古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ 作:バックベアード
年末近くということもあり、仕事やプライベートが多忙で結局11月は更新できなかったことを、ここでお詫び致します。
それでは、今回の後編も楽しんで頂けると幸いです。
その頃、別の通りへ向かったリュウタとレックスは、そこで暴れるデルタドロメウスを目撃していた。
「いたぞ! あいつだ!」
「あの長い脚に素早い動きは…デルタドロメウスだ!」
「…ん? レックス、ちょっと待てよ。あれって本当にデルタドロメウスなのか?
この前父さんから聞いたんだけど、デルタドロメウスは実は肉食恐竜じゃなくて草食恐竜なんじゃないかって話もあるみたいだぜ。
ほら、あいつ…口に鋭い牙が生え揃ってるし、どう見ても肉食恐竜じゃん」
「そういえば…そんな学説を僕も見た記憶があるな…。
でもあの長い脚やすらりとした胴体は、間違いなくデルタドロメウスの特徴と合致してるはずなんだけど…」
「「う〜ん…」」
デルタドロメウスの正確な姿について議論していた2人だったが、そんな彼らを突然影が覆い隠した。
気づいた2人が仰ぎ見ると、すぐ近くにまでデルタドロメウスが接近してきていたのである。
「…って! こんなことしてる場合じゃないぞ!」
「そ、そうだったな…。よーし、行くぞ! ガブ! イナズマ!」
ひとまずデルタドロメウスの正体は置いておいて、本来の目的に向き合うことにしたリュウタは、ディノホルダーを片手にガブとイナズマに呼びかけた。
…が、何故か彼らからの返事がない。
「おい、何とか言ってくれよ! ガ…ブ…?」
そこでリュウタが自身の足元を見てみると、2匹は忽然と姿を消していたのである。更に、アパトサウルスを追っていったオウガはともかくとして、ミーナの姿も消えてしまっていた。
「あ…あれ? ガブー! イナズマー! どこ行ったんだー!?」
「ガブ達だけじゃない! オウガとミーナさんまでいなくなってるぞ!」
「どうなってんだよ! みんな迷子になっちゃったのか?」
「分からない。でもこうなったら、僕が何とかするしかなさそうだな…。
リュウタ! ここは僕が受け持つから、その間にオウガと連絡を取るんだ!」
「わ、分かったぜ!」
ひとまずリュウタはオウガと通話をすることにしたようで、その場から離れていく。一方でレックスはディノホルダーとカードを構え、目の前で暴れているデルタドロメウスを見据えた。
「まずはお前からだ! エース! ディノスラーッシュ!
吹き抜けろ! カルノタウルス!」
グォォォォォォン!!
さて、その頃ミーナは何をしていたのかというと…。
「リュウタさーん! レックスさーん! オウガさーん! どこ行っちゃったんですかー!」
どうやら人混みに巻き込まれ、リュウタ達を見失ってしまったらしい。更に周囲はデルタドロメウスから逃げ惑う人でごった返しており、彼女の呼びかけは悲鳴と雑踏に掻き消されてしまっていた。
『ガブ! ガァブ!』
『ゴロロロッ!』
しかし、そんな彼女のもとへガブとイナズマが駆けつけてきた。どうやらこの状況でも彼女を見つけられたらしい。
「ガブ! イナズマ! 良かった…。せめてあなた達とは合流できて…」
ミーナは2匹に視線を合わせながらそう語りかけたものの、2匹はしきりに騒ぎ立て、頭を右の方へと向けた。それにつられて彼女もそちらへ…西の方へ顔を向けると、すっかり傾いてきた太陽が浮かんでいた。
もう日没までさほど時間はなさそうだ。
「…いけない! ガンジス川に行かないと!」
自身の目的を思い出したミーナが走り出すと、ガブとイナズマもその後を付いていってしまったのだった…。
その頃、リュウタ達と別の通りでは、オウガが引き続きアパトサウルスを追跡しているところだった。
ちょうど今は、リュウタと通話をしているところのようである。
『…つまり、オウガは今アパトサウルスを追いかけてるってことでいいのか?』
「うん、そういうこと」
『それじゃあすぐにでもアパトサウルスをカードに戻して、こっちに合流してくれないか?
