古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
突如としてアキがスペインのマドリードへ旅行に行ってしまったことで、リュウタの家は日を追うごとに汚くなっていた。
そんな状況でも関係なく、恐竜がそのマドリードに現れたということでDキッズ一行は現地へと向かう。そこで目にしたのは、アーケオプテリクスとそれをつけ狙う隻眼のアロサウルス・フラギリスだった。
途中アキがアロサウルスに襲われそうになるアクシデントも見舞われるも、レックスのアインが真紅のテーブルクロスでアロサウルスの気を引き、その場から引き離すことに成功した。
だが今度はロトが現れ、オウガとリュウタだけで対応にあたる。属性相性や超アクトカスモサウルスが付与してきた毒の状態異常に苦しめられたが、イナズマとアメジストの合体技『激力雷晶閃』でカスモサウルスを追い詰める。最後はアクト団内の同士討ちで撤退させたDキッズは、アキに古代博士からの手紙を届け、回収した恐竜と共にDラボへ帰還したのだった…。
前編
ある日の夜 Dラボ
『やぁ、古代くん…イェイイェイイェイ! 恐竜大好き〜!』
「イェイイェイイェイ! 恐竜仲間〜っ!」
「『好き好き好き好き恐竜好き好き♪ ラブラブラブラブWe love Dinosaur♪ 好き好き好き…』」
前よりも更に悪い方向へ進化した挨拶を古代博士とオーエン博士が交わす。その横ではDキッズのパートナー恐竜達と前回回収したアーケオプテリクスが戯れていた。ケガが完治するまではこうしてラボの中で飼育することにしたようだ。
そんな彼らが見える位置で円になって会話をしているのは、その飼い主のDキッズだった。
「え〜っ!? ハリウッドに!?」
「あぁ。今度ハリウッドで作られる恐竜映画のアドバイザーにパパが就任してるんだ」
そう言いつつレックスが差し出した映画の台本には、『JURA JURA PARK3』というロゴが入っていた。
「すげぇじゃねぇかよっ!」
「しかもこれって、あの有名なスピノバーグ監督の最新作なのよね!」
「やっぱりそうだよね! 俺は昔からこのシリーズが大好きなんだよ! 特に初代のラストでティラノサウルスがこっちを振り向いて雄叫びをあげるところなんかもう最高で…」
「それにさそれにさ! あの監督恐竜以外でもすごい映画を沢山手がけてたよな! 『インディ・ジョーズ』だろ、『A.T』だろ、あとそれから…」
「でも、映画はまだ製作途中なんでしょ? どうしたのかしら?」
「それが…」
「なるほど、博士の仰ることも分かりますが、映画を取り仕切るのが監督ですし…」
『スピノバーグがなんぼのもんじゃーい! まっったくあの男め! 今までのシリーズのヒットはワシあってのものとも言えるのに、何故あんな酷いことかできるんじゃーっ!』
先ほどまでの陽気な雰囲気とは打ってかわり、オーエン博士が激昂する。その様子でただ事ではないと感じ取ったのか、レックスがモニターの前へ姿を現した。
「どうしたの、パパ?」
『おっ…おおおっレックス! 聞いてくれ!
ワシは全ての知識と情熱に、過去2作を監修してきた経験を加えて今作を史上最高の出来にしたいと思っていたのに、あのヘチャムクレ監督ときたら…!』
数日前 ハリウッド 『JURA JURA PARK3』撮影スタジオ
『どうです監督! 今回のロボットもいい仕上がりでしょう!』
『う〜む…』
改修を終えたばかりの真新しいティラノサウルスのアニマトロニクスを前にしているのは、オーエン博士とスピノバーグ監督だ。
『どうしたんです監督! どうも浮かない顔じゃないですか!』
『いや、アニマトロニクスの出来はこれまで以上によく見えるデス。しかし…毎度毎度ティラノサウルスをメインに据えるのもなんだかマンネリな感じがしないデスカ?』
『何をおっしゃるんです! ティラノサウルス以上にフェイマスでエキサイティングな恐竜はいないでしょう!』
『そういうことじゃないデース! 客は常に新鮮さを娯楽に求めるものなんデース! 動物園を見てみるデス! 少し前まで珍獣扱いだったパンダやゴリラも、今やすっかりいて当然の顔ぶれに加わっているデス!
