古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
限定プリンを買いに並んでいたDキッズは、イタリアのローマ市にパキケファロサウルスが現れたとの情報を得て、急ぎローマへと向かう。
その先で出会ったパキケファロサウルスは頭が光り輝いていたのだが、その場へやってきたアクト団のDr.ソーノイダの話によれば、「強さ」を与えてやったのだという。ソーノイダの説得に応じず光るものを追いかけ続けたパキケファロサウルスを、Dキッズとアクト団はコロッセオまで追い込む。
明らかに異常な強さを誇るパキケファロサウルスに、『Sin-D』やパキケファロサウルス・ワイオミンゲンシスの乱入もあったものの、最終的にカードへ戻ったパキケファロサウルスをDキッズは保護することに成功したのだった…。
前編
デボン温泉街
ここは、日本某所の海沿いにある有名な温泉地である。
沖には活火山のデボン島があり、その影響でこのあたりは良質な温泉が湧き出すのだ。
そんな温泉の1つ「白阿木の釜」で1人の老人が温泉卵ができるのを待っていた。
「どーれ、そろそろ良かんべ。よっ…と」
そう呟きながら老人が籠を引き上げ、中の卵を確認する。その中には、異様に大きな卵が交じっていた。
「ん? おおっ? 誰だこんなとこにダチョウの卵なんか入れたヤツは! こんなもん商売になんねぇ…あちぃッ!」
そう言いつつ老人は大きな卵を掴みだそうとするが、それは先程まで温泉に浸けていたもの。当然の熱さに耐えかねて老人はその卵を投げ出してしまった。
投げ出された卵は大きく宙を舞って落下すると、焚き火の中に入って割れた。すると中から1枚のカードが排出され、焚き火に当たって実体化していく…。
そして赤い光に包まれて姿を現したのは、盛り上がった背中が特徴的な白亜紀前期の北米の支配者・アクロカントサウルスだった。
アクロカントサウルスは目覚めると低く咆哮を上げ、どこかへと歩み去っていく。彼が1歩踏み出す度に、周囲に衝撃震動が走る。
しかし…。
「…ん? また地震かあ?」
老人は全く気づいていなかったのだった。
少し前 デボン温泉街
この日、オウガ達DキッズはDラボのスタッフである古代博士やリアス、ミサと共に温泉街の宿へ泊まりに来ていた。
今は宿泊する部屋から、オーシャンビューを満喫しているところのようだ。そしてそんな風景の真ん中に鎮座しているのが、活火山のデボン島である。
「すっげー! いい景色ー!」
「俺もそう思うよ。青い海と、そこから突き出た島の組み合わせが最高の組み合わせだよね」
「あの正面に見えるのが、デボン島だね」
「山から煙が上がってるけど…?」
「デボン山は活火山だからな。最近頻繁に地震が起きているそうだから、事によると噴火が近いのかもしれないな…」
「「「「えっ!?」」」」
「ほんと?」
「まあ…近くないかもしれないが…」
「どっちだよ…父さん…」
「よし、調べてみるか! えーっと…前回の噴火が1950年で…次の噴火が今年起こる確率は…」
そう言って手元のデバイスを弄る古代博士に、リアスが苦言を呈した。
「博士。旅行中は研究をお休みするんじゃ?」
そのリアスや、隣に立つミサは珍しく白衣ではないおしゃれ服を着ていた。ちなみにミサは普段着と白衣しか持っていなかったので、このおしゃれ服はリアスとマルムが見繕ったものである。
そして、リアスの言葉を聞いた古代博士はうっかりしていたと言わんばかりに頭をかいた。
「え…あぁ! そうだった…。今回の我々Dラボ温泉旅行の目的は、日頃の研究で疲れた頭をリフレッシュすることにある!」
「「「「うん…」」」」
「恐竜や学問に関することは全部忘れて、思いっきり羽を伸ばす! これも次の研究のための大事なステップなのだ!」
「その通り!」
珍しくリアスが博士の意見に拍手をしてまで賛成する。しかしこれにはオウガも納得できるところがあった。
「それは確かに同感ですね。研究に限った話じゃないですけど、物事は全部メリハリをつけていかないと」
「おお! オウガ君、よく分かってるじゃないか!
