古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
ネットページ『物々交換サイト』に『超竜衝撃』のカードが出品されていることに気付いたDキッズは、それを手に入れるために古代博士の恐竜ゴルフドライバーを出品することにした。
しかしアメリカ合衆国ジョージア州にアルティリヌスが出現したという通知を受け、現地へと向かうと、そこが全米女子オープンの会場であるゴルフ場であることを知る。
そしてアルティリヌスを召喚したのは、アクトホルダーを一時的にアクト団から奪っていたトゥーイ少年だった。彼は自分の推しであるスミレが勝てるようにアルティリヌスを悪用していたのである。
とにかくアクト団を退けなければならないとリュウタが相手となるが、『超竜衝撃』で召喚されたスーパーサウルスの攻撃にはガブとイナズマも押され気味であった。
しかしマルムの『朋巨大圧』とオウガの『大腕震撃』で召喚されたディプロドクス・ハロルムとブラキオサウルスによって形勢は逆転。見事アルティリヌスとスーパーサウルスを撃破した上、どちらのカードも取り戻すことができたのだった…。
前編
ここは、山口県秋吉台にある秋芳洞。日本最大級の鍾乳洞であり、我が国の特別天然記念物に指定されている貴重な場所である。
今日もここは多くの観光客でごった返しているが、観光道からは逸れたところにある立入禁止区域を歩く部外者の姿があった。
いつものアクト団工作員の3人である。今回は随分と早い到着ではないか。
しかし暗い中を懐中電灯1本で進んでいたために見通しが悪かったらしく、天井から下がった鍾乳石にウサラパが頭をぶつけてしまった。
「あたっ!もう、こんなところに恐竜がいるんだろうねぇ?」
「ドクターの占いによると、そうみたいザンス…」
「また占いかぁい?」
「まあ今のところ、ドクターの占いは百発百中ッスから、無下にするわけにもいかないッスよ…」
どうやら天才科学者Dr.ソーノイダの科学の風上にも置けないオカルト技「恐竜の骨占い」の結果、彼らはこの鍾乳洞の中へ送り込まれたようである。
そして彼らは歩き続けるうちに、ようやく広い空間に出ることができたようだ。
「はぁ…やっと広いところに出たよ。やれやれ…」
「はあ…息が詰まりそうッス…」
そう言ってエドがすぐ横の鍾乳石の柱に寄りかかった瞬間、柱に無数のヒビが走って砕けてしまった。
更に柱の支えを失ったことで落盤が起こり、悲鳴を上げるウサラパ達へ大量の岩石が降り注いでいく…。
そして土煙が晴れた頃には岩石の山が出来上がっており、彼らは完全に生き埋めになってしまっていた。
「何だいどうなってんだい!早くお前達何とかおしよーっ!」
「うー…重いザーンス!」
彼らが怒りや苦悶の声を上げる中、岩石の山の上を岩ではない何かが転がっていく…。
それは、あの卵型カプセルであった。
2日後 三畳市 三畳市立台野小学校
この日、Dキッズが通う台野小学校の校庭には、6学年の生徒達が整列していた。
どうやら今日は遠足の日らしく、その中には勿論Dキッズのメンバーもいた。
しかし、リュウタを除く3人しかいないようである。
「リュウタ、大丈夫かな…」
「ディノホルダー忘れるなんて、マヌケな奴…」
「そろそろ集合時間だけど、間に合うのかな…?」
なんと、リュウタはディノホルダーを忘れて一度家へ戻っていったようである。
うっかりしているのはいつものことだが、ディノホルダーを忘れるとはよほど慌てていたのだろうか。
そんな中、呆れ顔のレックスにオウガが問いかけた。
「そういえばレックス。今日は遠足だってことはリュウタも分かってただろうに、昨日のうちに準備してなかったの?」
「あぁ、あいつ「明日でも大丈夫!」なんて高を括って…案の定寝坊して急いで準備してたからな…」
「アハハ、そうだったのね…。でも、リュウタらしいわね」
「確かに…」
「まあね」
3人でそんな話をしていると、そこへリュウタが全速力で飛び込んできた。
何とか間に合ったようである。
「セーフセーフセーフ!」
「案外早かったな」
「全力だったよ!」
「何にせよ、リュウタも間に合って良かったよ」
肩で大きく呼吸するリュウタにレックスとオウガが労いの言葉をかけると、マルムが声を潜めて問いかける。
