古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は後編…のつもりでしたが、またしても長くなってしまったので、また分割して中編から投稿します。
度重なる予定変更で混乱を与えてしまいましたら、誠に申し訳ありません。今回も後編は明日投稿致しますので、それでお許し頂きたいです。


中編

その頃 アクト団基地 アジ島外周部密林地帯

 

 赤道直下ということもあって暑い密林の中に、1人倒木に腰掛けている者がいた。アクト団のロアである。兄のロトは今日の勉強もそこそこにノーピスに連れられてソーノイダの護衛として六本木へ向かってしまったので、今は彼女1人しかいないのだ。

 

「おにい様…やっぱり変わってしまったわ…。

最近はわたしのことなんて、眼中にもない感じだもの…」

 

 誰に言うでもなくそう呟いているうちに、彼女の目に涙がこみ上げてくる。そして、その涙が目からこぼれ落ちそうになった時だった。

 

クァ…カカッ… クァ…カカッ…

 

 どこからか甲高くも弱々しい声が聞こえてきたのである。

 

「何かしら? 怪我してる鳥でもいるのかも…」

 

 どちらにせよ、正体を突き止めなければならない。そう考えたロアは涙を拭うと立ち上がり、声のした方へ歩いていく。

 茂みを抜け、木々の間を抜け、水辺へとやって来たロアは、ようやくその声の主を見つけた。

 それは、全長5メートルほどの小型肉食恐竜だったのだ。長めの鼻面に、足には1対の一際大きな鉤爪があることからも、ラプトルの仲間であることは疑いようが無いだろう。しかし、白に黒の斑点があるその体は、特に痩せ細っている訳ではなさそうだった。

 

「あなた…だれ…?」

 

 ロアがそう問いかけると、その白い恐竜はロアの方をギロリと見ただけで、顔を上げることすらできないようだ。空腹ではないものの、かなり衰弱していることは間違いない。

 

「もしかして…お腹が空いてるの? 待ってて! 何か持ってくるわね!」

 

 すぐにロアは食べ物を持ってこようと駆け出していった。そのため彼女は、その白い恐竜の周囲に無数に残る2本指の足跡に気づくことはなかったのであった…。

 

 

戻って東京 六本木

 

『仮称ロッキーは、六本木のショッピング街を破壊したまま、今はどこかに隠れたのか、姿を見せていま…』

 

バキィッ!

 

 六本木の街頭テレビからも、テリジノサウルスの動向が流れていた。しかしそのモニターから音声が流れていたばかりに、盲目テリジノサウルスの標的となってしまい、無惨にも破壊されてしまう。オーウェンの話にもあった通り、尋常ならざる獰猛性であった。

 

 そんな彼はさておき、テリジノサウルスを追いかけていたDキッズは、ようやく三畳TV局の前まで到着したところのようだ。

 

「あいつ、どこ行った!?」

 

「あんなに大きな体だったんだし、この都会で姿を隠すなんて難しいと思うんだけど…」

 

 そんな話をしていると、遥か上から虹色の光が降り注いでくる。その光源を追うと、三畳TV局の屋上に、虹色に輝くテリジノサウルスがいたのだ。

 

「うう…。眩しくてよく見えないよ…」

 

「全身から虹色の光を放つなんて…前回のパキケファロサウルス以上じゃないの…」

 

 そして、そんなテリジノサウルスのもとへソーノイダを乗せた飛行船が近づいていく。

 

「テリジノちゃーん! どうして逃げるぞい? ワシの事を忘れたぞいか〜?

