古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
当該話では、智月 龍狼さんから提案していただいた「ジョンおじさん」と「化石カード」を採用させていただきました。
まだほんの顔見せ程度の登場ではありますが、どちらも今後の話で展開していくつもりなので是非ご期待下さい。
また、今回は一部微妙にグロテスクな表現も含みますので、ご注意下さい。
それでは、今回もよろしくお願いいたします。
ジュラシック時空 ヌブラル島
「OK、クレア。『ジャングル・リバー』最上流に到着した。やはりと言うべきか、水は一滴も流れていないな」
オーウェンの目の前には、黒黒とした崖がそそり立っていた。かつてはここに大きな滝があったのだが、シボ山の噴火で滝上が埋まってしまったようだ。
『分かったわ。航空写真だと比較的溶岩の浸食が少ないエリアだったから、水さえ通っていたら使えたんだけど…それだと諦めるしかないわね』
「どうする? まだ他を探すか?」
『いいえ。もうあと数時間もすれば日が暮れるわ。確かすぐそばにヘリポートがあったわよね? 迎えのヘリを向かわせるからそこで待っていてちょうだい』
「了解。ここで待機する」
オーウェンは通信を切り、ヘリポートの一角へ腰を下ろした。何故彼が噴火で滅びたも同然のヌブラル島へやって来たのか…それには理由があった。
(…最近、世界の各所で恐竜達の遺体がよく見かけられるようになってきた。しかも死因は…気候に適応できなかったせいらしい)
そうなのだ。世界に拡散し、そのまま生態系の中へ組み込まれていくと思われた恐竜達は、ここに来て寒冷な気候に耐えられずどんどん斃れていっていたのだ。
そして分析の結果、現代の恐竜はサンクチュアリのような徹底的に管理された環境や、赤道直下の地域でしか生きていけないのではないか…そんな推論が持ち上がったのである。
しかし今サンクチュアリはほぼ満杯状態のため、新しく受け入れることなどできない。そのため火山活動が静まってきたヌブラル島へ恐竜を移送できないかということで調査に来たのだが…結果は芳しくないようだ。
(まあ、まだあの大噴火から数年しか経ってないんだ。いくら火山活動が落ち着いてきたからって、こんな環境じゃ恐竜達は生きていけない…)
そう心の中で呟きながら周囲を見渡していたが…そこでおや、と顔をしかめた。その視線の先…かつて滝壺だった場所で何かが光ったように見えたのだ。
近づいてみると、そこには両手で抱えられるくらいの大きさの石があった。そしてその中心には、何故か橙色の光がぼんやりと宿っている。
「何だこりゃ…。ひとまず割って確かめてみるか」
オーウェンはすぐさまバックパックから工具を取り出すと、慎重に石へノミを入れる。しばらくもしないうちに石が真っ二つに割れると…。
「カード…だと?」
なんと、石の中からカードが出てきたのだ。
「何だってカードが石の中に…それにこんなデザインは見たことがない…」
彼が手に取ったカードには、『FOSSIL』という文字と、ティラノサウルスの全身骨格らしきイラストが描かれていたのだった…。
ハリウッド 撮影スタジオの一角
「見つからねぇなぁ〜」
「どうしようもないわよ。ここで働いてる人達にそれとなーく聞いても収穫なしだったもん」
「ディノサーチによればまだここから離れてないみたいなんだけどな…」
「この無数のスタジオのどこかに隠れてるんだとしたら、会えるかどうかも分からないし…あーあ、せっかくのハリウッドなのに最悪な気分よ」
そんなことを話しながらスタジオ間の渡り廊下を移動しているのは、リュウタとマルムだった。これまで色々とスタジオを渡り歩いてきたのに、全く成果が無かったことにマルムが少々苛立っているようだ。
「全然雨が止まないから外にも行けてねぇし、もしかすると外にいるんじゃねぇのか?」
「やめてよそれ! もしそうだとしたら、ここまでスタジオ巡りして探してたのが全部無駄だったってことになるじゃない!」
「そうは言うけどさ〜、マルムだってレオナルドなんとかとかクリスなんたらとかの俳優に会って嬉しそうにしてたじゃんか。
なら別に無駄って決めつけなくても…」
「なんとかじゃない! レオナルド・デカプールとクリス・プラトーンよ!
