古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
それでは、最後までお楽しみ下さい。
Dラボ ウー博士の個室
「それでオーウェン。これは一体何なんだ」
「オレも分からなかったから、こうしてあんたのところに持ってきたんじゃないか」
ウー博士とオーウェンの視線の先には、オーウェンが見つけたという未知のカードが置かれていた。発見した時と同じく、カードには『FOSSIL』という文字と、ティラノサウルスの全身骨格が描かれている。
「色々とあの子達からオレ達の世界の恐竜を引き取ってきたから分かるが…こんなカードは見たことがない。
そもそも石の中にカードが封印されているなんてことはこれまで例がないんだ」
「だからと言って私にこれを分析しろと言われても困る…」
その時、部屋の扉がノックされた。
「ん? 誰か来たのか」
「君より先に会う約束をしていたんですよ。オウガ君、入りなさい」
「失礼します、ウー博士…あれ? オーウェンさん、来てたんですか?」
「久しぶりだな。すぐウー博士に見てもらいたいものがあったんで来たんだが…どうやら君の方が先約だったみたいだな」
そう言うとオーウェンはスッと一歩下がり、オウガに先を譲るような仕草を見せた。それを見て、オウガもおずおずと部屋の中へ入る。
「えっと…それじゃあウー博士、ディストータス・レックスについて詳しく教えてほしいんですが…」
「ディストータス・レックス?」
「オーウェンさん、ご存知ないんですか? 今日ハリウッドに出現したこの恐竜なんですけど…」
オウガがディストータス・レックスのカードを差し出すと、オーウェンの表情が怒りに染まった。
「ウー博士! あんたまたこんなものを…!」
「落ち着いてください、オーウェン。私がそれを手がけたのはずっと前…2010年前後ですよ」
「何だと…? まさかハイブリッド恐竜の先行研究で生み出された奴がいたってのか!」
「そうですよ。それとも何です? 何の試行錯誤もなしにインドミナスシリーズが生み出されたと思っていたのですか?」
一気に部屋の中に険悪なムードが満ちる。
「えーっと…続き、大丈夫ですか?」
「!…あぁ、すまないオウガ君…。少しカッとなってしまった」
「私は構いませんよ。それで、君が気になるのは…やはり、この恐竜の外見ですよね?」
「そうです。この恐竜…ディストータス・レックスは明らかに普通の見た目じゃありませんでした。
でも、これまで俺達が回収してきた恐竜達にはあんな…異形とも言える個体はいませんでしたよね」
「…えぇ、それは勿論です。彼らは
それでも作り出した全ての胚のうち、僅か数%程度しか展示に足る出来にはなりませんでした。当時の最先端技術とはいえ、遺伝子工学とはそんなものです。
それ以外の殆どは死産や奇形持ちなどの『欠陥品』だったため、その度に処分していました。
ですが、そういった『欠陥品』を積極的に研究・分析し、ハイブリッド研究のために活かすプロジェクトを行う舞台だったのが…
「確かにさっきもそんな話は聞きましたが…そのためにわざわざ島を分けて研究を続けていたんですか?」
「ええ。サイトBでやる案もあったようですが、当時はまだコスタリカ当局の監視の目が厳しかったため物理的に不可能だったと聞いています。
それでギアナ沖の孤島をホスキンスの奴が買い上げ、ハイブリッド恐竜の研究をするよう命令してきたのですが…今思えば、あれはマスラニ社長の目の届かない場所で好き勝手研究するための方便だったのかもしれません」
当時を思い返しながら、更にウー博士が語り続けた。
「勿論、作ったのはディストータス・レックスだけではありません。
人為的に双生児の胚を結合させて生み出した双頭のトリケラトプスやヴェロキラプトル、あとは…Ver.7.5、通称『ミュータドン』も」
「ミュータドンだと? それも初耳だな」
「そうでしょうね。あれも元は、遺伝子操作の失敗によって生まれた、ヴェロキラプトルとプテラノドンの融合体のような存在です。
あれを初めて目にした時ホスキンスの奴は喜んでいましたが、精神に重篤な異常を抱えていると知るや、途端に興味を失っていましたね」
「どこまでも酷い人なんですね。その…ホスキンスっていう人」
「そんな人間に協力していた私も、そう大差はありませんよ。
あと…そういえば、あそこは『ワールド』には展示できない恐竜を放り込んでおくゴミ箱のような運用もされていましたね。
