古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は、Part3になります。
これで、『行くぞ!恐竜島!』にあたる時系列の話は書き切った形となります。
では、今回も最後までお楽しみ下さい。

※警告:カロリディーの発言を不快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、そういうキャラ設定にしておりますので、どうかご容赦下さい。
ちなみに私はティラノサウルスは勿論ですが、ギガノトサウルスも好きよりの恐竜です。


Part.3

技カード実験用コロシアム

 

 突如カロリディーが口にした発言がどういう意味なのか分からず、オウガは思わずオウム返しで答えてしまった。

 

「暴れるトカゲ…?」

 

「おや、分かりませんか? 貴方が大好きなティラノサウルスのことですよ。まったく…ティラノサウルスなんて恐竜はただ知名度が高いだけで中身の伴っていない、最低の恐竜ですよ。

本当に強く魅力的な恐竜であるギガノトサウルスのことを知れば、あっという間に忘れられる程度の価値しかないのです」

 

「…言っている意味が分からないんですけど…」

 

「おや、そうですか。無学とは可哀想なことですね。

私のように「正しい」知識を身に着けていれば今言ったことが絶対的な真実であると分かるでしょうに…」

 

 そう言ってわざとらしくかぶりを振るカロリディーに、オウガは内心腹立たしさを覚えていた。

 しかし、今はこんなことをしている暇はない。早くリュウタ達と合流しなければ。

 

「…あなたがそう思ってるならそう思っていればいいんじゃないですか。俺は先を急ぎます。友人達と合流しなければいけないので」

 

 そう言ってオウガがカロリディーの横をすり抜けていこうとした時、カロリディーに呼び止められた。

 

「まあお待ち下さい。ご友人を探しているというのなら…これを見逃すことはできないのでは?」

 

 そう言い、カロリディーがコロシアムの隅の方…そこにいるノーピスに目配せを送る。それに応じたノーピスは手元のパソコンをカタカタと操作した。

 すると天井の2箇所が開き、そこから2枚のモニターが出てきたのである。そしてそこに映されたのは、リュウタやレックス、マルム達の現状だった。

 リュウタはガブとイナズマの2体でインドミナス・レックスと戦っており、レックスとマルムはインドラプトルの監視の下アクトロイド達に捕縛されていた。

 

「リュウタ! レックス! マルムも!」

 

 オウガが画面に釘付けになっている間に、カロリディーは耳元のインカムを起動した。しかも、わざわざスピーカーを付けて、である。

 

「私だ。子供らは確保できたか?」

 

『私の方では金髪の少年と桃髪の少女の2人、そして彼らの恐竜を確保した。何も問題はない』

 

『おれは今ツンツン頭のガキの恐竜2体と交戦してるところだ。わざわざ通信を入れていたってことは…そっちもあのクソガキを誘い込んだんだな?』

 

「そうだ。今から私の恐竜で叩きのめす。お前も早く終わらせておけ」

 

『へいへい…。じゃあそうさせてもらうぜ』

 

 ジェイソンがその言葉を口にした時、オウガが見ているモニターでは、今まさに彼が技カードを発動させようとしているところだった。

 

 

右の部屋

 

「…と、いうわけなんでな。悪いが一気に決めさせてもらうぜ。…『不可視凶爪(インビジブルクロー)』ッ!」

 

 ジェイソンが技カードをアンバーに押し当てて発動させると、インドミナス・レックスの体が虹色の光に包まれ、高らかに咆哮を上げた。

…しかし、何故かインドミナスは攻撃しようとはして来ない。

 

「…何だ? 技が失敗したのか? それなら今がチャンスだ! いっけーガブ!」

 

 無防備なインドミナスにガブが突進していく。そしてそのまま突き飛ばしたのだが…インドミナス・レックスの体が転がっていくうちに周りの風景に溶け込んでいく。

 

「なっ…! あの恐竜ってまさか、あの時のカルノタウルスみたいなやつなのか!?」

 

 だが気付いてももう遅い。もう完全にインドミナスの姿は見えなくなってしまっていた。リュウタがいくら必死に目を凝らしても、どこにいるのかは分からなかった。

 

「ど…どこだ!? どこに行ったんだ!?」

 

 必死に周りを探すリュウタ達。しかし既にインドミナスはガブの背後へ回り込んでいたのだ。そして見せしめのためか、振り上げた両腕だけ保護色を解いて本来の色を曝け出した。

 しかしリュウタは勿論、ガブも気づいていない!

