古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
流れとしては、オウガが見るレクシィの記憶を、彼女の独白によって表現する形となっております。
尚、レクシィの生涯については自分の独自解釈が混じっている部分もあるのでその点ご注意の上閲覧をお願い致します。
私が生まれたのは、青い空や白い雲などどこにもない、白く無機質な部屋の中だった。
卵から顔を出した私の前に初めて姿を見せたのは、白髪と白髭のニンゲンだった。その後に見た他のニンゲンはもっと溌剌とした姿をしていたので、あのニンゲンは相当年老いていたのだろう。
その男が何やら私に囁いていたようだが、それは当時私には分からなかった。恐竜の私に人間の言葉が分からないのは当然である。
後に人間の言葉が大方理解できるようになった時、あの時その老人は、自身が私の父親だと言っていたのだということを初めて知った。
アイツが私の父親だと?そんなはずはない。アイツは私のように鱗もなければ鋭い牙もないじゃないか。それに匂いも全然違った。私たちの種族は嗅覚が特に優れていることも知らなかったようだ。
そう簡単に私を騙し通せると思ったら、大間違いだ。
私がニンゲンという種族を軽蔑し始めたのは、思えばこの時からだった。
それからというもの、私はニンゲン共から餌を与えられ、育てられてきた。最初は何かの屍肉を、数年ほど過ごして身体も大きくなってくると毛むくじゃらの四足の生き物を餌として与えられた。
いつも食べられるのは決まった時間に決まった量だけ。お腹はいっぱいになるがそれだけの生活。それ以外は何もできない。
例えば、自分の足で広い大地を駆けて獲物を捕まえることも、自由に世界を歩き回ることも…。
さらにニンゲン共は、私に何やらよく分からないこともやらせていた。とても食べ物とは思えないほど硬いものを噛ませたり、餌の入った箱を追いかけさせられたり…。
そうやって私の力量を確かめては、ニンゲン共は歓声をあげて喜んでいるようだった。自分より遥かに弱いはずのニンゲン共の思い通りに動かされているという事実が、不愉快だと感じるのは当然の帰結だった。
やがて、共に過ごしていた同族たちからも引き離され、私は孤独の身となった。
縄張りの外へ出ようとしても縄張りの端には触れるとビリビリと痺れる紐が張り巡らされていて、相変わらず自由になることはできない。
そんな鬱屈とした日々を過ごしていた、ある夜のことだった。
その夜は嵐で、私の体にも激しい雨と風が吹き付けていた。それでも腹は減るものである。空腹感を満たすために餌場へと赴き、餌を食べているといつもとは違う感覚に気がついた。
すぐ近くの紐からビリビリとした感覚がしない。
試しに噛みついてみれば、あっさりと千切れてしまった。それによく見ればすぐそばにはニンゲン共が何人もいるではないか。私はこれまでの鬱憤を晴らすように彼らへ襲いかかった。
結局確実に手にかけられたのは1人だけだったが、彼らの悲鳴を存分に聞いたお陰で大分胸はすいた。
その後は好きに大地を歩き回り、道中やかましく騒ぎ立てていた小さな略奪者達を噛み殺した。最後の1体には私の体、特に首筋に酷い切り傷を付けられたが、命に関わるほどのものではなかった。
そして何より、私はようやく自由を手に入れられたのだ。その喜びに比べればこの程度の傷など大したことはない。
