願いと思考   作:RH−

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京都騒乱 終幕

 

「天野さんっ!?」

 

 呼び掛けながら走り寄る鬼一。対する天野は無表情のまま、近付く鬼一を制止するかのように右手を体の正面へ突き出した。

 すると、途端に何か膨大な力が収縮し、肌を突き刺すような圧迫感が生じ始める。

 

「避けっ────」

 

 声を上げる間もなく解き放たれた衝撃が周囲の瓦礫を押しやりながら鬼一へと迫り、そしてその姿を飲み込んだ。ホールが崩落した時のように巻き上がった粉塵に辟易としつつ、旭はさっきまで彼が立っていた辺りに目を凝らす。

 咄嗟に身構えはできていたようだが一体どうなっているかと不安になったが、当たり所が良かったのか額から軽く出血している程度で生命活動に支障をきたすほどではない様子だ。

 

 が、そのことに胸を撫で下ろす暇もなく第二波が襲い掛かり、その衝撃に鬼一は壁の方へと押しやられる。どうやら一撃の威力はそんなに高くないようだが、頭部も含めて全身を衝撃が襲うため直撃すると数秒動けなくなるらしい。

 

 

 旭は流石に壁際に追い込まれた状態でアレを受けるのは危険だと判断すると、3発目が来る前に鬼一の元まで駆け寄り、その腕を掴んで退避する。

 近場にあった瓦礫に身を隠し、さらに呪符を数枚張り付けてその場に固定することで無理矢理耐久性を上げ、即席の障壁に仕立て上げる。

 

 そうしてしばらくは時間を稼げるだけの措置を取り、改めて鬼一の方へ目を向けた旭であったが、その様子は予想よりも遥かに悪くなってしまっていた。

 もっともそれは肉体の、ではなく精神へのダメージという面であったが。

 

 短い期間ではあったが自分と深く関わった相手を喪ったと思い、今にも心が折れてしまいそうなほどショックを受けているようである。

 

 

 しかし、ここで折れられては困る。

 

 残酷な話だが億餧(この職場)ではままある事であり、そして遺された者にできるのは、せめてその犠牲を無駄にしないためにも進み続けることだけであるからだ。

 

 それに、そもそも天野が死んだとはまだ確定していない。

 確かに天野は悲鳴を上げながら奴に吞み込まれてしまった。これで、もしあの奇心体がとっている姿が先刻の黒い靄の塊のままであったならば、彼女の生存は絶望的であったかもしれない。

 

 しかし、幸いというべきか今も天野百笑という職員の姿は残っており、目に見える奇心体の特徴は黒に戻った髪色と周囲に漂う靄ぐらいである。

 つまりあくまでも主体は彼女である……筈だ。少なくとも研究さえできれば救い出せる可能性が見出せるレベル。そのためにもここであいつは鎮圧し切らなければ。

 

「いいか、よく聞け。まだ天野が死んだとは決まっていない」

 

 努めて優しい声を出しながら鬼一を励ます。

 

「アレはまだ天野の姿をとっている。つまり天野を呑み込んだんじゃなくて、その体に入り込んだ形だ。それなら分離させる方法が見つかるかもしれない」

「できる、のか?」

「可能だと断言することはできない、だが可能性は生み出せる。しかしここであいつを鎮圧できなければそれも不可能だ。だからここで鎮圧し切りたい、手伝ってくれ」

 

 実際のところとしては、これ以上被害を出して対象は鎮圧及び研究不可能(危険度5)であると認定されれば《門》によって二度と干渉できない別世界に飛ばされてしまう危険性がある。

 それ以外にも、天野に対して特に思い入れがない鎮圧部隊が来てしまえば手荒な方法を取られる可能性もある。

 

 つまり、天野の被害を少なくして救けるには俺たちだけで可能な限り速く鎮圧し切らなければならないのだ。

 

 が、そのことは鬼一には伝えないでおく。動きは優秀だが、まだ入社間もない新人を追い込むような情報を与えてもマイナスにしか働かないのは簡単に予想できるからだ。

 だから、見せるのは希望だけで十分。

 

「もう動けるな」

 

 随分マシになった鬼一の眼を見て確認する。

 

「おう!!」

 

