特級呪物
二人のありふれたちょっと変わった出逢いのお話。

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書きたいものを書いていたらある程度の量になったので、供養がてら投稿です。解釈不一致、方向性のブレがあってもご了承ください。
時系列は滅茶苦茶です。合わせると書けないネタが増えてしまうので。。。


ありふれた、ちょっと変わった、出逢い

 

その日は強い雨が降っていたと記憶している。

出逢いは、ちょっとした成功とちょっとした良心から生まれた、偶然だった。

 

社会人になって早数年。

 

何かを得たいと地元を飛び出した。ありふれた若気の至りと言われてしまえば否定は出来ない。戻るには挑戦して何かをやり遂げた訳でも無く、かといって大きな失敗したでもなく。おずおずと帰るのもチンケなプライドが邪魔をして、現在に至る。

 

今日は良い日だった。

仕事のプレゼンで上司の反応が上々だった。昼休みに窓から虹が見えた。いつも買う自販機で当たりが出た。いつもの日常で偶然良いことが重なっただけの日常だった。そんなほんの小さな良いことを糧にして曖昧にモラトリアムが続いていた。

 

そんな日の帰り道。真っ直ぐ帰ってしっぽり晩酌しようかと考えつつ、俺はいつもの駅で電車を降りた。

 

「すいません、すいません!」

 

綺麗な声だな、と声のする方へ目を向ける。ほんの少し青みかがった銀髪の女性は謝りながら足元に散乱する荷物を拾っていた。

一応拾いやすい様にという良心か、面倒事に巻き込まれたくないのか、絶え間なく動き続ける人だかりの中で、小さな空間が出来ていた。

 

都会はこうも他人の事に無関心になってしまうのか、という寂しさと、このまま何もしなければ俺もその中の一人だなぁ、と思いながら足はその声がする方へと向かっていた。

今日の俺はいつもよりツイているのだ。目の前の少し不幸な人に親切にしておけば、また良いことがあるかもしれない。そんな下心では運は巡ってこないだろうなと思いつつ声をかける。

 

「大丈夫ですか?手伝いますよ。」

 

「あっ、そのえっと・・・ありがとうございます。」

 

周りの人の動きは相変わらずで、二人を避けて動き続ける。親切は意外と広がらないものなんだなと思いつつ、すべての荷物を拾いあげる。

 

「ありがとうございました。」

 

彼女は深々と礼をして感謝の言葉を述べる。大したことはしていない、誰でも出来る事だ。

 

「ただの気まぐれなのでお気になさらず。それでは失礼しますね。」

 

そう俺は言い残してその場を離れた。昼頃見えていた青空は既に無く、雨はしとしとと降り続ける。晴れたら今日はもっと良い一日だったのにと、ゆっくりと帰路を歩く。

 

晴れ間は全く見える様子も無く。自宅のマンションに到着した。良いことは何度も続かないもんか、と自分を納得させてマンションのエレベーターに乗り込む。扉が閉じる間際、人影が見えたので慌てて開のボタンを押す。

 

そこにいたのは駅で荷物を拾ってあげた人物だった。

彼女はありがとうございます、と言いながら早足でエレベーターに乗り込む。

 

「えーっと、帰り道が、偶然同じだったので・・・」

 

気まずそうな表情で彼女は答えた。位置が逆だったら俺が気まずい感じになっていただろう。むしろストーカー扱いされていたかもしれない。

 

「同じマンションなんて面白い偶然もあるもんですね。」

 

「そうですね。」

 

会話は続かない。

 

後ろにずっといた筈なのに全く気付けなかったのは不思議ではあるけど、雨も降っていたし、誰かの足音を気にして普段過ごさないのでそんな事もあるかと勝手に納得する。

 

程なく自分の部屋の階に到着し、軽く会釈をしつつエレベーターを出て部屋に入る。

 

スーツを脱いで部屋着に着替え、冷凍していたご飯を温めつつ、刺身とビールをテーブルに並べる。今日はゴキゲンな晩酌だとプルトップを引くと、チャイムが鳴る。こんな時間に訪問者?宅急便だろうか?

 

 

インターホンの画面には先程の彼女が立っていた。何かエレベーターで落とし物でもしただろうか?

