本当に申し訳ない。
はーい、どうもどうも。
九州支部の資料室で調べ物をすること三千里、多財ではないけど多才ではある風見紀月ちゃんです。…………流石に痛すぎますね、コレ。
はい、なんでこんなヤバいモノローグをしているのかと言うと、精神的な疲れが溜まってきたからですね。またの名を疲労によって深夜テンションになったとも言う。
え? なんでそんな事をしているのかって? 栄薪さんに「例の複数の奇心体が合成された組織片、あれって前例のない事案なんだよね。何か手掛かりになりそうな資料が無いか探してくれない?」って頼まれたからですよ。結果二日連続で資料室にカンヅメですよ、まったく。安請け合いするんじゃなかった。
っと、これもハズレでしたね。読み終わった資料も溜まってきましたし、ここらで一度戻してきて机の上をリセットしましょうか。
そう思って棚の方へ向かうと、丁度そのタイミングで棚の陰から出てきた誰かとぶつかってしまった。尻もちをついた私の周りにファイルを外れた過去の報告書たちがバサバサと舞い落ちる。
「あたた……」
「ああ、申し訳ない。僕の不注意だった」
「いえ、こちらこそ……って便利屋さん?」
差し出された手に引き上げられながら顔を上げると、目の前にはでかでかとした『へのへのもへじ』が。
ビックリしたぁ、ちょっとしたホラーじゃないですか。思わず変な声を出しそうになりましたよ。
「ああそうだとも。『いつでもどこでも駆けつけます、あなたの街の頼れる便利屋です!』で有名な便利屋さんだよ」
「いやそれは知りませんが……ところで、どうしてここに? 一応、ここって誰でも入れる場所ではなかったと思うんですけど」
「不法侵入だね!」
「…………」
いやそんなレモン一個に含まれるビタミンCについて教えてくれるニキ*1みたいにドヤ顔で言われましても。通報するべきでしょうか。
ちなみにレモン一個に含まれるビタミンCは解釈によってはレモン四個分になるらしいですよ。不思議ですね。
「うーん、リアクションを待ってたら変な方向から変なコメントが返ってきそうだし、話を進めようか。実はあの組織片に混ぜられている奇心体が何なのかを調べていてね。あ、栄薪には入室許可とってあるから心配しないでいいよ? 2年ぐらい前にだけど」
「最後の一言で凄く心配になったんですけど」
「期間を明文化しなかったアイツが悪いから無問題無問題」
旭さんや鬼一君と違って私はあまり関わる機会がありませんでしたが……かなり愉快な性格ですね、この人。
「それで、風見さんは?」
「私は別々の奇心体が混ぜられたような事案が無いかの調べ物ですね。……ところで、うやむやに流そうとしてますけど本当に問題無いんですよね?」
「細かいことは気にしない気にしなーい。で、参考になりそうな資料ね。それならコレとコレ、それにアレと────この辺りじゃないかな」
「あ、これはご丁寧に」
ひょいひょいと近くの棚からいくつかのファイルを取ると、便利屋さんはそれを私に手渡してくれた。随分とココの資料に詳しんだなってツッコミは多分無駄なんでしょうね。ここまでのちょっとの会話で察しました。
「うんうん、適応力が高いようで何より」
「どちらかと言えば諦めの方が近しいと思うんですけど」
「諦めんなよ、諦めんなよお前! どうしてそこでやめるんだそこで!!」
「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れもっとやれるって!!」
「もっと、熱くなれよおおおおおおおおおお!!!!!!」
「(スンッ)ほら適応力高いじゃん」
「(スンッ)そうですかね」
…………なんですかねこれ。あと最後のは一体誰です?