それに、それとこれとは話が違…」
マルムがリュウタに食ってかかろうとした…その時だった。
突然すぐ目の前の壁が突き破られ、何かが廊下の床へ転がったのである。その姿をはっきり目の当たりにした2人は、思わず驚きの声を上げた。
「えっ!? この人って、アクト団の…!」
「タルボリンコさん!」
「タルボーンヌですっ! でやあぁぁぁぁっ!」
彼らの目の前でタルボーンヌは再び立ち上がり、壁の穴から外へと飛び出していく。それにつられて2人も穴から外を見ると、ちょうどタルボーンヌがディストータス・レックスと格闘しているところだった。
「リュウタ! あの人恐竜と戦ってるわ!
…え? あれって恐竜…なの?」
「恐竜って割には腕が4本もあるぜ! 六本足の恐竜なんか聞いたこともねぇよ!」
「それなら、あれは何なのよ?」
「もしかしたら、ここにあったモンスターか何かのロボットが暴走してるのかも…」
その時、彼らのディノホルダーが着信を知らせた。画面を見ると、相手はオウガのようだ。
「どうしたんだオウガ?」
『リュウタ! それにマルムも! 今回アンバーに反応した恐竜について、ウー博士から聞いたんだ!
だからそれを共有しようと思ってて…』
「その恐竜って、もしかして六本足でティラノサウルスとクジラとゴリラの融合体みたいな奴のことか?」
「今アタシ達の目の前でそれとタルボンナ「タルボーンヌです!」…タルボーンヌさんが戦ってるのよ!」
「何だって!? もうそんなところまで…分かった!
それじゃあ今からウー博士から聞いたことを伝えるからよく聞いていて! 博士が言うには…」
数分前…
『ディストータス・レックス…? それに欠陥品ってどういうことですか?』
『文字通りの意味ですよ。その恐竜は、かつて我々がハイブリッド恐竜研究の過程で作り出してしまった欠陥生物なのです』
『ハイブリッド…あのインドミナス・レックスやインドラプトルを生み出すための研究ってことですね?』
『ええ。あれが六本足なのは、本来双生児になるはずだった胚が合体し、もう1対の足が上半身に付いてしまったからだと報告されていました。
しかも極めて高い知能と判断力を併せ持っていたらしく、成長と共に上半身の足をまるで腕のように扱えるようになったとも…』
『…そうだ! あれをあのまま放っておけば被害も拡大してしまいます! 早く追ってカードに戻さないと!』
『気持ちは分かりますが、話は最後まで聞くものですよ。
確かにあの剛腕による攻撃は驚異的です。しかしあくまで元は足。そのため足の可動域を超えて動かそうとすると関節部に激痛が走り、攻撃の手を止めたと報告されていました。
つまり、敢えて大振りの攻撃を誘わせれば隙を生み出せるかもしれません』
『関節に痛みが…そういえばさっき、立ち上がろうと右手で踏ん張ろうとした時に悲鳴を上げてたけど、それがそうだったのかな…』
『恐らくそうでしょう。卑劣な手段と思われるかもしれませんが、そうでもしなければあれは止められません。
人的被害が出る前に、迅速に対応して下さい』
『分かりました! すぐ向かいます!』
「…って訳なんだ。だから2人も、それを心がけてディストータス・レックスと戦ってほしい」
「わ、分かったぜ。とにかく大振りな攻撃を誘わせればいいんだよな?」
「ちょっと可哀想だけど…やるしかないわよね!」
そして2人が再び外へ顔を向けると、ちょうどディストータス・レックスはタルボーンヌをその手に握り、投げ飛ばそうとしているところだった。
少し前 『JURA JURA PARK3』撮影スタジオ
外でディストータス・レックスとタルボーンヌが激闘を繰り広げていた時、ちょうどここの撮影スタジオにギガノトサウルスのアニマトロニクスが運び込まれていた。
その完成度の高さに、スピノバーグ監督も興奮を隠せない様子だ。
「Wow! これはスバラシイ! Wonderful! Marvelous! Excellent!」
「気に入っていただけたようで何よりですよ、監督。
では…早速撮影を始めましょう。まずはギガノトサウルスとティラノサウルスの邂逅のシーンから…」
「Oh,いきなりそこからデスか? そこまで焦るほどスケジュールが逼迫している訳ではないデスが…」
「いいえ、これはこの映画で最も重要になるであろうシーンですよ。
