願いと思考   作:RH−

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時系列的には本編開始前になります。具体的には2・3年前ぐらいですかね。とはいっても別に具体的な時期は大事ではなく、この頃の旭くんはまだメンタルぼろぼろだからあまり周りに頼らないよってだけです。


黄色の空間

 

警告:この対象の情報は特殊クラス・祕に設定されている機密情報です。

   この情報を閲覧するには高次理事『肆家』またはそれに類する職員からの許可が必要です。権限を有していない職員が当該データを閲覧したことが発覚した場合、即座に終了処理が行われます。

 

 

 A-401 《yellow space》

 

 危険度 4(但し昇格の可能性有)

 収容難易度 不可

 研究難易度 4(但し昇格の可能性有)

 有用度 1

 

 ■■■■/05/13現在、この対象の収容あるいは無力化を図るあらゆる試みは失敗しています。その危険性、および空間型の奇心体でも最上位の侵食力より一般職員へ著しい悪影響を及ぼす可能性があるため、対象の入り口を発見した職員は即座に『肆家』に連絡するようにしてください。

 

 この奇心体は壁・床・柱・天井といった内部を構成するあらゆる要素が黄色で統一された空間です。内部に侵入する方法は現状『元々存在しなかったはずの場所にいつの間にか出現したドア』、または『特殊職員《旭 継恫》により展開された裂け目』から入ることのみですが、他の方法もあると推測されています。

 空間内は構造が常に変化し続ける性質がありますが、同時にこれまで確認されてきた奇心体の中でも上位に位置する安定性を有しているため、この奇心体を破壊することは不可能であると結論付けられています。また、内部には危険度3相当の非常に獰猛な実体が複数徘徊しており、前述した性質も踏まえると少人数で侵入した場合の生還率は絶望的となるため、絶対に避けるようにしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはいつもと変わらない、平凡な日のことだった。

 普段通り収容違反した奇心体の鎮圧を済まし、この後は実験などの予定も残っていないため少し早いが帰っていいと言われ、最後の報告を済ませた帰り道。その廊下に明らかに異様な点があったのだ。

 

 

 少し話は変わるが、億餧に在籍している職員は8割以上が理系であり、残りも『文系ではあるが科学の特定分野に対し非常に強い関心を持っている』といったタイプの人間である。つまり、ここにいるのは科学が好きな連中ばかりだということだ。

 まあオカルト存在を否定する組織に所属している以上は当然なような気もするが。

 

 とにかく。俺が言いたいのはここの職員は『スッキリしたもの』を好んでいるということだ。

 分かりやすい例で言えばデスク周りだろうか。多少バラつきはあれど綺麗に整頓され、使用者の最も使いやすい状態になるようにカスタマイズされている。

 その傾向は至る場所で散見され、当然ながら施設のデザインも規則正しく設計されている。

 

 

 そう、だからこんな景観は生まれようがないのだ。等間隔に配置されていた扉が突如、一か所だけ詰め詰めになっているような気持ちの悪い景観は。

 

 

 俺でさえこのデザインを奇妙に感じるのだ。

 模範的な他の職員なら言わずもがなだろうし、そもそも設計段階で文句が出るだろう。更に言えば俺はこの通路を何度も通ったことがあるし、他にも通ったやつはいるはずだ。

 だというのに今初めて違和感を持ったし、周りがこの扉について話をしているのも聞いたことが無い。

 

 これは明らかに異常な事態だ。おそらく奇心体と見て間違いないだろう。

 

 

 

 なお、ここで旭は「周りがこの扉について話しているのは聞いたことがない」とドヤ顔で言っているが、実際に彼が会話する職員など冴霧と栄薪ぐらいなもののため、この情報は本来思考材料に入れてはならないはずである。しかし彼はその事を失念しており、栄薪も「流石にコレについて突っ込むのは可哀そうかな……」と黙っていたため結局最後まで気付くことはなかったそうだ。

 

 閑話休題(ボッチは悲しいね)

 

 

 

 この扉について考えられる可能性はいくつかある。例えば、なんらかの奇心体による幻覚や元々あったが認識阻害がかけられていたパターン。

 あるいは、空間型の奇心体が今この瞬間に侵食してきたか。

 

 まあいくつか例を出したが前2つに関しては考えなくともいいだろう。

 というのも、俺の肉体と普段使ってる黒の剣にはそれぞれ精神干渉に対する耐性があるのだ。この耐性を貫通したのは現状危険度4の奇心体のみで、その時も幻覚を見せられている感覚があった。

 

