古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は後編になります。
それではデイノニクス編を最後までお楽しみ下さい。


後編

「…ん? 何じゃ…?」

 

 鎌風と共に、何かがソーノイダの頬を掠めていったのである。触れてみると、血は出ていないものの頬の一部が僅かに切れているのが分かった。

 そして彼が視線を前へと向けると…前方から彼の方へ無数の灰色の手裏剣が飛んできているではないか!

 

「なっ、何じゃあれは〜ッ!?」

 

 恐れ慄くソーノイダを庇うようにディーノが立つと、その両脇をニックとスーが固める。そして3体が高らかに咆哮を上げると、彼らの体が虹色の光に包まれた。

 

「あれは…?」

 

「技を使うつもりなんだ! そして…やっぱりあのデイノニクス達も、技カードと融合してる!」

 

 続けてディーノが向かってくる手裏剣を指さすと、虹色の光に包まれたニックとスーが勢いよく走り出した。そして2体は手裏剣を挟み込むように交差すると、手裏剣は全て粉微塵に切り裂かれてしまったのである。

 

「あれはまさしく『十字架撃(クロスカッター)』…。

…いや、そんなことより! 誰ぞい! ワシとディーノ達に攻撃してきた不届き者は!」

 

「私ですが?」

 

 その声と共に忍者屋敷の影から姿を現したのは…『Sin-D』のイシドーラ・ミルズと、彼のアトロキラプトル達であった。どうやら今のはアトロキフォースの超技『風手裏剣(ジェットシュリケン)』だったらしい。

 

「お主は…イシドーラ! 一体何のつもりぞい!」

 

「…これはこれはDr.ソーノイダ。本日ここへ伺わせてもらったのは…そのデイノニクス達を私共に渡していただきたいと思いまして」

 

「なっ、何じゃと…!? そんなことをワシが許すとでも思っておるのか!」

 

 露骨に激怒の表情を浮かべるソーノイダとは対照的に、イシドーラは顔にうっすらと浮かべた笑みを崩していなかった。

 

「ではご説明致しましょう。例えば私の持つ、このアトロキフォース…。彼らは私共が手にした時から戦闘員としての訓練を行なってきたのです。

しかし戦闘ばかりに重きを置きすぎたせいで、各々がいささかワンマン気質な所がありまして…このままでは商品価値としても今ひとつなのですよ」

 

 額に手を当て、いかにも悩んでいるようなポーズを取るイシドーラ。そして彼は続けてこう言い出した。

 

「そこで、そのデイノニクスの見事な協調性に目をつけたのですよ。それを私のアトロキフォースに…いや、それだけではありません。他の恐竜に取り入れることができれば、彼らの商品価値は今の倍…いや、下手をすれば10数倍にまで跳ね上がるでしょう。

ですからその研究のために、デイノニクスを渡していただきたいという訳です。いかがです?」

 

「勝手なことばかり言いおって…! そんなのワシが許さんぞい!」

 

 ソーノイダが怒りを顕にしてそう言い返すが、イシドーラは呆れた様子でかぶりを振るだけだった。

 

「まあ、別に貴方の許可は求めていませんよ。断ると言うならば私は勝手にやらせていただくだけですから。

…アトロキフォース!」

 

 そしてイシドーラは懐からレーザーポインターを取り出すと、素早くデイノニクス達全員に当てた。

 するとにわかにアトロキフォースが殺気立つ。

 

「…やれ」

 

 そのイシドーラの言葉と共にアトロキフォースは一斉に大地を蹴り、デイノニクス達へと殺到していく。

 

「ぐぬぬ…あくまでワシらの邪魔をしようと言うなら、もうビジネスパートナーだろうが何だろうが知ったことではないぞい!

ディーノ! ニック! スー! お前達の力をあの不届き者共に見せつけてやるのだぞい!」

 

 ソーノイダの呼びかけにデイノニクス達も甲高い鳴き声で返事をし、向かってくるアトロキフォースの迎撃態勢を入る。

 そして両者は、激しい乱闘を繰り広げ始めたのであった…。

 

 

 一方、ウサラパ達3人は話についていけず暫くボーっとしていたものの、ようやく我に返ったようだ。

 

「お、お前達! 早くドクターに加勢するんだよ!」

 

「はいザンス! それじゃあひとまずティラノで…」

 

 まずはノラッティ〜がアクトホルダーからティラノのカードを引き抜き、読み込み口に通そうと顔を上げた…ところでピタリと動きを止めてしまう。なんとすぐ目の前にスピノラプトルの顔面があったのである。

 

グァギュキシャァァァァッ!!

