「銀ちゃん!!酢昆布欲しいアル!!」
「ちょっと待てって!!イチゴ牛乳の方が先だ!!」
「下らない争いはやめてくださいよ、恥ずかしい…」
スーパーであれを買う、これを買うと騒いでいる3人…(いや、騒いでいるのは2人なのだが)。彼らは“万事屋銀ちゃん”という何でも屋を営んでいる3人であり、銀髪の男が一応店主である。着流しを着て、腰には木刀。目は…死んだ魚のようだとよく比喩されるこの男の名は坂田 銀時。チャイナ服を着た女の子は天人・夜兎族の神楽。そして眼鏡を掛けた青年は志村 新八。今、この3人は仕事の依頼…ではなく、久々に入った依頼料で思うままに食材やら切れていた日用品やらを買い込んでいた。
「にしても、今回は凄い大金でしたね…!!」
「ったくよ、たかが猫探しでこの大金だぜ?まぁ、こっちは大助かりだけどな!!」
「ペットブーム万歳ネ!!金持ちほどペットに金をつぎ込むアル!!」
「いや、大体合ってるけどさ…なんか神楽ちゃんが言うと…容赦ないね…」
「何だと、この駄眼鏡」
「眼鏡関係ねぇだろォォォ!!」
こんな調子でワイワイと騒ぎながら万事屋に向かって足を進めていると、見慣れたパトカーが遠くに見えた。
「あれって、真選組のパトカーですね。何かあったのかな?」
「どぉーせ巡回と称したサボりだろ?総一郎君あたりが乗ってんじゃね?」
「いや、総悟さんですよ。いい加減覚えたらどうです?てかワザとでしょう絶対…」
「マヨも乗ってるネ!!……あれ?後ろの方に知らない奴乗ってるヨ…?」
万事屋と真選組は言葉では表現できない腐れ縁という奴で…かといって、仲がいい訳ではない。決して無い。まぁ、神楽と沖田、土方と銀時が互いにライバル視?しているだけで、他の者達とはそれなりの関係だ。かといって、真選組のメンバーを全員知っているわけでもない。
「どっかの物好きが新しく入隊したんじゃねぇの?ほら、就活の春!!って言うじゃん?」
「あぁ、確かにその可能性はありますよね」
「ケッ、また税金ドロボーが増えたアルか!!」
ジト目でベーッと舌を出す神楽。すると、助手席の窓が開き…
「そこのチャイナ。公務執行妨害で死刑でさァ」
沖田がバズーカを構えてきた。
「はいィィィィ!!??ちょっと、何言ってるのあの人!?」
「おいおい、ただ素直な表現をしただけでこの扱いですか。表現の自由はこの国に無いんですか、コノヤロー」
「サド野郎、今日こそ決着をつけるネ!!」
「ま、狙いはお前だ神楽。お前1人で頑張って来い!!」
「銀さんんんんんッ!?サラッと面倒ごとを押し付けるなァァァァ!!!!」
毎度おなじみのこのやり取り。いつものように土方が馬鹿な真似はするなと止めに入り、内輪もめになる…。
そう、いつもだったらそうなるはずだった…。
パトカーの、後部座席の扉が開き後ろに乗っていた人物が下りてくるその瞬間までは…。
先に気付いたのは沖田だった。
「あれ、万事屋の旦那でさァ、土方さん」
「だからどうした。俺達は勤務中だ。それに、野郎に関わるとロクな事がねぇ…」
そのまま行くぞ、と土方が車を発進させようとした。だが、後部座席に乗っていた紫苑が不思議そうに首を傾げる。
「万事屋…って、トシ達がよく話してる…?」
「そうでィ。ちなみに、チャイナは俺の得物だ。絶対に譲らないぜィ」
「もう、そんなこと言って…!!女の子を苛めちゃ駄目よ?」
「言っておくが、万事屋は俺の得物だ。絶対に譲らねぇ…」
「トシまで…!!」
クスクスと笑いながら、それぞれの得物を睨みつけている運転席と助手席に乗っている同僚を見つめる。口では2人ともこんなことを言っているが、本当は相手の力を認めている事を紫苑は知っている。
「何言ってるんですかィ、土方さん?旦那はいい人でさァ。そもそもアンタ一回負けてる事を忘れちゃいけやせんぜィ?」
「バカ、総悟!!」
「へぇ、トシが負けたの?珍しい…!!」
「あれ、聞いてなかったのかィ?」
「うん」
「それはいけねェや、土方さん。自分の負けを話さないたァ…」
「や、喧しい!!」
そんなやり取りを微笑みながら見守る。ふと…沖田が万事屋一向に目を向けた時、丁度…チャイナこと神楽が自分達に舌を出しているところを目撃した。
「…上等だ、コノヤロー」
窓を開け、ガチャッとバズーカを構える沖田。
「オイッ!!テメェ、何考えてやがる!!」
「そこのチャイナ。公務執行妨害で死刑でさァ」
「そ、総ちゃん!!」
土方と紫苑が慌てて止めるがどうやら本気らしい。だったらせめて逃げてもらおうと、紫苑も窓を開けて叫ぼうとした。
