古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は後編になります。
どうぞ最後までお楽しみ下さい。


後編

「うーん…」

 

「さあ!さあさあさあ!」

 

 考え込む老人にDキッズとアクト団の3人が同時に詰め寄る。見る人が見れば年寄りを恫喝しているように見えなくもない光景であった。

 そんな緊張状態の中、マルムがハッとした。

 老人の周りで自分達のところのチビ恐竜たちが暴れまわっているのだ。

 エースは老人の周りを駆け回り、パラパラはフライドポテトの袋を咥えて振り回し、中身を散乱させている。その散らばったフライドポテトをアメジストが貪り、最後にガブとイナズマが老人の頭に噛みついた。

 

「ダメよパラパラ!」

 

「こら、ガブ! イナズマもやめろって!」

 

「大人しくしろ、エース!」

 

「アメジスト! それはおじいさんのポテトなんだから食べちゃダメだよ!

後でさっきのメレンゲホットケーキ食べさせてやるから!」

 

「いいっていいって! オラぁ恐竜が大好きだ!」

 

「「「「え…?」」」」

 

 老人の言葉に4人は絶句する。やはり老人はガブ達を恐竜だと確信しているのだ。

 

「ん? 何か気に入ったか?」

 

 カードホルダーのカードに触ろうとするチビ恐竜達に老人は優しく話しかけた。

 

「だからダメだって…!」

 

「構わねぇよ。ほれ」

 

 そう言うと、老人はDキッズ達の方にカードホルダーを差し出した。

 

「ほら、やるよ」

 

「「「「えーっ!?」」」」

 

 その一言にDキッズ達は驚き、アクト団の3人はショックを受ける。

 

「い、いいんですか!?」

 

「うん。オラぁ恐竜が大好きだ!」

 

「「「「ありがとうございます!!!!」」」」

 

 そう言って老人は満面の笑みを浮かべた。そしてガブが差し出したカードホルダーをDキッズ達が受け取った…はずだったのだが。

 どこからともなくマジックハンドが伸びてくると、カードホルダーを掴み取ってしまったのだ。そのままカードホルダーはアクト団の手に渡る。

 今更考えるまでもないだろうが、彼らの仕業であることは一目瞭然だった。

 

「いただきザンス!」

 

「「「ほなバイナラ!」」」

 

 そう言い捨てるとアクト団3人組は脱兎の如く逃げ去っていく。当然、Dキッズ達も後を追いかけた。

 

「待てっ!」

 

「ズルいわよー!」

 

「それが大人のやることですかー!?」

 

 しばらく走ったところで、アクト団の3人はクレープ屋の看板の裏へ身を隠した。

 そこへDキッズ達がやってくる。案の定姿は見失ったようだが、ここに来たのは間違いない。そこでアクト団を炙り出すために彼らは一計を案じることにした。

 

「あれー? オバさん達、確かにこっちへー!」

 

「オバさんにしては、逃げ足が速いなー!」

 

「あのオバさんなら目立つハズなんだけどー!」

 

「自称19実年齢三十路のオバさんはどこかなー?」

 

「テメェらわざと言ってんだろゴルルァ!」

 

 狙い通り、我慢できなくなったウサラパが飛び出してきた。必死にエドとノラッティ〜が宥めるもののもう遅い。

 

「いたぞ!」

 

「しまった! スタコラサッサー!」

 

「返せー!」

 

 また場所は変わり、人通りの多い道。ここに来てまたしてもDキッズはアクト団の3人を見失っていた。先ほどまでここで姿を見ていたので、この辺りなのは間違いないのだが…。

 

『グルル…』

 

「レクシィ…? どうしたんだ? いきなりカードから出て来て…」

 

 マルムに服を着させられそうになった時からずっとカードに引きこもっていたレクシィが姿を現したのだ。彼女は辺りの匂いを嗅いでから、すぐ横にいたパントマイマーに目を向けると低く唸った。

 パントマイマーの1人…エドが変装している人物の額に冷や汗が滲む。

 しかしそんな様子など気にすることなく、レクシィはそのままつかつかと近づき、エドの腹に食らいつこうとするように大口を開けた。

 

「うひゃあぁぁぁ! 怖いッスううう!」

 

「あっ! いた!」

 

 恐怖に耐えられなくなったエドが飛び上がってしまい、Dキッズに場所がバレてしまう。

 

「「「バハハーイ!!!」」」

 

「待てっ!」

 