なにせ…新顔のギガノトサウルスが主人公達の目の前でいきなり前作までの主役だったティラノサウルスを完膚なきまでに叩きのめして命を奪う展開なのですからねぇ」
ホナラネ博士の言葉を耳にし、スピノバーグだけでなくその場で話を聞いていたスタッフ全員が凍りついた。こんな荒唐無稽な提案をされては困惑するのも当然だろう。
「おやおや、皆さん『いきなり何を言うのか』みたいな顔をしてらっしゃいますねぇ…。
ですが監督。確かあなたおっしゃっていたそうですねぇ。『マンネリを擦り続ければコンテンツは衰退する』と」
「なっ、何故それを知っているデスか…」
「前作までの看板だったティラノサウルスを、まるで赤子の手をひねるように片付けるギガノトサウルス。それこそ、この映画に新しい風を吹き込む要素になり得ると思いませんかねぇ?」
「う…う〜ん…しかしそれは…」
尚も難色を示すスピノバーグに対し、ホナラネ博士はやれやれと言わんばかりに頭を振ると、彼の耳元でこう囁いた。
「そこまで粘るなら、『この映画の監督はアドバイザーの助言を無視する人間だ』と、私の所属会社からスポンサーへ働きかけてもらってもいいのですがねぇ…」
「なっ、貴様…!」
ここに来てスピノバーグは確信した。この男…ジャック・ホナラネは映画を良くすることなど考えていない。こいつの目的は映画の内容を自分の思い通りに作らせ、かつその責任は監督の自分に負わせることなのだと。
しかしそれに気づいたところで、あまりに遅すぎた。もう彼によってギガノトサウルスのアニマトロニクスも持ち込まれた以上、何もせずに返すことはできない。
このまま奴の言う通りの映画を作るしかなくなったのである。
「…どうやら納得していただけたようですねぇ。
それでは皆さん。早速撮影を始めましょう」
ホナラネ博士の一声で、スタジオ内に緊張が走る。しかし肝心のスピノバーグが一切遮る様子を見せないのを見てか、ぎこちないながらも撮影のセッティングが始められた。
「か、監督。撮影準備、完了しました」
「…了解デス。アクションを頼むデス」
「おやおや監督。声が小さいですねぇ。せっかくのメインシーンなのですから、もっと大声で仕切ってもらわなければ」
「ぐぅぅっ…アクションっ!」
スピノバーグの半ばヤケクソ染みた掛け声で、撮影が始まる。彼らの目の前でティラノサウルスとギガノトサウルスが向かい合い、いよいよ戦闘が繰り広げられようとしていた。
(さぁ、ギガノトサウルス。機械の体であろうとも、お前はドジスン様の最も愛する恐竜。
腐肉喰らいのノロマなど歯牙にもかけない最強の恐竜だということを、この映画で全世界の人間に見せつけるのですよ!)
ドガッシャアァァァァン!!
その時だった。スタジオの壁を突き破り、何かが飛び込んできたのである。
その頃 スタジオ外
「うお〜んうお〜んうお〜ん…そうなんじゃよジョン…スピノバーグのやつ、長年一緒に映画を作ってきたワシをあんなにあっさりと…」
「パパ…」
「博士…」
こちらでは、レックスとパンチョの目の前で号泣しながらどこかへ電話をかけているオーエン博士の姿があった。
そんな彼に気づかれないよう、レックスがこっそりパンチョに囁く。
「パンチョさん。パパの電話の相手ってもしかしてジョンおじさんのこと?」
「そうでさぁ。いつもああやって悲しいことがあった時は、電話で慰めてもらってるんでやす」
「確かにそうだったね。でも…前にパパが言ってたんだ。昔はジョンおじさんとタッグを組んで恐竜研究に明け暮れてたって。
それなのに、どうして今は電話ばかりなんだろう」
「ジョン博士は…あいや、今は博士じゃなかったでやすね。レックス坊ちゃんが仰る通り、かつてお二人はオーエン古生物学兄弟として有名だったでやんすよ。
でもジョン博士は日本のホッカイドウで一目惚れした娘さんの家へ婿入りされて、それ以来学者を引退して農場経営を…」
パンチョがそう言いかけた時だった。彼らの背後にあるスタジオから轟音が響いたのである。
「っ!? 何だ!?」
「い、今の音は…『JURA JURA PARK3』のスタジオの方からでさぁ!」
「まさか恐竜が…ごめんパンチョさん! パパを頼む!」
「が、合点でさぁ!」
ひとまず号泣し続けるオーエン博士をパンチョに預け、レックスは再びスタジオへ向かったのだった。
そしてそのスタジオには、とんでもない乱入者が現れていた。
「お…オベンキョ…なさ…ナサ…」
グルルルル…!!