…という訳で、これから旅の間は恐竜に関する発言は一切禁止する!」
この発言には、Dキッズ達も驚く。
「ええっ? じゃあ『恐竜』って言っちゃいけないの?」
「あっ! 今言ったぞ! 罰ゲームだ!」
古代博士がそう言うと、いつの間に持っていたのか筆ペンを取り出すと左目の周囲を丸く囲ってしまった。なんという不意討ちだろうか。
「ゲッ!? うっそ〜…」
「古代博士、ちょっと不意討ちが過ぎませんか?
俺達まだNGワードが何なのかも聞いてないですよ?」
「その方が緊張感があっていいってもんだろう! ハッハッハッハ!」
「休ませたいのか緊張させたいのかどっちなんですか…」
オウガが呆れていると、レックスがすぐそばのエースに話しかけていた。
「フッ、見ろよあの顔…『エース』」
その言葉にも、古代博士は反応した。
「おっとぉ! その名前もアウトだ!」
「えっ!?」
そして、有無を言わせず古代博士はレックスの右目の下にバツマークを付けてしまった。
そこでマルムも、古代博士に質問をする。
「名前もダメなの? 『チビ恐竜』だから?」
「フッフッフ…」
「あっ!」
うっかりマルムが『恐竜』と口を滑らせてしまい、古代博士はマルムの口の周りを丸く囲ってしまった。まるで泥棒ヒゲである。
(これってもしかすると、古代博士のストレス発散になってるんじゃないだろうな…)
そんな風にオウガが考えていると、すぐ近くでリュウタがマルムを指さしてゲラゲラ笑っているではないか。
「ハッハー! 言ってやんの! 『恐竜』ってー!」
当然ながらそれも古代博士は聞き逃さない。今度はリュウタの右頬に猫のヒゲのような3本線を書き足してしまった。
『ガァブ! ガァブ!』
そこでガブが鳴くと、何故か古代博士はガブの顔にも落書きをしていくではないか。これにはリュウタも驚く。
「ええっ!? 『ガブ』も!?」
その後も古代博士は様々な発言を咎めては筆ペンで落書きをしていき、挙句の果てには止めに入ろうとしたリアスの顔にも落書きをしていくではないか。もう彼を止められる存在はどこにもなかった。
結局早々に部屋の隅で丸まっていたレクシィ、そして人間メンバーだとミサ以外は、パートナー恐竜達を含めて顔中落書きだらけになってしまった。
ちなみにオウガは一言もNGワードは口走らなかったのだが、うっかり口を滑らせたミサの身代わりを申し出て落書きされた次第である。
「ハッハッハッハ…」
「…やっぱりこれ、やめません? 博士…」
リアスがマジトーンで古代博士に抗議したことで、ようやく彼も止めることにしたようだ。
ここで更に突っ走ると後が怖いので当然とも言える。
「ブッハッハッハ…冗談がキツかったかな?
では、ゲームはこの位にして…温泉に浸かっておいで!」
「「「やったーっ!」」」
落書きだらけの顔で、リュウタとマルム、オウガが歓喜の声をあげる。ちなみにレックスはクールを装っていたが、落書きだらけの顔のせいで台無しである。
「おっと! その前に貴重品は金庫に預けておこう!」
「「「はーい!」」」
しかし、盗難防止も考えて各々の貴重品は金庫に預けておかねばならない。ということで大人は財布や鍵を、Dキッズはディノホルダーやディノラウザーを金庫に入れると、古代博士が鍵をかけた。
ちょうどこの時白阿木の湯近くでアクロカントサウルスが出現したのだが、その通知が届いたのは金庫の扉が閉じられた直後だった。
つまるところ、最高にタイミングが悪かったのだ。
「これで、安心だ!」
「よーっし、お風呂だお風呂だーっ!」
そう言ってリュウタ達が入浴のための準備を進めていく。
そんな中、オウガが部屋に備え付けてあったウェットシートで顔を拭いていると、そこへミサが近づいてきた。
「ごめんなさい、オウガ君…。わたしが口を滑らせてなかったら…」
「いや、ミサさんが気にする必要はないですよ。
女性のミサさんのお顔を汚させたくなかっただけですから…」