しかし…その瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。
万事屋の3人…もめているのだろうか?掴み合ったり、騒いだりしているその中心に…
目立つ、銀髪の男。
目が離せなかった。
見間違いかもしれない…都合のいい幻かもしれない…
そう思った。
しかし、見間違うはずが無い。夢でもなければ幻でもない。
その姿は…
「銀…時…?」
あの頃と…
攘夷戦争のときとなんら変わらない姿だった。
大切だったその人が…愛した男が…今、目の前にいる。
「おい、紫苑?お前、万事屋と知り合いなのか?」
土方の問いも耳に入らない。気付けば、紫苑はパトカーから下りていた。
「紫苑?どうしたんでィ?」
只ならぬ紫苑の様子に、沖田は構えていたバズーカを降ろし、問うが…やはり返事は無い。土方と沖田は顔を見合わせる。
しかし、次の瞬間…
「ま、待て紫苑!!走るな!!」
「走っちゃいけねェ!!身体に障る!!」
紫苑は、思うままに…駆け出していた。
「銀さん、後部座席から降りてきましたよ?女の人…かな…?」
後部座席から下りてきた真選組隊士を見つめて、首を傾げる新八。バズーカが下ろされ、沖田の視線が自分から逸らされたことに気付いた神楽も不思議そうに首を傾げた。
「真選組に女がいたアルか?」
ねぇ、銀ちゃん?と神楽が問うが……銀時は固まったように、真選組のパトカーを凝視していた。
「銀ちゃん…?」
「どうしたんですか、銀さん?」
2人の問いに、返事は無い。顔を見合わせる神楽と新八である。
「おい、天パ!!無視とはいい度胸ネ!!」
一発ケリでもかましてやろうと神楽が構えたが、それを新八が必死に止めた。
「待って、神楽ちゃん!!銀さんの様子がおかしい…」
「…?銀ちゃーん?」
新八と神楽は改めてパトカーから下りてきた女性隊士を見る。遠目ではあるが、美人だ。いつもの銀時ならば「あんな美人が真選組にいるたぁ勿体無い!!俺達が貰い受ける!!」ぐらいの冗談を飛ばしてもおかしくは無いはずなのに。まるで…そこだけ時間が止まったかのように、ただ呆然と女を見つめていた。そして…ポツリと呟く。
「紫…苑…?」
え?と新八と神楽が顔を上げると…
「銀…さん…?」
「どうしたネ…?なんで…?」
銀時の瞳からは、涙が零れ落ちていた。パトカーから下りてきた女が駆け出す。それにつられるように、銀時もまた女に向かって駆け出した。
「ちょっと、銀さん!?」
「ワケわからねぇよ、銀ちゃん!!どうしたアルか!?」
慌てて2人も追いかける。パトカーから、土方と沖田も降りてきて慌てた様子で“紫苑”と呼ばれた女を追いかけていた。
2人には周りの声など聞こえてはいなかった。
銀時も、紫苑も…
「銀時…、銀時ッ…!!」
「紫苑ッ…!!」
ただ、互いの名前を呼び合っていた。
そして…伸ばされた2つの手は繋がり…
「銀時ッ…夢じゃない…銀時…だ…ッ…!!」
「バカヤローッ…!!夢だったら許さねぇぞ…ッ…!!」
お互いに、抱きしめあった。それぞれを追っていた者達の足が、ぴたりと止まる。至近距離まで近づいてはいたが…まるで自分達の存在など見えていないかのように、その空間だけ別であるかのように…ただ2人は互いを抱きしめあっていた。
「新八ィ…あの女の人も泣いてるヨ…」
「うん…。一体…誰なんだろう…?」
「土方さん、旦那が…」
「あぁ…泣いてやがる…」
一体何が起きているのか分からない双方は、互いに視線を交わしあうが、それぞれ分からないと首を振るだけである。そこに居る誰もが、この2人の関係を知らない。知っているのはこの2人だけだ。
「…もう…会えないと思ってた…!!攘夷戦争で、はぐれて…独りになって…。銀時が生きてるのかも死んでるのかも分からなくて、何処にいるのかも分からなくて…!!兄さんには何度聞いても、何も教えてくれなかったし…ッ…!!こんな…こんなに近くにいたなんて…!!」
「ごめん…ごめんな、紫苑…。絶対に護るって…独りにしねぇって約束したのに…!!気付いたらお前だけいなくて…!!けどよぉ、1人のために足は止められねぇってヅラの馬鹿が言いやがって…!!必死になって晋助と説得したのに、辰馬とヅラが却下しやがってよぉッ…!!ずっと…ずっと後悔してた…!!なんであの時、俺だけでも残ってお前を探さなかったんだってずっと後悔してた…!!けど…」
「「やっと…会えた…」」
更に強く抱きしめあう2人。銀時は紫苑の肩に顔を埋め、紫苑は銀時の胸に顔を埋めて…肩を震わせていた。
その時、真選組の2人だけは会話を聞いてすぐに分かった。
