肌が焼けるような熱風で、目を覚ました。
周りを見渡せば、存在する生物は自分ひとりだけだなことがわかる。
なぜか、それは、そこが瓦礫と火しか無い今にも天井が崩壊しそうな一部屋だからだ。
部屋は体育館ほどの広さがあるが、このままいれば広い空間の空気はすべて火に食われるだろう。
本能が言う。ここに入れば死ぬと。足の先まで伸びていた長く伸びた銀の髪の先を転ばないために掴み、脱出できる場所はないかと探す。
一つだけが知っていることだった。ここは知らないところだ。
頑丈そうな扉の横に、大きな窓ガラスを見つけた。動物園の強化ガラスのように大きいが、この炎が原因か、粉々に割れている窓ガラスを。
自身のヘイローが映る。時計のような針が二本あるヘイロー。
だけど、見覚えのないヒビが入っていた。
窓ガラスを乗り越え部屋をまたぐ。太ももをガラスの破片で切ったが、まだ動ける。自分の着ていた病衣(知らない)に血が滲むのを無視しながら進む。
その部屋は、分厚い辞書のような多くの資料があった。火の手はこの中にはなく、すこしの猶予ができた。大きな操作パネルが目に写ったがこの火災で壊れたのか、なんの操作をしても動かなかった。
外に出るための扉の隣にカードキーの差し込みがあったが、ダメ元で引いてみるとすんなり開いた。
どうやらこの火災でシステムがこわれて電子ロックが開いているようだ。
外に出る。
炎の光ではない、ただの光が網膜に刺さる。
目が慣れて、周りを見渡して驚いた。
瓦礫しかなかった。人も車も何もなくただ瓦礫とコンクリートの破片が散らばるばかりだった。
小さな火だけが残る、天井が消し飛び風通しが良くなった施設の残骸をまたいで歩く。
キョロキョロと周りを見てもあるのは地平線の彼方だけで、誰も見えない。
見てくれているのはおてんとさんだけで、自分以外誰もいない。
ただ、火に囲まれ裸足で歩く。
不意に、音があることに気づいた。
音に導かれ、上を見上げれば何台かの大型ヘリが飛んでいた。
何も考えず、ここにいると手をふる。
ただ、人がいると感じたかったかもしれない。
振った手に反応して、ヘリに乗っていた人の薄ぼやけた黒いシルエットが少し動いたように見えて...
肩への鋭い痛みを感じた。
ふと、顔をそちらに向ければ暖かい何かが頬に散った。
眼の前に散る血の飛沫。
理解した。理解せざるを得なかった。
撃たれたと。
「あああああああああああああ!!!!!!!」
理解は、傷をえぐられるような痛みを生み出した。
痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
血が、傷口を押さえた手から溢れ出てドバドバと乾いた地面に吸われていく。
きっと、皮一枚で繋がっているような状況なのだろう。チカチカと激痛で目の奥に星が弾ける。
理由がわからない。なぜ撃たれたのかわからない。ただ、理不尽なその激痛の波におぼれて呼吸ができない。
苦しい、息ができない。地面が顔に近くなる。
崩れ落ちたとわかった。苦しさと激痛でもはや、天と地の感覚さえない。
「うぐぇ...ひぐ...うぇ...」
痛みが脳を満たし、呼吸の仕方を思い出せない。
顔を土に埋め、嗚咽を漏らす。
その横を弾丸がかすめた。
「ヒッ」
痛みも苦しみも吹き飛ぶ恐怖が、背筋を震わした。
顔を上げる、そこにあったのはヘリで...
