僕が、幻想郷に妖精として生まれてから1年という時間が経つまで、今日も入れて後2日。何だかんだ楽しく幸せに過ごしていたからか、気づけばもうこんな時期になっていた。
前世の頃の1年間といったら、それはもう長くて長くて仕方なかった。何の楽しみもなく、心が温かくなる幸せはもっての外、むしろ真逆の感情ばかり抱いていた覚えしかない。
色で例えるなら、濃い灰色。猫ちゃんぬいぐるみ、もとい憑依していたウルのお陰で何とか心を保てていたに過ぎない状態だったから。まあ、それだけじゃなかったとはいえ、柱となっていたのは間違いないけども。
「そうそう、上手いじゃないの。やっぱり、手先が器用なだけあるわ。覚えもいいし」
「料理とお菓子作りで大分霞んでますけど、メノウちゃんって縫い物も上手ですしね」
「家事に関わる事象なら、まさに一騎当千だからねぇ」
「うんうん、間違いない。メノの家事力はスターと並んで、妖精随一……2人居ても随一って呼べるっけ?」
「えへへ。レミリアと美鈴の教え方が、とっても上手だからだよ。ありがとね」
しかし、今世は違う。今までの不幸せは一体何だったのか、質の悪い夢であったのかと言わんばかりの楽しさと、舞い上がるくらいの幸せしか味わっていない。色で例えるなら、まさに桜色。
勿論、空想の存在だと思ってた妖精の、しかも女の子として生まれ変わったことへの戸惑いはあったけど、それもすぐに慣れた。
これは、どう考えても怪しい妖精だった僕を、仲間もとい家族として受け入れてくれたサニーとスター、ルナの存在があったから。
3人が、もし元というか前世が人間の男の子だったって秘密も含め、全てを受け止めてくれる程の度量の広さを持つ妖精さんでなければ、間違いなくこうはならなかっただろう。
後はそう。チルノを筆頭とした妖精軍団、魔理沙に霊夢、レミリア率いる紅魔館の住人たち、ゆゆさんに妖夢、霖さんにアリス、文さんに小鈴、ルーミア一行。家族同然の存在、大好きな友達との太い縁を繋ぐことができたからなのもある。
これらによる幸せに比べれば、種族や性別の違いによる戸惑いなんて大したことはない。直接触れば大火傷する程の熱湯や油でも、コップ1杯程度の量では湯船に溜めた冷水ですら、温めることができないみたいなものかな。
「それに、パチュリーもだよ。パチュリーの魔法の助けがなければ、きっとすぐに駄目にしてた」
「どういたしまして。それにしても、理想郷の魔法植物で花冠を作ってプレゼントとはね。確かに、これなら特別感も増し増しになるわ」
「チルノちゃんも大ちゃんも、きっと喜ぶでしょう。レミリアお嬢様」
「ええ。材料集めから製作まで、補助ありきとはいえ全てをメノウがこなしているのよ。喜ばないはずかないわ」
「右に同じく。むしろ、凄いびっくりさせることになるかも」
ちなみに今日、紅魔館のメイド妖精としての仕事はお休みだけど、チルノと大ちゃんへ手作りの花冠をプレゼントするため、レミリアに製作協力をお願いしに紅魔館へ訪れていた。
1日かけて理想郷各地で集めた材料を、用意した2つの魔法のバスケットに詰めて携え、今日も僕とお出かけしたがってたルナと一緒に来ている。
そうしたら、何やかんやで暇を持て余していた美鈴に、レミリアが念のためにと呼んだパチュリーまでもサポートしてくれることになったのだから、もう最高。
お陰様で変に拘ったにも関わらず、レミリアの言う普通のお花で作る花冠と殆んど変わらない早さで完成させ、チルノと大ちゃんにプレゼントすることができそうだ。
「しかしまあ、理想郷は本当に天然の良質魔法素材の宝庫ね。そう考えると、1度はあそこが滅びかけていたって話が、眉唾物に思えてくるわ」
「うんうん。私も初期の頃、スターやサニーと一緒に冒険しに行ってたから信じれてるけど、そうでなきゃ多分同じだった」
「普通なら、1年にも満たない時間で甦る訳ないもんね。理想郷、1つの世界レベルで広いんだもん」
ちなみに、材料として使うつもりで理想郷から採ってきたのは2つ。1つ目は、氷みたいな性質と見た目の透き通った青い色の花を咲かし、冷気そのものや雪・冷水を栄養源とする氷睡蓮。
本当は別の名前がちゃんとあるらしいけど、長ったらしくて言いづらい上にここが幻想郷ということで、こっちでも馴染みやすい呼び方に変えたらしい。
2つ目は、特段強い風の魔力を帯びていて、緑色の小さく薄い花を咲かし、綺麗な水と空気もしくは純度の高い風の魔力を糧として育つ、大風カーネーション。
こっちのほうも、1つ目の氷睡蓮と同じ理由で翡翠の妖精さんがこう呼んでるだけであって、本当は別の名前で呼ばれている。
前者は強い冷気と氷の力を持つチルノの花冠に、後者は風の力が強く水の力も相応な大ちゃんの花冠にお勧めだって、翡翠の妖精さんに言われたから選んだけど、これを選んでよかったよ。
(にひひっ!)