ガブとイナズマ、それにミーナさんともはぐれちゃったからさ…』
「そうしたいのは山々なんだけど…今アパトサウルスは市街地の真ん中を練り歩いてるんだ。こんなところで恐竜バトルなんて始めたら、ここら一帯が更地になっちゃうよ」
『う〜ん…。でも、それならオウガはどうやってアパトサウルスを保護するつもりなんだ?』
「それに関しては策があるんだ。
今アパトサウルスは近くの森に向かっているみたいだから、そこでなら周囲の被害を最小限に…」
オウガがそう言いかけたその時だった。すぐ横を歩いていたレクシィが彼を体当たりで突き飛ばしたのである。突然のことに対応しきれず、オウガはレクシィ共々地面を転がった。そしてその直後、落雷のような轟音が辺りに響き渡ったのだ。
「いてて…。いきなり何するんだよ、レク…シィ…?」
そう言いながらオウガは起き上がろうとしたのだが、ピタリとその動きを止めた。何故なら彼が先ほどまで立っていた場所には、見覚えのある棘が1列に突き刺さっていたからである。
『オウガ。通話に夢中になるのは構わないが、少しは周囲にも気を配るべきだな』
「ごめん、レクシィ。でもお陰で助かったよ。
それにしても…この棘、どれも帯電してる所を見るに、まさか『Sin-D』の連中もここに…?」
「へっ、流石にそこまで分からねぇほど注意散漫じゃねぇみてぇだな。クソガキ」
その言葉と共に姿を現したのは、やはり『Sin-D』のジェイソンだった。そんな彼の後ろにステゴケラトプスが控えているところを見ると、やはり先ほどの棘は『
「すっかり油断してる背後から攻撃すりゃあ楽にアンバーも奪えると思ったんだが…優秀なパートナー恐竜のお陰で命拾いしたみてぇだなぁ?」
「…当然ですよ。レクシィは俺よりもずっと長生きしてきて、その分経験も豊富だし勘も鋭いですから。
それで、あなた達は性懲りもなく俺のアンバーを狙いに来たみたいですね」
「当たり前よ。知っての通りだろうがおれ達のボスが切望してやまねぇ代物だからな。
どうせ言っても素直には渡さねぇだろうし、力尽くで取り上げてやるよ!
さあ、仕事だ! ステゴケラトプス!」
ゴオォォケエェェッ!!
ジェイソンの指示に応えるかのように、ステゴケラトプスがオウガ達へ吼える。対するオウガもディノラウザーを持ち直し、レクシィとアメジストに話しかけた。
「相手はステゴケラトプス1頭…。レクシィ、アメジスト。いける?」
『…私ならいつでも心の準備はできているぞ』
『キュッ! キューッ!』
2匹からの承諾の言葉を受けたオウガは微笑み、2匹をカードに戻してディノラウザーにスキャンした。
「よし、それじゃあ今回も頼んだよ! ディノスラーッシュ!
燃え上がれ! ティラノサウルス・レックス!
揺るがせ! ステゴサウルス!」
ゴガアァァァァッ!!
ケエェェェェ…!!
赤い光と共にレクシィが、紫の光と共にアメジストが成体の姿となって降り立ち、ステゴケラトプスへと敵意の篭った視線を送る。それと同時に周囲にはバトルフィールドが展開されていった。
「さぁて、今回からは手加減なしだ! 徹底的に痛めつけてやれ! ステゴケラトプス!」
「迎え撃つんだ! レクシィ! アメジスト!」
ジェイソンとオウガ、両者の掛け声と共に3頭の恐竜がぶつかり合い、戦いは幕を開けたのだった…。
その頃、レックスとエースはデルタドロメウスを追いかけているところだった。デルタドロメウスは、成体となったエースには目もくれずに町中を走り回っていたのである。
「どういうことなんだ? あいつ、僕達のことなんか眼中にもないみたいだ…」
やがてデルタドロメウスは急に立ち止まると、目を輝かせた。その視線の先を見ると、そこそこの規模の噴水があるではないか。
すると何を思ったのかデルタドロメウスは大きく跳躍し、腹から噴水にダイブしたのだ。そして泳ぐかのようにバタバタと手足をばたつかせていたものの、泳げるほどの水位がないと分かるや否や突如激昂し、噴水を破壊してしまった。
そこへ追いついてきたリュウタも、疑問の言葉を口にする。
「何やってんだあいつ…」
「分からない。でも、少なくとも喉が渇いている訳じゃなさそうだ」
「それにしても変わった恐竜だよな〜。エースを歯牙にもかけないし、噴水にダイブするし…」
「…そういえば、デルタドロメウスは化石の発掘地から、川や沼地の近くで生活していたと考えられている恐竜なんだ。だから『三角州を走る者』を意味する学名が付けられた訳だし。
…もしかすると、今あいつは川を探しているのかもしれない!」
「川かぁ…。この近くで川って言えば…」
「「ガンジス川だ!」」
2人がそう叫んだ時、デルタドロメウスはちょうど噴水から上がってどこかへと走り去ろうというところだった。
「やっぱり…! あいつの目的地はガンジス川なんだ!」
「追いかけよう! きっとミーナさんやガブとイナズマもそこにいるはずだ!」
「よっし! そうと決まりゃあ追跡開始だ!」
「エース! お前も付いてくるんだ!」
そしてリュウタとレックスの2人は、エースと共にデルタドロメウスの追跡を再開したのだった…。
その頃 ミーナの屋敷
「はぁ~…。とにかくご無事で本当に良かったですわ。ご主人様も殊の外お喜びになっておりましたし、私も一安心です」
侍女長のそんな話を程々に聞きながら、マルムはミーナの部屋を見渡す。部屋は美しく高級感溢れる調度品の数々で彩られており、あちこちで侍女達が忙しそうに動き回っていた。
その光景に、マルムは思わず口角を上げずにはいられなかった。
(すごい豪華なお部屋…! まるで夢にまで見た、お姫様の生活そのものだわ…!)