 打てば響くような声と共に再度作戦を組み上げる。

 ただ、さっきと同じようにできれば一番楽なのだが生憎とあいつは目を得てしまった。気配を殺した程度じゃ不意は付けないだろう。さらに言えば面制圧ができる攻撃も増えているため時間稼ぎも難しくなっている。

 

 つまり、どちらか片方が奇襲するためだけに動くというのは悪手であり、どちらもが隙を見つけた瞬間に仕掛けられるようにしておかなければならない。

 

 しかしここで問題になるのが鬼一が奴に有効な攻撃を行えるのか、という点である。支給されている拳銃程度では無意味なことは既に証明されているため、俺の剣のような別の手段が必要なのだ。

 

 

「早速確認なんだが……。《電霊》の時にやったアレはもう一度できるか? おそらくアレならあの奇心体にも有効だと思うんだが」

「あの白く光ってたやつか…………ん-、分かんねーな。そもそもあの時も無我夢中だったし」

 

 まあやはりそうか。これまでの様子からしてそもそも自分に鬼が憑いていることも知らなそうだし、さっきのも極限状態で偶然妖力が漏れ出したってとこだろう。

 しかしここで求められているのはあくまでも妖力を再び引き出すことであり、引き出した力を自由自在に操ることまでは求められていない。

 

 そして、力を引き出すだけなら別に不可能ではないはず。なにせ既に一度実践できているのだから。

 

 

 力を引き出す……俺の時はどうやって訓練したんだったか。たしか最初は陰陽師────というか便利屋に教えられたができなくて………で、その時に栄薪に言われたんだっけな。

 

「この力は、願いを基に象られている……らしい」

「願い?」

「ああ。随分抽象的だがな」

 

 そう言いながら左手の方に妖力を集中させると、黒と紫の中間あたりの暗い色合いの光が纏わりついた。

 

「後はこんな感じでどこかに集中させるといい」

 

 俺の漠然としたアドバイスに鬼一は願い……願いか、と呟きながら手を握ったり開いたりしている。

 自分でもこれはどうかと思わなくもないが、しかしこれは摩訶不思議な超常の分野の話であり、科学のように理論立てて説明することはできないのだ。

 

 つまり感覚的な側面が大きく、習得できるかは個人の素質に依ってくるのである。

 

 さてどうなるかと考えつつ、周囲の警戒は欠かさないようにしておく。

 それに対し鬼一は(おもむろ)に目を閉じたかと思うと、途端にその右手に眩い光が灯った。

 

 その色合いは黄色の滲んだような白────薄い淡黄とでも表現するのが合うような色────で、まるで暖かな陽だまりのようなものだった。

 ほとんど色の付いていないという、これまで一度も見たことのない鬼一の妖力に何故か拒否感のような胸騒ぎを覚えつつ、とにかく鬼一が妖力を扱えたことに安堵する。

 

 ……にしてもまさかあのアドバイスだけでここまで扱えるようになるとは。まぁとにかくこれで手札は整った。ならば後はショーダウン(仕掛けるだけ)だ。

 

「特に難しい作戦はない。二手に分かれて隙を作り、動けるほうがそこを叩く。連携は最小限に、互いの邪魔にならない程度で。以上だ」

「ん。2人で頑張って救けような」

 

 そのなんともこそばゆい響きに口の端を歪めつつ、俺達は瓦礫の山から躍り出た。

 

 

 

 

 最初に仕掛けられたのは俺だった。

 銀の銃弾が数発放たれ、その隙間を無くすように奥から不可視の衝撃波が続いている。随分と狙いは正確になっていたが、生成されているのは弾丸そのものだからか、実際に銃口から発射されるよりも随分遅いそれを躱し、勢いのままに衝撃波を斬り裂く。

 

 そうして俺が攻撃を往なしている間に、反対側では鬼一が駆け寄っている。といってもその速度は常人の数倍は疾いため、彼我の距離はみるみるうちに縮まっていくのだが。

 

 それに気付いて鬼一の側に攻撃を放てば、今度はフリーになった俺が接近する。

 左右に分かれている上両者ともに簡単に攻撃を躱したり無効化したりするため、できるのは進行を多少遅らせる程度で、段々と奇心体は追い込まれていく。

 

