古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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ここから本格的に物語が始まっていきます。
どうぞ最後までお楽しみ下さい。


第1話:未知との遭遇!燃え上がれ!ティラノサウルス・レックス!
前編


 日本 三畳市 覇轟家

 

 まだ太陽も顔を見せていない朝早くの頃。

 1人の少年が自分の部屋で眠りについていた。

 決して広いとはいえない彼の部屋には所狭しと恐竜の…特にティラノサウルスのグッズが並べられており、彼がそれらにかける想いが伝わってくるかのようだ。

 未成年、それも小学生が起きるにはあまりに早い時間であるのだが…けたたましい時計のアラームで、少年は目を覚ました。

 

「うーん…もうこんな時間か…」

 

 彼は、覇轟(はごう) 王牙(オウガ)

 Dキッズでは1番の新参で、誰よりもティラノサウルスが大好きだと自負する、1人の少年である。

 彼がこんなに早く起きたのは、早朝から入る恐竜のテレビ番組を観るためであった。

 最新の恐竜研究についての再現映像と研究者たちによる討論を纏めたもので、かれこれ数週間も前から楽しみにしていたのである。

 特に楽しみなのは古代博士とジャック・ホナラネ博士のティラノサウルスに関しての討論で…いかにホナラネ博士の持論が愚劣であるかを古代博士が必ず証明してくれるだろうと想像すると、思わず仄暗い笑みが浮かぶ…。

 とにかく、早く行かないと。

 早速パジャマから着替えてカーテンを思い切り開けた…その時だった。

 彼の目に入ってきたのは、明けの空を駆けていく隕石だった。

 思わずその軌跡を追うと…そのまま隕石は町の裏山に落下したようだった。

 決して小さくはない振動がオウガにも伝わってくる。

 

「何だ…今の隕石…?」

 

 とにかく両親にも話を聞いてみようと急いで階段を降りていくと、母親の蘭々美が電話口に立っていた。

 どうやら誰かと話をしているらしい。

 

「ごめんなさいね、今起こしてくるから…あら王牙! おはよう! リュウタくんから電話が来てるわよ」

 

「リュウタから? …もしもし、オウガだけど『おはよう!オウガ!』…そんな大きい声出さなくても聞こえてるよ…おはよう、リュウタ…」

 

 電話を代わるなり、リュウタがかなり興奮した様子で話しかける…というより最早怒鳴り込んできたような勢いに思わず気圧される。

 

『お前もさっきの振動感じただろ!? 裏山に流れ星が落ちたんだよ! Dキッズ総出で調査に行くから、今すぐオレんちに来てくれ!』

 

 そこまで一方的にまくし立てると、そのまま電話は切れてしまった。

 彼も今日の恐竜番組を楽しみにしていたはずなのにそれを置いて出かけようとは…よほどあの隕石に興味を惹かれたらしい。

 

「俺は皆の中だと1番新参だし…打ち解けるためにも早く行った方がいいな。どうせ番組は録画してあるから後でも見られるし…」

 

 そう呟くと、彼は自分の部屋へ戻り、外出の準備を始めた。ショルダーバッグ、メモ帳、それから…。

 

「これも、忘れないようにしないとな」

 

 1本のネックレスを手に取り、首にかける。そのネックレスには大粒の琥珀がついており、表面にはティラノサウルスの全身骨格を模した意匠が施されていた。

 そのまま玄関へと向かい、居間で朝食を摂っている両親に声をかける。

 

「母さん、父さん。ちょっと行ってくるよ」

 

「リュウタくんのお家でしょ? いってらっしゃい」

 

 

 

 その後、他のDキッズ達と合流したオウガは、早速件の隕石が着弾した裏山へと向かっていた。

 リュウタ以外の他のメンバー、特に女の子の竜野マルムは安眠を妨害されたようで、合流した時から今までずっと不機嫌な様子だった。

 リュウタにブツブツと愚痴をぶつける彼女をレックス・オーエンと一緒になって宥めながら、彼らは裏山を登る道を進んでいく。

 

「ところで…リュウタ、何で隕石の調査なんてやろうと思ったんだ?

俺たちの専門は恐竜の研究だろ? それに今朝は古代博士も出る恐竜番組が入るはずだったのに、それを置いてまでここに来たのは何か理由があるんじゃないか?」

 

「おっ、よく聞いてくれたなオウガ!

