───……
『久しぶりだな、将人と将棋を指すのも』
『お爺様は、忙しいから…』
『む、呆気ないな…弱くなったか? それとも老人への情けか?』
『…………勝ったら、皆、
『ふむ…将人よ、投げ出してはダメだ……勝てるならば勝て』
『お前は、特別だ……それ故の苦しみもあるかもしれん。人とは、他者と同じであることを求める生き物だからな…だが、周りの言葉に惑わされるな。特別で何が悪い……誰も届かぬ程に、研ぎ澄ましなさい』
そうして……我等、北条家は栄えてきたのだ
長兄には、やはり長兄としての苦しさがあるものだ。いつも、真面目でいなければならぬ。弟妹たちと、ふざけ合う事は、長兄としての責任感がゆるさないのである。
自己破滅型の私小説作家───
◇◇◇◇◇
「絶対に兄さんの期待に応えてみせます! だから……」
「聞き分けのない妹だ…」
ガシッ!
今にも泣き出しそうな声で懇願する妹の姿に、全く動じることなく切り捨てる兄の姿は、将人の目には、あまりにも冷酷に映った。
その上、少女の胸ぐらをつかんで壁に押し付けた姿を見て、流石にこれ以上は見ていられないと判断して、将人は2人の間に割って入った。
「ちょーっとストップ。さすがにこれ以上は見逃せないな」
「誰だ、お前は?……クラスメイトか? 鈴音」
「…い、いいえ」
「傷付く美少女を見過ごせない……ただの通りすがりの後輩ですよ」
「ほう……そうか」
「それより先輩、女の子の胸倉掴むなんて男としてどうかと思いますよ? 会話から察するに妹さんなんすよね?」
「家庭の問題だ。部外者が口を挟むことでは無い……大人しく立ち去れ」
「殴られる寸前みたいな場面で女、置いて行けって? 死んでも嫌っすよ……てか、とりあえずその手を離しません?」
そう言ってやんわりとお願いしてみるものの、当然聞き入れてくれるはずもなく、逆に鋭い眼光で睨まれてしまう始末だった。
パッ…と、手を離したと思ったら、将人の方へ貫手を繰り出してきたので、反射でその手を掴み取る。
「くっ!?」
将人がそのまま捻り上げようとすると、今度はもう片方の手を使って掴まれている腕を引き剥がそうとする。掴んでいた手を離すと同時に足払いを仕掛けてきたため、後ろに飛び退くことによって回避する。
そして、お互いに距離を取ったところで睨み合う形となった。
「少しはやるようだな……」
「そりゃどうも……てか、いきなり貫手とか酷いなぁ…危険なんすよ、それ 」
「加減はした……自然と反射で対応する、今の動き、クラヴマガか」
そう。何時ぞや、石崎達に“
クラヴマガ
昨今、エクササイズやダイエット目的でトレーニングを始める者も少なくないが20世紀前半、戦火が絶えなかったイスラエルで考案された軍用近接格闘術であり、現在、殺人術を除いた形でCIAやFBIなど世界中の軍・警察が導入している技術なのだ。
人間の条件反射を活用する格闘術であり、将人は、幼少の頃から数百の攻撃シュチュエーションを体験させられて、身体の芯にまで染み込んでいるので、危険に対して脳より先に体が反応してしまう……洒落ではなく、
「ご明察、博識っすね。俺もそれなりに鍛えてるんで………これ以上やるなら、俺も本気で相手しますよ」
「………面白い奴だな、名前は何というんだ?」
「北条将人」
「ほう、お前がそうか……いち早く、この学校のシステムに気付き、情報の無いうちに他クラスからポイントを削る
「……さぁ、なんの事やら?」
(なんで詳しいんだよ……怖ぇな)
「惚けるか。まぁいい、いずれ分かることだ。鈴音……相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだが、上のクラスに上がりたかったら死にもの狂いで足掻け。それしか方法は無い」
スタスタ…──
「言い逃げかよ………俺も、帰ろ」
何やら意味深なことを言い残し立ち去る生徒会長。将人も立ち去ろうとするが……。
「待ちなさい!」
帰ろうとする彼を引き留めたのは鈴音と呼ばれていた少女だ。急な大声に驚いた将人は思わず足を止めてしまった。
(しまったな……行くタイミング逃しちゃったよ)
彼女の表情を見るに、どうやら呼び止めたのは無意識の行動だったようだ。しばらく逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「あの、北条君? でいいのかしら」
「ん?…うん。それで合ってるよ。えーと、君は鈴音ちゃんだよね?」
「合っているけれど、その巫山戯た呼び方はやめて頂戴……1-Dの堀北鈴音よ」
(うっわ……めっちゃ睨まれてる)
先程までの弱々しい印象とは打って変わって、鋭く冷たい視線が向けられる。
「あー、ごめんね?じゃあ何て呼べばいい?」
「私のことは、普通に苗字で呼んで」
「……おっけ、堀北さんね。よろしく」
「……」
(えっ、スルー?)