 

「ひええええっ!」

 

「こいつは…ベガスで会ったすばしこい奴ザンス!」

 

「…私のスピノラプトルに首をはねられたくないのであれば、そこで大人しくしていることですね」

 

 怯えるウサラパ達にそう告げつつ、イシドーラはリュウタ達の方へ視線を向けた。そちらでは、やはり3人を囲むようにインドラプトルが巡回している。

 

「くそっ…これじゃあガブ達を出せない…」

 

「とにかく、ここは隙を窺うしかなさそうね…」

 

 …さて、ちょうどこの時、忍者屋敷からオウガとミサはようやく脱出してきたところだった。しかし戸口から出る寸前で良くない雰囲気を感じ取り、反射的に物陰へ隠れたのである。

 そしてそっと顔を出し、状況を確認する。

 

「オウガ君、大変なことになってるわ。リュウタ君達が黒い恐竜に捕まってるみたい」

 

「…そうみたいですね。インドラプトルってことは…イシドーラがここに来てたんだ…。

すぐにでも助けに入らないと…」

 

 そう言いつつオウガがディノラウザーを構えようとした…が、その手をミサが引き止めた。

 

「待って、オウガ君。今ここでレクシィちゃんやアメジストちゃんを召喚したら、多分黒い恐竜の方が先に気づいちゃうわ。そうしたら…わたし達が攻撃するより前にあの子達に危害を加えられるかも…」

 

「それは…確かにそうですが…。

くっ…レクシィもアメジストも…エンピロまでいるのに、ここで手をこまねいていることしかできないなんて…」

 

「オウガ君…」

 

 友人達を助けたいのに助けられない…オウガはそんな、どうしようもない状況に立たされてしまっていた。

 しかしそこで、ディノラウザーからレクシィの声が聞こえてきたのである。

 

『今は堪えろ、オウガ。これは狩りと同じだ。辛抱強く待てば、いつかは必ず好機が訪れる…。

肝心なのは、その好機を見逃さないことだ』

 

「好機…」

 

『今はあのインドラプトルとやらが目を光らせているが、奴とて恐竜であることに変わりはない。

必ずどこかで一瞬だけでも隙を見せるはずだ。その隙に付け入ることができれば…』

 

「…分かった。レクシィの言う通りにしてみるよ」

 

 オウガがそう返すと、レクシィは静かに頷いてから視線を前へ…デイノニクスとアトロキフォースの戦いの場へ向けたのだった…。

 

 

「タイガー! パンテーラ! 群れのアルファから確実に仕留めなさい!」

 

 イシドーラの指示に応じ、アトロキフォースのうちタイガーとパンテーラがディーノに向かっていく。だがディーノは軽々と2体を飛び越え、後方へと着地した。そしてその隙を見逃さず、ニックとスーが2体へカウンターの飛び蹴りをお見舞いしたのである。

 

「いいぞいいいぞい! 流石の身のこなしぞい!」

 

「やはり、簡単にはいきませんか…。

しかしこの一心同体であるかのような連携…これを取り入れられれば更なる富を得られるはずです…。

フフフ…楽しみで仕方がない…」

 

「なーにをごちゃごちゃ言っておるぞい! そらっ! ディーノ、ニック、スー!

