という話です。
ウマ娘:キングヘイロー
トレーナーが交通事故で亡くなった。その知らせを聞いたのは夕方のことだった。どうやら轢かれそうになっていた別のウマ娘を庇ってそのまま…………ということらしい。
私はその知らせを聞いた時、ドッキリだろうと思った。そうあってほしかった。いつものように、私みたいにいつもの、不器用な悪戯のやり方で、「驚いた?」ってすぐそこから飛び出てくるんじゃないかって。
夕日に包まれたトレーナー室のデスクには、少しボロボロになったノートが置いてある。土埃や、コーヒーの染みた後がある。タイトルには大きく、「キングと一流になるノート」と書かれている。中身は今までの練習メニュー、タイム、模擬レースの結果等が事細やかに記されていた。少しずつ、ページをめくる。しばらくすると、途中から白紙になっていた。最後のページの日付は、今日。いつもどおりのトレーニングメニュー。食事もいつもの。何も書かれていない。しばらく、白紙のページを捲り続ける。この先に彼は何を書くつもりだったのか、そう考えるだけで目頭が暑くなる。
とうとう最後のページに辿り着いてしまった。何も書かれていないだろうと油断してページを捲ってしまった。そこには先程の白紙とは違って、一つの封筒がテープでつけられていた。
少々の恐怖と、好奇心がその封筒を開けるように手を差し向ける。中には1枚の紙が入っていた。見たら一瞬で分かる、トレーナーの字だ。
『親愛なるキングへ、これを見ているということは……』
その冒頭を見ただけで、視線が止まる。まさか、あの人が遺書のようなものを遺すとは思えなかった。ここで読むのをやめようかという考えが頭をよぎる。しかしここで彼の声を聞くことができないのはもっと辛くなるだろうということで続きを読むことにした。
『親愛なるキングへ、これを見ているということは、まあきっとキングが無事に卒業できたのだろうけど』
ここで気付かされる、これは遺書なんかじゃなく、未来の私への手紙だということに。
『まずは卒業おめでとう。思えば君と契約した日が懐かしいな。とても長い時間君の隣にいさせてもらったが、俺はちゃんと【一流】としての役目を果たせただろうか?……もしかしてこういうことを考えるとキングは怒るかな?』
十分すぎるくらい、トレーナーは一流として役目を果たしてくれた。疑う余地なんてない。
『俺は君とともに一流の道を歩めたことをこれ以上ない光栄に思っている。この手紙を君が見ている時、俺はどんな顔をしているのだろうか。もし変な顔をしていたら思いっきり指摘してくれ。そのほうが俺には嬉しい』
貴方はもう私の隣にいないの、その言葉が出ようとして喉に刺さる。
『さて、ダラダラ書くわけにも行かないから本題に入ろうと思う。キングヘイロー、俺は君と共に一流の道を駆け抜けてきた訳だが、もし、もしよければこれからも俺と一緒に一流の道を駆け抜けて欲しい』
「バカ……」
いつも彼に言っていた言葉をつぶやく。 トレーナー室にその言葉だけが放り出される。
私は手紙を封筒にしまい、丁寧にテープを張り直してから、トレーナー室を後にした。