「ちょっと、ディノホルダーはちゃんとマナーモードにしてあるの?」
「あっ!やべっ!忘れてた!」
ハッとしたような反応を見せたリュウタは、すぐさまディノホルダーを弄ってマナーモードに設定する。
もし遠足中にディノホルダーが鳴り、それをゲーム機だと勘違いされてしまえば最悪没収されてしまうことにもなりかねないからである。
「…これでよし、っと!あれ?まだ出発してないの?」
「まだ来てないから…。みっちぇるが…」
「肝心の先生が遅刻してちゃ呆れるしかないよな…」
「ハァ…」
リュウタからの問いかけに呆れ顔で3人が答えていると、そこへ甲高い作り声と共に1人の女性が駆け込んできた。
大人には似つかわしくないダボダボかつフリフリのロリータファッション、そして髪型は縦ロールのこの人物こそが、Dキッズら6年生の担任の1人、みっちぇる(本名みちる)なのである。
「みんなーーーーっ!はーい!みんなの担任…いやみんなのアイドル!みっちぇる見参ーっ!」
とても遅れてきた人間の態度ではないみっちぇる先生の振る舞いと、痛々しいポーズを目の当たりにした生徒達の間に気まずい沈黙が漂う。
しかしそんな雰囲気など何処吹く風といった調子で、みっちぇる先生は話し続けていた。
「いやぁ〜、遠足の前日ってワクワクして眠れないじゃなーい?でも気がついたら爆すーい!みたいな!
で時計見たらヤバくなーい!?みたいな…。
そういうのって、あるよね…?」
どうやら遅刻の言い訳をしているらしい。
そんなみっちぇる先生を、Dキッズの4人も呆れ顔で眺めていた。
「あの先生は苦手だ…」
「俺もちょっと苦手だな…。見た目は大人なのに中身が子供っぽいのが痛々しくて見てられないよ…」
「年上のお姉さんが憧れのオウガでもそう言うんだから、みっちぇる先生って相当ってことよねー」
「まあまあ、2人ともそのうち慣れるって!」
「慣れるって…リュウタ、お前なぁ…。大体、何であの人は「みっちぇる」なんだよ?」
「本名が「みちる」だからでしょ?」
「それなのにわざわざ「みっちぇる」って名乗ってるのはどうしてなんだろうね…。生徒に親近感を持ってもらうためなのか、それとも元々そういう人なのか…。
もしも前者だとしたら、相当な努力家だとは思うけどね」
みっちぇる先生の真意について考察するオウガとは対照的に、レックスは今度は彼女の服装に目をつけた。
遠足だというのにアウトドアには似つかわしくないロリータファッションなのだからそこに反応するのは当然であると言えよう。
「それに…今日って遠足だろ?何だよあの服…。
レジャーにはとても向かないと思うけど…」
「いつもあの格好だもんなー」
彼らの視線の先で、他クラスの担任の先生達にペコペコと頭を下げていたみっちぇる先生は生徒達の前へ戻っていくと、早速指示を出し始めた。
「みんな集まってるでしょー?そんじゃあ出発しゅっばーつ!ヘイヘイゴーゴーゴーゴーゴー!」
「出席確認なしかよ…」
かくして、出発前から不安要素を抱えたまま台野小学校の6年生達は遠足へ向かうことになったのだった。
そして生徒達は続々と観光バスへと乗り込んでいったのだが、マルムは突然みっちぇる先生に呼び止められた。
「竜野さん?」
「はい?」
「ねぇ、隣の席の細川フミさん、転校してきたばっかりでしょ?仲良くしてあげてね!」
「あっ、はーい!」
なんと、転校してきたばかりの生徒を気遣い、隣に座ることになったマルムに会話をしてくれるようにお願いしていたのである。
こんな先生らしくない見た目でありながら、その心はしっかりと先生であるということが見て取れる一幕であった。
「おはよう!」
「あ…おはよう…」
席に着いたマルムが早速フミに挨拶をすると、彼女も小さな声で挨拶を返した。
頬を染めて顔を背ける彼女に、マルムは不思議そうな表情を浮かべるのだった…。
やがてバスは発進すると高速道路に乗り、山口県方面へと進んでいった。
みっちぇる先生はどうやら寝不足でもあったようで、2席分の座席シートに寝転がっていびきをかいている。
そしてその手にはテディベアを抱えていた。
これで少女なら可愛らしいで済むのだが、彼女は立派な大人の教師である。やはり変わり者であるというところは間違いないようだ。
一方、マルムはずっと窓の外を見ているフミに再び話しかけていた。
「細川…さん。話すの初めてだよね?