「最後のは某太陽神について語るとたまに聞こえてくる幻聴さんさ。収容はできてないけど危険度がゼロだから放置されてるし、気にしないでいいよ」
「…………なんなんですそのジョークみたいな存在」
「さぁ? 僕にも分かんないや」
いやだから何なんですかねこれ。
ノリが軽くて分かりやすいからつい合わせちゃった私が言うのもアレですけど、ちょっとテンションおかしくないですかこの人。
「ゴメンゴメン、やり過ぎちゃったか。何分僕のノリに付いてこれる人は少なくてね、ついボケ過ぎてしまったよ」
そりゃ付いてこれる人は少ないでしょうね。完全にネットで見かけるノリですもん。
「────ん?」
なんて話しながら、ふと気付いた。便利屋さんの渡してくれたファイルの山に、プラスチックではない紙製の何かが混じっていたのだ。
手に取って見てみると、どうやらそれは横に長い一続きの紙を何回も折って畳まれた文書らしい。随分と年季が入っているのが縦長の表面からだけでも読み解ける。
上部には何々…………? 《設立サレシ屋代ノ誓約事項ニツイテ》と書かれていますね。
しばらくの空白を挟んだ下側には、誰かの名前でしょうか。五行にわたって文字が刻まれているようだ。
鬼壱 法眼
弐ノ邪馬 劔
参鶏 鵟
肆ノ奈須 嘉紫
伍穀 士行
うーん、どれも見たことはないですね。それに難しい漢字が使われていたりして読めません。
……あ、でも一番上の人は鬼一君と似てるような?
「おっと失礼、それは僕の持っていた資料だね。紛れ込んじゃったのかな。返してもらっても?」
「……なるほど? まぁ、どうぞ」
「ありがとう」
そう言って私からさっきの文書を受け取ると、便利屋さんはそそくさと資料室を立ち去って行く。
その後ろ姿はどこか緊張しているようで、年季の入った文書の不思議な雰囲気と合わさって私の不安を掻き立てるものだった。
「…………あれぇ。もしかして私、何かヤバいもん見ちゃいました?」
やめよう。口に出すとフラグが立ちそうだ。私はここで何も見てない、イイネ?
……よ、よーし! 調べ物の再開だー!! 頑張るぞー!!!
…………うぅ。
******
────遂にこの時が来たか。
そんな心持ちで天野百笑は宛がわれたセーフハウスの玄関を開いた。戸口の先には、事前の連絡通りに鬼一が一人で立っている。
「久しぶり。立ち話もアレだし、とりあえず上がろっか」
「……うっす」
硬い表情の鬼一にそう告げると、天野はリビングの方へパタパタと先導していく。
この数日で触れた他人の温かさのおかげか、その背は目覚めた直後とは見違えるほどに伸ばされていた。しかし、短いながらも九州支部へ来る前から付き合いのあった白髪の青年には、それは以前の溌剌さには遠く及ばないものだと読み取れてしまった。
「コーヒーでいいかな? 一応紅茶のティーパックも置いてあったけど」
「あ、コーヒーで大丈夫っす。てかオレがやりますよ、天野さんは座っといてください」
「いやいや、最低限客人はもてなさないと」
「それで言ったら天野さんは九州支部の客人じゃないですか。まだ病み上がりなんですし、大人しくしといてくださいよ」
とはいえ、こんなやり取りができるぐらいには復調しているのもまた事実。その事を確かめ合うように言葉を交わすと、固かった両者の頬には小さな綻びが生まれるのだった。
「それで、話があるんだったよね。……でも、その前に私からちょっといいかな」
「問題無いっすけど。どうしたんです?」
「そんな大したことじゃないんだけどね。改めて、あの時は私を救けてくれてありがとう。そして、たくさん心配をかけてしまってごめんなさい」
脳内の『話すことリスト』を漁る鬼一の出鼻をくじくように切り出されたのは、天野からの謝罪とお礼であった。
「いやいやいや、なんで天野さんが謝ってるんすか!? 目が覚めた時にお礼も貰いましたし……とにかく、頭を上げてくださいよ!」
「ううん、これはその後の事も含めてのものなの」
「その後の?」
「そう。目が覚めた後みんなを避けるように逃げたこと、きっとたくさん心配をかけたと思う。怒られても文句は言えない、自分でも恥知らずな行いだって思うし。だから、ごめんなさい」
