猫猫、走ります。
アニメ2期楽しみ過ぎる。
必ず、かの悪逆無道の黒いあいつを除かねばならぬと決意した。
猫猫には育児はわからぬ。猫猫は薬屋である。調薬し、それを試して暮らしてきた。
なので病気に関しては人一倍に敏感であった。奴はひどく不衛生で、様々な病気の原因になりうる。
そして何より、その不気味さで人々を怯えさせる。
きょう未明、猫猫は部屋を出発し、少し離れた薬草畑にやってきた。
猫猫は薬以外の事柄にあまり興味がない。あるのは好奇心と知識欲、それとほんの少しの正義感だ。
だがそれでも、幼子を可愛がる心くらいは持ち合わせている。
猫猫が勤めている翡翠宮には侍女が少ない。なので必然的に仕事も増える。
翡翠宮の妃・
鈴麗公主は好奇心旺盛で、色々なものに興味を持たれる方だ。知らないものにも積極的に近づいて行こうとする。
けれども今日は少し様子が変だった。
常に辺りをキョロキョロと見渡し、何かに怯えているかのような挙動をしている。
いつも飄々としている猫猫も少し不安になってきた。
猫猫は上司である
紅娘は首を振りながら答えた。
「わからないわ。今日は一日中こんな調子なのよ」
「玉葉様が何かおっしゃっていたりは?」
「特に何も。いったいどうしたのかしら……」
なんと
猫猫が考え込んでいると、
不気味に光る漆黒の体、細く伸びる六本の脚、二対の羽を有し、時に駆け回り、時に飛び回る。非常に繁殖力が強く、人類が絶滅させるに至らない憎き
――そう、
「びゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
「イヤあああああぁぁぁぁぁ!?」
二人の悲鳴が宮中に響き渡った。
その後、猫猫が素早く退治したおかげでことなきを得たが、
だが、本番はここからだった。
その日の夕食刻、帝が翡翠宮を訪れた。
帝は泣きじゃくっている
ことの顛末を猫猫が語ると、帝はこう命じた。
「疾く疾くあの憎き害虫を始末せよ。次
この帝、実に親バカである。
娘を泣かせただけで処刑するなど正気ではない。帝は本当にご乱心か、という考えが頭をよぎるがもちろん口には出さない。出したら本当に首が飛ぶ。
「余が虫一匹に対して過敏であるとでも言いたげな顔をしているな」
(ヤベっバレたか……!?)
猫猫は一瞬肝を冷やしたが、帝の顔がおちょくるようなニヤニヤした顔だったためそれはないかと考え直した。
「まあ仕方がない。お前にはこの気持ちがわからぬだろうよ。子を持ったことがないお前にはな」
(それはそうだ、子など持ちたくないし、これからも持つ予定はない)
実際このような無茶振りは後宮では日常茶飯事であり、特段珍しいことではない。毒味役の命など、ここでは羽毛よりも軽いのだ。
猫猫は帝に対して、三日ほど猶予をいただけないでしょうか、と返すと、帝はそれを認めた。
帝を許しを得た猫猫は、さっそく準備に取り掛かった。
猫猫は激怒した。
いや普段は別に
しかし今回は別だ。なんせ実害が出てしまっているのだから。
奴を始末しないとまた
猫猫は、冷静な女であった。
闇雲に探し回っても奴は見つからないとわかっていたので、逆に奴を誘き寄せ、巣まで案内させるという作戦を立てた。
餌を作ることに決めた猫猫は、早速材料を集め出した。
必要な材料は小麦粉・玉ねぎ・砂糖。団子のようなものを作るつもりである。
後宮中を駆け回り、すぐに材料を集め終えた。帝の命だというとすぐに協力してもらえたのである。帝様々だ。まあこんなことになっているのも帝のせいなのだが……。
猫猫が材料を集め終え翡翠宮に戻ろうとすると、後ろから見知った人物に声をかけられた。
明るく元気で人混みの中でもよく通る声、
何をしているのかと問うと、休みの時間に後宮内の噂話を集めているらしい。なんでも今日は面白い噂話が聞けたようでいつもよりテンションが高い。噂好きでおしゃべり好きな
仕事の最中だが少しおしゃべりする分には問題ないと判断した猫猫は、
噂の内容は、中級妃たちの間で毎夜行われている美貌による覇権争いだとか、後宮に売り飛ばされショックのあまり死んだ下女が実は今も化けて一緒に仕事している、などあまり猫猫の琴線には触れない話だった。
しかし、
「そろそろお仕事に戻らなくちゃ」
しばらくの間二人で会話を楽しんでいたが、
物騒なことを考えながら翡翠宮へ向かおうとしたその時、猫猫の目の前に新たな人物が躍り出た。
この武官、一度良い夢を見せて差し上げた日から猫猫を見かけると話しかけてくるようになっていた。普段は後宮内の情報を共有したり世間話を行ったりする程度の仲だが、この日は少々違った。
なんでもこの男、なかなか
猫猫の姉(のような存在)である
しかしこの時、猫猫は少々鬱陶しく感じていた。
仕事に戻ろうと気合いを入れ直した直後であったり、
(この駄犬、帝の命で私を待ち伏せたりしてないよな……?)