 そのまま両腕に備わる鋭い爪が振り下ろされ…イナズマの体を切り裂いた。

 そう。イナズマだけがインドミナスの腕に気づき、無二の友人であるガブを救うために割り込んだのだ。イナズマが倒れ伏し、その体がカードへと変わっていく。

 

「い…イナズマ! イナズマ! 大丈夫か!?」

 

 すぐにイナズマのカードを回収しようとリュウタが駆け寄るが、そんな彼の目の前にインドミナスが立ち塞がる。

 邪魔をするなと言わんばかりにガブも突進していくものの、2度も突進を受けるほどインドミナスは愚かではない。むしろ賢さは使用されたゲノムの1つであるヴェロキラプトルをも上回るほど高いのである。今度は器用にガブの片角に食らいつき、放り投げた。

 ガブは壁に叩きつけられて床へずり落ちる。それでも何とか立ち上がろうと足を踏ん張るものの、崩れ落ちてカードへと戻っていってしまった。

 

「ウソだろ…。ガブまで…」

 

「ま、こんなもんだろ。…おいウサラパ!

さっさのこのガキをふん縛ってドクターのとこへ連れて行ったらどうだ?」

 

 それまで呆気に取られていたウサラパだったが、その言葉で我に返り、アクトロイドに指示を飛ばす。

 

「あ、アクトロイド共! さっさとそのガキンチョを捕まえて縛り上げるんだよ!」

 

「トロイド! トロイド! トロイド!」

 

「踏み荒らしてカードを見失わないようにしてねー」

 

 ウサラパとロトから指示を飛ばされ、アクトロイドがリュウタに掴みかかっていく。

 

「く、くそっ! 離せ! 離せよ!」

 

 リュウタは必死に抵抗するものの、多勢に無勢。アクトロイド達によって拘束されてしまった上に、ガブとイナズマのカードはアクト団の手に渡ってしまったのだった。

 

 

技カード実験用コロシアム

 

「そんな…みんなが…」

 

 オウガは愕然としていた。リュウタ達3人があのインドミナスコンビに敗れ、アクト団に拘束されてしまっていたからだ。周囲に展開されていたバトルフィールドも霧散し、消え去っていく。

 そんな彼へ、カロリディーが冷たく告げた。

 

「彼らを助けたいのであれば、貴方のティラノサウルスで私の恐竜と戦いなさい。

勝てるかどうかは保証できかねますがね。

…それとも友を見捨て、尻尾を巻いて逃げますか?」

 

 ここまで挑発され、更にはリュウタ達を人質にされても黙っているオウガではない。相手…カロリディーの素性は分からないものの、この勝負に乗るしかないと判断した。

 

「…分かりました。俺が勝てばリュウタ達は解放してもらえるんですか?」

 

「そうするようDr.ソーノイダに便宜は図りましょう。

…それでは、位置について下さい」

 

 カロリディーに言われるままに、オウガはコロシアムの反対方向へと歩いていく。そんな中でも、彼の心は不安でいっぱいになっていた。

 勿論リュウタ達を助けられるかどうかという不安が1番大きかったが、それだけではない。

 

(レクシィは…彼女は俺の求めに応じて成体化してくるんだろうか…)

 

 そんな一抹の不安を抱えていたのである。とは言えここまで来てしまったからには、何とかしてレクシィに戦ってもらわなければならない。

 

「…レクシィ。俺はリュウタ達…かけがえのない友達を助けたいんだ。どうか力を貸してくれ」

 

 側に立つレクシィにそう話しかけたが、レクシィはあまり反応を返さなかった。無視している…というよりは、何か考え込んでいるようだと、オウガはその時初めて気が付いた。

 

「レクシィ…? もしかして君は…」

 

「どうしました? 早くしていただけませんかね?」

 

 殆ど時間も過ぎていないはずなのにカロリディーが催促してくる。案外気は短い方なのだろうか。

 苛立つ気持ちを抑えながらも、オウガはレクシィをカードに戻してディノラウザーにスキャンした。

 

「…そんなに見たいなら今から見せますよ!

ディノスラーッシュ!

