それまで存在を確認されていなかった、悪魔、妖怪、幽霊、怪異と言ったこの世ならざる存在
人々は、それらの超常的現象に対し、「科学を用いたエクソシズム」を用い、戦っている
境界歴15年
これは、とある航空部隊に所属する「空飛ぶエクソシスト」の戦いを、ケース記録としてまとめたものである
23:55 基地内休憩スペース
『スクランブル!スクランブル!ISCTパイロットは機体へ搭乗し…』
けたたましいアラーム音と共に響く緊急放送の呼び声に、飛び起きる。
全く、せめて何か起こるなら仮眠中以外に起こって欲しいものだと、内心苦言を呈した。
俺の所属する「航空祓魔課 境界異変即時対応班」
通称・ISCTはここ数年で発足されたばかりのチームだ。
とはいえ、まともなパイロットは俺と僚機(ウィングマン)の2人だけ、
機体はほかの部隊でも使われているF-2祓魔仕様のお下がり。
ぶっちゃけた話、めんどくさいファーストコンタクトをさせるためだけの使いっぱしり隊と言っても過言じゃない。
ブレる視界を気合いで覚ましつつ、俺はロッカーに向かった。
24:15 第三滑走路
『管制よりモータル1へ、離陸準備はどうか』
「モータル1より管制へ、いつでも行ける」
各計器と装備、バーニアの挙動を確認しつつ、管制からの通信へ返答する。
どうやら僚機も準備万端のようだ。
『目標は多数の実体存在型界異だ。人語を介しているようだが内容不明だ。意味を考えなくてもいいぞ』
「モータル1、了解」
はなから化け物の言葉なんて考える気は無い。
口から零れそうになるのを抑えつつ、滑走路へ愛機のギアを滑らせる。
『進路クリア、離陸どうぞ』
「モータル1、離陸します!」
管制からの許可を受け、俺はスロットルを全開にした。
甲高いジェットエンジンの音が、キャノピーを、機体を、ヘルメットを、そして俺の鼓膜を揺らす。
体全体にGがかかり、まるで全身を包むかのように錯覚する。
ある程度の距離を走行した後、ぐわりと胃が浮き上がり、機体が地面を蹴り上げ飛翔する。
ランディングギアを格納し、機首を南南東へ。
巡航速度に入ったとき、またぞろ通信が入った。
『グッドラック、エクソシスト』
「了解した」
空飛ぶエクソシストの仕事は、いつも騒がしい
24:35 東京 港区上空
いつまで?
いつまで?
いつまで?
「……気色悪い」
現場上空へ到着すると、そこはいつも通りの地獄だった。
羽根が生えた、目のない白ウナギの様な化け物が、いつまでいつまでと囁きながら、地上へ急降下し、人々を食らっている。
無論、キャノピーの外から声が聞こえるなんて、そんなことは通常ありえない。
これは、化け物が空気の振動以外の方法で、俺の脳みそへ直接声を掛けているのだ。
嫌悪感を抱きながら操縦桿を握っていると、管制機からの指示通信が入る。
『モータル1、モータル2、こちらAWACS インセイン、市街地上空でのミサイル発射は許可できない』
バケモノ相手に豆鉄砲で戦えってか?
クソ管制め、名前通りイかれてるな。
「ウィルコ、ケースレスレールガンの使用を許可されたし」
『レールガン承認』
俺は、レールガンのセーフティスイッチを下ろし、1番近くを飛んでいる目標に狙いを定める。
「モータル1、目標補足」
『レールガン、発射!』
号令と共にトリガーを引くと、ほぼ同時に僚機もレールガンを放った。
主翼に装備された砲塔から、青白いスパークが走り、次の瞬間、目の前の化け物は悲鳴のような鳴き声と共に、砕ける。
ーーーアギャアアアアアア!!
「モータル1、目標を撃墜、次の目標へ移る」
『モータル2、右に同じだ』
『コピー、戦闘を続行せよ』
目の前を覆う無数の翼を、俺たち2機は次々と撃ち落としていく。
レールガンの紫電は、化け物の呼び声を引き裂くように、東京の夜空を明るく照らしていた。
2:36 基地 第三滑走路上空
『モータル1、レディフォーランディング』
基地管制からの着陸許可が出る。
港区上空での戦いは、目標群の撤退という、なんとも歯切れの悪い終わり方で幕を閉じた。
まあ、俺たち即時対応班の仕事は、大体こんな感じの幕引きが常だ。
俺は、指定された滑走路への機首を傾ける。
高度を下げ、ランディングギアを展開する。
速度を低下させ、滑走路へ降下すると、ギアが子気味のいい音を立てて、機体を大地へと降り立たせる。
ブレーキを掛け、ある程度前進してから機体を停止させると、僚機から通信が入った。
『よう、相方さん、今日も俺の方が的当て上手かったろ』
……口が軽いウィングマンだ
「私語は慎めよ、とっとと格納庫へ向かうんだ」
『了解了解』
コイツとバディを組んでまだ半年とちょっとだと言うのに、この馴れ馴れしい男は、俺との距離感を考えようともしないのか。
『さてと、それじゃあ”お嬢様”、お先に格納庫へどうぞ』
「もう1回お嬢様って言ってみろ、ヘルメットの上から頭蓋骨叩き割るからな」
『へえへえ、可愛げのねえ姐さんでやんの』
ほんっとうに……この男は……
機体を牽引車に接続し、俺はヘルメットを脱いだ。
短く切り揃えた髪がふわりと起き上がり、汗をしとどに垂れ流す。
元々長かった髪をバッサリ切ってしまったことは未だに後悔しているが、
まあ、化け物退治のエクソシストに、そんな飾りっけは要らないというのが、自分でも言っていることだ。
空飛ぶエクソシストの仕事終わりは、いつもこんな感じだ。
ハーメルン初投稿、なんちゃってミリタリ短編も初投稿で、全部初めてづくしになってしまいました
通信は基本英語で喋っているものとして見ていただければ幸い(最後の姐さんと僚機の会話は別として)
航空用語、もっと調べてもっと面白い短編書けるようになりたいなぁ
今回登場した界異・祓魔具
「以津真鷏(いつまでん)」
伝承系に属する飛行型怪異
「いつまで?いつまで?」と問いかけながら空中を旋回し、標的とした者へ急降下、捕食する
ケース174
インシデント「呼び声」にて多数の個体による被害が発生
現場祓魔師では対応不可と判断され航空祓魔課が出動し、対処した
「F-2 AS 対魔戦闘攻撃機」
航空祓魔部隊が運用する戦闘機で、実在する戦闘攻撃機・F-2を祓魔仕様に換装している
チェーンガンの弾丸は聖刻済み
ミサイルは爆薬と聖水を装填した祓魔弾頭を装備
機体コードのASは
アンタイ ストレンジネスの略
「ERA-135 ケースレスレールガン」
航空機向け大型電磁加速砲
弾頭がほぼ露出した状態で弾倉内に格納されており、排莢されない構造
言うなれば巨大なカラビナであり
航空祓魔部隊のF-2AS型のオプション装備として知られる