古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
ロシア連邦のモスクワに恐竜が現れたとの情報を受け、出動したDキッズ。そして現地に出現したアンペロサウルスを追いかけて貨車の中へ入り込んだのだが、その直後に列車が出発してしまい、彼らは貨車の中に閉じ込められてしまう。
ひとまずアンペロサウルスを刺激しないよう気をつけて過ごし、次の停車駅で一緒に降りるつもりだったのだが、何故か列車は止まるどころかどんどん加速していっていた。
原因を探りに向かったオウガとリュウタが列車を停めたことで何とか最悪の事態は回避できたが、遂に目を覚ましたアンペロサウルスが暴れ出してしまう。
そこへロトとアクト恐竜達も現れて乱闘に発展するが、そこでノーピスのサウロファガナクスが放った黒い火球が彼らを焼き尽くさんと迫る。しかしその場へ割り込んだジュラサンの決死のガードにより、最小限の被害に留めることができた。
だがここでアンペロサウルスがドレッドノータスを呼び出し、『無敵艦砲』で恐竜達を一掃しようと試みる。そこで、大きさには大きさで…ということでアメジストの『大腕震撃』とパラパラ&ランランの『超竜合体』による多重攻撃を仕掛け、何とかアンペロサウルスを撃破することに成功した。
夜空にかかるオーロラの下、改めて恐竜達を守るため戦い続けることを誓ったDキッズは、ジュラサンを日本のDラボで分析するために郵送し、日本へと帰還したのだった。
しかし、彼らが持って帰ってきたものはジュラサンだけではなかったようで…?
前編
秋風も北風に変わり、いよいよ冬の足音が聞こえ始めたある日の三畳市…。
街の上空に突如小さな亀裂が走り、そこから1枚のカード…ではなく、何かの影が転げ落ちる。それは真っ逆さまに空き地の茂みの中へ落ちていった。
暫しの静寂の後、そこから猛獣の唸り声のようなものが響く。その声の主は、草むらを踏みしだきながら光の方へ…道路の方へ出ていこうとしていた。
ちょうどその時、その空き地の前を1人の男が通りかかった。その体は明らかに度を越した肥満体であり、眼鏡の上から黒いオーバーグラスを付けている。そしてその恰幅のよい体格とは対照的な、小さなリュックを背負っていた。
どこか気落ちした様子でトボトボと歩く彼の耳に、猛獣の唸り声と草を踏む音が聞こえる。これには彼も驚き、パッと空き地から距離を取る。
人か、それとも近頃人里にも出るようになった熊か…注視する彼が見つめる先から出てきたのは…子猫のような動物だった。しかしその足取りはヨタヨタとしていて弱々しく、彼のすぐ前でバタリと倒れてしまう。
「ど…どうする…?」
勿論自分が飼っているものではない。だが目の前で苦しそうに息をする猫を放っておけないと判断したのか、リュックからタオルを取り出すと猫を包んで抱える。それからスマホを取り出し、何やら検索を始めた。
「えーっと、近くに病院は…ん? 竜野…動物病院? よし、ここにしよう」
そう小さく呟くと、彼は猫を抱えてドタドタと走り出していったのだった…。
その頃 竜野動物病院
Dキッズは揃ってマルムの父親が経営する動物病院へと足を運んでいた。何の用があって来たのか…その理由は、今彼らの目の前で繰り広げられている光景にあった。
「お願いだから打たせておくれ〜」
巨大な注射器を手に携えた竜野中生から、ガブとイナズマ、そしてエースとアインが逃げ惑っている。
「シベリアから戻ってきてから、ガブとエースが調子悪くてさ…。色々用事があってここに来れないうちにイナズマとアインにまで移っちゃったんだよ」
「パラパラもランランも何ともなかったのに不思議よね。でもまさかレクシィちゃんとアメジストちゃんにまで移るとは思ってなかったわ」
マルムの視線の先には、少しばかり落ち着いた様子のレクシィと、オウガに抱きかかえられているアメジストの姿がある。
「俺も驚いたよ。レクシィはてっきり向こうで予防接種とかやってるものだと思ってたから、まさか風邪を引くなんて思わなくて…」
『私がいたヌブラル島は赤道近くの熱帯地域だったからな。元々そこの病気に対応したものしか受けていない。