マンネリを擦り続ければコンテンツは衰退するデス! だからもっとこう…斬新でファンタスティックな新しい恐竜が必要デスノーーネ!』
『なっ…何をそんな無茶苦茶を! 今作だってラプトルの姿は最新の復元に近いものにしたし、前作ではボツになったプテラノドンだって加えてある!
それにこれまで通りティラノも加えればそれで十分すぎるじゃろーがーっ!』
『What's? 監督は私デス! 作品の方向性は私が決めるのデースヨ!』
『何をーッ! このわからず屋ーッ!』
『やったなこの頭でっかちーッ!』
…というやり取りの末、オーエン博士とスピノバーグ監督はほぼ決裂に近い形になってしまったようだ。
「という訳なんじゃ…なんだか思い出してる内にまた腹が立ってきたぞ! もー決めた! あいつが直々に謝りに来ない限りワシはぜーったいスタジオには行かんからな!」
「パパ…」
「なんか子供みたい…」
「レックスの父さんもいい年なのに情けないな…」
「制作陣内の不和で作品が潰れる例はたまに聞くけど、まさか俺の大好きな映画がそうなりそうな場面に立ち会うことになるなんて…」
かくして、Dキッズの大好きな『JURA JURA PARK』シリーズは、3作目にして大きなターニングポイントを迎えることになっていたのだった…。
その頃 アメリカ合衆国 カリフォルニア州ロサンゼルス ハリウッドの撮影スタジオ
「オーエンのバカと連絡は取れたデスカ?」
「はい。取れたのですが…『撮影に協力してほしいなら監督にコテージまで謝りに行かせろ』と言って譲らず…」
「いい大人が子どものようにヘソを曲げるなんて呆れたものデス。まったくはしたない…」
そう口にしながら大袈裟に頭を振るスピノバーグ監督。そんな彼に対しその場のスタッフ達は皆、(誰のせいでこうなったと思ってるんだ)と思わざるを得なかった。
「しかしそうなると撮影がSTOPしてしまうデス。とはいえ納期は守らないと多方面からぶっ叩かれるデスし…おい、そこ!」
監督に呼ばれた若いスタッフがビクリと肩を震わせる。
「この前コンタクトを取ってきたっていう学者先生はいつお越しになるデスカ?」
「き、今日こちらにいらっしゃるとのことでしたが…詳しい時間までは…」
「なにィ!? じゃあ今すぐ先方に確認してこいデース!」
「は、はいい〜ッ!」
監督に怒鳴られ、スタッフはスタジオの外へと出て電話を手に取った。繋がるのを待ちつつ窓の外を見ると、外はすっかり土砂降りになっており、時折雷も見えていたのだった。
「…たく、こんな雨の中ゴミ捨て場まで行けなんて…ついてねぇぜ」
激しい雨が降りしきる中、1人の男が大きなゴミ運搬用のワゴンを押していく。その中には廃材や使い終わった小道具に交じり、なんとタルボーンヌの姿もあった。しかしその両眼はかっと見開かれたままで、微動だにしていない。
「港で面白いものが見つかったから持ってきたとか抜かしてたが、こんなのがハリウッドの映画に合うわけねぇだろうが」
男はワゴンの中身を乱雑にゴミ回収場所へぶちまけると、またスタジオの中へと戻っていった。
すると、にわかに空からゴロゴロと音が響き、そこへ一筋の雷が降る。その電撃の中、ゴミに交じっていた卵型カプセルが開き、中から2枚のカードを排出する。そしてカードはすぐさま黄色い光と共に姿を変えていく…。
やがてそこから姿を現したのは、大盾のような巨大なフリルと長大な3本角、そして大きく発達した頬角を持つ大型の角竜…ペンタケラトプスだった。
ペンタケラトプスは見慣れない風景に当惑しているようで周囲を見回し…素早くその場を後にした。見ると、落雷の影響なのかゴミの一部から火の手が起こっていたのだ。しかもなんと都合の悪いことに、突然空に空いた亀裂から2枚のカードが舞い落ちてくる。