お前達の得意技『超転龍襲(ローリングアタック)』でトドメを刺してやるのじゃぞーい!」

 

 ソーノイダの声に応じ、デイノニクス達は虹色の光を身に纏って咆哮を上げた。続いて3体全員が飛び上がって体を丸めると、激しく縦回転をしながらアトロキフォースへと突っ込んでいく。そしてゴースト以外の3体を吹き飛ばし、あっという間にダウンに追い込んだのだった。

 

「すごい破壊力ッス!」

 

「これであと1体ザンスよ! これはドクターの圧勝ザンスね!」

 

「フハハハハ! どうぞいか! これがワシの恐竜達の実力ぞい!」

 

 そう得意げに胸を張るソーノイダに対し、イシドーラは…何故か余裕の笑みを崩していなかった。

 

「攻撃性能も言う事なし。実に見事なものです。

しかし…調子に乗りすぎましたね」

 

 その時、デイノニクス達の体を巨大な水球が包み込んだのである。

 

「な、何っ!? これは『龍河苦玉(トラジェディーオブザボール)』…まさか!」

 

 ソーノイダがさっと視線を井戸の方へ向けると、そこには技を発動した直後のスピノラプトルがいる。ウサラパ達を見張るだけでなく、大技を発動した後の隙をずっと見計らっていたようだ。

 

「そのまさかですよ。超技を発動した直後というものは、大概大きな隙が生まれるものですからね。

その隙を突けば、いかに強力な恐竜であろうと抗うことはできないのです」

 

 そしてイシドーラは懐から虹色のカードを取り出し、カフスピンのアンバーに押し当てた。

 

「ゴースト。インドラプトルと交代です。

そしてインドラプトル。お前の最終奥義を見せて差し上げなさい! 『略奪者魂(ラプターズソウル)』!」

 

 イシドーラの指示に応じてインドラプトルが躍り出ると、その身が虹色の光に包み込まれた。そして天を仰ぎ、高らかに咆哮を上げたのである。

 すると…何ということだろうか。彼の瞳が赤く爛々と輝いたかと思うと、大地を力強く蹴って飛び出したのである。そしてデイノニクス達を閉じ込めた水球へ一気に肉薄すると、目にも止まらぬ動きで四方八方から連撃を加え続けた。

 

「ああ…そんな…。ディーノ…ニック…スー…」

 

 水の中に閉じ込められ、ただでさえ苦しい状況の中で更にインドラプトルの攻撃を受け、デイノニクス達はみな苦悶の表情を浮かべている。

 そしてインドラプトルがトドメの一閃を放った瞬間、水球が弾け飛び、デイノニクス達が地面に投げ出された。あれほどの連撃を受けながらもまだカードに戻ってはいないようだが、最早立ち上がる力すらもないようである。

 

「水の抵抗もあって、いささか切れ味が鈍りましたかね…。しかしここまで追い込めば、もうおしまいです。

さあ、インドラプトル…引導を渡してやりなさい」

 

 インドラプトルはフンッと鼻を鳴らすと、浅い息をしているデイノニクス達の方へ足を進めようとした…。

 しかし、その前にソーノイダが立ちはだかったのである。

 

「…そこのお前! これ以上はいかせんぞい!」

 

「何のつもりです? インドラプトルの前に自ら身を差し出すなど…死ぬつもりですか?」

 

「お主にはそう思えるじゃろうな…。じゃが! この子達はワシの自己満足でこれまでずっと苦しい思いをしてきたんじゃぞい!

それなのにまたお主らの手に渡ったとなれば、更に苦しむことは目に見えておるぞい!

じゃから…」

 

 そこでソーノイダは大きく息を吸い込み、こう言い放った。

 

「じゃから! これまで苦しめた分、ワシはこの子達を幸せにしてやる義務があるのじゃぞい!

お主らのような恐竜を生き物とすら思っていないような腐れ外道共に、渡すわけにはいかんのだぞい!」

 

「…いいでしょう。そこまで死に急ぎたいのならば望み通りにして差し上げます。

インドラプトル! まずはそのご老人から血祭りに上げてやりなさい!」

 

 イシドーラの指示を受けたインドラプトルは、初めて見るような残酷な笑顔を浮かべると…ソーノイダへゆっくりと近づいていったのだった…。

 

 

「まずいザンスよ! あのままじゃドクターが殺されちゃうかもしれないザンス!」

 

「でも…この恐竜が彷徨いてる限り、おれ達は助太刀にも入れないッスよ…」

 

 ノラッティ〜とエドがそんな話をしている中、何かを考え続けていたウサラパは決心したような表情で2人に耳打ちをした。

 

「お前達。ここは一か八かでやってみるしかないよ」

 

「一か八かで…」

 

「何をやるザンスか?」

 

「それはだね…ゴニョゴニョ…」

 

 ウサラパの告げた内容を聞き、エドとノラッティ〜は顔を引き攣らせた。

 

「そ…それは…」

 

「ミー達の身も危ないザンスよ…?」

 

「そんなこと言ったって、今ドクターを助けるにはこの手しかないんだよ!

