アンデッド×ソード/桐原景雪の闘争   作:とりあえず一回ヒロイン殺したい

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第六話 ともだち

 ────ああ、まずったな。

 

「……」

 

「……」

 

 そりゃあそうだ。

 家族の思い出について語った後に、その家族は殺されてるとか、どう考えても話の運びを間違えた。

 まして望月にとっては自分が地雷を踏み抜いたようなもので──

 

「……えと、ごめん。変なこと言っちゃった」

 

 やはり声が沈んでいて、じくり、と罪悪感で胸が痛む。

 

「ああいや……俺は、気にしてない」

 

「ヤ、そう言われると余計にさ……」

 

「違うんだ。本当に、気にしてないんだよ」

 

 ──俺たちは、人と違うのだから。

 父の言葉が脳裏によみがえる。

 

「望月がそこに触れたことも……()()()()()()()()()()()()、俺は何も思っちゃいない」

 

「……え?」

 

「そうだな、それが普通なんだよ。俺が、俺たちの方がおかしいんだ」

 

 俺が高校一年生の頃の話だ。

 うちの家の前で親父の死体が見つかった。

 第一発見者は俺であり、警察などの介入が働かない、生の死体をこの目で見た。

 

 激しい抵抗の末、腕や脚が折れて。

 腹を切られ、白かった道着が赤く染まるほど血を流し。

 最期には心臓を貫かれ、うつろな顔で死んでいたあの人。

 

 それを見て俺は理解した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「通り魔に対する恨みもない。親父は、親父らしく死ぬことができた」

 

 棚から落ちた食器が、すとん、とゴミ箱に落ちるような。

 親父の死にはそんな奇妙な納得感だけがある。

 

「あれ以降通り魔被害もないし、案外親父が頑張って相打ちに持っていったんじゃないか……なんてな」

 

 親父もきっと、自分が死んだことは気にしていない。

 あの人はそういう人だ。死に場所を────剣を振るう機会を、いつも求めていたから。

 そんなふうに思える時点で、俺も親父と同じくズレているのだろう。

 

「……悪い。変な話をしてしまった」

 

「……ううん」

 

 夏の夜風が寒々しい。

 一瞬、近しく思えた距離が、今では手を伸ばしても届かない。

 隣に座っているはずなのに──ああ、くそ。

 

「……そろそろ、帰ろっか」

 

「……ああ」

 

 

 /

 

 

「ここまででいいのか?」

 

「うん」

 

 あのまま、お互いに口を開かないまま繁華街を抜けて。

 車の行き交いが随分少なくなった橋を渡ると、いつの間にか家の前に着いていた。

 

「アタシの家、結構遠いし。送ってもらうのも悪いじゃん?」

 

「そう、か。望月がそう言うのなら」

 

 我ながらなんとも白々しい。

 父が殺されて何も思わなかった、なんて野郎とこれ以上一緒にいたくないに決まってるだろうに。

 

「今日は楽しかった。……ありがとう」

 

 その言葉に偽りはない。

 けれど、きっと次はないのだろう。

 そんな思いが言外に滲んでいたのか、望月の顔が微かに曇る。

 

 ……そんな顔をさせたいわけじゃないのに。

 ああ、でも、今更か。

 

「……うん」

 

「それでは、な」

 

 手を振って。

 俺は、後悔とともに家の門をまたいで────

 

 

 

「あの、さっ!!」

 

 

 

 ────寸前に、呼び止められた。

 望月はズンズンと俺に向けて近づいてきて。

 

「スマホ! ロック解除して貸して!!」

 

「お、おう?」

 

 勢いに押されるまま画面を開くと、望月にスマホをひったくられる。ぽちぽちと不慣れな手つきでふたつのスマホを操作した後、望月は俺に向けてスマホをつっかえした。

 

「な、何をしたんだ……?」

 

「連絡先!」

 

「れんら、……」

 

 つっかえされたスマホを見る。

 もっぱら学校の共用連絡網でしか使っていないから、少し手間取りつつも……SNSアプリの中に「望月」の文字を見つけた瞬間、胸が高鳴った。

 

