有職転生〜異世界行ったら…え?三歳で剣を振るんですか?〜 作:KEN・JACK
こっそり続き置いておきます
「久しぶり、ニナ。強くなったね」
座り込むニナに手を差し出しながらそう話しかける。なんで一人でこんな危ない事を…とか言いたい事はあるが、一先ずは褒めることにした。
ガルの言いつけとはいえ、俺が置いていくような形になってからも弛まぬ研鑽を積んできた事が伝わってくる動きだったからだ
「ジノ…なんでここに…?」
久しぶりに会う幼なじみ、ましてや俺の事をあれだけ慕っていたニナだ。時間は空いているとはいえ喜んでくれるだろうと思っていたが…考えとは裏腹にその表情は良いとは言えなかった
「え?あぁ、ラノアに向かう途中だったから聖地に顔を出そうと思って…」
戸惑いながら答えはしたが、何故歓迎されていないんだ…?聖地にいた頃はニナに名前を呼ばれない日なんて無かったくらいには慕われていたはずなのに…?
「そう…助けてくれてありがとう。きっと皆喜んでくれると思うわ」
ニナは遂に俺の手を取ることなく立ち上がると、そのまま踵を返して歩き始める。お、おかしい…スマホがあったら幼なじみ 再開 嫌われてるで検索したいところだが、この世界ではそうもいかない
「ちょ、ちょっと待ってニナ!聖地に戻るんだよね?怪我もあるし一緒に戻った方が良いって!馬車…って言っても馬じゃないけど、楽に移動出来るから!」
仮に嫌われていたとしても、赤竜から受けた傷があるニナを1人で放っておく事は出来ない。立ち去ろうとするニナの手を掴んで引き止めるが、もうニナはこちらを見てもくれなかった
「…ごめんなさい、今はジノと居たくないの」
放たれた一言による衝撃で、俺は思わず掴んだ手を離す。何か理由があって避けているのだと思っていたが…明確に言葉になった拒絶が矢のように俺の胸を貫いた
「っ…本当にごめん」
ニナは俺のショックを悟ってか一瞬振り返り、辛そうな表情を浮かべるも…もう一度謝罪の言葉を重ねて去っていった
〜〜~
「あ、お帰りジノ…どうだった?」
気付けば俺はサラの元へ戻っていた。あまりのショックにここまで歩いてきた記憶が無い。そう言えば剥ぎ取るのも忘れた…ジオニウム結晶体出たかもしれないのに…
俺を待つ間に魔物の襲撃があったらしく辺りが若干酷いことになっているが、流石と言うべきか…メルエムにも荷物にも被害は無いようだ
「なんか…落ち込んでる?大丈夫?」
戻ればサラにも嫌われているなどという地獄は無かったようで、サラは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。赤竜と戦ったのに俺が怪我をしたと言う考えは無いらしい…凄い信頼だ
「いや、仲の良かった聖地のいとこが赤竜と戦ってたんだけど…助けたら何か避けられちゃって」
「ジノが助けてくれたのに?そんなのおかしいよ!大丈夫、私がガツンと言ってやるから!」
しまった、思わず素直に話してしまった…ニナとサラが争うとなれば喧嘩では済まない。何せ2人は北聖と剣聖なのだ、もはや殺し合いと言って良い
「大丈夫だよ、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、誰かに解決して貰うような事じゃないから」
「そう?でも納得いかないけどね!私だったら抱き着くくらいはしてあげるのに!」
サラの性格ならそうするだろうという確信はあったが、それはそれで熱烈過ぎて困る。まぁアスラの女性はこういう情熱的なタイプが多いから普通なのかもしれないが
憤りが収まらない様子のサラを何とか宥めると、再びメルエムの背に跨る。ハプニングもあったが聖地はすぐそこだ
「ギャス」
「…心配してくれてるのか?大丈夫だよ。ありがとう」
いつもなら準備が出来たのを察すれば合図無しで出発するメルエムが珍しくこちらを見て短く鳴いたので、励ましてくれているのだろう…勘違いでなければ
周りに恵まれてる人生な分、ニナの対応が余計に気にかかり…北方大地の風がいつもより冷たく感じながらも、久しぶりの聖地へと到着したのだった
