願いと思考   作:RH−

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探索

 風見が天野の居るセーフハウスに到着したちょうどその頃。

 残りの《杏陽》の隊員である旭と鬼一、そこに便利屋を加えた奇妙な一行は腕の会の支社に到着していた。

 

「フーンフフーン」

「……」

 

 なお、オレ以外のメンバーは便利屋が鼻歌交じりの上機嫌なのに対して旭は無表情の仏頂面という実に対照的な状態であり、場の空気は何とも言えないものであった。

 そんな中オレはというと────普通に疲れていた。

 

 昨日の天野さんのことで気疲れしていたというのもあるが、それ以上に出立前に便利屋が言った「移動時間が無駄だし、その間は体内で霊力を循環させとこっか」という訓練内容が単純にキツかったのだ。

 

 随分と軽い調子で言われたせいで安請け合いしてしまったが、あれは判断ミスだったと言わざるを得ない。腹筋の一番つらい角度で姿勢を固定し続けるぐらいのキツさがある。

 可能か不可能かで言えば可能だし、音を上げるほどのものでは無いが……やっぱり軽くやる内容ではない気がする。

 

「さてさて、目的地に到着したわけだけども。随分ツラそうだけど鬼一くんだいじょぶ?」

「大丈夫かで言われたらちょっと大丈夫じゃないっすね……」『大丈夫だ、問題ない』

「いやちょっとオレの台詞改ざんしないでもらえません?」

 

 流石にフリーダムすぎないか? この人。

 他人のセリフを書き換えるのはレギュレーション違反だろ。

 

「はぁ……そろそろ仕事にかかってもいいか?」

「おっとコレは失礼。あ、僕は栄薪とは違って責任転嫁しないから安心してね? …………おや、心外だなぁ。そんな訝し気な視線を向けないでよ鬼一君」

「いやまあ別に気にしてませんけど……」『本当なのか? ボブは訝しんだ』

 

 再びレギュレーション違反をしたことで旭にジト目を向けられる便利屋。

 フハハ、残念だったな。今回は突っ込まなかったからオレが注意されることは無いのだ。

 

 あ、ちょっと何か察したみたいにこっちにもジト目向けてくんのやめてくれませんかね旭さん。

 

「…………はぁ。便利屋、分かってると思うが」

「殺し、派手な力の行使は禁止。戦闘は飽くまでも鬼一君の補助をメインに、実戦経験を積ませられるようにする。こんなところかな?」

「十分だ」

「あはは、ここで暴れて京都のチキン共に目を付けられるだけならともかく、九州まで敵に回られたら流石に厄介だからね」

 

 さらっと京都本部を悪く言う便利屋。

 笑いながらの言葉であったが眼は全く笑ってないところを見るに、どうやら便利屋も京都本部……というかその上層部をかなり嫌ってるらしい。栄薪さんに旭に便利屋にとヤバそうな面子を敵に回しているあたり、もしかしたらあの人たちの明日は明るくないのかもしれない。*1

 まあ実を言えば、査問会の一件があるからオレもあんま良い印象は持ってないんだけど。

 

「よく言うもんだ。お前なら億餧を丸ごと敵に回しても乗り切れるだろ」

「まあ否定はしないけどね。んでもあの性悪狐がいるとかなり面倒になるだろうし、君だってあと二回分ぐらい殻を破れば僕よりも強くなる。九州は対立するだけ損だね」

「俺がお前より? ……質の悪い冗談だな、想像に付かないんだが」

「本気さ。君だけじゃなく、鬼一君も、それにさっきチラッと見かけた風見ちゃんだっけ? あの子も僕じゃ手に負えなくなるぐらいには強くなれるよ」

 

 旭がとんでもなく強いってのは分かるが、どうやらオレや風見さんも便利屋より強くなれるらしい。

 …………? いや、さらっと言われても理解できないんだが?