だがこの出来事は、私とニンゲンの長い因縁の始まりともなったのだった。
「これが…オーウェンさんの言っていた、ジュラシック・パークの崩壊…。そしてレクシィが殺害したのがあのドナルド・ジェナーロさんか。
レクシィのヌブラル島における生活は、ここから始まっていったんだな…」
『その通りじゃ。とは言えまだまだレクシィの記憶は始まったばかり。早速次に行こうか』
それからしばらくはニンゲンもいなくなった。
私はその間にこの大地の頂点に君臨し、自由で満足した生活を送れていた。しかしある時目が覚めると、高い壁に囲まれた森に閉じ込められていた。
そんな私を安全圏から見て楽しげな笑みを浮かべているのはまたしてもあのニンゲン共であり、自分の中に眠っていた怒りの炎が再び燃え上がるのを感じた。
今から数えてみれば、そこには以前そうだった時よりも長い時間閉じ込められていて、前よりもずっと多くのニンゲン共が私を見にやって来た。私が咆哮をあげたり、餌を食べるたびに奴らは顔を綻ばせて歓声を上げる。
あぁ、その喜色に満ちた顔が腹立たしい。
私をここに閉じ込め、このように見世物にして喜んでいるニンゲン共が、嫌で嫌で仕方がなかった。
そんなある時、私は周囲が騒がしいことに気がついた。
上を見れば慌てた様子で翼を持つ者たちが飛び交い、ニンゲン共の悲鳴が聞こえてくる。
まるで、あの日の時のようだ…。私の咆哮でニンゲン共が逃げ惑い、小さき略奪者たちがニンゲン共を追い詰めたあの時と同じ…。
やがて日もとっぷりと暮れ、人間たちの悲鳴も聞こえなくなった頃。ふと、聞き覚えのない音が聞こえてきた。何かが軋むような音だ。音のする方向へ行ってみると、そりたっていた壁の一部が開き…久方ぶりの新鮮な風が吹き込んできた。
そしてその先に…見覚えのある赤い光を灯したニンゲンが立っている。そのニンゲンは、私の姿を認めるとすぐに踵を返して逃げ出した。野生の本能に従い、私はそれを追いかけた。
狭い道を抜け、骨の山をぶち壊した先にいたのは、私が見たことのない恐竜だった。
鱗は白く、その姿は私の種族に似ているように見える…。
だが1つだけ違うことは、そいつは凄まじい死臭を身に纏っていることだった。ここに至るまでに多くの命を殺してきたのだろう。
…だが、私には関係ない。どちらにせよ私の王国の秩序を乱す者は、誰であろうと許しはしない。
私は威嚇の咆哮をあげ、白い恐竜へと噛みついた。
…硬い。まるで鎧竜の甲羅を噛み締めた時のようだ。それでもしっかりと歯は通り、流血もしているはずなのに、白い恐竜は痛がる素振りすら見せなかった。
その後もいくら攻撃をしても、相手は痛みに悶える様子すら見せない。まるで痛みを痛みと認識していないかのようだ。
そうしているうちに奴は私にはない長大な腕と爪を振るって攻撃を加え始めた。それによって一気に形勢は逆転してしまい、組み伏せられてしまった。奴が下衆た笑みを浮かべ、顎を大きく開いてにじり寄ってくる。
このままでは負けてしまう。だが奴を振りほどける体勢に戻ることはできない…。
敗北を覚悟し、目を閉じたその時だった。
『待て!私が相手だ!』
甲高い声と共に小さな青い略奪者が飛び出し、奴へと飛びかかった。奴は鬱陶しげに激しく体を震わせるものの、しっかりと爪を立てているようで小さな略奪者は振り落とされていない。
…逆転の機会は、今しかない…!
