今私は、九十九シオンはキヴォトスにいる。
でも、キヴォトスに初めて来た時、何があったのか覚えていない。
道中がなく、気づけば結果が目の前にあった。これを伝えたら『先生』と名乗る人はキング・クリムゾン?と言ってたがその言葉が意味することもわからない。
記憶がない。思いがない。理由がない。意味がない。何もわからない。
目を覚ますと、覚えのないなにかの施設の残骸にいて、昔の思い出がすっぽり抜け落ちていて、ヘリから狙撃され、気づけばこの、キヴォトスに輸送されていた。
ここに来た時、貨物列車の中から出た時、生徒の持つ銃に恐怖したことだけは憶えている。
なにかに恐怖して、意識が消えたことだけを憶えている。
「命令を遂行しなきゃ」と、反射的に頭に浮かんで意識が消えたのだけ憶えている。
そうしないと「みんな」と帰れないから。って思ったことは覚えている。
おかいいよね。「みんな」なんて私は知らないのにさ。なにも知らないくせにさ。
私は、なにも覚えていなくて、何も知らない。
外とキヴォトスを繋ぐハイランダー鉄道学園の駅。
そこで、多くの人間を、先生を傷つけたことを、私は覚えていない。
私はわたし自身をまだ何も知らない。
空っぽな私は、何者で、何者になるんだろうか。
これから、語られるのは私の知らない物語。
私が、このキヴォトスに来るまでの物語。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「久しいな。どうした?俺に電話するなんて」
『よぉ、えーと。そっちでは「先生」呼ばれてるんだっけ、夕月。』
「あぁ、そうだよ。で、なんだ?海兎。ならず者国家所属のお前が電話かけてくるなんて珍しいな。」
『ちょいとね。白髪の爺な上司から、キヴォトスにいるお前に伝言を頼まれてて。」
「ちょっと待て、『狂狼国』からの頼みか?ふざけんな。俺は国との縁は切っているし、あんな、敵とも味方とも金さえ貰えれば戦争ばっかする国の願いなんぞ、キヴォトスの多くの権限を預かってる俺が聞けるわけねぇだろうが。世間体が地獄になる。」
狂狼国。「国」と格付けはされているがそれは国ではない。いや、確かに国際的には国と名義されているが、都市も輸入も輸出も土地も主権も無いしやってない。あるのは国民だけという国の2要素のないなんちゃって国家だ。
なのになぜ国とされているか、国の規模の傭兵集団だからだ。国民すべてが、軍人で、どこの国にも所属し、どこの国とでも戦争をする大きな大きなコウモリだ。なぜ、国として認知されているのか、データ上にしか無い領地があるのか、国の黒いおえらいさんしか知らないだろう世の中の世界の影が生み出した国だ。
そして、私はそこの出身で逃亡者だ。といっても、戦争をするだけだからか、誰もが認知し無視をする闇の塊だからか。
この国に知られたら困るような秘密はなく、所属していた私が抹殺されるようなことはなかった。私が下っ端の鉄砲玉の様な存在だからという理由もあるだろうが...世の中の暗闇のくせして、逃亡者を誰も殺さないのはいつも思うが、気味が悪い。
『あー、それは知ってる。だけど、今回はちょっとイレギュラーでな...あと、それにもう行動したあとらしいし...』
「は?」
『俺達の仕事場の戦争地域にあった半壊した敵の研究所。そこで、キヴォトス人が見つかったんだよ。おそらく、お前の言っていたベアトリーチェの孤児...金銭の工面で売られた子だろうな。外の戦争に条約で禁止されているキヴォトス人がいることがわかれば一大事だから...。...つまるところ、うん。これ伝言って言ったじゃん。事後報告だよ。そっちの貨物列車に極秘に突っ込んだよっていうね。今頃そっちについてんじゃない?』
「はぁ!?」
驚いて、素っ頓狂な叫び声を出した時だった。
「先生!!」
ドアが急に開かれ、慌てた様子で七神リンが部屋に入ってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
音がする。目を開けても、薄暗くて何も見えない。
ここは、どこだろうか...
たしか、私は...建物の残骸の中で...