チャンスは1回だけなんだから、しっかりおやり!」

 

 そう彼女に脅され、2人は躊躇いがちに頷いた。

 

「よし…やりな!」

 

 

ギュガッ!? ギュガガガガ…!

 

「何事です?」

 

 突如井戸の方から響いてきた声でイシドーラが視線を移すと、なんとそこではエドとノラッティ〜が2人がかりでスピノラプトルに掴みかかっていたのだ。

 スピノラプトルも2人を振り解こうと身を震わせているものの、エドの手がたまたま首を絞め上げていたこともあって体に力が入らないようである。

 

「ドクター! これをーッ!」

 

 更にこの隙に、ウサラパがソーノイダへアクトホルダーを投げ渡したのである。あまりに突然の出来事に、インドラプトルも反応しきれていない。

 そして、アクトホルダーは無事ソーノイダの手へ渡ったのであった。

 

「よーっ、と…よくやったぞい! ウサラパ!

さて…ここからはワシの反撃といくぞい!

イシドーラ! ワシと共に今日まで鍛えてきた…この子の力を嫌と言うほど見せてやるぞーい!」

 

 その言葉と共に、ソーノイダは恐竜カードをアクトホルダーに通した。

 

「アクトスラーッシュ! 煌めけ! テリジノサウルス!」

 

キュウクォォォォッ!!

 

 虹色の光に包まれ、成体の姿となったテリジノが大地に降り立つ。そしてテリジノは力強い視線でインドラプトルを睨みつけ、甲高い咆哮を発したのであった。

 

 

 そしてこの時、Dキッズ側にも動きがあった。スピノラプトルの苦しみ悶える声を聞いたゴーストが、一瞬Dキッズから目を逸らしたのである。

 

(今だッ!)

 

 それをオウガは見逃さなかった。素早くレクシィをカードへ戻し、ディノラウザーにスキャンしたのだ。

 こんな状況なので前口上など言っている余裕はないが、いつも通りレクシィが業火と共に成体の姿へ変化していく。

 

「レクシィ! まずはアトロキラプトルを!」

 

『分かっている!』

 

 そして成体の姿となって降り立つや否や、レクシィは目の前のゴーストを咥え上げた。

 当のゴーストは必死に手足をばたつかせるものの、ティラノサウルスの顎から逃れられるはずもない。そしてそのままゴーストは、敷地の片隅へと投げ飛ばされてしまった。

 

「ひゃーっ!?」

 

「アトロキラプトルが飛んできたザンス!」

 

「多分偶然ッスけど、ガキンチョの怖いティラノのお陰で助かったッスね…」

 

 …ついでにウサラパ達に襲いかかろうとしていたスピノラプトルも巻き込んで諸共に転がっていったのだが。

 そして、この絶好の機会を逃すまいとミサはリュウタ達に向かって叫ぶ。

 

「みんな! 今のうちに可能な限り恐竜を出して備えて!」

 

「よっしゃあ! オウガにミサさんもナイスだぜ!」

 

「僕達もやるぞ! エース! アイン!」

 

「さ〜て、ここからアタシ達の逆襲よ!」

 

 そしてリュウタ達もディノホルダーを構え、各々のパートナー恐竜を召喚していく。

 

「ディノスラーッシュ! 轟け! トリケラトプス! スティラコサウルス!」

 

ゴオォォォォッ!!

 

ギュオォォォォッ!!

 

「ディノスラーッシュ! 吹き抜けろ! カルノタウルス! アロサウルス!」

 

グォォォォン!!

 

グゥガアァァァァッ!!

 

「ディノスラーッシュ! 芽生えよ! パラサウロロフス! ランベオサウルス!」

 

キュオォォォォン!!

 

プォォプオォォォォッ!!

 

 更に、オウガとミサもこれに続く。

 

「ディノスラーッシュ! 揺るがせ! ステゴサウルス!」

 

ケエェェェェ…!!