さぁ、おいで。パパだぞ〜い!」

 

 そう言いながらソーノイダは両手を広げるものの、テリジノサウルスは甲高い声を上げながら尻尾を振るい、飛行船を弾き飛ばしてしまった。

 バランスを崩して落ちかけたソーノイダを、ロトとノーピスが2人がかりで引っ張り上げて、事なきを得ることができた。

 

「ドクター! 危険です!」

 

「そうだよお爺ちゃん! 今は尻尾で済んだけど、もし爪で攻撃してきてたら、こんな飛行船一瞬でズタズタにされちゃうんだよ!」

 

「な…何故だテリジノちゃん…。何故なんだぞーいっ!」

 

 そしてまたテリジノサウルスに飛行船を寄せようとするソーノイダに対し、テリジノサウルスは嫌嫌をするような仕草を見せていた。それでもめげずに接近するソーノイダを、ノーピスが説得しようとする。

 

「ドクター! いい加減にして下さい!」

 

「うるさいぞい! ロトはともかくとして、お前もテリジノちゃんを連れ帰るために何とか手を打たんか!」

 

「何とかと言われましても…」

 

 ソーノイダから無理難題をふっかけられたノーピスは、手元のコンソールを弄り始めた。ひとまずテリジノサウルスの分析から始めることにしたようである。

 そして、その結果にノーピスは目を見開いた。

 

「ムッ、これは…予想を遥かに上回るパワーだ…」

 

 コンソールの画面には、彼の予想を上回る属性エネルギーがテリジノサウルスの体から放たれていることが分析結果として表示されていた。

 そしてノーピスの分析中にも、ソーノイダは飛行船を近づけようとしていたものの、そんな彼へDキッズが叫んだ。

 

「やめろ! 嫌がってるじゃないか!」

 

「なっ…!」

 

「さっきからずっと疑問に感じてましたけど…テリジノサウルスの様子が、あなたが現れる前と後で全然違っているように思えてならないんですよ!」

 

「っていうか明らかに怯えてるわよ! おじいさんのこと、怖いんじゃないの〜?」

 

「ワシの事が怖い…? そんなはずは…」

 

 ない、と言い切ろうとソーノイダがテリジノサウルスの方を見ると、彼は両手で顔を覆い隠していた。明らかに怯えている仕草である。

 それを見て、ソーノイダはようやく自分がテリジノサウルスに恐れられていることに気づいたのであった。

 

「そ…そんなぁ…。わ…ワシはただ…お前のためを想って…お前に…強い子になってもらいたくて…」

 

 先程までの強気な態度はどこへやら、ソーノイダはしょげ返ってしまった。そんな彼の脳内には、かつて赤ん坊だったテリジノサウルスの面倒を見ていた頃の想い出が蘇ってくる。

 ご飯の時間の前なのに、つまみ食いをしようとしたテリジノサウルスを叱ったこと。

 アイスの食べ過ぎでおねしょをしてしまったテリジノサウルスを、布団叩きを手に追いかけ回したこと。

 そして、パキケファロサウルスの時と同様、泣き喚くテリジノサウルスをすごいマシンにセットし、3枚の技カードと融合させた時のことを…。

 最後の記憶で台無しである。

 

「愛のムチだったんだぞーいっ!」

 

 そのように大声を張り上げたソーノイダに、テリジノサウルスは大袈裟な位に怯えた様子を見せた。

 

「ワシのやり方は…間違っておったのかぞい…?」

 

「お爺ちゃん…」

 

 誰に言うでもなく、そう呟いてがっくりと項垂れるソーノイダを励まそうと、ロトが声をかけようとしたその時だった。

 赤・青・紫の光がテリジノサウルスの前に現れたかと思うと、そこからティラノやスピノ、サイカが姿を現したのである。

 

 ちょうどその時、展望台から降りてきたウサラパ達が、テリジノサウルスと向かい合うソーノイダの飛行船を見つけたところだったのだ。

 

「あぁっ! ドクター達が大変!」

 

「しっかし、本当にテリジノサウルスがいたザンスね!」

 

「夢も占いもホントだったんスねぇ…。

でもこのままだと、ドクター達が切り刻まれちゃうッス!」

 

「よし、行くよっ!」

 

「「「アクトスラーッシュ!」」」

 

グァギュオォォォッ!!

