幸せ四妖精   作:松雨

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今話は魔理沙視点です。


懐かれ魔理沙

 この間香霖に頼んでおいた、愛用のミニ八卦炉の定期メンテナンス及び強化が終わったとの知らせが来たため、今日の夕方に香霖堂へ足を運んでいた私。

 

 二言三言軽めの会話を交わし、用事も済んだということでさあ家に帰ろうと振り向いた刹那、敷地に生えてる大木の後ろからひょっこり顔を出し、こっちをがっつり見ていたメノの姿を私は発見する。

 

 どうしたのかと思って覗いてみたら、案の定三妖精の面々も勢揃い。私か香霖を驚かせたかったのかもしれないが、それなら能力でも使えば普通に後をつけるよりは楽勝だったろうに。

 

 ただ、話を聞いてみたら別に私や香霖を驚かせるつもりは微塵もなく、単純に私と遊びたくて声をかけようと機会を窺っていただけ。そもそも、私の後をつけていたなんて事実はなく、ここで見かけたのも偶然だったらしい。

 

 よく考えたら、スターとメノはメイドの仕事終わりだったか。その割には元気というか、メノに至っては不完全ながら強化形態になってるが。

 

「ありがとね、魔理沙! お礼に、部屋のお片付けと掃除なら僕に任せて!」

「いや、家の片付けをメノ1人に丸投げはヤバい。てか、メイドの仕事終わりなんだろ? いくらそうなってたって」

「魔理沙。メノなら大丈夫というか、むしろ発散させないと多分サニーみたいに高ぶり過ぎて、私たちを振り回す羽目になるわ。別にそうなったらなったでいいけどねー」

「確かに、否定はできないわ! 心当たりがあり過ぎるもの!」

「まあ、本人が気乗りしてるなら……よろしく頼むぜ。メノ」

 

 私としては、この後に用事とかがある訳でもなく、異論もないので四妖精全員を家に連れていくことにしたんだが、それにしたってメノの元気がヤバい。

 

 用事が済んで店の中に戻ろうとした香霖を引き留め、らしからぬ強引さで「ねえ、霖さんも遊ぼ! 遊ぼ!」と迫り続け、根負けさせて同行させることに成功している程には。

 

 基本大人しめだからこそ、そのギャップが大きいってことなんだろうが、その辺を無視すればテンションが高くなったサニーやチルノ、春真っ盛りなリリーの方が大分周りを振り回している。

 

 まあ、紅魔館のメイド妖精たち171人が書いた、自身の誕生日を祝うための似顔絵やメッセージを纏めた1冊の本なんてものをもらえば、メノもそりゃあ嬉しくもなる訳だ。

 

「はーい! あっ……その、霖さんごめんね。後、ありがと。こうしておいてなんだけど、不快だったかなって思って……」

「大丈夫。君がこうして頼み込んでくるのも、相当珍しいからね。ただ、流石の僕も疲れてしまうから、しょっちゅうは頼まないってことを覚えておいてくれ」

「うんっ! お詫びに、明日は霖さんのお店のお掃除とか整理整頓するね! それ以外のこともお願いされればやるけど……もしかして、僕は要らない?」

「ふむ……じゃあ、よろしく頼もうかな」

「分かった! 任せといて!」

 

 なお、相応に強引なやり方で同行させたことを、心の中で多少なりとも気にはしていたようで、対価として無償での家事能力の提供を明日行うと約束することで手を打っていた。

 

 一応、明日も紅魔館でメイドの仕事をする日で、時と場合によっては美鈴なり咲夜辺りにおんぶされ、家に送り届けてもらうなんて展開になるかもしれないのに、自信を持って宣言するとは。

 

(香霖も、別に対価は要らなかったんだろうな。メノが必要以上に負い目を感じないように、敢えてってことだろう)

 

 私も人のことを言える立場じゃないのは理解しているけれど、香霖堂の中は汚くはないが色々と物などが散らかっている。時々外出し、無縁塚や最近では理想郷を含む場所から拾い物をしているため、仕方ないと言えばそう。

 

 捨てるなり売るなり、何なら魔道具に加工とかすればいいのにとは思うが、こればかりは本人の意思次第。私がどうこう言うことでもないか。

 