あ、フミちゃんでいい?アタシはマルム。竜野マルム。よろしくね!」
「うん…えと…竜野さん…」
「マルムでいいよ!」
「…うん…」
しかし、それ以上会話が続かなくなってしまう。
これからどうしたものだろうかとマルムが頭を悩ませていると、後ろの席に座っている女子2人の話し声が聞こえてきた。
「今日の鍾乳洞ってさ、トカゲとか出るんじゃない?」
「えーっ、キモーい!」
何てことはない些細な会話だったのだが、それを聞いたフミが席から立ち上がる。
その表情からは、喜びの感情を窺い知ることができた。
「どうしたの?」
「…トカゲ…!」
「フミちゃん、トカゲとか好きなの?」
「うん…好き…!」
「へぇ~、アタシも好きだよ!」
「えっ、そうなんだ…!」
「ウフフ、案外可愛いよね!何か飼ってたりするの?」
「…飼ってないよ。今は…」
「あぁ…そうなんだ…」
トカゲの話で一時は会話が盛り上がったものの、マルムがトカゲの飼育の有無を聞いたところ、フミは一気にトーンダウンしてしまった。
心配になったマルムが、彼女にまた話しかける。
「どうしたの?車酔いとかしちゃった?みっちぇるに言おうか?」
「…べっ…別に…」
「そう…」
それから、フミはマルムの方へ顔を戻すことはなく、ずっと外を見つめているだけになってしまった。
そんな気まずい雰囲気の2人を、最後尾の席からオウガ達3人が様子を窺っていた。
「マルムのやつ、大丈夫かな…」
「一時は相手も会話に乗ってたみたいだけど、すぐ終わっちゃったみたいだね。
けっこう恥ずかしがり屋なのかな…」
「そういやオウガが転校してきてから初めての校外学習に行った時は、オレが隣になったんだったよな!」
「確かにそうだったね。特に話せるようなこともないから俺がメモ帳を見てたら、リュウタが覗き込んできたんだよね。あの時Dキッズの存在を知らなかったら…今の俺はなかったと確信できてるよ。
その点では、みっちぇる先生に感謝しないとね」
「ハハハ、そうかもな!にしてもあの時はすげぇなって思ったんだぜ?なんせこの前発表されたばっかりで和訳もされてないって父さんが言ってた論文の要約も書いてたし…」
オウガとリュウタが初対面の頃の話をして盛り上がっている間、レックスは困った様子のマルムをじっと見つめていたのだった…。
山口県 秋芳洞前
数時間バスに揺られた末、ようやく秋芳洞に到着した台野小学校6年生の面々はバスから降りると整列し、教師陣からの指示を待っていた。
そんな彼らの前に、みっちぇる先生が歩み出る。
「じゃじゃーん!はーい皆さん!ここが国の特別天然記念物・秋芳洞でーす!
これからこの中を見学しまーす!でも立ち入り禁止区域は危ないから立ち入り禁止ですよー!
…当たり前だけど。ふふふふ!それじゃあ、レッツゴー!レッツゴー!」
説明を終え、元気に歩き出したみっちぇる先生に続き、6年生達が次々と歩いていく。
その中でDキッズの仲間達と行動を共にしていたマルムは、最後尾を歩くフミを心配そうな目で見つめていたのだった…。
「ヒャッホー!おお〜!声響いてるんるんるーん♪カラオケみたいじゃ〜ん♪
あっはっはっはーん↑!あっはっはっはーん↓!
