信じられないほど戦場と成った駅は静かで、その場に立っているのは一人の少女だけだった。
「任務...殲滅...帰れない。...任務...殲滅...帰れない...」
天井のない駅のプラットフォームから指す陽光を浴びるその存在は、頭を抱え下にうつむきくらい瞳でブツブツと同じ言葉を繰り返す。その少女の周りにはふわふわと3つの装備が漂っている、守るように取り囲んでいる。
短機関銃、ハンドガン、大きな盾が取り囲んでいた。
「これは...見たことない状況だな...」
「夕月先生。あまり近づかないでください。」
そんな彼女に、好奇心の視線を向け今にも歩み寄りそうな男性を、七神リンは彼の腕を掴み静止させる。彼らのいる場所は少女から50メートル離れた場所だ。
「狙撃による鎮圧は、盾に全て防がれ、武力で鎮圧を行った結果は映像で見せたとおりです。先生が、迂闊に近づき彼女の怒りを買われると、私達が先生を庇え切れるかどうか...」
「あ、あぁ悪かった。…早くどうにかしないとな、見たところ正気を失っている。さっさと止めないと何が起こるかわかったもんじゃない。」
「.....策はあるのですか」
「ちょっとした奇跡と、勇気の合せ技だ。アロナたのむ」
『はい!』
シッテムの箱が起動する。
それと同時に、薄い膜のようなものが彼を軸にして囲むように発生する
「じゃ、リンちゃんちょっとまってて」
「.....わかりました。その「奇跡」の力を知ってはいますが...言わせてください。気をつけて」
「あぁ」
その一言を交わし。
彼は走り出した。
「帰れな...『唸り屋』」
その瞬間、俯いていた銀の長髪をもつ少女の言葉が変わった。
『唸り屋』。その言葉とともに、彼女の周りを漂っていた短機関銃が動き出す。
銃口を走ってくる男性に向けて、少女が手のひらを向けて言い放った。
「撃て」
その一言を皮切りに、チェンソーのような爆音が静寂な駅に唐突に発生する。キヴォトス人なんかではないただの人間を跡形もなく破壊しつくす鉛玉がその彼の体を貪り破壊し尽くさんと、向かっていき...
走る彼は、それを無視して叫んだ。
「行くぞアロナ!」
『出力全開です!』
その爆音を切り裂くように、二人の声が響く
そして、彼らに向かって放たれた弾丸の全てが、あらぬ方向にねじ曲がった。
シッテムの箱。
その力は、物理現象の捻じ曲げ。
そうあるべきと定められた物理法則という名の覆せぬ結末の鎖、その破壊。
使用者をどんな脅威からも守り抜く絶対的なありえぬ奇跡の、押し付け。
「え?」
現実を見れぬ瞳でさえ困惑しながらこの事象を見る。大きく目が開き、一瞬の停滞が生まれ
「チェックメイトだ」
近づききった彼が、少女の首の頸動脈に手を伸ばしていた。
少女は、焦る。
このままでは、帰れない。帰れなかったら...みんなが...私達は...
「いや」
夕月は見る。正気のない瞳に、強く濃く恐怖と絶望が広がるその瞬間を。
頸動脈を少し押し込み脳への酸素供給止め気絶させる。それで、終わるはずだっただったのに
その瞳を見て、彼は。
「っ」
一瞬ためらってしまった。
その決意の甘さのしっぺ返しは、すぐさま精算させられる。
「『断絶屋』あぁぁあ!!」
助けを求めるように、すがるように少女はその名を呼ぶ。
彼は見る。少女の手のひらの中に、一振りの刀が出現し。
「ッ!!!!!」
「がっ!?」
少女の動きが唐突に、前振りなく完全に変るところを。
彼女の体は、瞬く間に彼の腕から逃れ、その勢いで素早く回転し、その回転エネルギーを全て華麗に乗せ、回し蹴りをみぞおちに叩き込んできた。
この一連の動作はコンマ一秒の間に滑らかに芸術的にさえ感じられる速さで、行われた。
戦闘センス。映像にもカンナからの証言にも特に言われていなかった特別視されていなかったそれが急に、格段に桁違いに上昇する。
回し蹴りの一撃。それはとんでもなく重かった。胃液がせり上がり、軽く吐き出してしまう。
体は吹き飛び、駅の支柱に背中から激突する。
朦朧とする視界と意識の中、見えたのは振り上げられた刀からの斬撃だった。
だが。それは効かない。
物理現象の改変。その奇跡は斬撃さえ防ぎ、力を逸らし、直撃一歩手前で止める。
『先生!!!』
止まる。
『これは止められません!!』
悲痛な叫びが、驚愕の叫びが頭に響いた。
止まるはずだったそれは。
ギャリリリリリと黒板を爪でひっかくような不気味な音とともに
刀は奇跡を切り裂いていた。
「あ」
やばい、そんな一言を漏らす暇もなく刃は頭をかち割らんと迫りきて
「あなた様!!」
刀と刀がぶつかる音が聞こえた。
鍔迫り合いが発生する、金属と金属が火花を散らす。
どこからか突然現れた狐坂ワカモが間合いに滑り込み、その刃を防いだのだ。
が、その瞬間に銃口が、放ったらかしにされていた彼女の周りに浮かんでいたハンドガンの銃口が、鍔迫り合いをするワカモへと向けられ…
「『踏込屋』ぁあ!!」
「アロナァァアアアア!!」
『一点に集めます!』
裂かれた奇跡のシールドその残骸を、一点に集めワカモへと放たれた弾丸を受け止める。
「痛い…」
武器を使用すればするほど頭痛が発生すると言っていたカンナの言葉通り、機関銃を動かし、刀を取り出し、ハンドガンさえも操った少女の顔が苦痛に歪み始め
「はぁあっ!!」
「ッ!?」
その一瞬の気の緩みを見逃さず、タイミングを合わせワカモが少女の刀を強引に上方向へと受け流す。
「あなた様!」
「うわ!?」
そして、ワカモが身を翻し先生を担ぎ走り。
「リンさん!!」
「え!?」困惑の声が上がり
「うわぁああああああ!?!?!?」
驚いた男の声が大きく響いた。
ワカモが、先生をぶん投げたのだ。
そして距離を取りながら再び、少女の方を向き。
迫ってきていた、投擲された刀を弾き返した。
刀が、遠くへと飛んでいき。
そして、急に錆始めたかと思うと、瞬き一つする間もなく砕け散り塵へと化した。
少女から距離が離れた刀が消滅したのと同時に。
「はぁ、はぁ」
「あ、ありがとうワカモ」
ワカモは、リン達のもとに走り込んだ。
夕月は、視線を少女に向ける。
それまで敵対していた銀髪の少女は距離が離れたからか、彼女たちに興味をなくし虚空を見つめる状態に戻る。が、様子があきらかにおかしい。
脂汗を苦痛に歪められている顔から滴り落とし、息の吸い吐きがテンポが速く、苦しそうに息をしている。
刀を生み出したのが原因か、今にも死でしまいそうに見えるほど弱り始めている。
その周りを、短機関銃とハンドガンと盾が弱々しく漂う。
パカンと音がした。
目を向ければカランカランと、真っ二つに成った狐の仮面が地面に転がりおち、額から血を流すワカモが
「どうしますか、あなた様。あの方は、とても強いですよ」
深刻そうに、金色の目が先生を見つめていた。