凶暴かつ力が強すぎて囲いに置いておけなかったティラノサウルスや、胴長短足でイモリのような幅広い尾を持つ異形のスピノサウルスもいましたし…」
「え? でもそっちの方が実在するスピノサウルスには近い姿ですよね?」
「そうですね。しかし当時はエンピロのようなスピノサウルスこそが正しい姿だと考えられていたため、遺伝子の穴埋めに使ったワニかメキシコオオサンショウウオの形質が表に出過ぎたと判断され、サイトC送りになったのです」
「そうだったのか…。しかし、そんな島があったなんて知らなかったな…」
「聞かれませんでしたからね。それに、サイトCに残された恐竜はとっくに死滅したものだと思っていましたから。なにせもう十数年も放逐されていたのですよ。まさか生き延びていたとは…思いもしませんでした」
「そりゃあ、あの数学者先生も言ってただろ? 『生命は道を見つける』ってな」
「…まったく手厳しいですね」
自らの浅慮を嘲笑うかのように、ウー博士は微笑を浮かべた。
「そういえば、さっきまでお二人は何の話をされてたんですか?」
「オーウェンがヌブラル島で妙な恐竜カードを見つけたと言ってきましてね。対応に困っていたところだったんですよ」
「オウガ君も見てみるかい? これなんだが」
オーウェンが差し出したカードのイラストを見て、オウガの表情が露骨に変化する。小さい頃から何度も見てきたものだったこともあり、見間違えようがなかった。
「これって…ティラノサウルスの化石ですよね?」
「やはりそうか…」
「オーウェンが言うには、光る石の中から出てきたというんですよ」
「石の中から?」
「あぁ。しかもジュラシック・アンバーに押し当てても何の反応もない。自ら光を放っていたあたり、ただの紙切れじゃないはずなんだが…」
オーウェンの話を聞きながら、オウガは目の前のカードに意識を向ける。そうしているうちに、何か不思議な感覚を覚え始めていた。
(何だろう…。この感じ、レクシィに似てるような気がする。というより、レクシィそのもののような…。
いや、でもそんなはずないよな。だってレクシィのカードは、確かに俺のディノラウザーの中に入ってるんだし、あくまで似た気配ってだけなんだろう)
そう結論づけてみるものの、どうしても彼の心の中には疑念が残り続けていた。
「そのカードだが、もし良ければ…君が持って行くかい?」
「え? いいんですか?」
「オレは構わないさ。博士もそれでいいだろ?」
「ええ。アンバーにも反応しないのでは、私が預かったところで分析も何もしようがありませんからね」
「ありがとうございます。大切に持っておきますね」
「是非そうしてくれ。
さて…オウガ君はそろそろ帰ったほうがいい。親御さんも心配するぞ」
「サイトCやそこの恐竜達については、また機会があればお話ししますよ。あとこれに関してはまずないでしょうが…そのカードに変化が見えた時は、是非ここへ持ってきて下さい」
「分かりました。今日はどうもありがとうございました」
そう言って退出しようとしたオウガだったが、そこでふと思いついた疑問をオーウェンに投げかける。
「そういえばオーウェンさん。このカードを見つけたのは、ヌブラル島のどこだったんですか?」
「あれは確か、『ジャングル・リバー』の上流区域だ。かつて巨大な人工滝があったところでな、そこの滝壺だった場所にあったんだよ」
その瞬間、オウガの脳裏にあの夢の内容が過った。
巨大な滝に打たれながら眠る、レクシィによく似た気配のティラノサウルス。
そして、戦闘機から放たれたミサイルの爆発に消えていくその姿も…。
(でも…でもレクシィは今、俺と一緒にいるじゃないか…。なのに、何でこんなビジョンが…)
「どうしたんだ、オウガ君」
「…あ、いえ、何でもないです。それじゃあ失礼しますね」
頭の中の疑念を振り払うように、オウガは駆け足でその場を後にしたのだった…。
秘密結社『Sin-D』本部ビル カロリディーの執務室
「おい、ボス。ハリウッドに向かった輸送係から連絡が来たぞ」
「随分時間がかかったな。それで? スピノバーグ監督は我々からの贈り物を喜んでくれたのかね」
「あぁ、それが…」
ジェイソンが少し言葉を濁し、それから躊躇いがちに口を開いた。
「現地に恐竜が出現したらしくてな。送ったアニマトロニクスはそいつにぶっ壊されちまったらしい。
輸送係もその騒動に巻き込まれて、さっき意識を取り戻したところだとよ。
しかも映画のアドバイザー依頼も、結局断られたって言ってやがった」
「…何だと? ホナラネはどうした? 奴が言い包めると豪語していたではないか」
