古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
エースの水嫌いに悩むレックス。彼は何とかエースを水に慣れさせようと、一緒にシャワーを浴びようとしたり海辺へ連れて行ったりしたものの、エースは水から逃げ惑うばかりであった。
そんな時ナイアガラの滝に計4体の恐竜の反応が現れたことで、Dキッズは現地へと出撃する。そしてレックスを残して恐竜捜索を始めたのだが、リュウタとマルムが乗った遊覧船がバリオニクスによる襲撃を受けてしまう。更にそこへアクト団のスピノが乱入したことで遊覧船の舵が壊されてしまった。
それを確認したミサはエンピロを救援に向かわせ、オウガはそのエンピロを襲わんとするグリムらバリオニクス一家の相手を受け持つことにする。
結果として遊覧船の安全を確保し、バリオニクス一家のうち2体を撃破することに成功したものの、残った1体のグリムが遊覧船の乗客へ襲いかかった。更に悪いことに、滝の上でアクト団と戦っていたレックスがエースと共に滝から投げ出されてしまったのである。
しかしレックスとエースはエンピロの『龍渦旋乱』によって助けられ、そして水を克服したエースは、アインと共に『激流旋風』でバリオニクスとグリムを撃破することに成功したのだった…。
前編
ここはインド北部のとある街。
この地域はかの有名な河川ガンジス川の流域にあり、ヒンドゥー教徒の聖地としても扱われているのである。
そんなある日の夜のこと。小高い丘の上に聳える一際荘厳な屋敷に、似つかわしくない怒声が響いていた。どうやら1人の少女と侍女の1人が言い争っているようである。
「ですから! 規則は規則です! ミーナ様ももうよいお年なのですから、王族の自覚というものをお持ちになって下さい!」
「規則規則って…もうたくさん! 自由にさせて!」
「待ちなさい! 話はまだ終わっていませんよ!
…全くもう…。ミーナ様の我儘にも困ったものですわ…」
呆れた様子で去っていく侍女達に対し、部屋の中では1人の少女が苛立ちを抑えられない様子でウロウロとしていた。
彼女の名はミーナ。この屋敷の主である王の1人娘、つまりは王女なのである。
やがて彼女はバルコニーへと向かうと、月の光を浴びながら独り言を呟き始めた。
「はぁ…。ガンジス川で泳げたら…。
昔読んだ絵本では、聖なる川ガンジスで夕日に向かって泳いだら、夢が叶うって書いてあったわ…。
きっと夕日の彼方には、私の王子様が…!
でも…こんなところにいたんじゃ無理よね…」
そう言いかけたところで彼女は弱気を振り払うかのように首を横に振った。
「ううん、最初から諦めてたら何も始まらないわ!
何が何でも行くのよ、ミーナ! ガンジス川に!」
そしてミーナはすぐさま行動を起こした。まずはバルコニーから庭を見渡し、人影がないことを確認すると、すぐそばの木から垂れ下がっていた蔦に掴まって下へと降りたのである。
思い立ったが吉日という言葉もあるが、彼女は行動力の塊であった。
そして彼女は屋敷と外へ隔てる門へ走り寄り、全力で押し開けようとしたのだが…当然ながら門はびくともしなかった。
しかし、それで諦める彼女ではない。なんとどこからか手頃な石を見つけてくると、それで門の下を掘り始めたのだ。
「何とかして、ここから出なくっちゃ…!」
しかし、このペースでは掘り終わるより先に誰かに見つかってしまうだろう。そんな気持ちが心を過ぎりつつも、彼女が直向きに地面を掘り進んでいると…。
カツッ!