そして、目の前に差し出された紅茶を一口含むと、マルムの口の中が今まで味わったことのない味と香りで満たされていく。
紅茶の目利きなどできるはずもない彼女であるが、このお茶がとても高級なものであることは否が応でも実感させられた。
(はぁ~♡ これよこれ! こんな気分を味わってみたかったの〜!)
そんなマルムの背後に1人の侍女が回り込むと、彼女のベールを取ろうと手をかけた。
「だっ、ダメっ! 取っちゃダメ!」
当然、マルムはその手を振り払ってベールを押さえた。ベールを剥ぎ取られてしまっては計画が台無しだから当然の対応である。
「あら、ミーナ様。何故お部屋でもベールをお被りになっているのです?」
「えっとその…みんなに迷惑をかけてしまったから…顔向けできなくて…」
「あら…いつにもなく謙虚ですこと」
ひとまず誤魔化すことには成功したようで、マルムはほっと胸を撫で下ろす。しかし、問題はここからだった。
「えー、それでは…本日のご予定を確認していただきますね。
まずはこの後、午後3時から英語とフランス語のレッスンを受けていただきます。次に午後4時からはインド舞踊のレッスン、それからその後は…」
(えぇ~っ!? そんなの聞いてなぁ〜い!)
昔はともかく、現代の王族は国や地域の代表として恥ずかしくないように多くの知識や技能を求められ、更に果たすべき様々な義務も背負わねばならないのである。日本の皇族もそうであるし、ミーナの家もまた例外ではないのだ。
しかし、お姫様として悠々自適な贅沢三昧ができると思い込んでいたマルムは、押し寄せてくる怒涛の予定を前に心の中で悲鳴を上げたのだった…。
その後 ガンジス川の畔
ミーナとガブ、イナズマの3者がガンジス川に到着したのは、いよいよ太陽が沈もうとしている時間帯だった。
彼女が辺りを見渡すと、多くの人々が沐浴なり水遊びなりに興じている光景が目に入ってくる。流石聖地というだけはありそうだ。
「遂に私、ここまで来たのね…。聖なる川ガンジスに…」
達成感に満ち溢れた様子でミーナはそう呟く。
とは言え、彼女はただガンジス川へ観光に来たわけではないのは皆さんご存知の通りである。早速彼女はマルムの服から沐浴のための薄着に着替えると、脱いだ服をガブとイナズマに預けた。
「これでよし、っと…。ガブ、イナズマ。ここで見ててね」
そう言い残すとミーナは走り出し、ガンジス川へと飛び込んだ。そしてそのままバタフライでどんどん泳ぎ進めていく。目指すは夕日の方向だ。
(あぁ、なんという自由! このガンジスが天国に繋がっているというのも本当なのかも。
私は今、夢に向かって泳いでいるんだわ! そしてきっと、この夕日の先には私の王子様が…!)
その時、背後から耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。振り返ると、岸で1頭の恐竜が暴れているではないか。それは、先ほどからリュウタとレックスが追跡していたデルタドロメウスだった。
デルタドロメウスは岸辺の小屋をやすやすと破壊すると、ガンジス川へ飛び込んだ。そして豪快なバタフライでミーナの方へまっすぐ向かってくるではないか!