頬を染め、頭を掻きながらオウガがミサにそう返すと、その隣で顔を拭いていたマルムがジト目で睨んできた。
「ふーん。じゃあアタシやお姉ちゃんは女性じゃないって言いたいわけー?」
「い、いや、そう言いたい訳じゃなくて…」
何とかオウガが弁明しようとしていると、既に用意を整えたリュウタが襖に手をかけながら呼びかけてきた。
「おーい! オウガ! マルム! 早く行こうぜ!」
「聞こえてるわよー!…じゃあミサさん。一緒に行きましょう?」
「え?あっ、そうね!…じゃあオウガ君。また後でね」
「あ、あっはい!…待ってくれよリュウタ! 今行くからさー!」
そう言ってオウガ達が部屋を出ていくのを見送ってから、古代博士もその手に着替えやバスタオルを持つ。
「さーて、私も思う存分温泉三昧を楽しんで、その後は…ポリネシアンショーで盛り上がるぞ〜っ!」
ポリネシアンショーの張り紙を見てニヤケ顔を浮かべた古代博士は、小躍りしながら大浴場へ向かっていく。
結局、誰もディノホルダーやディノラウザーの通知音には気付かないままなのであった…。
露天風呂 男湯
リュウタ・レックス・オウガと彼らのパートナー恐竜達は露天風呂に入っていた。
ガブとイナズマとアメジストはスイスイと泳ぎ回っていて、エースはレックスと同じようなポーズで恍惚とした表情を浮かべている。
そしてレクシィはオウガの横でワニのようにじっと浮かんでいた。色の地味さも相まってまるで岩のようである。
「はあ〜…気持ちいい〜…」
「やっぱり温泉っていいなぁ…体も心も洗われるようだよ…」
「目の前が海だし、眺めも最っ高だな…」
この露天風呂にいるのは彼ら3人と5匹だけかと思われたが、そうではない。ちょうど彼らから見えないところで、2人の男性が風呂に浸かりながら海を眺めていた。
「ふぅ~、いい湯ザンス…」
「でもおれ達、こんなところでまったりしてていいんスかねぇ…」
「構わないザンスよ。だってミー達を追い出したのはドクターなんザンスから…」
そう。その2人の男性というのは何を隠そう、アクト団のエドとノラッティ〜であった。
何やら新しいマシンの製作に取り掛かっていたソーノイダに邪魔者扱いされ、彼ら工作員3人組は追い出されてしまったのだ。
それを彼らは休暇と受け取り、こうしてデボン温泉街にやって来たのである。
「…確かに。ドクターはなんの研究してるんスかねぇ…?」
「さぁ…とにかく、今のうちに羽を伸ばすザンスよ…」
そう言いながらノラッティ〜が大きく仰け反るほどの伸びをすると、視界の端へガブが泳いでいった。
今見た光景が本物かどうか体勢を戻して確かめるものの、タイミング悪く湯気が強くなり、眼鏡が曇ってしまう。そこで手ぬぐいで眼鏡を拭こうとしたのだが、思い直したかのようにノラッティ〜はかぶりを振った。
「…いや、そんな訳がないザンスねぇ…」
こんなところまで来ていつものガキンチョ達に会うはずがない。そう思い直したノラッティ〜はまたエドの隣に戻り、海を眺めるのだった。
露天風呂 女湯
一方、こちらではウサラパが露天風呂に浸かっていた。男湯にエドとノラッティ〜がいるのなら女湯にウサラパがいるのは当然…なのかもしれない。
「ふぅ~、ごくらく、ごくらく…。ここの温泉は美肌効果抜群らしいし、アタシの美貌にまた磨きがかかっちゃうよぉ〜…」
そんな独り言を呟くウサラパから少し離れたところでは、マルムとリアス、そしてミサがパラパラと共に浸かっているところだった。
「ふぅ~、ごくらく、ごくらく…」
「いやだ〜、お姉ちゃん、オバさんみたい!」
「あら、ほんと!」
「「フフフフ…」」
「『ごくらく』ってそんなに古い言い回しなのかしら?」
「そういう訳じゃないけど…ほら、お爺ちゃんお婆ちゃんがよく口にしてそうな言い回しじゃない?」
「確かに…言われてみればそうかもね…」
「でしょ?」
「「「フフフフフフ…」」」
『ごくらく』がオバさんみたいな言い回しだと笑い合うマルム達であったが…。
「ブッ…ゴボボボボ…オバさんっ!?
