古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は後編になります。
また随分と更新間隔が空いてしまい、大変申し訳ありません。
今回も楽しんでいただければ幸いです。

※8月28日追記
一部改訂を行いました。是非ご確認下さい。


後編

 Dキッズと『Sin-D』の全面対決が始まっていた頃、アクト団基地があるアジ島では…。

 

「ドクター! ご報告がー!」

 

「アクトホルダーに恐竜の反応が現れたザンスー!」

 

「なっ、何じゃと!?」

 

 恐竜の反応をアクトサーチで検知したウサラパ達が、ソーノイダへ報告しに来ているところだった。

 ちなみにそのソーノイダは、ちょうどテリジノにお昼寝前の絵本の読み聞かせをしているところだったようだ。

 しかし恐竜が出現したとなっては黙っているわけにはいかない。すぐさまソーノイダはテリジノを抱きかかえると、巨大モニターの電源を付けた。

 すると、日本国の関東地方に赤い点が2つ現れているのが見て取れた。

 

「また日本だっていうのはアタシ達でも話してたけど…」

 

「日本の関東地方みたいッス。ここってトリケラとかアンキロとか、よく恐竜が出てるッス」

 

「もっとまんべんなく世界中に散らばってるのかと思いきや、意外と偏ってるザンスねぇ」

 

 そんな呑気なことを語り合っているウサラパ達をよそに、モニターの地図を拡大していたソーノイダは大きな溜め息をついた。

 

「どうしたんですの? ドクター?」

 

「おい、お前ら。ちゃんと地図を見てみるぞい」

 

 ソーノイダの言葉に従って3人がモニターを覗き込むと、今回恐竜の反応が確認された場所が拡大されて表示されていた。

 そこは、三畳市だったのだ。どうやらカロリディーが具現化させたギガントスピノサウルスとマジュンガサウルスがアクトサーチに引っかかったらしい。

 だがそんなことは、ソーノイダを始めとしたアクト団のメンバーが知るはずもなかったのだった。

 

「ここは三畳市! あのガキンチョ共が住んでる街ぞい! つまりこの反応は、奴らの恐竜の反応に違いないぞい!」

 

「確かに…その通りみたいッス…」

 

「とんだ喜び損ザンス…」

 

「でもでもドクター。ガキンチョ共は8体も恐竜を持ってるんですのよ? なのに2体だけしか感知しないなんてそんなことありますぅ?」

 

「可能性がない訳ではなかろう。例えば何かの用事で2体恐竜を出すことにしただとか、その線も考えられるぞい」

 

「それは…そうですけどぉ…」

 

「恐竜達とて無限に戦える訳ではないぞい。いたずらに出撃を繰り返していると、いざ出撃となっても戦えんかもしれんのだぞい!

恐竜達には休める時にはしっかり休んで英気を養ってもらい、万全の状態で臨めるようにせんと…」

 

「分かりました、分かりましたわドクター。

多分この反応もガキンチョ達のでしょうし、アタシ達は大人しくしていますわ…」

 

「うむ。分かればよいのだぞい。

…さぁ〜て、待たせたのうテリジノちゃん! 今からご本の続きを読んであげるぞ〜い…」

 

 ようやくウサラパ達との会話を切り上げたところで、ソーノイダは腕の中のテリジノにそう話しかけながらベッドへと戻っていく。そんな彼の姿を、ウサラパ達3人は複雑な表情で見送っていた。

 

「どうしたのかしらねぇ、最近のドクターは…」

 

「あのテリジノサウルスを連れて帰った時から、恐竜に対する当たりが柔らかくなったように感じるザンス」

 

「ティラノ達も前ほどドクターには敵意を示さなくなってるし…何かドクターの中で変わったところがあるんスかねぇ…?」

 

 そんな会話をしながら、3人は自分達の部屋へと戻っていったのであった…。

 

 

その頃 三畳市市街地

 

 アクト団が気楽な休日を過ごしている頃、三畳市市街地ではリュウタ達とジェイソン達の恐竜による戦闘が始まっていた。

 どちらも6vs6で頭数だけは同じなのだが、その戦闘の内容はあまり芳しいものではないようだ。

 ガブはインドラプトルと、イナズマはステゴケラトプスと交戦していたが、ガブは素早く飛び回るインドラプトルに終始翻弄されており、イナズマはガブの助太刀に入ろうにもステゴケラトプスの妨害にあっていて動けないようだ。

 また、エースはスピノラプトルと、アインはインドミナス・レックスと戦っていたが、スピノラプトルの圧倒的な敏捷さの前にはエースですらついていけず、アインはインドミナス・レックス相手に完全にパワー負けしていた。

 そしてパラパラとランランは、それぞれクレバーガールズとアトロキフォースに包囲され、四方八方から攻撃を加えられていた。反撃に転じようにも、攻撃対象の個体が素早く飛び退き、その背後から別の個体が襲いかかってくるという始末だ。

 

「くっそぉ…。こいつらってこんなに強かったのかよ…」

 

「今までアタシ達はオウガのレクシィとアメジストも含めて8体で戦ってたから実感しにくかったけど…『Sin-D』の恐竜達は元々の攻撃性能がアタシ達の恐竜より高かったのね…」

 

「こうなったら…合体技を使うしか…。

でも、エースもアインも、ガブ達もそれぞれの相手で手一杯だし…」

 

 そもそもこれまでの戦いを振り返っても、Dキッズは『Sin-D』の恐竜達を、いずれも複数体の恐竜による多段攻撃や合体技で仕留めていたのが殆どだったのだ。

 元々のスペックではDキッズの恐竜でも抜きん出ていたレクシィは単独での討伐歴もあったものの、基本的に複数で何とか撃破していたとあっては、同数対決で不利になるのは致し形ないことであろう。

 だが、だからといって彼らの恐竜達は諦めた訳ではなかった。彼らも懸命に奮戦した結果、アインとイナズマが僅かな隙を作り出すことに成功したのである。

 当然、その頑張りを無駄にするようなリュウタとレックスではない。2人は素早く技カードをディノホルダーから射出し、スキャンしたのである。

 

「ナイスだぜイナズマ! 『雷角回弾(サンダーバズーカ)』!」

 

「よくやったぞ! アイン! 『爆風大渦(ソニックブラスト)』!」

 

 技カードが読み込まれ、イナズマが電撃と黄色の光に、アインは風と灰色の光に包まれて雄叫びを上げた。

 それを黙って見ていたジェイソンは鋭く口角を上げると、懐から1枚のカードを取り出し、自身のアンバーに押し当てたのである。

 

「そう思い通りにはやらせねぇぜ! 『必殺封じ』!」

 

 すると、インドミナス・レックスが虹色の光を放ちながら咆哮した。すると、その咆哮を聞きつけたクレバーガールズ達がパラパラから離れ、一直線にイナズマに向かっていったではないか。