そしてまた逃げ切ろうとしたアクト団だったのだが…。

 

「ギャーッ!」 ツルッ

 

 なんと、カードホルダーを持っていたノラッティ〜がバナナの皮を踏んだばかりに転んでしまったのだ。

 そのままカードホルダーはDキッズの方へ飛んでいき、オウガがキャッチした。

 

「オウガ、ナイスキャッチ!」

 

「早く逃げましょう!」

 

 カードホルダーを持ったまま、今度はDキッズが逃走を開始した。当然アクト団もその後を追いかけていく。

 

「何やってんだよドジ! 追うよー!」

 

 アクト団が付いてくる気配を確かに感じながら、Dキッズ達は相談を始めた。

 

「どうするの? どうやってオバさん達から逃げ切る?」

 

「ひとまず2手に分かれよう! 僕とリュウタは向こうへ、オウガとマルムはあいつらが通り過ぎるのを待ってから逆方向へ逃げてくれ!」

 

「了解!…でもその前に念には念を入れてやっておきたいことがあるんだけど…みんな。いいかな?」

 

「な、何だよ?」

 

「それは…ゴニョゴニョ…」

 

「…大丈夫か? それ…。バレたりとか…」

 

「しないしない。逃げるのに集中してたし多少変わっても気づかないはずだよ。

走りながらにはなるけど…やれるだけはやっておこう」

 

 

 一方アクト団は、Dキッズ達を完全に見失ってしまっていた。

 

「どこ行ったのあのガキンチョ共ぉ〜…。

逃げ足だけは速いんだからもぉ〜…」

 

 その時、彼らの視界に横断歩道を渡っていくリュウタとレックスの姿が入ってきた。

 

「あっ! いたっ! 待ちなさーい!」

 

「待つザンスぅー!」

 

そう口々に叫びながらアクト団の3人はリュウタとレックスを追いかけていく。

その様子を、物陰からオウガとマルムが用心深く観察していた。

 

「オウガ、手筈はどう?」

 

「いや、優先順位が高いのはリュウタに持っていってもらったけど、それ以外はまだある。

ここが見つからなければ作業を続けて、もし見つかったらまたどこか隠れられる所に身を隠してから…」

 

 と、その時だった。

 

「あーっ! さっき通り過ぎたあそこにガキンチョの2人が隠れてるッス! カードホルダーもあそこッス!」

 

 道路の向こう側へ渡ったエドが、違う角度からオウガとマルムが隠れていることに気づいたのである。

 

「まずい、見つかった!」

 

「早く逃げなきゃ!」

 

 その後もオウガとマルムは隠れては見つかり、隠れては見つかりを繰り返しながら、ついに公園へとたどり着いた。

 

「待ちなさーい!」

 

 後ろから近づいてくるアクト団との距離を離すため、2人は鉄柵の間をすり抜けて公園の中へと入っていった。当然子供でもギリギリ抜けられる幅なので、大人のアクト団3人が通れるはずもない。

 

「あぁっ、通れないじゃない!」

 

「あっ! あっちに入口があるザンス!」

 

「そっちに回るよ! 何としても捕まえるのよ!」

 

 その後も続く柵を通り抜け、最後の柵を身を低くして通り抜けようとした2人だったが、オウガが体勢を崩し、カードホルダーを取り落としてしまう。

 

「オウガ!大丈夫?」

 

「大丈夫…少し、疲れただけだから…。それより早くあいつらを引き離さないと」

 

 先行していたマルムが心配して戻って来るが、当人は疲れこそしているもののケガなどはないようで、落としたカードホルダーを引っ掴むとまた走り出す。

 その時カードホルダーから抜け落ちた1枚のカードが風に流されていったことに、2人は気づくことはなかった。

 

 その後、オウガとマルムは公園の中心部である広場へと到達していた。

 

「逆に見つかりやすいところまで来ちゃったな…。

どうするマルム?」

 

「そうね…周りに人は結構いるけど、このままだと見つかっちゃうわ。その前にどこかにカードホルダーを隠せないかしら…」

 

 そう言って辺りを見渡すと、2人は噴水を見つけた。真ん中には河童の石像が置いてある。

 

「あの河童のカゴにしばらく預かってもらいましょう!」

 

「丁度いいね。アクト団をまいたところでまた回収しに来れば良さそうだ。

でも、奴らが先にこれを見つけたら…」

 

「大丈夫。この噴水には仕掛けがあるの!」

 