「これは……」

 

 まるで──違う。

 実際に。実際に、俺と望月が繋がっている。

 途切れかけていた縁が、実態をもって俺のスマホに映っている。

 

 言葉も出ない俺を見つめて、望月は言う。

 

「だって、さ」

 

 照れくさそうに。

 それでいて自信ありげに。

 自らの選択を誇るように。

 

「これで終わりだなんて……寂しいじゃん」

 

 “また遊ぼう”と。

 

「さび、しい」

 

「だってそうでしょ? 一緒に遊んで、楽しかった。なのに連絡先も交換しないとかあり得ないでしょ!」

 

「だ、だけど、俺はこんなだぞ!? 親父が、家族が殺されても納得するような──」

 

「ああもううっさい!」

 

 一喝。

 

 

「アタシは! アンタと友達になりたいんだ!」

 

 

「っ」

 

「つーか! キリハラが変だとかそんなの前から知ってるし! 雰囲気がみんなと違うって言ったでしょ!? 今更だよ今更!」

 

 半ばやけくそみたいな勢いだったが、しかし。

 彼女の言葉は、俺が並べたくだらない言い訳の数々を貫き、俺に真正面から伝わるほどの熱があった。

 

「……そうか。そうか」

 

 友達に、なりたいのか。

 ()()

 

「情けないな俺は。こういうのは俺が言うべきだろうに」

 

「今は男女平等だから! 男女のどっちが先とか関係ないし!」

 

「フォローありがとう。でもこれは気持ちの問題でな……恥ずかしいこと、全部望月に言わせてしまった」

 

 それがなにより情けない。

 だからせめて、これから先は俺が言おう。

 

 スマホの画面を見て、笑う。

 

 

「俺も。……俺も、望月と友達になりたい。これからも、よろしく頼む」

 

 

 スタンプをひとつ、送信した。

 望月もそれに気づいたのだろう。満足そうに息を吐いて……ぼ、と顔を赤く染めた。

 

「あ〜…………、やっば今更めっちゃ恥ずかしくなってきた」

 

「ははは」

 

「イヤなにその笑い方! 言っとくけどアンタも大概だからね!?」

 

「ははは……、一人になったら悶えるだろうから触れないでくれ、腹を切りたくなる」

 

「えっサムライジョーク!?」

 

 なんだサムライジョークって、エセ外国人かよ……半分外国人だったか。

 

 ひとしきり笑って、駄弁って、また笑って──

 近所迷惑じゃないかと薄々思いつつも、今の時間が楽しくて、名残惜しくて。

 一度離れかけたからこそ手放し難い。夏休みに入ったばかりで、学校で会えるわけでもないから余計にだ。

 

 それでも、夜明けは訪れる。

 

「……うわ、もう一時だ」

 

「おぉ……初めての時間帯だな。妙に感慨深い」

 

「健康優良児にもほどがあるでしょ」

 

 ──ま、区切りにはいい時間かな、とつぶやいた望月は、スマホを見ながら微笑んだ。

 

「アイツらも寝てるだろうし、そろそろ帰るね」

 

「そうか。改めて訊くが、送らなくても大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。さすがに悪いし……もしアイツらが起きてたら面倒なことになるから」

 

 引け目というか、負い目で断られた先ほどとは違うやりとりを経て、望月はわざとらしく手を振った。

 

「もし寂しくなったら連絡してもいーよ?」

 

「……遊びたくなったら連絡するさ」

 

「あれぇ? 寂しいってのは否定しないの?」

 

「やかましい」

 

「へへへ。ま、暇な時間に適当に話題振るくらいがちょうどいいよ。アタシも暇だったら相手したげるし……キリハラも、暇だったら相手してね」

 

「そうするよ。とはいえ時間は有り余っているからな、大抵は相手できると思うが」

 

「暇人め〜」

 

「否定はしない」

 

 最後にお互いに笑い合って。

 

「それじゃあね、キリハラ。また遊ぼ!」

 

「ああ、また今度だ」

 