「騒動の後、行方不明になったらしい。おれ達に失敗を知られることを恐れて雲隠れしたのか、それとも…」
「出現した恐竜に襲われて命を落としたか、か」
「そういうことだ」
執務室の中に、気まずい沈黙が流れる。それがしぱらく続いたのち、カロリディーがゆっくり口を開いた。
「その様子では、もうホナラネはあてにできなさそうだな」
「そうなるな…」
「まあ、いなくなった者のことを考えていても仕方あるまい。
我々は今、来たるべきXデーに向けて準備を進めていかねばならないのだからな」
「つーことは…その書類は、あいつから送られてきたやつか?」
「そうだ。この理論が実現されればジョーカーは…ギガノトサウルスは、いかなる攻撃も受け付けない『究極』の存在になるのだ…」
その言葉を言い終わらないうちに、カロリディーの口から抑えきれない笑みが溢れる。
「もうすぐだ。ギガノトサウルスこそが、ティラノサウルスは勿論…あらゆる恐竜の頂点に君臨する存在だと証明される時が来ようとしているのだよ」
アジ島 ノーピスの研究室
「フン、どこまでも傲慢な態度の男だな。それにソーノイダとは別ベクトルでイカれた奴だ」
カロリディーから送られてきたメールを目にし、ノーピスがそう呟く。
内心そう思ってはいるものの、相手は唯一のパトロンであるため、そう無下にもできないのが現実だ。
それに邪魔者が少ない今こそが自分の研究を進められる好機であり、そのためにとにかく資金が必要なのだ。
「それに、あんな男など気にしている場合ではない。ロトのアクトホルダーに興味深い映像が記録されていたからな」
コンソールを弄り、映像を再生する。そこには、ハリウッドに出現したディストータス・レックスが映っていた。
「恐竜というより、まるで翼を失ったドラゴンとでも言うべき姿だが…私にはなかった発想だ。
ティラノサウルスの咬合力に加え、こんな剛腕も持っていれば…俺の研究テーマの理想形と呼べるものが作れそうだ」
だが、彼はこれだけでは満足できなかった。他より強く、他より先へ、他より上へ…自分の作る恐竜は、そんな存在でなければ満足できなかったのだ。
「ふむ…どうやら関節に何かしら問題を抱えているようだが、俺ならもっとうまくやれる。そこを克服できれば弱点はほぼなくなるな。
更にこれに今開発中の技カードを完全に融合させ、いつでもいくらでも使えるようにさせれば…真の意味で俺の研究を実現できる。
それまで精々利用させてもらうぞ、『Sin-D』…」
遂に抑えきれず、高笑いをするノーピス。そんな彼の側には、サウロファガナクスの恐竜カードと、試作中だという技カードが置かれていた。
そのカードは、まるでドス黒い炎を纏っているようなオーラを放っていた…。
その夜 オウガの家
歯磨きも終え、オウガは寝る準備を整えていた。もう既に爆睡しているアメジストを見て苦笑いを浮かべる彼に、レクシィが話しかけてきた。
『オウガよ』
「ん? どうしたの、レクシィ」
『今日、オマエが貰ってきた化石カードとかいうものだが…実に妙なものだな』
「妙っていうと?」
『何故か懐かしい気分になるのだ。言い表すなら、まるで失った半身と巡り合った気分というか…。
本当にどうしてなのかは分からないがな。私には生き別れの姉妹などいるはずもないというのに』
レクシィのその言葉に、オウガは言葉を失った。以前見た夢に、化石カードを握った時の感覚、そしてレクシィが感じたという不思議な感情…。
まるでそれらが、1つに繋がっているかのように感じられたからだ。
『…どうした、オウガ。心ここにあらずといった様子だが』
「…あ、ゴメン。少しぼーっとしてた。
そうだね。化石ってことは前世のレクシィと関わり合いがあった個体のものなのかもしれないし、それで懐かしさを感じたのかもしれないね」
『ふぅむ…そんなものなのか…?』
「詳しいことは分からないけどね。なにせアンバーに当ててもディノラウザーにスキャンしても何も起こらないからさ。
…さぁ、レクシィ。そろそろ電気を消すよ」
『うむ、分かった。オウガよ、また明日な』
「また明日ね、レクシィ。おやすみ」
部屋の明かりを消し、オウガはベッドへと潜り込む。しかし、彼は自身の中の気持ちを整理できないまま眠りについたのであった…。
今回はここまでです。
オーウェンによって持ち込まれた化石カード、そしてハリウッドに現れたディストータス・レックスが物語にどんな影響をもたらすのか…。
是非これからの展開を楽しみにお待ちください。
それでは次回第41話『シベリア特急出発進行!積荷は不沈艦!?』どうかご期待下さい。