それはだなー…流れ星が落ちてきたってんなら、宇宙の生命体が一緒にやって来てるかもしれないだろ!?」

 

 リュウタのその返答に、オウガを含む3人は唖然としてしまう。

 

「えっ、何それ…恐竜と全然関係ないじゃない…」

 

「恐竜…というより地球の生命は宇宙から飛来した隕石に付着していたものがルーツじゃないかという突飛な説を聞いたことがあるけど…リュウタの様子を見るにそうでもなさそうだね…」

 

「せっかく楽しみにしてたテレビがあったのに…そんな目的だったのか…」

 

「なんだよーみんなそんな暗い顔してさ! ほらほらあともう少しで流れ星が落ちた辺りだ!先を急ごうぜ!」

 

 そう言って勢いよく駆け出していくリュウタの背中を見つめながら、オウガたちも重い足取りでその後に続いていった。

 それから数十秒もしないうちに、遥か先でリュウタが手を振りながら何か叫ぶ姿が目に入ってきた。

 

「おーい!やっぱりここだ! ここに流れ星が落ちたみたいだぞ!」

 

 リュウタの声に急かされながら3人が現場へ辿り着くと、なるほど確かにその通りだと言える光景が広がっていた。

 隕石が直撃したのであろう木には大きな穴が空いていて、周囲の木々は殆どが着弾時の衝撃で薙ぎ払われている。

 

「ほら! オレの言った通りだったろ? それじゃあ早速流れ星を見つけ出すぜ!」

 

 そう言うが早いかリュウタはサンバイザーのライトを付け、木に空いた穴へ体を突っ込んだ。

 

「ち、ちょっと待ちなさいよリュウタ! 危ないわよ!」

 

「大丈夫大丈夫! それにオレたちDキッズのモットーは、『発見したら掘り起こせ!』だろ?」

 

「それは化石のことだろ…?」

 

 オウガ達の言葉も意に介さず、リュウタは穴の中を探り続ける。こうなってしまえば彼は止まらないと知っていると3人とも知っているので、やむなく話し合いをすることにした。

 

「どうする? ああなったらリュウタは梃子でも動かないわよ」

 

「あの大きさの穴じゃリュウタが落ちて出られなくなることもなさそうだし…僕達も周りを探索してみようか」

 

「そうだな。これだけの衝撃なら何か近くに飛散物があるかもしれないし」

 

 ということで、3人も周囲を捜索してみることに決めたようだ。

 レックスとマルムがどこへ向かったのかを確認してから、オウガもゆっくりと歩みを進める。

 

(これほどの規模なら、飛散物はそこまで遠くまで散らばっていないはず。穴とその近くはリュウタに任せて、俺も周りを探してみよう)

 

 そう考えながら少し離れたところへ移動していた、その時だった。

 ふと見上げると、目の前の空に亀裂のようなものが走っているではないか。

 

「な、何だこれ…」

 

 あまりに非科学的な現象を前に思わず立ちすくんでいると、その亀裂から一陣の風が吹き込み、何かが足元へヒラヒラと落ちてきた。

 拾い上げて確認してみると、なんとそれはカードだった。

 カードには『ティラノサウルス・レックス』という文字と、どこかの廃墟を背景に咆哮を轟かせる巨大なティラノサウルスのイラストが描かれていた。

 

「か…かっこいい…!」

 

 ティラノサウルスが大好きなオウガのことである。この出逢いには興奮を覚えざるを得なかった。

 何故空に亀裂が入っていたのか?

 何故その亀裂からティラノサウルスのカードが落ちてきたのか?

 その疑問をしばしの間忘れさせてくれるほどに、そのティラノサウルスの姿に魅せられてしまっていたのだ。

 

「そ、そうだ! 亀裂は…」

 

 ふと我に返って頭上を見上げると…先ほどの亀裂はどこにもなくなっていた。

 

(…幻を…見ていたんだろうか…?)

 

 だが手元にはその亀裂から舞い落ちてきたティラノサウルスのカードがある。それが今体験したことが現実であることを証明する、何よりの証拠であった。

 

「おーい! みんなー! なんかすごいの見つけたぜー!」

 

 リュウタの声で現実に引き戻されたオウガは、カードを手に急いで先ほどの場所へと向かった。

 

 着弾地点に戻ると、もうレックスとマルムは集まっていたところだった。全員が揃ったところを確認したところで、リュウタが古めかしい石版を見せつけてくる。その表面には雷か電気を模した紋章が刻まれていた。

 

「見ろよ、これ。不思議な石板だよな〜」

 

「実は僕も似たようなものを見つけたんだ。ほら、これだよ。僕のには…風のような紋章が刻まれてるね」

 

「私も見つけたわ! こっちには…草…かしら? 3人とも違う紋章なんて不思議ね…。

それで、オウガは何か見つけたの?」

 

「お、俺か? 俺は石版みたいなのは見つけられなかったけど、このカードを…」

 