燃え上がれ! ティラノサウルス・レックス!」

 

ゴガアァァァァァァッ!!

 

 すると、チビ形態のレクシィが赤い光と炎に包まれ、成体の姿へと変化してフィールドに降り立った。

 

「レクシィ…! 俺の声に応えてくれたのか…!」

 

 オウガがキラキラとした目でレクシィを見つめながらそう言う。しかしレクシィはチラリと彼を横目で見ただけで、すぐ視線を戻してしまった。

 そして、そんなレクシィを目にしたカロリディーは、またあの醜悪な笑みを浮かべる。

 

「ほう、そのティラノサウルスが…。

想定よりも強力な個体のようですが、そんなもので私の恐竜に勝てるとは思わないことです。

…さあ、出でよ!漆黒の夜翔覇王・ジョーカーッ!

 

グアァァァァァッ!!

 

 その叫びと共にカロリディーが指輪のアンバーに恐竜カードを押し当てると、彼の周囲を炎と赤い光が渦巻き始めた。そしてその中から姿を現したのは、実に奇怪な恐竜だった。

 頭の形はカルカロドントサウルス等に似ているものの、かなり先細りした形状だ。

 そして、尻尾はかなり長い。大型獣脚類の中でもここまでアンバランスなほど尻尾が長い恐竜を、オウガは見たことがなかった。

 そして何より目を引くのは、背中の突起だ。緩やかに盛り上がっている背中は、まるで白亜紀前期北アメリカの支配者アクロカントサウルスのように見える。

 更にその体格はとんでもなく大きい。軽く見積もっても全長15メートルはあるだろう。レクシィと向かい合っても遜色ない、むしろ彼女よりも大きいのではないかと思ってしまうほどだ。

 だが、オウガは知っている。ここまでの条件に合致するような恐竜など自分は知らない。

 

「…困惑しているようですね。さしずめジョーカーの種族が分からないといったところですか」

 

「正直に言えば、そうです。こんな恐竜、俺は今まで見たことがない…。この恐竜は、一体何なんですか…?」

 

「では教えてあげましょう。ジョーカーの種族は…

ギガノトサウルス・カロリニィですよ」

 

 その言葉に、オウガは衝撃を受けた。

 ギガノトサウルス…ギガノトサウルスだって!?

 そんなはずはない。この恐竜のシルエットや特徴はどれも現在化石標本から知られるギガノトサウルス像から大きくかけ離れているではないか。

 口には出さないものの困惑しているオウガの様子を感じ取ったのか、カロリディーは更に続けた。

 

「どうやら不思議に感じているようですね? ですがそれも無理からぬこと。貴方は「正しい」ギガノトサウルスの姿を知らなかったのですから」

 

「…?」

 

「今のギガノトサウルス像は、ティラノ狂信者の愚かな学者によって歪められたものなのです。

それを修正し、「正しい」姿にして世界へ発信することこそが、私共『Sin-D』の使命であり、活動目的でもあるのです」

 

「????????」

 

 オウガの脳内が?マークで埋め尽くされる。

 この男は何を言っているのだろう。きちんとギガノトサウルスの姿は化石証拠で明らかになっている。

 断片化石しかなく存在すら危ぶまれる恐竜も多数いるが、ギガノトサウルスはそうではないのだ。むしろ全身の70%以上が残った化石標本も見つかっているし(ギガノトサウルスの姿を認識できる化石はそれだけなのだが)、これ以上何を明らかにしようと言うのだろうか。

 

「…どうやらこれ以上は話しても貴方には理解できないようですね。ならば本物のギガノトサウルスというものを直に味わっていただくしかないようだ。

…行きなさい、ジョーカー。その暴れるトカゲを叩きのめすのです」

 

 カロリディーの指示を受け、ジョーカーがおどろおどろしい雄叫びを上げてレクシィへ突進していく。

 

「こっちも迎え撃つぞレクシィ! 君の力を見せつけてやるんだ!」

 

 オウガがそう呼びかけると、レクシィも低く唸ってジョーカーへ突進していった。

 

 それからレクシィとジョーカーの戦いが始まった。

 どうやらカロリディーの見積もりではジョーカーがレクシィを圧倒すると見ていたようだが、戦況はほぼ五分五分、若干ジョーカーが優勢といったところである。

 一方でオウガも戦況を慎重に見ていたが、レクシィがジョーカーに食らいついてもあまりダメージを受けていなさそうなところに着目した。

 

