古代王者恐竜キング ジュラシック・エイジ   作:バックベアード

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今回は後編になります。
それでは今回も、よろしくお願いいたします。


後編

スペイン マドリード サグラダ・ファミリア前

 

 遂にサグラダ・ファミリア前の広場へと辿り着いたアロサウルスは、アーケオプテリクスへ襲いかかろうとした…ところでグイッと後ろへ引き戻される。振り返ると、そこには彼の尻尾に食らいついて全力で踏ん張るガブの姿があった。

 だがそれでもアロサウルスの方が力は上らしく、じわじわと進み始める…が、今度はその背中に強烈な痛みが走った。続けて追いついたレクシィが食らいついたのだ。

 そのまま2頭がかりで引っ張られ、アロサウルスは無様に地面に転がされてしまった。

 

「よーし! いいぞガブ!」

 

「レクシィもいい感じだよ!」

 

 リュウタとオウガが2頭に声援を送る。しかし、アロサウルスもこんなものでやられるほどヤワではない。すぐさま起き上がると、その身に風を纏った。技を発動したのだ。

 彼の前に突如として竜巻が現れ、彼はそれをなぞるように尻尾を振るう。するとなぞられた部分から風の斬撃が飛び出し、ガブとレクシィに襲いかかったのである。

 風は次々に彼らの体に切傷を作り、周囲の街路樹や街灯もバラバラに切り裂いていく。

 

「な、何よあれ!」

 

「多分『風刀切刻(カマイタチ)』だ! 前にジェイソンが使ってたのを見たことがある!」

 

 ようやく風が止んだ。属性相性の有利なレクシィにはそこまで大きなダメージにならなかったようだが、ガブはがくりと膝をついてしまう。

 

「あぁっ! ガブ!」

 

「このままだと倒されちゃうかもね!」

 

「レクシィ! ガブの援護に…」

 

 オウガが次の指示を出そうとしたその時だった。彼らの後ろでアーケオプテリクスがサグラダ・ファミリアから市街地の方へ飛び去っていく。少しふらついているあたり、『風刀切刻(カマイタチ)』の流れ弾が当たったのだろうか。

 だがアロサウルスもそれを見逃さなかった。すぐさま駆け出すと、レクシィの横をすり抜けて市街地の中へ入っていく。

 

「何だ? 逃げていくぞ!」

 

「何でだろう…流れは向こうが持っていってたはずなのに」

 

「何でもいいだろ! それよりあいつが市街地で暴れられたら大変だし、早く追いかけようぜ!」

 

「…それもそうかもね」

 

 ひとまず今の疑問は飲み込むことにして、Dキッズ一行はアロサウルスを追いかけていく。その様子を今回も陰から見ていたのは、アクト団のロトだった。

 

「今回も早いなあいつら…。どうやって移動してきてるんだか」

 

 そんな言葉を零しながら、彼は今自分が見た情報を整理する。

 

(あの隻眼のアロサウルスは、ボクも見たことがないし多分別次元の奴なんだろう。ならボクには関係ないや。

それより、さっきここから飛び去ったあいつ…あれはアーケオプテリクスだ。あいつのお助け技があれば、カスモサウルスの活動時間を大きく延長できるかも…)

 

 結論が出たようで、ロトも行動を開始した。

 

(君らはせいぜいアロサウルスと遊んでな。ボクはその間にアーケオプテリクスを回収するからさ)

 

 そしてロトの更に後ろ…サグラダ・ファミリアの陰から彼の様子を見ていたのはウサラパ達アクト団工作員の連中だった。

 

「…ミー達はどうするザンスか?」

 

「一仕事して帰らないと、またシメられるッスよ?」

 

「それくらい言われなくても分かってるってばぁ。とにかく、ロトの後をつけながらもう少し様子を見るんだよ」

 

 

少し前 グエル公園近くのカフェ

 

 Dキッズがアロサウルスを追いかけている頃、アキは友人と共にカフェで一服していた。

 