なお、他に集めた材料も十分可愛くて良さげだったけど、あんまり多く作ったってしょうがないよねって思って、余った分は全部パチュリーと欲しそうにこっちを見ていたメイド妖精さんにあげた。
パチュリーは魔法の材料とかに使うんだろうけど、メイド妖精さんの方は何に使うんだろう。僕みたいに、花冠とかアクセサリーにでもするつもりなのかな。
まあでも、2人とも大袈裟なくらいに喜んでくれたから、使い道なんて別に何でもいいや。
「ありがとう、レミリア。美鈴にパチュリーも、時間を割いてくれて」
「この程度、お安いご用よ。メノウは紅魔館に住み込みじゃないだけの、うちの家族なんだから」
「いつもお仕事頑張っていますからね……おや? ふふ、レミリアお嬢様。メノウちゃんを見てください」
「あら……ほら、おいで。ぎゅーってしてあげる」
「わふ……! ぎゅーっ!」
「嬉しそうだね、メノ。でも、1番の家族の座はサニーとスター以外には渡さないよ。レミリア」
「分かってるわよ、ルナ。ねえ、メノウ?」
「うん! 後にも先にも、サニーとスターとルナが1番だから!」
言わずもがな、忘れてはいけない。たった1日という長くも短い時間で材料集めからここまで漕ぎ着けられたのも、今日は魔理沙と一緒に外出してて居ないサニーとスターの協力、理想郷を熟知している翡翠の妖精さんのサポートがあってこそってことを。
僕1人、ないしルナと2人だけでは倍……いや、3倍以上の時間がかかり、花冠の質が落ち、明後日のお誕生日会に支障をきたしていたに違いない。
僕の時間が溶けていくだけなら別にいいんだけど、お誕生日会で祝われる側である以上そうはいかない。体調を崩した結果、参加してくれるはずだった皆の大切な時間まで溶かしてしまう羽目になりかねないから。
「ぐるっと回して、最初と最後のところをきゅっと結んで、強めに冷気と水をしゅっとわわっ! 変な紋様が出ちゃったけど、大丈夫かな……?」
「パッと見大丈夫とは思うわ。というか、メノウって植物の生命力の流れを深く感じ取れるんじゃなかったかしら? 理想郷の不思議な魔法の植物でも、同じ『自然』である以上は変わらないはずよ」
「あっ、うん……わぁ、凄い元気そう」
「あら、よかったわね。パチェの言った通りだったってことで」
「うん。だけど、こんな簡単なことに気づけなかったなんて……」
「まあまあ。でも、これで1つ勉強になってよかったじゃない。何かあっても慌てずに、落ち着いて対処することの大切さを」
よく考えてみよう。お誕生日会を楽しんだ果てにぐったりしたのなら、よっぽどのことがない限り皆も微笑ましく思ってくれるだろう。で、そのまま最後まではしゃぎ倒すって展開になる。
しかし、始まる前から妙にぐったりしていて、元気がないともなれば話は別。お祝いしてあげようといざ来てみたら、その相手が何だか調子悪そうにしているともなれば、普通なら心配になってそれどころじゃなくなる。
当然、そのままお誕生日会はお開きになるだろうし、仮に開催したとしてもお祝いしつつ自分たちも心から楽しむ気分ではなくなってしまう。
もし僕が、愛する家族や友達の誰かをお祝いをする立場に立っていたならば、間違いなくそうなるから。
(……)
そもそも、チルノと大ちゃんは花冠を欲しいとは言ってたけど、お誕生日会までに欲しいだなんて微塵も言ってないし、態度に表したりだってしていない。
にも関わらず急いでるのは、お誕生日会前に作り終えてお返しをしたいって僕の気持ちが、抑えられていないから。だからこそ、普段なら気づける簡単な事柄にも、パチュリーに言われるまで気づけずにいたんだしね。
「よしっ、完成! どうかな?」
「バッチリですよ、メノウちゃん」
「これ、大ちゃんが着けても似合いそう。冷た過ぎなければなぁ」
「氷みたいな性質のお花だもんね。後、ルナでも似合うよ」
「えへへ。それを言うなら、メノでも同じだね」
そうして、作業開始から1時間弱。蒼氷の渓谷で採ってきた氷みたいな花の性質に悪戦苦闘しながらも、何とかチルノにあげる分の花冠を完成させることに成功した。
ただし、チルノにあげるその時まで冷やしておかないと、氷睡蓮自身が蓄えていた冷気を使いきった途端に萎れ、溶けるようにして枯れてしまう。
そこまで柔な植物じゃないにせよ、完成させたからといって気を抜けば、花びらも葉も全部消えることになりかねないから気をつけなきゃ。
さっき強めの冷気と冷水を浴びせたお陰で、元気ハツラツになってるとはいえね。
(ふぅ、少し疲れたかな? でも、2人のことを思えばまだまだ……!)