 

ガアァァァァァッ!!

 

ウオォォオォォォッ!!

 

 そう。突如現れたアクト恐竜達は、ソーノイダをテリジノサウルスから助けようとしたウサラパ達が召喚したものだったのである。

 当然、ソーノイダはウサラパ達に向かって怒鳴った。

 

「やめろっ! やめるんだぞーい!

テリジノちゃんに乱暴な真似をすることは、ワシが許さんぞーい!」

 

「「「えーっ?」」」

 

 しかし、ウサラパ達のいる場所からティラノ達に指示を与えることはできない。3体は揃って駆け出し、テリジノサウルスに攻撃を加えようと迫っていった。

 しかしテリジノサウルスは自慢の爪を振るって3体をあっさりと蹴散らしてしまった。その内の1体…サイカは宙へと投げ出されてしまい、地面に落下してカードに戻ってしまう。

 

「あぁっ! サイカがやられちゃったッス!」

 

 そして、テリジノサウルスの猛攻は止まらない。ティラノとスピノがダウンしていないのを見た彼は、高く咆哮すると共に虹色の光に包まれたのである。技を繰り出そうとしているのだ。

 するとテリジノサウルスは両腕を構えてコマのように高速回転し、その勢いのままティラノとスピノに向かって突撃していく。哀れ2体はメッタメタに切り裂かれた上に屋上から投げ出され、カードとなって落ちていってしまった。

 この脅威とも言える強さには、ウサラパ達のみならずDキッズやロトも恐怖せずにはいられなかった。

 

「「「ひぃぃぃぃ…」」」

 

「あっ、あれは…『超回転爪撃(ジャイロスラッシャー)』ッス!」

 

「なんて強さなんだ…!」

 

「この強さ…。前のパキケファロサウルスの時と同じ…いや、それ以上だね!」

 

「言わんこっちゃないぞい。ワシのテリジノちゃんに乱暴するから、こんなことになるのだぞい…」

 

「それにしたって、お爺ちゃん…。

アクト恐竜が3体がかりでも相手にならないって、いくら何でも強すぎるよ…」

 

 その時、どこからともなくサイレンの音が聞こえてきた。テリジノサウルスが下を見ると、数多くのパトカーや機動隊輸送車が駆けつけてきているではないか。

 そしてTV局であるからには、三畳TVの報道陣が屋上へと雪崩込み、テリジノサウルスを取り囲んで中継を始めたではないか。

 

「ロッキーです! ロッキーが我が局の屋上に現れました! 只今こちらから、恐竜のナマの声を…」

 

「やめろーっ! やめんか! ワシのテリジノちゃんに何てことをするんじゃぞい!」

 

 その光景にソーノイダが大声で抗議した時だった。

 テリジノサウルスはフラッシュから逃れるように走り出すと、ビルを飛び石のように足場にしてから六本木ヒルズにしがみついたのだ。

 

「なんてこった…。テリジノサウルスがスパ◯ダーマンみたいにビルの外壁に貼り付いてる…」

 

「上へ逃げる気なんだ!」

 

 その時、ガブが脇目も振らずに走り出したのだ。イナズマも少し出遅れながらも後に続く。

 

「あっ! ガブ! イナズマ!」

 

 リュウタの静止の声も聞かずにガブとイナズマは走り続け、テリジノサウルスの真下に付けると、まずはガブがジャンプしてその尻尾に噛みついたのだ。それと同時にテリジノサウルスはビルを登り始める。

 続いてイナズマもテリジノサウルスの尻尾に噛みつこうとジャンプするものの、届かずガブの尻尾にぶら下がることになってしまった。

 

「あぁっ! ガブもイナズマも、あのまま落ちたら大変だぞ!」

 

「ここは先回りしましょ!」

 