 …………これを見せているのが危険度5相当の対象なら話は変わってくるんだが。

 

 

 とにかく、今考えられる可能性で最もあり得るのは空間型が防壁をすり抜けて“つなげて”きたパターン。そうなると当然管理部門へ連絡する必要があるのだが……インカムもスマホも一切反応を返さない。

 

 

 直接報告に向かうべきか、一人ででも突入するべきか。

 これにはどちらにも長所と短所がある。

 

 直接管理部門に報告に向かう場合。

 無難な手であり、ぱっと見何のリスクも無いように思える。しかし、報告して再び戻ってきた時にまだコイツがいる保証はない。本部ほどではないとはいえ統括支部の防御網を超えられるような奇心体を野放しにするのは危険すぎる。

 

 逆に一人で突入する場合。こっちのリスクは明らかだろう。すなわち、バックアップの無い状態で俺が生還できるか分からない点。そして俺がしくじった時にこの奇心体の情報が残らない点。

 

 

 さて、どちらを選ぶべきか……。

 

 きっかり30秒ほど悩んだ後、俺はメモを残してから突入することに決めた。おそらく空間型の奇心体による干渉の跡を発見したこと、これから突入することを名前・現時刻と共に書き記し、それを反対側の壁に呪符と五寸釘で固定する。

 普段から携帯しているこの2種の装備は単体ではそこそこの効果しか見込めないが、同時に使用すると『対象を固定する』効果が重複し、危険度3相当の効果を発揮する。これでおそらく情報は残せるはずだ。

 

 腰から剣を抜き放ち、軽く深呼吸してからドアノブへと手を伸ばす。

 さて、行くか。

 

 

 

 ******

 

 扉を開いた先に広がっていたのは、とにかく真っ黄色の空間だった。

 壁も、床も、天井も、視界に入る全てのものが余すところなく淡いレモンイエローに染められている。そんな部屋が、柱が、そして通路が無駄に開放感のあるデザインで延々と続いている。

 

 頭上には正方形の形をした初めて見るタイプの照明がはめ込まれているが、明るさが十分とは言い切れない程度のもので、全体としては微妙に薄暗い。また、場所によっては明かりすら存在していないのか、ほとんど真っ暗な部分も遠くに見られる。

 さらに、妙な臭い────それこそまだ廃墟になって日の浅い洋館なんかにありがちな、湿ったカーペットが放つ独特なそれ────が充満しており、おまけに天井からは耳障りなハム音が鳴り響いているため、中にいるだけで気が滅入ってくる。

 

 

 そんな明らかに狂った空間だというのに、踏み込んで感じたのは少しばかりの恐怖感と懐かしさだった。

 恐怖感はまだ分かる。最近は感じることが珍しくなっていたが、空間型の奇心体というのは強制的に相手の土俵に引きずり込まれるのだから。

 

 だが懐かしさとはなんだろうか。当然ながら過去にこんな場所に来たことはないし、この風景を写真なんかで見た記憶も無い。だというのにそう感じさせられた。

 まるで『ここはそういう設定の場所だから』とでもいうかのように、気付けば僅かに懐かしさを覚えていたのだ。

 

 

 これは……逸ってしまったか? そう思い、俺は一度退路を確認するために来た道を振り向き────

 

 

「…………は?」

 

 

 思わず声が漏れてしまったが、これは仕方がないことだろう。

 なんせ振り向いた先にあったのは全く見覚えのない小部屋だったのだから。入ってきた扉はおろか、歩いてきた道すら存在しない。周囲を警戒しながら歩いていたのもあり、進んでいたとしても十数歩ほどでしかなかったはずだというのに。

 まさかと思い進んでいた方向に再度目を向けると────やはりさっき見ていたのとは異なる景色。

 

 

 これはつまり()()()()()()だろう。この場所は空間の配置がでたらめに変化し、そしてその場所に俺は単身で乗り込んだ上退路を断たれてしまった、と。

 

「あ゛ー、完っ全にやらかしたな」

 

 

 そんな風に呟いて何かが起こるわけもなく、ただ反響した俺の声が返ってくるだけ。ただひたすらに静かで単調な光景を前に絶望しそうにな────コレは俺のじゃなくて押し付けられた感想だな。

 

 一旦深呼吸をすることで精神を落ち着ける。数秒そうしていると恐怖心や懐かしさ、それに絶望感なんかが押し出されて消えていったのを感じた。

 よし、これなら問題なさそうだ。

 

 再び目を開くと、探索を再開するために俺は足を踏み出した。

 

 

 

 ******

 