あまりの間の悪さについ疑いかけたが、流石にそれはないだろう。帝もそこまで暇ではないはずだ。
だがせっかく気分が良くなっていたところに水を差されたのも、急いでいるのも事実。猫猫は適当にあしらうことにした。
「今度
「何っ!?それは本当か!?」
嘘ではない。猫猫は一度花街に戻った時に
気分を良くした
さて今度こそ、と気合いを入れ直した猫猫。翡翠宮に向けて一歩踏み出すと、後ろから蜂蜜のような甘い声で話しかけられ――
「失礼します」
「おいちょっと待て」
――華麗に無視してその場を去ろうとしたが、許してもらえなかった。
「すみません、急いでいるもので。これで失礼します」
「あの武官とは楽しく話し込んでいたように見えたが?」
(見ていたのかこの
つい心の中で悪態をつくがもちろん口には出さない。これ以上無駄なことに時間を取れられるわけにはいかない猫猫は冷静にそう思考した。
だが悲しいかな。向こうはそんな事情は露知らず、楽しそうに
だが猫猫もそんな醜い
さてどうしたものかと考え込んでいると、
「
「む、そうか」
(流石
失礼なことを思いながら、
「それじゃあな薬屋」
ようやく翡翠宮に戻った猫猫。帝の命を果たすため、早速準備に取り掛かる。まあ集めた材料を混ぜるだけだが。
玉ねぎをみじん切りにし、小麦粉・砂糖とともに混ぜ形を整える。これで完成。あとは設置して
頬を叩き、改めて気合いを入れ直す。
手早く団子を作り、後宮中に団子を設置していった。それはもう沢山、至る所に設置した。
猫猫は団子の設置場所を形跡があったところの周辺のみに絞り、奴等が来るのを待った。
そして――その時は訪れた。
猫猫の前に
猫猫は慎重に、かつ素早く奴等のあとを追い、遂に寝蔵を突き止めた――はずだった。
いや、実際突き止めはしたのだ。素早く動く奴等を見逃さないよう努め、時に隠れ、時に走り、必死に跡をつけた。しかし追っている最中にふと違和感を覚えた。いや、違和感というよりは
猫猫の集めた薬草の下に、彼らの住処ができていた。
「……これ私が原因じゃん!?」
そう、今回の事件の発端は猫猫の集めた薬草のせいだったのである。大量に積まれた薬草は蜚蠊が好む暖かく湿気のある空間を作り出し、かつ
猫猫は苦悩した。
帝の命を果たすには、この
(ああ……すみません
「何をしているの?」
「……あ」
温度を感じさせない冷ややかな声がその空間に響き猫猫が振り向くと――仮面のような笑みを貼り付けた
多少高価なものが燃えても構わない、最悪あとで自分の給金から差し引いておこうと考えていた
「大事な薬草なんです!?どうかっ……どうかお慈悲を!?」
「慈悲なんてあげるわけないでしょこんなもの!
「ああっ、あー!!あぁ〜……!」
猫猫が集めた薬草たちはよく燃えた。轟々と煙を上げ、容赦なく燃やし尽くされた。そして燃え尽きた後に残ったものは、蜚蠊たちの焼死体と薬草の燃え滓、そして……
辺りには焦げ臭さが漂い、猫猫の嗚咽と紅娘の怒鳴り声が響き渡っていた。
三日という期限を守り、薬草のことは紅娘が黙っていてくれたおかげで、猫猫は帝からのお咎めはなかった。
ただし紅娘から、当分薬草集めは禁止された。猫猫の管理不足が招いた事件なので、自業自得である。
薬草がなくなってしまったことは本当に心残りだが、代わりに
「
「あう?」
「はは……」
そして蜚蠊事件から数日間、紅娘の猫猫に対する当たりが強くなったが、それはまた別の話である。
愚者は、ひどく青い顔をした。
参考…… 走れメロス 著:太宰治
Gは◯すべし慈悲はない。