天使の声みたいね…。癒やされるぅ?みんなぁ…」
いよいよ鍾乳洞の中へと入っていった6年生と教師一行。その中でもみっちぇる先生は子供のようにはしゃいでいた。まあ中身が子供みたいなものなのだが。
しかしそんな彼女とは対照的に、最後尾をトボトボとついてくるフミの表情は暗いままだった。
リュウタは然程気にかけていないようだが、マルム達3人はそんな彼女が心配で仕方ない様子だ。
「あの子、元気ないな…」
「バスでも途中まではマルムと楽しそうにしてたけど…急に無口になっちゃってたよね。
マルム。彼女とはどんなことを話してたか聞かせてもらってもいい?」
「バスの中でアタシから話しかけて…あの子、トカゲが好きだったみたいなのよね。
それでトカゲを飼ってるか聞いてみたんだけど…それから急に黙っちゃって…」
「そうだったのか…。何かしら地雷を踏んじゃったのかな…」
「まだクラスに慣れてないんだろ?友達もできてないみたいだし…。
あまり世話を焼きすぎても迷惑になるかもしれないから、少しそっとしておいてあげたらどうだ?」
「うん…」
レックスからそう諭されたものの、マルムはやはりフミの様子が気になるようで、時々彼女の方を振り返っては心配そうな表情を浮かべていたのだった…。
一方、その頃…
立ち入り禁止区域で生き埋めになってしまったウサラパ達アクト団工作員の3人は、まだそこから抜け出せていなかった。
あれから丸2日飲まず食わずだったようで、3人の顔はげっそりと痩せこけている。
「ぬはぁ…腹減ったザンス…」
「どのくらいこうしているんだろうねぇ、アタシら…」
「お腹が空いて頭真っ白、分からないザンス…」
「あー…カレーが食べたい天丼が食べたい牛丼が食べたいー…」
弱々しい声でそう叫びながらウサラパが舌舐めずりをする。どうやら身も心も限界に近づいているようだ。
しかしここは立ち入り禁止区域。そのためこの鍾乳洞を訪れる観光客から見つけてもらえることはほぼ0と言っても良かった。
そんな状況の中、ノラッティ〜がすぐ近くのエドに小さな声で何かを囁いた。
すると、途端にエドの顔が青褪める。
「…ええっ!?それ…おれが言うんスか…?」
「助かるにはこれしか方法がないザンス…。早くするザンス!」
どうやらノラッティ〜がこの状況を打開するための策を思いつき、それをエドに伝えたようだ。
しかしエドの様子を見るに、リスクが大きいものであるらしい。
「うう…ウサラパ様…申し訳ないッス!」
遂に覚悟を決めたエドが、鍾乳洞中に響き渡らんかというほどの声を張り上げた。
「オバさーん!」
エドがそう叫んだ瞬間、彼らを埋めている土砂や岩石が細かく震動し始めた。
そして、ウサラパがゆっくりとエドの方を振り返る。
その顔面には無数の青筋が浮かんでおり、顔色もみるみる憤怒に染められていっていた。
「だぁ〜れ〜がぁ〜…」
地獄の底から響くかのようなおぞましい声をあげるウサラパに、エドとノラッティ〜は真っ青になってしまう。
そしてその震動によってあの卵型カプセルが転がり落ちて割れ、中から2枚のカードが排出された。
そしてそのカードが岩の1つに触れ、紫色の光を放つ。
それと同時にウサラパは怒りを爆発させ、絶叫と共に周囲の岩石を吹き飛ばしてしまった。
「オバさんだってぇーーーーーっ!?」
紫色の光に包まれて姿を現したのは、大型の鎧竜・エウオプロケファルスだった。
しかしウサラパはエウオプロケファルスには目もくれず、オバさん呼びをしたエドに掴みかかっている。
「ええ!?もう1回言ってごらん誰がオバさんだって!?アタシのことじゃないわよね!?ノラッティ〜のことでしょ!?ノラッティ〜の…」
「まあまあウサラパ様!お陰でミー達出られたんザンスから…」
「えぇ!?…あら、ほんと」
ノラッティ〜の言葉でウサラパは突然正気に戻り、エドを手放す。しかし脱出を喜ぶ暇もなく、彼女の腹が大きな音を立てた。
「はぁ〜…怒ったら余計お腹が空いたよ…。
とにかく、まずは腹ごしらえだよぉ…」
「「ヘイヘイホー…」」
空きっ腹を抱えたまま彷徨を始めたウサラパ達3人の後ろでは、エウオプロケファルスもどこかへ歩み去ろうとしていたところだった。