 突入からおおよそ2時間ほど経っただろうか。その間に色々と検証したため、この空間について理解できたことも増えてきた。ここらで一度整理しておこう。

 

 まず第一に挙げられるのがこの奇心体の安定性だろう。

 空間型の奇心体は現実では考えられないような特殊な世界を構築する。しかし大抵はひどく不安定なもので、下手なことをするとたちまち空間ごと崩壊したりする。ところが、この黄色の空間はかなり安定しているのだ。

 

 目を離した隙に配置が切り替わるような不安定さが安定しているというのも奇妙な話なのだが。

 

 

 とにかく、空間型でありながらここまで安定感を持っているのは初めて見る。試しに黒の剣で斬り付けても影響がなかったほどだ。

 ……まあ手応え的に最大出力で斬ればどうにかできそうではあったが。

 

 そんなことをすれば外部に出るどころか空間ごと崩壊するか、どこでもない狭間に吐き出されるのが目に見えてるからやろうとは思わないが。最低でも空間の継ぎ目のような外部とつながる可能性がある場所でなければ。

 

 

 次に挙げられる性質はパターンの多さであろうか。

 歩き回っていたこの2時間のあいだ、同じ構造に出くわすことは一度も無かった。もちろん休憩や検証のために立ち止まることは何度かあったが、それにしたって構造のパターン数が多すぎる。

 こうなると、プリセットしておいた空間を組み合わせているのではなくリアルタイムでランダムに空間を生成している可能性も疑うべきか。

 

 

 そして────チッ、また来たか。

 休憩していた場所から、近くにあった暗がりになっている物陰に忍び込む。

 

 数秒後、姿を現したのは異形の化け物だった。

 

 全体的なシルエットは人に近いもので、腕・足といった四肢やそれがつながる胴体、その上に頭部と思しき器官もくっついている。

 しかしそれらを構成しているのは黒い針金のような物体であり、頭部に付いているのもサイレンのような妙な構造体であるため親近感を覚えることは全くない。

 

 

 これがさっき挙げようとしていた3つ目の特異性だ。

 この空間を徘徊しており、定期的に出くわすことになる。これで通算4体目との邂逅だ。相対した体感で言えば危険度は2~3程度、俺にとって危険といえるレベルではないが────しかし厄介ではある、といった感じだ。

 

 そんな異形が俺の身を隠している物陰を通り過ぎた辺りで駆け出し、一気に距離を詰める。途中で足音に気付かれたのか振り向かれるが、しかし既にそこは俺の間合い。

 

 

 左に構えていた剣を逆袈裟に斬り上げ、すかさず体の方に戻した剣で二の太刀を放つ。イメージ通りに行われた一連の動作によって左腕と首が刎ねられた針金もどきは、一切のリアクションをすることなく崩れ落ちた。

 

 最初はけたたましく喚かれながら追い回されていたのが嘘のようなスムーズな処理である。単純計算で30分に一度出くわしていることになるため、これも宜なるかなといった感じではあるが。

 

 周囲にもう危険が無いことを確認して残心を解くと、旭は再びその場に座り込んだ。

 

 

 あ~、いい加減疲れてきたしさっさと脱出したい。つかここマジでなんなんだよ。どこもかしこも黄色、黄色でたまに違う色が見えたと思ったらこのうるせー奴だし。趣味悪すぎねえか?

 

 肉体的な疲れはまだ問題無いが、精神的な疲れがかなり溜まってきていた。

 どこへ進もうと同じような景色ばかり、更には鼓膜へダイレクトアタック!! してくるハリガネヒトガタモドキとの複数回の邂逅。もともと沸点の低い性格も相まってストレスが限界近くなっているのだ。

 

 さてどうしようか、いっそのこと暴れまわってやろうかなどと益体も無いことを考えつつ周囲の警戒を続けていると、ふと視界の端にレモンイエローでも黒でもない別の色が映った。

 

 

 暖色系統であるのは変わりないが、しかし周囲の黄色とは明確に違う色。強いて言えば薄めのベージュ色というのが一番近しいだろうか。その色で構成されたフローリング張りの部屋が通路の奥に広がっていた。

 

 室内には木製の机と椅子が1セット分、隅の方にはウォーターサーバーのようなものが設置されているのも見える。明らかに普通の部屋、一般的な光景に違いないが…………これまで狂ったような光景を見てきた後だとむしろ警戒してしまう。

 とはいえ入らないという選択肢は無いのだが。

 

 