 

「……」

 

「あの、どうしました?」

 

「……あのっ、、えっと、、、たっ、助けてください。」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「どうぞ。」

 

「……ありがとう……ございます。」

 

消え入る様な小さい声で彼女は感謝の言葉を述べる。こんな時間にほぼ初対面の女性を招き入れるのは気が引けたが、相手が助けを求められているのでやましい気持ちは無い。

 

とりあえずテレビを点けて音量を最小にする。良い一日だったのに面倒な事になってしまったなぁ、と思いつつも一言入れてビールを一口煽る。彼女が訪ねてくる前に開けてしまったのだから、炭酸が抜けてしまう前に飲まないともったいない。彼女も向かいで出したお茶を一口啜り、ほっ、と息を吐いていた。

 

まずは冷静になってもらって話を聞いて貰わないと始まらない。玄関で慌てふためいていた彼女は大分落ち着いたがまだソワソワとした様子だった。

 

「……で、何があったんですか?」

 

「えっと、……アイツが……出たんです……。」

 

「アイツとは?」

 

「……Gです。」

 

あぁゴキブリですか。アイツどこにでも現れる。自分の家にも偶に現れるけど、どこから入って来るのやら。この前ネットでエアコンの吸気口からも入るって書いてあった気がする。

彼女はよくよく見ると先程会った時より髪が乱れている気がした。と、いうことは彼女の部屋の中で一騒動あったのだろうと推測するのは難しくない。

 

「ちょっと待っててくださいね。」

 

たしか洗面台の下に赤い駆除剤の余りがあったはず。セットで買うと必ず余るんだよね。

 

「準備出来たので、案内してもらって良いですか?」

 

テーブルのティッシュの箱もついでに持って彼女の部屋に向かった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「お邪魔します。」

 

リビングに通されるとシャボンの香りと洒落た小物やらが綺麗に並べられている。家具もお値段以上のアレばかりで揃えられている我が家と違ってお高そうだ。ちょっと、良いところのお嬢さんだろうか。

部屋も整理整頓されていた。

 

同じマンションなので、もちろん間取りは同じだけどこうも違うものなのだろうか。それはそれとして、キッチン周りは物が散乱していた。片隅に大量のダンボールと野菜が鎮座していたのが場違いな気がしたが、奴とはそこで邂逅したのだろう。幸い、食器が割れて散乱したりはしていなかった。

 

彼女は俺の後ろにさっと隠れ、

 

「お願いします。アイツの息の根を止めてください。絶対に。」

 

彼女は迫真の声色でこちらに懇願してきた。

頼られるのは悪い気がしないけれど、アイツは隠れるのが上手いから捕まえられるかは疑問だ。

 

散乱した食器を流しに纏めつつ、棚を開け、あっちをひっくり返し、こっちをひっくり返し、棚の中の上の壁面も確認し、疑わしい所にはその姿は無かった。どこへ逃げたことやら。

 

「……見つかりませんね。」

 

「駄目です!絶対殺してください!アイツと同じ部屋で過ごすなんて絶対嫌です!」

 

いつの間にか両手に殺虫剤を構えた彼女が少し離れた場所で叫んでいる。ですよね。ほぼ見ず知らずの人間に退治を頼む程なので相当嫌なのだろう。不快害虫だし、衛生的とは程遠い虫でもあるし。

 

「一応、そんな事もあろうかと保険も持ってきたわけですので。ちょっと、水道の水貰いますよ。部屋の窓が開いてたら閉めておいてくださいね。あと野菜も別の部屋に移動した方が良いですね。」

 

「はい!」

 

何故か元気な返事をした後、手際良く野菜を運んで窓が閉まっているかチェックする彼女。あとペットも飼っていたらしく、ケージに猫っぽいサイズの生き物を入れていた。

 

駆除剤に水を入れて床に置くと、小さくシュ~という、音が聞こえ始めた。

 

「一旦、我が家に避難しますか。」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

薬剤が無くなるまで一時間程かかるため、俺の自宅へ戻った。

 

「まぁなんというか……災難でしたね。」

 

「はい……近くにこういうので頼りになる知り合いが居なくて……助かりました。ちゃんとお礼はしますので!えっと、害虫駆除の相場は……」

 

