始まりの日
『科学』
それは進化によって人類が獲得した理性の極致。先人より連綿と受け継がれてきた集合知にして、今尚新たに付け加えられ続ける遺産。凡そ5億1千万平方キロメートルの地球上に於いて、人類のみが有する特異な概念。
────或いは、こう表現してみても良いかもしれない。
『人類が歩んできた発展の道筋にして、歴史の象徴そのものである』、と。
しかしながら。そんな風に科学が発展し、不可思議が駆逐された現代においても尚、神秘の輝きは失われていなかった。
例えば、誰もいない路地裏の暗がり。人の手が及ぶ事のない深い森のさらに奥。放置され続け半壊するまで朽ちた廃屋。旧校舎のトイレの個室。それに、あなたの後ろ。
石を除けると現れる蟲のように、見ようと思わねば見えない場所で。
かつてのような華やかさは無くとも、形を変えることで
この物語は、そんな神秘の残骸達が最後の輝きを放ち消え逝くまでのお話。
もしくは、とある青年たちが過去を見つめ、
まあ、そんなに堅い話ではないさ。長くはなると思うけど、老人の語る昔話なんてそんなものだろう? 楽に聞いていってくれればいいさ。
ジリリリリと耳を
濡れるような艶やかな黒髪に切れ長の瞳、年は20才頃だろうか。しかし高校の制服じみた服を着ているせいか、その姿は学生のようにしか見えない。
とはいえ彼の腰には黒色の片手剣が吊り下げられているため────気合の入ったコスプレイヤーでなければ、という仮定の元だが────この青年が一般人でないことは明らかであった。
彼の名は
超常の存在に対処する秘密組織、
そして、各地に支部を持つ億餧の全職員で唯一、彼らの敵と同じく超常の力を使える人物であった。それもあって、彼の肩書は『特殊鎮圧用職員』などという鯱張ったモノになっており、単体での戦闘力に関しては間違いなく頂点に立っている。
また、ただ一人超常の力を持った武器────今回は、その腰に下げている《黒の
そんな、何かと“特例”が枕詞に付くのが、この濡羽の青年であった。
「B隊は対象が逃げられないようにそのまま足止め。A隊は俺が到着次第対象の鎮圧のために援護してもらう。すぐ動けるように集合しておけ」
走る速度は一切落とさずに、耳元に付けているデバイスで先んじて動いている部隊に指示を飛ばす。
返ってくるのは「了解」と二文字だけの淡白な応答だが…………その声に紛れて一人だけ返事が遅れている隊員がいた。
「……あぁ、なるほど」
なぜだろうと考えること数秒、答えに行き付く。そう言えば今は新人の研修時期だったはずだ。
……後手に回ると厄介だし、懸念事項もできた。少し急ぐか。
少しスピードを上げて走ること数分、コンパクトな防護服を着た6人程の人だかりが見えてきた。
「思ってたよりもかなり早かったですね。B隊が足止めしているため、対象がここまで到達するにはまだしばらくかかるかと」
近付く俺に気付くと、他の5人に対して話をしていたA隊の隊長、
「そうか、なら今のうちに対象について再確認する。今回脱走したのは通常収容棟B3階に収容されていた生物型の
「「「「「了解」」」」」
よし、いつも通り大丈夫そう────ん? 一人返事がねえな。
目を向ければ、明らかに一人だけオドオドしてるやつがいた。十中八九、新人だろう。
…………まさか研修はまだ終わってないのか? 何でこんな新人を鎮圧任務に出しているんだ。後で
支部長の管理が行き届いていない、とか言って。
「おい、お前新人か?」
「ひゃっひゃいっ! そうですっ!」
「まず落ち着け。……で、何が不安なんだ? 危険度は1とは言え人間の体なんか脆いもんだ。冷静さを欠くと簡単に死ねるぞ」
「あー、この子研修中の新人なんですけど、一般枠からの採用なんでどうも緊張してるみたいでして。確認したところ今回の鎮圧ぐらいなら問題ない分の知識はあったんで、初現場に丁度いいかと思って連れてきたんですが……マズかったですかね」
見かねた冴霧が隣から出した説明になるほど、と小さく呟く。どうやら