「あら? 何かしら…」
その時、石が何か硬いものに当たった音がした。不審に思ったミーナが慎重に穴を掘り広げてみると、そこからはいつもの卵型カプセルが姿を現したのである。
恐る恐るそのカプセルを手で取り上げてみると、それは2つに割れ、中から1枚のカードが排出された。
するとそこへ1陣の風が吹き抜けていき、カードの表面を撫でた…その瞬間、辺りを灰色の光が包みこんだのである。
そしてその光の中から姿を現したのは、青色の鱗を持つ肉食恐竜だった。その体長は8メートルほどとなかなかのものでありながら、かなりの細身である。更に足はすらりと長く、いかにも俊敏そうだ。
この恐竜は、デルタドロメウス。白亜紀後期の現在のアフリカにあたる地域に生息していた中型肉食恐竜である。
デルタドロメウスはミーナの目の前で甲高い雄叫びを上げると、目の前の門へ尻尾で強烈な一撃を加えた。木製とはいえ鉄枠で補強された門が、たやすくへし折れてしまう。
「ええっ!? 一体何なの!?」
突然のことに理解が追いつかず、ミーナが唖然としていると、デルタドロメウスは突然目を輝かせながら庭の方へと駆けていく。そして庭の真ん中に鎮座している噴水の上で、まるで子供のようにはしゃぎ始めたのである。
「ええ…?」
このデルタドロメウスの奇行には、ミーナも更に困惑を深めるほかなかったのであった…。
その頃 三畳市 リュウタ宅
さてその頃Dキッズの4人はというと、今日も今日とてリュウタの家に集まっているところであった。
その中でもマルムは、TVで放映されている洋画に視線を釘付けにされていた。ちょうど今のシーンは舞踏会のようで、それを観ながらマルムは1人妄想に耽っている。
「はぁ〜…。いいなぁ〜。アタシもこんなお屋敷に住むお姫様だったらなぁ〜…」
そんな素敵な気分に浸っていたのも束の間、彼女のすぐ目の前をガブとイナズマがサッカーボールをパスし合いながら通り過ぎていく。更にリュウタの怒声も聞こえてきたとなれば、もうムードは台無しであった。
「おいガブ! イナズマ! オレ達が先に遊んでたんだぞ! 返せよ!
…あっ、マルム。お前も一緒にサッカーやろうぜ!」
そう言いながらリュウタがサッカーボールを投げ渡そうとすると、ボールはマルムの頭の上でバウンドして部屋の隅へと転がっていった。
これにはマルムも我慢ならなかったのか、立ち上がってリュウタに抗議の言葉をぶつける。
「…んもう! 女の子にはもっと優しくしたらどうなの!?」
「はぁ?」
「お姫様はサッカーなんて乱暴なことはしないのーっ!」
マルムがそう言っていると、そこへやってきたレックスやオウガの口からもこんな言葉が飛び出してきた。
「お姫様ぁ? どうしたマルム? 熱でもあるんじゃないのか?」
「多分今見てた映画に影響されたのかな?
でもマルム。お姫様なんてそんな楽なもんじゃないと思うよ」
「いやいや、腹が減って苛立ってるだけだろ。な?」
リュウタがしたり顔でマルムに確認するものの、彼女は遂に癇癪を起こしてしまった。まあ男子達からここまでデリカシー皆無の言葉をぶつけられれば無理もないかもしれない。
「う〜〜〜〜っ! ちょっとアンタ達ぃーーっ!」
そしてマルムが怒りを爆発させようとした…その時だった。彼らのディノホルダーやディノラウザーが甲高い通知音を響かせ始めたのである。
それを確認した4人は、ひとまずDラボへ急ぐことにしたのだった…。
Dラボ
「リアスさん! ウーさん! 今回の場所は?」
「ここは…インド北部の地域ね」
「それにこの周辺はガンジス川の流域ですね。インド発祥の宗教であるヒンドゥー教では、この川は神聖なものとして扱われていると聞いたことがあります」
「よーっし! じゃあ早速行こうぜ!」
「そうだね。今日もアクト団の魔の手から恐竜を助けてあげないと…」
そしてテレポート台へリュウタとオウガが向かおうとした…のだが、そんな2人をレックスが引き止めた。
「待てよ2人とも! レディーファーストだ!」
「「え?」」
どういうことか分からずリュウタとオウガが足を止めると、レックスは声を潜めて2人に囁いた。その間にマルムは気取った様子でテレポート台へ向かっていく。
「ここでご機嫌取っておかないと、向こうで大変だろ? だから2人も合わせてくれ」
「あっ、そっか」
「確かに…。インドで癇癪起こされても宥めるのは俺達だもんな…」
「何してるの? 早く行きましょ?」
「「「はーい、お姫様ー」」」
「…お姫様?」
待ちかねた様子のマルムへ適当に呼びかけ、テレポート台に上がったリュウタ達だったが、そこでふとオウガがリアスへ質問を投げかけた。
「あれ? リアスさん、今日はミサさんも一緒じゃないんですか?」
「ミサさんには今保管庫のカード整理を頼んでるの。だから今日はあなた達に同行させられないわ」
「そうですか…。分かりました。それじゃあミサさんによろしく伝えておいて下さい!」
「分かったわ。伝えておくわね」
「よし、それじゃあ…いってきまーす!」
そしてDキッズが同時にディノホルダーやディノラウザーを操作し、テレポートを始めたところで、古代博士がテレポートルームへと入ってきた。その両手には、沢山のミネラルウォーターのボトルを抱えている。
「おーい! インドでは生水に気をつけろよ!
