願いと思考   作:RH−

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鬼一君@訓練中 with 便利屋

 

 

 支部長室でのミーティングを終え、一人だけ特訓するよう言い渡されたオレはトレーニングエリアで佇んでいた。

 トレーニングエリアといっても、今回割り当てられた部屋はジムのように様々な器具が置かれているタイプではなく、とにかく頑丈に作られただけの殺風景な大部屋なのだが。

 

 

 伝えられた時刻からは既に10分ほど過ぎているが、教師役の便利屋何某とやらが現れる気配は全くない。

 自分一人で勝手に訓練を始めて暴走でもしようものなら確実に厄介事になるため何もできず、かといってぼんやり待っているのも退屈に過ぎる。

 いっそのことランニングか筋トレでもしてやろうかと悩み始めたところで、ようやく正面の扉が開かれた。

 

 

「やぁやぁ、遅れてしまって申し訳ない。栄薪との話が思ったより盛り上がってしまってね」

 

 

 欠片も悪いと思ってなさそうな謝罪と共に入ってきたのは、妙な男だった。

 無地の白Tシャツに黒色で七分丈のジップアップパーカー、下はベーシックなストレッチジーンズ。足元もスニーカーを履いているため、まさしく休日に出かける一般成人男性といったコーディネートである。

 とはいえ、これだけで終わらなかったから妙な男と表現されたのだが。

 

 ここまでの普通な装いの雰囲気をぶち壊すもの、それは顔の部分にあった。いや、顔立ちが美形でないとか奇妙な部分があるとか、そういう話ではない。というかそもそも素顔は見えないのだし。

 そう、便利屋と呼ばれているこの男は顔全体を覆う仮面をつけているのだ。

 それも、なぜか『へのへのもへじ』が描かれた仮面をだ。ちゃんと目元部分の“の”や鼻部分の“も”に隙間の空いた無駄に完成度の高い仮面を、だ。

 

 

 服装がいたって普通だからこそ仮面の異質さが目立つ便利屋に、鬼一はどう反応するべきか判断に困った。

 これが服装までおかしかったなら話は別だったのだ。ただの変人として扱えばいいだけなのだから。

 

 しかし、この男は仮面以外の装いがまともであるため普通の感性を持っているのかもしれない。それを変人扱いするのは失礼だろう。

 相手はたくさんの組織に警戒されている危険人物のため、機嫌を損ねでもしたら自分がどうなるか分からないのだ。もしかしたら九州支部全体にまで不利益を与えてしまうかもしれない。

 

 さて、どうするべきか────いや変な仮面付けてる時点で変人だろ。何を悩んでるんだオレは。

 

 どうやら彼は状況に飲まれて失っていた冷静な思考を取り戻せたようだ。だからといって何が変わるというわけでもないのだが。

 

「鬼一君だっけ? キミ、面白いねぇ」

 

 と、そんな思考の変遷を読まれてしまったのだろうか。随分と不名誉な評価を付けられてしまった。こんな変な格好をした男に面白いと言われるとは。

 

「ありがとうございます!」

 

 しかしそんな感想はおくびにも出さずに礼を言う。この辺りは長年自分の歪さを隠してきた経験があるからか、かなりの完成度である。

 

「うん、ありがたく思うどころか不名誉だなって思ったけど僕の機嫌を損ねたらまずいからって元気よく返したお礼、ありがたく頂いておくよ」

「いや性格悪すぎません?」

「ハハッ、冗談だよ。やっぱり君面白いね」

 

 良くないな、思わずつっこんでしまった。

 幸いなことに今回は大して気にしていないようだが、あまり迂闊なことを口にしないように気を付けなくては。

 

「さてまあ、このままアイスブレイクでだらだら駄弁るのも悪くないけども。今回の依頼はなる早でって話だし、早速始めようか」

 

 ……なる早って久々に聞いたな。もう死語なんじゃないか? っといかんいかん、こんなこと考えてたらまた失言してしまう。

 

「よろしくお願いします」

「うん、なる早ってワードが気になるけどとりあえず丁寧に返した了承の言葉、たしかに受け取ったよ。対戦よろしくお願いします」

「いやだから性格悪すぎません? てかなんでそこまで具体的に思考読めるんですか、怖いんすけど」

「企業秘密さ。もっとも便利屋は僕一人で運営してるし、美味い蜜吸おうと近付いてきた奴らは消してるから企業もクソも無いんだけどね。ハハッ!」

「笑えないんすけど!? てか千葉あたりに城構えてる鼠さんみたいな笑い声やめてくれません!? シャレにならないんすけど!?」

 

 ……なんとなく分かったぞ、この人かなり愉快な人だな。表向きは栄薪さんに近い感じ。

 でもなんと言うか、底の方には何か重たいもの抱えてそうな雰囲気もする。あまり深くには触れないように気を付けておいた方が良さそうかな?