 そう言うとマルムはカードホルダーを河童のカゴに入れ、噴水から離れる。すると、河童の石像を覆い隠すように噴水が上がったのだ。

 

「すごい! これなら一瞬しか視界に入らなければ絶対に気づかれないぞ!」

 

「そういうこと! さ、行きましょ!」

 

 すぐさまその場を離れようとしたオウガとマルムだったが、彼らの前にアクト団の3人が立ち塞がった。

 ついに追いつかれてしまったのだ。

 

「やっっと見つけたわ…。もう逃さないわよ!」

 

 2人が踵を返して逃げようとするのをアクト団もまた追いかけようとするが、そこでパラパラが行動に出た。大英博物館の時も披露した重低音の鳴き声を応用し、今度は超音波のようにしてアクト団の3人に浴びせたのだ。

 

「ひいぃぃ! やめてぇー!」

 

「うわあぁあぁあぁ…」

 

「たまらんザンスぅ〜…!」

 

 脳を直接揺さぶるような不快極まりない音波にアクト団の3人は苦しむが、苦しみつつもアクトホルダーを取り出し、カードを通した。

 

「もうダメ…!お願いティラノちゃん!」

 

ガァァァァァ!!!

 

 炎と赤い光に包まれてティラノが成体化を果たし、オウガとマルムの前に立ちはだかる。

 その光景は、5人を追っていたリュウタとレックスも確認することができた。

 

「あっ! あれはアクト団の!」

 

「ということは…あっちか!」

 

 一方で公園にいた一般人達は突如出現したティラノに驚き、1人残らず逃げ出していってしまった。

 

「子供相手に大人げないわよ!」

 

「目的の為には手段を選ばずって訳か。卑怯な大人だね」

 

「うるさい! 卑怯もラッキョウもないのよ! それもこれもカードを奪うため…って! アンタ達カードホルダー持ってないじゃない!」

 

 マルムが手を開いてみせ、オウガがわざとらしく手をヒラヒラさせているのを見てようやくウサラパは気づいたようだ。

 

「あーっ! あんなところに!」

 

 しかし、エドが2人の背後にある河童の石像にカードホルダーが置かれているのを目ざとく見つけた。

 先ほどの時といい、今日の彼は妙に観察眼が働いているようである。

 

「「「あーっ! カードホルダー!」」」

 

 ティラノを召喚したというのに彼を放っておいたままアクト団の3人は河童の石像へ殺到する。

 しかし、そう簡単にカードホルダーに手は届かなかった。河童の周囲から噴水が噴き上がり、3人を宙に浮かせてしまったのだ。

 

「キャーッ! 何なのよこれーっ!」

 

「浮いちゃったザンス!」

 

 そして、この隙を見逃さないDキッズではない。すぐさまオウガとマルムはカードを取り出すと、各々のディノラウザーとディノホルダーにスキャンした。

 

「ディノスラーッシュ!

燃え上がれ! ティラノサウルス・レックス!」

 

「ディノスラーッシュ! 芽生えよ! パラサウロロフス!」

 

キュオオオン!!!

 

緑の光に包まれ、パラパラが成体となって降り立った。

そう。パラパラだけが、である。

 

「なっ…何で…?」

 

「どうしたの、オウガ?レクシィちゃんは?」

 

「変なんだ…。いくらカードを通しても…レクシィが出てきてくれない…」

 

 何度もレクシィのカードをディノラウザーに通すものの、レクシィが成体化する様子はなかった。

 不承不承ながらもオウガはレクシィのカードをしまい、アメジストをカードへ戻す。

 

「レクシィが出てきてくれないなら、君に託すしかない!

今回は1体だけになるけど…何とか頑張ってくれ!

ディノスラーッシュ! 揺るがせ! ステゴサウルス!」

 

ケェェェェェ…!!!