(あぁ、コイツが紫苑の話していた…)
(攘夷戦争で離れ離れになった恋人ですかィ…。まさか、旦那だったとは驚きでさァ…)
大切な人に貰ったかんざしを見つめながら、悲しげに話していたことを。自分には攘夷戦争が終わったら一緒になろうと約束した人がいたということを。その人の生死が分かっていないということを。
土方も沖田も…いや、真選組の殆どの者が知っている。
「あの、土方さん…」
いつの間にか近くまで来ていた万事屋の子供達。新八は控えめに土方を呼ぶ。
「何だ?」
聞かずとも、聞かれることは分かっていた。
「あの女の人は…?」
あぁ、やっぱり…。
そんなことを考えながら、フーッと紫煙を吐き出す。そして口を開きかけたその時だった。
「ゴホッ…ゲホッ…ッ!!…ッ、ゴホッ…!!ッア…!!」
「おい…紫苑…?」
「だい、じょうぶ…、むせた…だけ…ッ、ゴホッ…!!」
ハッと土方は我に返る。すぐに視線を紫苑に向ければ、口元を押さえて苦しそうに咳き込んでいるその姿があった。
「おいっ、むせたって…そんなレベルじゃ………」
ヒューヒューという呼吸をしている紫苑。そっと、口元から離された手には…べっとりと赤いものが付いていた。
「…んで…かな、せ、かく…会えた…の…に……」
涙を零しながら、しかし微笑みながら…
「な…んで……、ぎ、と…き……」
「おいっ!!紫苑!!」
紫苑は、その場に崩れ落ちた。受け止め、銀時が何度もその名を呼ぶが、ただ苦しそうに呼吸をするだけで反応が無い。
銀時の頭が真っ白になる。
「ハハッ…おい、何の冗談だよ…?なぁ、おい…お前、銀さんを騙してるんだろ?そんな、手の込んだ冗談に引っ掛かるほど、銀さん…単純じゃねぇぞ?なぁ、紫苑?ふざけるなって…。」
銀時が必死になって声を掛けるが、ただ紫苑の苦しそうな息遣いしか聞こえてこない。その表情も苦しそうで、一体何が起きたのか…銀時は分からずパニックに陥っていた。
「おいっ、しっかりしろ!!テメェがしっかりしねぇでどうする!!」
そんな銀時を土方が叱咤する。土方を見上げる銀時の瞳は、今まで見たことのない…悲しみに揺れるそれだった。いつもの銀時からは想像もつかないほど、とても弱々しい。
「とりあえず、パトカーで紫苑を病院へ運ぶ。おい、総悟…」
「病院には連絡を入れやした」
「そうか。万事屋、テメェも乗れ。…紫苑の傍に、居てやれ」
土方の言葉に、銀時は力なく頷く。いつものような覇気がない。突っ掛かってくるような、どこか憎たらしさが今の彼には無い。それほどまでに、紫苑の影響力は大きいのかとその場に居る誰もが思った。
「ワリィがお前達は一緒には乗せられねぇ。定員オーバーだ。病院は大江戸病院だから、気になるなら…」
「分かりました。一度、万事屋に戻ってお登勢さん達に説明してから向かいます」
「あぁ…」
いつもならば神楽が文句の1つや2つ言ってきてもおかしくは無い状況だが、流石の神楽もそんなことを言っている場合ではない事を把握しているのか…ただ黙って新八と土方の言葉を聞いていた。
「じゃあ神楽ちゃん、一度万事屋に戻ろう」
「うん…」
パトカーに背を向け去っていく2人。去り際に、チラリと神楽は振り向いて後部座席に乗る銀時を見た。
「新八ィ…」
「ん…?」
「あの女の人、銀ちゃんの知り合いネ…?」
「……分からない…、けど…」
銀時の女性関係は何となく、神楽も新八も“だらしが無い”という認識を持っていた。しかし思えば、あんなにも周りにいろんな女性がいるにも関わらず誰とも付き合うことをせず、あからさまな好意を抱いている女性がいてもそれすら見て見ぬふりをしていた。月詠やお妙、さっちゃん、すまいるのホステス達、吉原の花魁達…。彼女達以外にも、銀時に好意を寄せているものは多い。それとなく銀時にアタックしても、誰の目から見てもそうだと分かる行動を取っても、決して銀時はそれに答えない。
その理由が分かったような気がする。
「きっと……凄く、大切な人なんだと思う…」
あんなにも銀時が取り乱した姿を初めて見た。
それが…そうであるという答えではないかと、新八はそう思ったのだ。
「とにかく僕達も急ごう」
「そうネ!!急いで帰るアル!!」
新八と神楽はかぶき町を駆け抜け万事屋へと急いだ。一刻も早く銀時に会いたいと思ったからだ。自分達が辛い時、苦しんでいる時に銀時は不器用ながらも手を差し伸べてくれた。
「今度は僕達が…」
「銀ちゃんに手を差し伸べる番ネ…!!」
だったら今度は、自分達が…。
そんな想いを胸に秘めて…。
(2011年6月13日 にじファン初投稿)