 

「────へぇ、この一瞬で良く分かったね。うん、やっぱり君面白いね」

「…………な、ナンノコトデショウカ」

 

 やっぱ怖えって! ぼんやり思うだけでもバレるって迂闊なこと何も考えられねーじゃん!

 

「まあその辺りはどうでもいいから置いとくとして。早速君への指導を始めるわけだけど……ぶっちゃけどれくらいの力が欲しいの? てか今どんくらい扱えんの?」

「えーと、今はこんな感じで手に集める程度っすね。んで、どれくらいかですか……逆にどのくらい扱えれば霊力操作はマスターしたって言えますかね」

 

 ミーティングの時と同じように手に霊力を集中させながら答える。栄薪さんには霊力操作をマスターするようにとしか言われていないし、こういうのは先達に聞くのが一番だろう。

 

「それ、手じゃなくて足とか別の部位にも集中させられる?」

「えと、たぶん」

「うん、できたね。じゃあ全身覆うように放出できる?」

「ちょっと待ってください」

 

 全身からだから……こんな感じかな。っと、できたっぽい?

 

「できたね、なるほど」

「あの、ところでオレの質問には…………」

 

 答えてもらえないんだろうか。いっそのこと「質問に質問で返すなァッー!」とでも言っておけばよかったのだろうか。笑ってぶん殴られそうな気がするけど。

 

「うーん、その感じなら霊力操作に関して教えること無い気がするんだよな~。だってもう後は反復練習で操作精度を上げるだけだし。てなわけで、どうしたい?」

「…………? どうしたいってのは、どういう?」

「ああ、ごめんごめん。色々抜けてたね。さっきも言った通り、君の霊力操作は基礎レベルで教えることは一切無い。だから僕が教えるとしたら、反復練習の方法に関してか応用技術についてかの二択になるんだ。というわけで、どっちがいい?」

 

 どこか値踏みするような視線と共に便利屋が質問をする。

 

 この手の目は知っている。相手を試すときにする目だ。

 つまり、オレは今試されているということ。質問の内容から推測すると、どちらを選ぶかで何かを測ってるっぽい? 旭と栄薪さんの「気に入った相手には簡単に手を貸す」って紹介的に、オレを見定めようとしてるってとこかな。

 

 それを踏まえると、どっちが便利屋の好む選択肢かを考えるべきなんだろうけど…………。

 正直答えは決まり切ってるんだよな。

 

「どっちもで」

 

 なんせ今のオレはとにかく選択肢を増やさないと駄目な状態。旭ぐらいとまでは言わずとも、それでも1/2旭程度の戦闘力は確保しておきたい。

 ……1/2旭ってフィギュアのスケールみたいだな。

 

「随分強欲だね。でも、全部を取るなんてことができるのかい? 君にはそれだけの能力があると?」

 

 さっきまでのこちらの反応を楽しんだり試したりしていたのが、一転して感情が読み取れなくなった冷たい瞳で質問をする便利屋。

 なにか地雷でも踏み抜いたのだろうか。とはいえここは譲れない部分だ。

 

「できないのならできるまでやる、能力が無いなら補うなり周りに頼るなりする。そんだけです」

「…………なぜそこまで? 君はこの春まではただの一般人だったはずだ」

「分かりません。なんならずっと自分が分かってません。それを知るためにも力が要るんで、そのために頑張るだけです」

 

 ……少し生意気だっただろうか。言い切った後になって不安感に襲われるが、全ては後の祭り。

 もうなるようになれと、顎に手を当てて考え込む様子の便利屋を見つめる。10秒程そうしていただろうか、不意に便利屋が口を開いた。

 

「君って思ったよりバカなんだね」

「バカって……流石に直球すぎません?」

 

 この反応は失敗したのだろうか。さっきから便利屋の感情が読み取れなくなったせいで、判断がまるで付かない。もちろんこれで断られても手を尽くすつもりではあるのだが。

 

「うん、やっぱりバカだ。だからこそ気に入った。いいね。自分探し、手伝ってあげようじゃないか」

「……便利屋さんってそういうタイプだったんすね。あんま熱血なのは好きじゃないかって想像してました」

「無駄に賢しらに振る舞おうとするよりかはよっぽど良いだろう? そもそも人間なんかそんな素晴らしい生き物でもないんだ。それなら分からないモノを認められる方が好感が持てるというものじゃないかい?」