プシューという音とともに光が急に私を照らした。
「あ!?何だお前!どこから入った!」
「へ?」
光が目に慣れず、瞬きを何度もする。次第に見えてきたのは。
「無賃乗車か!?貨物列車に乗ってまでお前らは無賃乗車をするのかよふざけんじゃねぇぞ!!」
拳銃を突きつけられた光景だった。
フラッシュバックする。
白髪の老人。アサルトライフル。痛み。痛み痛み痛み痛み。
フラッシュバックしたそれは、死の恐怖だった。
そして、同時に、死の恐怖は記憶の蓋をこじ開けた。
ノイズの入る記憶の中で、なにかを無線に叫んでいた記憶が蘇る。
その返答が「作戦をこなさなければ帰還はできません」
そんな、ふざけた機械音声だった記憶が、死の恐怖とともに理解できぬまま溢れる。
溢れて溢れて、消化できぬその記憶は視界情報として処理されて、現実と混ざり合う。
「早く出ていけ!無賃乗車のクソ野郎が、お前らは毎回毎回無賃乗車無賃乗車!!なんなんだよ切符を買う金もないのか!」
「命令...帰れない」
「あぁ?聞いているのか!?無視か!?そうかそうなんだな!?」
『敵』が拳銃を向けてくる。
知らない『敵地』で銃を向けてくるならば、そいつは敵だ。
作戦は、殲滅作戦は...『敵』はみんな倒さなきゃ。じゃなきゃみんなとかえれない...
一歩歩く。
私は敵の拳銃に触れた。触れただけで私は何もしない。
「おちょくってんのか!?」
『敵』が至近距離の私に向かって拳銃の引き金を引いて...
「は?」困惑の声が出る。
なぜならトリガーは引かれず、どんなに力を入れても動かなかったからだ。
「ど、どうし」
「やれ」
拳銃が、ひとりでに『敵』の手から弾き飛ぶ。そして、空中で静止した。弾丸が敵に向かって放たれたのは2秒後だった。
敵が倒れていくのと同時に、私の思考は、意識は、その記憶に溺れてなくなった。
「作戦..敵、倒さなきゃ...じゃないと、みんなもわたしも帰れない...」
そんな身に覚えのない、私の声が頭に反響し続けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ハイランダーからの救援要請って、何があったのリンちゃん」
「それが...わからないのです。」
車を走らせ、駅に向かう。
「わからないって?」
「戦闘する動機も戦い方も全てです。とりあえず見てください。録画映像を今そちらに回します。」
カーナビに映像が映る。
「な、なんだこれ」
白髪の少女が映る。大量の、30に及ぶハンドガンやサブマシンガン、アサルトライフルなどの大重火器を周りに浮かばせ、周囲を包囲し数で戦おうとするハイランダー生徒と打ち合う様子が。そして全滅する様子が写っていた。
トリガーに彼女は指をかけていない。ーーというか、30本も腕があってたまるか。ーーすべて、勝手に動いて、勝手に自動的に動いて、的確に、人が射撃をするように、重火器がひとりでに弾丸を放っている。そんな、訳のわからない非現実的な光景が写っていた。
「どうやら、彼女は触れた銃器を操る神秘を保有しているようです。ですが、報告によると、触れた銃器。その場にあった銃器はその中に入っている弾倉分の弾丸しか使えないようです。」
「当たり前...じゃない?」
「順序立てて説明います。...すべての銃器の弾切れを確認してからハイランダーに変わりヴァルキューレの部隊が攻撃を再会したところ、それらの弾切れの重火器を盾にして、接近戦を仕掛けてきました。カンナさんが対処し、重火器を捨て肉弾戦を行い鎮圧目前まで行ったのですが、どこからか、ハンドガンとマシンガンと盾が出現しました。これらのなにもないところから現れた銃器には、奪われ使用されていた銃器と違い「弾切れ」の概念がないことがそれから30分間の戦闘で判明しました。」
「なんだよそれ...」
「持久戦も虚しくヴァルキューレの部隊もまた全滅。ですが、至近距離からマシンガンの掃射をくらうほど接近できたカンナさんの発言によると、「なにもないところから現れた銃器。それらを取り出す時、あいつは苦しんでいた」とのことです。」
「...今はどういう状況だ。」
「対象は沈黙しています。動かず、ただ何かを喋り続けているようです」
到着した。車から出て、歩く。
「作戦はいつ終わるの、と。」
「...なんとなく分かった。」
おそらく、いや、断言する。彼女が狂狼国が送りかえしてきたキヴォトス人だ。
タブレットに映る監視カメラを見る。そこに映る時計の針のようなヘイローを持ち、白髪の長髪を持つ少女。
その目は現実を見ていなかった。虚ろなその目は過去を見続けている。
「戦争のフラッシュバック。...PTSDか...」
その目は、PTSDの発作で目の前で自殺した仲間の目に似ていた。
上 中 下
構成になるか、上下構成になるかわからないですけどよろしくお願いしますぅううう!!!