そう確信した私は痛む体に鞭を打って飛び起き、奴の首へと食らいついた。今度は反撃されないように近くの障害物に叩きつける。そして再び噛みついて引き起こし、今度は地面に投げ捨てる。
依然として起き上がろうとする奴に小さな略奪者が飛びかかって注意が逸れた隙にもう一度奴の首筋に噛みつき引き回して投げ捨て、とうとう湖まで追い詰めることができた。
死んでいてもおかしくないほどの重傷だと明らかであるのに奴はまだ立ち上がり、こちらを真っ直ぐに見据えている。その瞳からは戦意はまだ失われていなかった。
…まだ続けるのか。いいだろう。どこまでも相手をしてやる。
私と小さな略奪者、そして白い奴が互いに咆哮をあげた…その時だった。突然水面がざわざわと騒ぐと、水の中から巨大な生き物が飛び出してきた。そいつはそのまま白い奴に食らいつくと、水の中へと引きずり込んでいったのである。
…あれほどの死闘の最後がこれとは何とも呆気ないものであったが、これでようやく私の王国から異分子を排除することができた。
さて、と私はすぐ脇の小さな略奪者に目を向ける。私の視線を受け、小さな略奪者は少し怯えた様子を見せた。
…かつて私は、この略奪者の種族のとある1匹に傷をつけられた。その時の傷は、今でも首筋に残っている。そんな因縁の相手の同族が、私をピンチから救うことになるとはなんという巡り合わせだろうか。
今はその奇跡に感謝し、見逃してやることとしよう。
だが、いくらお前であっても、これから私の縄張りを跨ぐのであれば容赦はしない。それだけは覚えておくがいい。
そう言い聞かせて低く唸り、私は彼女に背を向けた。
それから私は島中を歩き回った。時に柵を踏み倒し、紐を引き千切る。そのたびに同胞たちが歓喜の叫びをあげて囲いから飛び出していく。
そして、久々に自分の力で狩りもした。久しぶりの三本角の味は実に格別だった。
何より、ニンゲン共の姿はどこにも見当たらなかった。
歩き回るうちに私は小高い丘のような場所に出た。空を見れば朝日が登り始めており、翼のある者たちが自由に飛び交っている。
私はその光景を目の当たりにし、再び自由になることができた喜びと、ニンゲン共への怒りを込め、大きく咆哮を轟かせた。
…ニンゲン共に告ぐ!
ここは私の王国だ!
二度と…二度とここへは近づくな!
私はその思いを咆哮に込め、渾身の力で叫んだ。
そう…そう叫んだのに…。
「…レクシィが…こんな生活を過ごしてきていたなんて…。こんな日々を送ってきていたなら、人間を憎むようになっても仕方ないかもしれない…。
そして、インドミナス・レックスに会い、戦ったことがあったなんて…。
だからカンボジアでインドミナスを見た時、あんなに敵意を剥き出しにしてたんだ…!」
『…まだレクシィの記憶には続きがあるようじゃ。見るかね?』
「勿論です。見せて下さい」
『うむ。よいじゃろう…』
…あれから、また年月が流れた。
私は自分の縄張りをどんどん拡大させていき、とうとう島の殆どを網羅するに至った。
無論、その過程で諍いがなかった訳ではない。だが縄張り争いなど慣れたもの。私に縄張りを明け渡さないのであれば、死あるのみ。その覚悟のもと私は多くの肉食恐竜たちと戦い、打ち破り、そして彼らの命を奪ってきた。
中でも背中に帆を背負ったあの奇怪な恐竜はなかなかの強敵だった。気を抜いていれば負けていた可能性は十分にあっただろう。次にまた戦う時があれば、先手必勝を心がけて短期決着を狙わなければ。
そう。ここまで苦労して縄張りを広げてきたというのに、また運命は私に試練を与えようとしていた。
…最近、地鳴りがひどい。まるで地面が崩れ落ちてしまうかのような地鳴りがこの大地を繰り返し襲っていた。
これは何かがおかしい。私の理解を超えた何かが起ころうとしている。そんなことを考えていたある日…。
山が、咆えた。
轟音が巻き起こり、感じたことがないほどの強烈な衝撃波が体に襲いかかる。これはどう考えても異常事態だ。すぐに安全な場所へ逃げなければ。
すぐさま山から反対側へと駆け出す。途中で何やら丸いものを追い回していた角ありの肉食恐竜がいたが、邪魔だったので食らいつき、捻じ伏せて先へと向かった。すぐ目の前には広大な海が広がっている。もう少し、あともう少しで助かる。逃げ切れる…!