……チッ、久々にやり返せる口実を見つけたと思ったんだがな。
いや、今はこんなこと考えてる場合じゃなくコイツをどう落ち着かせるか考るべきか。
わざわざ丁寧に説明してやったり励ましてやるような時間はないし、何よりそんなのは性に合わない。第一その辺のことは既に冴霧がやっているだろうし、それをついさっき会ったような俺がしたところで効果は薄いだろう。
……というかそもそもどんくらいの知識を持ってるのかを知らねえな。
「《奇心体》についてどれくらい把握してるんだ。簡潔に説明してみろ」
俺からの突然の指示に新人が困惑するが…………無視する。
ついでにそのまま無言で見つめることで催促する。
「えーと、科学技術が発展した現代においても理論立てて説明できないオカルトじみた摩訶不思議な存在が《奇心体》です。《奇心体》を測る指標は危険度や有用度、研究難易度、収容難易度などがあって、それぞれ5段階で評価されて────あと《奇心体》には道具のような物体型、生き物のように動く生物型、なんらかの場所そのものとして存在する空間型などが存在する、ですよね?」
「そうだ、そして今回収容違反した奇心体は生物型で危険度は1。比較的かなり安全な部類ではあるが、それは化け物基準での話だ。さっきも言った通り油断してると人間なんぞ簡単に死ねる。まあ今回のお前の役目はA隊の1人として俺を補助することだ。自分が死なないように立ち回ればいい。少なくとも基礎知識は身に付いてるようだし、問題はないと思うぞ。俺からは以上だな。銃とかの装備の使い方なんかは冴霧のほうに聞いてくれ」
思ってたよりも滑らかに受け答えをされた。
コイツ、さっきまで緊張してたんじゃないのか?
「あ、装備に関しては問題ないです。わざわざありがとうございました。えーと、……」
「
「旭、さんですね。覚えました! ありがとうございました!」
「……収容違反した奇心体じゃなく味方の誤射で死ぬとか笑えないからな。俺は実利を優先しただけだ」
取りあえず落ち着いたようだし後は冴霧に任せようかと思ったところで、足止めをしていたB隊からの報告が入る。
「どうやらお出ましのようだ。さっき打ち合わせたように俺が危なくなるまで手出しは無用だ。散開」
「「「「「「了解」」」」」」
今度はきっちり全員分の返事が返ってくる。
────さて、仕事だ。
******
腰に下げていた西洋剣を引き抜き、右手で構える。剣道とかの武道は習ったことがないため、基礎もへったくれもない完全に我流の構えである。
しかし、実戦の中で少しずつ創ったものだからだろうか。これ以上ないぐらい俺の体に馴染んでいるのが分かる。
剣を抜き、構え、呼吸を整える。
そんな一連の動作で、自分の中にあるスイッチのようなものが切り替わっていく。少しずつ、少しずつ。思考は冷たく、されど身体は自然体に。冷静に、僅かな変化でさえも確実に逃さないように。
正面の扉、そのさらに奥から複数の────足音のようなものと、何か固いものを引きずるような────音が近づいてくるのを感じる。
かと思えば次の瞬間何かを引き摺る音は止み、その代わりに鋭い風切り音が耳に入り込んだ。
「────ッ!」
咄嗟に横っ飛びに避けると、ちょうど俺が立っていた辺りを
しかし、ピンポイントに俺を狙っていたな。眼か耳か、それ以外の感覚器官か……少なくとも何かしらのタネがありそうだ。
そう分析した辺りで、もはや穴となったかつて扉があった辺りから下手人が出てきた。
…………まあ、今回は“人”ではないんだが。
体長は2m程、比較的人間に近い形状の身体を焦茶色の毛皮で覆い、その毛皮越しでもはっきりと分かるほど発達した筋肉を纏っている。
両腕は特に異様に発達しており、あの腕で殴られでもすれば一撃で骨までお釈迦になるだろうというのが見て取れる。それ以外にも背面上部の筋肉が異様に発達しているようだ。うまく背後を取って攻撃できたとしても、あの筋肉に阻まれるか刃が通っても途中で止められるかの二択になりそうだ。