あそこの連中も、自分たちの管理している恐竜がシベリアの病気に罹る機会などあるはずがないと思っていただろうしな』
「確かに、それは言えてる。
でも、ガブ達と違ってレクシィは結構素直に注射を受け入れたよね」
『私はこれまで幾多の戦いを繰り広げてきた…時には生死の境を彷徨ったこともある。その時の痛みに比べれば、あの針で刺される程度造作もないことだ。
それよりむしろ気になるのは、あ奴らだ。あ奴らのあの姿は仮のもののはず。それなのに何故あの程度の痛みを怖がる? あ奴らはどれだけ温い環境で生きてきたのだ』
「そう言われると…あそこまで立派な成体になってるはずなのに、注射ぐらいを怖がるなんて少しオーバーだよね。縄張り争いや天敵との戦いとか、それよりずっと痛い思いしたこともあるはずなのに…」
そんな会話をするオウガとレクシィの視線の先では、いよいよ追い詰められたガブ達の前で中生が注射器を構えていた。彼の顔は、何とも言えない悦楽に染まっている。
だが流石に不憫に感じたのか、リュウタが彼に声をかける。
「あ、あのさおじさん。やっぱりガブ達怖がってて治療どころじゃなさそうだから…前みたいに飲み薬出してくれない…?」
「うーん…やっぱりダメ?」
「このままじゃ時間を浪費するだけですし、最悪もっと体調が悪化してしまうかもしれないので…」
「この竜野中生の注射を打てば、風邪なんかすぐ治るんだけどなぁ…仕方ない。君達には飲み薬を処方しておくよ。
せっかくの特注品なんだし早く使ってみたいなぁ…」
中生がそうボヤくと、静まりかけていたガブ達がまた騒ぎ出す。それを目の当たりにして彼は大きく肩を落とした。
「やっぱりダメかぁ…。
それじゃ、次はそっちのアメジスト君を見せてくれるかい?」
「はい、竜野さん。お願いします」
オウガの腕の中で腹を抱えてうずくまるアメジストを、中生は慎重に診察していく。しばらくの後、彼は診察結果を口にした。
「う〜ん、これは風邪じゃないね」
「えっ? 風邪じゃない?」
「これはただの腹痛…多分食べ過ぎだよ。もしかすると、オウガ君達の目を盗んでフードを食べ漁ってたんじゃないかな?」
中生の言葉を聞いたオウガがジロリとアメジストを睨むと、当の本人はスーッと視線を逸らした。どうやら図星のようだ。
『キュ、キュウン…』
「…アメジスト。次またこんなことがあったら、当分ブルーベリージャムはあげないからね」
オウガの言葉に、アメジストはあらん限りの抗議の声をあげる。その剣幕ときたら先程まで腹痛で苦しんでいたのが嘘のようだった。
「分かったら、もう盗み食いなんてしないでね。アメジストがまた体調を崩したりなんかしたら、俺だってすごく心配なんだから。
…約束できる?」
『…キュー』
オウガの問いかけに、アメジストはゆっくり首を縦に振った。少し不満そうではあるが、ブルーベリージャムがかかっているとあっては止むなしと判断したのだろう。
「取り敢えず胃腸薬を処方するよ。それですぐ治るとは思うけど、今日1日は安静にさせるんだよ」
「はい、ありがとうございました」
こうしてDキッズは彼らの恐竜の診察を終え、後は薬を貰うのを待つばかりとなったのだが…。
「すまない! 今すぐ診てもらいたいんだが獣医はいるか!」
そこへ冒頭の男が駆け込んできたのだ。滝のような汗をかいている辺り、よほど急いでやって来たと見える。
「あら、こんにちは。院長は今薬の調合中ですよ。
まずは受け付けをしますのでこちらにどうぞ」
そこでマルムの母親アンモが男に声をかけ、受付へと呼んだ。そこで診察券はあるかとか連れてきた猫の状況はどうとか軽く会話を交わしたところで、男は待合席に腰掛ける。その肥え太った見た目通り、彼が座った瞬間あまりの重みに椅子が悲鳴を上げた。
「なぁ、マルム。オレ達あの人見たことないんだけど、ここに来たことある人なのか?」
「アタシの知る限りだけど、あんな人は見たことないわ。十中八九初診の人ね」
「見たところ何かを抱えてるみたいだけど…子猫かな?」
そんな会話をしながらしばらく遠巻きに見つめていたDキッズだったが、まずはマルムが先陣を切って話しかけた。
「あの〜…すみません。今日はどんなご用事で家に来られたんですか?」
「…ん? ああ、君ここの人?