 マルムの言葉にオウガ達3人も頷き、走り出そうとした時だった。

 背後から轟音と悲鳴が聞こえてきたのである。4人が後ろを振り返ると、そこではあの盲目のテリジノサウルスが、集まった警察車両へ執拗に攻撃を加えているところだったのだ。

 

「なっ…何だぁっ!?」

 

「あれも見た感じテリジノサウルスだけど…様子が変だぞ!」

 

「…まさか!」

 

 そこでオウガは肩掛けバッグからディノラウザーを取り出し、画面を見てみた。そこではディノサーチの画面になっていて、六本木に赤い点とオレンジの点が出現していたのである。

 

「しまった…。地下鉄に乗る時にマナーモードにしたままだった…」

 

「オレンジ…ってことは…あのテリジノサウルスは…!」

 

 その時、自分達のもとへ駆け寄っていく姿を4人は認めた。それは、オーウェンだったのである。

 

「君達! 無事か!」

 

「お久しぶりです、オーウェンさん! 俺達は無事ですけど…あの恐竜って…」

 

「概ね君達の推測通りだ。あれはオレ達の世界のテリジノサウルスなんだよ。

だが、ちょっと厄介な習性の持ち主でな…」

 

「厄介な…? 何なんですかそれって? 僕達にも教えて下さい!」

 

「まあ待ってくれ。まずは…あそこで宙ぶらりんになっているガブとイナズマを助けるのが先だ!

話は走りながらする! さあ、行こう!」

 

 そしてDキッズとオーウェンは、共にテリジノサウルスとガブ、イナズマを追いかけて六本木ヒルズの館内へ入っていったのであった…。

 

 一方、ソーノイダは再び飛行船をテリジノサウルスのもとへ近づけ、何とか対話を試みようとしていた。

 

「悪かったぞい、テリジノちゃん…。

お前がそんなに辛い思いをしていたのに、ワシはそれに気づいてあげられなかったぞい…」

 

 しかし、あまりにも近づきすぎてしまったため、テリジノサウルスの進路を塞ぐような形となってしまった。当然テリジノサウルスに爪で押し退けられてしまう。

 

「お爺ちゃん! これ以上近づくのはやっぱり危険だよ!」

 

「そうは言っても…このまま誤解されたまま撤退したくはないぞい! 何とかあやつを連れて帰ることができれば…」

 

 ソーノイダはそう言いながら籠の欄干を握りしめる。するとその背後で、ノーピスがロトに声を潜めて何かを囁いた。それを聞いたロトは頷き、ソーノイダに呼びかける。

 

「お爺ちゃん。こうなったら、多少手荒な手段を使ってでもテリジノサウルスを連れて帰るしか方法はないんじゃない?」

 

「何…? まさか! この高さから落とすつもりぞいか!?」

 

「ロト君の言う通りです、ドクター。落下となれば恐竜の命に関わるかもしれませんが、カードに戻して回収するのであれば、それしか方法はないかと…」

 

「ぐぅ…。ぬぬぬぬ…」

 

 しばらくソーノイダはロト達とテリジノサウルスを見比べて考えていたが、やがて決心したように頷いた。

 

「…分かったぞい。ただし、それは最後の最後…打つ手が全てなくなった時の苦肉の策ぞい。

それまでは何とか頑張らせてほしいぞい…」

 

「それは勿論です。しばらく様子を見ましょう」

 

 

 その頃、Dキッズはオーウェンと共に展望台行きのエレベーターに乗り込み、そこで彼から例のテリジノサウルスについての話を聞いていた。

 

「ええっ! つまりあいつって、目がよく見えてないのか!?」

 

「その通りだよ、リュウタ君。だから奴は、その分周囲の音にひどく敏感な恐竜なんだ。

しかも縄張りに固執する性格で…自分の領域を侵す者は例え小さな動物でも手を抜かないらしくてね…」

 

「それでさっきは、パトカーを執拗に攻撃していたんですね…。あのサイレンの音を頼りに排除対象を把握してたんだ…!」

 