 

「むう、その眼は信じられないって目だね。僕の方が信じられなかったんだけどなぁ…………どんなバグだよって感じ。支部長室の戦力がバカすぎてビビったよね」

「まあ、それは置いておこう」

 

 そう話を切った旭が視線を向けたのは、なぜかオレだった。

 

「おい、何心当たりがありませんって顔してやがる。気を抜きすぎだ。俺やそこの変人はともかく、お前は経験が少ない上戦闘力も低いんだから、万が一があり得るんだ。分かってんのか?」

「うっ……いや、そうだな。悪かった」

「はいはい、それじゃお小言もこの辺りにして、仕事の時間といこうじゃないか」

 

 一通りの注意が終わると、場の空気を切り替えるように手を叩きながら便利屋が呼び掛ける。

 その提案自体に否はないのでオレも旭も特に何も言わずに同意を示したが……果たして億餧の職員ではない便利屋が場を取り仕切るのはいいんだろうか。

 

 てか一番話の腰を折ってたのはこの人じゃなかったか?

 

 

 

 ******

 

 そんな一幕がありながらも《腕の会》の支社に潜入した旭たち三人。

 突入前に改めて────鬼一だけは自前でできないため便利屋によるものだが────認識阻害の術をかけ直すほど念入りに準備を重ねたソレだったが、彼らの意気込みに反して建物の中に人の影は全くなかった。

 

 それどころか殆どの部屋は伽藍堂といった様相、机や椅子が残っている部屋も人の活動の痕跡が見当たらないほどであり。

 少なくとも一週間以上は誰も立ち入っていないと断言できる程度には、屋内には無味乾燥な光景が広がっていたのだった。

 

「うーん……これは空振りかな?」

「まだ二階は残っているが……この様子じゃ期待はできそうにないな」

 

 この手の調査に手慣れている二人がそんな言葉をこぼすぐらいには殺風景な部屋の数々。なにせ手掛かりになりそうな書類どころかそもそもの家具が残されていないのだ。

 もちろん警戒は一切緩めていないが、彼らは期待外れの様子に落胆していた。そのことは普段通りに戻りつつある彼らの口調からも読み取れるだろう。

 

 では、三人の残り一人であり、そして沈黙を貫いている鬼一謍縁はどうであるのか。

 

 それは何かを探るように強張った表情を見れば簡単に分かるだろう。

 

 

(なんだ? 確実に何かがある。奥の方……いや、これは下か? 微弱だけど…………()()している?)

 

 

 自分の内側から感じる霊力ではないナニカの力。

 それが呼び掛けるままに廊下を進み、とある部屋に立ち入る。既に一度見たはずの部屋であるが、その足取りに迷いはない。

 

 

(ココだ。この真下に、何かある)

 

 

「どうした、鬼一。何か見つけたのか────ってなんだ便利屋」

「多分だけど、彼、何かを感じてる。僕でも微弱すぎて拾えない何かを」

「────これは、地下か? だが…………」

「うん。僕らじゃそんな気がするってレベルだね」

 

 集中するためか目を閉じていた鬼一が、そんな二人の会話を遮るように床を蹴り飛ばす。

 それは本来なら滑り止めによりキュッという音が鳴るはずの動作だ。しかし、実際に立ったのは奥行きを感じさせるコォンという反響音。

 

「ここだ。この真下に何かある」

「みたいだけど……どうする? ぶち抜く?」

「しかないか。俺が斬った方がいいだろ、下がってな」

 

 そう言って文字通り切り開かれた先には、側面にタラップが取り付けられた縦穴が黒々とした口を開けていた。

 

「これは得物で手が塞がってない僕が斥候を務めるべきかな? それで間に鬼一君を挟んで、旭君が殿って感じで」

「だな。任せた」

 

 手早く分担を済ませると、一行は地下へと潜っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、完全にクロだね」

 

 底にまで降り切った先。地下室の北東側に祭壇のようになっている台と、それを囲むように張られた注連縄を発見した第一声は便利屋のそんな言葉であった。

 

 それに対し「……まあそうだな」と曖昧に返事をした旭は、油断なく警戒しながら祭壇へと近寄る。何の気配も残っていないようだが、重要な手掛かりであることには変わりないからだ。

 

 

 しかし、そんな彼の足はすぐに止められることになる。

 真っ白な部屋の反対側、だだっ広いだけのスペースに何かが音を立てて落ちたのだ。どこか水気を含んだような複数の音に、残りの二人もそれぞれに反応を示す。

 

 旭は腰から《黒の剣》を抜き放ち、鬼一は右手を前に半身に構えた。唯一便利屋のみがポケットに両手を突っ込んだまま振り返っただけだが、彼も面の奥で警戒に目を細めている。

 