カードは炎に当たるとたちまち赤い光と共に膨れ上がっていく…が、それは先ほどのペンタケラトプスより遥かに大きい。
やがて光が収まり、そこに立っていたのは僅かにティラノサウルスの面影を残す異形の生物だった。
頭頂部がマッコウクジラのように膨れ上がった異様な様相の頭部。
明らかに異常な位置についている5本目、6本目の太く長く逞しい腕。
そして全体的な姿は、まるでティラノサウルスとゴリラの融合体といった様子だ。
その恐竜は、この世の全てを呪うような悍ましい咆哮を炎の中で轟かせたのだった…。
戻ってDラボ
オーエンとの通話も終わり、帰り支度をしていたDキッズのもとへ恐竜出現の通知が入り、彼らはすぐさまテレポートルームへ向かう。
「恐竜だ! Dキッズ出動!」
「今回の場所は、アメリカ合衆国カリフォルニア州の西海岸・ロサンゼルス市の一角ね…って、もういないわ」
リアスが出現場所を口にした時には、もうDキッズ(+合流したミサ)はテレポートしていくところだった。
「おぉ? ここってハリウッドじゃないかぁ? もしかしたら師匠と会えるかもな!」
「ハリウッド…マルムにデッパーのサインでも頼んでおけばよかったかしら…」
そんな会話をよそに、ウー博士は1人モニターの前で画面をじっと見つめていた。そこには、先ほどの恐竜検知のアイコンと識別記号が付いていたのだが、『unknown』と記されていた。
(オーウェンの協力を得て、カードから発される波動をもとにディノサーチの精度を上げたことで、最低限肉食恐竜か草食恐竜かの判定はできるようになったはずだ。
だが、『unknown』とは…どういうことだ? 『パーク』や『ワールド』、『サンクチュアリ』の個体なら識別できるはずだ。
もし、識別できないとしたら…)
彼の脳裏にとある島の憧憬が浮かぶ…が、すぐに振り払った。
(いや、まだあいつらが生きているなど…そんなことあるはずがない)
またまたハリウッド
その頃ハリウッドでは、先ほどの火災現場で迅速な消火が行われているところだった。炎は雨もあってあまり燃え広がらなかったようで、現地のスタッフも一安心といったところである。
すると、突如として燃えかすの山がモゾモゾと動き…中から人のシルエットを持つ何かが飛び出した。
驚いたスタッフ達がホースや消火器を放り出して逃げていく。やがて雨で灰や燃えかすが洗い流され、そこから現れたのは…
「…………」
あのタルボーンヌであった。
その頃 太平洋 アジ島
ビーチに立てられたパラソルの下で、ソーノイダがせかせかと団員たちへ指示を飛ばしていた。その手には電動歩行機をしっかり握っているあたり、まだ完治してないようである。
「おいっ! セカセカ働かんか! ウサラパ! お前は飯作りじゃ!」
「はいはい!」
「エド! お前は洗濯じゃ!」
「はいッス!」
「ノラッティ〜! お前はティラノ達のご機嫌取りをしとけ!」
「はいはいザンス…んぎゃーっ!」
チビ恐竜達に構おうとしたノラッティ〜が逆に襲われ、悲鳴を上げる。だがソーノイダはそれに一切構わなかった。タルボーンヌがいない今、こうでもしないと島が回らないのである。
子供ということで唯一労働を免除されたロトとロアは、微妙に距離を置いてその光景を眺めていた。
「おじい様、随分機嫌が悪いわね。
まあタルボーンヌさんがいないせいで基地中てんやわんやだし、仕方ないのかしら」
「…ほんとにタルボーンヌさん、どこ行っちゃったんだろ…」
いつまで経っても帰ってくる気配のないタルボーンヌを思い、ロトが珍しく弱気な言葉を口にする。
そんな彼を見てロアはしばらく何か考えていたが、意を決した様子で口を開く。
「ねぇ、おにい様。確かタルボーンヌさんと最後に会ったのはノーピスなのよね? 『どこか行くところがあるから別れた』って言ってたって前に聞いたけど…本当なのかしら」