 これまで以上に警戒しながらその部屋に踏み込む。空気、床、壁────問題なし。天井や机、椅子にも何かがあることはなく、ごく一般的な風景が広がっている。

 ……外部の真っ黄色な空間から目を背ければ、だが。

 

 

 何はともあれ、ここは所謂セーフゾーンというやつだろう。明らかにこの室内とさっきの通路では空気が違う。

 ま、俺はここでゆっくりなんてするつもりはないんだが。

 

 この数時間ずっと抜きっぱだった黒の剣を一旦鞘にしまい直し、目を瞑って呼吸を整える。そうして限界近くまで集中すると────

 

Repel弾け

 

 一閃。いわゆる抜刀術というものである。

 見よう見まねで作ったが、「気持ち悪いのに綺麗」と称されたことがあるためおそらく形になっているはず。

 

 さて、そんななんちゃって抜刀術の結果はというと────黄色の領域とこの部屋との境目辺りに揺らいで現れた空間の歪みが示していた。

 

 この感じならひとまずは成功だろうか。

 切れ目はできたのだから、後は元の場所に繋がるように更に広げるだけだ。というわけで重ねて斬撃を放つこと数回、遂に人一人通れるぐらいにまで広がった空間の裂け目。

 

 その先に広がっていたのは自然の緑色に侵食された廃墟群であった。

 

 

「………………は?」

 

 

 何がどうなったらこうなるのだろうか。とりあえずスマホだけを裂け目から出し、圏外ではなくなったことを確認。

 続いて連絡先から栄薪を選択し、通話を試みる。数コールの後、どうやら栄薪が電話に出たようでスマホ越しに声が聞こえてきた。

 

 ……良かった。これで過去とか未来の世界に繋がれていたら目も当てられなかった。

 

「もしもし……もしもし? 何かあったのかい? 旭君、聞こえているなら返事を────」

「あー、大丈夫だ。少なくとも今はな」

 

 戻れたのか確認するためにしばらく放置していたせいか、珍しく栄薪の焦った声が通話越しに届いた。しかしここは一体どこなのだろうか。

 そんな思いと共に地図アプリを確認すると、そこにあった表示は“軍艦島”。

 

 ……疲れ目だろうか。

 ゴシゴシと両目を擦り、一縷の望みを懸けてスマホへ視線を戻す。

 

 

 “軍艦島”。

 

 

「なんでだよ!?」

「うわぁっ! いったいどうしたんだい!?」

「あー…………うん。色々あったんだ。戻ったら全部報告するからとりあえず迎えを頼めるか?」

 

 とにかく福岡にまで戻らねば何も始まらない。どうやらあの場所は空間だけでなく時間も歪んでいたらしく、幸いにも現時刻は18時手前。どうにか今日中には戻れそうだ。

 

「迎え~? 今日出張とかあったっけ。まあいっか、場所は?」

「軍艦島」

「なんて?」

 

 若干食い気味に疑問が飛ばされる。俺が言いてえよ。

 

「だから、軍艦島」

「なんで!?」

 

 だから知らねえよ。

 本当に珍しく予想外の事態に振り回されて取り乱す栄薪の声を聞きながら、旭は夕焼け空を仰ぐのであった。

 

 

 

 ……まじで何でこうなった。

 

 

 

 ちなみにこの後九州統括支部に帰った旭に事のあらましを聞かされた栄薪は、未知の奇心体の脅威と『軍艦島』という結末の面白さとで非常に微妙な感情になったらしい。

 

 




はい、お察しの方も多いかと思いますが、例のあの場所です。Backr○○msです。ネタが降ってきて書きたくなったので書きました。後悔は無い……書ききったことに僕は後悔はない(花京院並感)
ちなみに最後の脱出に関してはマニラルームから強制脱出ってイメージです。黒の剣が完全にバグ枠な件について。
一応Backroomsを知らない人でも楽しめるように書いたつもりですが、分かんねーって人はグーグル先生に聞いてもらえばそーなのかーってなると思います。たぶん。知らんけど。
え、めんどいしヤダよって人は真っ黄色の時間も空間も狂った世界に行って、その中のセーフゾーンからバグ技で脱出したら軍艦島に出たって理解しといてもらえれば十分です。

え? なんで軍艦島なのかって? なんでだろね……。直接戻んのはつまんないよなーって考えてたら軍艦島になってました。なんかツボったせいで執筆ペースが崩れたのはここだけの話。
いつかこの空間も本編に絡むかもしれませんし、閑章オンリーのネタになるかもしれません。どっちになるか予想してね! ちなみに私は分かりません。1章の時点でプロット崩壊の兆しが見えているのでな……orz
ではでは~。
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