 

 アメジストのカードをディノラウザーに通したところ、今度は問題なくアメジストが成体形態で召喚された。少なくともディノラウザーの故障が原因ではなさそうだ。

 そして2体がティラノに向かい合うと、周囲の風景が変化していく。いつものバトルフィールドへの移行だとその場にいた全員が確信していたのだが…。

 

「「「うわぁーっ!?」」」

 

「あっ! 場所が変わったッス!」

 

「何ザンス!?」

 

「バトルフィールド…?」

 

 その変化は、まだ現場に到着できていないリュウタとレックスをも驚かせた。

 

「ここは…まさか恐竜の時代…?」

 

「何だってこんな…」

 

 そう。周囲の風景はいつものバトルフィールドではなく、まるで中生代の森林のようになってしまったのである。

 これにはマルムとオウガも困惑しっぱなしだ。

 

「タイムスリップしたの?」

 

「にわかには信じられないけど…周囲の風景に元々の面影もないし、そう捉えるしかない…と思う…」

 

 そして、いよいよアメジスト&パラパラvsティラノの戦闘が幕を開けた。

 まずはティラノが食らいつこうと大口を開けて近寄ってくるが、それをパラパラは素早く躱し、頭突きをお見舞いする。再びティラノが噛みつこうとするところにアメジストが乱入し、サゴマイザーでの攻撃でティラノを薙ぎ倒した。

 

「パラパラ! しっかり!」

 

「アメジストも頑張ってくれ!」

 

 ティラノもフィジカルでは2体のいずれにも負けていないとは言え、数の有利をひっくり返せるほどではなかった。

 

「もう! 何してるんだい! もう1体加勢させるんだよ!」

 

「いいザンスか?」

 

「技を使えばいいじゃないッスか?」

 

「こんな序盤で使ってたら勿体ないだろぉ? スピノでもサイカでもいいからさっさとお出し!」

 

「わ…分かったザンス! スピノ! 行くザンス!」

 

グァギュオオオオッ!!!

 

 ノラッティ〜がアクトホルダーにカードを通し、スピノを成体化させて召喚した。

 

「スピノ! あのステゴサウルスをティラノから引き離すザンス!」

 

 ノラッティ〜の指示に応じたスピノがアメジストを突き飛ばし、ティラノとパラパラから遠ざけた。

 

「くそっ、相手も新手を入れてきたか…」

 

「あのティラノを出さないならスピノも安心して戦えるザンス! スピノ! どんどん遠ざけるザンス!」

 

「いいよいいよ! ティラノ! 今のうちにパラサウロロフスを叩きのめすんだよ!」

 

 その言葉に応じてか、ティラノはパラパラのとさかに食らいつくとそばの岩へ投げ飛ばした。

 アメジストは何とかパラパラの救難に入ろうとしているが、スピノに邪魔され近づくことができない。

 と、そこへようやくリュウタとレックスが駆けつけてきた。

 

「任せろマルム! オウガ!

ディノスラーッシュ! 轟け! トリケラトプス!」

 

ゴオォォォォォォ!!!

 

 リュウタがガブをカードに戻し、すかさずディノホルダーに通す。ガブの体が黄色い光と電撃に包まれて成体の姿となって召喚された。そして横たわるパラパラににじり寄っているティラノに思い切り突進し、突き転がした。更にガブは横たわったティラノに走り寄ると、両前脚で何度も踏みつけ始める。

 

「ぐぬぬ…こうなったらもう一気にやっちゃうよ!

爆炎壁攻(ボルケーノバースト)』!」

 

「さっきはダメって言ってたッスのに…」

 

 ウサラパが技カードをアクトホルダーに通すと、ティラノの体に力がみなぎり、ガブを振り払った。そして口の中に炎を溜め込み、ガブへ向けて吐き出す。業火を受けたガブはカードにはならなかったものの倒れ伏してしまった。

 

「あぁっ! ガブ!」

 

 そして更にティラノは口に炎を溜め込んだまま、弱ったパラパラに向かって走り出したではないか。

 

「まずい! このままじゃ…! アメジスト!こっちも一気に決めないとパラパラが危険だ!

…バンピー…君の技、使わせてもらうよ! 『結晶衝破(クリスタルブレイク)』!」

 

 オウガが技カードをディノラウザーに通すと、アメジストの周囲を紫色の光と紫の小結晶が包み込んだ。

 すると、アメジストの足元から4本の巨大なクリスタルの塊が突き出てその周囲を守るように浮かび上がる。それを伴ったままアメジストはスピノに突進し、巨大クリスタルを叩きつけた。スピノの体が大きく宙を舞い、カードへ戻っていく。

 だがそれでも、パラパラが倒される前にティラノを妨害するには時間が足りなかった。

 

