願いと思考   作:RH−

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九州統括支部の支部長

 

 あの後、風見を医務棟へ送り届けるまでの間もあいつは真っ直ぐなままだった。すれ違う職員に意外そうな顔をされようと。

 随分変わったヤツだ。あそこまでされたら口で取り繕ってるわけではなく、本心から俺が良い人間だと思ってることはさすがに理解できる。

 

 本当に変わっていて、そして純粋なヤツだ。()()()とは違って。

 

 

 目の前にいるのは、交差させた両手の指の上に顎を乗せて楽しそうにこちらを眺めている男。

 白銀の髪は女性も斯くやと言わんばかりに長く伸びているが、されど無造作には感じさせないような纏め方をしているため、だらしないといった印象は一切受けない。むしろその美しさから清潔感を覚えるほどだ。

 そして身に纏っているのはシミ一つない明らかに高級そうな純白のスーツ。赤のネクタイが美しく映えており、元々この男のために創られたかのような一種の調和をもたらしている。

 顔だちもまた美しく、その高い鼻や紅玉(ルビー)のような瞳からは日本人離れした────それこそ海外の映画俳優であるかのような印象を受ける。

 

 

 ここまで聞けば眼前のこの男は凄まじい美丈夫のように感じるだろう。

 しかし、いざ相対してみると受ける印象は『胡散臭い』の一言に尽きる。身に纏った雰囲気からか、それとも狐のように常に細められた糸目からか、はたまたその言動からか。どことなく胡散臭く、信用し切ってはならないように感じられる。

 ……もっともこの食わせ者ならば狙ってこのように立ち回っていそうだが。

 

 男の名は栄薪(さかまき) (かい)、若々しい見た目ながらこの九州統括支部を支部長として管理する途轍もない傑物だ。

 

「やあ、無事に鎮圧は終えられたようだねえ。良かった良かった」

「おかげさまで」

 

 俺がぶっきらぼうに呼びかけても気を悪くする様子はなく、むしろその笑顔を濃くする栄薪。

 こいつ、絶対に楽しんでやがる。今のを含めた俺の反応全部を楽しんでやがる。

 

 これが、俺が一応は直属の上司である栄薪を雑に扱う理由である。報告や指令のために顔を合わせるたびに何かしらの方法で揶揄いにくるのだ。

 一度我慢の限界を迎えたため本気でキレたこともあるが、「君をそんな子に育てた覚えはないんだけどねえ。これが反抗期か、悲しいよ」なんて巫山戯けた返しをされてからはどうにかすることは諦めた。

 

 よって、行うことは速攻で本題に入って揶揄う隙を消すことのみである。

 

「……それで、何の用だ? 栄薪」

「ん? 無事に鎮圧を終えたかわいい息子を労おうと思っただけだよ?」

 

 こめかみがヒクついているのが分かる。

 落ち着け、どれだけウザくてもここでキレたら思う壺だ。

 

「お前に育てられた覚えはない。聞き方が悪かったな、わざわざ午後の仕事を消してまで俺を呼びつけて、何を企んでいる」

 

 これでも俺は唯一の鎮圧用特殊職員なんて肩書を付けられた重要戦力だ。そう容易く収容違反が起こるわけではないが、しかし気軽に(いとま)を出していい人材でもない。

 万が一を起こさせないことが俺の役目であり、もし万が一があれば俺はおそらく処理される。そんな俺をこうして呼びつけているのに何もない、なんてことは有り得ない。

 

「つれないね~。仕方ない、じゃあ本題に入ろうか。というわけで旭君、今から京都本部に行ってきて」

「……は?」

 

 は? こいつ何言ってんだ?