「ジョーカーもインドミナス・レックスと同じような体構造に改造してるのかな? レクシィの噛みつきでもあまりダメージが入っているように見えないけど…」

 

 そのオウガの言葉を聞き取ったのか、カロリディーが講釈を垂れはじめる。

 

「ククク…確かにギガノトサウルスの咬合力はティラノサウルスのそれには及びません。

何せギガノトサウルスは1〜2トンの見積もりに対し、ティラノサウルスは3トンですからね」

 

「え? ティラノサウルスの3トンって予測されてる中での最低値ですよね?予測の幅は3〜8トン、それに1番有力なのは5トン前後のはずじゃ…」

 

「そんなはずはありません。

「正しい」学説に従えばティラノサウルスの咬合力は3トンで確定なのです」

 

「無茶苦茶だ…」

 

 呆れ顔になるオウガを気にすることなく、「続けて」とカロリディーは言葉を続ける。

 

「そして確かに咬合力ではギガノトサウルスはティラノサウルスに敵いません。

ですが、逆に言えばそれだけです。それ以外の面ではギガノトサウルスが勝っていますし、何よりギガノトサウルスは防御力が高いのでティラノサウルスの噛みつきも何てことはありません」

 

「…ん? 防御力? 防御力ってなんですか?

アンキロサウルスの装甲板やトリケラトプスのフリルや角みたいな防御機能を備えているということですか?

でもギガノトサウルスの化石にそんな痕跡は…」

 

「ありません。しかしギガノトサウルスは骨密度が高く骨が丈夫なので防御力が高いのです。

スカスカ骨のティラノサウルスとは違って…」

 

「??????????????????」

 

 ますます理解不能だ。

 恐らくカロリディーが言う「スカスカ骨」とは含気骨のことだろう。しかしそれはティラノサウルスだけの特徴という訳ではない。他の進化的な大型獣脚類、勿論ギガノトサウルスにも含気骨は見られたはずだ。

 そもそも防御力って一体何なんだ。何でいきなりそんなゲームのパラメータみたいなものを持ち出してきたんだ。

 しかしレクシィの牙が通りにくい辺りからも、何かしらの防衛機能を備えていることは間違いなさそうだ。背中を覆っているワニのような粗く硬そうな鱗がそれに当たるのだろうか…?

 

 

 その頃、ジェイソンはウサラパやロトと共にリュウタをソーノイダのところへ護送しようとしているところだった。

 そこでオウガとカロリディーの会話をインカムを通じて聞いていたジェイソンは、低い笑い声をあげていた。

 

「クックック…。あのクソガキ、ドジスンの奴が何を言ってるのか分からねぇだろうな…。

…まあ、おれも分かんねぇんだがな」

 

 

戻って技カード実験用コロシアム

 

 ここではまだレクシィとジョーカーの戦いが続いていた。

 両者とも一歩も引く様子はなく、いつまでもジョーカーが仕留めきれていないことにカロリディーは苛立っている様子だ。

 やがて互いの振るった尻尾がぶつかり合い、レクシィとジョーカーの両方が大きく後退する。

 そこでカロリディーの感情が爆発した。

 

「ええい! 不甲斐ない真似をするなジョーカー! いつまで手こずっている!そんな暴れるトカゲごとき、お前の敵ではないはずだろうが!

…仕方がない。どうやら技を使うしかないようですね」

 

 丁寧に取り繕ったのであろうカロリディーの口調がついに崩れ、ジョーカーへ口汚い言葉を浴びせる。そして懐からあの金属の小箱を取り出すと、中から技カードを手に取った。

 

「いい余興にはなりましたよ。ですがもうここまでです。滅びなさい。…終焉冥火(エンドオブバーン)

 

 カロリディーが指輪のアンバーへ技カードを押し当てると、ジョーカーの体が赤い光と黒い炎に包まれる。そしてジョーカーは口に黒い炎を溜め込み…そしてレクシィへ向けて吐き出した。

 すると吐き出された炎はレクシィの体を取り巻き、纏わりついた。レクシィも体を震わせるも、炎は一向に剥がれ落ちない。

 

「レクシィ、大丈夫か!?…何なんだこの炎は…」

 