「い、いやっ! 来ないで!」
もしここにオウガがいたなら、腕の可動域はどうなっているのかとかどうやってバタフライを覚えたのかとかそういったことでうんうん悩んでいただろう。
しかし、ミーナにそんなことを気にするたけの余裕はなかった。考えるよりも先に、一刻も早くデルタドロメウスから逃げ切ろうと再び泳ぎ出したのである。しかし体の大きさによる差は覆しようがなく、みるみるうちに距離を詰められていく…が、なんとデルタドロメウスはそのままミーナを追い抜いていってしまった。
「えっ…? どうして…?」
デルタドロメウスの意図が分からず困惑するミーナだったが、やがてその視線が夕日をまっすぐ見据えていることに気が付いた。
「もしかしたら恐竜さん…あなたも夕日に向かって…?」
そのミーナの声に応えるかのように、デルタドロメウスが咆哮を上げる。そしてよく見ると、デルタドロメウスの尻尾にはガブとイナズマがくっついて来ていた。どうやら彼らなりにミーナを心配して来たようだ。
「ガブ! イナズマ! あなた達も来てくれたのね。ありがとう…」
ミーナが2匹に労いの言葉をかけようとした…その時だった。
「みーつけたー♡」
聞き慣れない声の方へミーナが振り向くと、そこには小さな手漕ぎボートに乗った3人組の姿があった。皆さんご存知アクト団工作員の3人である。
「今日は邪魔なガキンチョもいなさそうだし、カレーでも食べてゆっくり獲物をいただこうじゃないか…」
「その割にはバトルフィールドが展開されてるように見えるッスけど、アクトホルダーに反応はないから気のせいッスよね」
そして彼らはデルタドロメウスを前にしてカレーを食べ始めたのだが、どれも日本式のカレーライスだった。せっかくインドに来たというのに何を考えているのだろうか。
それでも相当辛口なようで、ノラッティ〜は火を吹くほど悶絶していた。その一方、エドは至って平気な様子でどんどん食べ進めていく。
「あむっ…ギャーッ! 流石本場のカレーザンス!」
「あれ? 何で2人ともスプーンを使わないんスか?」
「インドでは手で食べるんだよ。そんなことも知らないのかぁい?」
その癖わざわざ手で食べる始末であった。それなら余計カレーライスではなくインド式カレーの方が食べやすいというのに…。
「なるほどぉ…」
「お待ち! 使うなら右手でだよ! ここだと左手は不浄とされてるんだからね!
まぁ〜ったく縁起でもない…」
左手でカレーを食べようとしたエドに講釈を垂れながらウサラパはカレーを頬張ったが、ノラッティ〜同様あまりの辛さに悶絶してしまっていた。
「は、はやくスピノをお出し〜っ!」
「アクトォースラッシュ〜ッ…」
結局すぐに戦うことにしたウサラパはノラッティ〜に命じ、スピノを召喚させたのだが…。
グァギュオォォォォッ!!
「ズビスバーッ!?」
肝心のスピノがボートの下で成体化してしまったせいで、3人は仲良く吹き飛ばされてしまった。ここまで間抜けだといっそ清々しいくらいである。
しかしスピノはそんな彼らを意に介さずくわっと牙を剥くと、ゆっくりとミーナとガブ、イナズマ達のもとへ迫ってきたのであった…。
その頃 町近郊の森の一角
「そこだ! レクシィ!」
「何してやがる! ステゴケラトプス! ステゴはいいからティラノの方に対応しろ!」
一方、オウガとジェイソンの戦いは森の近くへと場所を移していた。町中で戦えば被害が拡大してしまうと考えたオウガが、ここまでジェイソンとステゴケラトプスを誘導したのである。
そして今は、オウガの指示を受けたレクシィがステゴケラトプスの角に食らいつき、大きく投げ飛ばしたところだった。
ステゴケラトプスの巨体が土埃を上げながら地面の上を転がり、木にぶつかってようやく停止する。しかし流石はハイブリッド恐竜というべきか、すぐに元通り起き上がったのである。
「しっかりしろよステゴケラトプス! こうなったら超技だ! そいつら2体とも一気に片付けちまえ! 『
ジェイソンがアンバーに技カードを押し当て、技を発動させた。するとステゴケラトプスに雷が落ち、その体に力が漲り始める…。
「それなら…こっちも合体技だ! レクシィ! アメジスト! 力を合わせて『
これに対し、オウガもすぐさま2枚の技カードを手に取ると、1枚ずつディノラウザーにスキャンした。
「『
技カードが発動し、レクシィは赤い光と炎に、アメジストは紫の光と結晶の礫にその身を包む。そしてまずはアメジストが地面を踏み鳴らすと、ステゴケラトプスの足元がみるみるうちに流砂へと変わり、渦を巻き始めた。これには流石のステゴケラトプスも技を中断し、脱出しようと藻掻かざるを得なくなる。
しかし、やはりハイブリッド恐竜というだけはある。なんと持ち前のフィジカルの強さで、流砂から強引に抜け出そうと進み始めたのだ。
「…ククク…ハーッハッハッハ! 当然だろうが! こんな流砂ごときでステゴケラトプスの足を止められると思ってんのか!」
すっかり勝ち誇った様子でジェイソンが高笑いをする。しかし、まだ攻撃は終わっていない。
炎を口に溜めきったレクシィが大きく跳躍すると、ステゴケラトプスへ向けて落下していき、その体へ噛み付くと同時に口内の炎を爆発させたのだ。
炎が流砂ごとステゴケラトプスを包み込み、凄まじい衝撃波が巻き起こる。そして炎が晴れると、そこにはマグマと化した渦の中へ飲み込まれていくステゴケラトプスの姿があった。やがてその姿がマグマの中へ吸い込まれていったところで、アメジストが力強く大地を踏みしめた。するとナイアガラの時と同じように、マグマの渦の中心から巨大な溶岩塊がせり出し、ステゴケラトプスを外へと排出したのである。
そして地面に転がったステゴケラトプスはピクリとも動かないまま、その身をカードへと戻していった。
「よし! やったぞレクシィ! アメジスト!」
「チッ、『
だが、勝ったつもりになるのはまだ早いぜ。おれにはまだこいつが残ってんだからな!