 そう言って件のカードを3人に見せようとした時だった。

 リュウタ達が持っている石版が眩い光に包まれたのだ。

 リュウタのものは黄色に、レックスのものは青色、マルムのものは緑色に光ったのち…すぐに光は収まった。

 

「な…何だったのよ、今の光…」

 

「何が起きたのかオレにもさっぱりだぜ…ん? あれ? こんなのここにあったっけ」

 

 何かに気がついたようで、リュウタは木のそばに身を屈める。そして再び立ち上がった時には、手に卵のようなものを持っていたのである。

 

「卵?…にしては随分と変な作りじゃないか? まるで何かの入れ物みたいに僕には見えるんだけど」

 

「やっぱり! オレもそう思ったんだよ! 何が入ってるんだ?」

 

リュウタが興奮した様子で手の中の卵に力を加えると、あっさりと2つに割れて中からカードが2枚舞い落ちた。

 

「なんだこれ? 『トリケラトプス』…? 裏には石版と同じ雷マークがあるぞ?

もう1枚は…『来電蓄電』…? どういう意味なんだ…?」

 

 状況が読み込めず困惑するリュウタ達をよそに、オウガは手元の…先ほど拾ったティラノサウルスのカードに目を戻した。裏返してみると、そこには炎のような紋章が描かれている。

 

(リュウタが見つけたカードと似た紋章だ…。一体何なんだこれは…)

 

「うーん…この石版と何か関係があるのかな?」

 

 そう呟きながらリュウタが石版にカードを当て、奥から手前へとスライドさせると…突然カードが眩い光を放ち、大きく拡散した。

 光はやがて何かの形をとり始め、ややあってから収まると…

 

 そこに現れたのは、Dキッズの誰もが見たことのある動物だった。

 9、10メートルはあろうかという大きな体。

 頭には長大な2本の角と短い1本角に大きな襟飾り。

 そう、それはまさにスター恐竜の一角を成す、トリケラトプスに他ならなかったのだ。

 

 あまりの出来事に呆然と立ち竦んでいた4人だったが、我に返るなり悲鳴をあげ、一目散に近くの大きな木の後ろへと身を隠した。

 4人揃って恐る恐る木の陰から様子を伺うと、件のトリケラトプスはこちらをじっと見つめている。

 そして、前へ…オウガ達が隠れている木に向かってゆっくりと進み始めたのである。

 

「まずい…。俺たちの存在に気がついてる!」

 

「ど…どうするのよリュウタ!」

 

「どうするって言ったって…オレたちじゃトリケラになんか勝てないよ」

 

「取り敢えず落ち着こう。さっきリュウタは石版にカードを触れさせていただろ? それならもう一度やってみれば何とかできるんじゃ…」

 

「そ、そうか! サンキューなレックス!」

 

 リュウタが震える手で再び石版にカードを当てる。

 だが、今度は何も起きなかった。

 その間にもどんどんトリケラトプスは近づき、ついにリュウタの目と鼻の先まで迫ってくる。

 

「うわぁぁっ!?」

 

「逃げろ! 逃げるんだリュウタ!」

 

 リュウタが咄嗟に両手で防御の態勢を取ると…何故かトリケラトプスが再び光に包まれ、カードへと戻っていった。

 

「あれ…?消えた…?」

 

「いや、違う。消えたんじゃなく、カードに戻ったんだ。どういうメカニズムなのかは俺には分からないけど、そうとしか考えられない…」

 

「戻ったって…どういうこと? 今何が起こったの?」

 

「もしかすると、今のはホログラムか何かだったのかもしれないな…」

 

 レックスがそう推測したのに対し、オウガは先ほどまでトリケラトプスがいた場所に屈み込み、しばらく地面を観察してからこう口にした。

 

「…どうやらそうじゃなさそうだ。見てみて。地面にくっきり足跡がついてる。ホログラムならこうはならないはずだよ。

だから、その…さっきのトリケラトプスは、紛れもなく本物だと…判断するしかない」

 

「ほ、本物…? まさかそんな…」

 

 レックスもマルムも、とても信じられないといった顔でリュウタの持つカードと石版を交互に見比べている。

 当のリュウタも、じっとカードを見つめながら口を開く。

 

「でも…さっきトリケラトプスが目の前まで迫ってきた時…あいつの鼻息みたいなのを感じたんだ。

きっとあいつは本物のトリケラトプスなんだよ」

 

 それからしばらく考え込んだ後、リュウタは意を決したように言った。

 

「…やっぱり、もう一度出してみようかな」

 

「待てよリュウタ! さっきみたいに襲われそうになったらどうするつもりなんだよ」

 

