本当は前話で風見ちゃん視点終わる予定だったとかマ? 茶番やりすぎたかな……
説明会に行ったあの日、入社を決めてからも色々ありました。
今手に持っているような銃火器を使いこなせるように訓練したり、私が
本当にいろいろありましたね、懐かしいです────ってこれ、なんだか走馬灯みたいじゃないですかね?
……走馬灯の内容の大半が訓練とか嫌なのでこれは走馬灯じゃないですね。誰が何と言おうと違います。私が今決めました。
さて、私の時間軸が現在に追いついたところで状況確認といきましょう。
私は今初めての収容任務を行っています。対象は奇心体C-872、生物型の奇心体。一緒に出動したB隊からの報告によると、もう間もなくここに来るそうです。
そして私に出された指示は包囲陣の中心で剣を構えている旭さんの援護のみ。
その援護に関しても旭さんが危険な状態に陥らない限り不要と言われましたが、果たして旭さんは一人で奇心体を鎮圧できるのでしょうか。まぁ、確か鎮圧用特殊職員なんていう仰々しい呼び名で呼ばれてたので確実に私なんかよりは動けるのだろうとは予想できるんですけども。
雰囲気もかなり場慣れしてそうな感じでしたし。
物言いはぶっきらぼうでしたが、優しい目をしていましたし、それに緊張していた私を気遣ってくれたりもしました。あの人にも怪我無く無事に終わってほしい所です。
……ところで旭さんは手に持っている西洋剣以外の装備が見当たらないのですが、まさか剣一本で鎮圧作業をする気なのでしょうか。
さっき油断してたら簡単に死ねるって言ってた気がするんですけど、正気ですかね。なんなら防護服も着てないみたいですし、めちゃくちゃ危険だと思うんですけど。
と、そんな風に暢気に思考を回していたときのことでした。
轟音。まさしくそう表現するしかないような音と共に、対面していた扉が吹き飛びました。
何の予兆もなく起こった突然の変化に呆けていた思考をどうにか立て直し、そういえば扉が飛んで行った方には旭さんがいたはずと視線を向けた先に広がっていた光景は────扉を軽く躱したうえで剣を構え直した後の姿。
早っ。私の心配は完全に杞憂だったようですね、あの人の反応速度どうなってるんでしょう。特殊鎮圧用職員の肩書は伊達じゃないという事でしょうか。
改めて扉の方を見返すと、そちらからは丁度騒動の元凶が出てくるところでした。見た目的にはビックフットみたいな感じですけどレベルが違いますね。全身余すところなく屈強な筋肉に覆われ、四つ目で私たちを睨みつけて────
────あ、ダメだ。
目が合った途端に体が震え始めた。
アレが私をどう殺すつもりか、鮮明に浮かび上がってくる。
全身を使った体当たりによって逃げ場を無くされ、追い込まれた獲物として両の掌が振るわれる。骨が折れて明らかに異常なところで体が曲がり、それすら構わず殴られ続け、次第に原形が分からなくなるまで壊され、ただのミンチ肉のようになる。
嫌だ、死にたくない。嫌だ、嫌だ、誰か……誰か助けてください。嫌────
「GAAaaaaaaaaaaaaaaaAAAAaaa!!!!」
え?
悲鳴が聞こえてきた。でもそれは私たちではなく
何事かと目を向けると、いつの間にか接近した旭さんが突きを放っていました。
どうやら喉元に刺突を食らったことで悲鳴を上げたようです。さらに旭さんは至近距離で振るわれる剛腕に顔色一つ変えることなく冷静に距離を取り、再び奇襲を成功させ足を負傷させました。完全に主導権を握った状態です。
凄い。身のこなしの素早さ、判断の的確さ、そして何よりも恐れずに動き続けるその冷静さ、あらゆる面で私との違いを見せつけられているような……そんな感じ。同じ人間で、ここまで磨き上げられるんだ。
今度はビックフットから攻撃を仕掛けている状態ですが、旭さんは冷静に見切って全て捌いています。なんというか、一方的な感じですね。
この調子なら本当に私は何もせずに鎮圧し切れるんじゃ────ッ!?