そう言ってさらに腰を曲げる天野にガシガシと頭を掻くと、鬼一は半ば投げやりに「あー、もう! 分かりました。受け取りますから、とにかく顔を上げてください! じゃないとオレが困ります!!」と返事をする。少しばかり乱暴な口調であったが、しかしその顔は相も変わらず周りへ気を使いすぎる先輩への親愛に溢れていた。
それに対し。気弱な面の強くなった彼女はおそるおそると顔を上げるも、そこには呆れの色が強く出た後輩の顔があるだけで、思っていたような反応────冷たくあしらわれたり怒鳴りつけられたり────はどこにも無い。
そのことに、顔を上げた時よりも更におそるおそるといった様相で質問がされる。
「……怒って、ないの?」
「怒るわけないじゃないですか。逆にどこに怒る要素があるんだって話っすよ」
その高校進学前と似た小動物的な印象を与えるふるまいに、『頼りになる元気な先輩の意外な側面』というギャップからのダメージを受けつつも気丈に返事をする鬼一。
口を開く前に「グッ」という気持ちの悪い呻き声が小さく漏れていたあたり、既に手遅れではあるのだが。
「そもそもそんなことで謝らないと駄目なんだったら、オレも《夢魘の集積》が天野さんに乗り移る前に鎮圧できなかったことで謝んないとですし」
「いや、それはちょっと違くない……?」
「オレもそう感じてるって事です。急に色々あって整理する時間も必要だったでしょうし、オレは気にしてませんよ。むしろ聞いていたよりも元気になられてるようで嬉しかったぐらいですし」
「それはみんなのおかげかな……風見ちゃんにも、旭君にも、c1cad4にまで励まされちゃったから」
「人徳のなせる業っすね」
茶化すような返答で再び巻き起こる小さな笑い。
天野の口から出た三者の時とは違い、こうして頻繁に笑みがこぼれていることからも彼女のメンタルが順調に回復していることが読み取れる。
それを察した鬼一が、ようやくその用件を切り出した。
「それじゃ、次はオレの番って事でいいっすかね。といっても、もうオレの言葉なんて無くても大丈夫そうですけど」
「……ってことはやっぱり、鬼一君も励ましに来てくれた感じ?」
「まあ、目的の半分はそうっすね」
「あはは、そっかぁ……。みんなに心配かけすぎだな、私。それで、もう半分は?」
右の人差し指で頬を掻く天野。
そんな彼女の質問に、他ならない彼女にかつて救われた青年は真っ直ぐに目を向けて口を開いた。
「お礼です」
「お礼?」
「覚えてますかね、入社翌日の面談。ちゃんと言えてなかったんですけど、オレ、あの時に天野さんに救われたんです。『頑張ったね』って言ってもらえて、『生きるということ』について教えてもらって、すっげえ心が楽になったんです」
「…………」
「もしかしたら天野さんにとってはいつもの日常の一コマだったのかもしれないし、あの時かけてくれた言葉も覚えてないのかもしれません。でも、オレはあの時に救われたって思ったんです。だから、改めてちゃんとお礼が言いたいなって」
そんな真っ直ぐ過ぎる言葉を受けた彼女は、しかし視線を下に向けたまま。黙して何も語らず、先とは打って変わって沈黙がリビングを満たす。
────あれ、もしかして何か地雷踏んじゃったりしたか? だとしたらヤバいぞ…………落ち込んでる人に追い打ちかけたなんて笑い話にもなんない。
なんて焦り出した鬼一に、しばらくの間を置いてから声がかけられる。
「結局、偉そうに言ったくせにその後に私はこんな風になっちゃったけど……落胆とかはしないの?」
「それはまた別の話でしょう。あの時のあの言葉に、オレは心を動かされたんです」
「…………」
「オレには天野さんが何に悩んでるのかは分かりません。奇心体に取り憑かれたことか、周りに迷惑をかけたことなのか、それとも別のことか」
相変わらず目線を落としたままの先輩に、彼は「でも」と続けた。
「それでも、天野さんの言葉で楽になったってのは変わらなんです。というかオレが変えさせません」
「私なんかの、言葉で……?」