スマホで害虫駆除の値段を調べているらしい。ただの素人だし、こんな簡単なことでお金を貰うのも申し訳ないので、断っておく。

 

「でも……」

 

「良いですよ。こういう時は偶然でも頼れる人を頼っておくのが上手い生き方だと思いますよ。」

 

BGMも何も無いのは気まずい雰囲気になりそうなのでテレビの音量を上げる。……さて、食事の続きでもするか。

 

一口ビールを煽るとく~、と彼女のお腹から音が鳴る。彼女は顔を真っ赤にして、気にしないでくださいと恥ずかしそうにつぶやく。

 

「……軽く何か作りますよ。」

 

「大丈夫です!私の事は気にせずご飯食べちゃってください。ほら、私を空気だと思って構わないので!」

 

気を使ってくれているのだろうが、自宅でこっちが食べてて目の前の人がお腹を鳴らしていたら放置するほうが気分が悪い。

 

「軽く食べられるもの何か作りますよ。味には期待しないで欲しいですが。」

 

「いえいえ大丈夫ですから!時間になったら部屋にすぐ戻りますので!」

 

「まぁまぁ。おつまみ代わりに何か作るつもりだったので。一人分も二人分も変わらないですから。」

 

冷蔵庫を開けるとご飯と挽き肉と人参と玉ねぎがあった。卵もあるしオムライスにしますか。

 

レンジでご飯を温めつつ野菜たちをみじん切りにし、肉を焼いて炒める。胡椒とか味の素とかで味付けして火が通ったらご飯も混ぜ合わせ卵で包んで二等分にしお皿に盛る。最高に今更だけど、どうしてこうなった?ほぽ初対面ぞ?

 

「どうぞ。」

 

お皿と一緒にケチャップもテーブルに置く。

 

「ありがとうございます。いただきます。」

 

行儀よく手を合わせて彼女はオムライスに手をのばす。

 

「口に合わなかったら残しても構わないですよ。」

 

「不味くなんて無いです。美味しいです。」

 

彼女の食べる姿を眺めながら、晩酌の続きを再開する。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。」

 

彼女の食事は終わり、開口一番、

 

「やっぱり駄目です。お金払います。」

 

彼女は突然金を払うと言い出した。まぁ確かに駆除剤を使ったりはしたが、家に余っていたもので使われずに忘れてしまうだろうし、使われるべきタイミングで使われてたことにあの駆除剤は本望だったことだろうと勝手に思っている。

 

「いやいや、ついでですから気にしないでください。」

 

「駄目です。こんなに親切にしていただいたので、お返ししないと私の気が済まないので。」

 

彼女の意志は固いようだった。上手く断る手立てはないだろうか?頭を捻るが良い案は思いつかない。悩む素振りを見せつつ、視線を部屋の中に彷徨わす。こっちを見ている彼女とテレビと飲みかけのビールと半分のオムライス。そういえば彼女の部屋には大量に野菜が置いてあったことを思い出す。断っても良いと前置きをしつつ、妥協案を提案する。

 

「部屋に大量に野菜があったでしょう?あれを分けてもらうとかでどうですかね?」

 

「……うーん、

ほぼ貰い物の様なものなので、私的には足りないというか……」

 

「それじゃあ、それで料理作った時に少しお裾分けしてもらうってのはどうでしょう?こちらも料理する手間が省けるのでとても助かりますので。」

 

俺の提案に考え込む彼女。自分のご飯のついでだから、負担もあまり無いだろう。というかもう案が思い付かないので、これで折れてくれるとありがたいのだけれど。

 

「……分かりました。じゃあ私の気が済むまでやらせてもらいますね。口約束だけじゃなくて、誓約書も書きますか?」

 

「そんな堅いことまでしなくて大丈夫ですよ。こっちは好意でやっただけですので。」

 

早く切り上げてもう休みたいので、その提案で飲むことにした。1、2回とかで終わってくれると良いのだけど。

 

「決定ですね。……じゃああの……連絡先の交換が必要ですよね。そちらもお忙しいかと思うので。」

 

「そうですね。交換しましょうか。」

 

連絡先を交換するため、お互いにスマホを取り出す。彼女は手際良くアプリのQRコードを出していた。今更だけど彼女の名前を聞いていなかったな。

 

