※アサシンの視点
必死の形相で迫ってくるジョエルを前に、アサシンは至って冷静で、右手の中にある宝具で出現させた心臓の感触を確かめる。
――すでに奴の命は我が手中にある。
宝具・妄想心音(ザバーニーヤ)。
それはアサシンが生前『ハサン・サッバーハ』の称号と共に、『呪腕』の二つ名を手に入れた由縁であり、歴代ハサンと自身を区別する時に使われる固有のものでもあった。
山の翁と成るべく、『ハナム』という人としても名を捨て、鍛錬に明け暮れても尚、そこへ至れないと悟った彼は、それでも力を求めた。
そして行き着いたのが、『自分に才能がなければ、特別な力を持つモノを自分の体にすればよい』――という執念にも似た境地だった。
人外の存在である悪性の精霊シャイターンより簒奪した右腕を自身の腕と繋ぎ合わせて作り上げた、心臓を破壊することに特化した呪いの腕。
触れた対象をその手で読み取り、手の中に対象の心臓を疑似的に形成し、それを握り潰すことによって呪殺が成立される。
いかに堅牢な耐久力を誇るサーヴァントであっても、この宝具の前ではただの儚い飴細工と化す。
――人間にしてはよく戦ったが、万策尽きたか。
無策にしか見えない特攻に、戦いの熱が冷めていくのを感じながら、アサシンはサーヴァントとしての役目を果たすために自身の宝具へ力を込めた。
「んっ?!」
勝利を確信していたアサシンの喉から唸り声が上がった。
ジョエルと繋がっている心臓を握り潰そうとするも、当の心臓を破壊することができない。
「どうなっている!?」
自身の誇る必殺の技が通じないと悟り、動揺を隠せずに狼狽えるアサシン。
そうこうしている間に、歪な剣のような突起が生えた尾先を向けて突撃してくるジョエル。
アサシンはやむを得ず短刀を取り出して応戦するも、振るった刃はジョエルの頬を掠めるだけだった。
完全に懐へ入られてしまい、ジョエルの尻尾がアサシンの腹を真っ直ぐ貫いた。
「ぐゥはっ!!」
髑髏面の内側から声の混じった息が吐き出される。
腹と背中、口から夥しい血は噴き出しながら、アサシンはそれでも暗殺者としての矜持で一矢報いようと短刀を振り上げた。
「あ゛あ゛あ゛――」
しかし、
「あ゛ああああ、あああ゛、あああああ゛っっっ?!?!?!」
突如全身を駆け巡った『異物』にアサシンは絶叫する。
ジョエルの尻尾から流れ出る『異質な力』がアサシンの精神を蝕んでいく。
理性を削ぎ落され、半狂乱状態に陥りながらも、胸に差し込まれた尾先から自分の体を引き抜こうと必死に藻掻く。
だが、それを許すジョエルではない。
ジョエルは尻尾をさらにアサシンの肉体へと深く突き入れてから、切り上げるように引き抜いていく。側面にある乱立する両刃が内側から切り裂き、ついにはサーヴァントの急所ともいえる『霊核』を破壊した。
「――無念だ、これ以上無いと言えるほどに……」
霊核が砕かれたことで、魔力で出来た自身の身体が光となって崩れていくの感じながら、アサシンは歯噛みする。それは人類史に刻まれた英霊の写し身であり、最上級の使い魔と称されるサーヴァントが、現代の人類に敗北したことに他ならない。
本来であれば、サーヴァントと渡り合えるのは同じサーヴァントであるが、目の前にいるこの白髪の男はそれを成した。
死中に活を見出そうと足掻く、今を生きる人の力を感じた。
――故に、これは屈辱ではない。
サーヴァントとして何も成せなかった無念を噛み締めながら、アサシンは静かに消えていった。