ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
「最近、とある作品が女子中学生や高校生の間で人気みたいで、おそらくエマお嬢様はそれに影響されているのかと」
「つまり?」
「思春期特有の、アレですよ……私の内に眠る超パワーってやつですよ」
「あ、ふ~ん(察し)」
夏休みにも入り、セミの声がじゃんじゃか騒がして堪らなくなった頃……エマの行動が、以前とはちょっと異なっていた。
なんというか、珍しく漫画を買い揃えていたり、オカルト系の雑誌が部屋に増えていたり、しょっちゅう手鏡で顔を確認したり。
いや、顔を確認するのは以前から変わっていないけど、なんかこう、確認する理由が以前とは異なっているような気がして……ちょっと、千賀子は不思議に思っていた。
別に、物を買い集めることを咎めているわけではない。
特定の物を集めたり、オカルト系に傾倒したり、それ自体は別に……気になるのは、手鏡で顔を確認する理由が以前とは異なっている、その部分であった。
最初は、何かしらのコップレックスが発現したのかとドキドキしながら見守っていたけど……どうにも、違う気がする。
鏡で顔を確認するたび、なにやら残念そうにしていたのだけど……どうにもコンプレックスの類では……で、だ。
エマも、思春期である。
なんでもかんでも母から調べられたり、母から尋ねられるのは、うっとうしくて仕方がないだろうし……なので、だ。
ロボ子に、絶対にエマにはバレないよう厳命したうえで調べてほしいとお願いし……それで、調査した結果なのだけど。
結果を語るのであれば、エマは『とある漫画』にハマっているだけであった。
まず、一安心……次いで、そんなに面白いのかと千賀子は首を傾げた。
なので、ロボ子に用意してもらったソレを読んで……読んで……最新話まで読み終えた千賀子は、率直に思った。
──これ、エマくらいの年頃がハマるのも分かる気がする、と。
なんというか、善にも悪にも揺れ動く思春期にこそぶっ刺さるというか、面白いのだけど、なんて罪深い作品なのかと思った。
そして、同時に……千賀子はこうも思った。
──あれ、これって……私、全部当てはまるのでは、と。
と、いうのも、だ。
まず、千賀子には前世がある。
もうすっかり過去の記憶というか、思い出そうと思ってもぼんやりとしか思い出せないのだけど、それでも、自分が転生した存在であるというのは覚えていた。
まあ、この漫画にあるような特別な生まれというわけではない、平々凡々な男だったのだけれども。
次に、植物と意思疎通を図ることが可能。
これは『変身:ククノチ』にて可能。
同時に、能力の応用で植物の成長を促したり、自在に操ったりも可能で、枯らす事だってできる。
ぶっちゃけてしまえば、植物と意思疎通を図る程度ならば変身する必要はなく、『山の主』としての権能でOKだ。
そして、強力な超能力を有している、ということ。
これはぶっちゃけ『巫女パワー』なのだけど、超能力と呼ばれる事はだいたいできる。
透視に未来視にサイコメトリーに、気配察知に能力察知。念動力によって物体を自由自在に動かすことが可能で、普通に空も飛べる。
そして……これはまあ千賀子も知る由もない事(つまり、まだ最新話でも明かされていない設定)なのだけど。
……千賀子は、処女である。
なので、千賀子が把握していない範囲を含めて、おまえ根っからのぼく地球ファンかと思われるぐらい、バチバチに千賀子の設定がかみ合っていたのである。
(……え、どうしよう……これ、下手にエマに露見したらガッカリされない?)
思春期のソレは、いずれは冷めてゆくモノだ。例外はあるし形を変えて残るモノもあるけど、無暗に冷ます必要性は無い。
まさか、自分が熱中しているソレが、全部母親がやれますよって事になったら……なんだろう、気まずくて致し方ない気がする。
(いや、でも、4号とかそこらへんで、うっすらバレたりとか……あ、でも、空を飛んだり、ワープしたり、神通力を使ったり、そういうのはエマたちの前で見せたことはない)
しばし考えた千賀子は、ひとまず、ギリギリセーフかなと判断を下してから……ふと、台所の方にある食器棚へと視線を向け……クイッと指で円を描く。
その動きに合わせて、棚が引き出され、中からスプーンが浮き上がり……棚が戻されると同時に、千賀子の手へ。
少しばかり、『力』を込めて見つめれば、それだけでスプーンはぐにゃりと曲がって──使い物にならなくなった。
千賀子にとって、これぐらいは朝飯前の些事である。
テレビ局が見たら卒倒し、その後熱烈な出演オファーを掛けてくるだろうが……千賀子にとっては、こんなのは素手でやるか道具でやるか、その程度の違いでしかなかった。
実際、超能力があったってビルは建たないし、作物は育た……いや、育つけど、千賀子一人では微々たる量だ。
結局のところ、その程度なのだ。
そりゃあ、こういう事ができない人たちからしたら、心底羨ましいと思われるすごい力かもしれないが。
千賀子にとっては、こんな力が使える事よりも、もっと尊い事がいっぱいあって、それを成している人たちの方が、はるかにすごいと思っていた。
つまり、千賀子はけっこう軽く考えていた。
「──お母さん! お母さん! お母さん!!」
「!!?!?! なに、どうかしたの!?」
けれども、外へ出て行ったエマが走って戻ってきて。
何か起こったのかと思わず立ち上がった千賀子をしり目に「これ、見て!!」エマは──千賀子の眼前に、少し曲がったスプーンを差し出した。
そう、少し曲がったスプーンである。
明らかに、使い難そうな角度が付いたソレを前に、千賀子は目を瞬かせ……そんな千賀子に、エマは「見てみて!!」紅潮した顔をそのままに、スプーンの先端をジッと見つめた。
(──え?)