「じゃあ、これからは別行動ってことにしましょっか」

 

「そうね。明日にはもう帰ることだし」

 

「私は…アンティークの小物を見てこようかしら?」

 

「アキさんは確か、マーケットに行くんだったわよね?」

 

「ええ! 美味しい生ハムを買って帰りたくて!」

 

 それから友人達と一度別れたアキは、まっすぐマーケットへと向かった。ガイドブックを参考にお目当ての店を見つけ、早速探しに行く…

 

キー、キー

 

「あら、珍しい鳥ねぇ」

 

 その道中、彼女はたまたまアーケオプテリクスに出会った。当然ながら、彼女はそれが恐竜だと分かるはずもない。だがヨタヨタとしている様子を見て、脚にケガをしていることに気づいたようだ。

 

「あら、あなたケガしてるの? ちょっと待ってね。確かここに…」

 

 そう話しかけながら彼女はバッグを弄ると…絆創膏を取り出し、傷口に貼り付けた。傷が外気に晒されなくなったからか、アーケオプテリクスが喜びの声をあげる。

 

「良かった。これで少しはましになったわね。

うちにもね、あなたみたいによくケガして帰ってくる子がいるのよ。

…あっ、そうだ。生ハムのお店を探さないと」

 

 アーケオプテリクスの頭を軽く撫でてあげてから、アキはまた店を探して歩き始める。しかしアーケオプテリクスは、その後についていったのだった…。

 

 

 やがてアキは、1軒の店に目をつけた。店内には、美味しそうな生ハムの原木がいくつもぶら下げられている。

 

「まあ、美味しそう! ここにしましょうか」

 

 そう呟き、彼女は店内へ入っていく。置いていかれる形になったアーケオプテリクスは今度こそ飛び去るかと思いきや、その場に蹲った。彼女が出てくるまでここで待つつもりらしい。

 しかしその時。店横の裏路地から、重い足音が響いてきた。続いて、じっくりと匂いを嗅ぐ音と…低い唸り声が響いてきたのである。

 

 

 その時、ちょうどDキッズもその店の向かいに差し掛かったところだった。

 

「…あら? オウガ君、あんなところに変な鳥がいるわよ」

 

「あれ、本当ですね。あんな鳥見たことが…って! あれアーケオプテリクスじゃないか!?」

 

「言われてみれば…確かに! それにディノホルダーの赤い反応の場所とも合致する!」

 

「それに店の中には母さんまでいるぞ! どんな偶然なんだよ!」

 

 恐竜とアキを一度に見つけ、5人が一気に色めき立つ。だがその直後、その場に現れた存在を目にし、彼らの間に緊張感が満ちる。

 それは、先ほど逃走したアロサウルスだったのだ。その姿に恐怖し、マーケット内の人々がどんどん逃げていく。甲高い悲鳴を上げながら逃げていく人々に、アロサウルスは苛立たしげに吠える。

 しかし、何故かすぐ右にいるはずのDキッズには気づいていないようだ。

 

「な、何だ…? 何であいつ、襲ってこないんだ?」

 

「! あれを見て!」

 

 マルムが声量を抑えつつも叫ぶ。その指さす先…アロサウルスの右眼は、白く濁っていた。

 

「右眼の視力を失ってるのか…? だから今は俺達の姿が見えてないのかな…」

 

「そんな呑気なこと言ってる場合かよ! このままじゃアーケオプテリクスも母さんも危ないぞ!」

 

 リュウタの指摘はもっともだった。既にアロサウルスはアーケオプテリクスまで目と鼻の先まで迫っていた。当のアーケオプテリクスは恐怖で足がすくんでしまったのか、その場から動けそうにない。

 しかもアキは、生ハムの原木選びに夢中だったせいで逃げ遅れている。

 

「…あら?」

 