いやね…さっきあそこの空き地の前を歩いてたら、横の茂みから弱りきったこいつが出てきてさ…」
そう言いつつ男は腕の中のタオルを開く。そこでは、黄土色の毛並みをした子猫が浅い息をしていた。
「わぁ〜、かわい〜い!」
「猫…というより、なんかライオンの子供みたいですね。それに猫にしては妙に上の犬歯が立派なような…」
「まあ…別に猫が好きな訳じゃないんだけどな、目の前で倒れたのに無視していったんじゃ何となく気分も悪いだろ? それで連れてきたんだよ。
どうせこの前職場をクビになったばかりでヒマだったしな」
「え? おじさんリストラされたの?」
「リュウタ! いくら何でもそれは失礼だぞ!」
「ハハハ、気にしなくていいさ。事実だからな。
にしてもあのクソジジイ…薄給でおれに社内のプログラム管理全部任せて使い倒した癖に、勤務態度が悪いとか何とか抜かして退職金まで減らしやがって…。
まあその代わり管理してたPCに『white_rabbit』を打ち込んでったからな…。今頃社内中大騒ぎだろうぜ。ザマア味噌漬けだな…クククク…」
突然男がブツブツと前の職場の不満を零したかと思えば、今度はクツクツと笑い始める。そんな彼の様子にDキッズは何とも言えない不気味さを感じ、それと同時に何故彼がクビになったのかを大体察したのだった。
と、そこでリュウタが空気を変えようと口を開く。
「そ…そーいえばさ、おじさん変なサングラスかけてるんだな! どこで買ったの?」
「これはサングラスじゃない。オーバーグラスってやつた。眼鏡の上からかけるんだよ」
そう言い男がオーバーグラスをずらすと、確かにその下にはもう1つ眼鏡があった。
「へぇ〜、そんなのもあるんだ」
「でも、どうしてそんなものを?」
「少し目が弱くてな。今日みたいな紫外線の強い日はこれがないとキツいんだ。それに…ここんところ妙な夢ばかり見るせいもあってな」
「夢? 夢ってどんなものなんですか?」
「顔になんだか熱くて粘ついたものが張り付いたかと思うと、何も見えなくなる夢なんだよ。
それで前後不覚になってる内に腹を切り裂かれたような痛みが走って…そこでいつも目が覚めるんだ。
それ以来常に目をガッチリ守ってないと不安で仕方なくてな、紫外線がそこまでじゃない時でもこれをかけてるのさ」
「変な夢…か」
その言葉に、オウガはどこか覚えがあるようで黙りこくってしまう。それからも黙ってしまったオウガをよそに暫く会話は続いていたのだが…。
「根鳥 出仁夫さ〜ん、根鳥 出仁夫さ〜ん!