…いいえ、考えすぎよね。空耳、空耳っと…」
その『オバさん』呼びに反応したウサラパは一瞬動揺した。
しかし、よく考えればここには自分を知るものはいないはず。そう思い直した彼女は、今一度温泉を楽しむのであった。
その頃、古代博士は顔中汗塗れになりながらも砂風呂を楽しんでいた。
「あぁ…暑い…。だが、これこそ砂風呂の醍醐味…」
と、その時急に地鳴りが起きたかと思うと、古代博士の目の前に広がる砂浜の中からアクロカントサウルスが姿を現した。
「うわぁぁぁあ!?」
そしてアクロカントサウルスは、まっすぐ古代博士が砂風呂に埋まっている方向へ歩いてくる…。
このままでは踏み潰されてしまう!
「うはぁぁぁっ!? あれ? 動けないっ!?」
何とか砂風呂から抜け出そうとする古代博士だが、砂が思った以上に重く、なかなか逃げられない。
「ヒーハーッ!」
それでも渾身の力を発揮して何とか砂風呂から抜け出し、その場を飛び退くと、その直後にアクロカントサウルスがその場所を踏み躙っていった。
そして、アクロカントサウルスが歩く度に発生する衝撃震動は、露天風呂にいたDキッズやパートナー恐竜達にも伝わっていた。
「「「うわぁぁぁ…」」」
「なっ、何だあっ!?」
「これは地震じゃない!」
「衝撃震動だ! かなり近そうだよ!」
いち早く危険を察したのか、ガブ達チビ恐竜はいち早く浴槽から出ていく。
「あっ!」
「あーっ!」
「うわっ! 出たーっ!」
その時、オーシャンビューを背景にアクロカントサウルスが姿を現した。
近づいてくるアクロカントサウルスから逃れるために、オウガ達は急いで浴槽から出て様子を伺うことにした。
そして、これにはノラッティ〜とエドも黙って見ている訳にはいかない。とにかくウサラパに連絡するために男湯と女湯を隔てている塀に登り始めた。
「ウサラパ様ーッ!」
「獲物ザンスーッ!」
しかし、普通そんなことをやるのは覗き目的の奴くらいである。当然の帰結として2人は他の女性客達から木桶の雨あられを食らい、撃墜されてしまった。
そして、ここでようやくオウガ達はこの場にアクト団も来ていたことに気付いたようだ。
「あーっ! お前ら何でここに!?」
「「あーっ!?」」
エドとノラッティ〜もオウガ達の存在に驚いていると、女湯側の塀からウサラパが顔を覗かせた。
「んもーう、お前達何やって…あっガキンチョッ…はうっ!」
どうやら女湯を混乱させた2人を叱るために顔を出したようだが、他にも客が…それもDキッズがいるとは思っていなかったようだ。
羞恥心が勝ったようですぐさま顔を引っ込めてしまった。
「アクト団…。まさか来ていたなんて…」
そこで、レックスが改めて出現した恐竜に目を向けた。
「あの背鰭は…アクロカントサウルスだ!」
「アクロカントサウルス!? 白亜紀前期の北米の頂点捕食者じゃないか!」
レックスとオウガがそのようにして驚いている間に、アクロカントサウルスは踵を返してどこかへと向かっていく。その後を追いかけ、オウガ達も脱衣所へと向かった。
「行くぞガブ! イナズマ!」
「レクシィ! アメジスト! 俺達も行こう!」
そして、その場でポカーンとしていたエドとノラッティ〜に、柵の一部をこじ開けたウサラパが呼びかける。
「いつまで伸びてるんだい! とっとと獲物を捕まえるんだよぉ!」
「「ヘイヘイホー!!」」
こうして、アクト団もアクロカントサウルス回収のため動き出した。
一方アクロカントサウルスは、露天風呂周辺の設備を踏み荒らしながらホテル本館へと向かっていっていた…。