「さっきも戻せたから大丈夫だって! …えっーと、さっきは奥から手前にカードを引いたから…今度は手前から奥にしてみようかな…」

 

 そう呟きながらリュウタがカードをスライドさせると、三度カードから光が放たれた。

 しかし、今度はさっきと比べるとずっと小さい…。

 そして光が止むと、そこには小型犬サイズのトリケラトプスが現れた。見た目まで随分とデフォルメされている。

 

『…ガブ?』

 

「おいおい…今度は小さくなっちゃったぜ…」

 

「きゃーっ! かわいーっ!」

 

 一気に脱力した様子のリュウタとは正反対に、マルムは黄色い声を上げる。可愛くなったトリケラトプスにすっかり魅せられてしまったようだ。

 

「一体どういう原理なんだ…? 石版にしろカードにしろ…」

 

「ホントだよ。大きくなったり小さくなったり…何なんだコイツ」

 

 リュウタがトリケラトプスの瞳を覗き込みながらそう口にすると、突然トリケラトプスは口を開き…リュウタの鼻に噛み付いた。

 

『ガブッ♪』

 

「うわっ! 何だコイツ! イテテテテテッ! 離れろ! 離れろってば!」

 

 噛まれたリュウタは何とかトリケラトプスを引き剥がそうとするが、そのまま飛びかかり、顔を舐められ始めてしまった。

 

「こりゃあ恐竜ってより、犬か何かを相手にしてるみたいだな…」

 

「アハハハッ! リュウタったら、もしかしたらその子に好かれちゃったんじゃない?」

 

「じゃれるのはいいけど、食べられないよう気をつけなよ?」

 

 オウガ達の誂いの言葉に、リュウタも何とか言い返そうとする。

 

「トリケラトプスは草食恐竜だぜ? オレを食うわけないだろ…イタタッ! だからやめろってば!」

 

「ところがそうでもないんだよな。

最近の学説だと、トリケラトプスは草だけじゃなく部分的に肉も食べる雑食性だったんじゃないかという話もあるらしい」

 

 深刻そうな顔のオウガが告げた言葉に、リュウタの顔面は目に見えて真っ青になった。

 …と、すぐオウガはにんまりと笑いながら続ける。

 

「…まあ、食べていたとしても考えられるのはトカゲみたいな一口で食べられるサイズの動物ぐらいだったらしいけどね」

 

「なんだよオウガ…脅かすなよ…。寿命が縮まったぜ…」

 

 引き続きトリケラトプスの相手をするリュウタを尻目に、オウガはレックスとマルムに先程拾ったティラノサウルスのカードを見せる。

 

「ねぇ、2人とも。さっき言いかけてたことなんだけど、実は俺もこの恐竜カードを拾ったんだ。

これも石版に触れさせれば、俺も恐竜を具現化させることができるのかな?」

 

「そうだったのか! どれどれ…うん、確かにリュウタが見つけたカードと似ているね。

もしかしたら、オウガもこれで恐竜を召喚できるようになるかもしれないな」

 

「でも…このカード、『ティラノサウルス・レックス』って書いてあるわよ?

トリケラトプスとは比べ物にならないくらい凶暴な恐竜だと思うし、流石に今出すのはやめておいた方がいいんじゃない?」

 

「ハハハ…流石にそれは分かってるさ」

 

 マルムから釘を刺されたオウガは乾いた笑いで誤魔化しつつ手元のティラノサウルスのカードを見つめていたが、ふとあることに気がついた。

 

(…ん?このカードには、「ティラノサウルス・レックス」と書いてるよな?

さっきリュウタが持ってたカードには、「トリケラトプス・ホリドゥス」とかじゃなく、「トリケラトプス」としか書かれていなかった…。

種小名まで書いてある俺のカードと、書いていないリュウタのカード。

何の違いがあるって言うんだ…?)

 

 

太平洋 アジ島

 

 ここには、ローマのコロッセオをモチーフにした巨大闘技場が存在する。

 中央の決闘場には十数頭、色とりどりのティラノサウルスが互いに威嚇し合っており、そんな彼らへ観客たちは熱い声援を浴びせていた。

 

「ハーッハッハッッハ! これぞ我が泣く子も黙るアクト団の最終目的!恐竜王国のメインスタジアム完成予想図じゃあ!」

 

 頭にVRゴーグルをかけながら高笑いをする、白髪に白髭の老人…彼はアクト団の首領にして天才科学者のDr.ソーノイダ。

 どうやら今までの光景は、彼が作らせたイメージ映像のようだ。

 

「しかしなかなかの完成度じゃ。エド、よくやったぞい」

 

「は、はい! ドクターに喜んでいただけて嬉しいッス!」

 

 側に控えていたのは、太っちょの青年エド。

 パソコン作業が大の得意であり、その腕を買われてアクト団工作員として配置されたのである。

 

「さぁ、次は戦うところを見せるんじゃ!」

 

「えっ? それはまだ作ってないから見せられないッスよ」

 

「何じゃと! それに肝心の恐竜がティラノしかおらんではないか! 他はどうしたんじゃ!