腹を壊すといけないから、こいつを…」
しかし、時すでに遅しであった。もうDキッズはテレポートの最中だったのである。そして4人の姿は、古代博士の目の前で掻き消えてしまった。
「あっ、ああ…。一歩遅かったか…」
「惜しかったですね、博士。でも持ってきたのが2リットルのボトルじゃあ、どのみちリュウタ君達は受け取ってくれなかったと思いますよ」
「買いに行くだけの時間がなかったから、倉庫から災害備蓄用のものを持ってきたんだが…そりゃそうだよな。タハハ…。
あぁ、ところでリアス君」
「何です?」
「どうして今日はリュウタ達にミサ君を同行させなかったのかね?
保管庫のカード整理なんて、そう時間がかかるものでもないだろうに」
「…博士があの子達の体調を案じて水を持ってきたように、私も彼女の身を案じてインドには行かない方がいいと伝えただけですよ」
「インドは…あぁ、なるほど…。
確かに、記憶喪失のせいで何かと無知な所もある彼女には危ない場所かもしれんなぁ…」
「察していただけたなら何よりです」
インド北部の町
その頃、Dキッズは目的地であるインド北部の町中へテレポートしたところだった。そして早速出現した恐竜を探しに行こうとしたのだが、どこからともなく大勢の子供達が殺到し、彼らを包囲したのである。
「「「新聞買ってー!」」」
「「「冷たい飲み物はいかがー?」」」
「うわっ! ちょ、ちょっとぉ…」
「いきなり何なんだこの子達!?」
「みんな落ち着いて! アタシ達は…」
「恐竜を探しに来たんだ! 君達何か知ってることはないか?」
子供達の喧騒にかき消されそうになりながらも、4人は恐竜の目撃情報を尋ねる。しかし、子供達は何のことか分からないようで首を傾げるばかりであった。
まあ当然の反応と言えよう。
「恐竜?」
「何言ってんの?」
「牛ならいるわよ。ほら」
「それより、質問に答えたんだから新聞買ってよ」
「暑いでしょ? 飲み物はいかが?」
「お金ちょーだーい!」
「ええ…」
質問もそこそこに新聞や飲み物の売り込みを始める子供達に、Dキッズも圧され気味の様子であった。
だが、その群衆の中から一際よく通る声が聞こえてきたのだ。
「あたし見たわよ。その恐竜っていうの」
「えっ? 本当!?」
リュウタ達がその声の主の方へ目を向けると、そこには顔を布で覆った少女が立っていた。そして少女は軽く4人に笑いかけると、群衆から離れて裏路地へ入っていく。
「あ…待ってくれよ!」
「今の話、詳しく聞かせてもらえないかなー!」
その少女の後を、4人は子供達の波を掻き分けながら追いかけていったのであった…。
その頃 丘の上の屋敷
屋敷では、主である王が執事を呼びつけているところだった。どうやらのっぴきならない事態であるらしい。
「ミーナはまだ見つからんのか!」
「只今一生懸命行方を調査しております。もうしばらくお時間をいただければ…」
「ぬうぅ…」
ミーナが屋敷を抜け出して行方を晦ませたため、彼は部下に命じて方々を捜索させているようであった。しかし成果は芳しいものではなさそうだ。
「それに、問題はそれだけではありません。
今朝、宮殿へ忍び込んでいた怪しい3人組を捕らえまして…」
「怪しい3人組だと?」
「なんでも、旅回りの一座と名乗っておりますが…いかがいたしましょう?」
「今日はそれどころではない。追い返すのだ」
「承知致しました」
その言葉と共に執事は恭しく頭を下げ、部屋から退出していく。しかし王は彼に目もくれず、ただ町を見下ろしながら深く溜め息をつくだけであった。
「ミーナ…。一体どこへ行ってしまったんだ…」
宮殿 1階
さて、王の部屋から退出した執事が次に向かったのは、1階の大ホールだった。そこにいた不審人物達とは、あのアクト団工作員のウサラパ達だったのである。
今彼ら3人は屈強な使用人の男に纏めて抱え上げられ、悲鳴を上げていた。
「イタタタ! 痛いザンス!」
「出ていけ! ご主人様はお会いにならないと言っておるのだ!