 何の痕跡も残っていない室内には不釣り合いなほどの妖力を撒き散らすその肉片は、そんな彼らを無視して独りでに浮き上がったかと思うと、何か靄のようなものを纏いはじめた。

 どうやらそれは肉片を核として体を構成しようとしているらしく、半透明ながらも次第に輪郭を得ていく。

 

「────ッ!」

「待つわけないよねぇ!?」

 

 が、そこは経験豊富な二人。わざわざ待ってやる義理は無いとナニカが顕現する前に先手を打つ。

 

 結果、旭の剣撃と便利屋の放った術によって肉片の半数近くは撃墜され、当初20ほどあったそれらは両の手で数えられるまで数を減らした。

 しかし、まともに考えればかなりの戦果であるはずだというのに、それを為した両者の顔は浮かない色のまま。

 

「思ったより硬いね」

「というよりは相殺されたって手応えだったな」

 

 そう、もともとは全てを潰しきるつもりだったのだ。

 敵陣の中央から戻った旭と便利屋は眼を合わすと、コイツらは想定よりも更に一回り厄介な奇心体だという認識を共有した。動けていなかった鬼一も場の雰囲気からそのことを読み取ると、握った拳に力を籠め直す。

 

 

 そんな三者三様に警戒を強める彼らの前で、遂に肉片は体を完成させた。

 人間の身体のうち頭部だけを右手に置き換え、その手の平の中央部に一つ目を開いた異形の肉体を。

 

「うわぁ、悪趣味」

「…………っ」

「なんだ、アレ」

 

 膨れ上がった圧迫感と、異形から感じる生理的な嫌悪感。

 明らかに通常の奇心体とは一線を画すそれに、数秒ながら“こちらから攻めあげる”というアグレッシブな選択肢が失われ────

 

 その間に三人は旭と残り二人という形で分断された。

 異形たちが一斉に眼を向けたあたりの空間がグニャリと歪んだかと思えば、そこを埋めるように人間の肌でできた壁が生み出されたのだ。

 

 

 ちなみにであるが、敵の割合は旭が5体で鬼一と便利屋側が4体となっている。

 どうやら異形たちは動きの鈍い半素人とふざけた格好の変人よりも、危険な気配の剣を携えた濡羽の青年を警戒したようだ。

 便利屋が本気の一割程度、お遊びレベルの力しか出していないことを考えればさもありなんといった割り振りであるが、彼らの危機察知能力は潜在的な力までを読み取れるものではなかったらしい。

 もっとも、そこまでの能力があれば三人を目にした時点で回れ右をして逃げ出していただろうが。

 

 旭と便利屋は言わずもがな。調査メンバーで現状最弱である鬼一でさえ、鬼との契約による常人離れした身体能力に純度の高い霊力とかなりのポテンシャルを備えているのだ。

 生まれる時代を間違えているとしか表現しようがない。

 

 閑話休題。

 

 

 

 コレは攻撃用か、それとも分断用か?

 そもそもコレはただの壁なのか?

 何か特殊な────それこそ衝撃吸収のような効果を持ってはいないか?

 

 予兆も無く発生した文字通りの肉壁に、どう対応するべきか思考リソースが割かれる。特に旭と便利屋は経験が多いゆえに無数の可能性が思い浮かび、動き出しが少しばかり遅れてしまった。

 

「うわお」

「チッ」

 

 その間隙を突くように迫る異形の群れ。

 まるで瞬間移動したかのように目の前にまで詰めてくると、それらは揃った動きで右腕を振り上げた。

 

 早々に壁の対処を諦めて異形をガン見していた鬼一は僅かな兆候を読み取っていたため、腕が振り下ろされるより先に懐にまで入り込みコンパクトな肘打ちを決めて体勢を崩させる。

 

「まず一体」

 

 そのまま勢いを殺さずに右足を軸にして回転しつつ、左足で脚払いを放つ。

 視界から外れた位置での攻撃であったが、手応え────今回は手ではなく足での打撃だが────で命中を確認。

 当たればラッキー程度の心づもりであったが、どうやら脚払いは肘打ちを当てた個体にも命中したようで、人間が尻もちをついたような音が左耳に入り込む。

 

「二体目」

 

 ここまでを一連の流れで済ませ、回る視界の中で残りの個体の様子を把握しようと目を凝らし────

 