「そうだ。だから今回は運良くここへ来れたことだし、オレも一緒に戦わせてもらうぞ。

ある程度は、オレも対策は講じてきたつもりだからな…おっと、着いたぞ」

 

 そしてエレベーターの扉が開くと、ちょうど彼らの目の前の外壁を、テリジノサウルスが登っていくところだった。その尻尾には、変わらずガブとイナズマが食らいついている。

 

「ダメだ! 今からレクシィ達を召喚したんじゃ間に合わない!」

 

「もっと上だ!」

 

 だがタイミングを逃したようで、再び彼らはエレベーターに乗り込んだのだった。

 

 一方でソーノイダ達も、変わらず飛行船でテリジノサウルスを追いかけていた。

 

「ワシは諦めんぞい! ノーピス! もっと高度を上げるぞい!」

 

「はっ!」

 

 そして更に飛行船は高度を上げていったのであった。

 

 そしてその頃、Dキッズとオーウェンは、ようやくテリジノサウルスの先回りをすることに成功したようだった。窓ガラスから下を見下ろすと、少し下からテリジノサウルスがよじ登ってきている様子が見て取れる。しかし尻尾に食らいついているガブとイナズマは、そろそろ限界が近いようだった。

 

「ガブ! イナズマ! 頑張れ! もう少しだ!」

 

「よし! みんな、行こう!」

 

 今度はタイミングを逃さないようレックスが呼びかけると、それにマルムとオウガ、そしてオーウェンが頷きで返し、それぞれの恐竜カードを手に取った。

 

「ディノスラーッシュ!

吹き抜けろ! カルノタウルス!」

 

グォォォォォォン!!

 

「ディノスラーッシュ!

芽生えよ! パラサウロロフス!」

 

キュオォォォン!!

 

「ディノスラーッシュ!

揺るがせ! ステゴサウルス!」

 

ケエェェェェ…!!

 

「オレ達もやるぞ! ブルーッ!」

 

キシャーッ!!

 

 計4体の恐竜は召喚されるや否や、目の前のガラス壁から頭を突き出し、テリジノサウルスを展望デッキの中へ引きずり込もうと引っ張り始めたのである。

 そしてようやく引き込み終えると、テリジノサウルスと同時にガブとイナズマも放り出されるような形で中へと入ってくる。

 

「よし! まずはガブ! お前から行くぞ!」

 

 続いてリュウタもガブをカードへ戻し、ディノホルダーにスキャンした。

 

「ディノスラーッシュ!

轟け! トリケラトプス!」

 

ゴオォォォォォ!!

 

 そしてガブも成体の姿で降り立ち、テリジノサウルスと向かい合った。計5体の恐竜を相手にしている訳なのだが、テリジノサウルスは全く動じる様子もない。

 それどころか両腕の爪を交差するように構えると、その体が虹色の光に包まれたのである。

 

「なっ…何だ!?」

 

「もしかして、技…?」

 

「間違いない! 技を使おうとしてるみたいだけど…あの構え、さっきの技とは違う!」

 

 オウガの予測は正しかった。テリジノサウルスの体に宿った虹色の光は爪に収束すると、その爪を覆うように伸びていったのである。

 そしてテリジノサウルスはその光爪を振り回し、瞬く間にエースとパラパラを戦闘不能に追い込んでしまった。

 

「エース…ごめんな…」

 

「パラパラ…」

 

 そして更に突っ込んできたガブとアメジストを光爪で受け止めると、逆に切り裂き返してしまったのである。

 

「あぁっ! ガブ!」

 

「アメジスト! 大丈夫!?」

 

カードに戻りこそしなかったものの、リュウタのディノホルダーとオウガのディノラウザーからピンチを知らせる警告音が鳴り出した。今の一撃だけで相当なダメージを負ったようである。

 最後に、テリジノサウルスはブルーに斬りかかってきたのだが…。

 

「ブルー! 思いきり跳ねて爪を躱したら、後は回避に専念しろ!」

 