 

「お前、俺の役職を忘れたのか?」

「《鎮圧用特殊職員》だね」

「……その意味は?」

「収容部門の通常業務は一切せずに収容違反を起こした、或いは収容前の一部の危険度の高い奇心体の鎮圧作業のみ行う特別な職員のことだね」

 

 ふぅ、落ち着け。ステイ。

 

「……じゃあ、俺がそんな役職に就いている理由は?」

「君が人間でありながら奇心体に近しいかなり特殊な存在だからだね。そんな君を被検体ではなく職員として迎え入れるのはとても苦労したよ。感謝してくれてもいいんだよ?」

 

 スゥーーーーーーーーーー。

 

「…………その時の条件としてお前の治める九州統括支部でのみ俺の活動を認め、もし問題が起きればお前が全責任を取るってヤツがあった気がするんだが。これは俺の気のせいか?」

「そうだね! よく覚えているじゃないか、私も鼻が高いよ。だから本当に苦労したんだよ、あの時は。感謝してくれてもいいんだよ?」

「あ゛あ゛? 遂にボケてきたか? その条件があるんだから俺がここから出れるわけねぇだろ」

 

 流石に我慢し切れなくなった。こいつは何を言ってんだ。

 

「今回は()()なんだよ。実際京都の本部からも正式に要請が出ている」

「……どういうことだ? 俺の職員化に関して一番反対してたのはあそこだったはずだ」

 

 俺がまともに話を聞く気になったことに気を良くしたのか、栄薪が薄く笑顔を浮かべる。

 

九州統括支部(ウチ)で君が働きだしてからそれなりに経つだろう? その間の働きは流石に目を瞑れるものじゃなかった、てとこだろうねぇ。『使えるものは何でも使う』、人も、技術も、有用であれば何もかも使い倒すのが億餧のスタンスだからね。全ては人類の発展のためってね」

「それにしても、だ。詳細を教えろ、本部で何が起こったんだ」

 

 栄薪は俺の問いには答えずに懐から長方形の薄い紙のようなもの────おそらくは写真だろう────を取り出し、机の上に()()()()()()置いた。これを見ろという事だろうか、栄薪は何も言わずに笑ったままだ。

 

 大人しく机に置かれた写真を表向きにすると、そこに写されていたのは表面は滑らかながらも端が崩れている古い石板と、そこに書かれた

 

『京の地にて変災有り 解き放たれし者の悲願の復讐により再び妖蔓延る魔境が誕生し、斯くして戦端は開かれる』

 

 という文章だった。

 

「これは……《預言板》か?」

 

 言葉を発さず首肯でもって返事をする栄薪。しかし心なしかその笑顔は強張り、どこか無理をしているようにも見える。

 俺は写真を再び裏返し、栄薪の方に返却した。

 

 

 O-052 《預言板》

 危険度 4

 収容難易度 1

 研究難易度 4

 有用度 3

 

 数日から数週間の周期で文字が浮き上がる石板。肉眼で直接見た者は即座に発狂し、良くてそのまま自殺、悪いときは奇心体に変異して暴れまわる。ちなみに大抵悪いときのパターンになるため、肉眼での観察は現在では完全に禁止されている。更に言えば近くにいるだけでも精神汚染が発生し、数時間で同様の症状が現れる。

 カメラを通した映像・写真として見ることで影響は6割ほど軽減できるが、結局のところ軽減でしかないため長時間見ていれば当然発狂する。

 石板に記された内容は放置していれば確実に起こり、内容が現実になると共に文字は消える。ただし、その内容が起こらないように行動することで避けられることがあり、その場合はその内容が現実になる可能性が十分低くなった瞬間に文字が消失する。

 その性質上危険度・研究難易度共に高レベルであり、判明している事実はごく僅か。未来予知のような形でこれから起こる事柄が記されているのか、はたまたこの石板に記されたためその現象が起こるのかなどの重要な情報は未だ分かっていない。解明できていることといえば、文字が浮かび上がる周期やこの石板の写真・映像をどれくらいの時間見続ければ発狂するのか、またその影響はどれくらい残り続けるのかなど。

 あぁ、原理は不明だが何故かどの言語の話者でも大体同じ内容が読み解けるという性質も明らかになっていたか。

 たしか発見されたのは数十年前、どこかの遺跡付近で同じ奇心体が複数回確認され、さらにその地域の自殺率が異様に高い事から調査隊が派遣されたからだったはず。

 

 

 

 そしてこの《預言版》にこんなことが書かれたということは────

 

「京都で何かしらでかい収容違反が発生するから、それを防げってことか」

「正確には収容違反後の鎮圧作業への協力だね」

「……収容違反は防がないと?」

「ああ。というか何なら既にどの奇心体で収容違反を起こされるのかは把握されてるそうだよ。だから君の仕事はそれを鎮圧するだけだね」

 