実力行使だ! インドミナス!」
ギュアァァァァッ!!
しかし、ジェイソンもそう簡単には引き下がれないようで、すぐさまインドミナス・レックスを続投させてきたのだ。
『…どうやら奴も今回は必死のようだな』
「そうみたいだね。でも、だからと言ってあいつにアンバーを渡すわけにはいかない。
レクシィ、アメジスト。まだ戦える?」
『問題ない。むしろまだ暴れ足りないくらいだ』
オウガの言葉にレクシィは応じ、アメジストも肯定の鳴き声を返す。
「よし、それじゃあ…」
そしてオウガが次の指示を出そうとした…その時だった。
ズドドドドッ!
凄まじい地響きと共に森の中から巨大な影が飛び出すと、インドミナス・レックスを突き飛ばしたのだ。
その姿に、オウガ達は見覚えがあった。
「あれは…さっきのアパトサウルス!?」
そう、それはついさっきオウガが追跡していたアパトサウルスだったのだ。しかも先ほどはあれほど穏やかな様子を見せていたというのに、その目が血走るほど激昂しており、横倒しになったインドミナスの腹を何度も踏みつけていた。
そのあまりの攻撃性に、思わずオウガ達も後ずさりしてしまう。
『…どういうことだ? 私の記憶が正しければ、あの種族はあそこまで凶暴ではないはずなのだが…』
「俺にも何が何だか…。さっき観察してた時はこんな兆候なんてなかったのに…」
そんな彼らの目の前で、アパトサウルスはとどめに尻尾を勢いよく叩きつけ、インドミナスを地面へ埋め込んでしまう。そしてインドミナスは全身を痙攣させながらカードへ戻っていったのだった。
「何だと!? 技すら使わずにインドミナスを倒しちまうなんて…ありえねぇ…。こいつ何もんなんだ…」
愕然とした様子でインドミナスのカードを手に取るジェイソンだったが、ふと殺気を感じて目の前を仰ぎ見る。するとあのアパトサウルスが、ジェイソンをも睨みつけていたのだ。彼が後ずさると、その分だけアパトサウルスも近づいてくる。
「く…くそっ! ここは戦略的撤退だ!」
やがて弾けるようにジェイソンが駆け出すと、アパトサウルスもその後を追いかけていってしまった。
当然、オウガ達もこれを放っておく訳にはいかない。
「あっ、アパトサウルスが…追いかけよう!」
『待て、オウガ。既に戦闘は終了したのにバトルフィールドが解けていないのが見えないのか』
「えっ…言われてみれば確かに! ってことはどこかでリュウタ達が戦ってるのか?」
『もしくは、目的の恐竜がアクト団に襲われているのかもしれないな。
オウガ。早いところ場所を確認し、先にそちらへ向かった方がいいだろう』
「…そうだね。アパトサウルスは気になるけど、アクト団を放置するわけにもいかないし…。
よし! レクシィ! アメジスト! すぐ現場へ向かおう!」
そしてオウガ達もまた、ガンジス川へ向けて出発したのであった…。
戻ってガンジス川
その頃、スピノはいよいよミーナのすぐそばに迫ってきていた。逃げようにも人間と恐竜では水中での機動力に差がありすぎる。
怯えた様子のミーナと、小さいながらも懸命に睨みつけてくるガブとイナズマを嘲笑うようにスピノは一声鳴くと、大きく口を開いた…。
が、そこで思わぬ展開が起きた。なんとデルタドロメウスがスピノを突き飛ばし、岸へと打ち上げたのである。
「恐竜さん!」
続けてデルタドロメウスも岸へ上がると、ようやく立ち上がったスピノを尻尾の打撃で弾き飛ばした。
そんなやられ放題のスピノに、ウサラパも檄を飛ばす。ちなみにそんな彼らは壊れたボートの欠片をビート板代わりにして岸へと泳いでいた。
「スピノー! 何してるんだいしっかりおやりー!」
「流されてるッス…」
「それならしっかりバタ足するんだよ!」
「足も口も痺れるザンス〜…」
更にボートの欠片の上でカレーまで食べているではないか。意外とまだ大丈夫そうである。
そして岸辺へと場面を戻すと、そこではデルタドロメウスとスピノが睨み合っていたところだった。やがてどちらともなく駆け出し、両者は激しくぶつかり合った。