 縦横無尽に駆け回るブルーを追うことができずにいるうちに爪から光は消えていってしまった。

 ブルーを討ち漏らしこそしたものの、数で負けている割にあまりにワンサイドゲームな展開を見たソーノイダは、声を震わせながら呟いた。

 

「あれこそ『切裂巨爪(ネイルブレード)』…! なんという切れ味の技じゃ…。あのガキンチョ共の恐竜、それも複数体を相手にあそこまで圧倒できるとは、やはり訓練の成果が出ておるのう…」

 

 そこでソーノイダはもう一度、テリジノサウルスと対話を試みることにしたようだ。またその身を乗り出して、テリジノサウルスへと話しかけた。

 

「さぁー、もう一度…もう一度だけでいいから、パパの言うことを聞いておくれ!

手荒な真似はしたくないのだぞい!」

 

 その言葉が通じたのか、テリジノサウルスは彼を振り返り、小さく吠えた。

 

「…そうだ! いい子になってくれたら、またお前の好きな追いかけっこをするぞい!

厳しい訓練の後、いつも一緒に遊んだ、あれぞい!」

 

 それを聞いたテリジノサウルスは、頭を捻っていた。どうやら何かを思い出そうとしているらしい。

 

「でも、あんまり夢中になって引っ掻いたらダメぞい!…ほーれ! お前が引っ掻いた痕ぞい!」

 

 そう言いながらソーノイダは尻をテリジノサウルスに向け、そこに残る傷痕を見せつけた。

 するとテリジノサウルスが目を大きく見開き、吠える。ソーノイダとの想い出は辛いものも多かったようだが、その一方で楽しかった想い出も沢山あったことを思い出してくれたようだ。

 

「おおっ! 思い出したか! テリジノちゃん!」

 

 ソーノイダがそう呼びかけると、テリジノサウルスはうんうんと頷きながら、彼に向けて両腕を広げた。

 

「さぁ、昔のようにだっこしてあげるぞい! そーれっ!」

 

 するとソーノイダは飛行船の籠を踏み切り、テリジノサウルスの頭に飛びついたのである。見事にテリジノサウルスはソーノイダを受け止め、久方ぶりに彼からハグをしてもらっていた。

 

「よちよち…テリちゃん…」

 

 だがこれには、ノーピスやロトだけではなく、Dキッズとオーウェンも驚いた。何故なら、本来ならばソーノイダのジャンプで届く距離では無かったからである。そこをテリジノサウルスが目一杯首を伸ばしたことで、何とか飛び移れた形だったのだ。

 

「…ん?」

 

 しかし、ソーノイダはその場に流れる緊迫した雰囲気に気付いた。気づいてしまったのだ。

 そして彼は下を見てしまい…そこにテリジノサウルス以外何も足場がないことに気づいてしまったのだった。

 

「うわーっはははーっ!?」

 

 それに慌てたソーノイダが暴れたことでテリジノサウルスはバランスを崩し、展望デッキから落下してしまいそうになる。

 が、そこで素早くガブとアメジストが飛び起き、ガブはテリジノサウルスの尻尾を、アメジストはガブの尻尾を咥えることで何とか落下を食い止めることはできた。

 

「ガブ! 頑張れ!」

 

「アメジスト! 辛いだろうけど…あともう少し、何とか頑張ってくれ!」

 

「ひぃーっ! テリジノちゃん! 何とか頑張るのじゃぞい! せっかくお前とまた分かりあうことができたというのに、ここで落ちたら一巻の終わりぞい!」

 

 しかし、ガブもアメジストも体力は尽きかけている身である。引っ張り上げようと踏ん張るものの、2体の体は少しずつ外へと引きずられていった。

 

 もし…彼らのパートナー恐竜が1体だけだったのなら、ここで何も手を打つことができず、テリジノサウルス諸共落下してしまっただろう。

 だが、そうではない。彼らにはまだ、余力のある恐竜達が残っているのである。

 

「頼む! レクシィ! アメジストとガブ…そしてテリジノサウルスを助けてくれ! ディノスラーッシュ!