唐突に右目に激痛が走り、堪らずヘルメット越しに手を当てる。
痛いっ! さっきのストレスのせいでしょうか、全く収まることなくむしろ痛みはひどくなるばかり。いっそのことヘルメットを外すべきか考えていたそんな時、段々と右目が見えるようになってきた。
────? あれ? なんで私は今目を閉じているはずなのに景色が見えるんだろう。
なんであのビックフットの腕は4本に増えていて、旭さんの剣を抑えたうえで拳を振り上げているん────
何の予兆もなく走ったのは、耳を劈く炸裂音と瞼越しにも瞳を焼くような閃光。
「────ッ!?!?」
今度は何ですか!? 驚いて咄嗟に目を開けると、見えたのは再び喉元へ突きを放つ旭さんの姿。
一回目の攻撃で付けた傷跡へ、まるで吸い込まれるように放たれる刺突。
明らかに仕留める気のその一撃は、しかし届き切る前にビックフットの両腕に掴まれる形で防がれた。さらに、ビックフットは突き付けられた剣を抑えるだけではなく肩甲骨の辺りから腕を生やし、反撃のためにそれを大きく振りかぶる。
その情景は、ついさっき瞼越しに見えた景色と全く同じで。
半ば無意識に手に持ったアサルトライフルを構え、照準を合わせて引き金を引く。あの光景を現実にしないために。わざわざ取るに足らない新人に気を遣うような、優しい人が傷付かぬように。
眩いマズルフラッシュとともに放たれた銃弾が拳を構えていたビックフットの側頭部へ命中し、旭さんの顔から狙いを僅かに逸らさせる。
「制圧射撃っ!」
間一髪で旭さんが攻撃を躱せたのを確認するや否や冴霧隊長からの指示が入り、A隊全員でビックフットを撃ち抜きに掛かります。
しかし……これは厳しそう? 四方から叩き込んでいる銃弾によってアイツの身動きを取らせないようにできてますが、硬い外皮と筋肉の鎧によって私たちも致命傷を与えることのできない、そんな状態に陥ってしまいました。
しかもようやく付けれた僅かな傷もすぐに回復してませんかね、アレ。
このままじゃこちら側がジリ貧になると焦り始めたところで冴霧隊長から最初にアイツが出てきた壁側へ押し戻すように指示が来ました。何か作戦があるんですかね。
とりあえず周りの先輩たちに合わせてアサルトライフルを撃ち続けていると、物陰から突如旭さんが出現しビックフットに肉薄しました。
あっぶなぁ、なんか嫌な予感がしたんで射撃をやめましたけど危うく撃ち抜きかけましたよ。
よく見ると先輩たちは旭さんが邪魔にならないように射線を取ってたようなので問題なかったですけど、私は初めての鎮圧作業だから普通に誤射しかけましたよ。
……というか旭さん、さっきよりも動き速くなってませんか? ビックフットの動きが鈍ってるのもあると思いますけど完全に圧倒してるんですけど。
もう私の目には振られた剣の跡が辛うじて推測できる程度です。
手に持ってるあの西洋剣からは禍々しいオーラが滲み出てますし、凄い体に負担掛けてそうに見えるんですけど大丈夫でしょうか。
私がそんな風におそらく場違いな心配をしていると、腕を広げてがら空きになったビックフットの喉元に旭さんが剣を突き立てました。
……狙ってる位置の喉元率が高すぎる気がするんですけど首狩り族出身なんですかねあの人。
身のこなしといい絶対一般人じゃないですよね。書くとしたら逸般人の方ですよね。
え? 秘密結社に入ってアサルトライフル持ってる時点でお前も逸般人だろって? それは……そうなんですが…………。
さて、無事大したけが人も出ずに鎮圧は完了しましたし、私も脳内で茶番ができるぐらいにも回復できましたしこれは文句なしの花丸なのではないでしょうか。まぁほとんど旭さんがやってくれたので私は何もしてないんですけどね。
しかし扉は吹き飛び壁も傷だらけになってしまってますけど、果たしてこれは直せるのかな? と考えていると冴霧さんから医務棟へ行くように指示が下されました。どうやら同じく医務棟へ向かう旭さんが案内してくださるようです。
ありがたいですけど、これ、帰りは一人で帰ることになるんでしょうか。旭さんはその後に支部長に呼ばれているようですし。
……まぁどうにかなるでしょう、きっと……たぶん…………うん。
よし、今は考えないでおこう! さーて、旭さんはどこにいるかなっと。
******
医務棟の方へ案内しながら、後ろを付いて来ている新人────風見の方へチラリと視線を向ける。道を覚えようとしているのか忙しなく左右を見回しているが、冴霧の言っていた通り俺に対して恐怖や嫌悪を感じているようには見えない。
……本当に珍しい奴だな。俺と鎮圧作業をすると大抵は化け物を見る目でこっちを見てくるんだが。
まぁ人外と正面から互角に立ち回れる時点で人間離れしてると思うのは理解できるし、なんなら俺も自覚してるんだがな。なんて自虐的に嗤っていると俺からの視線に気付いたのか、こちらを見た風見と目が合った。
「どうかなさいましたか?」
「……いや、お前は怖がらないんだなと」
「怖がる? 旭さんをでしょうか」
「俺の動きを見たら普通の人間は大抵怖がるんだよ、奇心体と似た様なモンだから」
何も取り繕わずに語った言葉に少し考え込むような仕草をする風見。