ホテル館内
オウガ達が着替えて大浴場から飛び出すと、既にホテルのそこら中でアクロカントサウルス出現の話が広まっていた。
「恐竜が現れたんだってよ…」
「そんなまさか…映画の撮影か何かだろ?」
そんな話が囁かれる中、オウガ達とパートナー恐竜達は宿泊部屋へ向けて全力で走っていた。
「とにかく、ディノホルダーだ!」
「アクロカントサウルスが出てても、ディノラウザーがなけりゃ戦えないからね!」
一方、アクト団工作員の3人組も脱衣所から飛び出してきたのだが、何故か人目をはばかるように移動している。その姿を見ると、裸にタオル1枚ではないか。
あまりにも急ぎすぎて着替えすら忘れてしまったらしい。何をどうしたらそうなるのだろう。
「は…恥ずかしいザンス…」
「着るもの持たずに逃げる奴があるかい! このアンポンタン…」
「あの部屋に何か着るものがあるかも…」
エドが見つけた「控え室」に3人は忍び込むと、着られそうなものを物色し始めたのだった…。
ホテル館内 宴会場
ここでは、古代博士が楽しみにしていたポリネシアンショーが行われていた。ここに集まった宿泊客達は、皆笑顔で楽しんでいる。
そんな宴会場の壁をぶち破り、顔を覗かせたのはあのアクロカントサウルスであった。
演者達は予定にない演出に困惑しているものの、宿泊客達は大喜びであった。これもショーの一環だと思っているらしい。
すると、アクロカントサウルスが大きく息を吸い込むと勢いよく鼻息を吐き出し、演者が持っていた松明を吹き消してしまった。
これに驚いたのが演者である。アクロカントサウルスが生身の恐竜であることに気づいたのだ。
「うっ、うわぁっ! 本物だあっ!」
その叫びを聞いた宿泊客達は一斉に立ち上がると、悲鳴を上げながら宴会場から逃げ出していく。その喧騒で更に興奮したのか、アクロカントサウルスは宴会場でますます暴れ回るのであった…。
その頃 宿泊部屋
オウガ達は1番に宿泊部屋へと戻ると、金庫を開けようとダイヤルを回していた。しかし、扉は固く閉ざされていたのである。
「…ダメだ! 鍵がないと開けられないよ!」
「マジかよ…」
「鍵を持ってたのは古代博士だよね? リュウタ! 博士はどこに行くって言ってたの?」
「父さんは確か…」
リュウタが思い出そうとしていた時、浴衣姿の古代博士が部屋に駆け込んできた。
「リュウタ! 恐竜だぞ! アクロカントサウルスだ!」
「ちょうど来た! 父さん! 鍵は?」
「ディノホルダーとディノラウザーを出さないと!」
「え? えっと…あ、ない…どっかで落としたか?…いや、砂の中か…?」
「「「えーっ!?」」」
なんと、この肝心な時に金庫の鍵をどこかへ落としてきてしまったのだという。なんとタイミングが悪いのだろうか。
更にそこへ、少し遅れてマルムとリアス、ミサが戻ってくる。
「みんな! ディノホルダーは?」
マルムからの問いかけに、オウガ達は首を横に振って答えるしかなかった。
「うっそー!?」
一方、アクロカントサウルスはいよいよホテル本館から出てくるところであった。その行く手には、地元の消防隊が立ち塞がっている。
「出てきたぞ! 放水開始だ!」
隊長の声と共にホースから水が放射される。しかしアクロカントサウルスを食い止めるには至らなかったようで、体当たりを食らった消防車が次々と吹き飛ばされていく。
怯える消防隊員達を尻目にアクロカントサウルスは歩を進め、遂にビーチへと降り立った。
…と、そんなアクロカントサウルスに呼びかける者がいる。
「ノンノン! そこまでよエモノちゃーん?
