楽しくて幸せな時間は、得てして過ぎるのが早く感じるもの。逆に、嫌でつまらない時間になると途端に流れが遅くなるものだ。
何故今こんなことを考えてたかと言うと、子供たちに誘われ、寺子屋の中庭で球遊びを始めてから
で、すぐさま子供たちに「お前たち、そろそろ授業の時間だぞ」と声をかけてきて、解散することになったからである。
「あー、楽しかった! もっと遊びたかったわね、ルナ!」
「うん。でも、勉強しに来てる以上は仕方ないこと。疲れもあるし、他のことして遊ぼう」
「ええ、そうね!」
ほぼ全員が前からサニーたちやチルノ、大ちゃんや小鈴とも仲良しかつ、僕相手でも優しくしてくれる子供たちが相手だからか、30分程度じゃ正直全然遊び足りない。
僕たちと同じ思いを抱いていたのか、球遊び上手な女の子を筆頭とした子供たちの大半も、もっと遊びたそうにしてたしね。
「それにしても……メノ、ぶっつけ本番の割には上手だったわね!」
「えへへ、皆の気遣いのお陰だよ。ありがとね」
「蹴鞠のこと知ってたのも多分大きかったよな! 知ってるからって、ちゃんと動けるってことにはならないけど!」
「つまり、メノには素質がある。何回もやれば、きっとサニーくらいはできるようになるよ」
しかし、慧音先生の有無を言わせずとまでは行かずとも、わがままを許すことはできないって意思が伝わるその目で見続けられて、それでもなお遊ぶって選択肢を選べる子は居なかったなぁ。視線を向けられる対象ではなかったけど、当然僕たちも同じであった。
まあ、ここで遊びたいと強く何度も主張したとしても、最終的には確実に慧音先生にお説教されるだろう。
仮にされなかった場合でも、多分今日の話が皆のお父さんないしお母さんに行って、家に帰るや否やお説教されるのがオチになる。結果、せっかくの楽しい気分が台無しになるのは間違いない。
そもそもだ。あの球遊び自体が、鞠を爽快に蹴れる程の広い場所を用意しさえすれば、いつでもできる遊びの1つだってことを考えてみよう。
尚更、慧音先生や自分たちの
「慧音先生、厳しいけど心が優しい先生だよね。僕の学校、あの人が担任の先生だったら楽しかったのかな」
「どうだろ? 分からない! ただ、少なくとも辛い思いはせずに済んでたと思うぞ!」
「いざという時、自分を守ってくれる
「今の身近な人妖で例えるなら、魔理沙とかレミリアとかよ! 本当、2人が表舞台に出てくる前と後とじゃ安心感の桁が違うわ!」
「種族の面から見ても、まあ大人じゃないけどねー。2人とも」
ただ、慧音先生のお説教は確かに怖そうだけど、怖い中にもこう暖かくて軟らかいものを感じる気はする。あの目で見られてた子供たちの誰も、極度に怯えたり距離を置こうとするみたいな仕草を見せていないもの。
あの人たちのように、お説教というか怒る時に冷たくて刺々しい何かを感じさせていれば、どこかのタイミングで必ず仕草が出る。表情にも出る。
僕だって、ウルの助けがなければ過去のトラウマのせいで、今より仕草にも表情にも遥かに多く、遥かに大きく出てしまうことになってただろうから。
なお、その少ないはずの『今』も、身体的にも精神的にも元気なサニーたちとかから見てみれば、トラウマ由来の仕草や表情が表に出てくる頻度は多いと、厳しい判定が下される訳なんだけど。
「うーん。メノウちゃんとなら、相性は――」
「おやおや、随分と楽しそうですねぇ。メノウ」
なんてことを考えながら、小鈴に僕と慧音先生の相性について聞いていたその時、僕たちの目の前にカメラとメモ帳を持った文さんが降り立ってきた。
何かの取材にでも来てたのか、もしくは今から僕たちに取材しに来たのかな。その表情は真剣ながらも、どこか楽しそうにしている。
妖怪の山所属の鴉天狗さんとしての仕事をこなしつつ、あの『文々。新聞』を定期的に発行するためのネタ探しに、年がら年中幻想郷を駆け回るそのバイタリティーは、僕としても尊敬できるところだ。
(わぁっ、文さんに会えた!)
