ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
「大変です、マスター。巷で大人気なオカルト系雑誌『月間モー』の表紙が恐怖の大王にすり替わっています」
「あいつ、なにやってんの? (素朴な疑問)」
様々な原因(99%千賀子)が重なった事で、中二病街道をまっしぐらなエマの事で頭を抱えていた千賀子の下に、その話が飛び込んできたのは、夏休みが終わろうとしている頃。
手渡された表紙には、確かに恐怖の大王が載っていた。
無表情のままダブルピースしている様は、人をおちょくっているのか、それとも、人間など取るに足らない存在だと言わんばかりなのか。
たぶん、何も考えていないのだろう。
まあ、なんにせよ、恐怖の大王はその特性上、千賀子の巫女的パワーでは探知できない。同時に、ロボ子のスパイロボットでも同様だ。
それを考えたら、ひとまずは動向の一端を把握出来ただけでもヨシとするべきだろうと千賀子は判断した。
……で、だ。
話を戻すが、現在の千賀子にとって対処しなければならない早急の問題は、エマの中二病問題である。
コレの何が問題かって、実際にエマには千賀子を通じて神通力を宿してしまっていること。
誰しもが通るはずの、『自分には何の力も無い』という現実を通過できず、『本当に自分には秘められた力があった』という、今後の事を考えればヤバい現実を通ろうとしていることだ。
……断言しよう。とてもではないが、エマに自分と同じ道を歩ませたくはない、と。
自分の場合、女神様とかいうとんでもねえ神様が背後に居たからなんとか……あ、いや、待て。
冷静に考えたら、少女時代より千賀子の身に起こったアレやコレやの大半って、女神様が引き起こしたモノのとばっちりでは?
いや、いや、いや、止めよう。
考えたところで色々と怖くなるし、既に過ぎ去った事だから、今さら嘆いたって……とにかく、だ。
(エマには『力』があるけど、ぶっちゃけ有っても無くても大して意味が無い程度の『力』なのが……)
そう、それに尽きた。
確かに、エマには人知を超えた『力』を有している。
今はまだスプーンを曲げる程度だけど、『力』は使えば使うほど馴染んできて、出力もアップしていくだろう。
千賀子のように触れずとも車を持ち上げたり、空を飛べたり、植物などの声を断片的に感じ取れるようになる……と、思う。
だが、エマは『巫女』ではない。そして、そもそもの燃料タンクのサイズが千賀子とは違い過ぎる。
例えるなら、千賀子はジェットエンジンと、それに不相応な巨大な燃料タンクを積んでいる状態で、音速を超えてぶっ飛ばせるのに対して。
エマは、原付バイクのエンジンと、相応な燃料タンクを積んでいるだけで、時速も最高30kmが限度。おそらく、負担も大きい。
車を持ち上げられたとしても、2,3分で力尽きて落としてしまうだろう。空を飛ぶのだって、常時重力に逆らい続けるわけだから、その消耗は相当なモノだ。
そのうえ、回復力も……おそらく、千賀子よりはるかに遅い。
千賀子の場合は、『巫女』なうえに『山の主』として、自然からある程度パワーを循環させて回復したり、『ガチャ』によって底上げしたりしているが……エマは違う。
常人より器は大きいだろうけど、千賀子のようにいくつもの回復手段は無いし、『ガチャ』によるパワーアップも無い以上は……どうしても、そうなってしまう。