 オウガも初めて目にする炎属性の技を前に、困惑を隠せない様子だ。そんな彼の様子を見たカロリディーは何度目になるか分からないがまたあの醜悪な笑みを浮かべ、高々に宣言した。

 

「チェックメイトだ…!」

 

 その言葉と共にジョーカーが素早く走り出し、その長い尻尾を活かしてレクシィに一撃を加えた。

 その瞬間。

 レクシィの体に纏わりついていた炎が一斉に炸裂し、轟音と爆炎が巻き起こったのである。レクシィは悲鳴を上げる猶予もなかったようだった。

 そして燃え盛る黒い炎の中、レクシィの体がぐらりと揺れたかと思うと床に倒れ伏し、その体がカードへと戻っていく。そしてカードは、呆然と立ち尽くすオウガの手元へと自動的に戻っていったのだった。

 

「れ…レク…シィ…? そんな…レクシィが…負けるなんて…」

 

 オウガはカードをしっかりと持ち直してみるものの、いつも感じていたような鼓動や温もりが感じられない。

 もしかすると、レクシィは…今の攻撃で…。

 

(…いや、そんなはずはない。ただ力尽きてカードに戻っただけだ。今までそんな場面は何度も見てきたじゃないか。だからレクシィも大丈夫なはず…)

 

 それでもオウガは不安と動揺といった感情がごちゃまぜとなって湧き上がるのを堪えるので精一杯だった。

 一方でカロリディーは興奮を落ち着けるためか深呼吸をした後、またあの笑顔を浮かべた。

 

「ふう…ふう…。少し遊び過ぎましたかね。

どうせこうなるのであればさっさと『終焉冥火(エンドオブバーン)』を使うべきだったかもしれません…。

とは言え、これでティラノサウルスなどギガノトサウルスの足元にも及ばない弱小恐竜だということが証明できたという訳です」

 

「弱小…? 弱小だって…? ふざけるのもいい加減にしてくれよ! そもそもさっきからずっと根拠のない訳の分からないことばっかり話してて…。

それに決着がついたのは技カードじゃないか!それをギガノトサウルスの力だって言い張るのは暴論が過ぎるよ!」

 

 カロリディーの言葉に感情の限界を迎えたオウガが、見開いた目から大粒の涙をボロボロとこぼしながら反論する。

 しかしカロリディーは余裕のある笑みを崩そうとせず、言葉を続けた。

 

「だから何です? どんな手段であれ最終的には勝った方が正義であり、勝った方が歴史になるのです。ただそれだけの話ですよ…。

…では、早速貴方を捕らえてDr.ソーノイダに引き渡さなければ。

そうそう、ついでと言っては何ですが、貴方のジュラシック・アンバーをいただくとしましょうか…」

 

 そしてカロリディーがゆっくりとオウガの方へ歩いてくる。

 このままではアンバーを奪われてしまう。そうなればもうレクシィと会えなくなってしまう。会えなくなるにしても、彼女のことをよく知ることもできてないのは勿論、別れの言葉すら言えていないのに…。

 …何とか、ここから逃げなくては。

 しかし正面にはギガノトサウルスが立ちはだかっており、後ろの扉には鍵がかけられている。

 どこにも、逃げ場はなかった。

 

 

 そして、ソーノイダもその様子をアクトホルダーの画面で確認していた。

 

「ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!これで遂にガキンチョを全員撃破することに成功したぞい!」

 

 その言葉に、レックスとマルムが反応する。

 

「何だって…?」

 

「オウガ! 早くそこから逃げて!」

 

「無駄じゃ無駄じゃ! こっちの声は向こうには届かないぞい!

ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!!」

 

2人をバカにしたように言うと、またソーノイダは高笑いをしたのだった。

 

 

技カード実験用コロシアム

 

『キュー、キュー』

 

 どう考えても脱出経路がないことを実感し、項垂れるオウガはアメジストが自分の服の裾を引っ張っていることに気が付いた。

 

「アメジスト、ごめんね…。

俺がもっとレクシィのことを分かってあげていれば、君とも別れずに済んだのに…」

 

『キュッ! キューッ!』

 

「…どうしたの? もしかして…ここから逃げる道があるの…?」

 

 オウガがアメジストにそう尋ねると、アメジストは首を大きく縦に振った。それからディノラウザーを軽く咥え、1枚の技カードを引き出す。

 

「これで成体化させてほしい、ってことなんだね…。

それにこのカードは…分かった。君の考えに乗るよ」

 

 アメジストにそう囁くとオウガは目の涙を拭い、力強く立ち上がった。

 

「おや、どうしました? まさかこの期に及んで、まだ抵抗するのですか?」

 

「…そうですよ。俺はここで止まる訳にはいかない!