それは、タルボーンヌとディストータス・レックスだった。戦っているうちに、ここまで到達したようだ。しかしタルボーンヌは体の金属部分が剥き出しになり、そこから激しいスパークが飛び散っていた。
明らかに満身創痍であり、現に片膝をついた状態から立ち上がれそうにない。
「な…何なんデスこれは…。一体何が起きているデスか…」
突然の出来事にカットすら言い出せないスピノバーグ。その横で、ホナラネ博士は恐怖に全身を引きつらせていた。
(何だ…何なのだこの生き物は…? 脊椎動物としては明らかに逸脱した…異形そのもの…。
見ているだけで悪寒が止まらない…)
やがてディストータスは周囲に目線を配り…ギガノトサウルスのアニマトロニクスに目をつけた。その側で待機していたスタッフが怯えて飛び退き、その時にうっかりアニマトロニクスを誤作動させてしまう。
グオォォォォ…!!
するとギガノトサウルスの口から咆哮が轟いた。勿論これはあらかじめ録音された音声なのだが、そんなことをディストータスが知るはずもない。
これを宣戦布告だと受け取ったのか彼女は身構えると…その身に赤い光と業火を纏った。その炎は大きな両腕へと伸びていき、拳のところで剣の形を形成していく…。
炎属性の超技『
続けてその両腕に握った炎の大剣を振るい、ギガノトサウルスのアニマトロニクスをバラバラに解体してしまった。
「ぜ、全員…退避〜っ!」
明らかに緊急事態だと判断したスピノバーグの号令で、その場にいたスタッフ達は慌てて逃げ出していく。
後に残されたのは、ショックのあまり立ち竦むホナラネ博士だけであった。
「リュウタ! ここみたいよ!」
「よっしゃあ! すぐに中へ…どわぁぁぁぁっ!?」
ちょうどその時、リュウタとマルムが現場に到着した。
早速突入しようとする2人だったが、スタジオから避難していく人の波の中へあっという間に飲み込まれてしまったのだった。
「あ…あり得ない…こんな生物など存在していいものではない…こんな悍ましく、醜悪な奴など…」
一方、1人残されたホナラネ博士は、目の前の光景が受け入れられずに茫然自失の状態だった。やがてハッと我に返ると、彼の顔をディストータス・レックスが覗き込んでいた。
逃げる間もなく、彼の体が地面に転がされる。
「やめろっ! このけだものっ!」
必死に両腕を振り回して抵抗するホナラネをディストータスはあっさり掴み上げ、しばらく凝視したかと思うと…大口を開けて食らいついた。
絶叫がプツリと途切れ、肉を噛み締め骨を砕く音が無人のスタジオに響く。
やがて彼女が食事を終えたところで、カツーンと何かが床に落下する音がこだました。
それは、彼が背広に付けていた『S-DE』のシンボルだった。
そんな地獄絵図とした呼べない場へ、轟音を聞きつけたロトが飛び込んできた。
「っ! 轟音の発生源はあの化け物だったのか!
それに…えっ、タルボーンヌさん!?」
「ろ…ロト…?」
ロトの声に反応したのか、タルボーンヌがギギギと首を軋ませながら彼の方を振り向く。だがその直後、彼女の体はディストータス・レックスに薙ぎ払われて壁へと叩きつけられた。
彼女はもう僅かに体を震わせるだけで、動くことすらできなさそうだ。
「よくもタルボーンヌさんを…!
行くぞカスモサウルス! お前の力を見せてやれ! アクトスラーッシュ!」
ゴオォォグオォォォォッ!!
タルボーンヌの弔い合戦とばかりにロトがアクトホルダーにカードを通し、いきなり超アクトカスモサウルスを召喚する。
勇敢にもカスモサウルスは突進を仕掛けるが、ディストータスが彼の眼前に拳を振り下ろしてその勢いを止めてしまった。そのまま蹴り飛ばすように拳を振り上げ、タルボーンヌの近くへと弾き飛ばした。
更に追撃と言わんばかりに再び『
「カスモサウルス! タルボーンヌさんを守れ! 『
そこでロトがすかさず超技を発動させた。するとカスモサウルスはタルボーンヌを庇うように立ちはだかり、フリルから光り輝く電撃のシールドを発生させたのだ。
そこへディストータスの『
「どうだ! この化け物め!」
しかしこれでディストータス・レックスが諦めるはずもなく、やけになったかのように何度も何度も剣を振るい続けてきた。
執拗に振るわれる剣を何度も受け止めるカスモサウルスだが、超アクト化の力を以てしても防戦一方のようだ。更に悪いことに、ロトのアクトホルダーから警告音が響き始める。
『
「ぐっ…仕方ない! ここはタルボーンヌさんの救助を優先しよう!」
そう判断するが早いかロトはアクトホバーを呼び出し、それに乗ってタルボーンヌのもとへ駆けつける。そして彼女をホバーへ乗せると、カスモサウルスをカードへ戻しつつ猛スピードで離脱していったのだった。
ゴグガアァァァァッ!!
