※ジョエルの視点
刹那ともいえる瞬間、唐突に黒い刃がジョエルの首へ突き立てられていた。
「――っ!!!」
ジョエルは、セナとオルハンが言い争っている最中も、外敵に備えて、いつでも動けるように身構えていた。この一瞬がくるまで、自身に向けられている悪意が、これまでずっと感知していた監視者のみだったのも確認していた。
にもかかわらず、その監視者の反応が突然消えたと感じるや否や、気付けば同じ気配のする殺意が首元に触れている。
死のイメージが全身を駆け巡り、無我夢中で身体を捻る。
すると間一髪で、刃が肉へ食い込む前に避けることができた。
「ちょっと、どうしたの!?」
セナはジョエルの突然の挙動に驚いて近寄ろうとするが、オルハンに肩を掴まれて阻まれてしまう。
ジョエルは正面を見ると、あたかも最初からそこに居たかのように、黒いボロ布を纏った存在が立っていた。
仮にこの存在が人の形をしているのならば、黒い外見とは対照的に、上部にある顔と思しき場所に白い髑髏の面がつけてある。
相手から目を離さずに、切られた首筋に触れると、ぬるりと生暖かいモノが指先に伝わる。だが、勢い良く噴き出していないことから、とりあえず薄皮一枚で一命を取り留めたのだと認識した。
「よくぞ躱した、現在の戦士よ」
と、髑髏面から賛辞を贈られた。
外見とは裏腹に、その声は以外にも理性的で、聞く者によっては紳士を彷彿とさせるような雰囲気だった。
「……サーヴァントだな」
聖杯戦争に参加するマスターには、自身のサーヴァントに対して使える『令呪』の他に、サーヴァントの『ステータスを見通す眼』が与えられる。
その眼に浮かび上がってくる情報が、目の前の存在をサーヴァントだと告げていた。
――能力値は、概ね『筋力』と『敏捷』に寄っている。
サーヴァントの基本的な能力値は、『筋力』『耐久』『敏捷』『魔力』『幸運』『宝具』の六つに分けられる。
『筋力』は物理的な攻撃能力を表し、逆に『耐久』は物理的な防御能力を表す。
『敏捷』は反応速度や素早さを表し、『魔力』は魔力量や魔力操作などを表す。
『幸運』は局所的な運の良さを表し、『宝具』は切り札とも言える宝具の強さを表す。
各分野は、大きくEからAのランクに評価が分けられ、Aに向かうほど高い能力を持っていることになる。
さらにもう一つ、サーヴァントが召喚された際『クラス』と呼ばれる『七つの役割』が個々に割り当てられる。
『剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)』が基本のクラスと言われている。
「アサシンか」
――であれば、今の襲撃も納得できる。
各クラスには、それぞれ専用のスキルが与えられ、アサシンの場合は隠密や暗殺に適した『気配遮断』を有する。
マスターは自身の使役しているサーヴァントと共に、それらの情報を元に相手の力量は計り、戦略を練っていく。
「それが解る貴様はマスターで相違ない」
髑髏面の穴の空いた両目が、ジョエルの右手に刻まれた令呪を捉える。
その視線からは敵意は伝わってくるが、先程戦ったヘルマンという魔術師とは違い、どこか違和感があった。