ただ、僕の積極性が足りないのもあるけれど、お互いの仕事とか趣味の違うから普段は中々会ってお話ししたりできないし、遊ぶことはもっとできてない。
じゃあ、僕の方から会いに行くのはどうなのかって言ったら、霊夢や魔理沙、サニーたちからも妖怪の山って場所柄おすすめはできないって言われてるから、あんまり気が進まない。
何よりも、文さんが「あんまり来ない方がいいかもしれませんねぇ」と、そうはっきり言ってたのだから尚更ね。
ならば、このチャンスを逃さずにできるだけ沢山お話ししよう。文さんへの気配りはもとより、サニーたちをおざなりにすることのないように、自分をコントロールしていかなきゃ。
「えへへ。家族のサニーたちはもとより、チルノと大ちゃん、小鈴が一緒だからとっても楽しい! 幸せ!」
「ええ! 私たちも、メノと一緒に遊ぶと楽しいし幸せだわ! ぎゅーっ!」
「じゃあ、せっかくだから私もメノちゃんに……ぎゅっ!」
「わっ、ふにゃぁぁ……!」
なんて思いながら文さんとお話しをしていたら、楽しくなってきたんだろう。サニーと大ちゃんが、僕にぎゅーってしながら頭をなでなでしたりしてきたのだ。
広いとは言っても道の真ん中、人通りがそれなりに多い場所で仲良し家族ないし、親友クラスの仲良し同士でのやり取りを堂々としてれば、向けられる人の目が多くなるのは当たり前。
ただし、絶対に目立ちたくない訳じゃないけど、そこまで目立ちたい訳でもないからちょっぴり気にはなるかも。
でも、例えばこの場で着替え始めるみたいな、常識から大きく外れた恥ずかしい振る舞いとかでもないし、こっちを見てる人間さんたちの目は、微笑ましい子供を見るような目だ。
というか、サニーと大ちゃんが幸せそうだし、周りで見ているスターとルナとチルノと小鈴、文さんがニコニコであるならば、他の人たちがどう見てるかなんて僕にとっては二の次三の次。
「にへへぇ……2人とも。あっちの長椅子で、一旦座ろ? かき氷とあそこのジュース、僕が奢るよ」
「えっ。メノちゃん、本当にいいの? 私の分くらい出せるのに」
「いいよ! 大ちゃんとサニーのためなら、この程度は安いもの」
「わーい、ありがとうね! 冷たくて美味しいかき氷、ご馳走さま!」
だけど、流石に道の真ん中は邪魔だよねという訳で、ちょうど見つけたかき氷のお店の前に置いてあった長椅子に誘導した。勿論、2人以外の皆にも休憩がてら座ってもらう。
とは言うものの、あれは買ったかき氷を外で食べたり、すぐそこにある無人販売で買った飲み物を飲みたいお客さん用の椅子だろうから、ちゃんと座る皆の分のかき氷とかりんごやみかん、ぶどうジュースを買わなきゃ。
「スターたちの分も、文さんも欲しいならいいよ! だから、皆でゆっくり休憩しよ?」
「そうねー。ふふっ、かき氷ご馳走様。メノ」
「ありがとな! じゃあ、あたいが皆の分のジュース買ってくる!」
「では、お言葉に甘えて頂きましょう。ちょうど、新聞のネタ探しがてら聞きたいこともありましたしね」
ということで、チルノが代わりにジュースを買ってくれるみたいだから、皆の分のかき氷は僕が買ってこよう。味のリクエストは誰からも特にされなかったので、王道のいちご味でいいかな。
(並んでる……人気のかき氷屋さんだったのかな)
ちなみにだけど、今日は昨日やおとといと比べれば暑い上に、夜中に雨が降ったからか湿度も高い。
時間帯的に、子供たちの数は少ないけど居ないって訳じゃないし、何より紅魔館のメイド妖精さんや大人の人間さんの数が多い故に、並ぶ時間はかかりそうだ。
しかも、僕が並んでからも後ろにはどんどん人や妖精さんたちが並んでるし、早めに並べてよかったよかった。
「いらっしゃい、噂の白い妖精ちゃん」
「こ、こんにちは! えっと、いちご味のかき氷を8つください!」
「はいよ。あそこの家族とお友達……チルノちゃんも居るのか。相変わらず元気だねぇ」
「はい! えっと、お金お金……えっ?」
そんなこんなで待つことおよそ25分、ようやく僕の番が回ってきたので、白いねじり鉢巻を巻いた大きなおじさんに皆の分のかき氷をリクエストして、お金を渡す。相当量が多い割にかなり安いお値段だった上、チルノの分だけは無料にしてくれたからびっくりした。