 

「収容違反を()()()()()、か」

 

 

 微笑とともに再度無言の首肯が返される。どの奇心体が収容違反を起こすのかまで分かっていながら手を打たずに待つ、つまりそのリスクに釣り合う程度にはリターンがあるらしい。

《預言》の内容からして失敗すれば京都本部が崩壊するというのに、そのリスクを見てでも実行される。

 そして収容違反は起きるのではなく()()()()()。つまりは、だ。

 

「他組織のスパイか」

Exactly(そのとおりでございます)

「やかましい」

 

 奇心体は一般には秘匿されている。

 それは奇心体を知っている人間の多くが混乱を避けるために情報を明かしていないからであり、また広く知られぬように対処しているからである。要するに、奇心体に関わる組織は億餧以外にも存在するが、その多くが奇心体を秘密裏に蒐集しているということである。

 

 しかしながらすべての人間が同じように考えるはずもなく、軍事的に利用しようとする組織や奇心体の存在を信仰し世界に広く知らしめるべきだと考えている組織も存在しており、それらの組織と億餧は抗戦状態となっているのである。

 今回のは奇心体を信仰しており、最近小競り合いが過激化している『教会』の連中であろうか。そのスパイを一網打尽にできるなら、ギリギリではあるがリターンは釣り合う…………か?

 

「事情はおおよそ把握できた。剣の使用は?」

「既に取っておいたよ。ついでに言えば通常解放に関しても許可が出ているよ」

「……随分気前がいいな」

 

 

 俺が普段使用している黒い剣、これは元々はヨーロッパの支部に収容されていた奇心体だ。

 当初判明していた異常性は『劣化しない』という点だけだったが、色々あって向こうの支部に出向いていた俺が触れた途端、その他の性質────いや、機能と言うべきか。ともかく、他にも複数の異常性が発現したため、今は九州統括支部で俺と一緒に観察・研究されているのだ。

 ちなみに研究途中の現段階で既にこの剣は危険度3に認定されている。まだ未知の部分も残っているため、下手すると4以上にも伸びかねないそうだ。

 そうなれば、集中的に研究し可及的速やかに消去すべき対象として厳重に保管されることになるだろうが……。現状俺だけがこの剣を起動できる点を考えると厄介な事にしかなりそうにない。

 

 閑話休題。

 

 

「まぁありがたく使わせてもらおう。で、俺はどこまでやればいいんだ?」

「好きにしていいよ。働く分には向こうも文句は言えないからね、偶然スパイが目の前に現れたら処理しても問題はないだろうよ」

「要するに最大限暴れてこいってことか。了解した」

 

 少し茶化したが、全く人聞きが悪いなぁと呟きながらも顔色を変えないコイツの様子を見る限り、俺の有用性を向こうにアピールしてくればいいんだろう。栄薪の株も上がるし、俺にとっても悪い話じゃない。

 が、だ。

 

「ところで、鎮圧作業の後に急に呼び出されて福岡から京都に行けって言われたことについて文句言ってもいいよなぁ?」

「それについてはさすがに申し訳なく思っているよ、多少は。とはいえ、君には調子を上げておいてほしかったんだ」

「……そこまで危険な奴が収容違反するのか」

 

 奇心体の収容違反で最も危険な点はいつ、どの奇心体が起こすのか分からない点だ。特定の条件下で危険性が増すタイプ────人狼など────がその条件を満たすタイミングで収容違反すればその分危険性は増すし、それ以外にも連鎖的に収容違反が起こることもある。

 その場合、研究で把握できているデータが当てにならなかったり、そもそも全く情報を持っていない奇心体についてその場で情報を集めながら鎮圧を行うことになったりする。もしくは、管理部門からの情報を待ちながら奇心体の攻撃を凌ぐことになったり。

 

 これが収容部門が最も死に近いと言われる所以だ。

 

 逆に言えば、事前に脱走する奇心体について十分な知識を持っておけるならば危険性は大きく落ちるということだ。

 だから今回は数が厄介なだけの仕事だと思っていたんだが……事前知識込みでも危険なヤツとなると流石に骨が折れそうだ。

 