しかしスピノ…もといスピノサウルスは史上最大級の肉食恐竜である。それを相手にぶつかり合ったデルタドロメウスはあっさり力負けし、地面になぎ倒されてしまった。横倒しになったデルタドロメウスにスピノは足をかけると、先程の仕返しをするかのように何度も踏みつけ始める。
「酷いわ…。あの恐竜さんは私と楽しく泳いでただけだったのに…」
ミーナの非難の言葉もどこ吹く風といった様子で、スピノはデルタドロメウスに攻撃を加え続ける。
しかしそこへ助け舟がやってきた。リュウタとレックス、エースがガンジス川に到着したのである。
「見ろ! スピノとデルタドロメウスが!」
「ミーナさん! やっぱりガブとイナズマも一緒だ!」
「ややっ! 来たなガキンチョ!」
「スピノちゃーん! さっさと獲物をやっつけてしまうザンスー!」
ノラッティ〜のその呼びかけに応えるように、スピノが高く頭を掲げて咆哮する。その足元ではデルタドロメウスが浅い息をしており、もう体力は限界に近いことが伺える。
「まずいぞ! あのままじゃデルタドロメウスがやられる!」
「よし! ガブ! 今回はお前でいくぞ!」
リュウタがそう言ってディノホルダーを操作すると、ガブも力強い返事と共にカードとなって彼の手元へ戻っていく。そしてリュウタは、ガブのカードをディノホルダーにスキャンした。
「ディノスラーッシュ! 轟け! トリケラトプス!」
ゴオォォォォッ!!
「ガブが…恐竜…!?」
ガブが黄色の光と電撃と共に成体となり、スピノへまっすぐ突進していく。ちょうどスピノはデルタドロメウスを咥え上げてトドメを刺そうとしているところだったのだが、ガブに掬い上げられ、ガンジス川へと投げ飛ばされてしまった。
ようやく拘束から解放されたデルタドロメウスは、何とか立ち上がると、おぼつかない足取りでミーナの方へ歩き始めた。それをミーナも両手を広げて迎え入れようとするものの、彼女を目前にしたところでデルタドロメウスは力尽き、カードへ戻ってしまった。
「これは…カード?」
ミーナがそのカードを拾い上げると、川の方から彼女へ呼びかける声が響く。その声の正体は、ウサラパ達であった。
「あーーっ! それはアタシ達のだよーっ! こっちにお寄越しーっ!」
「オバさん達の?」
「誰がオバさんだっつーの! イーーーーッ!」
ミーナからもオバさん呼ばわりされ、ウサラパは両手を振り回して発狂してしまった。そこで代わりにノラッティ〜がスピノへ指示を飛ばす。
「スピノちゃん! あの子の持ってるカードをいただいてくるザンスよ!」
その指示を受けたスピノは再び岸へと上がり、ミーナへと迫っていく。そしてミーナへ襲いかかろうと大口を開けたところで、エースがミーナを守るように躍り出た。そしてその下顎へ渾身のヘッドバッドを繰り出したのだ。痛みで悶絶するスピノを、更にガブが突進攻撃で大きく跳ね飛ばす。
「よし! レックス! 合体技でトドメを刺してやろうぜ!」
「ああ! デルタドロメウスの敵討ちをしてやろう!」
ここで技カードを使うことにしたようで、リュウタとレックスは技カードを射出すると、示し合わせてからディノホルダーにスキャンした。
「『
「『
技カードが読み込まれ、ガブは黄色の光と電撃に、エースは灰色の光とつむじ風に包まれる。そしてガブは2本の角の間に電撃を収束し始め、エースは自身の周囲に竜巻を巻き起こし、そこへスピノを吸い込んだ。
更にその竜巻へガブが電撃を撃ち込み、竜巻を雷嵐の渦へと変えたではないか。弱点である電撃の嵐で全身を焼き焦がされたスピノは、竜巻が解けると同時に力なく落下していく。
そして運が悪いことに、その落下地点は今ウサラパ達3人が揺蕩っているところであった。
「「「うわーーーつ! ゴボボボボ…」」」
当然避けられるはずもなく、ウサラパ達はスピノの巨体に押し潰されるように水中へ押し込まれてしまう。そしてスピノが青い光を放ってカードへ戻ると、周囲に展開されていたバトルフィールドも解けていった。
レックスは奮闘したエースを労いつつ、ミーナの安否を確認しに向かう。
「よくやったなエース! 今回もお手柄だったぞ!