「そういえば自己紹介、まだしてませんでしたね。佐藤太郎って言います。」

 

「へ?」

 

何かの冗談かと思ったらしいのか。頭に?を浮かべている。

 

「嘘っぽいんですけど、偽名とかでは無いですよねこれが……」

 

「……プッ、、アハハハ!……あ、いやこれはそういう訳じゃなくて……すみません……普通過ぎて逆にインパクトあるなって思って。」

 

「良いですよ、普通過ぎて逆に珍しいって良く言われるので。役所の記載例が自分の名前ばっかりで気になったりはしますが……ま、俺のことは置いておいて、お名前伺っても良いですか?」

 

彼女に気まずい思いをさせてしまうのも申し訳無いので話を本題に戻す。 

 

「あ、えっと……私の名前はリゼ・ヘルエスタと申します。」

 

「ヘルエスタ?どこかで聞いたことあるような気が……」

 

そんな名前の地域があったような気がしたので、スマホで検索をかけてみる。ヘルエルタヘルエスタヘルエスタ……ちょっと待って国じゃあないですか。彼女良いとこレベルじゃなくてマジもんのお嬢さんですかい。

 

「えーっと、もしかしてヘルエスタって……」

 

「はい。私はヘルエスタ王国第二皇女のリゼ・ヘルエスタと申します。」

 

「……マジですか。」

 

一国の皇女様が他国に普通に住んでいるのも驚きだが、彼女に料理作らせるのって不敬罪とかで国際問題とかにならないだろうか。お金もらってそれまでにした方が正解だったな、と思ったが今更約束を反故にして相手の気を悪くしてしまうのも良くない。

 

「仰々しい挨拶になっちゃいましたけど、畏まる必要とか全然無いので!……えっと、とりあえず、連絡先交換、します?」

 

「あーすいません。衝撃的過ぎて忘れてました。しますか。」

 

話が飛んでしまったがLINEをお互いに交換する。

突然しばらく静かだったケージから、ニャーという鳴き声と彼女の飼い猫?がガタガタとケージを揺らしている。

 

「部屋に出しても大丈夫ですか?アレルギーとかあったりします?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

了承の意を示すと、彼女はケージの扉を開ける。

とことことこ、とケージから出てきた猫が周りを見回し、いつもと違う景色に戸惑っている様子だった。

 

「可愛らしい猫ですね。」

 

「メスライオンです。」

 

「?」

 

「メスライオンです。」

 

「……はぁ、そうですか。」

 

見た目はどう見ても猫だしニャアと鳴いているが……これ以上踏み込むのは止めておこう。

 

「名前は何て言うんですか?」

 

「ジルです。」

 

「そうですか。ジルーおいでー。」

 

名前を呼ぶととてとてとこちらに近付いてくる。賢い猫ちゃんだ。手の甲を下から鼻先にゆっくりと近づける。

確か猫と挨拶するときはこんな風にすると良いとどこかで聞いた気がする。

ジルは手の匂いを嗅いだ後、足元で頭をゴシゴシ擦りつけてきた。可愛い。

 

脚に突進して満足したのか。俺から離れて彼女の膝の上に陣取る。自由だ。

 

「そろそろ部屋に戻れそうですかね。」

 

ご飯を食べ、ジルと戯れているうちに既に一時間ほど経過していた。

 

「そうですね。今日はこれで失礼させてもらいますね。」

 

ジル、帰ろっか。と語りかけてメスライオン?をケージの中に入れる。

 

「今日は本当にありがとうございました。」

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。」

 

玄関での別れ際の挨拶をし、ぺこりと一礼して彼女は帰っていった。

 

彼女が居なくなった直後、身体をひと伸びさせる。

 

「あ~疲れた。何だかんだで変な1日になっちゃったな。」

 

そう言いながらベランダの扉を開ける。

窓際に置いてあった加熱式タバコを作動させてひと吸い。トウモロコシが焦げるような独特な臭いを感じながら息を吸い込み、一筋の紫煙を吐き出した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「……ライバーの関係者以外で連絡先交換したの、初めてだ……!」

部屋に戻った後、リゼは連絡先が増えたことに喜んでいた。


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