 

「ディノスラッシュ! 湧き上がれ! スピノサウルス・エジプティアクス!」

 

グゴォォォォッ!!

 

 こうして計8体の恐竜が召喚され、レクシィの横に並び立ったのであった。

 

「また僕達が人質にされたら厄介だ! ここは防衛と攻撃で分かれよう!」

 

「よしっ! じゃあ免許皆伝のオレ達は攻撃に…」

 

「草食恐竜を防衛に回して、肉食恐竜に攻撃してもらいましょう! それなら分かりやすいわ!

いいわよねリュウタ!」

 

「あっ…はい」

 

「分かった! それじゃあ…エース! アイン! 君たちはスピノラプトルと戦うんだ!」

 

 レックスが指示を出すと、エースとアインはスピノラプトルへ向かって一斉に駆け出していく。当のスピノラプトルは殺到する2体の恐竜を見てギョッとした様子を見せると、すぐそばの林へ飛び込んだ。

 

「レクシィ! 君はアトロキラプトルの対処を頼む!」

 

『…いいだろう』

 

「エンピロちゃんも加勢してちょうだい!」

 

 オウガとミサの指示に応じる形で、レクシィとエンピロはゴーストの前へ並び立つ。2体の超大型獣脚類から放たれる威圧感は相当なものであるようで、さしものゴーストも怯えた様子を見せたのであった…。

 

 

 一方、テリジノとインドラプトルの戦況は…。

 

「そらそらそらそら! さっきまでの威勢はどうしたぞい! 避けてばかりでは勝てないぞい!」

 

「チッ…何という滅茶苦茶な戦い方を…」

 

 あのインドラプトルが回避に徹しなければならないほど、テリジノの圧倒的有利な状況となっていた。その爪の切れ味は技カード分離前から落ちていないどころか、更に鋭くなっているようにも思える。

 更には、松の木の上へ逃げたインドラプトルを攻撃したついでに、その木を綺麗に刈り込んでしまった辺りからは、攻撃の精度がいかに高いかも窺えた。

 

(このままでは、インドラプトルのスタミナが尽きるのが先だろう。

多対1に持ち込めれば、再びこちらに流れを引き戻すことができるかもしれないが…)

 

 そう考えながら、イシドーラは目線をスピノラプトルとゴーストへ向ける。スピノラプトルはエースとアインに2体がかりで追い立てられており、先程のように超技を発動できるだけの機会は得られそうにない。

 かと言ってゴーストは、レクシィとエンピロという2大超大型獣脚類からの猛攻を受けており、呼び戻すことすら叶わなそうだった。

 

(…ならば、インドラプトルだけで何とかするしかない)

 

 結局インドラプトル単体で相手をするしかないと悟ったようで、イシドーラはもう1枚の技カードをアンバーに押し当てた。

 

「さて…貴方達の快進撃はここまでですよ。

最後は貴方の作った技カードで引導を渡して差し上げましょう…。『血鬼魔手(ヴァンパイアネイル)』!」

 

 技カードが発動し、インドラプトルの体が虹色の光に包まれる。そしてインドラプトルは軽く宙返りをして尻尾を地面に叩きつけ、黒い煙幕を巻き起こした。

 

(この暗闇に紛れれば、いかにテリジノサウルスと言えど安易に手は出せないはず。

ここで戦いの主導権を握らせてもらうぞ…)

 

 しかし、イシドーラはすぐに自分の目論見が甘かったことを思い知ることとなった。

 

「テリジノちゃん! この技でいくのだぞい! 『切裂巨爪(ネイルブレード)』!」

 

 対抗する形で、ソーノイダがアクトホルダーに技カードを通す。するとテリジノの体が虹色の光に包まれたかと思うと、その光が両腕の爪へと収束していく。

 そしてテリジノがその爪を勢いよく振るうと、煙幕が引き裂かれ、闇に紛れていたインドラプトルの姿が露わになってしまったのである。

 

「何だと…! こんなことが…!」

 

「そこぞい! テリジノちゃん!」

 

 テリジノはすぐさま前へと踏み出し、インドラプトルに『切裂巨爪(ネイルブレード)』で斬りかかった。しかしインドラプトルもただやられる訳にはいかない。持ち前の瞬発力を活かして飛び退き、何とか直撃は避けられたようである。