 マルムはどうすればよいのか分からなかった。このままではパラパラは倒されてしまうだろう。回避する方法はあるのか、彼女は懸命に考えた。

①アメジストが助けてくれる

 無理だ。距離的にもティラノを妨害できるだけの時間はない。

②ガブが助けてくれる

 これも無理だ。ガブが動けるようになるにはもう少し時間が必要だろう。

③イナズマかエースが助けてくれる

 アメジストが間に合わないのであれば、2匹が今から成体化して助けに入ることは尚更無理だろう。

④助けは入らない 現実は非情である

 受け入れ難いことではあるが、もうどうあがいてもパラパラは倒されるしかなさそうだった。

 せめて、空から逆転のカードでも降ってくれば…。そう思いながらマルムは上を見上げてから視線を落とすと、そこには1枚のカードが落ちていた。先ほどオウガがカードファイルを拾い上げた時に人知れず落ちて飛ばされたカードである。しかも技カード。それも草属性のものであった。

 これに最後の望みを賭けるしかない…! そう考えたマルムは、自身のディノホルダーにそのカードをスキャンした。

 

「お願い…助けて!」

 

 技カードが読み込まれると、パラパラが高く嘶きを上げる。すると空の彼方から3匹のプテラノドン達が現れたではないか。

 どうやら『朋卵弾丸(エッグスリボルバー)』と同じく、仲間恐竜を呼ぶ超技だったようだ。

 

「うわーっ! プテラノドンザンス!」

 

「しかも3匹も…!?」

 

「『朋鋼翼撃(メタルウィング)』! 技カードを使ったッス!」

 

 そしてプテラノドン達は代わる代わるティラノに翼で斬りかかっていき、その攻撃を中断させることに成功した。

 その光景に、思わずDキッズの面々は感嘆の声を上げる。

 

「「「「すごい…!」」」」

 

「何やってんだい! 立てーっ! 立つんだティラノーっ!」

 

 某隻眼のコーチを彷彿とさせるウサラパの声を受け、ティラノは何とか立ち上がると、近くを旋回するプテラノドンに噛みつこうとする。しかしその尽くを躱された挙げ句、プテラノドンは空高くに舞い上がってしまった。

 そしてそこから3匹が同時に翼を折り畳み、1つの弾丸のようになってティラノへと突進していくではないか!

 

「エドちゃん!」

 

「ノラちゃんヤバいッス!」

 

「これってどこかで…あっ!」

 

 すっかり諦めムードのエドとノラッティ〜であったが、ウサラパはその光景に強烈なデジャヴを覚えていた。

 そして気付いた。これは「バードファイターズ」でイーグルが使っていたトドメの一撃にそっくりだと。そうとなればどうするべきかは彼女には分かっている。今こそあの時の雪辱を果たす時だ!

 

「今度こそ! 蹴るのよティラノ!必殺! ティラノキーック!」

 

 ウサラパの無茶振りのような指示ではあったが、ティラノはそれに従って片足を上げ、急降下してくるプテラノドン達を思い切り蹴りつけた!

 …かに思われたが、そんな見え見えの攻撃を食らうほどプテラノドン達もバカではない。蹴りの直前に彼らは散開してしまい、ティラノ渾身の蹴りは呆気なく空を切った。

 

「やっぱりダメなのね…」

 

 またしても反撃の蹴りに失敗し、ウサラパは悔しさのあまり号泣してしまった。だが後悔してももう遅い。元々二足歩行でバランスがいい方ではないティラノが片足蹴りを外したことでバランスを崩してしまっていた。

 何とか体勢を立て直そうと片足で跳ねるティラノへ、無慈悲にもプテラノドン達の追い討ちが襲いかかる。そしてトドメと言わんばかりに吹き飛んだティラノの体をガブ・パラパラ・アメジストが受け止めると、ティラノを大岩に叩きつけた。遂にティラノが力尽きてカードへ戻っていくと、周囲の風景も現代へと戻っていった。

 

「あぁっ! ティラノちゃ〜ん!」

 

「やったぞ!」

 

「戻ったわ?」

 

「時空の歪みが収まったのか?」

 

「でも…何だって今回に限ってこんなことが?」

 

 その時、彼らの左側からノラッティ〜の歓声が聞こえてきた。

 

「取ったザンスーッ!」

 

 その声に4人が振り向くと、そこにはカードホルダーを手にガッツポーズを取るノラッティ〜の姿があった。

 

「カードホルダーゲットザンスーッ!」

 

「でかしたよノラッティ〜!」

 

「ヒャッホーザーンス!」

 

 カードホルダーを回収したノラッティ〜はウサラパ・エドと合流すると、あっという間に姿を消してしまった。

 とんでもない逃げ足の速さである。

 

「もう!逃げ足の速いオバさんなんだから!」

 