用意ができましたので、1番診察室にお入りくださーい!」
「おっ、やっとか。それじゃあな」
マルムの母親に呼ばれ、男…根鳥 出仁夫は猫と共に診察室へと入っていく。後には、Dキッズの4人が残されていた。
「なんか…優しいんだか陰湿なんだかよく分からないおじさんだったな」
「失礼は承知だけど、それには同意するよ」
「それにオウガも一体どうしたの? 途中からずっと黙りこくってたけど」
「…うん。ちょっとね」
この時オウガは言えなかった。少し前にオーウェンからティラノサウルスの化石が描かれたカードを受け取って以来、彼は以前も見たティラノサウルスが爆殺される夢を何度も見るようになっていたのだ。
あれっきり見ることはなかったのに、あのカードを受け取ってからは3日に1回は見ている。明らかに何か異常なことが起きていた。
(やっぱり…レクシィとあのカードには何か関係があるんだろうか…)
翌日 太平洋 アジ島
この日、ティラノ達の部屋にはソーノイダ(@電動歩行器)とウサラパ達アクト団工作員、そしてティラノらアクト恐竜達が集められていた。3体とも顔を赤らめ鼻水を垂らしているあたり、ガブ達と同じ風邪に罹ってしまったようだ。
「おお…風邪など引いてしまって、可哀想にのう…。
だが大丈夫じゃぞい。ほれ、こうしてウサラパ達が卵酒を作ってきたからの」
「はぁい、どうぞ」
ウサラパが卵酒をコップを入れ、ティラノ達に飲ませる。3匹がちびちびと飲み進める様を見つつ、ノラッティ〜が口を開いた。
「それにしても…シベリアから帰ってきたティラノを見た瞬間風邪だと見抜いたドクターは流石だったザンス」
「やたらとくしゃみをしておったからのう。その時点でテリジノとディーノ達を隔離しておいて正解だったぞい。
だがその代わりにスピノとサイカに移ってしまうとは…」
「ごめんなさいッス、ドクター。まさか2匹がこっそりティラノのとこへ遊びに行ってたなんて知らなかったんス」
「今更そんなことはどうでもいいぞい。それより、今は卵酒で体を温めつつ安静に過ごさせるのが1番ぞい。そうすれば、あと数日で治るじゃろうし…」
その時、シュッという音と共に部屋の扉が開き…タルボーンヌが入ってきた。その手には、グラグラと沸騰したままのヤカンを握っている。
「恐竜タチが風邪をヒイタとのことで、熱々の卵酒を作ってまいりマシタ」
「たっ、タルボーンヌ…。もう卵酒はウサラパ達が作ったのだぞい。だからお前まで作る必要は…」
「さァ、予防のためドクターもお飲みなサイ」
ソーノイダの声を遮り、タルボーンヌは手にしたヤカンの注ぎ口を彼の口に無理矢理突っ込んだ。たちまち彼の顔が真っ赤に染まり、苦しみ出す。
タルボーンヌはそれを無表情で眺めたのち、ヤカンを引いた。そして熱さに悶絶するソーノイダを捨て置くと、今度はウサラパ達の方へ向き直った。
「あ、アタシ達は…」
「遠慮しておくザンス…」
「だからそのヤカンを近づけないでほしいッス…」
必死の懇願も虚しく、3人はタルボーンヌに沸騰卵酒を飲まされてしまったのだった…。
「あラ、卵酒がナクなってしまいマシタ。もっとモット沢山作ってきマス」
ソーノイダ達に飲ませた分で卵酒を使い切ってしまったらしく、タルボーンヌは部屋から出ていったのだった。
「はぁ〜…死ぬかと思ったわ」
「帰ってきてからタルボーンヌはずっと変なままザンス。あれじゃ命がいくつあっても足りないザンスよ」
「ドクター。今からでもタルボーンヌの再調整をやった方が絶対いいッスよ」
「そうは言うがのう…再調整のために電源を切ろうとしたら、滅茶苦茶に暴れて抵抗してきたのだぞい。あれではどうしようもないぞい。
それに、再調整したからと言って良くなる保証はないぞい。もし今以上に悪化したら…それこそアジ島の終わりぞい」
「でも、あんな卵酒を飲まされたらティラノ達も余計体調が悪化しちゃいますわよ」
「ぬう…それはそうじゃぞい。
こうなれば、タルボーンヌが余計なことをするよりも早く医者に治してもらうしかないぞい!