スピノやサイカ、トリケラなんかも見たいぞい!」

 

「そんなこと言われてもうちにいるのはティラノだけだし、今映像化できているのはここまでッスから…」

 

「さてはワシの夢をバカにしておるな!? ワシでは恐竜キングになれないと思っているのだなーっ!?」

 

 癇癪を起こしたソーノイダが年甲斐もなく手足をジタバタとさせて暴れる。どうやらこの老人、見た目によらず子供っぽいところがあるようだ。

 そんな彼を宥めるため、エドが煽ての言葉をかける。

 

「そ、そんなことないッスよ!

ドクターなら絶対に恐竜キングになれるッスよ!」

 

「…!そうぞい! その通りぞい!

ワシは全ての恐竜を支配するキングオブキング! 恐竜キングになるんじゃぞい!」

 

「…恐竜キングって、恐竜の中の恐竜のことを言うんじゃないんスかね…?」

 

「何か言ったかぞい?」

 

「い、いえ…何も…」

 

 うっかり口を滑らせ、ソーノイダに睨まれたエドが何とかその場を誤魔化そうとしたその時だった。

 

 ドオオオオン!

 

「「へっ…?」」

 

ガァァァァァァァッ!!

 

 建造物を破壊しながら2人の眼の前に現れたのは、体長12メートルはあろうかという巨大な肉食恐竜…ティラノサウルスだった。その体は、オウガの持つカードイラストとは違い、全身が炎のような深紅に染まっている。

 そのティラノサウルスが、牙を剥き出しにして2人に襲いかかってくるではないか!

 

「「た、助けてぇーー!」」

 

 すぐさま2人は踵を返し、どこへともなく逃げ出したのであった。

 

 場所は変わってアジ島のビーチ。

 こちらではビーチパラソルの下でアクト団女性工作員・ウサラパがビキニ姿で寛いでいた。

 すぐ脇では、エンピツのようなのっぽで痩せ型の男…同じくアクト団工作員所属のノラッティ〜がアロハシャツの格好でウサラパを羽団扇で涼ませていた。

 どこからどう見ても、女主人と召使いの構図である。

 

 そんな彼らの前を、ティラノサウルスに追われるソーノイダとエドが横切っていく。

 

「だ、誰か〜! ティラノを何とかしてくれーい!」

 

 ティラノから一生懸命逃げ続ける2人を見ている少年少女…ソーノイダの孫・ロトとロアは呆れの表情を浮かべていた。

 そしてロアの手には謎の電子機器が握られている。

 

「やっぱおじい様ったらダメダメね~」

 

「ティラノを調教できないんじゃ、恐竜キングなんてまだまだだな」

 

「誰かー!助けてー!

おっおいティラノ! よせ!ワシを食べても美味しくはないぞい! 

せめてエドにせんか! アイツの脂身はきっと美味しいぞい!」

 

 しまいにはエドを身代わりにしようとする始末であった。呆れたものである。

 そのように追いかけっこしている内に、いつの間にかティラノの体は小さくなり、チビ恐竜の姿となっていた。

 だがソーノイダはその変化に気づかず、ついに疲れて転んでしまう。そこへティラノが飛びつき、彼の顎髭に食らいついた。

 

「助けてー! 食われるっ! イテテテテテッ! やめんかティラノ!」

 

 その光景を見ていたウサラパ、ノラッティ〜、エド達は堪え切れず、クスクスと笑いを漏らしていた。

 

「くっ〜〜! お前ら! 何が可笑しいんじゃぞい!」

 

「べ、別に笑ってなどおりませんわ!」

 

「…ヒッヒヒヒ…クフフッ!」

 

「ノラッティ〜! やめるッスよ!」

 

「だ、だって…仕方ないザンしょ…」

 

「えーい! 何をそんなに笑ってるのだぞい!」

 

「ティラノにお尻を食い破られたんだよ」

 

 ロトの言葉を聞いたソーノイダが自分の尻に手を当てると、なるほど確かにそこだけ白衣とズボンが食い破られていた。

 

「ありゃまー…いつの間に…。こりゃティラノ! 悪い子じゃ!」

 

『グゥ? ギャウ!』

 

 ソーノイダが白衣ごとズボンを破いたことで叱りつけると、ティラノは腹いせに噛みつこうとしてくる。彼がそれを躱してちょっかいを出すと、今度は顎髭を咥え引っ張られてしまった。