そんな屈強な身体に対して不釣り合いに小さい頭部には4つの目と顎まで届かんばかりの長い牙が備わっており、下側の1対の目で俺に、上側の目で自身を取り囲むA隊の面々へと敵意を込めた視線が向けられている。
一昔前に流行った“ビックフット”、それを一回りほど狂暴にすればこんな姿形になるだろうか。
その明らかに人ならざる化け物を目の前にしても旭の顔に恐怖の色が浮かぶことはなく、ただ冷静に観察を行うのみ。
────どう立ち回るべきか想像できるだけよっぽどましな部類だし、人型なこともありがたい。筋肉の薄い関節部分なんかを狙えば負傷させやすいだろう。
冷静に観察しながらどこから攻めるか考えていると、唐突にビックフットもどきがこれまでより意識的に多く息を吸おうとする。
他の奇心体を活性化させる咆哮だろうか。
その動きの起こりを認識した次の瞬間、旭の姿は掻き消えた。
強く踏み込み彼我の距離を一瞬で零にまですると、そのままに勢いを乗せて放たれたのは裂帛の気合が込められた刺突。
「GAAaaaaaaaaaaaaaaaAAAAaaa!!!!」
狙いに寸分違わず喉元へ命中したソレにより走る激痛にビックフットは喚き散らす。
が、分厚い外皮と筋肉に阻まれたのか完全な致命傷とはならなかったようで、お返しだと言わんばかりにその逞しい剛腕が旭へと振るわれた。
────今ので終わらせるつもりだったが仕留めきれなかったか。鬱陶しい筋肉だ。……とりあえず喉は潰せたし、次の狙い目は関節部か腱の辺りか?
敵の間合いからバックステップで離れつつ、次の攻め手を考える旭。
彼が気にするのは『どうすれば効率よく鎮圧できるか』、ただそれだけである。これは正々堂々とした決闘のようなお綺麗なモノではないのだ。
対するビックフットはといえば、どうやら警戒を強めたらしい。取られた距離を迂闊に詰めずに、自分の喉を潰した上に悠々と逃げ去る旭を4つ目で忌々しく睨み付けている。
再び膠着状態が生じるかと思われたその時、周囲を取り囲むように動いているA隊の方へ旭がちらりと視線を送った。事前に出した指示の通り、先手を取れて有利な現状A隊が手を出すことはない。
が、そんなことを知る由もないビックフットは何かのアイコンタクトだと思ったようで。視線をA隊の方へ誘導され、その隙に死角に回り込んだ旭へまたも奇襲を許してしまった。
「Guuuuuu!」
それでも人の二倍分多くある眼のおかげか、左脚の膝から先を斬り落とさんばかりのその攻撃は、直前で身を捩られたことで狙いよりも浅く済んでしまったようだ。
とはいえ完璧に回避されたわけではないため、『機動力を削ぐ』という目的は果たされた。また距離を取るべきか?
そう旭が考えた時である。
本能的に格下だと思っている相手に奇襲を許し、立て続けに傷を負わされる。その屈辱に理性の限界が訪れたのか、異形は咆哮と共に距離を詰めると、その双腕を無茶苦茶に振るい始めたのだ。
怒りによって視野が狭まっているのか、フェイントも何もない単調な攻撃。しかし、ここまで圧倒的なパワーの差があるとそれも馬鹿にできない。
何せ、人の体では一撃で戦闘不能になりかねない攻撃が大量に襲ってくるのだから。
さっきとは打って変わって防戦一方になりながらも、旭は次の攻め手を探す。が、このままの流れではジリ貧で押し切られると判断すると、すぐさま空いている左手で懐からスタングレネードを取り出しそのまま起爆。
不意に瞳を焼くかのごとき光に襲われビックフットの視界が塞がれたのを確認すると、強く踏み込み全力の突きを放つ。
狙うは喉元、最初に付けた傷跡。
卓越した技術によって放たれたその一撃は、まさしく“吸い込まれるように”敵の喉へと進んだ。
しかしそれは、むしろ寸分の狂いも無かった故にであろうか。鋒が届く前に刀身が両腕に掴まれる、という形でその攻撃は阻まれてしまった。
「っ!?」
何故? 視界は確実に塞いだはずだ。……まさか読まれていた? ならどのタイミングから?