 そこでようやくアキが周囲の異変を感じ取り、後ろを振り向いた…その瞬間。アロサウルスと目が合った。

 アロサウルスもアーケオプテリクスから視線を離し、彼女の方を睨みつける。

 

「アロサウルスに気づかれたかもね!」

 

「まずい! 逃げろ! 母さーん!」

 

「リュウタ…?」

 

 アキがリュウタの声を耳にし、そちらへ顔を向けた…その時。アロサウルスが咆哮を上げた。凄まじい音圧が窓ガラスを砕き、それに驚いたアキは後ずさった…ところでうっかり足を滑らせ、店のカウンターに頭を打って倒れ込んでしまった。

 

「母さん!」

 

「これじゃやばい! レクシィ! もう1回頼む!」

 

『分かっている!』

 

 今は一刻を争う事態だ。前口上など言っていられない。

 オウガは素早くレクシィのカードをスキャンし、再び彼女を召喚した。レクシィは召喚されるなりすぐさまアロサウルスに食らいつき、無理矢理店から離す。

 その隙にリュウタはアキに駆け寄った。

 

「母さん…母さん! しっかりして!」

 

「…大丈夫かもね、リュウタ君。ただ失神してるたけだわ。頭を打ったらしいけど、血は出てないから大丈夫かもね」

 

「そ、そっか…良かったぁ…」

 

「でも、今は危ないことには変わりない。ひとまずそこのソファに寝かせておこう」

 

 オウガとレクシィでアロサウルスの相手をしている間に、リュウタ達は急いでアキを店内のソファに寝かせる。

 

「よし…これでいいぞ!」

 

「あとは、何とかしてここからアロサウルスを引き離さないといけないけど…どうしたら…」

 

「あっ! あれ使えるんじゃね?」

 

 と、リュウタがそこで店内に飾られていた真紅のテーブルクロスに目をつける。大きさ的にも、まるで闘牛士のマントのようだ。

 

「あれでアロサウルスの気を惹いてさ、あのラスなんとか闘牛場まで誘導するんだよ!」

 

「ラス・ベンタス闘牛場ね…」

 

「…確かに。あそこならバトルになっても十分な広さがあるから周りに迷惑をかけずに済みそうだ。

よし、それなら僕に任せてくれ。ここは正々堂々…アロサウルス同士で決着をつけてみせる!」

 

 ここでレックスがアインをカードに戻し、ディノホルダーにスキャンする。

 

「ディノスラーッシュ! 吹き抜けろ! アロサウルス!」

 

グウゥゥガアァァァァッ!!

 

 アインが召喚されると、すぐリュウタとマルムの手によってその背にテーブルクロスが被せられる。

 そしてアインは勢いよく外へ飛び出し、レクシィとアロサウルスの戦いの場に躍り出た。色が関係あるかは分からないが、テーブルクロスの動きに魅せられたのか、アロサウルスがアインへ標的を移す。

 

「いいぞ、アイン! そいつをさっきの闘牛場まで連れて行くんだ!」

 

 レックスの指示に応じ、アインはテーブルクロスをたなびかせながら闘牛場の方向へ走っていく。すっかりその動きの虜になったのかアロサウルスも後を追い、そこへレックスとマルム、それからミサもついていったのだった。

 

「オレとオウガで母さんは守っておく! だからそっちは任せたぜ!」

 

「OK、リュウタ!」

 

「アタシ達に任せて!」

 

「ミサさんも2人のサポートしてあげて下さいね!」

 

「勿論、分かってるかもね!」

 

 彼らを見送ったところで、ようやく周りが静かになった。

 

 と、思ったのも束の間。

 

「あれ? リュウタ君にオウガ君が残ってたのか。せっかく楽にアーケオプテリクスを連れて帰れると思ったのに」

 

「あっ! お前はアクト団のロト!」

 

 マーケットの反対側からロトが姿を現したのである。そのはるか後ろではウサラパ達が物陰に身を隠しているが、そんなことはオウガとリュウタが知るはずもない。

 