 その現状に焦り始めたのか、放たれる衝撃波の狙いが無茶苦茶になり始めた。

 

 それによってそこかしこで瓦礫がさらに細かく粉砕され、土煙が舞い始める。とはいえ手を掲げた方向にしか出ないそれを躱すのは容易であり、寧ろ狙いが甘くなったことでより動きやすくなったほどだ。

 そんな風にさらに近付く速度を上げた俺たちに怯えたのか、不意に天野の顔に恐怖の色が浮かんだ。

 

 

 ────ッ! 乗っ取ったその体でッ! 勝手にそんな表情を作るんじゃねえ!

 

 

 地面を強く踏み込みこれまでとは段違いの速度で近付き、天野の周りに纏わりついている黒い靄を叩き斬る。そしていつもの詠唱を行おうとしたところで────唐突に剣が止められた。

 

 何に? 分からない。

 そこには何もないはず。少なくとも俺の眼には何もないように映っている。なのに何故かこれ以上刀身が進まない。

 

 一瞬あの不可視の衝撃波かとも思ったが、手応えが全く違う。硬すぎるのだ。これまでどんな奇心体であろうとも斬り裂いてきたこの剣がびくともしないほど。

 

「イヤ」

 

 不意に、目の前から声が聞こえた。

 剣先の方を見下ろしていた視点を上げると、そこにあったのは空虚な眼。ハイライトの消えた空虚な、それでいてどこか恐怖を滲ませたような瞳。

 

「来ナ、いでっ!」

 

 ノイズが混じったようなブレた声で、心の底から怖がっているかのように叫ぶ声。

 その様子に呆気に取られていると、気付けば何かに弾き飛ばされていた。これまで凌いできたあの衝撃波じゃない、それこそ俺の剣を止めた謎の壁のような固い何かに。

 

 いや、それよりもだ。

 もしかして天野は意識が残っているのか? もしかして、実はあいつは何ともなくて正気のままで、それなのに俺は殺意を向けて斬ろうと…………。また、俺の所為で。俺が考え無しな所為で、まともな人を殺しかけたのか?

 いや、違う! あの奇心体と同化したことで天野の見た目は変わっているし、何よりも不可思議な力を使って俺たちを迎撃した。そうだ、大丈夫だ。あれは天野じゃない。違う、大丈夫。

 でも、あの声は………

 

「────さひ、おい旭っ! どうしたんだ急に固まって!?」

 

 いつの間にか隣に立っていた鬼一に体を揺らされていた。掴まれている肩が若干痛くなる程力が込められているが、どうやらそれに気付かないほど俺を心配しているようで、明らかに狼狽しているのが見て取れる。

 

 …………俺は一体何をやっているんだろうな。

 同僚を守ることもできず、そんな訳ないのに相手の零した一言で動揺し、さらに俺よりよっぽど経験の少ない新人に心配されて。昔はこんな余計なことを考えずに斬れていたのに、何時からこんなに情けなくなったのか。

 

 そもそも少し冷静になれば分かる事。

 あの溌剌とした天野がこんなオドオドした態度を取りはしないだろうし、もし意識が残っているとしても気が動転して暴走している状態のはず。そもそも身を守るためではなく、本来味方である俺達を攻撃する目的で力を使っていたのだ、それぐらいは簡単に類推できる内容である。

 

 そうだ。天野は今も苦しんでいるというのに、何を俺は自己嫌悪で精神を安定させようとしているんだ。そんなのは後でいい、今はあそこで《俯いて頭を押さえている》天野を助けなければ。

 

 

 ────俯いて頭を押さえている? さっきまでそんなそぶりは一切していなかったのに?

 

 

 疑問を抱いた瞬間、天野の体から湧き出ていた妖力のような謎の力が膨れ上がった。その規模は何の形も取っていないただの純粋な力でありながら体に伸し掛かるような圧力を放つほどであり、旭は堪らず顔を顰める。

 

「っ!!」

 

 これはマズすぎる。こんな規模の力を放つ奴はいつぶりだ? 