だってまだ俺はレクシィのことを何も知れていない!

まだレクシィやアメジストと一緒に過ごしていたい!

だから俺は絶対に…ここであんたには捕まらない!」

 

「減らず口を…。ならばどうするのです?

そこのか弱い草食恐竜でジョーカーを倒すとでも言うのですか?」

 

「どうするのか…すぐに見せてやりますよ!

ディノスラーッシュ! 揺るがせ! ステゴサウルス!」

 

ケエェェェェェ…!!

 

 その言葉と同時にオウガはアメジストのカードをディノラウザーにスキャンし、アメジストを成体化させる。アメジストが降り立つと、レクシィが倒されて解除されたバトルフィールドが再度展開されていった。

 …と、それと同時にオウガはアメジストの腹へと潜り込んだ。

 

「!? な…何を…?」

 

「頼んだぞアメジスト! 『土竜突撃(ビッグモールアタック)』!」

 

 すぐさまオウガは技カードを…先程アメジストに渡されたものだ…をスキャンした。するとアメジストの体を紫色の光と紫結晶の欠片が渦巻き始めたかと思うと…アメジストはオウガごと体を丸め、グルグルと前転がりで地面へと潜っていった。

 突然の行動と巻き起こった土煙にカロリディーは怯むものの、すぐに土煙を払いながら潜ったところを確認する。そこに穴はなく、アメジストが掘り返した土砂で埋まっていた。

 そしてそれから数分待ったものの、オウガもアメジストも現れない。その上いつの間にかバトルフィールドも解除されている。

土竜突撃(ビッグモールアタック)』でどこかへ逃げたのだ。

 

「おのれ小癪な…どこへ逃げた!?

…おい! ホスキンス! ミルズ! 応答しろ!」

 

 とにかく部下やアクト団達にこのことを知らせなければならない。そう考えたカロリディーはすぐにジョーカーをカードに戻し、インカムで部下との通話を試みたのだった。

 

 

その頃 どこかの収納スペースの中

 

「ハァ…ハァ…。何とか…奴らの誰にも見つからずにここへ逃げ込めた…」

 

 先ほど4人で隠れた収納スペースの中へ、オウガは戻ってきていた。

 アメジストの『土竜突撃(ビッグモールアタック)』でここの前の通路に出た後、アメジストをカードへ戻し、この収納スペースに潜り込んだのである。

 地面の中を通ってきたので服は土埃まみれになってしまっていたが、そんなことを気にするほどオウガに心理的余裕はなかった。それ以上に気がかりなことがあるからだ。

 身の回りに危険がないことを確認してから、オウガはディノラウザーからレクシィのカードを取り出し、じっと見つめた。

 

(レクシィ…本当に大丈夫なのかな…?

もし…もしさっきので死んじゃってたら…もう一緒に過ごせなくなっちゃったら…)

 

 そう考えているうちに、オウガの目にまた涙が溜まっていく。その涙がまた溢れそうになった、その時だった。

 

『随分手酷くやられたのう…』

 

 ディノラウザーから声が聞こえてきた。声の主は今更言うこともないだろうが、ジュラシック・アンバー【伝説(レジェンド)】である。

 

「…【伝説】さん…。レクシィは…大丈夫なんでしょうか…。このままもうカードから出てきてくれないんじゃないかと思うと…俺…心配で…」

 

『それは安心してくれてよい。レクシィは死んではおらん。ただ大きなダメージを受けたからのう…。そのダメージが大方回復するまでは出てこれんじゃろう』

 

「そうなんですね…。それで、【伝説】さんは何をしに今回話しかけてくれているんですか?