そう思った私の前に、突如巨大な物体が現れた。突然のことだったので、止まろうにも止まれない。
そのまま私はその物体に吸い込まれるようにぶつかった。感じたことのある、ひんやりとした感触。これは、まさか…と思った瞬間、突然眠気が襲ってくる。この眠気も感じたことがある。
まさか…またニンゲン共が…。
そこで私の記憶は途切れた。
突如首筋に走った痛みに目を覚ますと、そこは狭い籠のようなものの中だった。おまけに何か小さな者がチョロチョロと私の周りを動き回っている。煩わしくなった私が吼えて滅茶苦茶に暴れると、恐れをなしたのかそいつらは逃げ出していった。どこか嗅いだことのある奴らだったが、寝起きであまり頭が働かない。そして再び襲ってきた眠気に勝てず、私はまた意識を手放した…。
そして、また目を覚ますと、目の前にはあの4足の生き物がいた。空腹に勝てずその生き物を追いかけて狭い場所を抜けると、そこは牢獄のような場所だった。歩き回ることは勿論、満足に寝転がることすらできない、最悪の場所だ。
それにしても、ニンゲン共に捕まる度に私の檻はどんどん酷くなっていく。そのことに不満を抱えながらも、私はじっとその場で待つこと以外にできることがなかった。
どれほど時間が経っただろうか。
急に息苦しさを感じて起き上がると、目の前の壁がなくなっていることに気がついた。
すぐに独房から出ると、その先は多くの恐竜たちでごった返していた。皆が殺到している壁からはわずかに風が吹き込んでいるのが感じられる。あそこから外へ出られるのだ。
それに、何故かここは息苦しい。先ほどはここまでではなかったのに。
何とか息苦しさを堪えながら壁の前で待っていると、ややあってから壁がなくなり、外への出口が現れた。
恐竜たちが次々にそこへ殺到していく。勿論私もその中へと加わった。
ここには肉食も草食もない。ただ生き残ることだけを考える恐竜しかいなかった。
ようやく外へ出て、大きく息を吸い込む。
私の王国の空気よりも大分冷たいが、息苦しさは全く感じない。息苦しさから解放された安心感を胸に辺りを見渡すと…そこには見慣れた姿があった。ニンゲンだ。
その瞬間、私の中に怒りの炎が燃え上がった。私を王国からここへと連れ去ってきたのはニンゲンに違いない。
許せない。
あれほど失敗を重ねてはいなくなりを繰り返していた癖に…。
あれほど警告していたのに…。
お前たちニンゲンは私の警告を無視し、またしても私の王国を踏み躙った。
その報い…受けてもらうぞ!
怒りに身を任せて目の前のニンゲンに食らいつく。何やら叫んでいたようだったが構うものか。そのまま振り回して息の根を止め、飲み込む。
思わず口から零したニンゲンの片脚を頂戴しようと近づいてきた肉食恐竜を怒りのままに蹴散らして後退させ、そして私は解放された喜びを爆発させるかのように咆哮を轟かせた。
そして目の前の森へ、しっかりとした足取りで進んでいった。
「レクシィがスピノに過剰な敵意を向けていたのは、過去の経験からスピノの種族を脅威と見なしていたからだったのか…。
そして、レクシィは…ここで自分の身一つ以外全てを失ってしまったのか…。
縄張りも、小さい頃から育った島も、何もかも…」
『…そうじゃ。今となっては遅いが…彼女の場合、生まれてこなかった方が幸せだったのかもしれん…。
そうわしは思ってしまったこともあった…。
ここまで人間のエゴで苦しめ続けてしまうことが分かっていたのならば、いっそ…』
「…【
『おっと、話がそれてしまったな…。
さて、オウガ君。次がレクシィの最後の記憶じゃ。
これで君は、レクシィの過去の全てを知ることになるじゃろう。
覚悟は、できておるかね?』
「…できてます。見せて下さい」