燃え上がれ! ティラノサウルス・レックス!」

 

ゴガアァァァァァッ!!

 

「イナズマ! お前も頼んだぜ! ディノスラーッシュ!

轟け! スティラコサウルス!」

 

ギュオォォォォォ!!

 

「アイン! 君も力を貸してくれ! ディノスラーッシュ!

吹き抜けろ! アロサウルス!」

 

グゥガアァァァァ!!

 

「ランラン、あなたもお願い! みんなを助けてあげて! ディノスラーッシュ!

芽生えよ! ランベオサウルス!」

 

プォォオォォォオ!!

 

 レクシィ達が成体の姿になって降り立つと、彼らもガブやアメジストの体を引っ張ったり、テリジノサウルスの体に噛みついて引っ張り始めたのだ。

 彼らの頑張りによって、次第にテリジノサウルスとソーノイダの体は引き上げられていき…遂にソーノイダとテリジノサウルスは落下を免れることができたのである。

 

「た…助かった! 助かったぞ〜い! テリちゃん! ワシらは助かったんだぞ〜い!」

 

 命拾いしたソーノイダとテリジノサウルスは、互いに涙を流しながら抱き合っていた。

 一方で、Dキッズはそれぞれのパートナー恐竜達を労っていた。その中でもオウガとリュウタは、横になって大きく息をするアメジストとガブにそれぞれ話しかけていた。

 

「ありがとう、アメジスト。テリジノサウルスを助けられたのは、君とガブのお陰だよ」

 

「ガブもよく頑張ったな! 流石だぜ!」

 

 2人から褒められたアメジストとガブはニコリと微笑むと、カードへ戻っていく。体力が尽きてしまったのだ。そのカードをオウガとリュウタはそれぞれ拾い上げると、レックスやマルムと共にソーノイダに向き合った。

 

「さあ! 話を聞かせてもらうわよ! おじいさん! あなた、テリジノサウルスに一体何をしたの!?」

 

「ぞっ、ぞいっ!?」

 

「あんなにテリジノサウルスが怯えていたのは、何かのっぴきならない事情があったんですよね?」

 

「もし内容が内容なら…あんたはテリジノサウルスに謝るべきだ!」

 

 Dキッズから口々に追求を受け、ソーノイダは小さく縮こまってしまう。しかしそんな彼を守るようにテリジノサウルスが、Dキッズの4人の前に立ったのである。

 

「あら? さっきはあんなに怯えてたのに…」

 

「ゾイじじいを守ろうとしてるのか?」

 

 テリジノサウルスのことを思ってソーノイダを追求しようとしたのに、肝心のテリジノサウルスはソーノイダを恨んでいる訳ではないようだと彼らにも理解できた。

 そしてテリジノサウルスは、ソーノイダの方へと向き直り、じっと見つめてきた。その瞳を見ている内に、ソーノイダはいてもたってもいられなくなったようで、こう口にしたのである。

 

「テリジノちゃん…。本当にすまなかったぞい…。

ワシは、これがお前のためになると思って厳しい鍛錬と躾をしていたのじゃが…それがお前には限りなく苦痛だったのじゃな…。

今更許してくれ、なんて遅いかもしれんが…どうかワシを…許してくれはしないかぞい…?」

 

 そう言い切り、ソーノイダは目線を下に落とした。テリジノサウルスがどんな顔をしているのか、見たくなかったのかもしれない。

 そんな彼をテリジノサウルスはしばらく見つめていたが、突然彼の前にしゃがみ込むと、彼の背中に両爪を回して抱き寄せたのだ。

 

「! お…おぉ…テリちゃん…!」

 

 ソーノイダの目に涙が浮かぶ。その仕草に彼はは覚えがあったのだ。自分に叱られた後、いつまでもしょげていたテリジノサウルスを慰める時に、よくそうやって抱きしめてやっていたのである。

 言うなればこれは2人にとって、仲直りの合図でもあった。

 

「テリジノちゃん…ワシを…許してくれるのか…!?」

 

 ソーノイダの言葉に、テリジノサウルスはうんうんと言うように首を縦に振った。遂に感極まったソーノイダは、彼を抱きしめ返して号泣し始めたのである。

 

「うおおーん! テリジノちゃーん!

