銀時は苦笑を漏らしながら、横抱きにしていた紫苑の身体を、自分の寝室まで運ぶ。新八に布団を敷くよう頼んでから、布かれた布団の上にそっと彼女を寝かせた。スナック・お登勢の面々も真選組の面々も耐えられず、皆波を流している。

 

「新八、神楽」

「はい…なんですか、銀さん?」

「どしたネ?」

 

いつもと雰囲気の違う銀時に少し心配そうな新八と神楽。そんな2人を見て小さく笑いながら、2人の頭をポンと撫でた。

 

「俺ァ暫く万事屋を空ける。真選組の奴等に…紫苑を、真選組の隊士として葬ってやってくれと…そう伝えてくれ。」

 

そういうと銀時はくるりと踵を返して玄関へと向かった。

 

本当は新八も神楽も…銀時を止めたかった。

 

止めなければいけないと思った。

 

けれど…

 

「…帰って…くるんですよね…?」

「記憶喪失になった時みたいに…勝手にいなくなっちゃやーヨ…」

 

その背中が、止めてくれるなとそう物語っていた。

 

子供達の切なる願いに、銀時は…

 

「バカヤロー、ちょっと開けるだけだつってんだろ」

 

いつものようにそう言って、万事屋をあとにした。

 

 

 

その日から、銀時はかぶき町から姿をくらませた。

 

真選組も総出で探したが見つからず…

 

銀時が不在のまま、紫苑の葬儀が執り行われることとなる…。

 




はい、というわけで…もし紫苑存命を望んでいた方がいらっしゃいましたら、本当にすみませんでした(土下座)元々、紫苑は最初から病で最後に病死ということを前提にこの話を考えていたので、そこからプロットを変えることが出来ず、できれば生きて欲しいという希望もにじふぁん時代からあったのですが…結果的にこのように…!!あばばば、本当にすみません(汗)

紫苑の辞世の句として登場した、【おもしろき こともなき世を おもしろく (すみなすものは 心なりけり)】は、史実の高杉晋作の辞世の句だったりします。ただ、物語中にも書きましたとおり、この句には実は下の句は存在しないんです。下の句は看病していた野村望東尼が高杉晋作の句に続けて言ったとされています。それに対して「おもしろいのう」と言って、高杉晋作は息を引き取ったのだそうです。なので、それを晋助の妹の紫苑に言わせてみました。この小説を書き始めた当初から、こういう最期というのも決めていた為、尚更路線変更が出来ませんでした(苦笑)

さて、いよいよ次の【第終訓】で恋空はラストとなります。

銀時はどうなってしまったのか、他の戦友たちは何を思っているのか…

彼等の行く末を見届けてあげてください^^
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