だから、そんな『力』など露見したところでろくな事にはならないから隠した方が良い……というのが、千賀子からの親心であった。
実際、客観的に考えると……エマ程度の『力』では、人よりちょっと違う事が出来る、その程度である。
空を飛べるとはいっても、飛んだ後は疲労して休息が必要になるから、それなら素直にタクシーを借りた方が楽だし。
車を持ち上げるとはいっても、日常でそんな場面に出くわすことなんてほぼ無いし、そういう場所では……重機の力であっという間に動かしてしまうから、使い道が少ないし。
どちらにしても、『力』を使った後は半日は休息を置いた方が良い(なんなら、ひと眠りした方が……)となれば……である。
思春期真っただ中なエマからすれば、そりゃあもう背中に翼が生えたかのような万能感に満ち溢れているだろうけど、現実ってけっこう切ないのだ。
(……思い出した。そういえば、私も翼を出せるじゃん……すっかり隠すのが当たり前になっていたから忘れていたけど……)
そう、悲しい事に、だいたい千賀子がかつて通った道である。
今でこそ『巫女的パワー』で何でもブイブイ言わせて事に当たれるようにはなったけど、当初はそうではなかった。
マッチ程度の火しか起こせず、水は指先からチョロチョロ、小さなコップ(空)を少し中に浮かせられるくらいで限界だった。
だから、そういう力を得た時でもけして過信はせず、けして人前では見せず、自分の身を守る時だけに限定していたが……でもまあ、これも時代なのだろう。
小さい頃にそんなのが露見していたら、千賀子はやれ神童やら何やらと持ち上げられていただろうけど、今は違う。
さすがに神童なんて扱いはされないだろうけど、やれ『超能力少女』とか色々言われてテレビに引っ張りだこ……まあ、うん。
昔とは違い、今はテレビの向こう側との距離感はだいぶ近い。認識も受け取り方も違うから、同じように考える事が間違い……なのかもしれない。
「……いや、でも、ここで増長してしまったら取り返しが付かない。どこかで、そんな大したモノじゃないよと思って貰わないと」
まあ、それはそれとして。
一人の親として、せめてそこだけは……という思いが千賀子にはあったので、なんとかせねばと思ったわけで。
なので、千賀子は……ひっそりと、『千賀子会議』を開催した。
『千賀子会議』とは、千賀子と分身たちが一堂に会して一つの問題に取り組む(要は、相談会)ための会議である。
今回の議題は、『エマの中二病をどうするか?』である。
この問題は非常に複雑だ。
なにせ、本当に『力』が発現してしまっているから、そのうち覚めるだろうなんて悠長に構えていられない。
なので、この問題は可及的速やかに対応しなければならない問題……なのだけれども。
「……どうしたらいい?」
「いや、無理でしょ、こんなの」
「素直に、お母さんも似たような力を持っているから、扱い方を教えましょうって感じでコントロールを覚えさせながら、現実の話を教えたら?」
「あの、エマがそうなのだとしたら、春人もそのうち発現してしまうのでは……?」
順番に、2号、3号、4号……4号の発言を受けて、そういえばそうじゃんと思った千賀子だが……とりあえず、今はエマの事だ。
薄々分かってはいたけど、やはり、実際に自分にも『力』がある事を教えて、少しずつ現実を……いや、でもなあ。
相手が大人ならともかく、思春期の少女に現実を教えて……それで、素直に納得してくれるだろうか?