逃げられるオモたら大間違い! 天の怒り受けるヨー!」
「「怖いヨ怖いヨー!!」」
なんと、ウサラパ達アクト団工作員の3人組だ。さっきの控え室でポリネシアンショーの衣装を拝借したらしく、エキゾチックな衣装に身を包んでいた。更にそれに影響されたのか口調もエセ外国人のようになっていたのである。
「やっておしまいネ!」
「「やってしまおうネ!!」」
そしてノラッティ〜がアクトホルダーとティラノの恐竜カードを手に取った。
「いでよーっ! ティラノーッ!」
その時、彼らのもとへ消火用のホースが投げ入れられると、ウサラパ達3人をグルグル巻きにして引っ張られ始めた。
「待ってろー! 今救出するぞー!」
ホースを投げ入れたのは、先程の消防隊だった。そりゃあんな巨大で危険な生物のすぐそばに一般人がいれば救助するのは当たり前である。
しかし、それは今の3人にとってはありがた迷惑であった。
「あの…ミー達は…」
「分かってる分かってる! ショーの出演者だな?」
「チガウ、チガウネ〜…」
「邪魔するんじゃないよー! ほら大事な獲物がー…」
「もう大丈夫だぞ! 引け! 引けーっ!」
「「「あ~れ〜…」」」
こうして、あと一歩というところでウサラパ達3人は消防隊に保護されてしまったのだった…。
邪魔者がいなくなり、静かになった海岸ではアクロカントサウルスが立ち尽くし、夕日に照らされたデボン島に向かって哀しげな咆哮を轟かせていた。その姿を、宿泊部屋のバルコニーからマルムが発見した。
「あぁっ! アクロカントサウルスよ!」
「何やってんだ? アイツ…」
その時、突如として地震が起こった。あまり大きくはなく、すぐに収まったもののDラボ1行は恐怖に包まれる。
その時、エースがバルコニーから素早く下へと降りていってしまったのだ。
「エース! どうしたんだ!」
レックスが呼びかけてもエースは止まらない。そのままアクロカントサウルスのところへ走っていくものの、当のアクロカントサウルスは海の中へと入っていってしまった。
エースも後を追いかけようとするものの、波打ち際に寄せてくる波を見て素早く飛び退る。エースは苛立たしげな声を上げると、デボン島に向かって泳いでいくアクロカントサウルスの後ろ姿を見つめていたのだった…。
その後、宿泊部屋の金庫が開けられたのはもう夜になってからだった。
「ふぅ~。やっと金庫が開いた…」
「もうちょっと早く開いてくれれば良かったんだけどなぁ…」
「ハハハ…すまん…。あ、ありがとうございました」
「お気になさらず。しかし鍵を取り替えなければならないので、その費用は宿泊代に加算させていただきますね」
そう言うとホテルマンは部屋を去っていく。
自分のうっかりで余計な出費が増えてしまったことに、古代博士はがっくりと肩を落としたのだった。
そんな博士は置いておいて、ようやくディノホルダーを手にしたDキッズ達は相談を始めた。
「アクロカントサウルスは、デボン島に上陸したらしい!」
「オレ達も行こうぜ!」
「俺も賛成だ。アクロカントサウルスは大型肉食恐竜。放っておくのは危険だよ!」
「そうね! 早く行かなきゃ!」
すぐにでも出撃しようとする4人に待ったをかけたのはリアスだった。
「待って。あの島は火山の活発化で立入禁止よ。連絡船も動いてないわ」
「えっ、そうなの…?」
「でも、またヤツが暴れ出したら大変なことになりますよ!」
「リアスさんも見ましたよね? あのアクロカントサウルスはかなり気が立ってます。あいつがデボン島で暴れたら、それこそ本当に火山が噴火するかもしれないんですよ?」
「それに、早くしないとまたアクト団が…」
「いずれにしても夜の捜索は危険だ…。朝まで待とう」
古代博士にも止められ、Dキッズは拳を握りしめた。
と、そこでオウガはミサがバルコニーに立ってデボン島を見つめていることに気付いた。
「ミサさん、どうしたんですか? デボン島を見つめてるようでしたけど…」
「あ、オウガ君。あのね、わたしの気のせいかもしれないんだけど、さっきの恐竜…」
「アクロカントサウルスですか?」
「ええ。そのアクロカントサウルスって恐竜、どうしてかは分からないんだけど、何かを懐かしがっているように見えたの」
「何かを、懐かしがっている…?」
「わたしが深読みしただけかもしれないけどね」
その時、オウガの手元のディノラウザーから声が聞こえてきた。レクシィの声だ。
『…腹立たしいが、私もその女の言葉には同意せざるを得ない』
「…レクシィ? 君もそう思ったの?」
『あのアクロカントサウルスとかいう恐竜があの島を見つめていた視線、そしてあの咆哮からは、望郷の思いが強く感じ取れた。これは間違いない』
「なるほど…。でも、どうして? どうしてそうだと分かったんだ?」
そうオウガが問いかけると、レクシィはフンッと鼻を鳴らしてからこう続けた。
『…同じだからだ。ニンゲンの屋敷から逃げ出し、サンクチュアリに連れて行かれるまでの…育ち故郷の島を思っていつも吼えていた私とな』
その後、Dラボ1行は部屋に運ばれてきた食事を摂り、それから男女それぞれの部屋に分かれて眠りにつくことになった。明日は朝早くに何とかしてデボン島に上陸しようということを考えての措置である。
そして男部屋の方では、またしても起こった地震で目を覚ましたガブやイナズマ、エースにアメジストがそれぞれのパートナーが寝ている布団の上で飛んだり跳ねたりしていた。
「うーん…何だよガブ…。それにイナズマも…」
「…また地震か?」
「大丈夫だよ。…ほら、収まった」
「アメジストもどうしたのさ。いつもは一度寝たら朝まで絶対に起きないのに…」
オウガとリュウタがそれぞれのパートナー恐竜達を宥めていると、レックスがポツリと呟いた。
「…もしかしたら、本当に噴火が近いのかもしれないな」
「「えっ…?」」
「動物は自然の変化に対して敏感だって言うだろ?