…微睡みから目が覚めると、そこはまたしても見覚えのない場所だった。
眠りに落ちる前のことを思い出してみる…。
…そうだ。私はまたニンゲン共に捕まり、どこか遠い場所へと運ばれてしまったのか。
私の王国から出て、また相当な年月が過ぎた。もう体はあちこちガタが来始め、力は衰えていく一方だ。
間もなく、私は最期の時を迎えるのだろう。そして、その最期を目前にした今ですらニンゲン共の都合に振り回されている。
そのことを考えると、何ともやるせない気持ちになってきた。だが、長い間眠らされていたせいでとにかく腹は減っているし、喉もカラカラだ。早く食べ物を見つけなければ。
そう思いながら彷徨い歩いていると、どこからか漂ってくる死臭を嗅ぎ取った。臭いを追いかけると、小さな動物が地面に横たわっているではないか。どうやら死んでいるようだ。
さしずめ、今はこんなものでいいか…。
そう思い、その死体を咥え上げた時だった。
木々をかき分け、下生えを踏みしだきながら姿を見せたのは黒い鱗の巨大な肉食恐竜だった。私よりもずっと若く、活気に溢れている。
そいつはどうやら私が見つけた餌を奪い取ろうとしているようだった。何とか抵抗を試みるも、老いと飢えと疲れが重なった体では勝てるはずもなく、やむなく餌を諦めるしかなかった。
私があと数年でも若い体であったならば、こんなに遅れは取らなかっただろうに…。
勝利の吠え声を上げる黒い恐竜を尻目に、私はそそくさとその場を後にするしかなかった。
その後私は何とか水を飲み、餌を捕らえて食べたのだが、休む場所を探していたところで、にわかに空が怪しい雰囲気を漂わせてきた。
巨大な火の玉のようなものが空を飛び回り、さらにはそこから無数の火の粉が飛び散っていくではないか。火の粉は木々へと燃え移り、やがて森全体が炎に包まれた。
これはどう考えても良くない状況だ。すぐにでも逃げるべきだろう。しかし…一体どこへ?
炎から逃れようとしても、どこへ向かえばいいのか分からない。
と、そんな時。体の中の何かが暴れ出した。鈍い痛みが走り、不快感が頭を過る。だが、その何かが逃げるべき先を示しているように感じ、私は導かれるままにその方へ向かった。
炎から逃れてきた先にはニンゲン共が大勢たむろしていた。しかし、そこにいたのはニンゲン共だけではない。
さっき私から餌を奪った、あの黒い恐竜がいたのだ。互いに睨み合い、やがてどちらからともなく攻撃をしかける。
結論から言ってしまえば、私にまるで勝ち目はなかった。空腹は解消できたものの疲労はピークに達しており、体は思うように動かない。力も思ったように入れることができない。
戦いは、終始黒い恐竜にリードを握られていた。
そしてその最中、一際強く壁に叩きつけられた時、急に意識が遠のいてくる。
あぁ…私はここで死ぬのか…。
そう私は悟り、諦観のうちに意識を手放した…。
…君は、まだここで死ぬべき運命ではない…。
…起きろ。起きて戦い、そして勝つのだ…。
…目を覚ませ…目を覚ませ…!…
何者かから呼びかけられ、意識が表層に引き戻される。眩い光に思わず瞬きをする。どうやらまだ私は生きているようだ。
目だけを動かして周囲を見渡すと、あの黒い恐竜が爪の長い奇怪な恐竜と戦っていた。しかも、明らかに黒い恐竜が優勢であった。
それからゆっくりと体を起こすと、黒い恐竜はこちらに目を向け、明らかに当惑した様子を見せた。死んだはずの相手がもう一度起き上がったとなれば、混乱するのは当然だろう。
私に注意を向けた隙に爪長の恐竜に引っかかれ、今度はそちらに吠えかかる。私に背を向けた状態で。
私はその隙を見逃さなかった。