獲物に逃げられ、ディストータス・レックスが怒りの咆哮を上げる。
グゥゥオォォォォッ…!!
すると、それに呼応するかのようにもう1つ雄叫びが上がる。ディストータスがそちらへ目を向けると…スタジオ脇の倉庫に直結する出入り口から、あのペンタケラトプスが姿を現したのだった。
スタジオ内廊下
「おーい、レックスー! 今行くぞー!」
そんな大声を張り上げながら廊下を疾走しているのはオーエン博士だった。どうやら通話が終わった後、パンチョからレックスがスタジオへ向かったと聞いて後を追っているらしい。
そんな彼がちょうど小道具が並べられた区画を通り過ぎようとしていた時、前からやってきたヴァンパイア姿の男に呼び止められた。ジョニー・デッパである。
「あぁ、ちょっとそこの人!」
「ん? おおっ! あんたは確かジョニー…」
「何も言わずにこれを着てくれ!」
「え? ちょっ…」
口答えする暇もなく、オーエン博士はヴァンパイアのマントを被せられ、そのまま脇に置かれていた棺桶に押し込まれてしまった。
『おい、何をする! 出せーっ! 出してくれー!』
必死に外へ出ようと抵抗するものの、蓋の立て付けが悪いのか一向に開かない。それでも今は息子に加勢せねばならない。その一心で奮闘していると…。
「デッパー様の匂いがこの辺にクンクンクン…♡
あっ、デッパ様ぁ〜♡ みーつけた♡」
『そ、その声は…!』
その声に、オーエンの思考が止まる。何故ならそれは、ニューヨークで出逢って以来彼が愛してやまないウサラパの声だったからだ。
「デッパー様ぁ…♡」
『やっぱり、君と僕は運命の糸で結ばれていたんだね…』
「まぁ♡』
棺桶の中からの声が若干くぐもっていたせいで、ウサラパはすっかり相手がデッパーだと誤解してしまったようだ。
一方でオーエン博士もこの状況を利用し、今度こそ彼女を射止めようと芝居染みた口調で語り始めたのだった…。
スタジオ前
「…で、何でリュウタとマルムがこんなところでのびてるんだ?」
「さっき大勢のスタッフさん達とすれ違ったんだけど、もしかしたらその波に飲まれちゃったのかもね…」
ようやくスタジオ前に到着したオウガ達の目の前には、すっかりのびてしまったリュウタとマルムの姿がある。彼らの恐竜達も揃って目を回しており、これではバトルどころではないだろう。
「…まったく仕方ないな。ここは僕が見ておくから、オウガとミサさんは恐竜の対応を頼む!」
「了解!」
「分かったわ!」
ということで、早速スタジオへと突入したオウガとミサだったのだが、入って早々彼らの目に飛び込んできたのは…。
「ええっ!? ディストータス・レックスだけじゃない! あれはペンタケラトプスだ!」
「しかも戦ってるわ!」
彼らの目の前では、ペンタケラトプスとディストータス・レックスが激闘を繰り広げていた。ペンタケラトプスは異様なほどの気迫で攻め立てているものの、それでも圧倒的な体格差は覆せないようだ。
「何が起こってるのかは分からないけど…ペンタケラトプスを助けないと! 行くぞ、レクシィ!」
「そうね…じゃあ、お願いね! エンピロちゃん!」
オウガとミサは互いに頷き合うと、レクシィとエンピロのカードをディノホルダーにスキャンした。
「ディノスラーッシュ! 燃え上がれ! ティラノサウルス・レックス!」
ゴガアァァァァッ!!
「ディノスラッシュ! 湧き上がれ! スピノサウルス・エジプティアクス!」
グゴオォォォォッ!!
レクシィとエンピロが成体となって降り立ち、威嚇の咆哮を上げる。それを横目で確認したディストータスは剛腕でペンタケラトプスを殴り飛ばして退かし、2頭に向き直ったのだった。
その頃廊下の方では、相変わらずオーエン博士とウサラパが会話を続けていた。勿論まだ博士は棺桶に入ったままである。
『この私が、命に代えても貴方を守ってみせる!