 

「ならば…もう容赦はなしとしましょう。

今一度インドラプトルの全身全霊を見せて差し上げます! 『略奪者魂(ラプターズソウル)』!」

 

 再びイシドーラが『略奪者魂(ラプターズソウル)』を発動したかと思うと、何故かインドラプトルはテリジノから離れ、忍者屋敷の上へと駆け上っていく。そして最上階の屋根に到達したところで天を仰ぎ、その身に満ちた虹色の光を迸らせながら咆哮を上げたのである。

 そして力強く踏み切ると、口を大きく開いてテリジノへ一直線に突撃していく。その瞳に宿った赤い光は残光を引いており、まさしく悪魔と形容するに相応しい姿であった。

 だが、ソーノイダとテリジノは全く慌てた様子を見せていなかったのである。

 

「遂にその技で来おったな! ならばこの技でディーノ達の仇討ちをさせてもらうぞい! テリジノちゃん! 『脅威爪刺(デンジャラスクロウ)』ぞーいっ!」

 

 ソーノイダのアクトホルダーに技カードが読み込まれ、テリジノの体を再び虹色の光が纏う。そしてその光は、今度は片腕の爪だけに収束したのである。エネルギーの放出先を限定しただけあってその光は凄まじく、先程よりも太く長い光の爪が形成されていた。

 続けてテリジノは突撃してくるインドラプトルをじっくりと見据え…接近に合わせて勢いよく爪を突き出した!

 

 その瞬間、インドラプトルの脳裏にかつての記憶が蘇る。降りしきる雨、妙にツルツルとした床の感触、生意気にも自分の狩りを妨害してきた人間共とちっぽけな恐竜。そして、そんなちっぽけな恐竜と取っ組み合いながら下へと落ち…身を貫く激痛と共に押し寄せてきた暗闇を…。

 

 だが、その時にはもう、インドラプトルはテリジノの『脅威爪刺(デンジャラスクロウ)』で貫かれていた。テリジノは手元のインドラプトルの尻尾が力なく垂れ下がったのを確認し、爪を振るってそれを投げ捨てる。地面に転がったインドラプトルはそのままピクリともしないまま、カードへと戻っていったのだった。

 

「ワーッハッハッハッ! 流石はワシのテリジノちゃんぞい! よくディーノ達の仇を取ってくれたのう! 流石じゃぞい!」

 

 ソーノイダはテリジノと抱き合い、小躍りしながら喜んでいる。

 

「…ここまでですか…」

 

 一方イシドーラは、そう小さく呟きながらインドラプトルのカードを見つめていたのだった…。

 

 

 そしてこの時、Dキッズ側の戦いも決着がつこうとしていた。

 

「相手の方が素早いなら…こっちがもっと素早くなればいいんだ! エース! 『分身術攻(ニンジャアタック)』!

アインは『幻舞連爪(カゲロウ)』でいくんだ!」

 

 レックスが2枚の技カードを立て続けにスキャンし、技を発動させた。風に身を包んだアインは加速しながら、エースは次々に分身を増やしながらスピノラプトルのもとへ殺到していく。

 そしてまずはアインが姿が見えなくなるほどの超高速の連撃をスピノラプトルへ叩き込み、続けてエースとその分身による追い打ちが加えられる。

 この攻撃で遂に力尽きたスピノラプトルはその場へ倒れ伏すと、カードとなってイシドーラの手元へ戻っていったであった。

 

 

「ミサさん! トドメの一撃をお願いしてもいいですか?」

 

「勿論よ! それなら…エンピロちゃん! この技カードで決めて! 『深淵潜航(アビスサブマリン)』!」

 

 ミサが技カードを発動し、エンピロが体に青い光と水流を纏う。するとゴーストの足元に巨大な影が現れ、ゴーストを突き上げながらその身を露わにした。それは、以前ネス湖でDキッズが回収したモササウルスであった。そしてモササウルスは器用に空中でゴーストを咥えると、凄まじい水飛沫と共に水中へ潜っていく。

 かくして、イシドーラの恐竜は全滅したのであった。

 

「致し方ありませんね。誠に不本意ですが、デイノニクスは諦めるしかないようです。

…ですが、Dr.ソーノイダ。覚えておきなさい。今回の件はボスに報告させていただきますよ」

 

 そんな捨て台詞を吐き、イシドーラは林の中へと逃げていったのであった。

 

「ふん! もうお主らの助けなんぞ借りんでも、ワシらアクト団はやっていけるぞい!