「なっ…何だよロア。お前まさかノーピスを疑ってるのかよ」
「そりゃ疑うわよ。それっきりタルボーンヌさんが消息を絶ってるんだがら。おにい様は何かおかしいと思わないの?」
ロアの言葉に、ロトは思わず黙り込んでしまう。それは自分が何度も考えつつも、目を逸らし続けてきた疑問だったからだ。
(…もし、ノーピスがボク達に嘘をついてて…恐竜集めに邪魔になりそうなタルボーンヌさんを秘密裏に処分したのだとしたら…タルボーンヌさんが帰ってこない理由としては十分だ。
でも…そうだとしたら…ノーピスはボクに嘘をついてたってことが明白になる。じゃあ、ボクが今までそんなノーピスから助言を貰ってやってきたことは…)
考えるうちに、自分の足元が脆く崩れていきそうな錯覚に陥っていた…その時だった。
「ロト。恐竜だ。すぐ出撃してくれ」
突然降ってきた言葉に驚いて振り返ると、いつの間に来ていたのかすぐ後ろにノーピスが立っていた。
一生懸命内心の動揺を抑え込みつつ、アクトホルダーを受け取る。
「…分かった。場所は?」
「アメリカ合衆国のカリフォルニア州ロサンゼルス…ハリウッドだ」
「…了解。行ってくる」
すぐさま駐機場へと駆け出していくロトを、ノーピスは満足げに、ロアは呆れ顔で見送ったのだった。
少し後 ハリウッド 撮影スタジオ外の一角
現地へテレポートしてきたDキッズ一行がまず目にしたのは、滝のように降り注ぐ雨だった。しかし彼らは幸運なことに屋内にテレポートしたようで、雨に打たれずに済んだらしい。
「うわ、すごい雨ね…」
「これだと恐竜が外にいたら探しに行けないよな。どうしよう…」
「仕方ない。取り敢えず見学がてらスタジオを見て回ろうよ。もしかすると恐竜の手がかりが得られるかもしれない」
「そうするしかないかもね」
ということで、恐竜探しのため5人はスタジオ巡りを始めたのだった…。
「にしてもすげぇなぁ…。色んな俳優や小道具が沢山あるぜ!」
「さっきのスタジオにはトラ◯スフォーマーのロボットもあったな。あの変形ギミックには心が躍ったよ」
「なんだか異世界に入り込んだみたいで…こんな感覚初めてかもね…」
「なんだかミサさん、俺が今まで見たことない顔してるな…」
「そりゃそうよ! こういうところミサさんは初めてなんだし…あっ! あれデッパーじゃない!?」
突然そう叫んだマルムの視線の先には、ヴァンパイアの恰好をした俳優がいた。彼がジョニー・デッパ…通称デッパーらしい。
彼はマルムの声に気がついたのか、彼らに軽く笑いかけるとまたスタジオへ戻っていく。
「あぁぁ…♡ まさか本物のデッパーに会えるなんて!」
「マルムちゃん、あの人ってそんな有名な人なの?」
「ミサさん知らないの!? デッパーが出てる映画…例えば『パ◯レーツ・オブ・カリビアン』とか『ファンタス◯ィック・ビースト』とか見たことないの!?」
「ごめんね、映画はオウガ君が見せてくれた恐竜映画とサメ映画とワニ映画しか知らなくて…」
「ちょっとオウガ! 恐竜映画はともかくサメとワニって何よ! もっとミサさんにまともなもの見せなさいよ!」
「そんなこと言われても、俺もそれ以外のは興味なくて見たことないし…」
「まーそれも仕方ないよな。オレも名前と顔が一致しない俳優が殆どだしさ。レックスは?」
「僕は昔からパパとよく映画を観てたから大体は知ってるよ。それにここにも何度か連れてきてもらったこともあったし…えっ、パパ!?」
「どうしたんだよ、レックス。オーエン博士に連れてきてもらってたんだろ?」
「そうじゃない! あそこ! パパが来てる!」
レックスの指さす先には、ちょうど車から降りてくるオーエン博士の姿があった。その横には傘を手に控える助手のパンチョーもいる。
「パパ!」
「ん?…おおレックス! 来ておったのか!