どうせお屋敷の塀を壊したのもお前達の仕業だろう!」
「へい?」
「へぇ〜…」
「ってシャレてる場合か! ねぇ〜、アタシ達は本当に旅芸人なんだってばぁ〜」
「だったらその芸とやらを見せてみるんだな。
その出来栄え次第では、私からご主人様に掛け合ってやらんこともない」
「「「えっ…」」」
その言葉を聞いたウサラパ達は、顔を強張らせた。どうやら旅芸人という設定でやって来たにも関わらず、碌に芸の1つも覚えてこなかったようである。
「ど、どうします…?」
「どうするって言ったって、決まってるだろ?
獲物はこの屋敷のどこかにいるはずなんだから、ここは何とか粘るんだよ…」
「どうした? まさか見せられる芸がないのか?」
「そ、そぉんなことありませんわ! では、失礼して…」
それからウサラパ達はホールの一角に色々と持ってきたものを並べ始めた。そして怪訝そうな表情を崩さない執事と使用人の前で、即席の芸を披露することにしたのである。
「はぁ〜い! このツボから恐竜飛び出すヨ〜!
うまくできたらお慰み〜!」
そしてウサラパはピンク色のツボをコンコンと叩いてから、コブラを象った笛を吹いた。
「赤い恐竜ちゃん、カモ〜ン!」
『グアーッ!』
するとそのツボから赤い恐竜…チビ形態のティラノが顔を出したのである。どうやらインドのコブラ使いのような芸を披露するつもりらしい。
「はいはい元気いっぱいネ〜!
お次はこちら! 紫の恐竜ちゃん、カモ〜ン!」
『ギャーウ!』
そして今度は黄色のツボを叩き、また笛を吹く。するとツボの中からチビ形態のスピノが顔を出したのであった。
『グアッ!』
『ギャアッ!』
だが、その顔を出したスピノへティラノが吠えかかる。更にスピノも、売られた喧嘩を買うかのようにティラノへと吠え返したではないか。
そんな険悪なムードの中、ウサラパは芸の締めに入ろうとしていた。
「は〜い! 2匹の恐竜ちゃん仲良くキスするヨ〜!
はい、チュ〜〜…」
すると突然ティラノとスピノの体が持ち上げられ、キスをするように近づけられていく。先ほどから姿が見えなかったエドとノラッティ〜はそれぞれ台の裏に潜み、チビ恐竜を持ち上げて芸のサポートをしていたようである。
しかし2匹ともその動きに抵抗するかのように顔を背けてしまった。これでは芸が成り立たない。
「こらっ! チューするんだよ!」
そこでウサラパは2匹の頭を引っ掴み、強引にキスをさせようと試みた。しかし口先同士ではなく顎の裏同士を無理矢理キスをさせることになってしまった。
更にこれで怒った2匹は暴れ出し、それぞれを支えていたエド達の手を振り払って彼らの頭に食らいついたではないか。
「ギャーッ! やめてやめてやめてーッ!」
ノラッティ〜はスピノに頭の触覚を引っ張られて悲鳴を上げ…。
「痛い痛い! 痛いッスーッ!」
エドはティラノに頭頂部をガブリといかれていたのであった…。
「ケンカしないノ! ケンカダ〜メネ〜!」
ウサラパも何とか2匹を宥めようとするが、一度火のついた彼らはそう簡単には収まるはずもない。
ガシャーン!