すぐさま突進して黒い恐竜の首に食らいつき、そのまま地面に押し倒す…つもりが爪長の恐竜が両腕を構えていたせいで、黒い恐竜に爪が深々と突き刺さった。
肺か心臓を貫かれたのか、黒い恐竜はほんの僅かだけ苦痛の声を漏らしただけで地面に倒れ伏し、息絶えた。
試しに鼻面で小突いてみても、何も反応はない。
あまりにも呆気ない最期だった。
爪長の恐竜は興味を失ったようで、どこかへと去っていく。
私も黒い恐竜の死体から踵を返し、雨が降り始めた森の中へと帰ることにした。
それからは、ニンゲン共と会うことも殆どなくなった。一度あの眠気が襲ってきたことはあったが、目覚めると体の中で暴れていた違和感がなくなり、これまで通りの生活を送ることができるようになった。
まあ、これくらいはしてもらって当然だろう。
それに、長らく離れ離れだった同族たちとも遭遇し、縄張りを共有することにもなった。
ニンゲン共に邪魔されることもなく、孤独でもない。私がいつか思い描いていた生活を送れる時がついにやって来たのだ。
…だが、その生活を続けるのに、私の残された時間ではあまりにも短すぎた。長年戦い続けた私の体は衰弱し、もう立ち上がる力すらも残っていなかったのだ。
同族たちは私を心配して獲物の一部を分けてくれるものの、それを口にする気力すらも湧いてこない。
…だが、もういいのだ。
私はもう十分な時を生きた。
最期を迎えるのであれば、ニンゲンもいないこの静かな土地で迎えるのが1番いい。
波乱続きの生涯だったが、最期くらいは静かに迎えることができて…良かったと思おう…。
そう考えながら、私はゆっくりと目を閉じる…。
その瞬間、私の視界は眩い光で包まれた。
…バカな…まだ…死ねない…?
まだ…まだ運命は私に…戦い続けろと言うのか…?
再び目覚めた先は、これまでとは全く違う世界だった。おまけに老い衰えていた肉体は、少なくとも私が王国から焼き出された頃にまで巻き戻り、戦いに支障を来すほどではなくなっていた。
更にあの「ジュラシック・アンバー」とやらの話では、この世界にはかつて私たちのそれとは姿形の全く違う恐竜たちが存在していたという。あの時召喚されて目にした同族の姿は私とは大きくかけ離れていたから、恐らく間違いないのだろう。
そしてこの世界で、私は覇轟オウガというニンゲンの子供のパートナーとして、またしても戦いの日々を送ることになった。
最初はニンゲンと共に暮らすなど耐えられないと思っていたのだが、実際にオウガと共に暮らしてみると、そう悪いものではなかった。
オウガはいつも私を気遣い、暇があれば話しかけてくる。私が特に反応を見せなくてもだ。過去の多くを語らない私を、必死に理解しようとしてくれている。
私のために悲しみ、怒り、喜んでくれている。
これまで私を見世物にしたり、利用しようとしてきたニンゲン共と、オウガは全く違うのだと否が応でも理解できた。
同居恐竜のアメジストとかいうステゴサウルスからも、オウガは優しいニンゲンだということを何度も聞かされていた。
…あれほど、ニンゲン共には失望させられてきたのに。
…あれほど、ニンゲン共を憎んでいたのに。
オウガ…コイツだけは信じられるのではないかという、過去の私ならば鼻で笑うような愚かな考えが頭をもたげてくる。
だが、そう思わせてくれるほどにオウガとの生活は毎日が楽しく、そして心を満たしてくれるものだった。
…どうせ戦うのならば、オウガのために戦い、そして勝ちたい。
だがニンゲンを許せる気にはとてもなれない。
相反する気持ちに挟まれ、私は今も悩み続けている。
私は…これからどうするべきなのだろうか…?
今回の幕間の話はここまでです。
次回以降はまた『風雲アクトアイランド!』の後半部分を投稿していきますのでお楽しみにお待ち下さい。