なら知っておるとは思うが…古代君からここに恐竜が出たとの連絡を貰ったんじゃ!」
「そうなんですか? でも見たところ、特に混乱は起きてないように見えますけど」
「博士の見立てでは、スタジオのどこかで息を潜めているということでさぁ。だからこれから聞き込みをしようと考えてたんでやす」
「しかしこうしてワシらが一同に会したことだし、ここは手分けしてスタジオ中を探すとしよう。レックスはワシと来なさい。
パンチョー! お前はここで車の番をしていてくれ」
「合点でさぁ」
「え? う、うん。分かったよパパ」
「それじゃあオレ達も分かれて捜索するか!」
「了解。じゃあミサさん。俺がエスコートしますから一緒に探しに行きましょう」
「うん、わたしからもお願いしたいかもね」
「え〜…じゃあアタシはリュウタと〜?」
「何だよ、なんか文句あんのかよ」
「落ち着けよ2人とも。今は恐竜の保護を最優先に行動するべきだろ?」
「そりゃレックスはオーエン博士と一緒だから気楽だろうけどさぁ…」
手分けする段階で少しばかり揉めたものの、Dキッズ一行は三手に分かれて恐竜の捜索へ乗り出したのだった…。
その頃 ハリウッド内の別のスタジオ
「ここにもいない、か。一体どこに隠れてんだろ」
こちらでは、現地入りしたロトも恐竜の捜索に乗り出しているところだった。アクトサーチでは大まかな位置しか分からないので、いつもこうする必要がある。
「お爺ちゃんが復活したら、アクトサーチの改良を提案してみようかな。そうすればあいつらに出し抜かれることは少なくなりそうだし…ん?」
その時、ロトは足元から何か震動を感じた。何か大きなものが動いているようだ。
これにはロトも、それが巨大な生き物が移動する際に発生する衝撃震動だと自覚せざるを得なかった。
(今回出たっていう恐竜か? でもこれほどの震動を発生させるなんて、10数トンはある大物だな…)
さらによく耳をすませてみると、雨が降りしきる外から重々しい足音と水溜りを踏み躙る音が聞こえてくる。
ロトは素早くスタジオの外に面した方へ…締まりかけているシャッターのすぐ横に体を寄せ、その隙間から外の様子を窺う。すると、雨のカーテンの奥に恐竜のシルエットが現れた。それを見るに四足歩行のようだ。
(四足か…それにあの肩の高さを考えると、今回の獲物は鳥脚類かな)
だが、近づいてくるにつれて次第に違和感を覚え始める。
(鳥脚類にしては足の爪が鋭すぎる気がするな…。それに首も随分短いし。
何よりこの腐肉を思わせる刺激臭は、肉食恐竜の体臭だ)
やがてその全容が視認できるところに来て、ロトはヒッと息を呑んだ。
それは、鳥脚類などではなかった。
マッコウクジラのように肥大化した頭、首を覆い隠すほどに異常発達した上半身の筋肉、ゴリラのような剛腕に隠れるように備わる1対の小さな腕。
鋭い牙が生え揃った口と腕の指の数から、辛うじてそれがティラノサウルスの仲間だろうと推測できたが、彼の中の常識がその生物の理解を拒んでいた。
(だってこんな…こんなの恐竜じゃない! 正真正銘のモンスターだよ!)
そう叫びたい気持ちを必死に堪えつつ、両手で口を覆った。どうやらそいつはロトに気づかなかったようで、次第に足音が遠ざかっていく。
「何だよ…何なんだよあいつ…」
しかし彼は本能から来る恐怖にすっかり打ち負け、その場に座り込んでしまったのだった。
『JURA JURA PARK3』スタジオ
恐竜を探していたレックスとオーエン博士が辿り着いたのは、『JURA JURA PARK3』の収録スタジオ前だった。
「あれ? ここって…」
「うむ。例の映画の収録スタジオじゃ。ぐぬぬぬ…」
どうしても先日の1件があり、オーエン博士はスタジオに入るのが躊躇われるようだ。まああの後に自分から顔を出せば、降参しに来た感じがして嫌なのだろう。
「パパ。今ハリウッドで恐竜映画を撮ってるのはここだけみたいだし、恐竜が隠れているならここが1番有力だと思うんだ。
木を隠すなら森の中、って言うでしょう?」
「むむむむ…それは確かに一理あるのう。
えーい、仕方がない! あ奴との付き合いも長いことだし、ここはワシが寛容な心で以て接するしかないか!」
ということで、オーエン親子はスタジオに入っていく。何故かスタッフから奇異の視線を向けられながら、オーエン博士は大股でスタジオのド真ん中で指示を飛ばしているスピノバーグ監督に歩み寄った。
「オホンッ、邪魔するよ監督」
「ん? あぁオーエン博士デスか。わざわざ留学中の息子さんまで連れて、何かご相談でも?」
「ワシがいなくなってさぞかし困っておるかと思ってな、ちょうどレックスも帰ってきたことだし見に来たのじゃ。
もし、お前が自分の至らなさを認めて謝るのなら、今回は許してやってもよいぞ」
後ろで「あちゃー」と言わんばかりのポーズを取るレックスだったが、それに構わずオーエン博士は「言ってやった」と言わんばかりに胸を張る。
しかし、それに対する監督の返答は意外なものだった。
「あー…オーエン博士。アドバイザーは新しい博士を充てることにしたから、もう来てもらわなくていいデス」
「なっ、なななな何ィ!?」
「だって、いつまでもヘソを曲げてスタジオに来ない人に頼ってられないデスから。
こっちだって納期ってもんがあるんデス…って、長い付き合いなんだからそれ位分かってるはずデスよね」
「な、何を勝手にそんなことを!