本当にすまなかったぞい! これからはお前としっかり向き合って、いーっぱい遊んであげるぞい!」

 

 ソーノイダからそう声をかけられたテリジノサウルスも、涙を流しながら彼を一層強く抱きしめる。その光景には、思わずDキッズの4人も貰い泣きをしてしまっていた。

 しかし、オーウェンにそんな余裕はなかった。階下から聞こえてくる、不気味な唸り声を聞きつけていたのである。

 

「君達、どうやら感動のハッピーエンドにはまだ早いらしいぞ」

 

「え? オーウェンさん、それってどういう…」

 

 そうオウガが聞こうとした時だった。展望エレベーターから甲高い金属音が響き、その扉から長い爪が計6本顔を見せたのである。そして扉をその爪でこじ開けて姿を現したのは、あの盲目のテリジノサウルスだった。どうやらエレベーター用の通路をよじ登ってきたようである。

 

「な…何ぞいあれは! あれもテリジノサウルスなのかぞい!」

 

「そうだぜゾイじじい。でも…あいつはただのテリジノサウルスじゃない。

まるで…コウモリと座頭市のいいとこ取りみたいな奴なんだ!」

 

「コウモリに…座頭市じゃと? 何を言っておるのかさっぱりじゃが…なんとなくヤバそうな気配を感じるぞい…」

 

 未知の敵を捕捉したテリジノが立ち上がって威嚇の咆哮を発する。その声に応じ、盲目テリジノサウルスも両爪を構えて戦闘態勢に入った。

 とうに見えなくなったはずの彼の目には、テリジノの全身から放たれる眩い虹色の光が映っており、それが彼の怒りを更に掻き立てているようだった…。

 

 

その頃 アジ島 厨房

 

 タルボーンヌ以外は滅多に誰も入ることのない厨房に、ロアの姿があった。どうやら冷蔵庫を物色しているようだ。そして目的のものを見つけたようで、顔を綻ばせる。

 

「…あった! これなら…」

 

「何をしているんです?」

 

 突然声をかけられ、ロアが冷や汗を浮かべながら振り向くと、そこには案の定タルボーンヌが立っていた。

 

「あっ! た、タルボーンヌさん!

え…えっとね、今日のおやつは何かなーって思って、冷蔵庫を見に来たのよ! アハハハ…」

 

 そう言って作り笑いを浮かべるロアに、タルボーンヌは素直に答えた。

 

「今日のおやつはプリンですよ。今は冷やしているところですから…冷蔵庫を閉めて、大人しく待っていなさい」

 

「は〜い。ごめんなさい」

 

「分かればいいんです。さあ、そろそろお勉強の時間ですよ。早めに準備をしておきなさい。

それにしても…ドクター達は朝ごはんも食べないでどこへ行ったんでしょう…」

 

 ブツブツとソーノイダ達への不満をこぼしながらタルボーンヌが去っていくのを見送り、ロアはホッと安堵した。彼女の後ろ手には、豚の肩ロース肉(お徳用1キロ)があったのだ。

 

(何とかタルボーンヌさんにバレずに済んだわ。

後はこれをあの子のところへ持っていってあげないと…)

 

 そしてロアは厨房からそっと顔を出し、誰もいないことを確かめてから一気に外へ駆け出していったのであった…。

 

 

 




今回はここまでです。
後編は明日投稿する予定ですので、お楽しみにお待ち下さい。
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