お前達! すぐにティラノ達を診てくれる医者を探してくるのだぞーい!」
「「「ヘイヘイホ〜!」」」
ソーノイダの指令を受けた3人は、早速彼らの自室へと向かったのであった…。
その頃 アジ島 研究室
ゴォォ…
「カスモサウルス…早く良くなってくれよ…」
一方ここでは、ロトがカスモサウルスに経口補水液を飲ませていた。こちらもまた風邪を引いてしまったようだ。
水分補給が終わったところで、ロトは頑張ってカスモサウルスに毛布を被せ、暖かくしようとしていた…そこへ、ロアがやって来る。
「おにい様。カスモサウルス、まだ治らないの?」
「…うん。お粥や経口補水液を飲ませて、毎日暖かくしてあげてるけど一向に良くならないんだ…
ボクが…ボクがシベリアにカスモサウルス達を連れて行かなければ、こんなことにならなかったのに…」
「前もそれは聞いたけど…どのみちウサラパ達が行ったところで、感染経路が変わること以外同じになるだけだったんじゃない? そんな気負うことないと思うけど」
「…いや、あの時シベリアにはノーピスも来てたんだ。しかもサウロファガナクスを連れてた」
「…そうなの?」
「あぁ。でもいつの間にか姿を消してて…アジ島に帰ってからもずっと研究室に閉じ籠もってるから一度も話ができてないんだ…。絶対に聞かなきゃいけないことがあるのに…」
「何なの、それ」
「ノーピスが…シベリアでお爺さんを列車から突き落とすところを見たんだ。ノーピス曰くそのお爺さんはアンドロイドだから殺人じゃないって言ってたけど…とてもじゃないけど信じられないよ…」
ロトの口から語られた事実に、ロアも驚きを隠せない様子だった。
一方ウサラパ達は、エドのPCで動物病院を探しているところだった。しかし当然だが、恐竜も診てくれる病院など見つかるはずがない。
「にしても恐竜を診れる獣医なんか存在するザンスか?」
「この際獣医なら何でもいいじゃないか」
「そうッスね〜…おっ? これなんかどうッスか? 『竜野動物病院』って書いてあるッスよ」
「竜ってのはドラゴンのことザンスよね?」
「恐竜にも竜って文字があるじゃないか! きっと恐竜も診てくれるはずだよ!」
「さすがに無理がないスかね…」
「いいからとっとと連れてくるんだよ!」
「何を連れてくるんだ?」
突然後ろから声がかかり、3人は驚いてパッと後ろを振り向いた。そこに立っていたのは、なんとノーピスだったのだ。
「あらノーピス。随分久しぶりじゃないの。ずーっと研究室に引き篭もってたはずだったのに、どういう風の吹き回しかしら」
「コーヒーを取りに出てきただけだ。それで? お前達は何の話をしていたんだ」
「ドクターから、ティラノ達を診てくれる獣医を探してこいって言われてて…」
「今ちょうどいいのが見つかったから、これから連れてくるところなんス」
「…話は分かった。それなら私が手伝ってやろう。付いてこい」
そう言い残し、ノーピスはその場から歩み去っていく。ウサラパ達は彼の意図がまるで読めなかったものの、取り敢えず付いて行くことにしたのだった。
やがて4人は、アジ島地下の巨大なマシンが稼働する区画へとやって来た。ノーピスはとある装置にアクトホルダーを差し込むと、コンソールを弄り始める。
「まだ実験段階の装置だが、目標の位置はこの『竜野動物病院』とやらで間違いないか?」
「そうッスけど…何する気ッスか?」
「転送先は…島の浜辺でいいだろう」
「ちょっとちょっと、質問に答えなさいよ」
「この動物病院を、丸ごとこのアジ島へ転送するのだ。その方が手っ取り早いし、実験データも取れる」
「えーっ!? そんな力技、うまくいくザンスか?」
ノラッティ〜の質問にノーピスは何も答えず、代わりにエンターキーを深く押し込んだのだった…。
その頃 三畳市 竜野動物病院
ちょうどその頃、竜野動物病院からアンモが出てきた。その手にはリードが握られており、犬と豚とダチョウ(!?)が繋がれている。どうやら管理している動物を朝の散歩に連れて行くところらしい。