 

 劇にでも出ているかのように、仰々しく両腕を広げて同意を求められる。しかしその眼からは相変わらず何の感情も読み取れない。どうやら警戒されてしまったらしい。

 しかし……「そもそも人間なんかそんな素晴らしい生き物でもない」か。随分と含蓄のありそうな言い方だ。もしくは、実感が込められているか。

 

「人間は嫌いなんですか?」

「好ましいと思う個人は存在するさ」

 

 あくまでも人間全体ではなく()()が好ましい。遠回しではあるが、つまり人間全体は────

 

「そういうことさ。ま、僕にも色々あったんだよ。()()、ね」

「だから思考を読まないでくださいって。何も考えられなくなるじゃないですか」

「仕方ないだろう。相性がいいのか、君のは特に分かりやすく聞こえてくるんだから。てかそれで言ったら君も君で僕のこと色々と察したりしてるじゃないか」

「うっ……」

 

 それを言われると何も言えなくなる。

 オレも普段は別にここまで分かったりしないんだけどなぁ。感情の変化が分かるぐらいだし。

 

「ま、そんなどうでもいい事は置いといて。早速始めるとしようじゃないか」

「どうでもいいんすね……」

「細かい事ばっか気にしてたら禿げるよ?」

 

 よく聞くようなフレーズと共に便利屋は隅の方に置いたバッグの方へ歩いていくと、その中から紙コップを取り出した。

 

「なんすかそれ」

「鬼一く~ん、水持ってない?」

「あ、どうぞ……じゃなくて!! なんなんすかそれ!?」

 

 さっきからオレの質問に答えてもらえる割合が低い気がする…………

 とにかく、この場面で出してくるのだから単に水が飲みたかったというわけじゃないはずだ。そもそも底の方に土みたいなものが敷いてあるし。

 

「君の属性を調べるためのちょっとした小道具さ」

「属性?」

「そう、属性」

 

 どこか可愛らしい仕草で頷きを返す便利屋。とはいえ『へのへのもへじ』を顔に張り付けたおそらく成人してるであろう男性のそれであるため、ときめくもクソも無いのだが。

 しかし属性と言うと……ソシャゲとかで見かけるような火とか水とか、そういうのだろうか?

 

「君には今から霊力を操る術────即ち陰陽術を学んでもらうんだけど……陰陽術というのは一般的には占術(せんじゅつ)、つまり占いに用いられるものを指す。戦うためのモノではないわけだ。少なくともこの支部にはその系統で最上位の力を持つ物が納められている以上、君がそれを学ぶ意味はない」

 

 ……急に切り替えるじゃん。数十秒前までふざけまわってたのに一瞬で真面目になるから温度差で風邪ひきそうなんだけど。

 なんて思ってるとジロリと睨まれた。ハーイ、ちゃんと説明聞きまーす。

 

「ん゛ん゛。ともかく、君に覚えてもらう陰陽術は体系化された後の占術ではない。力を引き出しそれを行使するという段階の、つまりもっと原始的なモノになる。さて、それじゃあ問題だ。原始的な段階の陰陽術とはなんだと思う?」

「えーと?」

「ま、そうだろうね。そもそも陰陽道自体がすでに廃れつつあるから、分からないのも無理はない」

 

 学者然とした雰囲気のままに、便利屋はここで重要なのは陰陽道の基本思想だ、と続けた。

 

「日本における陰陽道の基本思想は、単なる陰陽(いんよう)思想ではない。そこに五行思想を取り込んだ『陰陽五行思想』、これが骨子となる」

「陰陽……五行思想…………?」

「そう。単純な陰陽思想だけじゃ出力が足りなかったから、五行思想と併せることで強度を補強したんだ」

 

 …………ん? 陰陽思想に五行思想とやらを混ぜたら別物になるんじゃないのか? どういうことだ?