「やぁ、久々だね。ロデオチャンピオン。君の無様な乗りこなしは今でも鮮明に思い出せるよ」

 

「こんのぉ…!」

 

「落ち着いてよ、リュウタ。ここでまた挑発に乗ったら向こうの思う壺だよ。

…そして君は、アーケオプテリクスを回収に来たのか」

 

「いつも通りそーいうことさ。そしてこれまたいつも通り君たちが立ち塞がるなら…無理やりにでも押し通らせてもらうよ!」

 

 ロトがそう口にし、恐竜カードを次々にアクトホルダーへ通す。

 

「轟け! カスモサウルス!

燃え上がれ! ティラノサウルス!

揺るがせ! サイカニア!」

 

ゴォォォォ…!!

 

ガアァァァァッ!!

 

ウオォォオォォォォ!!

 

 計3頭の恐竜達が召喚され、オウガとリュウタの前に立ちはだかる。2人も応戦するべく、それぞれディノラウザーとディノホルダーを構えた。

 

「ディノスラーッシュ! 揺るがせ! ステゴサウルス!」

 

ケエェェェェ…!!

 

「ディノスラーッシュ! 轟け! スティラコサウルス!」

 

ギュオォォォォッ!!

 

 先にオウガが召喚していたレクシィに並び立つ形で、アメジストとイナズマが降り立つ。ちなみにガブは先ほどのアロサウルスとの戦いでエネルギーを消費しすぎたため、出せないようだ。

 

「頭数的には五分五分…でも前回の失敗を学んだ今なら、ボクの勝ちは揺るがないね!」

 

「そんなの…勝ってから言ってみろよ!」

 

 こうして、オウガ&リュウタとロトの恐竜バトルが幕を開けたのだった。

 

 

ラス・ベンタス闘牛場

 

 一方、レックス達は大きなハプニングもなくアロサウルスを闘牛場の中へ誘導したようだった。彼らの目の前では、アロサウルスの猛攻を軽いフットワークで回避し続けるアインの姿がある。体の大きさこそ歴然たる差があるが、身軽さに関してはアインの方が1歩も2歩も上回っていた。

 それを繰り返しているうちに、アロサウルスが目に見えて疲労してきた。その様子を見たレックスが、アインに大声で指示を送る。

 

「アイン! 投げつけてやるんだ!」

 

 彼の声に反応し、初めてアインが攻撃に転じる。しかし真正面からのぶつかり合いならば分があると踏んだようで、アロサウルスも迎撃体勢に入る。

 が、その時。アインは背負っていたテーブルクロスを思い切り投げつけたのである。予想外の行動に反応する暇もないまま、一瞬アロサウルスの視界が真っ赤な布で覆われる。すぐさま振り払ったものの、アインの姿は忽然と消えていた。

 そう。彼はテーブルクロスでアロサウルスの視界を奪った一瞬で左へ跳び、死角の右へ回り込んだのである。そして続けざまに頭突きを食らわせ、アロサウルスを闘牛場の壁に叩きつける。

 この好機を、レックスも見逃さなかった。

 

「今だ! アイン! 『分身術攻(ニンジャアタック)』!」

 

 技カードが発動し、アインが風を纏いながら2つ、4つと分身を増やしていく。その無数の分身でアロサウルスを囲い込み、目にも止まらぬ連撃を浴びせていくと…遂にアロサウルスが力尽き、2枚のカードへ戻っていった。

 すぐさまレックスが駆け出し、地面に落ちた『アロサウルス・フラギリス』と『風刀切刻(カマイタチ)』のカードを回収する。

 

「よし、作戦成功! よくやったなアイン!」

 

 そう声をかけつつ撫でてやると、アインも満足そうに喉を鳴らした。

 

「これでこっちは片付いたし、あとはアーケオプテリクスを保護するだけかもね」

 

「そうね! ひとまずリュウタやオウガと合流しましょ」

 