「えぇ…………」

 

 相変わらずポケットに両手を突っ込んだままの便利屋の目の前で、右腕を上げた滑稽な姿で全身を氷漬けにされた異形を見て、そんな気の抜けた声を漏らしてしまった。

 

 余談ではあるが、肉壁の反対側では既に旭が向かってきた二体の異形を切り払っており、そのまま後詰めで待機していた残りの元まで駆け出していたりする。

 最も早くに反応したはずの鬼一が一番処理が遅れているあたりに、この二者の場慣れが垣間見えよう。

 

 

 さて。そんな風に旭と便利屋は敵の無力化まで果たしているが、鬼一はただ体勢を崩させただけである。それが意味するところは、次の攻撃が襲い来るまでのインターバルが短いという事。

 

 正面の個体は肘打ちと脚払いの両方を当てたため完全にバランスを崩しているが、二体目の方は既に体勢を戻しきっていたらしく、今度は重心を落としての跳びかかりを行おうとしていた。

 視界の端でその予備動作を認めると、鬼一はすぐさま回避のためにバックステップを選択する。

 

 目の前で空を切る両手。

 もう一体は跳びかかっているコイツが邪魔になっているのか動く気配は見られない。

 

 それを好機だと判断した鬼一は攻勢に出るために強く踏み込み────

 

「はい、ストップ~」

「ぐぇっ」

 

 いつの間にか背後に回り込んでいた便利屋に襟首をつかまれ、蛙がつぶれたような声を漏らした。

 何かと思って便利屋を見ると、彼は前方を指差して「見てごらん」と語りかける。

 

「はぁ?」

 

 再度そちらの方を見やると、顔の部分にある右手を伸ばして振り抜いた異形の姿が。どうやらご丁寧にも鬼一の進行方向に置かれていたらしい反撃。もし止められていなければ頭を強かに打ち付けられていただろう。

 手荒ではあったが、助けられてしまったようだ。

 

 ひとまず礼を言うべきかと、鬼一は構えを直しつつ口を開いた。

 

「ありがとうございました」

「構わないさ。それより、思ったより動きも悪くないようだし。LESSON2といこうじゃないか」

「LESSON2?」『できるわけがないッ!』

「大丈夫さ、問題ない」

 

 戦闘中だというのに調査開始前のようにふざける便利屋へ冷たい目を向ける鬼一と、それにまるで堪えた様子の無い便利屋。

 とはいえ便利屋は異形の分析を終えているため彼がこの場で得られる物は何一つ残っておらず。気分屋な彼にとって、異形を確実に仕留めることよりも鬼一の育成の方が重要度が高くなっていたのだ。

 

 事実として、便利屋は鬼一を襲っていた個体を片手間で氷漬けにして、その上で会話を行っていたりする。ちなみに話し終えたら一体ずつ解放する予定だ。

 

「そんなに難しい事を要求するつもりはない。霊力に属性を持たせて、それで攻撃してもらうだけさ」

「……はぁ」

 

 この程度、旭や栄薪のような便利屋の奇行に慣れた者からすれば「またか」と溜息一つで処理できるレベルである。

 が、そんな裏話を知らない鬼一は釈然としていないようで、顔にでかでかと『納得いきません』と書いた状態で了承の返事をしたようだ。

 

「んで、オレは何をすりゃあいいんですか?」

「わあ投げやり。それじゃまずは霊力を練り上げて、そのあと拳に纏わせてみて」

 

 落ち着いた状態であるため、さっきまでよりも格段に滑らかに練られる霊力。鬼一がそれを体内から手の平の周囲に展開すると────

 

「へ?」

「うわぁっ!?」

 

 昨日の紙コップのように霊力は燃え上がった。

 

 幸いと言うべきか手に熱を感じなかったことも昨日と同じであったようだが、それでも何の予兆も無かった事態である。当然ながら当事者である鬼一は当惑を露わにした。

 

 ではそれを観察していた便利屋はどうなのかと言えば、彼もまた混乱していた。既に語っている通り、もともと同じように霊力に属性を持たせてもらう予定ではあった。

 だが、それは本来ならば感覚を教えて何度か失敗を経ながら辿り着く予定だったゴール。こんな本人も意識していないような形で実現できるような技術ではないし、実現するはずもない技術なのだ。

 

 

 ────無意識下での学習と制御? ……いや、それにしては予兆が見えなさ過ぎた。

 

 

 ────制御を離れた霊力の暴走? ……掌の周りで留まっている時点で論外か。

 

 

 

 ────いや、待て。

 

「霊力じゃ……ない?」

 

 そこで気付く。今鬼一から感じられる霊力は、昨日便利屋が見たものから少し変性していることに。

 

 

 ────彼の内側に居る鬼。その子の仕業か?