 

「そこがミソだね。元々、陰陽思想も五行思想も古代中国で誕生したものだ。だからか、うまく解釈すればそれらを併せることができたんだよ。混ぜて別の思想を生み出すんじゃなく束ねることで一つの思想に纏めた、と言った方が分かりやすいかな?」

「なるほど」

 

 相関性があった二つを重ねて、より汎用性のある思想にしたってことかな? いわゆる三本の矢なら折れない理論みたいな。

 

「というわけで、ここまでが前提段階だ。次に、軽くではあるけど陰陽術の基になった二つの思想について説明しよう」

 

 

 陰陽思想とは、物事を能動的なものを『陽』の気に、受動的なものを『陰』の気に分類する思想。

 例えば、動物と植物。夏と冬。火と水。光と闇。剛と柔。こういった相反しつつもそれぞれが互いにその存在を証明し合う関係に当てはめ、それによって森羅万象を理解しようとする。

 陽虚すれば陰虚、陰虚すれば陽虚す。相反しつつも互いが互いを証明し合うため、どちらかのみが単体で存在することはできず、したがって片方が弱まればもう片方も自然と弱まる。そしてその逆もまた然り。こうして調和を保ちながら、万物は推移する。

 

 そして五行思想とは、万物の源を自然の四季変化から抽象化された(もく)()()(ごん)(すい)の5つに見出す思想。

 木は「春」、火は「夏」、金は「秋」、水は「冬」、そして土は「土用」、つまり季節の境目・変わり目を象徴する。また、これらは季節以外にも当時観測できた星々、即ち木星・火星・土星・金星・水星を象徴しているとする説や、東西南北の四方に中央として地(土)を加えたとする説もある。

 その特徴は相生(そうじょう)相剋(そうこく)にあり、木・火・土・金・水の並びにおいて隣同士は相生、一つ飛ばしは相剋の関係となる。

 相生とは相手を生み出す関係であり、例えば木は水によって養われ、火は木が燃えることで生み出される。

 そして相剋とは相手を打ち滅ぼす関係であり、例えば火は金を溶かし、水は火を消す。

 

 この五行それぞれに陰と陽を配し、さらに相生を陽の関係、相剋を陰の関係と解釈することで五行思想に陰陽の概念を適用し、そうして生み出されたのが陰陽五行思想である。

 

 

 便利屋の説明を纏めるとこんなところだろうか。

 

「というわけで、どんな形であれ陰陽術を行使するならば自分の気質……つまるところ自分の中で最も強く表れている属性だね。それを理解しておかなくちゃ話にならない。そ・こ・で!! この紙コップの出番なのさ!」

 

 改めて、目の前に差し出された紙コップを眺める。一般的なものよりも原料の木っぽさが強く、底の方には茶色の土と黒色の粉末────おそらく砂鉄だろうか────が敷かれ、その上に水が注がれている。

 

 

「あらら、解説するまでも無く大体理解されちゃったっぽいね。じゃ、何をするかだけ説明しようか。といってもこの紙コップに霊力を込めてもらうだけなんだけど。それで君の気質が分かるから、ささっ、御一献どうぞ?」

「いや飲まないでいいんすよね?」

 

 そう言って手渡されたコップを再度見やる。

 曰く、この紙コップには特殊な細工を施しているため霊力を流し込むとそれに応じて変化をするのだとか。

 

「えーっと、確か陰か陽に応じて全体の色合いが変化する。で、属性が土や金なら対応するのが底から浮かんできて、水なら水量が増す。で……」

「木なら紙コップがもっと木っぽい状態に戻る」

「うっす。んで、火の場合は…………」

「燃えるね」

 

 ……………………うん、やっぱり。

 

「火の時だけ危険すぎません?」

「大丈夫だいじょーーぶ! よっぽど気質が強かったりしない限り大抵小火(しょうか)で済むから。それによっぽどの場合でも億餧の建物(ココ)なら小火(ぼや)程度にしかならないしね。ハハッ!」

「字面は同じでも前と後で小火の意味合い変わってません!? あとだから笑えないんすけど!?」

 

 陰陽五行思想の説明の下りでは研究者とか教職者みたいな雰囲気だったのにいつの間にかこのノリに戻ってるし、やっぱり温度差で風邪ひきそう。

 ……ところで本当に大丈夫なんですよね? フラグじゃないっすからね?

 

 恐る恐る紙コップに霊力を集中させる。大量に流し込んで急に燃え上がられたりしても困るから、とにかく慎重に。

 

 少しずつ、少しずつ……。

 紙コップには一切の変化が見られない。まだか?

 

 少しずつ、少しずつ…………。

 相変わらず手渡された時のままの紙コップ。ちらりと見ると、目だけでもオレの様子を面白がって笑ってるのが分かる便利屋の姿。

 

 あ゛っっっ!!!