…ミーナさん! お怪我は?」
しかし、ミーナはただ一点を見つめているだけで、特に反応を示さなかった。レックスがその視線の先を追ってみると、そこには夕日をバックにしたリュウタとガブ、そしてイナズマがいたのである。
その中でもガブへ熱い視線を向けるミーナは、誰に言うでもなくポツリと呟いた。
「ガンジス川の夕日の彼方に…ガブ、あなただったのね…!」
そして彼女の目の前でリュウタはガブをカードを戻し、すぐさまチビ形態で召喚し直してから労をねぎらっていた。
「へへっ、よくやったな! ガブ!」
『ガァブ!』
『ゴロロロッ!』
「おっ! イナズマもガブをねぎらってくれてるんだな! ありがとな!」
そんな3者の様子を、ミーナは微笑ましく見つめていた…。
「ゼェ…ハァ…あれ…? もしかしてもう終わっちゃった感じ…?」
『…どうやらそのようだな』
そこへようやくオウガが追いついたものの、全てが終わった後だと悟り、地面にへたり込んでしまっていたのであった…。
少し前 ミーナの屋敷
「うっ…ううう…」
「はい、もっと背中を伸ばして!」
リュウタ達がスピノと戦い始めた頃、マルムはちょうどヨガのレッスンを受けているところだった。
すっかり目論見が外れたこともあり、彼女の表情はとても厳しいものである。
「うう…もうムリぃ…いたっ!」
そう零したマルムに、侍女長は容赦なくムチを入れた。しかしその拍子に、マルムが隠し持っていたディノホルダーがこぼれ落ちてしまう。
「ん? ミーナ様、何ですこれは…」
不審に思った侍女長が拾い上げようとしたディノホルダーを、マルムは素早く手に取って後ろへと隠した。そしてへらへらと取り繕ったような笑顔を浮かべながら後ずさりをすると…。
「さよならーっ!」
「あっ…あぁっ! お待ちなさい! また逃げるおつもりですか!?」
踵を返してその場から逃げ出したのであった…。
その後 ガンジス川の畔
アクト団との戦いも終わったということで、リュウタ達はミーナに自分達の目的について話していた。
「…では、皆さんは恐竜達を守るために?」
「そういうことになるね。危険な目に遭うことも少なくないけど…恐竜達のためを思えば、なんてことないよ」
「そうだよな? ガブ、イナズマ?」
『ガブ! ガァブ!』
『ゴロロロッ!』
「私は逆に守ってもらいました。ガブにも、この恐竜さんにも…」
そう言いながらミーナはデルタドロメウスのカードを差し出した。
「デルタドロメウスか…。こいつもミーナさんを守るため…なのかは分からないけど、頑張ってたな…」
「はい、ずっと守ってあげて下さいね」
「あぁ。ありがと!」
無事にデルタドロメウスを保護できたところで、レックスが思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、マルムはどうしたかな?」
「言われてみれば、確かに…」
「そろそろお姫様の現実を知って音を上げてる頃じゃないのかな?
一応今からでも迎えに…」
オウガがそう言いかけた時だった。
「リュウター! レックスー! オウガー!」
マルムが彼らのもとへ走り寄ってきたのである。どうやらあの丘の上からここまで走ってきたらしい。
「マルム!」
「もーアタシ限界! ミーナさん助けてー!」
「まさか本当にオウガが言った通りとはな…」
「王族が王族たるために果たすべき義務は沢山あるって聞いたことがあったからね。それを分かってないならこうなるのは目に見えてたよ」
そしてマルムは再度ミーナと服を交換し、いつもの姿に戻ることができたのだった。
「お姫様って大変なのね…。ミーナさんが家を飛び出すのも無理ないわ〜」
疲れ切った顔でマルムがそう口にすると、ミーナは決心したような表情でDキッズに宣言した。
「私、家に戻ります」
「「「「えっ?」」」」
「皆さんには何とお礼を言ったらいいのか…。お陰で叶えたい夢が見つかったの」
「えっ? それって何?」
「それは、恐竜を研究する学者…古生物学者になるって夢!