 そのスピードときたら、まるでチーターにも負けず劣らずといったものである。

 そして今まさに電撃を身に纏い、『雷角爆風弾(サンダーストームバズーカ)』の準備が整ったイナズマに、クレバーガールズは一斉に食らいついたのである。この想定外の妨害により、イナズマは技を発動できなくなってしまった。結局アインだけが単体で『爆風大渦(ソニックブラスト)』を放ってステゴケラトプスを宙へ巻き上げたものの、当然倒し切るまでには至らなかった。

 

「ヴェロキラプトルが…」

 

「イナズマの技を中断させるなんて…。

でもあの技カードは何だよ…? あんなの見たことねぇぜ…」

 

「どうだ? これが相手の技を即座に封じる技カード『必殺封じ』だぜ。いくらてめぇらが強力な合体技を使おうとしたところで、こいつがあれば恐るるに足らずって訳よ!」

 

 わりかし丁寧に説明したところで、ジェイソンはもう1枚のカードをアンバーに押し当てた。

 

「さぁ…次はこっちの番だぜ! 『結晶雷角弾(クリスタルバズーカ)』!」

 

 再びジェイソンが技カードを発動し、ステゴケラトプスの体が黄色と紫色の光に包まれる。そしてステゴケラトプスが低く唸り声を上げると、地面から3本の巨大な紫結晶塊が出現し、ステゴケラトプスの周囲に浮かび上がったのだ。続いてステゴケラトプスは、全身から放つ電撃によって結晶塊をその体にピタリとくっつけ、それから猛烈に回転しながらイナズマとアインへ突っ込んできたのである。

 当然2体にはその攻撃を避けられる猶予もなく、まとめて弾き飛ばされてカードに戻されてしまった。

 

「イナズマ…」

 

「アイン!…くそっ、ここまで力の差があるなんて…」

 

 悔しそうに歯を食いしばるリュウタやレックスとは対照的に、ジェイソンとイシドーラは満足げな笑みを浮かべていた。

 

「よぉ〜し、これで2体撃破だな。これでおれ達の有利は揺るぎないものになったんじゃねぇのか?」

 

「同数でも我々の有利だったことを考えれば、間違いないだろうな。イレギュラーさえ起こらなければ、このまま勝利できるだろう」

 

 ただでさえ劣勢だというのにDキッズ側の恐竜は2体も戦闘不能となってしまい、戦況は悪化の一途を辿っていたのだった…。

 

 

一方その頃 Dラボ内部

 

「悪党ども! 正義の鞭を食らうがいいっ!」

 

「ぐはっ!」 「ぎゃあっ!」

 

 シャッターを閉じて防御機能を発動したDラボだったが、それをこじ開けた『Sin-D』構成員が内部へと入り込んできたのである。

 そんな連中を前にし、カメレオン鞭を片手に大立ち回りしていたのは、何を隠そう、所長の古代博士であった。たくみな鞭捌きで向かってきた構成員達を残らずノックアウトさせたところで、すぐ近くのロッカーに声をかける。

 

「リアス君! もう大丈夫だ! 早く奥へ行こう!」

 

 すると、ロッカーの中からリアスが出てきた。どうやら古代博士は彼女をロッカーに退避させ、その前で敵を迎え撃っていたらしい。

 

「はい、博士! それにしても…投げ縄はてんでダメなのに鞭となったら上手なんですね」

 

「ハハハ…メアリー君にもそう言われたよ…」

 

 そんな会話をしながら彼らはとある1室の前に辿り着くと、懐から取り出したカードキーで扉を開け、中へと入り込んだ。

 ようやく一息つけたところで、古代博士は思い出したかのようにリアスに問いかけた。

 

「ハァ…ハァ…いやぁ、それにしても疲れたな…。

だがリアス君。どうしてこの部屋に立て篭もろうと考えたのかね?」

 

「この部屋はアクト団の襲撃を想定して設計してもらったので、Dラボの中では1番頑丈に作ってあるんです。

何せここは…マルム達が集めてきた恐竜カードや技カードを保管するためのスペースですから」

 

 その言葉と共にリアスが部屋を見渡す。そこには、これまでDキッズが集めてきた恐竜カードや技カードが属性ごとに分類されて収められていた。

 

「それに、この前回収した最後のジュラシック・アンバーもここに保管してあるんです。

ですから…私達がここにいさえすれば、『Sin-D』にアンバーを奪われることもないはずですよ」

 

「なるほど…。それなら安心だな…。

いやぁ、ヘンリーさん。騒動に巻き込んでしまってすみません」

 

 そう言いながら古代博士は視線を…部屋の片隅に座っているヘンリー・ウーへと向けた。どうやら古代博士とリアスは彼を先にこの部屋へと向かわせていたようである。

 ヘンリーは申し訳無さそうに体を縮こませながら、ゆっくりと口を開く。

 

「申し訳ない…。私がもっと早くこの可能性について貴方がたに伝えることができていれば…」

 

「いやいや、そこまで気負わないで下さい。それに、ここにいれば私達が『Sin-D』の連中に捕まることもないと断言できますし」

 

「そういえば…リアスさんと言いましたね。この前Dキッズが回収したという最後のアンバーはこの部屋のどこに保管しているのですか?」

 

「そこです。この部屋の1番奥に…」

 

 そう言いかけたリアスは、思わず口を噤んだ。なんと、ジュラシック・アンバーを保管していたはずのスペースは扉が開け放たれ、中には何も入っていなかったからであった。

 

「ない…! 博士! アンバーがありません!」

 

「何っ!? どういうことなんだ!?」

 

「分かりません! でも…ここの部屋には関係者以外入れないようになっていたのに…」

 

 混乱した様子ながらも、リアスは小脇に抱えていたノートパソコンを開き、操作し始めた。

 

「リアス君? 何をしているのかね?」

 

「この部屋の防犯カメラの録画を確認してるんです。これを見れば、アンバーを持ち出した犯人を特定できるかも…」

 

 それからややあって、パソコンの画面に録画映像が映し出された。それを見た古代博士とリアス、そしてヘンリーは、再び驚愕の表情を浮かべる。

 

「こ…これは…!」

 

「ミサさん…!? でもどうして…!」

 

 

 その頃、Dラボ前の広場でも、オウガのレクシィとアメジスト、そしてオーウェンのブルーがカロリディーの恐竜達と戦っているところだった。

 

「ブルー! 右に回避して…今だ! 頭に飛びつけ!」

 

 オーウェンとブルーは比較的大柄なマジュンガサウルス相手にも、俊敏な動きと的確な指示で立ち回れており、特に支障はなさそうだ。ただ、カロリディー側の策略で、オウガ達とは完全に分断されてしまっているようだ。

 しかし、マジュンガサウルスも負けてはいない。高らかに咆哮を上げると、その体に灰色の光と風を纏ったのだ。技を発動しようとしている!