そしてエドとノラッティ〜が痛みに耐えきれず暴れたせいで、彼らが芸のために用意した張りぼてを壊してしまう。最早芸など成立しようがない状況であることは明白であった。
「時間の無駄だったな。摘み出せ」
「はっ…」
結局頑張りも虚しく、ウサラパ達は屋敷から追い出されてしまった。カエルが潰れたような悲鳴と共に外へ放り出された3人は、呆然と屋敷の扉を見つめる他なかったのであった。
「う〜ん…。これからどうしようかねぇ…」
「ん? あーっ! ウサラパ様! あれを!」
そこでエドが声を張り上げる。それにつられたウサラパとノラッティ〜が彼の指差す先を見ると、そこには荒れ放題の庭が広がっていた。デルタドロメウスが暴れ回った後の痕跡である。
「獲物の仕業ザンス!」
そして塀の一角が壊され、その先へ三つ指の足跡が続いているではないか。
「あっちへ向かってるみたい。行くよっ!」
ウサラパの声と共に3人は何とか体を起こし、足跡の続く先へ歩き始めたのであった…。
その頃 インドの町 路地裏
アクト団が宮殿から叩き出されていた時、Dキッズの4人はようやく少女に追いついたところだった。
「おーい! 待ってくれよー!」
「恐竜を見たって言ってたけど、どこで見たか教えてくれないかな?」
「どんな恐竜だったの?」
「大きさは? 頭はどんな?」
矢継ぎ早に質問を繰り出すDキッズに対し、少女は軽く微笑みながら顔を覆う布を巻き取り、その素顔を晒した。
なんと彼女は、冒頭で宮殿から脱走したミーナだったのである。もっとも、Dキッズはまだそんなことは知らないのであるが。
「見たのは私の家でだけど、暗くてよくは分からなかったわ。でも、大きな恐竜だったのは覚えてる。大体…8メートルくらいはあったかしら…」
と、そこでミーナは足元のガブとイナズマに目をつけた。
「まあ! 可愛いワンちゃん達ね〜!」
そう声をかけながら2匹を撫でるミーナから視線を外さないようにしつつ、オウガはレックスに囁いた。
「これまでガブ達を犬って誤魔化してきたけど、初対面で犬だと断定してくる人は初めてかもしれないね」
「…確かに。原宿やケニアの時みたいに犬じゃないって見抜かれたことも少なくないしな」
「あのさ! もし良かったら、オレ達をその見たっていう場所に連れて行ってくれないか?」
そこでリュウタがそう声をかけると、ミーナは陰鬱な表情で顔を伏せた。
「あそこへは…戻れないの…」
「戻れない…?」
「どうして? 君の家なんだろう?」
「…もし良ければ、ちょっとだけ私に付き合ってもらえない? そしたら恐竜のことについてもっと教えてあげるから」
「「「「はぁ…?」」」」
ミーナの意図は読めなかったものの、今は出現した恐竜について少しでも情報が欲しい状況である。そのためDキッズは彼女の提案に乗ることにしたのだった。
数分後、彼らはというと、ミーナの希望で三輪自動車のタクシーに乗っていた。ただでさえ狭い車内に5人がすし詰めで入っているので窮屈極まりない。
「ううっ、狭ぁ〜…」
「これ絶対2台に分けて乗った方が良かったやつだよね…」
「今更後悔しても遅いわよ…」
しかしそんなDキッズとは対照的に、ミーナは興奮を抑えられない様子であった。
「これだわ! 一度でいいから乗ってみたかったの!