ワシはここまで前2作ともアドバイザーとして監修し、どっちも賞を取らせるほど素晴らしい作品に仕上げた実績があるんじゃぞ! これまで通りワシを据えてワシのアドバイス通りに作れば万事うまくいくじゃろうが!」
「いやー、ほならね? あなたが監督になって映画を作ってみてはどうです? 私はそう言いたいですがねぇ」
そんな言葉と共に、スタジオに1人の男が入ってくる。その姿を見て、オーエン博士は露骨に眉をひそめた。
「ジャック・ホナラネ…ッ!」
「おおホナラネ君、君の提案は素晴らしいデス! すぐこれで脚本を作りますデス!」
「お気に入っていただけたのなら何よりです、監督」
「提案…じゃと? 何のことじゃ!」
「これですよ」
それと同時に、ホナラネ博士が小脇に抱えていたスケッチブックを開いてみせる。中には、黒く粗い鱗と盛り上がった背中を持つ獣脚類の姿が描かれていた。
「この恐竜は『ギガノトサウルス』と言います。全長15メートルで体重は14トン。 腐肉食いのティラノなんかよりも遥かにすごい、まさしくファンタスティックな恐竜ではないですかねぇ?」
「こんな恐竜がいるなんて知らなかったデス! ティラノよりすごい恐竜なんて、これは採用するしかないデスノーネ!」
大興奮の監督に対し、オーエン博士はあり得ないものを見ているかのような表情を浮かべていた。
「なっ…待ちたまえホナラネ博士! これは実際のギガノトサウルスの姿からは程遠いぞ! こんなに尻尾は長くないし背中も盛り上がってない! 頭骨の形もまるで違う!
それに全長も体重も明らかに盛りすぎ…」
「それはあり得ないですねぇ。私が顧問を務める会社の独自調査でもそういうことが明らかになってますからねぇ」
そう呟き、ホナラネ博士は胸につけたバッジを見せつける。そこには、S・D・Eのアルファベット3文字を融合させたようなロゴが付いていた。
「そのロゴっ…『Sin- Dino Evolution社』の!」
「おや、ご存知だったみたいですねぇ」
「ああっ、知っているとも! あちこちで無許可のバイオ実験を行い、裏社会とも密接な関係があると噂の悪質企業じゃからな! 誰でも知っとるわい!」
「酷いですねぇ。そんな陰謀論を振りかざして私は信用ならないと印象づけるつもりですか?
少なくとも私はあなたほどではないですが、確たる実績を持つ古生物博士なのですがねぇ」
「確かにそれはワシも認めよう。だが君の専門は鳥脚類じゃないか! それなのに何故ティラノやトリケラの研究に顔を突っ込んでは荒唐無稽な話ばかり出すのかワシには理解できんよ!
さっき口走ったティラノの腐肉食専門説だって、根拠に乏しいからと論文にはしておらんのにメディアに対しては積極的に発信しておるじゃろう!
君のそういうところが恐竜に対してあまりに誠意に失礼だと…」
「はいはい、御高説はそこまでにしてくれませんねぇ。
さぁ、監督。早速撮影にとりかかりましょう」
「そうしたいのは山々デスが…まずこのギガノトサウルスのアニマトロニクスの製作を発注するところから始めないといけないデス。
CGだけでは出せない迫力がアニマトロニクスにはあるデスから」
「ご心配なく。そうおっしゃると思って既に手配済みです。もうじきここへ到着しますよ」
「なんと、もう配送を待つばかり!? それは朗報デス! 早速撮影準備を始めるデスヨ!」
「う〜ん…改めて思うと、すごいですねぇ私は。
手際の良さで途中参加ながらもスケジュールに迷惑をかけず、あのオーエン博士を押しのけて新しいアドバイザーになって…それでさらに? ギガノトサウルスの新たな姿を大衆に広められるだけの力もあるって?