 それと同時に周囲に濃い霧が立ち込め始めた。

 

「させるか! ブルー! お前の俊足で妨害してやれ!」

 

 オーウェンの指示に応じたブルーは、自慢の俊足でマジュンガサウルスへと迫り、飛び蹴りをお見舞いしようとする。

 しかし、いつの間にかブルーの眼前には、彼女と瓜二つな恐竜が現れており、同じように飛び蹴りをしようとしてきていたのである。

 咄嗟に衝突を回避しようとブルーが体を捻って着地すると、何故か相手も同じように着地しているではないか。

 すると、その生じた一瞬の隙に付け入るかのように、突然横からマジュンガサウルスが現れ、ブルーに頭突きを食らわせたのだ。

 着地の隙を突かれ、ブルーは地面に転がされてしまった。

 

「ブルーッ! 何だ、あいつの超技は…。幻覚か何かを見せるやつなのか…?」

 

 オーウェンの推測は正しかった。マジュンガサウルスが発動した超技は『虚像幻視(ドッペルゲンガー)』。濃霧で作り出した虚像で相手を惑わせ、その隙に奇襲を仕掛ける技だったのである。

 

 

 一方、オウガ達はかなりの苦戦を強いられていた。超高温の体を持つジョーカーが相手では、レクシィ自慢の噛みつきが封じられてしまっており、それが大きなディスアドバンテージになっていたのだ。アメジストを加勢させようにも、そちらにはギガントスピノサウルスが充てられており、迂闊に動くことができない状況であった。

 

『…オウガよ。このままの状況が続けば、全滅の可能性もあるかもしれんぞ。せめて今アメジストが戦っているあの恐竜だけでも早く討伐した方がいいかもしれん』

 

「そうだね…。せめてあのギガントスピノサウルスだけは何とかしないと…。

よし、アメジスト! この技カードを使うんだ! 『結晶衝破(クリスタルブレイク)』!」

 

 レクシィからの助言を受け、オウガはアメジストでギガントスピノサウルスを早めに処理することに決めたようだ。ディノラウザーの紫のボタンを押して1枚のカードを射出し、そのままスキャンした。

 するとアメジストの体を紫色の光と紫結晶の欠片が渦巻き始め、やがて彼の足元から4本の巨大な紫結晶塊が姿を現す。それを伴ったアメジストがギガントスピノサウルスに向かって駆け出していくと…。

 そのギガントスピノサウルスも迎え撃つ意思を示すかのように雄叫びを上げた。それと共にその体を紫色の光と土塊が包み込む…。技を使うつもりのようだ。

 

「ギガントスピノサウルスも技を…! でも、今から発動したなら、アメジストの『結晶衝破(クリスタルブレイク)』の方が速い!」

 

 オウガの言葉通りアメジストが今まさに結晶塊と共にギガントスピノサウルスに渾身の体当たりをお見舞いしようとした時…その体ががくりと沈み込んだ。

 

「アメジスト!?…な、何だあれ…」

 

 見れば、いつの間にかアメジストの足元では巨大な流砂が渦を巻いているではないか。彼はそれに足を取られてしまったのだ。

 アメジストも抜け出そうと足掻くものの、足掻けば足掻くほどその体は砂に沈み込み、次第に蟻地獄の真ん中へと導かれていく。

 慌てるオウガとアメジストを眺めながら、カロリディーは嘲るように呟く。

 

「『沙漠流砂(サンドトラップ)』…。ギガントスピノサウルスのカードを具現化する際に、その技カードも一緒に加えさせていただきました。

これでギガントスピノサウルスが健在な限り、そのステゴサウルスは蟻地獄から抜け出すことはできませんねぇ…。

 さて、助けも来なくなったところで…その暴れるトカゲを、最強の肉食恐竜たるジョーカーの力を以て、完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう…」

 

 その言葉と共に醜悪な笑みを浮かべるカロリディーに対し、オウガとレクシィは冷や汗を浮かべていた。

 ますます熱り立って襲いかかってくるジョーカーをいなしながら、レクシィがまたオウガに話しかける。

 

『…どうする、オウガ。戦況は私達の圧倒的不利だ。

オーウェンやDキッズの仲間達の助力にも期待できない以上…このまま行けば敗北は確実だ…』

 

「それは俺も分かってる…けど…どうしたら…」

 

 そんな彼らの様子を、建物の影からこっそりと見守っていた存在がいた。先程ジュラシック・アンバーとスピノサウルスのカードを持ち出した、ミサである。

 

「オウガ君…レクシィちゃんに…アメジストちゃんも…。

みんな苦しんでるのに…わたしは守ってもらってばかりで…何もできない…。

もし…わたしもオウガ君みたいに恐竜と一緒に戦えたら…オウガ君の力になれるのに…」

 

 そう小さく呟きながら、ミサが震える手でアンバーを強く握りしめた…その時だった。

 

『…何故、君は力を求める…?』

 

「…えっ?」

 

 突然聞こえてきた声に、ミサは戸惑った様子で周囲を見渡す。しかし、その声の主らしい人物は見当たらなかった。

 

『僕はここだよ。君の手の中さ』

 

 また声が聞こえてくる。その声に従い、ミサが恐る恐る握りしめていたアンバーを見てみると…アンバーはほのかに発光していたのである。

 

『僕はジュラシック・アンバー。いきなりですまないが、君に聞きたいことがある。君はどうして…力を求めるんだい?』

 

 突然の出来事にミサはしばらく声を出せなかったが、ややあってから震える声で答えを返した。

 

「どうしてって…そんなの決まってます! 目の前で苦しんでるオウガ君やレクシィちゃん達を助けるために…」

 

『何故、彼らの力になりたいんだい? そう考えるのには必ず理由があるはずだろう?』

 

 何故この琥珀はそんなことまで聞いてこようとするのだろう。そう疑問に思ったミサだったが、ここは正直に答えることにしたようで、ゆっくりと深呼吸をしてから語り始めた。

 

「わたし…ここに来る前の記憶が全く無いんです。だからわたし、そもそも自分が何者なのかすら、よく分かってなくて…。

自分はここにいていい存在なんだろうか、ってずっと考えてたんです」

 

『……』

 

「でも、そんな得体の知れないわたしを…ここのDラボの人達は受け入れてくれたんです。

特にオウガ君は…何かとわたしのことを気にかけてくれて…色んな話を聞かせてくれて、すごく楽しくて嬉しくて…幸せだった。

それなのに…わたしは彼に何もしてあげられない。それどころか、超アクトアクロカントサウルスが三畳市に現れた時も…キョウリュウランドに行った時も…わたしは彼に守られてばかりだった。

もう…わたしはオウガ君達だけに戦わせて、後ろで息を潜めていることなんてしたくない! オウガ君と並んで、一緒に戦うための力が欲しいの!」

 

 ミサが自身の本心をこのように吐露すると、ややあってからまたアンバーから声が聞こえてきた。

 

『なるほど…。つまり君は、あの少年への愛故に力を欲しているという訳だね?』

 