「とうちゃーく! えへっ、魔理沙のお家!」

「わっ、メノ!?」

「ははっ。まるで、初めて来た時みたいな反応だな。別に大して変わっちゃいないのにさ」

「大好きな魔理沙()家だからだろうね」

 

 で、特に何事もなく家に帰れた訳だけど、その瞬間に肩車していたメノが私から飛び降りると、近くに居たルナの手を取って慣れた足取りで中に入っていく。サニーやスターも、そんな2人の後を楽しそうに追っていった。

 

 あのテンションの高さ、ただでさえ散らかっている私の魔法研究室やら自室が、より一層めちゃくちゃに散らかされそうで少し心配だ。いかにメノとて、はしゃぎ倒す三妖精には色々な面で勝てないだろうし。

 

 とはいえ、爆発するような危険物も大切な研究成果も、ちゃんと保護してある。急いで後を追うべきか考えたが、まあそこまで急がなくても大丈夫か。

 

「お片付け、お片付け~……わ、サニー! それ、魔理沙のりんご……あっ」

「冷たくてあっまーい! メノにはこっち、スターにはこっちをあげるわ!」

「もぐもぐ……わぁ、美味しい! 理想郷のりんごと同じくらい!」

「んっ!? ごぼっ、げほっ……これ、私の方にわさび入れたでしょ!?」

「入れたわよ! この間の仕返しも兼ねてるけど、妖精はイタズラしてなんぼだもの!」

「サニー、いつの間にわさびチューブ(イタズラの定番アイテム)持ってたの? あっ、このりんご甘くて美味しい」

「私だけしてやられるなんて、不覚だわー。けほっ」

「でも、仕返しはおしまい! スターにも勿論美味しい方はあるわよ! 少し多めね!」

 

 だが、家の中に香霖と入った刹那に見えたその様相に、私はこいつらのイタズラ好きな性格を、長い付き合いにも関わらず甘く見ていたと言わざるを得なかった。

 

 メノがさっきの約束通り、散らかっているものを片付けたり掃除をしてくれてる最中、他の3人はにとりの冷蔵庫からりんごを出して勝手に食べ、コーヒーやジュースなどの飲み物を飲み、互いにイタズラし合ってはしゃぐなど、他にも色々とやってくれてたからである。

 

 当然、そんなことをすれば片付けた側からあちらこちら散らかる訳で、何なら四妖精が家に来る前よりも酷くなる始末だ。

 ただまあ、あいつららしいっちゃらしいし、こうなることを承知の上で家に招いたのは私、なおかつ毎回こうなる訳ではないので、本格的にヤバくならない限りは遠い目をして見守ることにしよう。

 

「魔理沙。僕でもいいけれど、君がそろそろ声をかけてみたらどうだい?」

「ああ、そうだな。香霖」

 

 なお、こんな状態になってもメノはサニーたちに怒るどころか、イライラする素振りすら見せない。

 

 恐らくは、こうして盛大にはしゃぐサニーやスター、1歩2歩引きつつもこの状況を楽しんでいるルナを見ていて、幸せな気持ちになれているのだろう。

 

 だが、同時にかなり複雑な心境でもあるらしい。私の方をチラ見する回数が増え、手のひらに青い光を放つ水の泡を出しては消してを繰り返したり、ひそかに物を私の自室や倉庫に移すなど、そんな行為をする頻度が増えている。

 

(何にせよ、これだけ高ぶってる三妖精に大人しくしていろってのが、まあ無理な話だったな。私の家以外なら、あるいは……)

 

 約束しお願いされた以上、魔理沙()の部屋を綺麗にしてあげなければならないが、サニーたちがはしゃいで遊ぶ状況下では厳しい。というか、気づけば自分も少なからず一緒に遊んでしまっている。

 

 不完全とはいえ、強化形態特有の黄白色の光がぐっと弱まっているのを見るに、大分揺らいでいるのは分かった。

 

「よーし、お前ら。そのりんご食べたら、私と庭で鬼ごっこしようぜ! 香霖も一緒にぐえっ!?」

「楽しそうね! 魔理沙が鬼? それとも私たちの誰かかしら?」

「ぶっちゃけ誰でもいいわ、サニー。早く決めちゃいましょー」

「なら、私でもいいけど……ん? メノも、魔理沙と鬼ごっこやらない?」

 