 

 

 その仮説に至った瞬間、鬼一の背後で半透明のナニカが嗤ったような幻覚が映る。

 

「ははッ……冗談キツイな…………! 鬼一君……君は一体、ナニと出会ったんだい?」

 

 実体すら取れないほど弱っているヤツが、ここまで精密な干渉を行う? まったくもって巫山戯た話だ。

 

 

『眠れる化物』

 

 

 知らず便利屋の脳内にそんな言葉が浮かび、顎を冷や汗が伝う。予想外の掘り出し物だと思っていたが、これは前言撤回をせざる得ない。

 

「えっと、便利屋さん? どうしたんすか?」

「いや、食パン咥えて走ってたら神話に衝突したような気分になってただけさ。鬼一君、その手でアレ殴ってみてくれる?」

 

 適当な言葉でごまかしつつ鬼一に指示を出す便利屋。

 

 果たしてその結果は、拳に触れられた瞬間に異形が耐えきれず蒸発するという異常なものであった。

 

「よし、今日はここまでにしよっか。明日からまた支部で訓練ね」

 

 

 それを確認すると、残り3体の異形を粉々に砕きながら便利屋は話しかける。普段通りを装ったその声色は、しかし隠しきれぬ警戒と好奇心が滲み出ていたのだった。

 

 

 

 

 ******

 

 優しくも随分変わった後輩が立ち去ってから一夜が明けた早旦。

 

 カチ、コチと時を告げる音だけが響くリビングでぼんやりと思索を巡らせていた天野百笑は、視界の端でムクリと起き上がる何かの姿を認めた。

 

『はいはい、こちら警護部隊長の冴霧です。何か?』

「対象の意識が戻ったみたいです。管理部門へ報告を」

『っ!? 了解しました、すぐに脱出できるように警戒しておいてください』

「了解。そちらも撤退の用意をお願いします」

 

 外で待機中の部隊に手早く連絡を飛ばし、改めて少年の方へ視線を向ける。

 こう言っては悪いが、私以外にこの子を認識できたのが風見さんだけな現状、外の彼らは足手まといにしかならない。触れられないどころか見えすらしていないのだから。

 

 いくらか精神状態の持ち直した脳で脱出ルートを確認していると、そこで辺りを見回していた少年と目が合った。

 

「えっと……ここってどこ? ……ですか」

「倒れていた君を一時的に置いている建物、かな」

 

 パチクリと瞬きをすると、なんとなく気まずそうにしながら質問をした少年。

 その様子に毒気を抜かれながらも、天野は核心をぼかしながら答えることにしたようだ。

 

 が、それは無意味だったようで。

 

「あー、もしかしてなんだけど。お姉さんって億餧って組織に所属してたり、する?」

 

 さっきよりもさらに気まずそうにしながら、少年は次の質問を放った。人差し指で頬をかきながらのソレは、質問の形こそ取っているものの事実確認をするような色が含まれており。

 

「な、何の話かな?」

「やっぱりかぁ…………」

 

 どうにか誤魔化そうとした返答も虚しく、彼はガックリと肩を落としたのだった。

 

 

「ボクはc1cad4(シケイダ)、悪い奇心体じゃないよ。…………だから殺さないで欲しいなぁ」

 

 これが。

 後に世界の在り様すら変貌させることになる《杏陽》が完成する、その最後のきっかけであった。

 

 

 

 

*1
大正解




 書いてて思ったんですけど、栄薪と便利屋の口調とキャラが似すぎててめんどくないですか? 僕は思いますけど。
 まあメタいこと言うとコイツら付き合いが永いうえ境遇も似てる部分があるんで互いにバチバチに影響受け合ってますし、持ってる知識量がイかれてるんでどうしても似通っちゃうのかなぁ……と。
以上、どうでもいい戯言でした。
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