イヤッホーッ!」
やがてマーケットにやってきた5人はタクシーを降り、買い物をすることにしたようだ。まずミーナはマルムと共にアクセサリーショップに足を運び、それぞれ気に入ったものを身に付けては笑い合っている。
そしてカフェのテラス席で合流したDキッズは、ミーナが買ってきたラッシーを堪能することになったのだった。
「どう? これはラッシーって言って、ヤギのミルクで作った飲み物なのよ!」
「ん〜っ、冷たくて美味しい〜!」
「ヤギのミルクは飲んだことがなかったけど…なるほど、これはなかなかいける味だね」
『私としてはヤギならミルクより肉が欲しいところだがな』
「レクシィにとってヤギは馴染みの味だったもんね」
『実に不本意な事だがな』
と、そこでラッシーを一気に飲み干してしまったリュウタが、そろそろといった様子で口を開いた。
「ところでさ、そろそろ恐竜のことについて…」
「そうだ! 皆でガンジス川に行ってみない?」
「ガンジス川?」
「そ! あそこで夕日に向かって泳ぐと、夢が叶うの!」
「夢が? ほんと?」
「俺達が泳いでも大丈夫なのかな…」
その時、マーケットの一角に立派なリムジンが停まった。そして中から姿を現したのは、冒頭にも出てきた侍女の1人だったのである。
彼女の姿を見た瞬間、ミーナは素早く身をマルムの陰に隠した。
「…ごめんなさい。私もう行かないと」
「えっ? ちょっと、どうしたの?」
そして足早に路地裏へ入っていくミーナをマルムが追いかけていったところで、侍女がオウガ達の方へと近づいてきた。
「そこの異人の方。少しよろしいですか?」
「俺達のことですか?」
「はい。突然で失礼ですが私共、人を探しておりまして…。この方を見かけませんでしたか?」
「…ッ!」
侍女が差し出した写真を見たオウガ達は、思わず息を呑んだ。何故ならそこに写っていたのは、先ほどまで彼らと一緒にいたミーナだったからである。
「えっ? あっ…」
「これって…」
思わず口を滑らせそうになったリュウタとオウガに被せるようにして、レックスが侍女へ質問を投げかけた。
「この人が何かしたんですか?」
「この方…ミーナ様は由緒あるタージム家の1人娘にございまして…。昨晩お屋敷から姿を消してしまい、お父様であられるご主人様が大変心配なさっているのです。
お見かけの際は是非こちらへご連絡を。もしミーナ様の保護に成功した際は相応の報酬もお支払い致しますので。では…」
そして紙に書いた連絡先を押し付け、侍女はまた別のところへ向かっていく。その彼女から視線を外さないようにしながら、オウガ達は密談を始めた。
「…おい、今のホントかな?」
「俺達とは初対面なのに、わざわざでっち上げの嘘なんかつく必要ないよ。だから多分あの子…ミーナって子は本当にお偉いさんの娘…ってことなんだと思う」
「…とにかく、マルムやミーナさんと合流しよう」
レックスのその提案に頷いたオウガ達は、ひとまずラッシーを飲み干してグラスを返し、早速マルム達の後を追ったのだった…。
数分後 路地裏
「えーっ!? あのお屋敷のお姫様!?」
ようやく合流したオウガ達から話を聞いたマルムは、思わず黄色い声を上げてしまったようだ。すぐさまリュウタが注意にかかる。
「バカッ! 声がでかい!」
「あっ、ごめん…。でも、本物のお姫様がどうして脱走なんかしたの?」
マルムがそう問いかけたものの、肝心のミーナはガブやイナズマと遊ぶのに夢中で聞こえていないようだ。
「ウフフ、これが気に入ったの?」
「ミーナ、さんだよね? さっき君の家の人と会ったんだけど…」
オウガがそう呼びかけると、途端にミーナの表情が強張った。続けてレックスも彼女に声をかける。
「とても心配しているみたいだったけど、帰らなくていいの?」
「嫌です。私…夕日のガンジス川で泳ぐまで絶対に帰りません」
「そうは言うけどさぁ…」
頑なな態度を見せるミーナにオウガ達が困っていると、マルムが何かを思いついたようでパンと手を叩いた。その表情は、喜色満面といった様子である。