なかなかできませんよこんなこと。私ぐらいの人間でなければね」
自己陶酔に浸るホナラネ博士とは対照的に、オーエン博士は膝から崩れ落ちてしまった。
「ば…バカな…。ワシは…ワシはそんなポイと捨てられる程度の男じゃったというのか…」
「パパ…」
父親の肩を支えつつ、レックスはホナラネ博士の方へ視線をやり…おや、と頭を傾げた。
(あのギガノトサウルスの姿…どこかで見た覚えが…)
その頃 『吸血鬼ドラキュラ伯爵』撮影スタジオ
こちらでは、いよいよ本番の撮影が始まっていた。夜の城をイメージしたセットでヒロイン役の女優に後ろから忍び寄るのは、先ほどDキッズ一行が遭遇したジョニー・デッパ演じる吸血鬼だ。すぐ背後につけたところで、彼は大袈裟にマントを広げて襲いかかる素振りを見せる
それに気づいた女優がいかにもな金切り声を上げた…が、そこで背後のセットを壊して入ってきたものに驚愕し、固まってしまう。
デッパーはデッパーで何故か女優が次の台詞に移らないので、繰り返し脅しをかける。それでも彼女は動かないどころか卒倒してしまったので不審に感じたところ…自分の背中に生暖かい風を感じて振り向く。
するとそこには、ペンタケラトプスが立っていたのである。
「ギャーーーーッ!!」
デッパーのみならず、その場にいたスタッフ達も一斉に逃げ出していく。ペンタケラトプスも野生の本能に従い、彼らを追いかけたのだった。
その時、撮影スタジオのすぐ前をウサラパ達アクト工作員の3人組が通りかかっていた。ソーノイダから家事を任されていた分、遅れて出撃してきたようだ。
傘をさしてとぼとぼと歩く彼らの横を、でかでかと『S.D.E』のロゴが入った大型トラックが通過していく。
「恐竜、いないッスね…」
「建物が多すぎるせいで隠れ場所はいくらでもありそうザンス。ウサラパ様、恐竜を探すのにいい方法は何かないザンスかねぇ?」
「恐竜ぅ? お前達何を言ってるんだい!
アタシが探してるのは別のものだよ!」
「「別のもの?」」
「せっかくハリウッドに来たんだよ? 誰かビッグでイケメンなスターとバッタリ出会っちゃったりしてぇ? 熱ぅ〜い恋が始まっちゃったりしちゃったりしてさぁ〜!?」
なんと、ウサラパがここへ来た目的は男漁りだったようだ。これにはエドもノラッティ〜も流石に閉口してしまった。
しかし、幸か不幸か彼らの視界の先からジョニー・デッパが必死の形相で走ってきた。これには3人とも驚きを隠せない。
「ほら見なよ! ジョニー・デッパだよぉ!」
「ほんとに来たザンス!」
「デッパ様ぁ〜♡ サインしてぇ〜♡」
「それどころじゃ…なぁい!」
しかしデッパーは先ほどのペンタケラトプスから逃げるのに必死なようで、絡みついてきたウサラパを投げ捨てて走り去っていく。
存外に雑な扱いをされ、悲しみの涙に暮れるウサラパ。その背後から、そのペンタケラトプスがやってきていた。
「う、ウサラパ様!」
「恐竜が現れたッス!」
必死に訴える2人の声を受け、ウサラパが立ち上がる。が、彼女の口からは思いもよらない言葉が飛び出した。
「お前達! 恐竜は任せたよ!