だって、命懸けで私を助けてくれて恐竜さん…とっても素敵だったもの!」
これにはDキッズも驚きを隠せなかった。ミーナが初めて会った時とは一回りどころか二回りも成長したように見えたからである。
恐らく彼女は、今回の一件を通して心身ともに成長できたのだろう。まさしくローマの休日ならぬガンジスの休日である。
そしてミーナは、足元に擦り寄ってきていたガブを撫でながら更に言葉を続ける。
「この子達のこと、もっと知りたい…調べてみたいって思ったの」
「よし! それならいいものがあるぜ!」
そこで何かを思いついたのか、リュウタは腰のポーチを探り始めると、中から小さなバッジを取り出した。これは、Dキッズのメンバーであることを示すバッジなのである。
「はいっ! これミーナさんにあげるよ!」
「えっ? バッジ?」
「アタシ達、子供恐竜研究クラブ…略してDキッズのバッジなの」
「これを…私に…?」
「これでミーナさんは、晴れてDキッズのNo.5…俺達の仲間になったってことだよ」
「…ありがとうございます! 大切にします!」
ミーナはバッジを受け取り、満面の笑みを浮かべる…と、そこへまたあのリムジンが通りかかった。どうやら屋敷から逃げ出したミーナ(マルム)を追ってきたらしい。
Dキッズと一緒にいるミーナを見るなりリムジンは急停車すると、中からあの侍女長が降りてきたのである。
「あぁ…やっと見つけましたよミーナ様。どうかお戻りになって下さい!
…あら? あなたどこかで見たような…」
「えっ!? ひ、ヒトチガイデスワ…アハ…アハハハ…」
そこで侍女長が傍らにいたマルムに注意を向ける。先ほどまで一緒にいたのだから見覚えがあるのは当然だろう。
何とか誤魔化そうとそっぽを向いてそう弁明するマルムだったが、侍女長は訝しげな表情を崩そうとしない。
だが、ここでミーナが2人の間に割って入った。
「まあまあ、そんなことはいいでしょう?
さぁ、早くお屋敷に戻りましょうよ」
「は、はぁ…。何だか今日のミーナ様はいつもと違う態度ばかりで調子が狂いますわ…」
そして車に乗り込む直前に、ミーナは振り返るとDキッズへ別れの挨拶をした。
「それじゃあ皆さん。お元気で。
ガブちゃんも元気でね?」
「ミーナさんこそ、元気でね」
「もうお屋敷から逃げたりするなよ?」
「いつか一緒に恐竜について語り合えるのを楽しみにしてるよ!」
「ありがとう、皆さん。さようなら!」
「「「さようなら〜!」」」
『ガブ! ガァブ〜!』
リムジンで去っていくミーナが見えなくなるまで、Dキッズは手を振って見送ったのであった…。
『…ところでオウガ。アパトサウルスのことをこ奴らに説明しなくていいのか?』
「…あーーーーっ! そうだった!」
今回の恐竜解説!
「今回の担当は私! 古代博士だ!
今回解説する恐竜は、川辺のスプリンター『デルタドロメウス』! その化石証拠から、かなり身軽な肉食恐竜…だと思われていた恐竜だな。
名前の意味は「三角州を走る者」! アフリカの白亜紀後期の地層…とりわけ川沿いで足跡が多く見つかったことから、この名前が付けられたのだそうだ!
何より特徴的なのは、その体格だな! 推定全長8メートルとなかなかの大きさでありながら、細身な体格に長い脚といかにも足が速そうな身体的特徴が揃っているのが分かるだろう?
そして、ここからが問題なんだが…デルタドロメウスはしっかりとした頭骨が見つかっていないのだ。だからこれまでは肉食恐竜としてアロサウルスやケラトサウルスの仲間だとされていたのだが、そのいずれの仲間とも一致する特徴がなく、研究者達を悩ませていた。
だが、2017年に原記載者によって種の再分類が行われた結果、デルタドロメウスはノアサウルス類という植物食恐竜のグループに分類されることとなったのだ!
もしこの分類が正確なものであったのなら、これまでアロサウルス的な姿で復元されていたデルタドロメウスの姿は大きく見直されることになる! 当然、今回の話に出てきた個体もそうなってしまうだろうな…。
勿論、歯が見つからなければ完全に食性を断定することは難しいだろうが、新しい化石や研究によって恐竜の姿が大きく変わるというのはまた面白いものがあることも事実だ! 実際、私が恐竜研究駆け出しの頃と今を比べると、デイノケイルスのように姿が一変してしまった恐竜も少なくないからな!」
ということで、今回はここまでです。前書きでも書きましたが、11月は更新できずに終わってしまい、大変申し訳ありませんでした。年末を控えていることもあって仕事やプライベートが多忙だった上、空いた時間もDQ3リメイクをやっているうちにどんどん日付ばかりが過ぎ、いつの間にやら12月になってしまっておりました。まだ忙しい日々は続きますが、年末までにあと1、2話は投稿したいと考えておりますので、期待して頂けると嬉しいです。
それでは次回第34話『異種格闘大戦!ニンジャvsコマンドー!』
\勝手に戦え!/ \もう結果だけ教えろ!/
皆さんご存知の通り、3体目のシークレット恐竜が登場します。そして、ソーノイダお気に入りのあの子の初陣ともなりますので、是非お楽しみにお待ち下さい。
それでは、また次回お会いしましょう!