 友達らしく再会を誓って、その日は別れたのだった。

 

 

 

 パジャマに着替えて、朝ぶりのせんべい布団に倒れ込む。

 使い古しているからか、床の硬さが直に伝わって少し痛い。けれどそれが気にならないくらい、俺の気分は高揚していた。

 

「友達、友達か。……ふ、ふ」

 

 藤堂先輩に相羽と、少ないながらも友達はいる。

 だが俺から友達になりたいと言えたのは、望月が初めてだったのだ。

 まあ望月が先に言ってくれたから俺も勇気を持てた形なので、そう誇れるものでもないが。

 

「今日は良い日だ」

 

 そしてこれからも良い日になる。

 変わらなかった俺の日々に、望月という彩りが増えたから。

 

 そんなこと、面と向かっては言えないけど。

 なにせあまりにも直截(ちょくせつ)的だ。恥ずかしいのはさっきまでのやり取りで充分である。

 

「ふ、ふ……ふ、……寝よう」

 

 あふれ出る喜びを抑え込むようにシーツをかぶる。

 ……明日は寝不足かな? まあ、それでもいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ぷるるるる、と何かが鳴った。

 目覚まし、……じゃない、これは、スマホ? 

 寝起きでぼおっとする俺を急かすように、喧しく鳴り続ける。

 

「ん、く……随分、速いな」

 

 もぞもぞと枕元のスマホを手繰り寄せて、画面に表示される『非通知』に首をかしげた。

 俺に電話をかけてくる人に覚えはないから、てっきり望月かと思ったんだが……何かのセールスかな? 

 

 ぷるるる。

 ぷるるる。

 ぷるるるるるるる……

 

「……それにしては随分しつこいな」

 

 無機質な着信音が妙に響く。

 そもそも朝七時にセールスなんてあり得るのか? 無理に起こして機嫌を損ねかねない時間に電話をかけるなんてセールスとして破綻している。

 

 ならこれは────なんだ? 

 ()()? 

 

 ぷるるるるるるる。

 ぷるるるるるるる。

 

「…………」

 

 止まない。

 緑色の受話器ボタンがじっと俺を見つめている。

 背筋が粟立つ怖気まで感じながら、俺は──ボタンを押した。

 

「……もしもし」

 

 

『ああ、ようやく出てくれた』

 

 

 安堵したような女の声。

 昨日学校で聞いたばかりの馴染み深い声に、知らず、身体から力が抜けた。

 

「……先輩?」

 

『そうだとも、君の先輩である藤堂さんだよ』

 

 ああ、このふざけた自己紹介はやっぱり先輩だ。

 

「そうですけど……先輩、俺の電話番号知ってたんですか?」

 

『え? ああほら、学校の緊急連絡網ってヤツさ』

 

 そういえばそんなのもあったな、と思い出す。

 今どきは大抵SNSのグループチャットでなんとかなるから頼ったこともなかったが──緊急? 

 

「そんなの引っ張り出したってことは学校で何かあったんですか?」

 

 俺の問いに、電話越しに言い淀む。

 

『……実は、うん、そうなんだ。結構な大事だから、まだあんまり伝わってないんだけど……』

 

「何かあるなら手伝います。今日は予定もありませんし」

 

『ダメだ』

 

 その一言に込められた拒絶の強さに、ぴくりと震える。

 

『ああ、いや……ちょっと強すぎたかな? でも、ダメってことは本当だから。その気持ちは嬉しいけど……君が手伝えることじゃない』

 

「そう、ですか。なら……何があったんですか?」

 

『…………』

 

 どうもさっきから判然としない。

 普段の先輩ならあっけらかんと口にして、唖然とする俺を笑うくらいはするはずなのに。

 なんなんだ。

 一体何があったんだよ。

 

「先輩」

 

『……そうだね。蚊帳の外では、君も納得しないだろう』

 

 いいかい、と先輩は前置きした。

 心を強く保つように、とも付け足して。

 

 

 

『昨夜二時頃、望月エリカが何者かに殺害された』

 

 

 

「……………………は?」

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