と、そこで彼女は病院の出入り口に立つ人影に気づく。
「あら、根鳥さん。おはようございます!」
「どうも…。また明日あの子の様子を見に来てほしいと先生に言われていたので、朝イチで来たんですが…迷惑でしたかね?」
「とんでもないです! 是非中に入って待っていて下さい! 私も散歩を終えたらすぐ受け付けしますので!」
「そ、そうですか。では、お言葉に甘えて…」
出入り口の鍵を開けて根鳥を院内へ通したところで、改めて彼女は散歩を再開した。
だが病院からさほど離れないうちに、彼女は背後から凄まじい光が差してくるのを感じた。不審に思って振り返り…彼女は思わず声を上げた。
なんと、竜野動物病院が彼女らの自宅ごと光の中へ消えていったのである。
『『キャーウ! キャーウ!』』
その時、マルムはまだ自室のベッドで眠りこけていたのだが、パラパラとランランが喧しく騒ぎ立てる声で目を覚ます。
「分かった分かった…今起きるから…」
渋々といった様子でベッドから起き上がるマルムだったが、窓の外から聞こえる潮騒が彼女を再び微睡みに引き戻そうとする。
「それにしても、波の音が気持ちいいわね…波の音!?」
その瞬間、彼女の思考が一気に覚醒した。市街地の真ん中にあるはずの自分の家に潮騒が届く可能性など万に一つもないのである。
慌ててカーテンを開き、外を見ると…そこには白い砂浜とエキゾチックな南国植物、そして見渡す限り大海原が広がっていたのだった。
「ええっ!? ここはどこ〜〜っ!?」
「あぁ、良かった…。すっかり元気になったみたいだな」
その頃、院内へ入っていた根鳥はガラス越しに昨日の猫との再会していた。その横には、中生も控えている。朝起きて間もないというのに、わざわざ対応してくれたのだ。
「先生、今回は世話になったよ」
「いいんだよ。それより、この子のことはこれからどうするつもりでいるのかな? もう暫くは大事を取ってうちで面倒を見るけど、この子は野良なんだろう?
完治して退院した後はどうするんだい?」
「今は社宅を追い出されたばかりなんで、ペット飼育可の物件を探して、それから引き取るのも悪くないかなと思ってるよ」
「そりゃあ良かった! きっとこの子も喜ぶよ…」
その時だった。突然扉が開け放たれるとその場へアクトロイド達が乱入してきたのである。彼らは波のように押し寄せ、2人を担ぎ上げて外へ連れ出したのだった。
「今回は楽だねぇ〜♪」
「いつもこうなら最高ザンスよねぇ」
「おっ、連れてきたみたいッス」
アジ島へと拉致された竜野動物病院は、周囲をくまなくアクトロイド達で取り囲まれていた。そこへ、中生とリアス、そして見事に巻き込まれた根鳥が連行されてくる。
「一体何が起きたんだ! こらっ、離さんか!」
「それで…竜の医者ってのはどれのことだい?」
「ホームページに載ってたのはこのおっさんだったッス」
そう言ってエドが中生を指さす。
「それなら話は早いね。うちの可愛い恐竜ちゃん達が風邪をひいてしまってねぇ、あんたにはそれを…」
「おぉ〜、ここにも恐竜がいるのかい?」
「ここにも…? それに恐竜って…先生、あんた何言ってるんだ?」
「根鳥さん、後で説明しますから今は静かにして下さい。この人達は危険な集団ですから…」
「恐竜を治療してほしいなら、ちょうどいい注射がある。それを打てばすぐに良くなるよ」
「ラッキー! 見事に的中ッスね、ウサラパ様!」
「本当だねぇ。今回は珍しくうまく事が進んでるよ!」
「お父さん!」
「心配することはないよ、リアス! 私は獣医として恐竜達に注射を打ってやらねばならないんだ!
フフフ…遂にあの注射を使える時が…フフフ…! よし、では早速準備にとりかかりましょう!」
「もう…」
そんな彼らの姿を、マルムは2階のベランダに隠れながら窺っていた。
(アクト団のオバさん達にこの見覚えのある風景…まさかアタシ達、家ごとあいつらのアジトに拉致されたっことなのかしら?)