だから、私の愛を受け止めて下さい!』
「デッパー様ぁ〜♡ あぁ、なんてアタシは幸せ者なのかしら♡ 憧れの貴方から愛の告白を受けるなんて…!
でもダメよ…アタシには貴方の愛を受け止められる自信がないわ…。
近頃はやたらとオバさん呼ばわりされるし、目元の小皺も気になってきたし…」
すっかり相手がデッパーだと信じ込み、まるで恋愛映画のような台詞を口にするウサラパ。というか先程までそのデッパーを追いかけていたというのに、いざ愛の言葉をかけられると尻込みするというのはどういうわけなのだろうか。
だが、それに対するオーエン博士の返答もまた恋愛映画チックなものだった。
「とっ、年の差が何だ! 私と貴方の間を塞ぐことなんて、恐竜にだって出来やしないさ!」
「まあ〜〜っ♡」
棺桶という物理的な障壁で塞がれながらオーエン博士はそう宣う。しかしこの言葉でウサラパは更に乙女心を刺激されたようで、ますますメロついた表情になった。
「だって私は…ワシは…!」
そして、いよいよ我慢できなくなったのかオーエン博士が本格的に棺桶から脱出しようと暴れ出す。
やがて轟音と共に棺桶の蓋がこじ開けられ、中から現れたのは…。
「君を愛しているからだーっ!!」
「ゲーーーーッ!?」
当然、オーエン博士その人だった。満面の笑みの彼とは異なり、ウサラパはこの世の地獄を見たかのような顔になっている。
「さあ、怖がることはないウサラパちゃん! このワシの胸に、飛び込むんだーっ!」
紅潮した顔のまま両手を広げ、アピールするオーエン博士。それに対してウサラパが返した答えは…。
「オルァッ!」
渾身の飛び膝蹴りを食らわせることだった。オーエン博士の体が元通り棺桶の中へ叩き込まれ、静かに蓋が閉まる。
「ウサラパ様〜!」
「やっと見つけたッス〜!」
未だ怒りが冷めやらぬ様子で体を震わせるウサラパのもとへ、ようやく追いついたエドとノラッティ〜が駆け寄っていく。
そんな2人へ、彼女は八つ当たりの拳骨をお見舞いした。
「ったく、どこだい恐竜は! 行くよノラッティ〜! エド!」
「「ヘイヘイホー…」」
思わぬ形で流れ弾を食らった2人は、ウサラパと共にとっくに周回遅れの恐竜探しに乗り出したのだった…。
戻ってスタジオでは、レクシィ&エンピロとディストータス・レックスの戦闘が繰り広げられていた。
しかしその長大な腕から繰り出される打撃に、2頭とも苦戦を強いられているようだ。
「くっ…大振りの攻撃を誘発させるって言っても…これじゃ近づくことすらできない…」
「少しでも隙を見出して、そこにつけ込むしか方法はないのかもね…」
忍耐の戦闘の末、ようやくその隙が生まれた。一時的に戦線を離脱していたペンタケラトプスが復帰し、ディストータスの背へ突進を仕掛けたのだ。
後ろから突然走った衝撃に、ディストータスが体勢を崩す。そこを見逃さず、エンピロが素早く走り寄ってディストータスの首に食らいついた。
「やったわ、エンピロちゃん!」
そうミサが喜んだのも束の間だった。食らいついたまではいいものの、歯がそれ以上通らないのだ。強靭な大腕を支えるため異常発達した肩の筋肉が、急所の首を守る強固な鎧と化していたのである。
それでも何とか頑張るエンピロだったが、ディストータスに首根っこを掴まれ、投げ捨てられてしまった。更に返す拳でペンタケラトプスも殴り飛ばされてしまう。
「エンピロちゃん!」
「生物共通の弱点の首がダメなんて…やっぱり関節を狙うしかないのか…」
更に悪いことに、ここでディストータスが再び『
「このリーチじゃあ…ますます踏み込めない…」
その有り余る攻撃性がそのまま現れたかのような『
そんな2頭へ斬りつけようとディストータスが一歩を踏み出した…その時だった。
轟く雷鳴と共に、ディストータスの背後から眩い黄色の光が放たれる。ペンタケラトプスが超技を発動したのだ。そして頭の角に強力な電撃を宿して相手に目にも止まらぬ千烈撃を食らわせる『
突きと共に走り抜ける電撃にディストータスが苦しむが、倒し切るまでには至らなかった。その血走った目でペンタケラトプスにガンを飛ばすと、振り向きながら右腕の炎の剣で斬りつけたのだ。
超技発動後の隙を突かれ、ペンタケラトプスは諸に攻撃を食らってしまった…が、攻撃した側であるはずのディストータスががくりと体勢を崩した。『
そして、この千載一遇の機会をオウガとミサも見逃さなかった!