「はい。それに、今天野さんが何かに悩んでるっていうのなら、それは生きているってことなんでしょう?」
「────っ!」
『その悩みに折り合いを付けて。それを受け入れるのか、それとも変えようとするのかは人それぞれだけど。きっとそれが『生きる』ってことだから』
かつて自分が放った言葉を思い出し、眼を見開く天野。
「あはは……そっか。うん、そうだったね」
「ええ。それに……上手くは言えませんけど、きっと大丈夫です。天野さんなら、きっと」
「私、そんなに凄い人じゃないよ?」
「大丈夫ですって。悩みを抱えたままでも、前向きにはなれるんですから」
そうして伝えたいことを言い終えると、鬼一は立ち上がった。昼休憩で抜け出してきただけで、この後にも訓練の予定が入っているからだ。それもみっちりと。
「もうちょっと話してたい気分ですけど、そろそろ時間なんで。ごめんなさい。忘れないでくださいね、天野さんに救われたって思ってるヤツは少なくともここに一人はいますから」
「うん、ありがとうね。それじゃあ、頑張って」
「はい!」
来た時とは違い快活とした様子でセーフハウスを出る鬼一と、同じく陰の取れた顔で見送る天野。
そんな景象で、彼女たちの対談は終わったのだった。
風見ちゃんが見た文書の署名について。
雰囲気的にあそこではふり仮名をつけられなかったんで後書に置いときますね。
なんだこの当て字ばかりのクソ文字列……()
ちなみに壱と伍が本編に絡むかな~ぐらいで、弐・参・肆に関しては姓はともかく名の部分はたぶんこれ以降出てこないです。なんなら弐・参・肆は姓名両方が適当な小ネタから派生させて無理矢理作ったぐらいには重要度が低いです。
福岡県某所、東から昇り始めた光さえ照らさぬ山の奥。
まるで、その辺りだけ木が抉り取られたかのようにぽっかりと開いた空白地に立てられた、とある施設の中にて。
「急な呼び立てにも関わらず来ていただいて感謝します、博士」
「いやいや、構わないとも。ようやく完成するんだろう?」
表面上は和やかに会話をする二人の人間がいた。
片や妙な紋章が刻まれた白のローブを纏っており、片や白衣を黒に染めたかのような衣服に袖を通しペストマスクを付けているという正反対な二者。
すなわち、《腕の会》の教祖と《超常探究同好会》の博士である。
「ええ、遂に《ミギウデサマ》の招来を果たすことができるようになりました。探究会の皆様には何とお礼を言えばいいか」
「私としても興味深いテーマであったし、その必要はないさ。それよりも、私たちはあくまでも“同好会”だと以前言ったと思うんだが……私の記憶違いかね?」
「ああ、これは失礼しました!」
丁寧な言葉遣いこそ維持しているが、悲願の成就が確定したことで僅かにあった相手への敬意さえどうでもよくなった教祖と、それを理解しながらも必要最低限の箇所しか指摘しない博士。
何とも綱渡りのような会話である。
もっとも、博士にとってはこの
やかましくメェメェ喚かれようと、畜生の鳴き声を一々真に受けるわけが無いだろう? とは後の博士の言である。
さて、そんな二者────片方にとっては山羊使いと獣といった認識だったが────が連れ立って歩く先には、大きな祭壇が鎮座していた。道を開けるように左右には信者たちが跪いている。
「ふむふむ、なるほど。概ね想定通りだね」
「それは良かったです」
コレらがなぜそこまでするのかいよいよ以て分からなくなりながらも祭壇まで抜けた博士が、そこに安置された肉肉しい右腕を見てそう呟く。
それに目に見えて安堵する隣のヤギと、ざわざわと煩い周囲のヤギの鳴き声を努めて耳に入れないようにしながら、彼は続きを考える。
「えーっと、素材には何を使ったんだったかな。混ざり過ぎて因子が読み取れなくなってしまっている」
「たしか……西洋の悪魔を下地に、河童や鬼を捧げたはずです」
「ああ、そうだったそうだった」
しばらく別の探究に集中していたせいで完成形以外を忘れていた博士の独り言に、隣のヤギが答える。
思ったより使えるじゃないか、とうもろこしでもくれてやろうか?