そして彼女が見つめる中、中生は準備のため一度家の中へ入っていった。と、そこで根鳥がウサラパ達に話しかける。
「あの〜…」
「んん? 誰だいアンタ。ここの関係者なのかい?」
「この人はうちの病院のお客様よ。たまたま巻き込まれてしまったようなの」
「あら、そう。ならここで大人しく待ってなさい。恐竜の治療が終わったらあんたも帰してあげるわ」
と、そこへ大きなカバンを抱えた中生が現れた。恐らくその中身は、例の注射器や薬品類なのだろう。
「いやー、お待たせしたね。早速案内してもらえるかい」
「いいわ。それじゃあアタシ達に付いてきなさい」
ウサラパ達とアクトロイドに連れられていく中生を心配そうに見送っていたリアスだったが、ふと自分に熱い視線が注がれていることに気がつく。その相手は、目の前のノラッティ〜だった。
「あ…あの…どうしたんですか?」
「ムムム…ちょっと失礼するザンス!」
そう言うなりノラッティ〜は手を伸ばし、彼女の眼鏡を掴み取ってしまう。そしてリアスの素顔を見た瞬間、ようやく合点がいったとばかりに喜び出した。
「ワーオ! 我が愛しのエンジェ〜ル!」
「え、エンジェル?」
「必ずまたいつかお会いできると信じていたザンス! やっぱりミー達、赤い糸で結ばれてたザンスね!」
「赤い糸…?」
どうやらメキシコで会った時からずっとノラッティ〜は彼女のことを想い続けていたようだ。だがその時眼鏡がなかったばかりに殆ど彼の顔が見えていなかったリアスは、何が何やら分かっていない様子であった。
あれよあれよという間にリアスはノラッティ〜に連れて行かれてしまい、1人残された根鳥は仕方なく病院の中へと戻っていく。そして、あの猫がいるカーゴの前に椅子を置いてそこへ座った。
「何が何なのかさっぱり分からん。突然違うところに連れてこられたのもそうだが、恐竜って何のことなんだ…。恐竜はもうとっくの昔に絶滅しただろ…」
そうぼやきながら、彼はそっとカーゴの中を窺った。猫は、先程と同じくすやすやと眠っていた。
「お前も災難だよなぁ…」
その時、猫が眠ったままくしゃみをした。その時、何故か部屋の中をそよ風が吹き抜けた…ように感じられた。
「何だ…? ドアは閉めてるはずだぞ。風なんか入ってこれないはずだろ…?」
しばらくその出処を探していた彼だったが、やがて大きくため息をつくと元の椅子に腰かける。
「疲れのせいで錯覚を起こしたのかもな…。こんな非現実的なことばかり続いてりゃ仕方ないか」
そう呟きつつ彼はリュックを下ろして中を探り…チョコバーを1本取り出したのだった。
その頃 三畳市 Dラボ
「それでは、確かにお届けしましたー!」
「どうも、ご苦労さまでした。…おーいみんな! シベリアからの荷物が届いたぞ!」
「おっ! やっと届いたんだね父さん!」
「でも…みんなには悪いけど、何度聞いてもわたしには理解しきれないかもね。人間とほぼ遜色ない見た目と動きができて、しかも炎でも燃え尽きないなんて…」
「その気持ちは分かりますけど、俺達を黒い火球からその身を呈して守ってくれたのは確かなんです。そして、服の下には機械の体があったってことも」
「とにかく、まずは見てみよう。話はそれからでもいいじゃないか」
ということで早速古代博士がバールを手にシベリアから送られてきた木箱をこじ開ける。中には布と梱包材に包まれた老人が安置されていた。
「うーむ…見た目的にはほぼ人間と変わりない。これが機械だとは信じられんなぁ…」
古代博士がそう言いながらさりげなく老人に手を触れると、その体から激しい電撃が飛び散った。その衝撃でどこかの回路が繋がったのか、老人がくわっと目を見開く。
「切符をハイケン…切符をハケン…切符をハリケーン…」
しかしほぼ意味のないうわ言ばかりを口にした後、再び沈黙してしまった。
「何が言いたいのかは分からなかったけど、これは確かに出来過ぎなくらいのすごいアンドロイドかもね」
「でも、こんな人間と遜色ないクオリティのアンドロイド、誰が作ったんだろう…」
「アクト団と関係があるのかも気になるよな」
「こればかりはリアス君の手も借りて修理せんと分からんな…」
そんな会話をしている後ろでは、相変わらずガブ達がくしゃみをしていた。当たり前だが、薬を飲んだからと言ってすぐ良くなる訳ではないのだ。
「やっぱり飲み薬じゃすぐには治らないな…」
「マルムのパパさんに注射打ってもらった方が良かったかもしれないね。レクシィは大分調子戻ってきてたしさ」
オウガの言葉に震え上がるガブ達を宥めていると、古代博士の携帯電話に着信が届いた。
「ん? 見ない番号だな…。
はい、古代です。…あぁ、リアス君のお母さん? 一体どんなご用事で?