彼は一声鳴くと、ウサラパ達とは反対方向へと歩いていく…。
「今の、誰のお腹が鳴ったんだい?でっかい音だねぇ…」
「おれじゃないッス…」
「ミーでもないザンス…」
「じゃあアタシのお腹だったんだねぇ…」
こうして、腹を満たすこと以外何も考えられない状態のウサラパ達は、エウオプロケファルスを捕獲する最大のチャンスを逃してしまったのだった…。
その頃、Dキッズを含めた台野小学校の6年生達は、鍾乳洞を更に奥へと進んでいるところだった。
そんな中、リュウタがふと何かに気付いたように顔を上げる。
「…ん?」
「どうした?」
「今、なんか…恐竜の鳴き声みたいなのが聞こえなかったか?」
「そうお?」
「俺には何も聞こえなかったよ?」
「うーん…」
と、そこでみっちぇる先生が立ち止まり、高らかに声を上げた。
「ひゃっほう!さあみんな時間よー!
遠足でのお楽しみ…お弁当タイムでーす!」
みっちぇる先生の号令を聞いた生徒達は一斉に駆け出していくと、思い思いの場所で弁当を開いたのだった。
その頃、ウサラパ達は食べ物を探して鍾乳洞を彷徨している真っ最中だった。
低いうめき声を上げながら洞窟を彷徨う姿は、まるで亡者の行進のようである。
だが、そこで先頭のウサラパが鼻をひくつかせた。
どうやら食べ物の匂いを嗅ぎつけたらしい。
「なんかいい匂いがするね…」
「クンクン…あっちの方から食べ物の匂いがするッス!」
「「「うーっ…それーっ!」」」
食物を得られる千載一遇のチャンスに、ウサラパ達は歓喜の声を上げながら駆け出していったのであった…。
戻って生徒達の方では、それぞれが好きなところに敷物を広げ、持ってきた弁当を楽しんでいた。
勿論、その中にはDキッズの4人もいる。彼らはリュウタが持ってきた大きな敷物の上で弁当を広げていた。
「へへへっ!弁当弁当!」
「あ~、お腹減った〜…」
早速弁当を開いたリュウタがおにぎりを口に放り込み、オウガ達も弁当箱を取り出していたところで、マルムはふとフミの方へ視線を向けた。
彼女は1人隅のところで敷物を広げようとしていたのだ。
マルムは決心したように立ち上がると、彼女に近づいて声をかけた。
「フミちゃん!良かったらこっちで一緒に食べない?」
マルムの声にフミは一度顔を上げたものの、マルムの足元を見て顔を綻ばせた。
そこをオレンジ色のトカゲが走り抜けていったからである。
そのトカゲは素早い動きで立ち入り禁止の看板が立てられた通路へと入っていく。
それを追いかけ、フミもそちらへと走っていってしまった。
「あっ…待って!」
「あっ、そっちは!フミちゃん!待ってー!」
フミの名前を呼びながら、マルムも立ち入り禁止の通路へと入っていく。
「あれ?これから弁当だっていうのに、マルムはどこへ行くんだろう?」
「やっぱりあのフミって子のことが気がかりみたいだな…」
「まあ、オレ達はまずお弁当食べようぜ!腹が減っては戦はできぬって言うしさ!」
そう言うとリュウタはハンバーグを頬張ったのであった。
一方、立ち入り禁止通路の先へ向かったフミに、ようやくマルムが追いついた。
どうやらフミは先程のトカゲを見失ってしまったようである。
「フミちゃん、どこ行くの?」
「あっ…今、ハナちゃんが…」
「ハナちゃんって?」
「ペットのイグアナ…。仲良しだったのに…引っ越してくる前に…死んじゃったの…」
そう言いながらフミはケータイを開き、待ち受け画面をマルムに見せる。そこには、1匹のグリーンイグアナが映されていた。
「フミちゃん…」
これではっきりした。
フミがどこか沈んだ様子を見せていたのは、クラスの輪に加われないことではなく、可愛がっていたイグアナを失った悲しみから立ち直れずにいたからだったのだ。
それを実感したマルムは、彼女にどう言葉をかければよいか迷っていた。
その時…。
「いやぁーーーッ!」
先程の場所から、みっちぇる先生の金切り声が聞こえてきたのだ。
そのただならぬ雰囲気を感じ取ったマルムがフミにも声を掛ける。
「あっ!どうしたんだろう…?