(お得意様だったんだね、チルノ)
思わず尋ねたら、今現在ここのお店で使う氷の供給源が殆んどチルノだからとのこと。どうやら、既存の調達手段よりも圧倒的に早くて多く、かつ良質な氷を湯水の如く出してくれるお陰で、極限まで安くできるんだとか。
確かに、チルノの出す氷はとても綺麗な天然物だ。僕の家でも色々なところで使ってるし、ルナなんか「アイスコーヒーは、チルノの氷が1番だわ」って言うくらいだもん。
しかしまあ、本当にチルノは凄い妖精さんなんだなぁ。
「はい、お待ちどお! 今日は暑いから早めに食べな……まあ、チルノちゃんが居るから大丈夫か!」
と、多種多様な飲み物を持ってきて皆に配り、自身もりんごジュースを美味しそうに飲んでるチルノを見ながら思っていると、おじさんがあっという間に8個のかき氷を完成させてくれたことに気づく。
勿論、おじさん以外にも3人の店員さんが氷を削っていたからこそ、これ程までに早かったというのを忘れちゃいけない。
「みんなー! かき氷できたって!」
「ん? わ、定番のイチゴ味! へへっ、甘々で美味しいからあたいこれ好きなんだよな!」
「待ちくたびれたわ。サニー、ルナ、大ちゃん。早く食べましょー!」
「ええ! 安いのに大盛りだから、食べごたえあるのよね!」
「うんうん。甘々な手作りイチゴ味シロップ、ふわふわ氷になる削り方ができるおじさんたちが居てこそだけど」
「そうだね。後、頭がキーンってならないように、ゆっくり食べよう。サニーちゃん」
で、大勢の人で賑わう中大声でかき氷が完成したって呼びかけると、チルノを筆頭に皆がドタドタとこっちに走ってきて、各々1つずつかき氷の器とスプーンを持っていき、椅子に再び座ってバクバク食べ始めた。
ただし、文さんだけは大人というか大妖怪さんだから、メモ帳を懐に閉まった後普通に落ち着いて自分の分を持っていって、スターの左隣に腰かけて食べる。表情を見る限り、好きな味みたいでほっとひと安心。
「ん~! 暑い身体に染み渡る美味しさだね、ルナ」
「うん。こんな日だから、余計にスプーンが進むわ。もう1杯……食べ過ぎ?」
「確か、例の駄菓子屋で沢山食べたんですよね? なら、気持ちは理解しますけど、一応控えた方がいいかもしれません。メノウもです」
「分かった。文の言う通りにする」
「だよね。この後も色々遊ぶんだし、途中で辛い思いしちゃったら嫌だもん」
「私も、阿求とお祭り行った時に食べ過ぎでお腹下したことあるから、分かるよ! あれは本当に、楽しい気分をぶち壊す辛さだったなぁ……」
「かき氷とかアイスみたいに、甘くて冷たい食べ物を?」
「そう! 助けてくれた霊夢さんにも「あんたねぇ……」って、ジト目で言われたのよね」
なお、僕の座る位置は小鈴と文さんの間。本当はサニーがそこに座ってたんだけど、僕のことを気遣って退いてくれたのだ。お日さまのような笑顔で、「この方が、友達同士話しやすくていいでしょ!」と。
しかもだ。チルノや大ちゃんも僕が小鈴を嬉しそうに誘い、文さんが話しかけてきた時に嬉しくなったところを見ていたからか、サニーの一言を聞いて頷いてくれていたのである。
サニーやスターやルナだけでなく、僕とも沢山お話ししたいだろうに、それをおくびにも出さずにいてくれるなんて。
ありがとう。元々そのつもりだったけど、2人が僕にやって欲しいこととして何と言ってこようと、絶対にやってあげなきゃね。
「ひうっ、一気に食べ過ぎて頭が痛いわ……!」
「もう、サニーちゃんったら。忠告したのに……」
「あはは! 冷たくて甘々で美味しいもんな!」
「あやや、平和な夏ですねぇ」
1つ目を完食し、いつの間にか自分のお金で買ってた2つ目のいちご味かき氷を一気に食べたせいで、顔をしかめるくらいに痛がるサニー。
で、それを少し呆れ顔になりながら見ている大ちゃんに、かき氷を食べたりしながら楽しくのんびり見守ってるチルノと文を見ながら、僕は頭の中で改めて決意をするのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。