…待ってください、デッパー様ぁ〜っ♡」
そう言い残し、ウサラパは傘も放り捨ててデッパーが走り去った方へ駆け出していったのだった。
「こ、こうなればミー達で何とかするしかないザンス!」
「仕方ないッスよね! …あれ? あれ? あれれ?」
いよいよ恐竜バトルが始まるかと思いきや、エドが体中を探し回ってから顔を青くする。
「まずいッス! 急かされたせいでアクトホルダー忘れてきたッス!」
「えーっ!? そんなのないザンス!」
しかしペンタケラトプスは待ってくれない。すぐ目の前まで迫ってきたそれから、エドとノラッティ〜は必死で逃げるしかなかったのだった。
すっかり取り残されたペンタケラトプスは、どこかしょんぼりとした様子で近くの建物へと入っていき…そこで足を止めた。
彼の眼の前には、極めて精巧な角竜のアニマトロニクスが置いてあったのだ。ちなみにこれは、オーエン博士が手がけた渾身の作品のうちの1つである。
ペンタケラトプスはどこかうっとりとした様子でそれに寄り添い、愛おしげに鼻面を擦り付けた。どうやら、アニマトロニクスの角竜に一目惚れしてしまったようだ。
その頃 『エイリアンvsロボット』撮影スタジオ
こちらでは、地球侵略にやってきたエイリアンとロボット軍団が戦うという荒唐無稽な作品の収録が行われていた。既に撮影に使うロボットも整列させており、すぐにでも撮影が始められそうである。
と、そこでスタジオの壁を突き破り、あの異形の恐竜が姿を現した。入りこむなり足元に並べられていたエイリアンのロボットを踏み潰してしまう。
そのあまりに悍ましい姿を見て、スタッフ達が逃げ出していく。しかしそのさなか、1人の女性が転んで逃げ遅れてしまった。何とか這って逃げようとする彼女へ、あの剛腕が伸びていく…。
ちょうどその時、スタジオの前をオウガとミサが通りがかっていた。しかしそこからスタッフ達が続々と逃げ出していくのを見て、恐竜の出現を怪しむ。
「オウガ君、これって…」
「恐竜が出たのかもしれません。行きましょう!」
2人がスタジオへ突入すると、そこでは今まさに女性が異形の恐竜によって口へと運ばれようとしているところだった。
そのあまりに異質な姿に2人はギョッとするものの、それ以上に目の前で起きようとしていることを見過ごす訳にはいかない。
「あの人が危ない! レクシィ!」
『いつでも来い!』
オウガが素早くレクシィをカードに戻し、ディノラウザーにスキャンしようとした、その時だった。
「待ちなさい!」
突如雷鳴のように轟いた声につられ、オウガ達や女性のみならず異形の恐竜もそちらへ顔を向ける。するとそこに立っていたのは…
「お勉強…なさぁぁぁぁい!」
「た、タルボーンヌさん!?」
あのタルボーンヌであった。彼女はどこからともなくお玉を取り出すと大きく跳躍し、異形の恐竜の横っ面を殴りつけた。
これにはたまらず相手も転倒し、女性を手放してしまう。
「こっちへ!」
「早く逃げた方がいいかもね!」
オウガとミサに誘導され、女性はびっこを引きつつスタジオから逃げていく。
一方で、獲物に逃げられた異形の恐竜は起き上がろうとその剛腕で踏ん張り…ギャッと悲鳴を上げてまた崩れ落ちる。
そこをチャンスと踏んだのか、タルボーンヌが追撃に入った。しかし同じ手は食わないとばかりにそれはタルボーンヌを鷲掴みにし、入ってきた穴からスタジオの外へ放り出してしまった。そして彼女が体勢を立て直す暇も与えぬよう、追いかけていく…。
後には、オウガとミサとパートナー恐竜達が残されていた。
「オウガ君…何だったのかしら、今の…」
「俺にも何が何だかさっぱり分かりません。何でアクト団のタルボーンヌさんが戦っているのかも、あの6本足の恐竜みたいな生き物にしても…」
その時、彼のディノラウザーが着信を知らせる。相手はDラボだった。
「Dラボから…? もしもし、オウガです」
『聞こえていますね、オウガ君。私です。Dr.ウーです』
「ウー博士! 一体どうしたんですか?」
『今回出現した恐竜の識別番号を割り出せなかったので、現地に行った君達から直接聞き出そうと思い、連絡させていただきました。もしシステムの欠陥ならフィードバッグしないといけませんから。
それで、今回はどの恐竜が出たのですか?』
「は、はい。それが…異形としか言えない奴なんです。
なんかゴリラみたいな太い腕で四足歩行してるし、頭はクジラみたいに膨れ上がってるし、でもティラノサウルスみたいな小さい腕も付いてるしで…」
『何だって…!? 23.111がまだ生き残っていたというのか…!?』
「ウー博士、それって何なんですか?」
オウガがそう問いかけると、長い沈黙の後、ウー博士からの返答が聞こえてきた。
『…その恐竜は、Ver.23.111、名称『ディストータス・レックス』…ハイブリッド恐竜の研究過程で生まれた、科学的にも生物的にも欠陥品としか言えない個体です』
ということで、今回はここまでです。
なんだか原作の当該エピソードから大きく変化した内容になってしまいましたが、これでも大丈夫でしょうか…?
また、原作ではDキッズの探索パートに入った瞬間天気が晴れになっていましたが、流石に不自然に感じたので雨のままとして続けています。雨の方が雰囲気も出るってジュラパ作品でも証明されてるし…。
さて、ハリウッドの恐竜騒動はどのように展開していくのか…ぜひ後編をお楽しみに!
※追記:『激力雷晶閃』の説明を設定集に追記しました。