 

「あらあら。ティラノったらよっぽどおじい様のお髭が気に入ってるのね〜」

 

「えーい、もうやめろと言っとるじゃろうが…」

 

「やめなさい!」

 

 突然その場に大きく轟く声が響いた。

 見ればこの場には似つかわしくない、割烹着姿の中年女性が立っているではないか。

 彼女の名はタルボーンヌ。実は人間ではなくソーノイダ達に仕える家政婦型アンドロイドなのである。だがこれでは、家政婦というより怖いお母さんのようであった。

 

「ティラノ! ドクターにお痛はやめなさいと何度言えば分かるのです!

ドクターももっとしっかりなさい! なんですかそのお尻は!」

 

「あ、いやこれは…すまん、タルボーンヌ…」

 

「まったく…後で修繕しておきますから脱いでおいてください。

それとロトとロア! 朝から遊んでいる暇があるならお勉強なさい!」

 

「「はーーい…」」

 

「返事は『はい!』で結構です!」

 

「「はい!」」

 

「それと…30分後に朝食です。くれぐれも遅れないように!」

 

「「「は、はいッ! 了解ですッ!」」」

 

 ウサラパ達工作員メンバーも姿勢を正してタルボーンヌの言葉を受け止めた。ようやく騒ぎも収まり、タルボーンヌの姿も消えたところでウサラパが大きなため息をつく。

 

「ハァ〜…何でロボット相手にこんなに緊張しなきゃいけないのよアタシ達…」

 

「わっからないザンス!」

 

 タルボーンヌへの不満を口にするウサラパ達をソーノイダが叱責する。

 

「バッカモーーーン!

タルボーンヌがいないとワシらは満足に飯も食えんのだぞい! 大体何ぞいその格好は! ここはリゾート地じゃないんじゃぞい!」

 

「ドクター、そうは言いますけどぉ〜」

 

「ほら、こんないいお天気ザンしょ?

リゾート気分くらい味わっておきたいザンス!」

 

「なにぃー!? この腑抜けどもがーっ!」

 

 あまりに気の抜けたウサラパ達の言葉にソーノイダが怒っていると、そこへ青髪の男性がやって来た。アクト団研究員のノーピスである。

 

「ドクター、おはようございます」

 

「お、おうノーピスか。マシンの修理はどうなっとるぞい?」

 

「進めてはいますが、部品が足りず修理には限界があります。何処かで調達する必要があるかと…」

 

「お爺ちゃん、この時代じゃ無理かもよ?」

 

「うーむ…部品か…。確かにそれも大事じゃが、世界中に散ってしまったワシの恐竜カードの回収が最優先事項ぞい。…ん?」

 

 ソーノイダはロアの後ろに隠れて大人しくしているティラノを見て全てを察した。

 ロアが先程の機械…「アクトホルダー」を使ってティラノを召喚し、自分にけしかけたのだと。

 

「ロア! お前かぞい! さっきティラノに悪戯したのは!」

 

「えへへ、ごめんなさいおじい様♪」

 

「返しなさい! これはお前達のおもちゃじゃないんじゃぞい!」

 

 そう言いロアからアクトホルダーを取り上げたその時、画面が点滅しているのが目に入ってきた。

 液晶画面には日本列島が映されており、ちょうど関東地方の部分で赤い点が1つ点滅している。

 

「あっ、お爺ちゃん! アクトサーチが反応してる! 恐竜が出現したんだ!」

 

「遂に現れたか! 早速場所の特定と回収に取り掛かるぞい!」

 

 

再び場所は戻って三畳市

 

 トリケラトプスを具現化させたリュウタ達は、リュウタとレックスが住む古代家に戻ると、古代恐竜研究所…通称『Dラボ』の所長でありリュウタの父親でもある古代剣竜博士に自分たちが体験したことを話していた。

 

「…つまり、そのカードと石版でトリケラトプスを召喚できたということなのか?」

 

「うん。ガブは絶対に本物のトリケラトプスだぜ」

 

「…ガブ?」

 

「何でもガブガブ噛むからリュウタがそう名付けたの。もっと可愛い名前が良かったのに…」

 

「まあまあ、安直ではあるがいいじゃないか。ひとまず私にもそのカードと卵型の入れ物を見せてもらえるかな?」

 

 リュウタがカードと卵カプセルを渡すと、古代博士はじっくりと調べ始めた。

 

「うーむ…カードが恐竜に変わるとは…にわかには信じ難い現象だ…。それで、もう1枚のこのカードは?」

 

「ガブのカードと一緒にカプセルに入っていたんです。俺たちじゃ全然見当が付かなくて…。

古代博士は何か分かりますか?」

 

「ぜんぜん分からん!」

 

「何だよ父さん。父さんって恐竜博士だろ? 何でわからないのさ?」

 

「確かに父さんは恐竜に詳しい! なんせ博士号まで取得するほど勉強したからな!