「そっ!…それは…はい、そうです。

客観的には色々言われることはあるかもしれませんけど…わたしがオウガ君を…その…好きになってしまったっていうことでもあります…」

 

『いや、何も責めるつもりはない。むしろそうであるならば、僕も安心できるということさ』

 

「安心…? どうしてですか?」

 

『僕は愛の力が成せる力がどれほどのものかを知っているからさ。

例えば…僕の知人にタイル屋の夫妻がいるんだがね、僕が彼らと初めて会った時、2人は離婚していたんだ。

でも、彼らの1人息子が無人島で消息を絶ったと知ると、彼らは自分達の危険も顧みることなく、共に手を取り合って捜索に乗り出したのさ。付き合わされた僕達はたまったものじゃなかったけどね。

それに…とあるカップルは、匿っていた養女を助け出すため、マルタ島やイタリアの山奥まで駆けずり回っていたことも、僕は知っているよ。

そして、僕自身も…愛する女性のためならばどんな無茶な願いも聞いてしまう。まあこれは、惚れた弱みというやつかもしれないがね…』

 

 そこで一度言葉を区切ってから、アンバーはまたミサへと話しかけてきた。

 

『だから、君の意志…好きな男の子の力になりたいという君の願いを僕は受け止めよう。

僕…ジュラシック・アンバーと契約すれば、君が持つそのカードに眠る恐竜の魂を目覚めさせ、襲い来る敵を打ち払う力を手に入れることができる。同じアンバーの保持者として、彼と共に戦うことができるんだ』

 

「わたしが…恐竜を…?」

 

『そうだ。ただし…これだけは覚えてほしい。もし君が今アンバーに捧げた願いを反故にした時、あるいは恐竜を正しく導くことができないと僕が判断した時は、契約を解消させてもらう。

そうなると君の恐竜はアンバーの支配から解き放たれ…最悪の場合、君はその恐竜に食い殺されてしまうかもしれない。

大いなる力にはそれ相応の代償があるものだが…どうかな? 今ならまだ引き返せるぞ』

 

 アンバーからの忠告を受けたものの、ミサの表情は少しも揺らがなかった。むしろ彼女はより決意の固まった顔で、肯定の返事をしたのである。

 

「わたしの思いに偽りはありません!

だからお願いします! わたしに恐竜を顕現させる力を…オウガ君と一緒に戦うための力を下さい!」

 

『…その言葉を待っていた。それでは今より、君を僕…ジュラシック・アンバーの保持者として認めよう!』

 

 その言葉と共に、アンバーから眩い光が溢れ出す。あまりの眩しさにミサが目を細めていると、彼女の上着のポケットから1枚のカードが飛び出し、ひとりでにアンバーの上へ重なったのであった…。

 

 

 ミサの手のアンバーから光が放たれる直前、オウガとレクシィはいよいよジョーカーに追い込まれたところであった。懸命に相手からの攻撃をいなして致命傷を避けていたレクシィだったから、疲れからか体当たりを諸に受けてしまい、がくりと膝をついていたのだ。

 そんな彼女を心配してオウガは駆け寄るものの、そこへジョーカーがゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「随分と時間を取らせてくれましたが…どうやらここまでのようですね。今こそ貴方とその暴れるトカゲから受けた屈辱を、倍にして返して差し上げましょう…」

 

 すっかり勝ち誇った様子でカロリディーがそう宣言し、懐から1枚の技カードを取り出す。今の疲弊したレクシィであれば、どんな技であっても避けることはできないだろう。

 

『…すまない、オウガ…。私の体がもっと若い頃のものであったなら…この程度で疲れ果てることはなかったのに…』

 

「そんな…レクシィのせいじゃないよ。レクシィに的確な指示を与えられなかった俺の落ち度だ…」

 

『結局オマエの仲間達はここへ到達できなかったようであるし…これで敗北は確実か…ん?

オウガ。あの光は何だ…?』

 

 その時、レクシィはDラボの方から放たれる眩い光に気が付いた。

 

「何だろう…。でも、この感覚には覚えが…」

 

 オウガも気付いてそちらへ顔を向け…あっと驚いた。何故なら、その光の中にミサがいたからである。

 

「ミサさん!? どうして外に…!」

 

『オウガ! あの女の手を見ろ!』

 

 レクシィの言葉に従ってオウガは目を凝らし…更に驚いた様子を見せた。

 

「あれは…ジュラシック・アンバーだ!」

 

 

 眩い光の中、恐竜カードと触れたアンバーにじわりじわりと何かの刻印が浮かび上がっていく。

 それは、スピノサウルスの全身骨格を模したものであった。

 

『あの『Sin-D』とかいう連中は僕のことをアンバー『Ⅲ』だと言っていたようだが…僕の銘はそんなものじゃない。

僕の本当の銘は【超越(トランセンド)】! そして今こそ君に、アンバーの力を見せよう!

こいつは、かつて絶対王者の玉座に牙を剥いた、史上最大の水竜だ!

湧き上がれ! スピノサウルス・エジプティアクス!』

 

 【超越(トランセンド)】がそう高らかに宣言すると、ミサの周囲を青い光と水流が渦巻き始める。やがて青い光は恐竜の形へと変化していくと、彼女の後ろに控えるように降り立った。

 全長15メートルはあろうかという巨躯に、鰐のように長く伸びた大顎。強靭な前腕と後ろ脚。そして背中には帆のような構造物…。

 その恐竜はスピノサウルス・エジプティアクス。前回のオウガ達Dキッズが、ペルーの月の神殿から持ち帰った恐竜であった。

 

「あなたが…わたしのパートナー恐竜…スピノサウルスちゃんなのね?」

 

 ミサがそう尋ねると、スピノサウルスはその言葉を肯定するかのように低く唸った。それを確認した彼女は、更に言葉を続ける。

 

「それじゃあ…スピノサウルスちゃん! わたしの大切な人…オウガ君を助けるために、あなたの力を貸して!」

 

グゴォォォォォォッ!!