 少なくとも並の危険度4の連中は遥かに上回っている。

 

 かつて一度だけ参加した危険度5の奇心体の鎮圧任務、あれ程にまでは達していないが、もし一段階でも更に出力が高まれば届くかもしれない。体の一部を消し飛ばされた上、ギリギリにまで追い詰められていたとは思えないほどだ。

 もしこの規模の力を解き放たれれば、流石の京都本部でもかなりの被害を覚悟しなければならないだろう。

 

 そして、何よりもアレの依り代にされている天野の身体は確実にもたない。

 ただの人間の身には過ぎた力によって自壊し、最後には塵となって風化していく。よしんば身体が残っても再生できるかは怪しいだろうし、何かの奇跡で再生できても今度は精神の問題がある。

 

 自分がそんな事をしでかしたとなれば確実に天野は気に病むし、他の職員(周り)が黙っているはずもない。

 下手すりゃ俺よりひどい、それこそ実験生物のような扱いになる可能性が高い。長い時間をかけ、『そんなもんだ』と踏ん切りをつけた俺でも良い気はしないというのに、それよりも更に酷い扱いにだ。

 

 これまで普通に暮らしていた天野がそれに耐えられるかなど考えるまでもない。

 

 思考が飛躍していると考えるかもしれないが、奇心体が関わるとそれぐらい億餧(ココ)の職員は倫理観が無くなる。たとえ元が同じ人間であろうと奇心体を消すためなら喜んで実験するだろう。

 齎された被害が大きければ大きい程に。

 

 とにかく、安全に手順を踏んで鎮圧するというのは不可能になった。次の一太刀で切り伏せる、そのぐらいの気概が必要だ。

 

 と、旭が決意を新たにしていると、天野が頭を振りながら顔を上げた。

 

 

「────────ッッッッ!!!!!!!」

 

 

 その口からおよそ人の持つ言語では形容できない叫び声が上げられた。

 ハクビシンの鳴き声のような、女性の金切り声のような、金属同士をこすり合わせたような、それでいてそのどれとも間違いなく違う音で。人間が決して理解できない、理解してはならないような音で。

 

 だというのに、その声に込められた思いが何故か理解できた。まるで頭の中に直接流し込まれたかのように、理解できてしまった。

 

 

 イヤだ────来ないで、痛クしなイで────ヤメテ………死ニタクナイ────イ、ヤ────

 

 

 俺は────違う。俺じゃない、あの奇心体だ。危ない、この一瞬で飲み込まれそうになっていた。

 

 あの奇心体は恐れていただけなんだ。痛みを伴う実験を、そしてそれを嬉々として行うニンゲンを。怖くて、そして何よりもただ生きたかった。その願いの集合体が、アイツだった。

 

 

 叫びながら、天野は右目から涙を流していた。左目は相変わらず光彩が失われたままだというのに、右目だけで泣いていた。

 そして、そのままに口を開いた。

 

「たす……け、て」

 

 掠れて、およそ声として認識できる限界のような声だった。それでもその声は、思いは俺達の耳に届いた。

 その願いがあの奇心体か、天野か、どちらの物であるかなんてどうでもよく、あるのはただ『救けなければ』という思いだけ。

 

 隣を見れば、叫び声に反応して天野の方を見ていた鬼一と目が合った。

 “目は口程に物を言う”とはよく言ったものだ。何も語らずとも、あいつらを助けたいという思いがひしひしと伝わってくる。

 

「行くぞ」

 

 それだけ告げて足を踏み出す。それ以上の言葉は必要ない。返答が無くとも、隣を見ずとも同じように駆けている気配が感じられる、それだけで十分。

 

 弾かれたように動き始めた俺たちに反応したのか、天野から滲み出る黒い靄がナニカを放ってきた。

 それは透明であるというのに、密度が高すぎるのか光を屈折させて虹に揺らめいている。おそらく俺の剣を止めた無駄に硬いやつだろう。

 

 とはいえ大した問題はない。見えるのならばなにも馬鹿正直に斬ろうとせずとも躱せばいいだけだからだ。鬼一もそれに倣い、回避に専念しながら横を走る。

 

 

 しかし横並びでは回避し辛いな。少しギアを上げるべきか。

 既に一度使ったのだ、もう一度使うのも大差無い。それに、このレベルの奇心体ならば使っても大して問題にはされないだろう。

 

ReOrder追加命令Deeping深化

 

 一度強く踏み込み、鬼一の前に出る。

 人の肉体では出し得ない加速力に身を任せ一息に距離を詰めると、それに反応したのか黒い靄が大きく揺らいだ。だがもう遅い。

 

 今更どんな攻撃が来ようとも既に天野は目と鼻の先、すぐに辿り着け────ッ!