だがしかし! カードが恐竜に変わるなんて現象は一度も聞いたことがない!」

 

「でもガブは成体のトリケラトプスになったんですよ。僕たちがこの目で見たんです」

 

「なっ、何っ!? 成体のトリケラトプス!?

それは一体どこにいるんだ!?」

 

 レックスの言葉に古代博士は飛び上がり、辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「ほら、この石版だよ。この石版を弄ると成体にできたんだよ」

 

「こ、この石版でか?」

 

「うん。脇にチップみたいなのが付いてるでしょ?父さんも試してみてよ」

 

 そう言ってリュウタが石版を差し出し、受け取った古代博士は早速弄るが…全く反応がなかった。

 

「こうか? こうやるのか!? …おいおいリュウタ。何も起きないじゃないか」

 

「あれ? おっかしいな…。さっきはこうやったら…」

 

 一度石版を返してもらったリュウタが石版を弄ると、ガブの体が光に包まれてカードに戻ってしまった。

 

「あっ、しまった。ガブを出さないと…」

 

 慌ててリュウタは石版にカードを当て、うっかり奥から手前へと引いてしまった。

 

「リュウタ! その引き方だと…!」

 

「え?…あっ!」

 

 たちまちカードが光に包まれ、そこから成体の姿となったガブが姿を現す。これには古代博士も驚いて尻もちをついてしまった。

 

「だあああああああっ!?」

 

「リュウタ! 早くガブを戻して!」

 

「お、おう!」

 

 すぐさまリュウタがガブをチビ恐竜の姿に戻し、何とか事無きを得ることができた。

 

『ガブ?』

 

「はぁ…寿命が縮まった気がするよ…。

だが、今のトリケラトプスは間違いなく本物だったな…」

 

 ひとまずカードから本物のトリケラトプスが具現化するという現象は、古代博士も信じてくれたようだ。

 次に、古代博士はオウガの方へと向き直る。

 

「それから…オウガ君。君も恐竜カードを見つけたんだね?」

 

「は、はい! 古代博士! これなんですが…」

 

 そう言ってオウガが差し出したティラノサウルスのカードを、古代博士はしげしげと眺めた。

 

「うむ…これもさっきのトリケラトプスと概ね同じもののように見えるが…1つ違いがあるな」

 

「違い? それって何なんですか博士?」

 

 マルムが尋ねると、古代博士は大きく頷いて続けた。

 

「君たちは、『種小名』というものを知っているかい?」

 

「種小名…学名で属名のあとに続く生き物の名前のことですよね?同属亜種を区別するためのものだとか…」

 

 すぐさまレックスがそう答えると、古代博士も大きく頷く。

 

「正解だ、レックス君。生き物の学名には必ず種小名が付いているんだよ。

例えば、パラサウロロフスなら『ワルケリ』、ステゴサウルスなら『ステノプス』、カルノタウルスなら『サストレイ』といった具合にね。

そしてティラノサウルスの場合、このカードにも記載があるように『レックス』が種小名なんだ。最近までティラノサウルスはこの1種だけだったんだが…」

 

「最近7200万年前の地層から見つかったティラノサウルスの新種が、『ティラノサウルス・マクレイエンシス』って名付けられたんですよね!」

 

「さすがはオウガ君。ティラノサウルスのこととなると耳が早いな。その通りだ。

…それで話を戻すが、オウガ君が手に入れたこのカードには種小名まで記載されているのに対して、リュウタのカードには種小名までは記載されていない。

そして…背景にはどこのものかは分からないが廃墟が写っているようだ。どう見てもティラノの生息時代である白亜紀には似つかわしくない。

一体このカードを手がけたデザイナーは、何を考えてこんな背景にしたんだろうな…?」

 

 そう、それこそがオウガも同じく抱いていた疑問だった。

 恐竜をはじめとする有史前の生物が生きていた時代とあまりにもそぐわない背景なのは、一体なぜなのだろうか?

 

「なぁ、オウガのティラノサウルスももしかしたら具現化できるんじゃないか?

オレの石版貸すからやってみてくれよ!」

 

「正気なのリュウタ! ここでティラノサウルスなんて召喚したらどうなっちゃうかくらい分かるでしょ!」

 

「ガブみたいにチビ恐竜で出せば大丈夫だって!