〜〜~
「止まれ!お前たち…何故魔物に乗っている!」
しかし、街に入ろうとした所で案の定止められた。魔大陸産の魔獣何て北方大地で見る訳ないから当たり前なのだが
確かここの守衛は剣神流の門弟が交代でしている筈…つまり彼は俺の弟弟子という事になる。歴で言えば多分向こうの方が上だけど、実力主義だからね剣神流は
「これは魔大陸で馬の代わりに使われている魔獣です。人を襲うことはありません…剣皇の名において約束します」
「剣皇だと…?」
守衛は信用ならないと言うように俺とメルエムを交互に見る、しかしふと俺の腰にかかっている玉響を見て明らかに顔色が変わる。剣に生きる者ならばこの魔剣に何も思わない事は出来ない
「こっ…これは大変失礼致しました!」
守衛は即座に剣神流の礼で俺に頭を下げる。そんなに大々的な事されたら目立つから止めて欲しいんだけどな…いやメルエム居る時点で目立つけどさ
「いえ、お勤めご苦労様です。師匠に用があるので入らせて貰いますね」
それだけ言い残すと俺達はそそくさと入り口を離れた。流石に街中で斬りかかって来る奴は居ないだろうが、今まで何度腕試しの名目で襲われたものか
「何か、意外と普通の街だね。私てっきりそこら中で切り結んでるものかと思ったけど」
「街はそうだね、でもここで暮らしてる人全員剣神流の剣士だから…その辺のおばあちゃんがサラより強い可能性だってあるよ」
「えっ…何それ怖っ…」
流石に魔大陸という死線をくぐった北聖のサラに勝てるとはならないだろうが、何も知らない盗賊団が街を襲おうものなら…1人残らず膾にされるのは確実だ
サラにこの街の異常性を伝え終えると、いつも通りメルエムを預けて奥にある道場へと向かう。
まだ剣聖になっていない者たちの修行を遠目で見守りつつ、本道場へと続く細道へと抜ければ、そこに異様な存在感を放つ男が大きく胡座をかいて座っていた
「よぉ、待ってたぜ」
「え?師匠ー」
刹那、俺とサラの首が宙を舞った…ように見えた。否、動かなければ間違いなくそうなる死の予感、瞬時に全身に闘気が巡り…何万回と繰り返した動きが本能的に繰り出される
光の太刀のぶつかり合い。空間が割れるかのような轟音が静謐な細道へと響き渡る…剣神が誇る二本の魔剣、喉笛と玉響でなければ確実に剣が砕け散っているであろう衝撃だった
「なんだ、ババアと英雄サマに絆されて腑抜けたかと思ったら…存外動けるじゃねえか」
鍔迫り合いの状況が続いたと思えばあっさり剣を引き、当代最強の男は悪魔のような笑みを浮かべながらその魔剣を鞘に収めた
「…いや、今本気で殺す気だったでしょ!普通に再会出来ないんですか!?」
俺も同じように剣を鞘に収めて、全力で抗議の声を上げる。この人が無茶苦茶なのは今に始まった事では無いが…殺しにくるのは流石に黙認出来ない
「当たり前だろ、この程度も反応出来ないようなら俺様が目にかけた事実が恥になるからな…そうなるくらいなら死んだほうがいい」
信頼なのかただ頭が剣神なのか分からないが、殺そうとされたけど帰ってきた事は歓迎されているらしい…多分俺が師と仰ぐ人が増えたのが気に食わないからちょっかいかけたのだろう
「で?そこのガキはなんだ。北神の隠し子かなんかか?」
ガルに言われて紹介しようと後ろを振り向けば、そこにサラの姿は無かった。無かったというか俺の背中にぴったりくっついて化け物を見る目で剣神を見ていた
「色々あって一緒に旅してるんですよ、というか師匠が無茶苦茶するから怖がってるじゃないですか」
何も言ってないのに流派を見抜いたのは流石と言うべきか…気付いてたならいきなり襲い掛かる事もないだろうに、よっぽど俺に会うのが嬉しかったらしい
「他人の女に優しくするほど俺様は出来てねえんでな、1人で道場うろつかすんじゃねえぞ」
それだけ伝えるとガルは踵を返し、本道場へと戻って行った。マジで襲いかかりたかっただけなのかよ
「私、やっぱり街で待ってるね。殺されたくないし」