 マルムがそう彼らの背に呼びかけると、案の定ウサラパも反応した。

 

「オバさん言うなーッ!」

 

「それはもういいッスから…」

 

 そして彼らの姿が完全に見えなくなったところで、Dキッズは円になると…クスクスと笑い出した。

 

「クスクス…オウガの言った通りだったぜ。

あいつら、全然気づいてなかったぞ?」

 

「まさかこんなに上手くいくなんてね…。僕も正直びっくりだよ」

 

「逃げるのと追うのに必死で、本当に気づかなかったのね…」

 

「じゃあみんな! 今日の成果を発表しよう!」

 

 オウガがそう呼びかけると、4人は一斉にそれぞれのポケットやバッグからカードを取り出した。

 なんと、彼らはアクト団から逃げながらカードホルダーのカードを少しずつ抜き取り、それぞれで隠し持っていたのである。

 

「今頃あいつらはアジトへの帰り道かな?」

 

「あぁ、きっと大収穫だってホクホク顔だと思うぜ。

何も知らないで」

 

「まさかあのホルダーにほぼカードが入ってないなんて夢にも思わないでしょうね!」

 

「…あっ!」

 

「どうしたんだオウガ?」

 

「みんな思い出してよ! ここに来た目的って、恐竜カードを回収しに来たんじゃないだろ?」

 

「「「…あっ!」」」

 

「大変だ! 早くスカーフを探しに行かないと!」

 

「もうお店も閉まっちゃうぜ!」

 

「とにかく、早く戻りましょう!」

 

 かくして、アクト団を欺いてカードだけは総取りしたDキッズだったが、今度は本来の目的のために奔走することになったのであった。

 

 

一方 アジ島

 

 大急ぎでアジ島へと帰り着いたアクト団達は、回収してきたカードホルダーをソーノイダに献上した。

 

「お前達、よくやったぞい! これほどのカードホルダーとなれば、かなりのカードが…」

 

 そう言いながらホルダーをめくったソーノイダの言葉が止まった。パラパラパラとページを捲っていく度にその顔は段々と赤く染まっていく。

 

「ドクターったらどうしたのかしら…」

 

「どうしたザンスかドクター? お顔が茹でたタコみたいザンスよー?」

 

 様子がおかしいと感じたロトロア兄妹はこっそりソーノイダの後ろから覗き込むと、カードホルダーとウサラパ達3人を交互に見比べてからそっと部屋を出ていく。

 不審に思った3人もソーノイダの背後へ回り込むと、そこには何も入っていないカードホルダーがあった。

 

「あら? あんなにあった恐竜カードは…?」

 

「技カードも水属性のがまばらにあるだけザンス…」

 

「そういえば持って帰るのに夢中で、一度も中身を確認してなかったッスね…」

 

 そんな言葉を交わしていた3人を、ソーノイダはギロリと睨みつけた。その顔は、憤怒に満ちていた。

 

「お前らーっ! またやってくれたなーッ!?」

 

「「「ヒエェェーッ!」」」

 

「今日という今日は絶対に許さん!

タルボーンヌよりも怖ーいお仕置きじゃぞーい!」

 

 そう叫ぶとソーノイダはどこから取り出したのか火炎放射器を装備し、銃口を3人へ向けた。

 

「「「お助けーッ!」」」

 

「待てーっ! 待てというのが分からんのかぞーい!」

 

 

その頃 Dラボ

 

「なるほど…原宿のおじいさんがこんなに沢山のカードを持っていたとは…」

 

 Dキッズ達の戦利品である大量のカードを1枚1枚見ながら古代博士が呟く。

 

「それにしても、その『朋鋼翼撃(メタルウィング)』で召喚されたプテラノドンの攻撃、かなりの威力だったようだな」

 

「そうだよ! あのティラノもタジタジだったんだから!」

 

「それに、こんなにカードがあればこれからのアクト団との戦いももっと有利に進められそうだね」

 

「フフフ、そうね!」

 

 和気あいあいとしているDキッズだったが、リアスの一言で全員凍りついたように動けなくなった。

 

「…でも、どうして原宿にカードがあると分かったの?