 という訳で、場を仕切り直すために私がこう声を張り上げてみたところ、思惑通りに三妖精はこっちに意識を向ける。向けてくれたのはいいんだけど、3人一気に飛びついてくるのは勘弁して欲しかった。

 

 私が妖怪ならともかく、実際は普通の人間の魔法使い。非常時ならともかく、平常時にいくら子供の体躯である妖精でも、3人分の重さが一気に身体にかかればキツいなんてものじゃない。

 

 ただ、それを無視するならこの状況自体は嫌ではない。

 

 たまに可愛げのない強烈なイタズラはするし、しょうもない理由での喧嘩もそこそこするが、三妖精は一緒に遊んでいて楽しいと思えるような、可愛げのある性格と仕草の私の大切な友達だから。

 

「やりたいけど……魔理沙、本当にいいの? 僕、約束したのに全然お掃除もお片付けもできてないよ……?」

「おう、放り出しても構わないぜ。私と香霖、四妖精で遊ぶ方が今は重要だろ?」

「ほらねー。当の本人がこう言ってるんだから、メノも鬼ごっこで遊びましょ!」

「……うん!」

 

 と、遊びたいって気持ちと自分がした約束の狭間に苦しむメノも誘った後は、ひとまず庭に出てどういうルールで遊ぶかを決めにかかる。

 

 ただし、そうは言っても能力や魔法を使ってはいけない、魔法の森ではあれ私の家の敷地内では当然飛ぶことができるが、それも禁止と言う感じですぐに決着がつく。鬼役も、最初はルナがやってくれることになったから、じゃんけんする必要もなくなった。

 

 これで、平等さは限りなく保たれる。本当は私や香霖にもう少しハンデをつけるべきかとも考えたが、そんなもの要らないって四妖精全員にはっきりと言われたのでやめた。勝ち負けよりも、楽しいか楽しくないかを重要視してるってことなんだろうな。

 

「メノ! 大人しく私に捕まれー!」

「えへへ、やーだよ! ずっと逃げちゃうもんね!」

「ルナったら、メノばかり狙ってる! きっと、さっき少し遠慮がちだったからだわ!」

「真面目な妖精だもんね。そう考えると、悪いことしたわー」

 

 しかしまあ、始まってからルナは主にメノを狙っていて、こっちを殆んどと言っていい程狙ってこない。これも、ある種メノのためではあるらしいが。

 

 で、妖力はチルノ並みで飛行速度は私並みなメノだけど、他の純粋な身体能力や技術などはその時々の気分や状況で、いとも簡単に左右するくらいには殆んど差がない故に、こうして観察する余裕すら生まれるのも当然か。

 

(メノのためなのは確かだが、他にも理由はありそうだな。こいつは)

 

 とは言うものの、そうやって油断しているとロクなことがない。こういう遊びにしろ弾幕ごっこにしろ、こっちが有利な盤面に持ってこれてもそれだけで状況がひっくり返るなんて場面は、さほど珍しい現象でもないのだ。

 

「はい、タッチ。次の鬼役はサニーだから」

「ええ! ルナに見事にしてやられたわ!」

「ふふ。全然残念そうじゃないね、サニー」

「ゆるふわ勝負だもの! 楽しければ何でもよしよ!」

 

 ほら。サニーが隙を晒したのを見逃さなかったルナが、メノを追いかけるのを止め狙いを定めてから10秒続いた追いかけっこの結果として、鬼が変わることになった。

 

 意図的かそうでないかはともかくとして、1番狙われていなかったのがサニーだったから、無意識に油断して集中力を欠いていたのだろうか。

 

(おっ。次の狙いは私だな?)

 

 さてと。はっきりと目が合ったことだし、このままじっとしていれば数秒後に次の鬼にされてしまいそうだから、手早く逃げなければな。

 

 案の定、いつも飛びついてくる時のように「魔理沙~!!」と叫び、ニッコニコで駆けてきたサニーを見ると同時に、私は「」と言いながら逃げ始めた。




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