「……確かに、普通の人とは違うんだなと思いはしましたね。鎮圧の最後の辺りは全く目で追えないような速さでしたし。そもそも最初の時点で防護服は着てないし、銃も装備してないし挙句の果てには剣一本で鎮圧を開始するとか、頭がイかれた人かとも少し思いました」
「お、おう………結構容赦ねぇな。でもそこまで思ったならなんで……」
「でも、旭さんは緊張してた私のこと、気にかけてくれましたよね? 善意100パーセントって訳じゃない、そこは理解していますよ? 旭さんが言ったように私からの誤射を避けるためとか色々思惑があったんだと思います」
そこで一度言葉を切り、改めて目を合わせる風見。
「でも、きっと私が怪我したり死んだら嫌だって思いもあったと思うんです。だって旭さんの目は優しかったですから。そうやって考えれてる時点で旭さんは人外の化け物なんかじゃないですよ」
真っ直ぐと俺を見つめる、薄く
……信じられるのは、苦手だ。
「物好きなもんだな、よくそんな言い切れる」
少し早足にして話を終わらせようとする。
「そんな気がするんです。昔から勘は鋭い方なのでそうなんじゃないかな、と。それに冴霧隊長も普通に話してたじゃないですか」
「あいつは変わってるだけだ。そもそもこの会社には同僚や身内を奇心体の所為で亡くした奴がごまんと居る。俺はそれをやった化け物共と似たような存在なんだよ。お前は経験がほぼ無いから今はそう思うだけで、いずれ正しく理解できる」
俺の言葉に風見の足が止まる。
…………しまったな、こんなこと新人に言ったところで何にもならないことだというのに。好意を向けてくれている相手を邪険に扱ったことで、罪悪感と気まずさが湧き上がってくる。何をムキになっているんだろうな、俺は。
「すまない、無駄に熱くなってしまった。まあ今のでわかったろ、俺はこういうやつなんだ。だから別に良い人なんかじゃ────」
「確かに、私は入社したばかりの新人で、周りからずれてると言われたりもします。旭さんが何を抱えているのかも全く知りません。いつかは本当に旭さんのことを怖がってしまうのかもしれません。でも、今の私は旭さんが優しい考えをしてるって思うから、良い人だと思います」
「…………」
「私の母さんは、色々あって精神を病んでしまっていて、今は施設に預けている状態なんです。だからですかね、私は人を象るのはその人の精神だと思うんです。その人が何を感じ、何を思い、何をするのか。その内容こそがその人を表し、個人を個人たらしめる。身体能力なんかはその人の個性の一部でしかなくて、あくまで本質はその精神だって私は思うんです」
風見はそこで一度言葉を切り、俯いていた顔を上げて目を合わせてきた。
少し微笑んだその顔に、珍しく『綺麗』だなんて柄にもないことを思う。
「だから私にとって旭さんは、ぶっきらぼうだけれども根は優しい良い人なんです」
「…………そう、か。あー、その、なんだ。ありがとう。それと、さっきはすまなかったな」
「照れてるんですか? 全然気にしてないのでだいじょぶですよ」
風見は今度はにっこりと笑った。本当に変わったヤツだ。よくこれまでこんなに真っ直ぐに生きてこれたな、なんて思うほどには。ひねくれた俺とは大違いだ。
人を象るのはその人の精神、か。
「そういえば、あのビックフット擬きに捕まった時に援護を入れてくれたのもお前だったらしいな。助かった、ありがとう」
「いや~……あれは何というかその、あの場で撃たないと、って」
今度は一転してやけに歯切れ悪く返事をしてくる風見。
「どうした? あれは拙い場面だったし俺も助かったから申し訳なく思うことはないと思うが」
「……これは言っていいことなんですかね。そのですね、実は旭さんがスタングレネードを投げる少し前に右目が痛くなりまして、手で押さえてたんです。勿論目も瞑っている状態です。それなのに変な景色が見えたんですよ。そこでは旭さんが剣を掴まれた状態で、あの化け物に殴り飛ばされそうになっていまして。で、スタングレネードに驚いて目を開けたら似たような光景が広がっていて、咄嗟に撃ったんです」
…………。
これは、奇心体関連の事案じゃないか?
「なるほど。それは既に誰かに言ったのか?」
「いえ、相談する暇もなかったのでまだですけど」
「ならあまり他の奴に聞きまわったりしない方がいいだろう。冴霧とこれから行くカウンセリングの医者、あとは
一見過剰にも見える対応策に風見が若干引いているが、人の口には戸が立てられない。妙な噂が広まったりしないようにするにはこの位で丁度良いだろう。
「さすがにそんな大事にはならないと思うんですけど……。まあ分かりました、あまり口外しないように気を付けておきますね」
「ん、俺もこの後栄薪に呼ばれてるから何か心当たりがないか聞いておく」
「ではお願いします。……というか、さっきから支部長のこと呼び捨てにしてますけど大丈夫なんですか?」
「あいつは呼び捨てぐらいがちょうどいいんだよ、気にすんな」
「はぁ……なるほど?」
改めて風見を連れて医務棟へと足を運ぶ。
しかし、思わぬ用事もできことだし、少し急いだ方が良いかもしれんな。
心なしか普段よりも軽くなっている足取りに気付かぬまま、旭は案内を続けるのだった。