エース達も何かを感じているのかも…」
「俺達だと感じられない何か、か…」
「でも、それじゃあ何であのアクロカントサウルスは島へ渡ったんだ…?」
「そう言えばそうだな。危険なのにどうして…」
「実はミサさんが言ってたんだ。あのアクロカントサウルス、何かを懐かしがっているようだったって…」
「何かを…? つまりそれを求めてアクロカントサウルスは島へ渡ったってことなのかな?」
そこで、レックスのその言葉を聞いたリュウタが何かに気付いたように顔を上げた。
「待てよ! ってことは今火山が噴火したらあいつヤバいんじゃ…!」
「…確かに! それはそうだ!」
「早く助けなきゃ!」
そしてオウガ達は起き上がるとこっそりと身支度を整え、パートナー恐竜達と共に部屋から抜け出した。抜き足差し足忍び足で廊下を歩いていこうとすると…。
「ちょっとどこ行くのぉ?」
背後から何者かに呼び止められた。3人がビビりながら後ろを振り返ると…そこにはマルムとパラパラがいた。彼女もアクロカントサウルスが気がかりだったようである。
「アタシ達を置いていくつもり?」
一気に緊張が解け、リュウタがマルムにサムズアップを送る。
こうしていつも通り4人揃ったDキッズは、デボン島へ渡るための方法を探すことにしたのであった…。
その頃 デボン温泉街 海岸
ここには、先程消防隊によって保護されたアクト団工作員の3人組が集まっていた。彼らも何とかしてデボン島へ渡ろうとしているところのようである。
「何とかして、今夜中にあそこへ渡るんだよ!」
「でも…どうするザンス? ミー達今回はドクターから移動手段のメカを貰ってないザンスよ?」
「移動手段がなかったら〜、どうしようもないネ〜」ポンッ
そう言ってエドが手に持った太鼓を叩く。服装は元に戻ったのにまだ持ち歩いている辺り、けっこう気に入ったらしい。
とにかく、デボン島へ渡る手段を考えている3人だったが、そんな彼らの耳に聞き慣れない音が入ってくる。
「ん? 何だいこの音…?」
「これは…プロペラのローター音ザンス!」
「プロペラぁ? ってことはヘリコプターかネー?」
その予測は正しかった。いつの間にか彼らのすぐ頭上で、ジェットヘリが滞空していたのだ。そこから体を乗り出しているのは、『Sin-D』のジェイソンである。
「よう!てめぇら! 今日もシケた面してやがるなぁ!」
「「「ジェイソン!」」」
「アンタ、こんなところまで何しに来たのよ!」
「何しに来たか、だと? 今回もDキッズの邪魔をして来いとドジスンに言われたんで、渋々ここまで来たんだよ!」
そう言うとジェイソンはやれやれといった感じでかぶりを振る。
その話を聞いたウサラパ達は互いに頷き合うと、ジェイソンに呼びかけた。
「ねーえ! それならアタシ達をあのデボン島まで乗っけていってくれなーい?」
「損はさせないザンスよ! あのガキンチョの妨害をするならミー達も協力するザンス!」
「人数は多い方がいいに決まってるヨー!」ポンッ
3人の提案を受け、ジェイソンは大きくため息をついた。
「ったく、図々しい連中だな。…とは言え手駒は多いに越したことはねぇからな。あいつらでも多少は役に立つだろ。
…おい! いいぞ! 乗せてやる!」
そう言うとジェイソンは縄梯子をウサラパ達に向けて投げ下ろした。
「ラッキー!」
「これは楽できたザンス!」
「圧倒的僥倖ネー!」ポンッ
これで足を確保できたウサラパ達3人は、ジェイソンと共にデボン島へ向かったのであった…。
今回はここまでです。
それでは、後編でまたお会いしましょう。