僕が生まれた。だから兄弟姉妹を食った。
僕は真っ暗な生暖かい空間で生まれた。何も見えない、密閉された空間。そこには、まだ殻を破れてない弟、妹たちがいるだけだった。
すると、お腹がギュルギュル~!と盛大になり、生まれて最初の空腹を感じた。この空間で食べられるものはただ一つ、生まれてもいない弟妹達だった。
彼ら彼女らを食べることに一切の躊躇は生まれなかった。いや、むしろその行為自体が、自分自身を肯定する尊いものだと、口の中で肉を咀嚼しているとき、強く感じた。
どれほど、時間が経ったのだろうか?長いようで、短いような夢心地のような時間であった。あれからも多くの兄弟を食べた。中には、僕が生まれたときのように、動き始めていた弟妹も生きたまま、丸呑みにした。口の中でピチピチと動き回っている感触が、新鮮だった。歯で噛み切れば、ジューシーな歯ごたえのある味が広がった。だけど、噛んでしまったら、もう口の中ではもう動かなくなってしまった。残念だ。
すでに、殻の中にうずくまっている兄弟たちはいない。僕が食べたか、他の兄弟に食べられた。でも、嬉しいことでもあった。今、残っている兄弟たちの体は僕より小さいけど、食べるにはお手頃なサイズなものが多い。今日もお腹が減ったので、ごはんを探す。すると
「お願い。食べないで」と懇願する兄弟がいた。おかしなことを言う奴だと思う。
もし、君が僕より大きかったら僕を食べていただろう?それなのに、“食べないで”なんてちゃんちゃらおかしい。僕はその言葉を無視して、目の前のごはんに噛みつく。
「お願い、許して‼嫌、嫌、嫌嫌‼死にたくない‼」
…うるさい…
「…嫌…」
やっと力尽いた。死体から血が舞う。
脂が乗ったおいしいお肉だ。この兄弟も他の兄弟を食ったからこそ、ここまで美味しい体に成長したのだ。
さらに時間が経ったとき、もう残った兄弟は一匹以外いなくなった。今、目の前にいるのが、その兄弟だ。
僕と変わらないほど、体の大きい兄弟だ。ほとんど同時期に孵化した兄弟だろう。
〈一番、繋がりが強い兄弟かもしれない〉
相手もこちらに気付いて、突進してくる。
互いに歯を立て、争う。体中に痛みが奔る。だけど、口の中でほとばしる血の味は、今までの兄弟たち以上に至高の味だった。だだ、それだけ。喰らうという意志だけで最後の兄弟の皮膚、血管、筋肉に歯を突き立てる。すると、何かが破れる感覚が歯から伝わってきた。何度も味わった血の味が口いっぱいに広がる。そこから、兄弟の動きが鈍くなっていった。
ついに、最後の兄弟は動かなくなった。そして、ギザギザの歯で血肉を抉り取り、食らう。体の一欠けらも残さず。
お腹いっぱい食べたら、瞼が重くなってきた。今はただ、この兄弟たちがいなくなった暗闇で漂いながら、うたた寝をしていたい。意識が遠のいていく。
次に目が覚めたとき、食欲以外の欲望が出てきた。外に出たいと。
今の僕ならここから出られる。兄弟たちを食い散らかして、成長した体なら、ここを出られると本能で直感する。そこからは、がむしゃらだった。思いっきり壁に体を叩いていると空間が伸縮し、体が引っ張られていった。ただ、流れに身を任せていると、そこには美しい世界が広がっていた。
今、目の前にいる_食った兄弟たちはもちろん、僕より体が大きい_のが母親だろう。祝福しているように思う。だけど、僕は外の世界に興味津々だ。僕よりも体の大きい奴、まだ食べたことのない奴もいるだろうこの世界に。
今日から、この世界で生きていくのだ。
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私はこの大海を泳ぎ、獲物を喰らう捕食者だ。
だが、それは、生まれた瞬間に決定されていたことだろうか?それとも、ただ運がよかっただけであろうか?そんなもの、今、目の前にある晩餐の前では些事だろう。
私は今まで以上に、栄養を蓄えなくてはならない。
目の前には、私と同じくらいの大きさの、私と同じ種の雄が泳いでいる。今、私の腹の中には、彼の精子で孕んだ卵たちでいっぱいだ。もうそろそろ、外に出られる最初の子が孵化する頃だろう。そして兄弟たちを食い散らかすだろう。
私たちもそうであったように、共食いをして、最後に残った優秀な子がこの世界に残る。それが、私たちだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、シロワニの卵食、共食い型の繁殖方法から着想を得て、本作を書きました。
子宮内で共食いというのは人間の感覚では、非常に恐ろしいですよね...
そういった冷酷な部分も含めて、生物の進化は興味深いと常々思っています。
皆さんも本作を読んでどう感じているのか、著者も気になります!
感想を送っていただけると、喜びにうちふるえます。