 

 思わずイラっと来てとんでもない量の霊力を紙コップに掛けてしまった。

 そして、気付いた時には既に遅く────

 

「のわっっ!!」

 

『地獄を! きさまに! HELL(ヘル) 2(トゥー) U(ユー)!』と言わんばかりに紙コップは大炎上した。それはもう轟々と燃えた。咄嗟に手放して床に投げ捨てるぐらいには。

 幸いなことにすぐに便利屋が水をかけたからか、フラグ通りの小火にはならなかったが。

 

「あっっつ……く、ない?」

 

 そして、奇妙なことにオレは火傷も何もしていなかった。なんなら熱さも感じなかった。手に持っていた紙コップが燃えたというのに。

 これまでにも手を火傷したことは何度かあるため、寝ている間に改造されて手が防火仕様にでもなっていない限りあり得ないはずだが、しかし手の平には一切の変化が見られない。

 すわまた新しく異常性が発現したのだろうかと考えていると、便利屋がその答えを教えてくれた。

 

「火傷が無いのはたぶん手も霊力に覆われていたからじゃないかな。にしても驚いたよ、まさかあんな勢いで燃えるとは。正直想定外だったね」

「うええ……嫌な想定外っすね」

 

 念押しに確認したのがむしろ盛大な前振りみたいになってしまった。いやでもフラグを建てたのは便利屋だし、霊力を一気に込める原因になったのも便利屋が笑ってたからだし、諸悪の根源は便利屋なのでは? ボブは訝しんだ。

 

 ……ボブって誰だよ。また妙な怪電波を受信してしまったな。

 

 

 

 

 

 

 なんていう風に脳内で茶番を繰り広げていた時の事であった。

 耳元のインカムに声が響く。

 

「もしもし、鬼一くん? 落ち着いて聞いてほしい。どうやら天野職員が目覚めたようだ。医務棟までの道は分かるかい? かなり憔悴しているようだから、分かるなら様子を見に行ってあげて欲しい」

 

 これまでの諸々の流れをぶった切るような連絡が、珍しく慌てた栄薪さんの声色と共に舞い込んだ。そんなオレに対し、またもや何かを読み取ったのらしい便利屋から声がかけられる。

 

「何かあったみたいだね。キリもいいし今日はここまでにするから行くといいよ」

「……っ! ありがとうございますっ!!」

 

 一刻も早く恩人の下へと向かうために、オレは昨日案内されたばかりの道を辿って急いで医務棟まで駆け出すのだった。

 

 

 

 

 ******

 

「フーンフフーン」

 

 鼻歌と共に片づけをしながら、便利屋はさっきまで陰陽術について指南していた青年のことを思う。直感的にではあるが、自分と同じように別の位相────イデア領域を感じられていた青年のことを。

 

「筋の良さは天性の才能か、はたまた受け継いだものか……。おっと、新たに発現した可能性もあるか」

 

 思わず脳内の考察を独り言として零してしまうぐらいには彼は上機嫌だった。

 

「にしても……『鬼一』か。まだ別物の可能性もあるけど…………今になって現れるのは因果なものだねえ、サカマキ?」

 

 この部屋にはいない、長年の悪友であり難敵でもある存在に同意を求めつつ、便利屋は過去を想う。

 そんな中、ふと水をかけたことで灰にならなかった紙コップが視界に入る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()紙コップが。

 それが指すのは、即ち彼の霊力には陰か陽かの偏りが存在しないということ。曖昧でありながらも確実に存在するはずの境界線上に立っている、ということ。

 まともに考えればそんなことはあり得ない。あり得ないはずなのだ。

 

「ああ、面白くなりそうだ」

 

 忘れないように紙コップも回収しておく。

 これは見つかってしまえば確実に厄介事を招くだろう。

 

 それはまだ早い。少なくとも栄薪と、最近また動きが活発になってきた組織────『超常探究同好会』だったか。あの辺りにはバレてはいけない。

 

「…………あれ?」

 

 そこでふと違和感に気付く。

 

「僕が入れた土ってこんなだったっけ?」

 

 口から零れたのは疑問の言葉。しかしその内容とは裏腹に、便利屋はある事実を確信していた。底に敷いていた土が変性しているのだ。

 霊力の作用を受けやすいように細工を施しただけの唯の土から、もっと別の、本来の性質を強く発現したようなモノへと。

 

「アッハハハッ! これは本当に面白くなりそうだ。永く生きてきた僕にも全く予想できないぐらいには」

 

 最初は面倒な依頼だと感じていたが、これは思わぬ掘り出し物だ。

 これから起こるであろう時代の変遷を想いながら、便利屋は心から楽しそうに笑うのだった。

 

 

 




 こういうcパートを書いてる時からしか得られない栄養素があるとしみじみと感じる今日この頃。でも読者さん置いてけぼりだよなぁ…………って思いもする。
 なんて言ってるけど伏線ばらまくの楽しすぎるから多分まだまだやります。
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