 そう言いかけたところで、マルムがハッとする。もう戦闘が終わっているのにバトルフィールドが解けていないのだ。

 

「たいへん! バトルフィールドが解けてないわ!」

 

「なんだって!? まさかアクト団と…すぐに行こう!」

 

「なんだかこの流れも恒例になってきたかもね…」

 

 一息つく暇もなく、今度はオウガ達へ加勢するために移動を開始した3人なのだった。

 

 

 一方、オウガとリュウタの戦線はなかなか厳しい状況になっていた。レクシィは同じ超大型獣脚類のティラノと、アメジストはイナズマが苦手な土属性のサイカと戦わざるを得ないため、イナズマ1体で超アクトカスモサウルスの相手をしなければいけなかったのだ。体格では互角だが超アクト化のパワーには勝てず、押し負けてしまっている。

 リュウタが考えた策ではあるのだが、この調子ではイナズマが耐えきれない。

 

「ガブさえもう少し回復してくれれば…イナズマ! もう少し耐えてくれ…」

 

「リュウタ、いくら何でも無茶だ! ここは俺が技カードで2体一気に方を付ける!」

 

 イナズマに負担がかかり過ぎだと判断したオウガが、立て続けに2枚の技カードをディノラウザーにスキャンする。

 

「『爆炎突撃(バーニングダッシュ)』! 『放射棘槍(ラッシュスパイン)』!」

 

 技カードが発動し、レクシィは炎を纏ってレクシィに食らいつき、引きずり回してから口内の炎に起爆し、大爆発を起こす。そしてアメジストは、全身に溜め込んだ土属性エネルギーを無数の棘槍に変えて発射した。炎の中でビクビクと体を痙攣させるティラノと、全身針だるまになったサイカはあっけなくカードへ戻った。

 だが、そこでロトも次の行動を取る。

 

「この時を待っていたんだ! 『瞬雷千烈(ガトリングスパーク)』!」

 

 レクシィとアメジストが技を使った直後で動けない隙を狙い、イナズマを仕留めにかかったのだ。

 

「オレとイナズマを舐めんなよ! 『雷角回弾(サンダーバズーカ)』!」

 

 しかしリュウタもこれを黙って見てはいない。すぐさま技カードをスキャンし、技を発動させた。イナズマとカスモサウルスの両者が全身に電撃を纏い、激しくぶつかり合う。

 その結果は意外にも、両者互角の形となった。『雷角回弾(サンダーバズーカ)』が『瞬雷千烈(ガトリングスパーク)』に有利な手だったらしい。

 

「よっしゃあ! これで不意討ちは防ぎきったぜ!」

 

「おいおい…喜んでる場合かい? 君のスティラコサウルスを見てみなよ」

 

 ロトがそんな不穏なことを口にした時、イナズマの様子が急変した。突然ガクリと体勢を崩したのだ。しかもその口からは、唾液がブクブクと噴き出している。

 

「今まで発動の機会がなかったから君達は知らなかっただろうけど…『(スーパー)アクトフュージョン』には、大きく分けて2つの効果があるんだ。

まず1つは、属性エネルギーの単純な大幅増強。そしてもう1つが…あらゆる攻撃で『毒』を付与できるってこと」

 

「毒…毒だって!? まさか君、そのカスモサウルスに毒腺を植え付けたのか!」

 

「うーん、ちょっと違うかな。

でもまあ、そんなカッカしないでよ。毒とは言ったけど、何も命を奪うものじゃない。その代わり…継続的に活動エネルギーを奪うようになってるだけでね」

 

 ロトが講釈を垂れている間に、遂にイナズマが地面に倒れてしまう。

 

「あらら。毒をもらうのが初めてだったせいか、想定より効きが強いみたいだね。

安心してよ。エネルギーが尽きてカードに戻れば一緒に毒も消えるからさ。

…それじゃ、カスモサウルスの相手はオウガ君の恐竜にしてもらおうかな」

 

