結論から言えば、オストガロアはかつてないほど弱体化していた。
片方の触腕は奪われ、視力を失い、体に纏う骨の殆どが剥がされていた。
───ギシャアアアァァァァァッッ!?
肉が斬れ、血潮が空を舞う。
「··········汚いですね」
そう言ってアザミは更に深く肉を抉る。
その一撃一撃に確かな殺意が刻まれる。
───死ぬ
オストガロアは絶望していた。
やっと、やっと自身を苦しめ、恐怖させてきた天敵を屠ることができた。
後は貪欲のままに喰らい続けるだけ。
邪魔する者はもう居ない。
安堵と喜びで満たされていたのに、間髪入れず自身に襲い来る何者か。
しかしこの冷たい牙を自身は知る。
あのバケモノたちが使っていた牙だ。
もう嫌だ。
自分が何をしたというのだ。
自分はただ餌を喰っていただけ。
貪欲のままに喰らい尽くし、弄び、自由に生きていただけだと言うのに、どうして自分はこんな目に合わなければならないのだ。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
───嫌だ、死にたくない。
オストガロアはすぐに逃げの体制を取ろうとする。
しかしそれをさせない者がいた。
「逃がさねーにゃ」
そう言って人で言う眉間の辺りの、骨と骨の隙間に隠れる青く光る部位に刃を突き立てるタイヤキ。
───ギシャアアアァァァァァッ!?
あまりの痛みに暴れ狂うオストガロア。
再び巨大なあの冷たい牙が自分を襲う。
───アイツだ。
視力を失い、必死に暴れ狂うオストガロアに1つの確信があった。
───殺しきれなかった。
あのバケモノはまだ生きている。
その恐怖が、痛みが、記憶全てが、オストガロアにとって絶望へと変わる。
───死にたく··········
次の瞬間、自身の頭部にゾブリと冷たい牙がくい込んだ。
「地獄で師匠によろしくお願いします」
そしてさらに深くへくい込んだ冷たい牙、忘却のオストラコンはオストガロアの意識をいとも容易く切り離した。
△ ▽ △
もうオストガロアは動かない。
濁った黄色い瞳と、流れる青い血液。
終わった。
自分の目的であり、目指すべき最終地点である復讐。
それが終わった。
ずっと苦しんできた。
このモンスターに苦しめられ続けてきた。
全てを奪われ、復讐を糧にして身体を動かしてきた。
このモンスターを殺せば、きっと自分は普通の人のように生きていける。
この灰色の世界が、色鮮やかになって、幸せになれると信じてきた。
ふと、師匠との修行の日々を思い出す。
『アザミは骨もどきを殺したらしたいこととかあんのか?』
『したいことですか?』
『そうだ』
『·········考えたこともありません』
『なら、もう一度一からハンターをやり直してみるのも良いかもな』
『え?』
『今までは近道だ、近道だけを通ってきたなら今度は脇道に目を向けてみろ』
───近道ってのは、最も遠い回り道なんだぜ。
『最も遠い··········』
『いつかお前にもわかる日が来るさ』
───復讐が終わったら、脇道を探すんだな
私にはよく分からなかった。
師匠はあまり私に答えを教えてくれない。
修行でも、狩でも、師匠は答えを教えない。
だけど、答えを探す方法を教えてくれていた。
「タイヤキさん」
「どうしたにゃ」
師匠のレウスXヘルムを持ちながら、こちらに近づくタイヤキさん。
「私、師匠の様になれますか?」
「··········無理にゃ」
タイヤキはハッキリと答えた。
「人は誰かになんてなれないにゃ、自分は自分にしかなれないにゃ」
「は、い··········」
「お前はまだ誰でもないにゃ。だからまず、自分になるにゃ」
───その方法をご主人はもうとっくに教えてるにゃ。
そう言ってタイヤキさんは背を向ける。
「ウチは怪我人を見てくるにゃ。これからどうしたいか、よくよく考えるにゃ、アザミ」
そう言ってタイヤキさんは行ってしまった。
これからしたい事。
「私は───」
△ ▽ △
〜数ヶ月後〜
「··········タイヤキさん私妊娠してるかもしれません」
「マジかにゃ」