そう言って手を出すものの無視されてしまった。彼女はそのまま話を続けるようだ。
「……一先ず、助けてくれてありがとうと言っておくわね」
「いやいや、気にしなくて良いって」
「でも、これでまた……私は兄さんに失望されたでしょうね」
「……ふーん、何でそう思うわけ?」
「だってそうでしょう?結局、私は何も示せず、何も出来ずにいるのよ?」
自嘲するように笑う堀北の表情には悲壮感が漂っていた。彼女とって兄がとても大きな存在であることが伺える。
「そんな、気にすることないと思うけどなー」
「……気休めは結構よ」
「いーや、マジでさ。少しも、期待してなかったら“
「それは……」
先程の会話を思い出すように黙り込む堀北。思い当たる節があるのだろう。
「それに、Aクラスを目指すってのは本気なんだろ?だったら失望されていたとしても、これからいくらでも挽回できるチャンスはあるんじゃない?」
「そうかしら……」
「そうに決まってる、そうでないと頑張り甲斐がない」
「クスッ……貴方、変な人ね。初対面で、他クラスの敵なのよ? 普通ここまで構わないわ」
少し考え込んだ後、急に可笑しそうに笑い出す堀北。それを見て将人は不思議そうに首を傾げた。
「何か、おかしなこと言った?」
「いいえ、気にしないで。ただ貴方の話を聞いてたら悩んでいる自分が馬鹿らしくなっただけよ」
そう言い終えるや否や、踵を返して歩き出す彼女。
「……私も帰るわ。……そういえば、4月にあった賭博の件、私は本人達の自業自得だと思っているからどうこう言う気は無いけれど………いずれクラスとして借りは返させて貰うわ」
スタスタ…──
去り際にそう言い残し、彼女は立ち去っていった。
(兄妹揃って、言い逃げ好きだなぁ………さて)
◇◇◇◇◇
「出て来いよ……出ないと、大声出しちゃうよー、不審者がいる!ってさ」
堀北の後ろ姿を見送っていた将人は、物陰からこちらの様子を伺っている人物に対し、声をかけた。
「……すまない、お前と生徒会長の取っ組み合いを見て、動揺して身がすくんで動けなかったんだ」
「いや、すげー無表情でそんな事言われても……君は?」
(なーんか、既視感のある独特の雰囲気なんだよなぁ……)
姿を現したのは、茶髪で無表情な男生徒だった。上級生ではなさそうだが同学年だろうか。どこか大人びた……というか、熱を感じない落ち着いた雰囲気を持っている。
「俺は綾小路清隆だ……堀北と同じ1-Dの生徒だ」
「……聞いてたかもだけど、俺は北条将人、同じ1年生」
初めて会うはずの男に覚える、謎の既視感。数秒、頭を悩ませるが……ある男を思い出した。
(綾小路……思い出した、俺がまだ10にも満たないガキの頃、“あるプロジェクトに協力して欲しい”って、話に来た男がそんな苗字だったな……爺さんが直々に会ってたから、珍しくて記憶に残ってるんだ)
北条家、総帥“
将人の祖父であり、北条グループを率いて大躍進させた歴代北条家当主の中でも、指折りの才覚を持つ怪物。
将人の父にグループの主だった運営を任せて以降、表舞台に出ることは殆ど無くなった。そんな彼が直接対応するなんて、途轍もなく珍しい事だったので将人の記憶に強く残っていたのだ。
(コイツ、あの男の親類?………いや、流石にそりゃ無いか)
そんな偶然あり得るはずがない。将人は、そう思い直し思考を元に戻す。
「………ま、もう時間も時間だし、お互い寮に帰ろうぜ? そろそろ俺も、おねむの時間だから」
「…そうだな」
2人が去った後には静けさだけが残った……。
──…
『清隆、覚えておきなさい……力を持っていながら、それを使わないのは愚か者のすることだ』
『……はい』
綾小路との関係 ※ここ次第で展開が大きく変わるので、ある程度の票数が溜まる迄、様子を見ます。
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敵対:WR vs 綾小路 vs 北条
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敵対:綾小路 vs 北条(対WRは協力)
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協力:……問題児2人、ただし最強