今のところカードの時点では探知ができないはずなんだけど」

 

「あ、その…別にカードがあるから行ったわけじゃないの! 原宿に行ったのは…その…」

 

 そこまで言いかけたところで、マルムは口を噤んでしまった。正直に打ち明けることよりも、リアスに怒られる恐怖の方が勝ってしまったのだ。

 突然口を噤んだマルムを不思議に思ったのか、リアスと古代博士が首を傾げる。

 そんなマルムに、Dキッズの仲間達は優しく声をかけた。

 

「マルム、白状しちゃえよ!」

 

「素直に謝った方がいいと思うよ?」

 

「代わりのものだって買ってきたじゃないか。今謝らなくていつ謝るのさ?」

 

「…謝る? 何のことなの?」

 

 オウガ達の言葉に、リアスが更に首を傾げる。

 しかしその言葉でマルムは決心がついたようだ。リアスの前に立ってまっすぐ彼女の目を見ると、小さな箱を差し出しながら頭を下げた。

 

「ごめんなさいお姉ちゃん! アタシ、お姉ちゃんの大事なスカーフ破いちゃって…」

 

「スカーフ?」

 

「白と水色の…ああでもアタシがやったわけじゃなくて…パラパラにお洒落させようとしただけなの!

なのにパラパラったら嫌がって破いちゃって…。

それで原宿に似たようなスカーフを探しに行って…だって、とっても高かったんでしょ! あのスカーフ!

アタシにはとても買えないと思ったから…全く同じのは見つからなかったけど、似たようなのを買ってきたの! どうかこれで、許してもらえない?」

 

 マルムの謝罪と弁明を最後まで聞いてから、リアスはゆっくりと口を開いた。

 

「なんだ、そんなこと?」

 

「…え?」

 

 思ってもみなかった返答に、マルムは思わず彼女らしくない間抜けな声を漏らす。

 

「あれなら、ワゴンセールで買ってきた安物よ?」

 

「ほ…ほんと?」

 

「あなたが素直に謝れば、許してあげようと思っていたんだけど…。まあでもせっかく買ってきてくれたんだし、これはありがたく貰っておくわ」

 

 その言葉と共にリアスはマルムの差し出した箱を受け取り、ポケットにしまいこんだ。

 

「じゃ、じゃあ…全部知ってたの…?」

 

「そういうことね」

 

「そんなぁ〜…」

 

 自分の行動を全て見抜かれていたことを知り、マルムは一気に脱力して膝から崩れ落ちてしまった。

 周りの人間達が堪えきれずに笑ってしまっている中、パラパラは何が何だか分からないのかキョロキョロと辺りを見渡していたのだった。

 

 

一方 アクト団基地 アジ島

 

「待てーっ!」

 

「も…もうやめてほしいザンス! このままだとミー達3人丸焼きになっちゃうザンス!」

 

「知ったことか! そのくらいがいいお灸をすえられるというものぞい!」

 

「お灸にしては火力が強すぎるッスよお!」

 

「ドクターッ! どうかもう勘弁して下さーいッ!」

 

 まだ工作員3人組と火炎放射器を装備したソーノイダの追いかけっこは続いていた。何とか逃げてはいるようだが、3人の着ている服はいずれも裾が少し焦げてしまっている。

 だが、その終焉は突如として訪れた。

 

「お爺ちゃん。例のカロリディーって人が来てるよ」

 

「何っ!? もう来たのかぞい!?」

 

途端にソーノイダがピタリと止まり、ロトの方へ駆けていく。3人はそちらに気を取られてよそ見した結果、壁に揃ってぶつかってしまった。

 

「で、どこで待っておるのだぞい?」

 

「応接室で待ってもらってるけど、もしかしたらこっちに来るかも…」

 

「これはこれはDr.ソーノイダ。ご無沙汰しております」

 

 するとロトの背後からカロリディーがぬっと姿を現した。いつの間にかロトの後をついてここまで来たようだ。

 部屋の様子を一望してから、彼はソーノイダに質問した。

 

「一体何の騒ぎなんです?」

 

「ああいや、お客人に話すようなことじゃないぞい。

ただこいつらが持ち帰ってきたカードホルダーがほぼ空だったので折檻を加えてやろうと…」

 

「カードホルダーが、空…?

ふむ…少し見せていただけますか?」

 

「別に構わんが、何度見ても変わらんぞい? ワシがこの目でしっかり確認したからな」

 

 そう言いながらソーノイダが差し出したカードホルダーをカロリディーは受け取ると、しばらくじっくりと眺めていた。やがてそのカードホルダーをソーノイダに返すと、にこやかに微笑みながら言った。

 

「どうやらそんなことはなさそうですよ。

たった1枚だけではありますが、恐竜カードも入っていたではないですか」

 

「何ぃっ!? ワシをバカにしとるのかぞい! どれ! 見せてみるがいいぞい!」

 

 怒りながらもソーノイダがカードホルダーを見返すと…確かに、あるではないか。『アロサウルス』の恐竜カードと、『幻舞連爪(カゲロウ)』の技カードが1枚ずつ加わっていたのである。

 

(どういうことぞい…? 確かにさっきまで恐竜カードは入っておらんかったのに…。もしや、こいつが…?)