「いや、収容違反する奇心体についてのデータは一通り見たけども、君なら特に危なげなく鎮圧できるレベルだったよ。少なくとも危険度4以上の奇心体はいなかった。連中も巻き込まれて死ぬのは御免だったんだろうねぇ」

「なら一体…………」

「君の読んだ《預言》の内容はどうなっていた?」

「確か、京都で収容違反が起こり、脱走した奴らが復讐に走るとかなんとか。それと、妖蔓延る魔境ができて戦争になるとかだったか」

 

 話の流れをぶった切るような唐突な質問に困惑しながら答えると、栄薪は頷いた。

 

「やっぱり上の連中より君の方が読み取った情報は多いね」

「……?」

「《預言》の内容が人によって微妙に異なることは君も知っているだろう? 私はその差異を読み取れた情報量の差だと考えていてね。本部の偉大なる皆々様方は前半部分しか読み取れていない。だから楽観視しているが、君の読んだ内容からは本部が陥落することが示唆されていた。そうだろう?」

「ああ」

「だが、さっき言った通り現状収容違反を起こす奇心体に危険度4以上のものはいない。すると、おかしなことだねぇ。その程度で崩壊してしまうほど本部が脆弱だということになる」

「……奇心体から得られた情報を全て鵜呑みにするのは良くないだろう」

「うん、その通りだね。だが、調べてみるとどうにもきな臭い部分が見え隠れしていた。何か、イレギュラーが発生する可能性は十分高いと私は思うよ」 

 

 紅い瞳を覗かせながら、栄薪はそう言った。そこに居るのは普段の人を煙に巻くような態度とは一転して、一つの組織を率いる長の顔を持つ存在である。

 ……こいつがここまで言うってことは、何かが起こるのはほぼ確定しているんだろう。備えておくに越したことはない、か。

 

「了解した。そういや、京都での俺の立ち位置はどうなるんだ? 今と同じように個人で動くことになるのか、どこかの部隊に臨時で配属されるのか、それ以外なのか。先に知っておきたい」

「それなんだけどね、君って億餧(ウチ)に長く勤めてる人からは距離取られてるじゃん。君自身も周りと綿密な連携を取るってタイプじゃないし、いっそのこと新人の指導員って扱いにしておこうかなって。そうすれば新人を避難させた後に自由に動けるでしょ?」

 

 念のための確認だったが……やっといて良かった。

 

「……絶対に嫌だ。仲良しこよしでガキどものお守りなんぞ死んでも御免だね」

「い、いや~、そんな長期間ではないしね? これも仕事なんだからさ? というかガキって……君、新人の年齢にようやく追いついたぐらいでしょ。同年代はガキじゃなくない?」

「んなこと知るか。お前の権力なら九州統括支部(ココ)と同じ立場で捻じ込めるだろ、やれ」

 

 誰が何と言おうと新人の相手は御免だ。無知故の純粋な視線を向けられるのは、その後にお前は化け物だと言外に伝える、あの怯えた目を見るのは仕事でもやりたくない。何回繰り返してもあれは慣れなかったし、慣れたくもない。

 

 ……まぁ極々稀に例外も居るらしいってのは今日知ったが。

 しかしあれはあいつが信じられないほど純粋だったのと、一般枠からの入社で先入観がほとんど無かったのが大きい。実際これまであんなタイプには一度も出会ったことがなかった。

 

 見る目を変えられる程度で済めば上々、場合によっては『何故お前みたいな化け物がこちら側にいるっ!? 収容してやるっ!!』だとか『そうやって油断させて寝首を搔く気か? ヒトのカタチを模倣しようと私は貴様らを決して許しはしない。化け物共が』だとか言われたこともある。

 

 ちなみに一番酷かったのは『お前、奇心体だな!? 奇心体だろう!? 首置いてけ!!』だ。アイツ頭おかしい。

 

 それだけ奇心体による被害者は多くいるってことで、そして俺が人間からかけ離れている時点で仕方がないことなんだがな。

 

「まぁそこまでごねるなら仕方ないか。ふーむ、じゃあどうしようかな。馬鹿正直に頼んだところで本部の御方々が快諾するわけないし。新人の指導員以外で個人で自由に動ける立場か~」