その瞬間、千賀子は──気付いてしまった。
息を止め、真剣な顔でスプーンを見つめるエマより、千賀子は感じ取ったのだ。
いったい何をって……不可視の超能力……すなわち『巫女パワー』、いわゆる『神通力』と呼ばれる力を。
千賀子と違うのは、エマは千賀子と違って女神様の寵愛を受けていないこと。すなわち、『ガチャ』による加護を得ていないこと。
なので、出力というか、感じ取れるパワーはかなり弱い。千賀子と比べたら、巨象とアリくらいに……だが、しかし。
それでも、千賀子は……確かに、エマから『神通力』を感じ取った。
そして、それはけして気のせいではなく……千賀子が見ている前で、エマが握りしめているスプーンが……クニャッと、曲がった。
「──ね! ね! 曲がったでしょ!?」
「え、あ、そ、そうね……え、本当に?」
「本当よ、ほら! 触ってないの、見たでしょ!」
エマよりスプーンを受け取った千賀子は、ジッと……曲がっている部分を見つめる。
……やはり、『力』を感じる。てこの原理とかではなく、ちゃんと『力』で曲げている。
そして、いや、続いて、千賀子は気付いた。
この『力』は、女神様由来というよりは人を介した……そう、千賀子の力に似ているということに。
なんと言えば良いのか、性質が似ているように思えて……そこに思い至った瞬間、日常的に『力』を抑えている自分の事に思い至り、密かに安堵のため息……っと。
「──お母さん、私、もしかしたら前世は巫女だったのかもしれない」
「……え?」
反射的に吹き出さなかった千賀子は、客観的に見たら大したものだろう。
なにせ、本物の『現・巫女』であり、前世を持つ千賀子に、その娘がそう言うのだから……で、そんな千賀子に対して。
「お母さん……今はまだ分からないけど、私……運命の戦士と共に、巨悪に立ち向かう日が来るかもしれないの!」
エマは、どこか誇らしげな様子で。
「心配を掛けちゃうかもしれないけど……でも、これが運命なの! だから……だから、応援してね」
そう、宣言をしたのであった。
……。
……。
…………さすがに、唐突過ぎたので、少し気持ちを落ち着かせてほしいとエマをなだめて自室に戻した。
エマも急すぎるという自覚はあったのか、特に抵抗もせず素直に自室へと戻って行った。ちなみに、めっちゃ機嫌よく鼻歌が出ていた。
その、後ろ姿を見送り……ちゃんと、部屋に入ったのを確認した千賀子は……改めて、こっそり隠れていたロボ子へと問うた。
「ロボ子、どういうこと?」
「──可能性としては、マスターの母乳でしょうね」
押し入れからヌルっと姿を見せたロボ子に……なんで押し入れからなのかって?
それは、押し入れより秘密の地下室へと続く通路があり、ロボ子は時々そこに隠れていたりするわけで……だ。
「母乳?」
「女神様の加護をこれでもかと詰め込まれた巫女の血肉によって生じた液体、それが母乳なわけでして」
「うん」
「母乳って、要はマスターの血肉を分け与える行為ですからね? それも、エマ様はマスターにとっては初の子供……初産に当たるわけでして」
「いや、子どもだと思っているけど、実際に産み落としたわけではないよ?」
「『地母神』の加護まで持っている人の初乳を飲まされ、その後もしっかり母乳を分け与えられ続けた子ですから、少々『力』が芽生えても不思議ではない……そう思いませんか?」
「──悔しい、否定できない」
ロボ子の見解を聞いた千賀子は、そう答えるしかないのだった。