 彼の言葉と共にカスモサウルスが向き直ると、レクシィとアメジストは思わず距離を取った。攻撃を受けるだけで毒になる可能性があるとなれば、これまでのように強気に攻めるのが躊躇われるのは当然である。何より、まだイナズマは立ち上がれないままなのだ。

 

「どうしよう、オウガ…。このままじゃイナズマが…」

 

「マルムさえいてくれれば、『深緑恵癒(ネイチャーズブレッシング)』で…いや、体力を回復させても毒が治せないんじゃ、苦しみを長引かせるだけか…」

 

 毒が治せないのでは、イナズマは見捨てるしかないのか…。そんな非情な考えがオウガの脳裏を過った時だった。

 

キーーーッ!!

 

 甲高い声と共に、建物の陰からアーケオプテリクスが飛び出してきたのだ。アーケオプテリクスは必死に羽をばたつかせながら、イナズマの周りに円を描くように飛び回り始める。

 やがて、その虹色の風切羽から光の粒子が飛び散り始め、それがイナズマの体を優しく包みこんだ。

 

 すると、なんということだろうか。

 先ほどまで苦しんでいたイナズマの表情が和らぎ、やがて元通り立てるようになったのである。

 

「何だ? 何が起こったんだよ?」

 

「分からない。でも今の状況を見た感じだと…アーケオプテリクスがイナズマの毒を治してくれたとしか…」

 

 困惑しきりのオウガとリュウタとは違い、ロトは確信がいったように頷いていた。

 

「やっぱりあのアーケオプテリクスは『始祖鳥のまもり』が使えるんだ。なら、ますます逃がすわけにはいかないな…!

今度はこれだ! カスモサウルス! 『激力雷電(ギガライディーン)』!」

 

 そう呟き、ロトは再び技カードをアクトホルダーに通す。再びカスモサウルスに雷エネルギーが満ち、2本角の間に電撃が蓄積されていく…。

 

「また攻撃が来るぞ! リュウタ!」

 

「いよーし! 完全復活したイナズマの力を見せてやる! オウガ! オレに合わせてくれよ!」

 

 今度はロトの思い通りにはさせない。その考えで一致したオウガとリュウタは、息を合わせて技カードをスキャンした。

 

「『激力雷電(ギガライディーン)』!」

 

「『放射棘槍(ラッシュスパイン)』!」

 

 技カードが発動し、イナズマとアメジストにそれぞれの属性エネルギーが滾る。まずはアメジストが『放射棘槍(ラッシュスパイン)』を発射した。超アクト化しているとはいえ、苦手属性の技を回避しようとカスモサウルスが電撃のチャージを一度中断する。しかし、棘槍はカスモサウルスには直撃せず、まるで包囲網を作るかのように配置されたのだ。

 そこへ続けざまにイナズマの『激力雷電(ギガライディーン)』が放たれる。極太の電撃ビームがカスモサウルスに直撃するが、これだけでは終わらない。なんと周囲の棘槍が電撃に反応し、赤熱化し始めたのだ。

 

「まずいっ! ここは…」

 

 そのロトの言葉をかき消さんばかりの勢いで、棘槍が一斉に爆発した。爆発は電撃を巻き込み、凄まじい衝撃波となって拡散していく…。

 爆発地点からは離れているオウガとリュウタにすら、爆発の熱と電撃の痺れる感覚が届くほどだった。

 

「すげぇ…これなら!」

 

「あぁ! あのカスモサウルスも倒せる!」

 

 確信に満ちた声で、オウガとリュウタが囁き合う。

 やがて爆発が収まり、煙の中から現れたのは…

満身創痍ながらも、まだその4本の足で立っているカスモサウルスだった。超アクト化こそ解けているものの、肝心のトドメは刺せてはいない。

 これには2人も驚きを隠せなかった。

 

「フフフ…『どうして』って顔してるね? 間一髪、ヴェロキラプトルの『根性の鼓舞』が間に合ったのさ」

 

 その言葉と共に、ロトがトリプルスラッシュカードを見せつける。それを目にし、リュウタの表情がサッと変わる。以前ノーピスから受けたあのコンボを思い出したのだ。

 

『ゴロロ…』

 

『ケエェ…』

 

 咄嗟にイナズマとアメジストに視線を移す。連続して超技を発動したせいで、2頭は疲労困憊だった。

 まずい、このままだとあの攻撃を防げない…!