 

 思ってたよりも本部での俺の扱いは未だに変わっていなかったようだ。今回の要請も上の連中からしたら苦肉の策として出したってところか。

 

 あ、だから最大限暴れてこいってこと。連中の鼻を明かすには確かにいい機会ではあるな。

 なんて俺が閃くのと同時に栄薪も解決策を閃いたようで、珍しく「あっ」なんて声を出した。そうして拳にした右手を広げた左手にポン、とつき得心したように口を開く。

 

「そうだっ! 新人として配属されることにすればいいんだっ!」

「…………?」

「そうすれば無理に周りと関わる必要もないし、事が起これば周りの新人たちは避難させることで自由に個人行動ができる。新入りの中にもスパイが紛れ込んでる可能性でゴリ押せば許可も下りるだろうし、完璧だ!」

「いや普通に無理があるだろその理論。もうちょっと他に何かあるだろ」

「ない! 新人の指導員か新人になるかの二択だよ。さあ旭君、君はどちらを選ぶ? 私としては後者の方がおもしろ……じゃなかった、オススメかな。指導員みたいに新人に関わる義務があるわけじゃないし────」

 

 背後に宇宙を展開した俺を見て、栄薪はむしろ調子を上げて詰め寄ってくる。

 

「……わぁーったよ! 新人として行きゃあいいんだろ!? 後で覚えてろよてめぇ」

「おお怖い怖い」

 

 どうしてコイツはこうも俺を苛立たせることが上手いんだろうか。俺がごねたことが発端とはいえこんな返しを思いつくとは。

 

「と、そうだ。新人といえば今日一緒になった新人がいてな、少し気になることがあったんだが」

「おや、君から新人の話が出てくるとは珍しい。どうしたんだい?」

「どうやら鎮圧作業中に右眼に痛みが走って、その後に目を閉じているのに外の景色が見えたんだと。それで目を開けてみると見た景色と同じ光景が繰り広げられたそうだ」

「ふむ……」

 

 さっきまでの巫山戯た調子を捨てて、珍しく真剣に下を向きながら考え込む栄薪。

 

「それはリアルタイムの景色が見えたわけではない、と」

「らしい。目を開けて少し経ってから見た光景になったと言っていた」

「幻覚、または限定的な未来予知、あるいは予測。もしくは奇心体からの影響も考えられるか。詳しく調べてみないと分からないね。原因がその新人の子にあるのか、それとも周囲の奇心体が作用したのか、奇心体が作用していたのならばどの奇心体なのか。まあ色々と詳しく調べるべきだね。もしかしたら君と似たようなパターンかもしれないし、少なくとも詳細が判明するまでは口外しない方が良い。その子の名前は?」

 

 こんなでも統括支部の支部長にまで上り詰めた傑物、伝聞での情報だけから色々な候補を並べていく。もっとも、この辺りは長年勤めていることによる経験も大きいだろうが。

 相変わらず振れ幅の大きい奴だ。

 

「風見だ。口外しないようには既に言ってあるから大丈夫だろう。俺が京都に行ってる間に調査を頼めるか?」

「分かったよ、信頼できる研究班を紹介しておこう」

「すまない、感謝する」

「構わないさ、その子については調べておかないとリスクが大きそうだしね。それに、珍しく君から頼られたんだから応えてやりたいじゃないか」

 

 とりあえず懸念事項は払拭できたか。腐っても支部長なんだ、任せておけば悪くはならないだろう。

 どうやら今回の仕事、いくつか不穏な部分はあるようだが……こればっかりは行ってからじゃないと分からんし、さっさと準備を始めるべきか。

 

 なんて考えながら部屋を出ようと席を立ったところで、「あ、そうそう」なんて呼び止めるように話しかけられた。

 

 

「言い忘れかけてた。今年の京都の新人は一人、面白い子がいるそうだよ。なんでも、鬼の少女に見初められた子がいるんだとさ。収容部門に配属されるようなら、もしかしたら出会うことになるかもしれないね」

 

 

 振り向いたその先に映っていたのは、開かれた瞳の紅い、毒々しいまでに鮮やかな紅い色だった。

 

 …………これは想像以上に厄介な事になるかもしれんな。

 

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