ガルが見えなくなるのを確認した後、サラは俺の背中から離れる。流石に殺されることは無いよ…と言いたい所ではあったが今まさに殺されかけたので何の説得も出来なかった
「…分かった、ごめん変な師匠持ってて」
「剣神流の印象はジノみたいなのよりああいうのだったし、気にしないで。ギルドで待ってるから」
同行者を放置して里帰りという後ろめたい気分にはなったが、剣を交えてようやく帰ってきたという実感が湧いてきた。
もう日本人には戻れないなと思いながら、サラと別れてガルの待つ道場へと向かった
〜〜ニナ視点〜〜
重い足取りで聖地へ戻った私は、凄まじい自己嫌悪に駆られていた
出来ることは全てやってきたつもりだった。ジノに並び立つ為なら他の全てはいらないと切り捨て、修行に明け暮れたというのに
久しぶりに会った想い人は自分の想像を超える程に強くなり、自分との差に絶望した私は碌に会話をすることも無く逃げるようにして彼の元を去っただけ
並び立つどころか、また助けられたのだ…これではいつまで経っても自分は彼に相応しい人になる事は出来ない。
「ジノ…」
ぽつりと、弱さが口から零れる。きっと私が泣いていれば、彼は優しい言葉をかけてくれるだろう…それに縋りたいと思う自分の不甲斐なさに、自己嫌悪を通り越して怒りすら覚える
「痛っ…」
自罰的に入った力が、自分の状況を再認識させた。痛みで強ばった身体が軽くふらつく…命が助かったとはいえ赤竜から受けた傷は決して浅くない…
「ちょっと貴女、大丈夫?魔物にやられたの?」
すると、突然声をかけられる。そちらに目をやれば聖地には珍しい若い女の冒険者だった…歳は自分と同じくらい
しかもそこらの冒険者とは違う。装備を見るに北神流、聖級はあるだろう…聖地やアスラの道場が無い北神流を、その歳でどこで修めたのか
「?聞こえてる?大丈夫?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと無茶し過ぎただけだから…心配しないで」
驚きで反応が遅れたが、道場へ行けば直ぐに治るのもまた事実。活発な印象を抱かせる金髪の冒険者に頭を下げて立ち去ろうとしたのだが…ふと思い出す
(今道場へ行けば確実にジノに会うじゃない…)
気持ちの整理が着くまでは会いたくない。その考えが足を止めた…それを見た冒険者はやっぱりと言うようにこちらに何かを手渡す
「はいこれ、あげるわ」
「え…これって治癒魔術の…」
渡されたのは治癒魔術のスクロール。中級のものだが決して安価では無い…幾ら北聖と言えど易々と人に譲っていい物では無いはず
「そうよ、使い方は分かるでしょ?」
「分かるけど…別に死にそうって訳じゃないし、頂けないわよこれは」
ジノに会わずに道場を走り抜ける事も出来なくは無い。意地を張らなければ済む話を大事にされているような気がして返そうとするが
「ダメ、治癒魔術があるからって傷を放っておいたら…えーっと、カンセン?してエシ?するから!」
「なんで疑問形なのよ…」
よく分からなかったが、昔ジノにも似たような事を言われた事を思い出す。他の大人は一言もそんな事は言わなかったのに、彼はそれが当然のように傷口を洗えと言ってきた
「気にしないで受け取りなさい、私もそうやって助けられたことがあるから」
それが当然というように彼女は言う。こうして気を遣わないで良いようにしてくれるのも、どことなくジノと似たような所を感じてしまう
「…ありがとう、なら代わりに何かご馳走させて。というか、今家に帰りづらくって」
「そうなの?私も暇だったからご馳走になろうかな、ああでも家にはちゃんと帰りなさいよ。帰る家があるって幸せなことなんだから」
この歳で冒険者になってここまで強くなるのだ、何かあるのは当然。初対面で深堀する気にはならなかったが、そうねと短く返事をすれば
「私はニナ、剣聖ニナ・ファリオンよ」
「サラよ、なったばっかりだけど一応北聖…というかニナもしかしてお金持ち?」
まさかこの時の出会いが一生になるとも思わず、私たちは酒場へと向かった
次で里帰り編は終わると思います…多分…
何かダレてる感じがして投稿出来なくてすみません…