 

「オウガ! レクシィに何とか妨害を…」

 

「もう遅いよ!」

 

 ロトはそう叫び、トリプルスラッシュカードのもう1つの面をスキャンし、『最後の力』を発動したのだった。

 

 

その少し前 ロトの後方

 

「まずいザンス! ロトが負けちゃうザンス!」

 

「あんなすごい攻撃食らったらまずいッスよ! いくらカスモサウルスでも耐えきれないッス!」

 

「そうなりゃ、ここはアタシ達が手を貸してやろうじゃないか! そうすりゃあいつも、少しはアタシ達を見直すはずさ!」

 

 ロトの思惑などまるで知らないウサラパが、アクトホルダーにスピノのカードを通す。

 

「アクトスラーッシュ!」

 

グァギュオォォォォッ!!

 

 そしてスピノは召喚されるなり駆け出すと…カスモサウルスを守るようにその前へ躍り出たのであった。

 

 だが、そこは最悪の位置取りだった。たった今ロトが発動した『最後の力』の射線上にいたのである。

 

「「え?」」

 

「…は?」

 

 しかし今更どうしようもない。『最後の力』に貫かれ、スピノはあっという間に力尽きてカードに戻り、役目を終えたと判断したヴェロキラプトル達もアクトホルダーへ戻ってしまう。

 

 後に残されたオウガとリュウタ、そしてロトの間に気まずい沈黙がおりる。

 

「リュウタ、オウガ! 無事か!」

 

「助太刀に来たわよ!」

 

「ちゃんと間に合って良かったかもね!」

 

 更に(ロトにとっては)悪いことに、レックス達も増援に駆けつける。こうなっては、瀕死のカスモサウルス1頭で勝てる状況ではなくなってしまった。

 

「…戻れ、カスモサウルス」

 

 悔しさを噛み殺し、ロトはカスモサウルスを手元に戻す。これ以上はどうにもならないと判断したのだ。

 無言で踵を返す彼を励まそうと、ウサラパ達が駆け寄っていく。

 

「ロト…その…残念だったッスね」

 

「スピノで助太刀しようとしたザンスけど、まさかのフレンドリーファイアで倒れちゃったザンス」

 

「で、でも悪気があったわけじゃなくて…その…」

 

「お前らが邪魔しなきゃボクが勝ってたんだよ! この役立たずの余所者共!」

 

 何とか弁解しようと言葉を並べ立てるウサラパ達に、ロトが憤怒の表情でそう言い捨て、どこかへ走り去っていく。その後ろ姿を見送る3人も、どこかダメージを負った様子だ。

 

「役立たず…余所者…」

 

「まあ、ミー達はそうザンスよね…」

 

「…アタシ達も、帰ろっか…」

 

「「ヘイヘイホー…」」

 

 そして、3人もトボトボとその場を去っていく。それをDキッズ一行は、何が何だか分からない様子で見送るしかなかったのだった…。

 

 

それから数十分後

 

「んん…あら?」

 

 アキが意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がり…首を傾げる。なぜか自分が生ハム屋のソファに寝かされていたのだ。しかも店の窓ガラスは粉々に割れて散らばっている。

 

「そういえば、恐竜みたいな動物に会ったような、会わなかったような…

それに、リュウタの声が聞こえたような気もしたんだけど…」

 

 気を失う前のことを思い出そうと少し考え込んだアキだったが、ややあってから頭を振る。

 

「いえ…きっと幻だったのね。旅を楽しんでる間も、ずっとリュウタやパパのことが頭から離れなかったから、それで…あら?」

 