…っと、こんなことをしとる場合ではなかった! ディーノ! ニック! スー! お前達の仇はワシとテリジノちゃんが取ってやったぞい!」

 

 ソーノイダがそう叫びながら、デイノニクス達の元へと走っていく。しかし彼らはもう立ち上がる力も残っていないようだ。

 

「おお…ディーノ…ニック…スー…。昔も今もこんなに辛い目に遭わせてしまって、本当にすまなかったのう…。

じゃがワシも、テリジノちゃんのお陰であの頃から変われたのじゃぞい。だから、どうか…一緒にアジ島に帰って、治療を受けてもらえんぞいか…?」

 

 その言葉に反応したのか、ディーノが僅かに頭を上げた。そして彼は最後の力を振り絞り…ソーノイダの差し出した手のひらに顔を擦り付けたのだ。その直後、3体の体は光に包まれてカードへと戻っていく。

 

「ディーノ…ニック…スー…本当にありがとうぞい。もうお前達の信頼を裏切るような真似は、絶対にしないぞい…」

 

 そう呟いて涙ぐむソーノイダだったが、Dキッズから寄せられる生暖かい視線に気がつくと裾で涙を拭い取った。そして傍らで微笑んでいたテリジノをカードへと戻してアクトホルダーにしまうと…。

 

「お前達! 目的は達成したからさっさと帰るぞい!」

 

「「「へっ、ヘイヘイホーッ!」」」

 

「「「「スタコラーッ!」」」」

 

 ウサラパ達を呼び寄せ、脱兎のごとく逃げ出していったのであった。そんな彼らを、Dキッズは特に追いかけることもなく苦笑混じりで見送っていた。

 

「ゾイじじいの奴、随分慌ててたな〜」

 

「きっと僕達にデイノニクスを奪われるんじゃないかと心配したんだよ」

 

「でも、あのお爺さんも段々改心してきてるみたいだし…きっと大丈夫よ!」

 

「そうだね。デイノニクスもお爺さんを信頼して自分の身を預ける選択をしたんたから、俺達がとやかく言う事じゃないよ」

 

「あのアクト団とかいう人達も、根っからの悪ってわけじゃないのかもね!」

 

 そんな話をしていた5人だったが、ふと視線を下に落とすと…そこには1枚の恐竜カードが落ちていた。1番近くのオウガが拾い上げると、なんとそれは『アトロキラプトル』のカードだったのである。

 

「これ…アトロキラプトルのカードだ…」

 

「イシドーラが忘れていったのか? でもいつもなら、僕達の恐竜が倒してカードにしても、自動で手元まで戻っていくはずなのに…」

 

「きっとエンピロちゃんの『深淵潜航(アビスサブマリン)』で水中に連れ去られたから、カードになっても手元へ戻れなかったのかもね」

 

「それならアタシ達が貰っておきましょうよ! もしレクシィちゃんと同じ世界の恐竜なら、オーウェンさんに返せばいいんだし!」

 

「…そうだね。そうしようか」

 

 話し合いの末アトロキラプトルを持ち帰ることに決めたようで、オウガがディノラウザーにカードをしまい込む。それから5人はそれぞれの恐竜達をカードへ戻し、チビ形態にして再召喚したのだが…。

 

「…あれ? そういえば父さんは?」

 

「もしかして…まだ忍者屋敷の中なのか?」

 

「えー…アタシもうここ入りたくなーい…」

 

「博士には申し訳ないけど、わたしも同感かもね…」

 

「どうしようもなさそうだし…古代博士が出てくるまで適当に時間を潰してようか」

 

「さんせーい! オレ途中で入りたかったアトラクションがあったんだー!」

 

 ということで、古代博士が忍者屋敷を抜け出すまで忍者村を満喫することにしたDキッズ一行。しかし、すっかり日が落ちて月が顔を出す頃になっても、古代博士は忍者屋敷を彷徨っていたのだった…。