「ねぇ、じゃあこういうのはどう? 夕方までの間、アタシがミーナさんの代わりになってお屋敷に行くの!」
「えっ?」
「何言ってんだよマルム! そんなのすぐバレるに決まってんだろ!」
「ふふ〜ん、平気よ。さ、ちょっと来て…」
そしてマルムがミーナを物陰へ引っ張っていき、数分もすると互いの服を交換した2人がオウガ達のもとに現れたのである。
マルムはミーナが持っていたターバンを目深に被り、彼女特有のピンクの髪の毛が見えないようにしていた。
「ほぉ〜ら。見分けがつかないでしょ?」
「うわ…び、ビミョー…」
「こんなの肌の色ですぐバレるよ…」
微妙な反応を見せるリュウタとオウガは置いておき、ミーナに聞こえないようにしながらマルムがレックスに囁く。
「まあまあ。お屋敷で恐竜のことも調べたいし、好都合ってもんでしょ」
「それは…そうだけど…」
「よし、決まり! ミーナさん。あなたの夢、必ず叶えてね!」
「…はい!」
「でも…マルム。ミーナさんの代わりなんて本当にやれるの?」
「え? 何よオウガ。お姫様みたいに優雅に過ごすのがアタシの夢だったのよ。それがようやく叶いそうだっていうのに、ケチつけないでくれる?」
「そうじゃなくて…。現実のお姫様ってそんな楽なものじゃ…」
「とっ、停めなさーいっ!」
その時、彼らのすぐそばをあのリムジンが通過していった。急ブレーキをかけたようで、リムジンは泥を散らしながら停止する。
「あっ、いた! じゃあ行ってくる! なるべく早く帰ってきてよね!」
「あっ…気をつけろよー!」
そしてマルムはオウガ達やミーナに見送られ、停車したリムジンへと乗り込んだ。
「ミーナ様一体どうなさったんですか! もう、心配させて…」
突然現れたかと思えば黙って車へ乗り込んだミーナ(マルム)に困惑しつつも、侍女も続いて車へと乗り込む。そして2人を乗せた車は、丘の上の屋敷へと走り去っていったのだった。
「マルムさん…」
「大丈夫かな…」
「お姫様役をやり切れればいいんだけど…」
心配そうな面持ちでオウガ達が走り去るリムジンを見つめていた…その時だった。
どこからともなく、何かの破壊音が聞こえてきたのである。
「えっ? な、何?」
「あっちだ!」
すぐさま音のした方向へとリュウタとレックスが駆け出していく。更にそこにミーナも続いていき、オウガもついていこうとした…その時だった。
ズウゥゥ…ン…
「…何だ? 今度は真逆の方向から…?」
リュウタ達が向かった方とは逆の区画から巨大な何かが移動する足音が聞こえてきたのである。それと同時に、ディノラウザーから着信を知らせる通知音が響いた。
「何だろう…? もしもし、こちらオウガ」
『オウガ君? わたしよ、ミサよ』
「ミサさん? どうしたんですか?」
『オウガ君達が今いるところの近くから、さっきオレンジの反応が検知されたみたいなの。
それでウー博士に頼みで連絡したんだけど…オウガ君の方でも確認できた?』
「はい。とは言え…足音を聞いただけでまだ姿は確認できてないんですが…」
そう話しながらオウガは走り出した。最短距離を行けるように路地裏の道を抜け、やがて一際大きな大通りに出た…その瞬間、オウガの足が止まった。
彼の目の前に、目標の恐竜が現れたのである。そしてその体格は、足音に見合うだけの巨体だったのだ。
まるで大木のように太い4本の足、小山のように大きな体、そして長く伸びた優美な首と体格に見合わぬ小さな頭…。
『…オウガ君? 見つけられた?』
「はい…。この恐竜は、アパトサウルス…だと思います…。
それにしても…なんて大きさなんだ…」
オウガの目の前を、アパトサウルスから逃げ惑う人々が次々に通り過ぎていく。しかし当のアパトサウルスはそんな小物に興味などないようで、ただゆっくりと大通りを練り歩いていたのだった…。
今回はここまでです。
今回の話もなかなかの難産でした。恐竜がバタフライするって腕の可動域どうなってるんや…。
それでは、後編の更新をお楽しみにお待ち下さい。