アスタリスク装備に身を包み、背には青く輝く大剣、忘却のオストラコンを背負う少女、アザミ=スイセン。
「最近来てないんです」
「G級ハンターになってそうそうヤバいにゃ」
「ヤバいですよね」
勢いでやってしまった事。
後悔はないし、正直できてしまったものはしょうがない。
「ま、めでたい事にゃ」
「赤ちゃんの名前、タイヤキさんが考えてください」
「そうにゃねぇ··········」
「あのー質問質問」
「はい?」
突然手を挙げるギルドナイト団長。
「今する話?それ」
「え?」
周りを見る。そこには他のG級ハンター達。
中には吐血しながら頭を抑え悶える人もいれば、拍手する人、どこから出したのか筆とノートを出して何かを書きまくる人までいた。
「問題あります?」
「今G級会議中なんだけど」
「なんの問題が?」
「··········ちなみに相手は?」
「師匠です!」
元気に答えると、頭を抑え悶絶していた男【双星】が「ギビギャーっ!?」と顔面の穴という穴から血をふき倒れた。
「G級になってそうそう··········今は人手不足だが、できたものは仕方ないか··········ただでさえ姉さんが行方不明だと言うのに··········」
マリア=ライラックは眉間を抑えながらこの状況を頭の中で何度も整理した。
「とりあえず【番犬】様は最低限のクエストはこなしてもらいます。一ヶ月後には1年の産休と妊娠手当の処置をお願いします」
「わかりました」
「··········とりあえず、おめでとうございます。ですが貴方は【番犬】の2つ名を付与されたG級ハンター、それだけは忘れないでください」
「はい」
「はぁ、本当に··········誰か私の代わりになる人居ないかなぁ··········」
そう言いながら今回の古龍の大量発生による被害とこれからの対策などを話し始める団長。
私はその話を聞き流しながら、師匠の顔を思い浮かべる。
「タイヤキさん」
「なんにゃ?」
「師匠は、喜んでくれますかね」
「··········きっと咽び泣くにゃ」
「それは、楽しみですね」
地獄で再会したら、沢山話そう。
これから産まれるこの子の事、G級ハンターになってからこれからする事。
師匠に再開するとはまだ何十年も先の話かもしれない。
もしかしたらすぐ再会するかもしれない。
死ぬのは怖い。
でも
「貴方に会えるなら、それが地獄の底でも───」
笑って逝けます。
リア充に憧れて【完】
△ ▽ △
〜数ヶ月前、龍ノ墓場にて〜
───ごぽ··········
沈んでる。
俺は冷たく、くらい海の底に沈んで行く。
あぁ、やっと··········やっと俺は死ぬことができる。
きっと師匠と同じ場所には行けないけど、あの一瞬、俺は夢を叶えることができた。
俺は英雄になれたんだ。
あぁ、気持ちがいい。
このまま眠るように死ねるなら、どんなに幸せなんだろう。
そう思いながら、俺は重い瞼を閉じる。
───私を貴方のパーティーに入れてください。
ふと、アザミの顔が浮かぶ。
───ごぽぽ···············ッ
本当に俺はこれでいいのか。
───がぽぼぼぼ··········ッ
上へ上へ手を伸ばす。
だが、それでも身体は沈んで行く。
ダメか··········、あぁクソ··········意識が···············。
───ごぽ
··········?
ふと、横から何か音が聞こえた。
ダンテは音がした方に目を向ける。
視界はぼやけ、よく見えない。
───ご、ぽ··········がぽぽ··········?(て、ん··········しさま··········?)
赤い瞳の真っ白な少女。
───みぃーつけた
海の中で、そんな彼女の声がした気がした。
海の中だから、そんな事ありえないのに。
そうしてダンテの意識は消えた。
これにてリア充に憧れて【完】です。今までご愛読ありがとうございました。
いつか続きは書きますので、その時はよろしくお願いします。
それで端々のお別れです、それではさようなら。
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