 

 ミサからの要望に、スピノサウルスは力強い咆哮で答えた。そしてその咆哮を耳にしたジョーカーやギガントスピノサウルスも、そちらへ注意を向ける。

 しかし、カロリディーは余裕そうな笑みを崩さなかった。

 

「ほう、スピノサウルスですか…。ほんのちょっとだけ驚きましたが、その程度でジョーカーを止められるとは思わないことですね。

まあ…ギガントスピノサウルスが作り出した『沙漠流砂(サンドトラップ)』を乗り越えられなければ、ジョーカーには指一本触れられませんがね!」

 

 そう言って高笑いするカロリディーには目もくれず、ミサは上着のポケットから技カードを取り出し、アンバーに押し当てた。

 

「スピノサウルス! あなたの力を見せて! 『暫流剣(ウォーターソード)』!」

 

 するとスピノサウルスの体を、再び青い光と水流が包み込む。そしてスピノサウルスは口から勢いよく高圧水流を吐き出し、大きく振りかぶって斬りつけたのだ。標的となったギガントスピノサウルスは哀れ袈裟斬りにされ、どうっと倒れ伏すとカードへと戻ってしまった。

 それにより『沙漠流砂(サンドトラップ)』もようやく収まり始め、藻掻いていたアメジストも砂から抜け出すことができたようだ。しかしずっと藻掻いていたせいで体力は限界に近いらしく、その場にへたり込んでしまった。

 

「アメジストちゃんはここでゆっくり休んでて。オウガ君とレクシィちゃんにはわたしが加勢してくるから!」

 

 アメジストにそう声をかけると、ミサはギガントスピノサウルスと『沙漠流砂(サンドトラップ)』のカードを拾い、オウガのもとへと駆け寄っていく。

 

「オウガ君! 助けに来たわよ!」

 

「ミサさん! それにそのアンバー…まさかミサさんもジュラシック・アンバーと契約を?」

 

「そうよ! これで…これからはわたしもあなたと一緒に戦えるわ!

さぁ、お願い、スピノサウルス! レクシィちゃんの手助けをしてあげて!」

 

 ミサの指示に従い、スピノサウルスはゆっくりと歩を進め、ジョーカーに向かって吼えかかる。それにジョーカーも唸り声で応じた…その時だった。

 突如として周囲の風景が変化し始めたのである。昼間だったはずの周囲を夜の闇が包み込み、Dラボの敷地を取り囲むように木々が生え始めたのである。

 そして、真っ黒の空から、何か赤く光るものがオウガとミサの目の前に落ちてきたのだ。

 

「きゃっ!? 何これ?」

 

「これは…バッタ!?」

 

 そう。それは体長1メートルほどにもなる極めて大きなバッタだったのだ。しかもどういう訳か、その体は炎に包まれていた。

 悶え苦しみながら息絶えていくバッタを見届けたところで、オウガがふと頭上を見てみると、空を巨大な火の玉が飛んでいたのだ。しかもそこから、炎に包まれたバッタ達が雨のように零れ落ちてくるではないか。

 

「た…大変だ…! このままじゃDラボが焼け落ちちゃうよ! ミサさん! 急いでスピノサウルスに水属性の技を…」

 

「わ、分かったわ! すぐに…」

 

『…いや、その必要はない』

 

 慌ててミサに消火を頼もうとしたオウガを、レクシィが制した。

 

『オウガ、冷静さを失うな。今私達はバトルフィールドの中にいるのだ。この中で起きたことは現実世界に反映されないということを忘れたのか』

 

「あっ、そ…そうだった…。ごめん。

それにしても…このバトルフィールドは何なんだろう…。今まで見たことのない光景だけど…」

 

『…私には…この光景に見覚えがある』

 

「えっ? レクシィ、それって本当? どこでこの光景を見たの?」

 

『元の世界で…私があのギガノトサウルスと戦った場所だ。確かニンゲン共はバイオシン・サンクチュアリと呼んでいたが…何故あの時の光景が再現されたのだ…?』

 

 疑問を抱きつつもレクシィは体勢を立て直してスピノサウルスと並び立ち、目の前に立ちはだかるジョーカーを見据えたのであった…。

 

 

 その頃、リュウタ達Dキッズの3人やジェイソンとイシドーラも、周囲の変化に気が付いていた。

 火の雨が降り注ぐ光景を目の当たりにし、ジェイソンが呆然とした様子で口を開く。

 

「な…なんだよこりゃあ…。まるで終末の日みたいな光景じゃねぇか…。

おい、ミルズ。何でこんなことになってんだ?」

 

「私に聞かれても知るものか。恐らくボスが向かった古代恐竜研究所で何かが起こったのだろうが…こんな現象は見たことがない…」

 

 一方でリュウタ達もまた、周囲の変化について話し合っているところだった。

 

「なぁ、レックス…。何でこんな、地獄みたいなバトルフィールドになっちゃったんだ?」

 

「そんなの僕が分かるわけないだろ? でも…突然の環境の変化で相手の恐竜達も困惑してるみたいだ。反撃に転じるなら今しかない!」

 

「でも…混乱してるのはガブ達も一緒よ? それなのに反撃なんてどうすれば…」

 

 そこでしばらく考え込み出した3人だったが、リュウタがポンと手を打った。

 

「そうだ! お助け恐竜を呼べば、付け入る隙を生み出せるかも…!」

 

「なるほど…リュウタにしては名案だな!」

 

「オレにしては、って何だよ…」

 

「それなら…アタシがやるわ! お願い! パラパラ! ランラン!」

 

 ディノホルダーを手にマルムがそう呼びかけると、パラパラとランランはアトロキフォースを牽制しながらも嘶きで返事をしてくれた。

 それを確認したマルムはディノホルダーのカード射出ボタンを押し、出てきた2枚のカードを手に取ってスキャンした。

 

「力を貸して! 『朋巨大圧(ビッグフットアサルト)』! 『超竜衝撃(スーパーインパクト)』!」

 

 するとパラパラとランラン、2体の鳥脚類の体を緑色の光と草吹雪が渦巻き始め、それと共に2体は高く嘶きを上げる。

 すると天からはディプロドクス・ハロルムの足が振り下ろされ、地面からはスーパーサウルスの優美な首が伸びてきたのである。そしてディプロドクス・ハロルムはその巨大な足でアトロキフォースを踏み潰し、スーパーサウルスは首のスナップを効かせてランランをスピノラプトルに投げつけたのだ。

 踏み潰されたアトロキフォースと、虚を突かれて『超竜衝撃(スーパーインパクト)』が直撃したスピノラプトルはどちらもカードに戻り、イシドーラの手元へ自動的に返っていく。

 そこでようやく、2人は戦況の変化に気づいたのであった。

 

「ぐっ…。アトロキフォースとスピノラプトルが…」

 

「なるほど…お助け恐竜で頭数を補おうって訳か。

だがその召喚元の恐竜を叩きのめせば、そいつらも出続けられねぇはずだ! 行け! ステゴケラトプス!」

 

 ジェイソンの指示を受け、ステゴケラトプスは角を高々と掲げてランランへと突進していく。このままではランランが危ない!