 

「リュウタ〜…助けてくれ〜…」

 

 

その後 アクト団基地「アジ島」

 

「ふぅ〜…何とかディーノ達の治療も終わったのう。今回はお手柄じゃったぞ、テリジノちゃん」

 

『ミュ〜♪』

 

 あの後、墜落したロケットに格納されていた緊急用ポッドでアジ島へと帰ってきたソーノイダは、早速デイノニクス達の治療に取りかかったようだ。

 そして今はそれも終わり、テリジノと共に穏やかな時間を過ごしていた。

 

「これからディーノ達3匹もここで生活することになるからのう、テリジノちゃんも仲良くしてやってくれぞい」

 

『ミュッミュ〜!』

 

 了解した、と言わんばかりに敬礼を返すテリジノの頭を撫でてやり、ソーノイダはデスクへと向かう。そこで彼は、1つのメモを開いたのであった。

 

「これでディーノ達が見つかったことだし…ガキンチョ共の手元にある恐竜も合わせれば、もう殆どの恐竜が見つかったことになるぞい。

後はアクトメタルさえ集まれば、いつでもこの時代から脱出することができそうぞい…」

 

 しかしそのリストを見ているうちに、ソーノイダは何かに気づいた様子で首を傾げる。

 

「…ん? すごく大事な恐竜を忘れてるような気がするぞいが…どいつだったか思い出せないぞい…。

ものすごーく手のかかる奴だったのは覚えてるぞいが…はて…?」

 

 そう呟いて頭を抱えるソーノイダ…その後ろの本棚の1区画から、僅かに虹色の光が漏れ出ていたのであった…。

 

 




今回の恐竜解説コーナー!

「今回紹介する恐竜は、デイノニクスだぜ!」

「名前の意味は『恐ろしい爪』。後ろ足の第二指に付いている一際大きな鉤爪…シックルクローが名前の由来になっているんだ。
体長は3メートルとかなり小柄だけど、徒党を組むことで大きい草食恐竜も狩ることができたと推測されているよ」

「生きていた時代は白亜紀前期で、発掘地は北アメリカよ。同じ時代に同じ場所で生きていた恐竜としては、中型鳥脚類のテノントサウルスが有名よね!」

「この恐竜は見ての通りとてもスリムで軽快な体つきをしているんだけど、これは発見当時としてはかなり異例な存在だったんだ。何しろそれまでの恐竜像は、大きいけどのろまでバカな生き物…って感じだったからね。
でも本種の発見によって、そんな恐竜のイメージが大きく変化していくことになるんだ。この変革の動きを『恐竜ルネサンス』っていうんだよ」

「にしてもゾイじじいが育てたっていうあのデイノニクス達、まるで忍者みたいな奴らだったよなぁ…」

「身のこなしもそうだけど、知能も相当高そうだったもんね。まさに忍者恐竜だったわ」

「う〜ん…免許皆伝を得たオレ達とどっちが忍者として相応しいのか、一度比べてみたかった…でござる」

「言っちゃ悪いけど、リュウタじゃ勝ち目ないだろ…」


ということで、今回はここまでです。今回から後書きの恐竜解説を、アニメ版に近づけたものに変えてみたのですが、いかがでしょうか。良ければコメント等でどちらが良かったかを教えていただけると大変ありがたいです。もしこの形式の方が好評でしたら、これまでのものも全て改修する心づもりでおりますので…。
それでは次回第35話『揺れるウサラパの心!地球のへそで愛を叫べ!』
ウサラパと次回登場の恐竜は、果たしてハッピーエンドを迎えられるのか…。どうかご期待下さい。

※追記:設定集に「テリジノ」、新技『略奪者魂』の説明文を追記しました。

第37話の原作「恐竜!荒野の決闘!」に出演する恐竜について、皆様からのご意見を伺いたいと思います。以下の選択肢から1つを選んで回答して下さい。(選択肢3を選ばれた方は、具体的な恐竜を提案して下さると助かります)

  • 原作通りサウロファガナクスを出す
  • アロサウルス・A(風属性)を出す
  • 別の超大型肉食恐竜を出す
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