ほら! オレもティラノが出てくるところ見てみたいからさ!」

 

「分かった。やってみる」

 

 体中から湧き上がる興奮を抑えながらゆっくりと、カードを手前から奥へ石版の上をスライドさせていく。

 

 しかし…カードは何も反応しなかった。

 

「あ…あれ…? 反応しない…?」

 

「父さんがさっきやってもダメだったみたいだし、オレがやらないとダメなのかな?

オウガ、ちょっとカード借りるぜ!」

 

 今度はリュウタがやってみるが…またしても反応がない。

 

「変だな〜…。何でカードが反応しないんだろ?」

 

 首を傾げるリュウタからカードを返してもらったオウガだが、内心は嵐のように荒れていた。

 どうして自分のカードはティラノサウルスにならないんだろう?

 もしかすると、リュウタのガブとは違って本当にただのカードなのだろうか…?

 だとするならば、自分は本物のティラノサウルスに会うことができないのだろうか…。

 

「と…とにかく! これは歴史的発見だぞ!

いいかみんな! これは父さんとお前たちだけの秘密だ! もしこんなことが世に知れたら、それこそ大変なことになる…いいな?」

 

「う、うん。分かったよ父さん」

 

 これは当然の判断と言えるだろう。

 もし現在でも恐竜が生き残っているとなれば、世界を巻き込んだ大騒動に繋がりかねない。それを防ぐためには自分達がこのことを秘匿し続けなければいけない。

 荒れる心を抑えつつ、オウガは内心でそう考えていた。

 

 その時窓が開き、リュウタの母親である亜紀が顔を出した。

 

「みんな〜、ご飯よ〜…あら? マルムちゃんとオウガくんもいたのね」

 

「「お、おはようございます…」」

 

 オウガたちの姿を眺めていた亜紀だったが、やがてリュウタの足元にいるガブを見つけた。

 

「あら、その子は…」

 

「あっ、母さん…これは…その…」

 

「可愛い犬ね〜」

 

「え…犬…?」

 

 思わずDキッズと古代博士の目が点になった。

 なんと亜紀はガブを犬だと勘違いしたようだ。

 

「リュウタ、その犬どうしたの?」

 

「あー、えっとだな…そう! リュウタが拾ってきたんだよ! 可哀想だし家で飼ってやろうかと話をしていてな…いいだろ?」

 

「いいんじゃないかしら? リュウタがちゃんとお世話できればだけど」

 

「…リュウタのお母さんってもしかして結構天然だったりするのか?」

 

 オウガがこっそりマルムに尋ねると、マルムも声を潜めて返す。

 

「前からアタシはそう思ってたけど…ここまでとは思わなかったわ…。

まあまさか恐竜だとは思わないでしょうし、無理もないかもしれないけど…」

 

「それじゃあご飯にしましょうか! 良ければマルムちゃんとオウガくんも食べていく?」

 

「はっ、はい! 是非そうさせてもらいます!」

 

「俺もそうさせてもらいます! でも先に電話を借りても大丈夫ですか? 家に一言は入れておきたいので…」

 

「勿論構わないわよ。ほらみんな上がって」

 

 亜紀が窓を閉じたのを見て、Dキッズと古代博士も玄関へと向かうことにした。

 

「父さん。母さんにもガブのことは内緒にしておくの?」

 

「ああ。しばらくはな。母さんを混乱させるわけにはいかないだろう?」

 

 

 その頃 太平洋 アジ島

 

 ここではアクトサーチに引っかかった場所の特定の真っ最中だった。

 

「ドクター! 特定が完了しました!

場所は日本国三畳市! ここから北に1500の場所です!」

 

「よくやったぞいノーピス!

さあこの時代での我が泣く子も黙るアクト団の最初の作戦ぞい!

ウサラパ! エド! ノラッティ〜! 泣く子も黙るアクト恐竜第1号ティラノを連れ、恐竜捕獲に出撃ぞい!」

 

「お任せあれ♪」

 

「り、了解ッス!」

 

「了解ザンス〜ッ!」

 

 アクト団工作員の3人はさっそく潜水艦に乗り込み、日本に向けて出撃したのであった…。

 

 




今回はここまでです。
感想・批評、いつでもお待ちしております。
提案されたものでも、自分がいいと感じたものは積極的に取り入れていきたいと考えております。

第6話に登場させるJP・JW恐竜について考えています。以下の恐竜ならどれを登場させるのがよいか、または登場させてほしいか、是非皆様のお考えをお聞かせ下さい。

  • ディロフォサウルス
  • パラサウロロフス・ワルケリ
  • スティギモロク(お助け恐竜)
  • ディメトロドン(お助け恐竜)
  • メトリアカントサウルス
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