なんとなくだけど、変に反発して余計に拗れてしまうような……しかし、う~ん、どうしたものか。
「とりあえず、今はエマも色々舞い上がっているし、少し様子見してからにしたら?」
「……そうするしか、ないか」
しばし顔を見合わせて考えた千賀子たちだが、結局、コレといった正解が思いつかず……仕方なく、静観という消極的な対応に決めたのであった。
……。
……。
…………だが、しかし。
そんな千賀子の藁にも縋るかのような対応を他所に、エマの行動はどんどんエスカレートしていった。
まず、以前よりも意味深な感じで木々を見つめるようになった……おそらく、樹木の感情を感じ取っているのだろうと思う。
植物にも、感情はある。だが、人間のように複雑な思考はしておらず、もっと断片的でふわふわとしている。
せいぜい、『水が欲しい』とか『(太陽光が)暖かい』とか、『こっちを見て』とか、そんな感じである。
『山の主』であり、『ククノチ』でもあり、『巫女』でもあるからこそ、そういった断片的な感情をキャッチすることが出来るのだが……エマはそうではない。
もっと、曖昧にしか認識出来ていないだろう。
だが、感じ取れるのが曖昧だからこそ、思春期の暴走が如何様にも感じったそれを改ざんしてしまうようで……まあ、うん。
これは、アレだ……この風、なんだか泣いている……的なアレ。
半端に感じ取れてしまうからこその、ニアミス……しかも、完全に的外れってわけじゃないから、余計に面倒くさい。
実際、それで枯れかけていた花壇が半分以上持ち直したり、職員室の花瓶の花が元気になったり……しかも、だ。
昔の千賀子と同じく、能力は使えば使うほどコントロールも出力も増してゆくので、余計にのめり込んで……しかも、しかも、だ。
「マスター、エマ様なのですが、オカルト系雑誌『月間モー』の読者コーナーに色々と投稿しているようでして」
「……なんて?」
「『私は月基地のメンバーだったのかもしれません。超能力が私にも発芽しました、心当たりのある転生者の方、我がもとへ集いなさい』といった感じです」
「あいたたたた……」
あまりにも順調に熱を増してゆくエマの様子を想い、千賀子は堪らず胃のあたりを押さえた。
な、なんと恐ろしい……あの作品は、それほどまでに思春期女子の心を掴むものだったのだろうか?
思わず、そう思った千賀子だが……実際のところ、どうだったのだろうか。
答えは、それほどまでに思春期女子の心を掴んだ作品である、だ。
なにせ、千賀子の前世の世界の話ではあるのだけれども。
様々なオカルト系雑誌のお便りコーナーに『前世は〇〇でした、仲間を探しています』といった投稿で埋め尽くされたり。
文通みたいな形で『私は超能力を持っています、他の方もいますか?』といった感じで仲間を募ろうとした者や。
また、これは前世における1989年のことだけど、前世を覗くために一度死んで戻るつもりだった……といった感じで自殺ごっこが発生したり。
ついには社会現象にまで発展したし、なんならショックを受けた作者が自ら『現実とフィクションを混同しないように』と強く戒めの言葉を残したくらい……と言えば、どれだけ影響力があったかが察せられるだろう。
「……どうすればいい?」
「やはり、マスター自身からお伝えすれば良いのでは?」
「ゆ、夢を壊したくない……」
「お気持ちは察しますが、どこかで区切りを付けねばなりませんよ」
非常に困った様子ではあるが、ロボ子も、分身たちも、結局のところは千賀子の口からばらす(『力』の事を教える)しかない、という結論になるわけで。
千賀子としても、ソレ以外にないかもと思ってはいるのだけど、なんとなく、『母さんと私、春人も、特別な力を(中二病)』みたいな感じで悪化しそうな気配もする。
本当に、こればかりはどうにも千賀子とて読み切れず、それゆえに、どうしたものかと決断を下せず……先延ばしにするしかない状況に陥っていたのであった。
……。
……。
…………しかし、だ。
千賀子は忘れていても、賢明な読者諸君は覚えていると思う……千賀子には、頼れる仲間たちがいることを!
『……聞いたか、花子殿』
それは、全身の筋肉をムキムキさせて、日夜相撲に取り組み、年頃ボーイに熱い情熱を注ぐ、頭の皿がきらりと光る……UMAと。
『……聞いたわ。水臭いわね、もう』
それは、見た目こそ少女だけれども、その実態は日本中のトイレより出現し、百合以前の淡く咲き誇るシロツメクサの花園の開園に心血を注ぐ……UMAと。
『……うが(ストレスは尿に悪い)』
それは、どこからどう見ても人間には見えない怪物だけれども、実際はとても心優しい怪物で、尿意を覚えた者を遠くから見守り、時にはトイレへとエスコートする……UMA。
誰が呼んだか、余計な事しかしない3人(?)組。
今ここに、千賀子の友であるUMAたちは、お節介を働くために……動き出したのであった。
なお、千賀子が聞いていたら無言のままナックルが叩き込まれていたけど、不幸なことに……エマの事に意識が向いていた千賀子は気付けないのであった。