これまで一貫して相手の行動が単調であったが故にその衝撃は大きく、予想もしなかった展開に思考が一瞬止まる。
トドメのつもりだった一撃を完璧に防がれ、こちらの攻撃手段を塞がれ、更に一瞬とはいえ思考まで止まった。
────拙い、これは非常に良くない展開だ。一度距離を取って立て直さなければ。
しかし当然ながら力比べで勝てるはずもなく、刀身を握られた剣はびくともしない。そして、一旦剣を手放すべきか否か、それを逡巡した僅かな間が命取りとなった。
ミチッ、ミチミチッ
目の前からまるで繊維質な肉を無理やり裂くような音が聞こえてくるとともに、目の前の化け物の放つ圧力が上昇する。
なんだ、この音は。剣を握った掌じゃない、もっと後ろの────背面の方から聞こえているのか? だがなぜ背面から?
立て続けに起こる想定外の事態に、思考が空回り始める。
一体何が起こって────
「…………は?」
気付けばビックフットの腕が2倍に増えていた。
正面からではよく見えないが、おそらくは肩甲骨の辺りから生えているのだろう。つまり、剣を握っているのと合わせて計4本の腕が胴体から生えている状態だ。
まさか背中のやけに発達していた筋肉はこれを隠していたのか?
……いや明らかにサイズ感が違えだろ。いくら図体がでかくても背中にもう1対腕隠せるわけねえじゃん、さすがにこれは想定外だわ。
驚愕のせいか、どこからか『腕を、二つも増やしちゃいます!』などという毒電波を受信してしまう有様である。
そんなもはや焦りなど通り越して思考を停止し始めた彼を置いて、ビックフットは新たに生やした腕を振りかぶる。
ハッと気づいて回避しようとした時には遅く、既に拳は眼前へと迫っていた。今更多少距離を取ったところで直撃は避けられないだろう。
それでも、その後の追撃を避けるためにも必死に背後へ飛ぶ。
あまりの集中力にスローモーションになる世界。
水中のように重くなる体。
彩度が落ちた視界の端で、眩く輝くマズルフラッシュ。
突然の側頭部への狙撃に僅かによろめくビックフット。
鼻先を掠める拳。
刀身を握っていた剣を投げ捨て、再び振るわれる4本の腕。
「制圧射撃っ!」
冴霧の指示で即座にA隊がビックフットへと制圧射撃を行う。おかげで追撃は避けられた。しかし、ビックフットの受けた銃創は即座に再生しているようで、あまり時間は稼げなさそうに見える。
危なかった。機転を利かせた誰かに感謝しつつ、耳に付けたインカムで手早く管理部門へ連絡を飛ばす。
「こちら九州統括支部管理部門。どうかしましたか?」
「現在収容違反した奇心体C-872を鎮圧中の旭
「発見された異常性の報告を」
「新たに2本の腕が生えるとともに、銃創を即座に再生するほどの回復力。それと、おそらく視覚を用いずに外界を把握する何らかの能力も保有している」
「確認しました……暫定的に対象の危険度を2へ引き上げます。但し、この処理は一時的なものであり、今後改められる可能性があります」
仕方がないとはいえ、相変わらず杓子定規な連中だ。
「別にそれはいい。続けて、制限中の武装の解禁を要請する」
「了解しました。危険度2の奇心体の鎮圧中のため、現在制限中の武装の一部解禁を許可します。但し、使用を許可するのは危険度が2以下・または安全が十分保障されている危険度3の武装のみとします。……それと、付近に収容中の奇心体の一部から活性化の兆候が見られ始めました。速やかに対象を鎮圧してください」
「了解した。これより鎮圧作業に戻る」
これはさっさと終わらせたほうがいいな。収容違反のおかわりは考えたくない。
懐から呪符を数枚取り出しつつ、まずは投げ捨てられた剣を回収する。次は……冴霧と情報を共有するべきか。
そう思って近付くと、先に彼の方から話しかけられた。
「無事でしたか。かなりヒヤッとしましたよ」
「悪かったな。さっきの援護射撃はお前か? 助かった」
「いや、あれは
「……そうなのか。と、そうじゃない、情報共有だ。一時的にあいつの危険度が2に引き上げられた。それと周囲に収容してある奇心体が活性化しつつあるらしい。手早く仕留めたい」