…え? 家がなくなったぁ? どういうことです?」
マルムの母アンモからの電話を受け、現場へと駆けつけたオウガ達の目の前には、ぽっかりと更地が広がっていた。昨日まで確かにそこへあったはずのマルムの家と竜野動物病院が忽然と消えていたのである。
「おいおい…何がどうなってんだよ…」
「俺にも分からない。でも、取り壊されたというよりは…丸ごと消えてなくなったような…。
でも、それなら…マルム達は一体どこへ行ってしまったんだ?」
「…! そうだ! ディノホルダーで…」
早速レックスがディノホルダーでマルムと連絡を取ろうと試みる。しかし…。
「くっ…ダメだ! 繋がらない!」
何度かけ直しても、マルムが応答することはなかった。
アジ島 地下区画
さて、何故マルムが応答できないのかには明確な理由があった。アジ島上空に禍々しい黒い電撃…妨害電波のバリアーが張り巡らされていたのである。
「さて、これで動物病院の奴らが勝手に帰ることはできなくなったな。これでようやく研究に戻ることができる…」
そう呟きながら、ノーピスは彼専用の研究室に入ると…内側から電子ロックをかけた。
「ジュラサンの奴から絞り上げたデータは引き続き自動解析にかけるとして…問題はこれだな」
そう呟き、彼は前回シベリアで使った真っ白の技カードを手にする。
「段々とサウロファガナクスもうまく扱えるようにはなってきたが、それでもまだ不十分だ。
せめて3回…いいや、5回はこの技を連発できるよう更に改良する必要があるな。
まずはこれから取りかかるとしよう」
と、そこで彼のPCにメールが届く。彼はコンソールを操作してメールボックスを開き、届いたものを確認した。
「フフフ…ドジスンのやつ、あれが相当気に入ったようだな。最早ギガノトサウルスの面影などないというのに、わざわざ『最高のギガノトサウルス』と書き添えてメッセージを送ってくるなど…狂気としか言えん」
だが、とそこで言葉を区切り、ノーピスは口角を鋭く上げた。
「大昔の創作作品に『狂気の沙汰ほど面白い』という言葉もある。お前も、主人の望みを叶えられるのならば本望だろう…?」
そう口にし、ノーピスがガラスの向こうに広がる実験区画へ視線を向ける。そこに鎮座する巨大なカプセルの中では、ギガノトサウルスだったものが培養液に浸かっていた。
だがその姿はかつてのものとはかけ離れており、更に体の6箇所にはそれぞれ違う色の光がぼんやりと灯っていたのである…。
ということで、今回はここまでです。
今回の話には、智月 龍狼さんからご提案いただいた『デニス・ネドリーがモチーフの恐竜キング時空のキャラ』を採用いたしました。あくまで味方サイドで登場させてほしい…とのことだったので、どちらかというと同情を誘いやすい原作小説のバックボーンに、映画版の陰湿な性格を少し加えさせてもらいました。
個人的な想定としては、翼竜伝説編でザンジャーク構成員の1人とかで出そうかなとか考えていたので意外な形にはなりましたが、登場したからには存分に活躍してもらいたいと思っております。直近だとDキッズアドベンチャー編最終盤で活躍できそうな場面がありますしね。
後編ではオルペウスさんから提案していただいた、あの新生代生物も本格登場予定です。是非後編にもご期待下さい!