 しかし、ステゴケラトプスの角がランランを貫く前にスーパーサウルスがその進路に立ち塞がり、上体を高く上げて威嚇のポーズを取る。これにはステゴケラトプスも臆したのか、足を止めてしまった。

 

「チッ…それならクレバーガールズ! てめぇらも行け! デカブツの胴体に食らいついて、ズタズタに引き裂いてやるんだ!」

 

 今度はクレバーガールズが一斉に駆け出し、スーパーサウルスへと向かっていく。エースもそうはさせまいと必死に追いかけるが、そんな彼にインドラプトルが飛びかかった。足止めをするつもりのようだ。

 

「まずい! スーパーサウルスが…」

 

「あの大きさじゃ、回避行動も無理だろうし…胴体に張り付かれでもしたら攻撃が届かなくなってしまう!」

 

「せっかく流れを引き戻せたと思ったのに…」

 

 そう悔しそうに呟くマルムだったが、ふと手元のディノホルダーを見た彼女は、不思議そうに首を傾げた。何故なら、ディノホルダーの画面が緑色に発光していたからであった。よく見てみれば、画面には見慣れない技カードが表示されていたのだった。

 

「このカードを…使えってことなの…?」

 

 何が起きているのか分からない状況であったが、マルムは意を決してカード射出のボタンを押した。

 するとディノホルダーから緑色の光が飛び出し、徐々にカードの形へとなっていく…。そしてそのカードを手に取り、マルムは自身のディノホルダーにスキャンした。

 

「お願い…アタシ達を助けて!」

 

 すると、場に出ていたディプロドクス・ハロルムとスーパーサウルスが緑色の光に包まれ、高らかに雄叫びを上げた。そして2体は互いに頷き合うと、一斉に上体を起こしてから勢いよく地面を踏みしめたのである。

 凄まじい衝撃波が大地を通じて広がり、それによってステゴケラトプスとクレバーガールズの体が宙に舞う。そして彼らが落ちてきたところで、ディプロドクス・ハロルムとスーパーサウルスは大きく首をしならせ、その長大な首で彼らを挟み込むように打ちのめしたである。

 この強烈な連撃を受けてはひと溜まりもなかったようで、ステゴケラトプスとクレバーガールズは力なく地面へと落ち、カードへと戻っていった。

 

「な…なんだよあの技は…」

 

「分からん。しかし、我々がノーピスから提供してもらった技カードのリストにはあんなものは無かったはずだ…。

まさか、この土壇場で新しい技カードを生み出したというのか…」

 

 呆気に取られた様子でそう呟くジェイソンとイシドーラであったが、そんな彼らの前で衝撃と共に土煙が上がる。ようやく視界を確保できるようになってから確認すると、それは横たわったインドミナス・レックスとインドラプトルだった。

 2体のすぐ前方にはガブとエースが仁王立ちしているところを見ると、こちらへ突き転がされてきたらしい。そしてその2体の横にパラパラとランランが、後ろにはディプロドクス・ハロルムとスーパーサウルスが並び立った。

 

「やい、『Sin-D』! お前達の快進撃もここまでだぜ!」

 

「さっさとあんた達のボスを連れて、この街から出ていくんだ!」

 

「さもないと…痛い目に遭わせちゃうわよ!」

 

 リュウタ達の言葉に呼応するようにガブ達も大声で吼える。その光景を前にしたインドミナス・レックスとインドラプトルも気圧されたようで、ジリジリと後ずさりをしていたのだった…。

 

 

 戻ってDラボでは、巨大肉食恐竜達の戦いが幕を開けていた。スピノサウルスが仲間に加わったことで数的有利を得たレクシィは、先程ダウンしていたのが嘘のようにジョーカーに攻撃を加えていく。しかし、やはりジョーカーの体表温度は高いままのようで、レクシィは勿論、スピノサウルスも噛みつくことはできなかった。

 

「やっぱり体表を何とかして冷やさないとダメか…。

ミサさん! 水属性の技カードは持ってきてますか?」

 

「勿論よ! 今使うわね!」

 

 その言葉と共にミサは技カードを1枚取り出し、胸元のアンバーに押し当てた。

 

「今度はこの技をお願い! 『龍渦旋乱(アクアボルテックス)』!」

 

 するとスピノサウルスが青い光と水流に包まれ、高らかに咆哮を上げた。するとジョーカーの足元に突如として巨大な渦潮が現れ、そのままジョーカーを飲み込んでしまったのである。激しい水流の中で滅茶苦茶に揉まれ、ようやく解放されたジョーカーはフラフラとした足取りでその場に倒れ伏した。

 

「今だレクシィ! これなら君の牙も通るはずだよ!」

 

 オウガの叫びと共にレクシィも力強く踏み出し、ジョーカーの首に食らいついた。今度は肉が焼けるような音も匂いもしない。

 

『よし…これならばいけるぞ』

 

 レクシィは確信した様子でそう口にすると、噛みついたままジョーカーを引きずり回し、カロリディーの方へと投げつけた。投げ飛ばされたジョーカーはカロリディーを巻き込み、地面の上に転がされる。

 それでも何とか立ち上がろうとしたジョーカーだったが、そこに1つの小さな影が飛び込み、再びジョーカーを地面へと押し倒した。

 ブルーだ! どうやらマジュンガサウルスを倒したオーウェンが合流してきたらしい。

 

「オウガ君! すまない! 遅くなってしまった!」

 

「オーウェンさん! でも、こっちは大丈夫です! ミサさんとスピノサウルスが加勢してくれましたから!」

 

「スピノサウルス…? この恐竜を…君が…?」

 

「は、はい。わたしもこの【超越(トランセンド)】さんと契約を…」

 

「やれやれ…私を前に呑気にお話とは…余程猶予が出てきたようですね? 覇轟オウガ…」

 

 その声と共に、横たわったジョーカーの下から、全身を砂埃塗れにされながらもカロリディーは立ち上がった。なんと悪運の強い男だろうか。

 しかしカロリディーは、なんとジョーカーを叱りつけ始めたのである。

 

「…何をしているジョーカーッ! あの男の手で「エレメントパワー」と融合したのだから、弱点属性の攻撃も大したことはないはずだろうが!

いい加減にしろ! 何度私を失望させる気なのだ!」

 

 語気も荒めにそう吐き捨てたところで、彼は1枚のカードを取り出した。

 

「まずは…その邪魔な虫けらから処理するとしましょう。ジョーカー! 『過熱炎剣(オーバーヒート)』です!」

 

 その言葉と共にカロリディーがカードをアンバーに押し当て、技を発動させる。するとジョーカーは赤い光と炎に包まれ…何故か体色が紫に変色していったのである。

 そしてジョーカーは尻尾に炎を滾らせると、それでブルーに連続打撃を浴びせてから尾先を突き刺しにかかったのだ。すんでのところで最後の突き刺しは回避したブルーだったが、その直後に炎を纏った尻尾で薙ぎ払われ、Dラボの壁に叩きつけられてしまった。

 

「ブルーッ!」

 

 珍しく慌てたオーウェンがブルーの方へ駆け出していったところで、カロリディーは再びレクシィとスピノサウルスに視線を戻す。

 

「さて…それではこれでファイナルターンとしましょう! ジョーカー最大の一撃で、貴方達を纏めて葬って差し上げますよ!