 

 

 黒い靄が繰り出したのは攻撃ではなく()()だった。即ち、一度俺の剣を止め更に弾き飛ばした謎の障壁。それも正面だけでなく360度全方位を覆う球体の形で展開されたのである。

 

 

(チッ、面倒なことを。とはいえ速度が乗りすぎた。もう無理には止まれない、ならば────)

 

 

 判断は疾く、そして狙いは正確に。球壁に真っ直ぐに刺突を放つ。僅かでも剣先がブレれば途端に流されてしまうし、勢い余って天野を傷付ける訳にもいかない。全てのバランスを調整し、球壁を破ることにのみ専心する。

 

 だが、足りない。壁を打ち破るどころか罅を入れることもできず、その鋒は止められる。

 

 クソッ、このままだと体に反動が来る。

 その前に……届け、届けよ! 助けたいって思えたんだ、だから!!

 

『────それが貴方の望みとあらば、マスター』

 

「R■■■■■(■■■■)」

 

 詠唱に応えるように刀身から黒く、怖気を振るうほど濃密な魔力が帯のような形で放たれる。これまで滲み出ていた靄とは明らかに違う“ソレ”が触れた途端に、まるでそこには何もなかったかのように球壁が薄れていく。

 

 

 っ!? 今、俺は何を呟いた!? それにこの力は一体……………!?

 

 

 旭が困惑している間にも球壁は薄れて行き、────ついに数秒の拮抗を以てその位置から砕けた。

 硝子の割れるような音と共に最後の抵抗とばかりに放たれた衝撃波に弾き飛ばされたが、しかし彼の困惑は冷めやらない。気付けば刀身に纏っていた黒紫の帯は消え去っており、そこには何事もなかったかのように常の黒い剣が残されているのみ。

 

 しかし目の前の砕け散った障壁と、通常よりも遥かに消費した妖力が先刻の現象が事実であると物語っており、それが更に混乱を加速させる。

 分からない。自分が何をしたのか────そして、この剣が何なのか。九州に戻ったら一度調べてみるべきかもしれない。

 

 

 そんな風に帰還後のことを考えるほどに気を抜いているが、実際、既に旭の顔からは緊張の色がほとんど抜けきっていた。自分の役目は終了したと確信しているからだ。

 

 方法の詳細は分かっていないが、自分は天野の元への道を切り拓いた。そして俺の後ろには続く人間が、俺以上にあいつを助けたいと思っていたやつがいた。

 果たして顔を上げた先に広がっていたのは、天野の腹の辺りに手を添える鬼一と、そこから全身を包む白色の光に身を任せて脱力する天野の姿であった。

 

 

 

 

 


 

 作中に書けなかったしこれ以降で書けるタイミングがあるかも分からないので少しだけ設定の暴露をば。

 ちょっとだけ描写してましたが、京都本部での奇心体への扱いはとんでもなく悪いです。実験と書いて拷問と読むってレベル。だからもし鬼一君が奇心体判定を受けていたら相当ヤバかった。ちなみに九州統括支部は他支部に比べてその辺りは相当クリーンになってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、四方に乱雑に積まれたディスプレイから放たれる青白い明かりに照らされた薄暗い部屋。

 その中心にて、学校のPC教室に置いてあるような椅子の背もたれに身を預けて座る青髪の少年が、興奮冷めやらぬといった様子で言葉を紡いだ。

 

「前々から気になってた場所だったけど。これは……とんでもないモノを見ちゃったかもしれないなぁ」

 

 これからが面白そうだ、と含み笑いを溢すと、少年は何処かの光景を映し続ける液晶画面の一つに手を伸ばし────その姿を搔き消した。

 

 

 後に残されたのは一斉に光を落としたディスプレイと、暗闇に満ちた配線が好きに張り巡る部屋。

 

 そして、残響した笑い声だけであった。

 

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