「ミサさん! 『
「OKかもね! オウガ君!」
すかさず技カードを射出し、同時にディノラウザーに読み込ませる。
「『
「『
技カードが発動し、レクシィが猛る業火を、エンピロが渦巻く水流をその身に纏う。口に炎を溜め込んだレクシィが駆け出すと同時にエンピロが彼女の体に水流を絡ませた。炎と蒸発した熱気を纏ったレクシィがディストータスへと迫り、突進力を活かしてその巨体をひっくり返す。そしてもろ出しになった急所…首の内側に食らいつき、大爆発を引き起こした。
スタジオ中を破壊し尽くさんばかりの爆風が吹き抜けた後、爆心地には大きく息をつくレクシィと、赤い光と共にカードに戻っていくディストータスの姿があった。
「やった…やったぞ! ディストータスを倒した!」
「やったわねオウガ君!」
「ええ! レクシィ達も勿論頑張ってくれましたけど、あのペンタケラトプスがいなければあんな隙は生み出せませんでした…あっ!
そういえば、ペンタケラトプスはどこに?」
急ぎレクシィとエンピロをカードへと戻し、オウガ達は今回の功労者であるペンタケラトプスを探し始めた。
だが、それはすぐ見つかった。ペンタケラトプスは、スタジオ横の倉庫に横たわっていたのである。そしてその傍らにあったのは…。
「これって…撮影に使われる予定だったペンタケラトプスのアニマトロニクスかしら…?」
「間違いないと思います。ということは…」
オウガはペンタケラトプスのそばに寄り、彼の瞳を覗き込みながら話しかけた。
「君は、このアニ…彼女を守るため、あのディストータス・レックスと戦ったんだね?」
オウガの問いに、ペンタケラトプスが力なく頷く。
「ありがとう。君のお陰で、あの恐竜は討伐できたよ。きっとこの娘も安心できたと思う。
さぁ、君ももう疲れただろう。今はゆっくりおやすみ…」
そう語りかけながら頭を撫でてやると、ペンタケラトプスは心地よさそうに目を閉じる。その目の隙間から一筋の涙が流れ…彼はカードへと戻っていった…。
後に残された『ペンタケラトプス』と『
「…じゃあ、ミサさん。任務は終わったことだし俺達も帰りましょうか」
「そうね。…ちゃんとリュウタ君達も忘れちゃダメよ?」
「あっ…も、勿論分かってましたよ!」
「ホントかしら〜?」
「本当ですよ! それに、ディストータス・レックスのカードも回収しないといけませんし…」
そう言いながらスタジオに戻ってきた2人は、ディストータス・レックスのカードもしっかり回収してからレックスのところへ向かったのだった…。
その後 アジ島
「お爺ちゃんお爺ちゃん! ハリウッドで! ハリウッドでタルボーンヌさんを見つけたんだ!」
「なっ、何じゃとぞい!?」
飛行機をひたすら飛ばしてアジ島へと帰ってきたロトが最初に向かったのは、ソーノイダの部屋だった。
早速ソーノイダの前へ持ち帰ったタルボーンヌを横たえる。歩行器を使いつつヨロヨロと寄ってきた彼は、その体をじっくりと点検し始めた。
「どう? お爺ちゃん…」
「…ぬう。強烈な電撃を受けた痕があるぞい。何箇所か電子基板が焼きついておるところがあるじゃろう? ほれ、そこがそれじゃぞい」
「電撃…電撃か…。それで、元通り直せるの?」
「何とかやってみるしかないが…元の基板がどんな風になっておったかはメーカーしか知らんのだぞい。
問い合わせや部品の発注ができない現状では手探りでやってみるしかないぞいが…」
「それなら、ボクにもタルボーンヌを直すお手伝いをさせてよ! こうなったのはきっと…」
ノーピスが関係しているのかも、と言いかけた言葉をロトは飲み込んだ。状況証拠だけで判断するのは時期尚早だと判断したようだ。
「きっと? どうしたぞい」
「…ううん、何でもない。それより、まずは何からすればいい?」
「そうぞいなぁ…。まずはハンダ付けのための道具を用意せんと…」
その頃 ハリウッド
あれからリュウタとマルムが目を覚ましたことで、Dキッズ一行はようやく帰路につこうとしていた。彼らの横ではオーエン博士が、空の彼方へ消えていくアクト団の飛行機へ手を振っている。。
「Bye! ワシのウサラパちゃーん! 」
「パパ…」
「オーエン博士、またあのオバさんにアタックかけてたんだな〜」
「いい加減脈無しって分からないものなのかしら」
「逃げられると追いたくなる性なんじゃないかな?