終焉冥火(エンドオブバーン)』! 『過熱炎剣(オーバーヒート)』!」

 

 するとジョーカーの体が黒い炎に包まれ、体色も再び黒褐色に戻っていく。そして尻尾の赤い炎がみるみるうちに黒く変色していったのである。

 その炎に、オウガは見覚えがあった。

 

「その炎…まさかあの…」

 

「ご察しの通りですよ! 今ジョーカーが身に纏っているのは、『終焉冥火(エンドオブバーン)』の炎です! この炎を纏って相手に一発でも加えることができれば、即座に炎は起爆し、一撃で戦闘不能にすることができるのです!

前のように躱すだとか炎が消えるまで耐えるだとか…そんな下らない小細工はもうさせませんよ!」

 

「くそっ…なんて技を使ってくるんだ…」

 

 一撃でも攻撃を貰えば即戦闘不能…そのことを理解したオウガの額に汗が滲むが、そんな彼にミサは声をかけた。

 

「諦めないで、オウガ君。相手が2つの技カードを使ってきたのなら、わたし達も2つの技で迎え撃ちましょう?」

 

「…! そうか! 合体技なら…。

でも、当たり前ですけどミサさんと合体技を試すのは今回が初めてですよね? ぶっつけ本番になりますけど…やれますか?」

 

 オウガの問いに、ミサは笑顔と共に答えた。

 

「勿論よ! だってわたしは…オウガ君を信じてるもの!」

 

 ミサからの答えにオウガも少し頬を染めたが、やがて彼女と同じように笑顔を浮かべると、ディノラウザーを持ち直した。

 

「それじゃあ…ミサさん! 行きますよ!」

 

「ええ! あの男に見せてやりましょう! わたし達の合体技を!」

 

「どれほど策を弄しようが無駄ですよっ! 貴方達は…いや、お前達はもう…おしまいだぁーっ!」

 

 カロリディーの狂気に満ちた叫びと共に、黒炎を纏ったジョーカーがオウガ達の方へ突撃していく。そんな光景を前にしてもオウガとミサは少しも臆することなく…カードを1枚ずつ手に取り、技を発動させた。

 

「頼んだよレクシィ! 『狙大爆砕(クリティカルエクスプロード)』!」

 

「スピノサウルス、あなたもお願い! 『龍渦旋乱(アクアボルテックス)』!」

 

 レクシィが赤い光と炎に、スピノサウルスが青い光と水流に包まれ、同時に咆哮を上げる。するとまずはジョーカーの足元に巨大な渦潮が発生し、その足を止めることに成功した。

 そして、レクシィが口に炎を溜め込みながらジョーカーへ向かって突進していき、そこへスピノサウルスが自身の身に纏っていた水の渦を絡ませた。するとレクシィの体に触れた水は瞬く間に蒸気へと変わったのである。炎と蒸気を身に纏ったレクシィは前進を続け…渦潮に囚われたジョーカーに食らいついたのだ。その瞬間、炎と蒸気による二重の大爆発が引き起こされ、高熱の爆風が周囲へと広がっていく。それは、Dラボ近くでブルーの介抱をしていたオーウェンのもとにも届くほどの規模であった。

 

「オウガ君…! 大丈夫…?」

 

「俺なんかの心配より、ミサさんも…ちゃんと踏ん張ってないと、吹き飛ばされちゃいますよ…!」

 

 そして蒸気の嵐が止むと、その中から出てきたのは、並び立ってジョーカーを睨むレクシィとスピノサウルス、そして黒炎が消えて立ち尽くすジョーカーの姿であった。

 やがてジョーカーの体がゆらりと揺らぐと地面へ倒れ伏し、カードとなってカロリディーに手元へ戻っていく。それを見届けたレクシィとスピノサウルスは、バトルフィールドが解けていく中で互いに向き合い、咆哮を轟かせたのであった。

 一方、ジョーカー渾身の一撃を退けられた上に撃破までされてしまったカロリディーは、怒りに身を震わせていた。

 

「またしても…またしても敗れただと!? 1度ならず2度までも敗れるなど…どういうことだ! ジョーカー!

貴様はそれでも最強の肉食恐竜か! 何度私に恥をかかせれば気が済むのだ!」

 

 破けんばかりの勢いでジョーカーのカードを握りしめて罵声を浴びせるカロリディーだったが、今度はオウガとミサを憎悪のこもった視線で睨みつけた。

 

「お前達もだ! 何故私とジョーカーに気持ちよく勝たせないのだ! 所詮は頭でっかちの不細工とガリガリの魚食らいの癖に! 何故最強の肉食恐竜たるギガノトサウルスを否定しようとするのだ!」

 

「あなたは…どうしてギガノトサウルス以外をそこまでして否定したがるの…?」

 

 ミサがそう問いかけると、カロリディーは更にヒートアップした。

 

「どうして…だと!? そんなもの決まっている! ギガノトサウルスこそが最強の肉食恐竜であることは絶対の真実であるのに、誰もそれを肯定しようとしないからだ! 

だから私はそんな知名度ばかりが優先される腐った世界を正すため、ジュラシック・アンバーを全て集めて…」

 

「それで…『ギガノトサウルスが最強の肉食恐竜である』っていうあんただけの持論を、世界の常識にするつもりなのか!」

 

「当たり前だ! そもそも私以外の全員が間違っているのだ! ティラノサウルスはただの頭でっかちの不細工で、ギガノトサウルスに食い尽くされて絶滅したということも…」

 

 その時、カロリディーの衛星電話から着信音が響きだした。彼は苛立った様子のまま、衛星電話の通話ボタンを押して会話を始める。

 

「何だジェイソン! 何の用だ!」

 

『おう、ボス…。ガキ共の相手なんだけどよ…』

 

「そっちが終わったのなら早くこっちへ来い! 私の代わりにあのクソガキとクソアマを…」

 

『それが…おれ達の恐竜も全員やられちまってよ…。

退却の相談をするために連絡したんだよ』

 

「なっ…何だと…!?

まさかお前達…またやられたというのか! クソッ! これでは私達の完全敗北ではないか!」

 

『それでボス…。退却は…』

 

「決まっているだろう! 今回は退却だ! 全員荷物を纏めて退却しろ!」

 

『お、おう。分かったぜ…』

 

 そこで通話を切ると、カロリディーは独特のステップで地団駄を踏み始めた。傍から見れば実に間抜けな絵面である。

 

「ぐううううっ…。覚えておけ! 覇轟オウガ! 今回はそのスピノサウルスの乱入でうまくいかなかったが…いつか必ず! 私の理想世界を作るためにアンバーを差し出してもらうぞ!