…もしかしたら、レクシィを導けなかった俺との契約を解除するためですか…?」

 

 オウガがそう聞くと、【伝説】はしばらく沈黙してから、言葉を続けた。

 

『…もし君がそう思っているのなら、それは大きな勘違いじゃ。むしろ今だからこそできないことを、君に提案しに来たのじゃよ』

 

「…今だから?」

 

『そうじゃ。レクシィがダウンしている今ならば、わしの力で彼女の記憶を覗くことができる。

そうすれば、レクシィのことを知りたいという君の悲願を果たすことができるじゃろう』

 

「ほ、本当ですか!?

…でも、いいんでしょうか? レクシィに断りなく彼女の記憶を覗いちゃったりして…」

 

『レクシィを理解したいと言うのではあれば、この記憶は彼女のパートナーである君が見なければならないものじゃ。きちんと自分の目で全てを見て、その上で彼女を理解せねばならん。

そうでなければレクシィと分かり合うことは勿論…あの異形の恐竜に勝つことはできんぞ』

 

「わ、分かりました。そこまで言うのでしたら、俺も覚悟を決めます。

【伝説】さん。どうかレクシィの記憶を見せて下さい!」

 

『うむ、よくぞ言った。

では、まずレクシィのカードを両手で胸元にあて…それから目を閉じて心を鎮め、全ての思考を胸のカードに集中させるのじゃ』

 

 オウガは【伝説】の言う通り、レクシィのカードを胸元に当てて目を閉じ、神経を集中させた。しばらくすると、瞼の裏が琥珀色に光輝き始めたではないか。

 そのまま神経を集中し続けると、琥珀色の光が収まり、今度は視界が白くなっていく…。

 

『うむ、どうやら無事にレクシィの記憶の中へ入り込むことができたようじゃな。もう目を開けてもよいぞ』

 

 【伝説】の指示通り目を開くと、そこは一面が白い空間だった。部屋から床まで全て白だ。どうやら無菌室のような場所らしい。

 

「【伝説】さん…。ここは…?」

 

『ここは…1988年、コスタリカ沖にある5死列島の1つ・ソルナ島に建設されたInGen社の研究施設『拠点(サイト)B』。

言うなれば、恐竜生産工場のようなところじゃ。レクシィはここで生まれたのじゃよ』

 

 その時、すぐそばにあった孵卵器の中…そのうち1つの卵からコツコツと小さな音が聞こえてきた。もう間もなくこの卵が孵るらしい。

 

「まさか…この卵が…?」

 

『さよう。この卵から孵ったのが、レクシィじゃ』

 

 すると、急に周囲の様子が慌ただしくなり、部屋のドアが開くとそこから1人の老人が入ってきた。白髪に白髭と見た目はまさしく老人のそれだが、その顔はまるで少年のように無邪気で明るい。

 

『…あの老人は、当時のInGen社社長のジョン・ハモンド。卵が孵りそうだと聞いて飛んできたのじゃろう』

 

「どうしてなんですか?」

 

『前にも言ったが彼は愚かな男でな。恐竜が鳥類に近いのならば生まれたばかりの個体に刷り込みを行えば恐竜達の親になることができると思いこんでおったのじゃよ。だが結果はどうだったかと言えば…』

 

「すみません、【伝説】さん。少し声のトーンを落としていただけますか?

今…誰かの声が聞こえたような気がして…」

 

『おや? 誰か…とは?』

 

「分かりません。少なくとも俺達じゃないことは確かです。でも…この声には聞き覚えが…」

 

 そうして集中して聞いているうちに、オウガは目を見開いた。声の正体に気が付いたのだ。

 

「思い出した…! この声は…レクシィの声だ…!」

 

 そんな彼の目の前では、卵の亀裂が広がり、今まさにレクシィが生まれようとしているところだった。

 

 




今回はここまでです。
ちなみにカロリディーの言っていることには元ネタとなったとある人物の発言があります。ジョーカーの肩書『漆黒の夜翔』というものも彼の発言から取りました。
この後の幕間の話では、レクシィの独白といった形で彼女の人生について書かせていただきます。
幕間の話は、初代『ジュラシック・パーク』や『ジュラシック・ワールド』3部作を視聴していただくとより楽しめるかもしれません。
では、次回『幕間:レクシィ、その生涯』でお会いしましょう。

追記:ジョーカー/ギガノトサウルス、『終焉冥火』、『不可視凶爪』の解説を設定集に追記しました。

追記2:一部記述を削除しました。削除した分は『風雲アクトアイランド!』後半部分で再度使用するつもりです。
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