ジオン公国最後の砦である宇宙要塞ア・バオア・クーでの防衛戦に備え、シャアはキシリアから最新のニュータイプ専用の試作モビルスーツをあてがわれる事になった。
だが、そのモビルスーツは予定の80%しか完成していないらしいのだ。
(そんなモビルスーツでガンダムに勝つことが出来るのか?)
戦場に耐えうるだけの完成度とは聞いてはいたが、シャアは不安を隠しきれないまま、試作機の受領するために、ア・バオア・クーの上部にあるモビルスーツ第12格納庫まで足を運ぶ。
シャアは、はきはきとした物言いをする若い整備兵に連れられ、そのモビルスーツのハンガーデッキにまで案内される。
途中にてその整備兵に問題のモビルスーツについて尋ねる。
「80%の完成度と聞いているが?」
「80%?冗談じゃありません!」
整備兵は語気を強めてそう応え、少々足早になる。
モビルスーツのハンガーデッキ前に到着して、そこにある物を見てシャアはこう言葉を漏らす。
「足が付いてない」
「あんなの飾りです!偉い人にはわからんのです!」
さらに語気を強めシャアに応える整備兵は少々機嫌が悪い様にも見える。
だが、シャアはそんなことを気にしている状況ではなかった。
「いや……頭だけしかないんだが……」
そう、ハンガーデッキには、モビルスーツの頭部らしきものが釣り下がっているだけで、その下は何もなかったのだ。
「上司には完成まで後80%と言ったハズです!!全く新しいコンセプトのモビルスーツが設計から開発まで2週間で出来るわけがない!!80%も完成するわけないじゃないですか!!時間だけじゃない資金も資材も人手も足りない!どこもかしこもゲルググの量産や整備にかかりっきりで、それどころじゃなかったんです!!」
整備兵は上司の無茶ぶりに不満を思いっきりぶつけていた。
試作サイコミュモビルスーツ、ジオングは、要するに開発期間が足らずに20%しか完成していないということだ。
「……連絡ミスか」
「まあ、頭部だけだったら100%出来てますよ!サイコミュシステムも搭載済みで、腕部有線式5連装メガ粒子砲も完成してます!体は無いですがやってやれないこともないですよ!大佐なら!」
整備兵は投げやり気味だ。
「冗談ではない。他にモビルスーツは無いのか?」
「一応大佐が前に乗っていたモビルスーツは切られた腕もちゃんとつけ直し修繕済みです。しかも独自に改良を施しました」
「修繕が終わっていたのか、いいだろう」
シャアは宇宙要塞ソロモン宙域の戦闘で、ガンダムに片腕を落とされた赤いゲルググを思い起こす。
そもそも、シャアはこのゲルググで出撃するつもりだったのだが、キシリアに整備が終わってないから、開発中のサイコミュ搭載型のモビルスーツのジオングで出撃しろと無茶ぶりをされていたのだ。
開発中で全く新しいコンセプトのモビルスーツ、さらにはサイコミュに慣れていない自分がそのモビルスーツを乗りこなせるか、あのガンダムに勝てるのか、不安視していた。
キシリアの命令とは異なるが、操縦に慣れているあのゲルググが整備済みであれば、渡りに船であった。
シャアは少し離れたハンガーデッキまで、整備兵に案内されるが……。
「これはどういうことだ?」
シャアはそのモビルスーツを見て、整備兵に少々語気を強めて問う。
「ちゃんと腕を直しましたが、何か?」
確かにそのモビルスーツは切り落とされた腕は元通りなのだが……。
「宇宙で戦えると?冗談ではない!!」
シャアはさらに語気を強める。
今度はシャアの方が整備兵に詰寄っていた。
そう、ハンガーデッキに立っていたのは、ゲルググではなく、ジャブローでガンダムに同じく片腕を切られたハズの、赤いズゴックだった。
シャアが語気を強めるのも致し方がない、自分が思っていたゲルググではなく、ズゴックだったのだから。
さらに、確かに乗り慣れているモビルスーツではあるが、水陸両用モビルスーツは宇宙空間では運用は不可能なのだ。
そんなモビルスーツが整備されこんなところにあったとしても、無駄も良いところだ。
「安心してください。私が独自に改修したリック・ズゴックです。宇宙空間でもちゃんと動きます。大佐ならうまくやれますよ」
整備兵は良い笑顔でこう言った。
「………」
「何か不満でも?陸戦用だったドムも宇宙様に改修され、宇宙の主力モビルスーツとなりました。ズゴックもカルフォルニアやハワイ戦などで活躍した傑作機です。宇宙に上がっても活躍すること間違いないです」
「ええい、もういい。他に動くモビルスーツはないのか!」
シャアは痺れを切らし、ズゴック、いやリック・ズゴックからそっぽを向く。
「やはりダメですか、こいつの良さは偉い人にはわからんのです。もう一機も改修済みです。整備は万全ですよ」
「……気に食わないな。私を試したのか?」
シャアは整備兵のその言葉を聞き、ゲルググもちゃんと整備済みであった事を悟る。
「そんなつもりはありません。もう一機は対面にありますよ。既に稼働できる状態です。大佐はモビルスーツでの格闘戦も得意だと聞き、いろいろと装備を用意いたしました」
そう言って整備兵が指さす方向に赤いモビルスーツがハンガーデッキから降ろされていたが……。
「足が付いていない」
シャアはそう言って呻く。
そう、そのモビルスーツには元々あったはずの足がなかったのだ。
「またですか?足なんて飾りですよ。それに大佐が長年使用してきたので操縦性は変わりませんよ。見てくださいこのモビルスーツ。地上で今流行りの改修を施した見事なフォルム」
整備兵が目を煌めかせ語った先には、あの赤いMS‐06SザクⅡ指揮官用、要するにシャアザクが鎮座していた。
だが、足がない。
足があるべき場所にタンクが……。
さらに整備兵は熱く語りだす。
「これこそが究極の改修モビルスーツ、リック・ザクタンク指揮官用カスタム!大佐が格闘が得意と言うことで、タンク部に突撃用のラムを、右手にはアッグ用の大型ドリル、左手には大佐が乗っていたゲルググの腕とヒート薙刀!タンク部にはゲルググのジェネレーターを搭載し出力はザクⅡR2タイプの2.2倍!宇宙空間ではタンクの下部が狙われやすいですからゲルググの盾を装着、対策はばっちりです!」
そう、この整備兵、地上からシャア専用ズゴックだけでなく、シャアザクも取り寄せ、宇宙用ザクタンクとして改修していたのだ。
しかもシャアが乗っていたゲルググのパーツを使って……。
「………これが若さゆえの過ちか」
シャアは遠い目をしていた。
翌日、ア・バオア・クーの防衛戦にて、シャアはジオングに乗り込み、アムロ・レイのガンダムと対峙し、善戦したが敗れる事になる。
この時乗ったジオングとは……。
あの整備兵が徹夜で突貫改修したものだった。
頭部はジオング、首から下はリック・ズゴック、腕はジオングの有線式五連装メガ粒子砲。
腰から下はリック・ザクタンク指揮官用のタンクだったとか。
ズゴックからジオングの頭を生やし、ズゴックの腕にジオングの腕、しかも足が無く、上下左右可動式のタンクという、とんでもない際物が完成していたのだ。
だが、機体のカラーがパーソナルカラーの赤では無く、暗色色の宇宙迷彩を施していたため、実態がこんな際物モビルスーツだとはバレなかったそうな。
これでおしまいのつもりです。
他の途中のもアップできればと思ってます。