「なるほど。ただ銃弾はあまり効果なさそうですが、どうするんです?」
四方八方から撃たれているくせに即座に傷を再生させるビックフットを見て冴霧が質問する。
「呪符で動きを鈍らせて一撃で仕留める」
「一撃で? って、あぁ。危険度2ってことは剣の解放が許可されたんですね」
「完全ではないがな。あいつが最初に開けた穴のほうに誘導してくれ」
「分かりました。次は下手打たないでくださいよ?」
A隊の射撃に方向性が持たされ、ビックフットが押し戻されていく。
────もうそろそろか。
「Order」
呟くと同時に剣の雰囲気が変容する。無機質なただの道具から、まるであらゆるものを拒絶するようなオーラを放つ禍々しい呪具のように。
適当な瓦礫に身を隠しつつ、許可が下りている上限値辺りまでで出力を調整。
そうして狙っていた辺りに相手が誘導されると、すぐに瓦礫の陰から出て肉薄する。脇腹に呪符を張り付け、それが効力を発揮したのを確認すれば次は剣の連撃による畳みかけ。
斜めに斬り上げ、上がった刀身を即座に振り下ろし、下がりきったところで手首のスナップを利かして逆袈裟に斬り上げる。さらに剣を体の近くに戻して即座に薙ぎ払い、再び手首を使って逆向きに斬る。
呪符と剣の連撃で動きが鈍り、さらに4本ある腕がはじかれたことでがら空きになった喉元。それが確認できた瞬間に渾身の刺突を放つ。
例え見えていようとも防御も回避も不可能な一撃だ。さぞ痛かろう。
が、まだ俺の攻撃は終わらない。何か反撃される前にトドメまでやり切る。
「Repel」
小さく呟いた詠唱により、刀身を覆っていた黒い靄が傷口を通してその巨体に流れ込む。それにつれて次第にビックフットは白目を剥き、ガクガクと身体を揺らして痙攣し始めた。
……このぐらいで十分か。
「Close」
刀身をビックフットから引き抜き、軽く振って汚れを落としてから鞘に仕舞いつつ、管理部門へと連絡を飛ばす。
「C-872を鎮圧していた旭だ。対象の鎮圧を完了したため、回収部隊を頼む」
「了解しました。これより回収部隊と修復部隊を向かわせます、鎮圧作業ご苦労様でした。それと、栄薪支部長から伝令です。『今日の業務、これで終了でいいから医務棟で異常検査終えたらちょっと部屋来て~』だそうです」
「…………了解した」
顔を
明らかにめんどくさそうな雰囲気を醸し出していると、それに気付いた冴霧に「どうしましたか? まさか追加で収容違反ですか?」と聞かれてしまった。少し露骨すぎたか。
「いや。今日の俺の業務はこれで終わりだと言われたし、それはないだろう」
「それならどうしたんです? 支部長に
「ご名答。医務棟行った後にその支部長からのご指名が入った。昼過ぎに業務終了させるとか絶対ろくでもないこと企んでんだろあいつ」
「あはは、ご苦労様です。支部長、旭さんにはかなりフレンドリーですもんね。あー、そうだ、もし医務棟行くんだったら風見さんも連れていってくれませんか? 初めての鎮圧作業でしたので、一応カウンセリング受けさせてあげときたいんですよね」
フレンドリーの方向性が鬱陶しすぎるんだよアイツは。しかし……新人を案内してやって欲しい、か。
「別に構わんが、向こうは了承してんのか? 俺とだぞ」
「見た感じ大丈夫そうでしたよ。少なくとも、さっきの戦闘見た後でも旭さんに向ける目が変わったりはしてなかったと思いますし。というか何回も言ってますけど、
「……そりゃまた稀有な例だ。分かったよ、医務棟だな」
「…………まあ、いいです。ありがとうございます。それじゃ、これで。お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ」
人外の化け物と正面から渡り合う俺を見て怖がったり嫌悪感を示したりしない、ねぇ…………。
俺は柄にもなく新人の感受性を心配しながら、件の相手を探すために足を踏み出した。
医務棟までとはいえ、面倒がなきゃいいが。