この屈辱は決して忘れん…! 次がお前達Dキッズの最後だと、その心に刻みつけておくのだな!」

 

 そんな捨て台詞を吐くと、カロリディーは荒々しくジェットヘリへ乗り込んでいく。それに合わせて『Sin-D』の構成員達も続々と集まると、それぞれジェットヘリや輸送ヘリに乗り、もう1台の輸送ヘリと合流してから東の空へと消えていったのだった。

 ようやく戦闘も終わったところで、オウガはレクシィとアメジストをカードに戻しながらミサに話しかけた。

 

「ミサさん。今日は本当にありがとうございました。

ミサさんとスピノサウルスのお陰で、危ないところを助けられましたよ」

 

「そんな、お礼なんて…。

わたしはただ、オウガ君に守られ続けてる自分が許せなかっただけだったから…」

 

「守られ続けてる、って…。ミサさんがそんなこと気負う必要なんかないですよ。俺はミサさんに何かあったらいけないと思っていたからであって…」

 

「だ、だって…オウガ君はわたしにとって1番大切な人だもの…。そんな人を危険に晒して、自分だけ安全圏にいるなんて、そんなことできないわ…」

 

「いやいや、俺もミサさんを大切にしたいからこそ…ん? あれ? ミサさん今俺のことを大切な人だって…」

 

 オウガが気づいたようにそう言うと、ミサの頬が一気に紅潮した。

 

「っ! で、でも…そういうオウガ君だって…」

 

「あっ! そ…それは…その…」

 

 だがオウガもミサからの指摘を受け、同じように赤面してしまった。そしてしばらく2人は顔を真っ赤にして俯いていたのだが…やがて意を決した様子で、同時に顔を上げた。

 

「「あのっ!」」

 

 しかし話し始めようとしたところで声が被ってしまったようだ。何だかベタベタの展開である。

 

「「あっ…」」

 

「お、オウガ君からで大丈夫よ?」

 

「そ、そうですか?…それじゃあ、改めて…」

 

 そこでオウガは大きく深呼吸して心を落ち着かせてから、静かに口を開いた。

 

「俺…まだ10年ちょっとしか生きてないほんのガキですけど、ミサさんのことは本当に心から大切に思ってるんです。

ガキなんかがこんな大人みたいな重苦しい感情持ってて…変ですよね…」

 

「そんなことないわ。わたしだって…多分、オウガ君が抱えてる気持ちと同じだと思うもの…」

 

「ミサさん…。じ、じゃあ…ミサさんは俺のこの気持ち…ガキの戯言じゃなく、本心だって受け止めてくれますか…?」

 

「うん。オウガ君なら…大丈夫だよ。

でも…その気持ちは、察してほしい…じゃなくて、ちゃんと言葉にして、言ってほしいかな」

 

「は、はい! じゃあ…言わせてもらいます」

 

 そう言って姿勢を正すオウガを、ミサはどこか期待の籠もった目で見つめていた。

 

「俺、覇轟オウガは…ミサさんのことが…」

 

 そのままオウガが言葉を綴ろうとした、その時のことであった。

 

「おーい、オウガー!」

 

「ミサさーん!」

 

「ふたりとも無事かー?」

 

 聞き覚えのある声で2人ははっと我に返ると、そちらへ視線を向ける。そちらの方向からは、リュウタやレックス、マルム達が各々の自転車をこぎながらこっちへ向かってきていたのであった。

 考えうる限り最悪のタイミングであった。

 

「う…うん! こっちも大丈夫だったよー!」

 

 そう空元気で答えつつも、オウガはがっくりと肩を落とす。こちらの事情を知らなかったとは言え、邪魔されたとあってはこのような反応にもなるだろう。

 そんなしょげた様子のオウガに、ミサは耳元でこっそり囁いてきた。

 

「さっきの言葉の続き…いつでも待ってるからね」

 

「え?…は、はい!」

 

 オウガがそう返答すると、ミサも笑顔で返してくる。そして2人は、到着したリュウタ達を迎えたのであった。

 

「見たところオウガ達もDラボも無事みたいだな!

オレ達も苦戦はしたけど、マルムのお助け恐竜のお陰で助かったんだ!」

 

「そうなんだね。みんなも無事だったみたいで良かったよ」

 

 4人が互いの無事を確認し合っていると、やがて彼らの目の前でDラボのシャッターが開き、中から真っ先に飛び出してきた古代博士が、リュウタを強く抱きしめた。

 

「リュウター! 無事だったんだな! 本当に良かった…良かったなぁ〜っ!」

 

「とっ、父さん! 恥ずかしいってば…」

 

 照れながらも悪い気ではなさそうなリュウタを見てオウガ達も笑っていると、オウガの隣にオーウェンがやってきた。

 

「流石だな、オウガ。前とはレクシィとの信頼関係も段違いに良くなっているように見えたぞ」

 

「オーウェンさんもありがとうございます。ところでブルーは大丈夫だったんですか?」

 

「あぁ。強く頭を打って失神してただけだったから心配ない。むしろトドメに加われなくて悔しがってたくらいだったぞ」

 

「そうでしたか…。良かったぁ〜…」

 

「それに…これも見てくれ。『マジュンガサウルス』の恐竜カードに『虚像幻視(ドッペルゲンガー)』とかいう技カードだ。

ブルーがマジュンガサウルスを撃破した時に、すかさず回収しておいたのさ。

見たところこれは君達の世界の恐竜のようだし…これでまた恐竜を守ることができたってところじゃないか?」

 

「あの乱戦の中でこれを…? やっぱりオーウェンさんって、俺達とは経験が違いますね!」

 

「当然だろ? オレとブルーは、それぞれいくつもの修羅場を乗り越えて今があるからな…」

 

 そんな様子でオウガとオーウェンが会話をしていると、その場に現れたリアスが全員に聞こえるような声で呼びかけてきた。

 

「みんな。恐竜バトルも終わったばかりで疲れてるかもしれないけど…話を聞いてほしいっていう人がいるの。どうか聞いてもらえない?」

 

「勿論構いませんけど…その人って誰なんですか? リアスさん」

 

「この人よ。どうぞ出てきて下さい」

 

 リアスに誘導されて姿を現したのは、中国人風の男であった。その人物を見た瞬間、オウガは声を張り上げた。

 

「あ…あなたは…! あの時の…!」

 

「オウガ君、知ってる人なの?」

 

「は、はい。前まで俺が住んでた北海道から引っ越す時、俺にこのジュラシック・アンバー【伝説(レジェンド)】を託してくれた人です。でも、どうしてあの人がここに…?」

 

「紹介するわ。この人はヘンリー・ウー博士。オーウェンさんと同じ異世界から来た…遺伝子工学の第一人者よ」

 

「…よろしくお願いします」

 

 その言葉と共にウー博士は深々と頭を下げ、その場にいる全員を静かに見渡した。

 

「それでは私の話を聞く前に…まずは中に入りましょうか。あまり部外者には聞かれたくありませんから」

 

「しかし話と言っても…ウー博士。あんた何を話すつもりなんだ?」

 

 オーウェンが訝しげに尋ねたが、ヘンリーは少し顔を伏せてから続けた。

 

「話…というよりは、懺悔のようなものですよ。

私がジュラシック・パークとジュラシック・ワールド…そしてその後も犯した罪についてのね」

 

 




今回はここまでです。
次は幕間の物語を挟んでから32話に移ろうと考えています。
それでは、幕間の物語の更新をお楽しみにお待ち下さい。
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