さてと、完成した作品を閉まった後はすぐに、大ちゃんの分の花冠製作だ。作り方自体はチルノの花冠と一緒なので、少し慣れた今ならもう少し早く完成させることができるはず。
こっちもこっちで大分特殊な花なんだけど、氷睡蓮よりかは維持管理も楽。綺麗な水と土と空気で問題ないならば、すぐにでも僕が用意することができるから。
「うーん……何か、この妙に飛び出てる葉っぱと花びらが気になるなぁ。ルナはどう思う?」
「あー、確かに気になるね。でも、それ切ったら切ったで他のところが気になって、更に切ったらまた別のところが気になっての繰り返しにならない? 下手したら、半分くらいなくなりそう」
「かといって、今更ほどいたり作り直すのもあれよね。ちゃんと花冠の体を成してるんだし……というか、私がノーゼとスフェにあげたやつも、色々と妥協してるわ」
「上手い下手よりも、どれだけ大ちゃんのことを思って作るかが大切なんじゃないですか? メノウちゃん」
「……そうだよね。ありがと、このまま作ってくことにする」
ルナも、レミリアも、パチュリーも、美鈴も、僕1人のためだけにこうして貴重な時間を使ってまで、花冠作りに付き合ってくれてる。これは、何よりも最高の贈り物であろう。
僕が迷えば、その迷いを断ち切るアドバイスをくれるし、時には優しく手を添えてもらえてる。
もし、これらがなければどこかで判断を間違えて、台無しとまでは行かずとも満足のいく花冠からは程遠くなる可能性が高くなってた。
後は、チルノの花冠の時もそうなんだけど、初めてやること故か集中力が途切れる頻度がそれなりにあるにも関わらず、その度に嫌な顔1つせずに軌道修正してくれるし、小休憩のためだけにおやつや紅茶、コーヒーを用意してももらえてる。
こっちもこっちで、花冠作りのアドバイスにも決して劣らない、困るサポートには変わりない。ぼーっとしたりして、重要な部分を痛めたり切ったりする取り返しのつかないミスの原因を、元から断ってもらえてるんだし。
「あー、花冠かー。あたしたちの時は、いきなり後ろから被せられてさ。レミリアさまの手作りだって聞いたから、余計にびっくりしたなぁ」
「そっか……ふふ。ノーゼ、本当に嬉しそうな顔してる」
「そう! ノゼちゃん、大切にして長持ちさせなきゃって必死になってたもんね! わたしもだけど!」
「欲しいって言われてから、全然経ってないんだっけ? チルノも大ちゃんも、あたしたちみたいにびっくりするねー。もしかしたら、ハグしてもらえるかも」
それに、紅魔館の庭の休憩スペースで作ってるからか、興味津々なメイド妖精さんが見学しに来たりしてるんだけど、その相手とかも殆んど代わりにやってもらえたりしてるんだから、本当にありがたい。
今お話をしている、ノーゼやスフェを含めた全員が大切な友達だから、等しく相手をしてあげたいのはやまやま。ただ、それをしてればいつまで経っても完成させられなくなるんだよなぁ。
加えて、大ちゃんの分の花冠が完成したらしたで、今日は恐らく霧の湖に居るはずな2人に完成品を持っていくつもりだから遊べない。何気に時間も夕方だもんね。
(暇ができたら、他の皆の分も作ってあげようかな……?)
まあでも、明後日になれば僕のお誕生日会だし、何だったら明日はメイド妖精としての仕事がある。はしゃいで遊べるかは別としても、わいわい元気にお話をすることくらいは仕事しながらでもできるから、その辺はあまり心配しなくてもよさそうだ。
「えっと、前後ろをぎゅっと結んで、チルノの花冠と同じ要領で風と水の力を……あ、ぶふ!?」
「ぺっ、ぺっ……ふふ。もうっ、メノったら。目に入った。力入れ過ぎだよ」
「あはは、ごめんねルナ。レミリアたちも、勢いよく飛ばし過ぎちゃった……」
「ただの水だから問題なしよ。聖水とか、濁流レベルの流水じゃあるまいし」
「わーい、水遊び!!」
「スフェ。違うから、バケツ持ってこようとしない」
「えー、残念!」
なお、大ちゃんの花冠を完成させる最後の仕上げの際にこんな思考を巡らせていたんだけど、肝心なところでそんなことをすれば、当然しでかす。
結果、豪快に風を吹かして水飛沫を飛ばし、全員仲良くびしょ濡れになってしまうのも、至極当然の展開となるのである。
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