そこに乗ったスナイパーがこちらをスコープ越しに除いていた。
二射目が、アドレナリンで遅くなった世界を切り裂いているのが瞬き前の目に映り込む。
「ぁ」
それは唐突だった。
本当に唐突すぎて意味がわからなかった。前触れもなく予兆も伏線もなかった。
だがそれは、現実に起こった。
年季が入り少し垢汚れた、刀が、短機関銃が、突撃銃が、拳銃が、機関銃が、狙撃銃が、盾が私を中心に円を囲むように顕現。
そして盾が私を守るように、前に躍り出た。それを持つ人間などいないのに、それが当たり前だというようにこれまでもそうだった、と示すように進み出たのだ。
盾が銃弾に突き刺さる。
が、悲しいかな、そんな物など関係ないというように、20mmの弾丸は障子を破るような気軽さにその盾を食い破る。
でも、一秒の時間を稼げたからその盾の役割は果たせたのだろう。
刀が、使い手のいない刀が、その一秒で弾丸の軌道を読み取り、技術だけで弾丸を切り弾いたのだから。
何一つ理解できていない少女には、その刀の軌跡自体が芸術品のようにしか思えなかった。
激痛さえ忘れ、呆けるほどには。
しかしその驚きの麻酔も一瞬だ。
ちぎれかけた腕から発する痛みが、急に生まれた脳を焼くような頭痛が、吐き気が、流れすぎた血が、意識を刈り取りに来る。
四つん這いで耐えることももできなくなり、とうとう地面へと倒れ込む。
それと同時に全ての武器が、視界の端から空気に溶けるように消える。
バラバラと、遠くにいたヘリが少女が行動不能になったことを確認したのか、近くに停める。
黒いモヤに覆い尽くされていく視界に、白髪の老いた男が映る。
黒を基準とした軍の基準的な防弾素材を使った軍服に身を包むその人間は、老人なのに老人だと思うことを違和感と感じるぐらいには重厚感があった。
その男は、アサルトライフルを頭に突きつけ私にこう問う。
「なにをした?」
沈黙が、心臓がうるさかった。少女が口を開く、そして
「わか...らない」
男が、訝しんだ顔をした。
でも、そんな事知らない。ただ、私は思ったことを叫んでいた。
「貴方は...誰?私を知ってるの?...なんで、こんな事をした...の?私は、私はなんで、ここ...何も知らないの私は...わからない?何もわかないのっ」
鈍い音が響いた。
私の頭から発された音だと気づくことはなく、私の意識は黒に飲まれた。
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「神を、計画対象のキヴォトス人を回収しました。特筆する点が一つ。記憶を失っています。計画の実行は不可能だと思われます」
「また研究所は壊滅。神を除いた捕獲対象7名は行方不明です。捜索を....了解です。帰還します。」
白髪の老人は揺れ動くヘリの中、通信機の電源を切り、拘束され気絶している少女を見つめ、今この瞬間、更新された計画を眺める。
そして、こうひとこと漏らすのだった。
「子供を使って...何をするつもりだ上層部は....」
画面には、こう書かれていた。
『メアリー、スー計画』
第一計画 成功
第二計画 失敗
第三計画 進行中 内容「キヴォトスで生活をさせろ」
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「あぁ、やっとだ。」
それは、人ではなかった。頭は黒いモヤのようなものに覆われ、人の目の5倍の大きさはある大きな目が一つあるだけだった。
その化け物の服は黒い外套のようなものなのだが、それも普通のものとは違う。
目が大量にあるのだ。目のような模様ではない。目だ。人の目が猫の目が犬の目が鳥の目が有機物の目が大量に生えておりそれが常に瞬きをしているのだ。
いついかなるときでも、何かを見続けられるように、何かから目をそらすことがないように。
「やっと、やっと!!あの子が世界で輝ける時が来るんだぁあ!!」
化け物は歓喜する。
その歓喜を表すかのように、外套の胸部分が裂け
手が大量にうごめいて現れる。
その手にはそれぞれペンと手帳のようなものが握られている。
「あぁ、シナリオを!!シナリオを考えないと!あの子が美しく優雅に綺麗に正しく歪みなくしっかりと崇高たる存在へとなれるように!!」
ガリガリといくつものいくつもの羽ペンがそれぞれのノートの上で踊る音がうるさく静寂に響く。
「あぁ!!『観測者』という役回りをこれ程嘆くことはない!できるならば君に会いたい!触れたい!撫で回したい!触れて触れ合って言葉を交えたい!!」
血走るいくつもの目が、ペンで書かれる文字を追う。
「でも、君のためならこの下賤な欲。いくらでも我慢しよう」
書ききったのか、満足したのか、一斉にノートが閉じられ大量の腕が外套の中にしまわれる。
「だから、どうかどうか」
「私に、俺に、ワシに、手前に、あたしに、わてに、吾輩に、あたくしに、僕に、あーしに、うちに、妾に、おいらに、私達に、俺たちに、僕たちに!我らに、この『観測者』に見せてくれ!」
「君が、全てを喰らい飲み込み『神』になる瞬間を!!!!」
それはまさしく、求婚と呼べるほどの愛が詰まっていたのだろう。
歪んだ一方通行の愛という点に目を瞑ればだが。
黒き狂気が、動き出す。
to be continued
終わったはずのものが、動き出した。
もう一度始まりを始めよう。
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