フミちゃん!戻ろう?」
「う…うん…」
フミが頷いたことを確認し、マルムはもと来た道を駆け抜けていく。
しかしフミは途中で足を止めてしまった。
先程見失ったオレンジ色のトカゲが再び姿を現していたのだ。
「ハナちゃん!…待って!」
何故か野良のトカゲを、かつて飼っていたイグアナの名前で呼ぶフミ。
もしかすると彼女は、今も死んだイグアナの影を追いかけ続けているのであろうか…。
その頃、先程の昼食場所では、みっちぇる先生が突如乱入してきたウサラパと弁当を引っ張り合っていた。
どうやら食物の匂いを嗅ぎつけたウサラパが現れ、みっちぇる先生の弁当を奪おうと掴みかかったようである。
「ぐぬぬぬぬ…これは私のお弁当よぉ…!
何なのよアンタ達ぃ!?」
「フフフフ…アタシ達はぁ…」
「泣く子も黙ーる!」
「秘密結社!」
「アクト団さ!」
何なのよアンタ達と聞かれたら答えずにはいられないのか、ウサラパも一瞬弁当から手を離して名乗りを上げる。
そしてまた弁当の引っ張り合いを始めるのであった。
「負けないわよぉ…!私もみんなのアイドルぅ…みっちぇるよぉ♪」
アクト団の名乗りに刺激されたのか、みっちぇるも一瞬弁当から手を離して名乗りを上げた。
そして再び弁当の引っ張り合いに戻る。どこか似たもの同士の2人であった。
「可愛い〜!」
そのみっちぇるの名乗りを見たエドが頬を紅潮させて喜ぶ。流石以前監視カメラをハッキングしてアキバや原宿のゴスロリを視姦していただけのことはある反応であった。
そんな彼の顔面にウサラパは後ろ蹴りを入れると、みっちぇるに食ってかかった。
「なぁーにがアイドルだい!若作りしたってアタシの目は誤魔化せないよぉ!?オバさん!」
「オバさんっ!?失礼ねぇ!地元じゃ18歳で通ってるんだから!そっちの方がオバさんじゃん!」
「なぁんだってぇ?アタシなんか17歳って言われてるんだよぉ〜?」
「ハッハッハッハッ!そんな鳥の足跡つけて17歳だなんて言えるもんですか!フッフッフッフ…」
ウサラパも目元のシワは気にしていたようで、更にヒートアップしていく。
「アンタだってその厚化粧剥がしたら、シワしか残んないわよぉ!アッハッハッハッ…」
と、そこへ様子を見ていた生徒達を押しのけながら前へと出ていく者がいた。
リュウタとオウガである。
2人はみっちぇる先生と争っている相手がウサラパ達ということに気づき、驚愕の声を上げた。
「何でオバさん達がここにいるんだよ!?」
「あっ!自称19実年齢三十路のオバさんじゃないですか!こんなところまで何しに来たんですか?」
「「キィーッ!オバさんじゃないってぇ!」」
ちょうどオバさん論争で火花を散らしていたウサラパとみっちぇる先生が、リュウタとオウガの「オバさん」呼びにすぐさま反応した。
が、ウサラパも2人の姿を見て驚く。彼らがここにいるとは夢にも思っていなかったのだろう。
「あっ、アンタ達…!」
「古代!覇轟!このオバさん達と知り合いぃ?」
「あっ、いや…」
「これには深い事情がありまして…」
「オバさんはアンタだっつーのぉぉぉ!」
リュウタとオウガがしどろもどろになった隙にみっちぇるがウサラパに再び食ってかかり、また2人は弁当を挟んで睨み合い始めた。
「リュウタ!オウガ!」
その時、レックスが2人を呼びつけた。
彼の指さす先にはリュウタのディノホルダーがあり、画面が点滅していたのだ。