そんな戯言を横に添えながら、使った素材を思い出す博士。
「猿の手をベースに、佐野子の河童、茨木童子の腕、それにたしか……テュールの腕だったか。そうだそうだ、最後の二つは苦労したんだった」
木っ端を除いた主だった素材を列挙し、この程度の連中にくれてやるには惜しかったかもしれないと少しばかりの後悔をしてしまう。
なにせ、これだけ良質な素材を使えば本来はもっと凄まじい────それこそ、目にした瞬間小躍りして探究したくなるようなモノができあがるはずなのだ。信仰心が混ざるとどういった反応を示すのかは興味があったが、せめてもっとマシな奴らに渡すべきだった。
《
まあ、それでも遺った『シオンの丘』だけでも十分な資料になるほどには良い事例だった。
まあいい、これも一つの実験だ。
段々と追憶へと逸れ始めた思考をその一言で打ち切ると、博士は壁際にまで踵を返す。
「私は下がって見ておくよ。邪魔者が前に居ては気が散るだろう?」
「お気遣い感謝します。では、ご厚意に甘えて」
かくして、儀式は始まった。
全体の中心、祭壇の前に立った教祖が祝詞を唱える。するとそれに応えるように、元はミイラであったはずの右腕から漏れ出し室内を満たす妖しい圧力。高まるその存在感に、祈りを捧げていた信者は一人、また一人と白目を剥いて気絶していく。
……まあ、実際のところは圧力に負けたわけでなくミギウデサマに生命力を吸われ過ぎたからなのだが。
そうして信者の最後の一人が倒れ、ついに教祖でさえふらつきを抑えられなくなったところで────浮かび上がった右腕が実体を伴った。
途端にかつて右腕だったモノから広がる衝撃波。
「成功、したのでしょうか」
『■■■■■■■■』
腕で目元を隠しながら、ふと零れたというように呟かれた教祖の言葉に答えたのは、脳内に直接響いた謎の音であった。おおよそ人間の発する声と違うただの“音”であったが、不思議とその意味は理解できてしまう。
そんな博士にとっては不快なだけの行動であったが、どうやら周囲のヤギは違ったようで。倒れた時と同じように一人ずつ目覚めると、招来したミギウデサマに歓喜しながら恭しく跪いていく。
その度にあの音が発せられるのだから博士にとっては溜まったものじゃないと、部屋を出ようとして気付いた。
扉が開かないのだ。おそらく何かしらの結界術だろう。
────この程度で私を罠に嵌めたつもりか? そもそもコレを教えたのは誰だと思っているんだか。
「おや、ようやくお気付きになられましたか? 貴方とこれからを共に歩めないのは残念ですが、この世界にミギウデサマへ信仰を捧げない存在などいてはいけない。皆さん、やりなさい」
素人がアレンジを加えようとしてむしろ脆くなった結界程度簡単に破壊できるが、まさかこれだけではないだろうと期待して待っていた。だというのに、どうやらそれも無いらしい。
そんな落胆を溜息一つで吐き捨てると、博士は懐から小さなスティックを取り出す。
カシュッ、と小気味いい音で伸びたそれは、どうやら何段にも畳み込まれていた杖だったらしい。
それを見るも、今さら何をしようと手遅れだと構わず襲い来る信者たち。しかし博士が杖で床を叩けば、次の瞬間には教祖を含めた全員が体を痺れさせられてしまった。さらには降臨したミギウデサマまでもが動きを固めているようだ。
「何を……」
「この場で全て処理してしまってもいいが…………うん、君たちにはその価値すら無いね。わざわざ私が手を下してやるまでもなく終わっている」
驚愕に目を剥く教祖だが、その問いに対する答えは返ってこない。
「いやあ、ほとほと呆れ返るばかりというのはこういう事を指すんだね。新しい発見だよ。それじゃ、私はこれで失礼させてもらおう」
何もかもが想定以下の成果しか出さない愚物に見切りをつけると、博士は杖をコツコツと鳴らしながら立ち去るのだった。
「せめてスケープゴート程度の役は果たして欲しいが……失敗だったなぁ」
周りには喧しいヤギしかいないため、当然ながらそんな独り言に応える人間はどこにもいないのだった。