 

 ソーノイダの訝しげな視線に気がついたのか、カロリディーは再び笑顔を浮かべた。

 

「まあよいではないですか。カードが入っていたのですし、そのくらいにしませんか。

…ところで、今日は私に話があるとのことでしたが…」

 

「あぁ、そうじゃったぞい。

実は今日は引き続きお主と話し合いをするつもりじゃったのだが、気が変わったぞい。

熟考の末、ワシは…お主らの依頼を受けることに決めたぞい」

 

 ソーノイダの言葉を聞き、カロリディーはにんまりと笑みを浮かべた。

 

「それはよいご判断です。お約束通り報酬として10万ドルお支払いしますし、出来次第では次回以降も依頼させていただく予定ですよ?」

 

「御託はいいぞい。それで、ワシは何をすればいいのだぞい?」

 

「先ほどの応接室に契約書類を置いてあります。まずはそれにサインをしていただいて…その後こちらから技カードの素材を差し上げ、配合手順をご説明したいと思っております」

 

「ふむ…分かったぞい」

 

 そこまで会話したところで、ソーノイダとカロリディーは連れ立って応接室へと向かっていった。

 その後ろ姿を見送りながら、ウサラパ達3人は顔を見合わせる。

 

「いつの間にアロサウルスなんか入ってたのかしら…?」

 

「とにかく、カロリディーさんが割って入ってくれたお陰で助かったザンス〜」

 

「それにしても、ドクターってばまだあの依頼を承諾してなかったんスね…」

 

 そんな会話をしながらも安堵する3人を尻目に、ロトはカロリディーの後ろ姿を睨みつけ、ボソリと呟いた。

 

「気に入らないなぁ…」

 

 

 




 今回の恐竜解説!

「今回の担当は俺、覇轟オウガだよ。
今回解説するのは、天空の王者『プテラノドン』!
…まあ、プテラノドンは厳密には翼竜っていう爬虫類の仲間で、恐竜ではないんだけどね…。
名前の意味は「歯のない翼」。シンプルに本種の特徴を表した名前だと言えるよね。
全長は2メートルほどと、小柄なように見えるよね。
でも翼開長は7〜8メートルとかなりの長さなんだ。この大きな翼で上昇気流をうまく掴み、グライダーのように滑空していたと考えられているよ。
本種の化石が白亜紀後期の北アメリカ、それも海岸線から見つかっていることからも、飛ぶために強烈な上昇気流を利用していたことが分かるよね。
そのために全身の骨は中空になっていて、極限まで軽量化が計られていたんだ。そんな感じだから筋肉も必要最低限のものしか付いていなかったみたいで、羽ばたいて飛び立つ、ましてや何かを掴んで空へ舞い上がることはできなかったと推測されているね。
それからプテラノドンといえば、後頭部のトサカだよね。この使い道は色々と考えられていて、例えば飛行中僅かな力で嘴を動かすためとか、異性へのディスプレイ、同族間で識別するための目印…など、色々な説が提唱されているんだよ。
ちなみにマルムが『朋鋼翼撃』で召喚した、トサカが菱形のものはプテラノドン・ステルンベルギって言われていたんだけど、今は種の整理の結果、ゲオステルンベルギアっていう別種に分類されちゃったんだ。
でもわざわざ変えることもないかなと思って、本作ではこのままでいかせてもらおうと思うよ」


ということで今回はここまでです。
オウガとレクシィが何やら不穏な関係になってきておりますが、彼らの行く末はぜひアジ島回をお待ち下さい。
ちなみにDキッズが技カードを水属性以外引き抜きまくったので次回以降使える技の範囲が増えていきますが、一方でアクト団側もスピノだけは技のバリエーションが爆増します。
そしてアロサウルスをここで消費したので、原作「愛と闘牛のバルセロナ」回は別の恐竜をあてがいたいと思っております。
それでは、次回「モナコ恐竜グランプリ!三つ巴の大激走!」でまたお会いしましょう。
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