恐竜が現れたということである。
「あっ!ディノホルダーが…!」
「まさか恐竜が出たのか…!」
その間にみっちぇる先生とウサラパの弁当争奪戦は終焉を迎えていた。ウサラパが隙を見て弁当をひったくり、背を向けて逃げ出したのである。
「とにかく!この弁当はいただきーっ!」
「待ちなさーい…あっ!」
ノラッティ〜やエドと共に逃げ出していくウサラパをみっちぇる先生は追いかけようとしたものの、何もない場所で転んでしまった。
「うわあぁーーん!返してマイ弁当ーーーっ!」
今回の遠足で1番の楽しみにしていた弁当を奪われ、みっちぇる先生は滝のように涙を流したのであった…。
一方オウガ達がそれぞれのディノホルダーやディノラウザーで恐竜の出現場所を確認していると、その場へマルムも戻ってきた。
「どうしたの?」
「恐竜が出たんだよ!この辺りに…」
「えっ!?」
「どうする?」
「テレポートルームを使わなくてもいいのは不幸中の幸いだけど…どうやって抜け出そうか…?」
「決まってるだろ!何とかみっちぇるの目を盗んでここを抜け出して、恐竜を探すんだ!」
リュウタの言葉にオウガ達は力強く頷くと、ソロリソロリと立ち入り禁止通路の方へと向かっていく。
しかし、そこで悲しみに耽っていたみっちぇる先生が突然顔を上げた。
「うわぁぁぁん…弁当ぉぉぉぉ…。
ん?どこ行くの古代くん達?」
「「「「ギクッ!」」」」
「お弁当を狙う悪の秘密結社がいるから離れちゃいけませんっ!」
「あー、えっと…そのぉ…」
リュウタが何とか抜け出す言い訳を考えていると、周囲を見渡していたみっちぇるが素っ頓狂な声を上げた。
「あら?細川さんは…?」
「え?…あぁっ!いない!」
マルムも周囲を見渡し、初めてフミがいないことに気づいたのだった…。
さて、当のフミはあのオレンジのトカゲを遂に捕まえたようで、手の中のトカゲに微笑みを向けているところだった。
「フフフ…捕まえた!ハナちゃん…!」
そんな彼女に、原因不明の震動が伝わってくる。
それは、何か大きなものが移動する時に発生する衝撃震動であった。
不思議に思った彼女が正面を見ると、そこにはあのエウオプロケファルスが立ちはだかっていたのである。
エウオプロケファルスはペロリと舌を出し、その小さな瞳で彼女を静かに見つめている。
これにはトカゲ好きの彼女も恐怖のあまり、尻もちをついてしまったのだった…。
今回はここまでです。
アニメでは「鍾乳洞」という形でぼかしてはいましたが、今作では恐らくここだろうということで、秋芳洞にしてあります。
でも…原宿まで電車で30分のところから、山口まで日帰り遠足できるものなんでしょうか?
正直ここに関しては違和感を抱かずにはいられないので、もし舞台になったと思われる鍾乳洞があれば、是非コメント等で教えていただきたいです。
それでは、明後日に投稿予定の後編でまたお会いしましょう。
第26話の原作「恐竜遊園地で大儲け!」にあたるエピソードでマルムの第2のパートナー恐竜を登場させたいと考えております。つきましては、私が選出した候補からどれが相応しいか皆様からご意見を伺いたいのです。もしよろしければ、以下のうちから1つを選んでご回答下さい。
-
ランベオサウルス
-
エドモントサウルス
-
カロノサウルス
-
コリトサウルス
-
オウラノサウルス
-
ディプロドクス・ハロルム(小)