 その時、ソファ近くのテーブルに小さな封筒があるのに気がついた。手に取ってみると、それには見慣れた文字で『To Aki』と書かれていたのだった…。

 

 

その後 日本国三畳市 古代家

 

「キッチン終わったぜーっ!」

 

「じゃあリュウタ! 次は廊下の掃き掃除やってきなさい!」

 

「えーっ、ちょっとくらい休んでも…」

 

「ダーメ! 明日はリュウタのお母さんが帰ってくるんでしょ! また怒られるわよ!」

 

「チェッ、分かったよ…」

 

 アーケオプテリクスを回収して帰ってきたリュウタ達は、早速マルム主導のもと家の片付けを始めていた。数日分のゴミや洗濯物を処理したり散らかしたものの片付けなどを続け、リュウタやレックスは疲労困憊である。

 ちなみにオウガは前回の経験からこうなることを察し、こっそり逃げ帰っていた。

 

「あぁ、私の母さんへの愛、ちゃんと届いているといいな…早く帰ってきておくれ…」

 

「博士も気取ってないで、お庭のテントや焚き火の跡を片付けなさい!」

 

「トホホ…」

 

 

その頃 ヨーロッパから成田国際空港行きの飛行機 機内

 

 旅行の日程を終えて帰路についたアキは、マーケットで拾った手紙の内容をもう一度見返していた。

 

『愛しのアキちゃんへ

アキちゃんのいない日本は、ご飯のない夕飯と一緒です。あぁ、早く帰ってきておくれ。

いや勿論バルセロナも楽しんできてほしいんだけど、でも早く帰ってきてほしい。待ってるよ。

剣竜より』

 

(どうしてこの手紙が届いたのか分からないけど…そうね。私も帰ったらちゃんと伝えなきゃ。

『バルセロナにいる間もずっと、あなたのことが頭から離れなかったわ』…って)

 

 そう心の中で呟きながら、アキはクスリと笑う。その横顔が赤らんでいるように見えるのは、きっと夕日のせいだけではないのだろう…。

 

 




恐竜図鑑コーナー!

「今回の恐竜は、始祖鳥『アーケオプテリクス』!」

「名前の意味は『古代の翼』。ドイツのジュラ紀後期の地層から発掘された小型獣脚類なんだ。
全身が羽毛で覆われているのが特徴だな」

「恐竜…のはずなのに、まるで鳥みたいな見た目なのね〜」

「昔はこの見た目から、恐竜が鳥に進化する過程の姿だと考えられていたんだよ。でも今は、鳥類の祖先に近い存在ではあるものの、直系の祖先には当たらないというのが定説なんだ。
それに羽ばたき飛行ができる骨格でもないから、飛ぶ時は滑空していたと考えられているよ」

「今回保護したアーケオプテリクスはオレンジ色の羽だったよな?」

「そうだったね。でも化石の分析で、メラニンを生むメラニソームって成分が検出されたんだ。だから少なくとも化石の個体は、カササギみたいな黒と白の羽毛を持っていたらしいよ」

「黒と白かぁ…。今はもう化石からそんなことも分かる時代なんだな!」

「いつか他の恐竜たちの肌の色も知りたいわよね!
どんな色なのかしら〜?」


ということで、今回はここまでです。
いよいよ次で投稿話数100話目に到達することになります。これまで応援して下さった全ての方々に、今一度感謝させていただきます。本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。
さて次回は第40話『ハリウッドで恐竜映画!歪な魔王と5本角の勇者!』自分の推し恐竜の1体が出る回なので、いつも以上に頑張って執筆したいと思っております。
そして、もう1体の恐竜はあの人物の研究に非常に大きな影響を与えることになるかも…?
是非、ご期待下さい!


※追記:活動報告に「皆様からのアイデア募集について」を追加させていただきました。もしご提案等ある方は、こちらもお使いください。
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