まあ、相手からしてみれば溜まったもんじゃないだろうけど」
「敵ながらちょっとあの人が可哀想かもね…」
そんな会話をしている彼らのもとへ、トボトボと近づいていくものがいた。スピノバーグ監督である。
「…Mr.オーエン」
「…ん? すっ、スピノバーグ! 貴様どの面下げてワシのところへ…」
オーエン博士の表情が一瞬怒りへと変わる。そんな彼の前で、スピノバーグは深々と頭を下げた。
「お…?」
「申し訳なかったデス、Mr.オーエン。これまで一緒に映画を作ってきたyouを切り捨て、あろうことか別の学者を登用しようとしてしまいましたデス。
その判断のせいで、あのホナラネとかいう奴に映画を滅茶苦茶にされるところデシタ。どうか、許して下さい」
「スピノバーグ…」
スピノバーグの真摯な謝罪を前にし、オーエン博士の怒りの炎が収まっていく。やがてオーエンは大きく深呼吸をしてから片手を差し出した。
「お主が心を入れ替えてくれたのなら、それでいいんじゃよ。これからは改めて、よい映画を作れるよう一緒に頑張っていこうじゃないか」
「Mr.オーエン…!」
感極まった表情でスピノバーグも手を差し出し、両者は固い握手を交わす。
「勿論! 改めて、これからもよろしくお願いするデス!」
「いよーし!…ということは、映画の流れはワシの考えた通りでよいということじゃな?」
「What's? だからと言ってあのマンネリ満載の展開を通す訳にはいかないデス! 最低限あと3種類くらいはメインの新恐竜を用意していただくデスヨ!」
「まっ、マンネリじゃと!? お前には王道というものが分からんのか!?」
「耳障りのいい言葉で誤魔化すんじゃないデス! そんな体たらくでは観客に見放されるデスヨー!」
「こっ…このわからず屋ー!」
「やったな頭でっかちー!」
仲直りしたかと思いきや、映画の展開を巡って取っ組み合いを始めたオーエン博士とスピノバーグ監督。
そんな2人を、Dキッズ達は呆れ顔で見ていたのだった…。
恐竜図鑑コーナー!
「今回の恐竜は、五本角の雷神『ペンタケラトプス』!」
「名前の意味は『五本角の顔』。白亜紀後期の北アメリカに生息していた、体長8メートルにもなる大型の角竜だよ」
「五本角? 角は三本しかないように見えるけど…」
「ペンタケラトプスは他の角竜と比較すると頬角が大きく発達しているんだ。だからその頬角1対を合わせて、『五本角の顔』って意味なんだよね。
個人的な推しポイントは、大盾の如く大きく縦に伸びたフリルだね。これを含めた頭骨の大きさは、なんと3メートルを超えるんだ! これはトロサウルスにも匹敵する大きさなんだよ」
「そういや、いつだかトリケラトプス並に大きいペンタケラトプスが見つかったって話があったよな!
あれはどうなったんだ?」
「あぁ、その標本は既存のペンタケラトプスの頭骨と比較した結果、20箇所程度の相違点が見つかったったことで、新種の角竜『ティタノケラトプス』って命名されたんだ。
もっとも、角竜を種類分けする上で重要な縁後頭骨が欠けているせいで、これが本当にペンタケラトプスとは別種なのか確定はしていないみたいだけどね」
「種の独自性を立証するのも難しいのね…」
ということで、今回はここまでです。
ディストータス・レックスの設定に関しては、公式からの供給からだけでは情報を得られなかったため、自分が勝手に想像したもので補完しております。もし彼女のバックボーンに関する情報をご存知の方がいらっしゃれば、是非教えていただきたいです。そのときはきちんと加筆・修正も行いますので。
明日か明後日に幕間の物語を投稿する予定ですので、楽しみにお待ちください。
※追記:『閃光大盾』の説明を設定集に追記しました。
また、レクシィが『豪炎大剣』を使えるようになりました。